21
―――ラハブの新境地。塔の中層エリア……エグザイルの憩いの場所。
「ううん……あら?ザンクスはどこへ行った?」
ザンクスとエースたちが暴れていたこのフロアで目を覚ました男がいた。
「……この荒れよう……どうやら敵を上層部へと連れ出したようですね」
起き上がると、この男は長身だった。軽く2メートルは超えている。
「ん?」
ふと、男は突然目の前に現れた緑色の物体に目をぱちくりさせた。
「なんでしょう?雑草か?」
触れてその感触を確かめる。
「雑草じゃなくて髪の毛か?」
「っ!!なんだ!?」
ふと、雑草が動いた。
男はポンッと両手を叩いた。
「……人でしたか」
「って、ここはどこだ!?」
キョロキョロと辺りを見回すのは、なんと、階段を登っていたはずのヒロトだった。
隣にはディンが一緒だった。
階段を昇るのがめんどくさくなったヒロトは、どうやらディンのランダムテレポートに賭けたらしい。
ちなみに一発で目的の場所にたどり着いたらしい。
「トロイ?……いや、どうやら違うようですね」
「トロイ?」
「別に構わないですね。ここに来た以上、俺が相手になりましょう。俺の名前はTSUYOSHI!!覚悟しろ」
「……お前に付き合っている暇はないんだけどな……そうは行かなさそうだな」
TSUYOSHIはウツボット、ヒロトはフーディン。
中層階で二匹の大技が激突した。
外からは強大なエネルギーが窓の隙間から溢れ出たという。
たった一つの行路 №134
外から見ると、塔の隙間から、爆発の煙やエネルギーの光がほとばしる。
それは、凄まじい大激突を表していた。
「レイン!『アイススプレット』!!」
「ベロベルト、『パワーウィップ』!!」
ガガガガガッ!! ズバンッ!!
氷の柱を受け止めながら、ベロベルトがラプラスを長い舌でなぎ払って倒してしまう。
しかし、TSUYOSHIの思った以上に、氷の柱のダメージが大きく、ラプラスが倒れるのを見て、ベロベルトは気絶した。
「(互角……か?)」
「なかなかやりますね」
最初、ディン(フーディン)とウツボットの最初の一撃で両者共に相打ちでダウン。
そして、ラプラスとベロベルトの戦いとなったわけだが、戦いは今のところヒロトの見立てとおり五分五分と見て間違いなかった。
「(次はリードする!)フシギバナ!」
「面白くなってきたな、キングラー!」
「『葉っぱカッター』!!」
カキンカキン……ハサミでいとも簡単に弾く。
「『エナジーボール』!!」
「『メタルクロー』」
ドズンッ!!……と音を立てて爆発するが、キングラー自体は無傷だ。
「『体当たり』!!」
「『クラブハンマー』」
ドカンッ!!……とぶつかるが、ハサミで受け止めて、少し衝撃で後ろへズザザッと下がる程度だった。
そしてキングラーは大きなハサミを振り回して、接近してきたフシギバナを打っ飛ばした。
「今だ!『ソーラービーム』!!」
だが、打っ飛ばされながらも溜めていた光のエネルギーをキングラーに向かって放つ。
直撃だった。
だが、TSUYOSHIは言う。
「……なんだ……こんなもんか」
「…………」
ソーラービームを直撃したはずのキングラーは無傷だった。
「隙なんて与えないぜ!『ウィップストーム』!!」
「!!」
しかし、ヒロトはキングラーの防御の秘密を見抜いていた。
「(『守る』が気付かれたのか?)『破壊光線』!!」
ヒロトの指示より遅れて、TSUYOSHIが指示を出す。
両方のハサミから破壊光線を繰り出そうとするが、大量のムチの中の数本がキングラーのハサミを捉えて、ハサミをキングラー自身に向けた。
キングラーは破壊光線を止められず、そのまま自らの攻撃を受けてしまった。
さらに、たくさんのムチを一斉に受けてダウンした。
「ハサミが頑丈なら、それを封じて攻撃すればいいだけだ」
「……面白い」
キングラーを戻してTSUYOSHIが言う。
「久々に俺の本気を出す時が来たようだな」
「!!」
TSUYOSHIの雰囲気が変わった。
今までのイメージは、ただノッポでのんびりとしたイメージだったのだが、今度はその身長の大きさから威圧感みたいなものを放っていた。
「(ここからがあいつの本気か……!!)」
TSUYOSHIはガラガラを繰り出してくる。
「俺の名前はTSUYOSHI……知っているよな?」
「それなら聞いた」
「じゃあ、俺の名前が何故ローマ字であるか知っているか?」
「……知らない……『葉っぱカッター』!!」
ガラガラが接近してくる前に、先制攻撃を仕掛ける。
しかし、ガラガラは手持ちの骨で葉っぱカッターを粉砕する。
「『つるのムチ:居合い』!!」
一本にだけ集中して、つるのムチを伸ばす。
いあいぎりの威力とつるのムチのリーチを生かしたこの技は、一撃にかけては相当自信のある技だった。
「接近、『ボーンクラッシュ』!!」
手持ちの骨でつるのムチを押しのけながら、接近して飛び上がり、一撃を振り下ろした。
「今だ!」
ドズンッ!! ブワッ!
ガラガラの一撃がフロアを砕く。そして、地面に穴が空いて、螺旋階段が丸見えになった。
しかし、肝心のフシギバナは当たる瞬間に消えた。
シュッ!
そして、ガラガラの後ろから姿を現し……
ズドンッ!
ガラガラに捨て身タックルをぶちかました。
「よし、完全に決まった。特訓の成果が出たな」
この技はトキワシティでユウナが話しかける前に練習していた技らしい。
影分身の応用で、分身を攻撃してきたところを、後ろから強力な打撃技で倒すらしい。
だが……
「油断できないな」
「!!」
しかし、ガラガラはとっさにフシギバナの攻撃が当たる際、衝撃を和らげるようにフシギバナが向かうベクトルと同じ方向へ飛び、さらに骨でとっさに防御していたのだった。
ゆえにダメージはそれほど大きなものを望めなかったようだ。
「さて、ここからが本番だ。ガラガラ、行くぞ」
ガラガラは頷く。
すると、ガラガラの力がどんどん高まっていった。
「(なんだ!?これは!?)」
ヒロトもガラガラの発する威圧感をヒシヒシと感じて警戒した。
「『オーラフラット』発動」
ガラガラの骨を何かが纏っていた。
しかし、それは炎でもなければ氷でもない……属性としてカウントされるものではなかった。
「(接近させる前に……)『眠り粉』!!」
「小細工は通用しない!」
骨を振るうと、眠り粉が一気に拡散した。
「いや、これはただのフェイントだ」
すると、フシギバナのハナの光が最大になった。
「ガラガラ、『ボーンクラッシュ』!!」
「上だ!『ソーラービーム』!!」
ガラガラは飛び上がり、フシギバナに向かって骨を振り下ろそうとする。
一方、上空に跳ぶガラガラを狙い撃ちをするフシギバナ。
威力から言って、ソーラービームのほうが上だった。
だが……それはガラガラが『オーラフラット』を発動させる前の話だった。
ボゴンッ!!
ソーラービームを何かを纏った骨が打った斬り、そのまま衝撃を巻き起こした。
「あぶねっ!!」
ヒロトは慌ててフシギバナを戻したために、攻撃をかわすことができたようだ。
「俺の名前がローマ字である理由を教えてやろう」
「(こいつの力の理由と関係あるのか?)」
ゴクリとヒロトはツバを飲み込む。
「それは……カッコイイからだ」
「…………は?」
ヒロトは呆然とした表情を見せる。
「表記はこっちの方がカッコイイだろ」
「呼べば同じだろ!」
どうでもいい話にツッコミを入れるヒロトだった。
22
高速で振動する音が無数で響く。
蜂の羽ばたきは一秒間に数十、数百……いやそれ以上とも言われている。
その蜂……いや、スピアーが何十匹も誰かを囲んでいた。
「ビークイン……そろそろいいんじゃないか?」
女王的な役割をしているビークインがスピアーに指示を出すと、そのスピアーはどこかへと消え去った。
「ガフッ……」
集っていたスピアーが消えると、彼は血を吐いて膝をつく。
しかも、ただ血を吐いただけではない。
肩も足も腹も……あらゆる場所をスピアーの針で貫かれて、さらに毒まで受けてしまっているのだ。
「(……ちくしょう……。頭がガンガンする……体が悲鳴をあげやがる……体があちぃ……)」
朦朧とした目で周りを見る。
すでに集中攻撃を受けたダーテングはボロボロの状態で倒れていた。
命は何とかあるだろうが、非常に危険な常態なのは変わりない。
そして、ピクシーもどうやら袋叩きにあったようで、完全に地面に突っ伏していた。
「少年……どうやら私の言ったとおり、君の命はここまでだ。じきにスピアーの毒が体を巡り、身体の至る所を侵食して朽ち果てる……。以前、私はこのビークインで一つの王国をも潰している。戦力が違うのだよ」
「(うっ……)」
不意に自分の身体の力がガクンと抜けた。
ダメージと毒が一気に蝕みはじめている。
さらに声を出そうと振り絞るが、声が掠れて発音ができない。
「もう喋ることもできないようだな」
倒れているラグナの元へとゆっくりと歩み寄り、アウトは容赦なくラグナを蹴っ飛ばす。
ゴロンゴロンとドカンが転がるように転がっていき、塔の入り口の手前にピタッと止まった。
「あ……ぐ……」
「何が言いたいかわからないが……楽にしてやれ、ビークイン」
巨大な毒針を体から出して、直接ラグナへと襲い掛かる。
だが、最後の最後までラグナはビークインを見ていた。
そして、諦めていなかった。
ゴオォッ――――――!!!!
「なっ!?」
突然の強大な炎。
ビークインは慌ててかわそうとするが、攻撃をもろに喰らってしまった。
「一体なんだ?」
その先を見ると、居たのはさっきまでズタボロで倒れていたはずのピクシーだった。
しかし、傷は完全に回復していて、炎攻撃も今までとは桁違い、段違い……比べ物にならない程の威力だった。
「ピクシーがこれほどの火炎放射を使うだと?一体何をしたんだ?トレーナーのピンチで強くなったのか?ありえない……。だが、ビークイン」
あれだけの火炎放射を喰らったにもかかわらず、ビークインはまだまだ動くことができた。
ダメージがなかったわけではない。
ビークインのもともとの体力と防御能力が、コクーン召還の『防御指令』無しでも、非常に高かっただけの話なのである。
そのビークインは再び、数十匹のスピアーを召還した。
「今度こそ息の根を止めろ」
一斉に襲い掛かるスピアーたち。
だが、一瞬だった。
ボワッーーーー!!!!
「!!!!」
ピクシーの『大文字』が数十匹いたスピアーをあっという間に消滅させてしまったのである。
「何なんだ……このピクシー……ビークイン!もっと攻め続けろ!!」
今度は百匹ほどのスピアーがピクシーへと襲い掛かる。
「(……アウト……俺のピクシーはスピアーにやられている間に……『瞑想』を極限までして『癒しの願い』を自分にかけた……。『アンリミテッドブレイク』状態の今……てめぇの負けは決まった同然なんだよ!!)」
ラグナはピクシーの活躍を地面に横たわって見ているだけだった。
いや、それだけで充分だった。
接近戦は『フレアーリング』でなぎ払い、遠距離は『火炎放射』や『吹雪』でスピアーをどんどん消していく。
そして、最後はビークインだけになった。
「(ピクシー……決めろ……てめぇの最大の技で!!)」
「ビークイン!!『防御指令』!!」
最大の技を繰り出す間合いに入って、ピクシーは拳を構える。
そして、凄まじい速度でコメットパンチを打ち出していく。
一方のビークインはコクーンを召還して、コクーンの『硬くなる』で攻撃を防ぐようだった。
だが、ピクシーの繰り出したこの技は、打撃技と特殊技の両方の特性を兼ねていた。
パンチの一発の打撃の力は岩を軽く砕くほどだ。
さらに、パンチを繰り出す際に、衝撃波も同時に放っている。
今、ピクシーの状態は瞑想をフルマックスの『アンリミテッドブレイク』状態。
ゆえに打撃と特殊の兼ね備えた力は全てを崩壊させる破壊拳だった。
ズドッ!! ズドッ!! ズドッ!! ズドッ!! ズドッ!! ズドッ!! ズドッ!! ズドッ!!
止めどない連続パンチがビークインをコクーンごと完膚なきまで叩きのめした。
「バカな!!」
ビークインは倒れた。
それを確認して、ピクシーはアウトにも襲い掛かった。
そして、一発殴りつけると、アウトはズンっ!ズンっ!と吹っ飛んでいった。
「……っ……しかし……少年の命は……もう風前の灯火だ……どうすることも……でき…ない……」
そして、アウトは気を失った。
「(『モルガナ彗星拳』……決まったな……うっ……やべぇ……意識が………………………………)」
ラグナは震える手でピクシーを戻そうとボールを持ったがポロッと掌から零れ落ちた。
そして、ラグナの手はガクッと力を失った。
意識は闇の底へと沈んで行った。
彼の身体はすでに血塗れで完全に手遅れだと誰もが思うほどの傷を負っていたのだった。
第二幕 Dimensions Over Chaos
ラハブの新境地⑪ ―――ラグナの切り札――― 終わり