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たった一つの行路 №128

/たった一つの行路 №128

 コイりんの爆発した煙がドンドンと晴れていく。
 しかし、その前にカネコウジは行動を起こしていた。

「っ!!しまった!!」

 ユウナが気がついた時には遅かった。
 レジアイスのものよりもさらに凄まじい冷気がユウナを吹き飛ばす。
 地面を滑り、ユウナは見えない壁に頭をぶつける。

「うぅ!!……や、やったわねぇ!!」

 頭にたんこぶを作り目に涙を潤ませるユウナ。

「今度こそ!ウイりん行って!!」

 コイりんを回収した代わりにウイりんをバトルに出す。
 先ほどの吹雪の影響で、爆発の煙は完全に晴れた。
 部屋の幾つもの柱で前が見難くかったが、相手のポケモンを把握することはできた。

「グレイシア……純粋な氷タイプできたわね」

 ボウッと牽制で火炎放射を放つ。
 相手は柱の陰に隠れて、炎をかわす。

「これならどう!?『炎の渦』!!」

 今度は柱ごと巻き込んでグレイシアにダメージを与えようとする。

「さすがに分が悪いな」
「(またカードを!?)」

 カネコウジはまたカードをかざす。
 相手のカードが判別できないユウナにとって予測不能の攻撃だ。

「ラプラス!『波乗り』!!」
「っ!!(いつの間に!?)」

 グレイシアの代わりにいたのはラプラスだった。
 波を起こして炎の渦の中から消火したと思うと、そのままユウナたちに襲い掛かってきた。

「ウイりん!!」

 ザバンッ!!とウイりんとユウナが波乗りに飲み込まれた。
 ……とカネコウジは考えなかった。

「ウインディの高速移動か」
「ウイりん!『竜の怒り』!!」
「『冷凍ビーム』」

 2つの攻撃はまったくの互角。
 互いに譲ることはない。
 爆発のあと、ウイりんは煙に紛れてスパイラルショットを放っていた。

「また消火してやるぞ。『波乗り』」
「そう簡単にはいかないわ!『フレアドライブ』よ!」

 炎系最強の打撃技。しかし、その技はスパイラルショットと合わせることによってもう一段階進化する。
 先に放ったスパイラルショットに追いつき、炎の力を数倍にも引き出した。
 彼女はその技の名を『スパイラルキャノン』と名づけた。
 ラプラスの波乗りは強力だったが、ウイりんのその攻撃はそれを遥かに上回った。
 波乗りをぶち抜いて、その先にいるラプラスに大激突した。

「(……なんて技だ)」

 カネコウジも驚きを隠せない。
 ラプラスを一撃で倒されることなんて、今まで一度もなかったことだったから余計に驚いたのだと言う。
 しかしカネコウジは冷静だった。

「ふむ。どうやらその技は体力の消費が激しいようじゃな」
「…………」

 ウイりんの息が上がっているのを見れば誰だってわかることだろう。

「(確かに今のウイりんの体力じゃ、全開だった状態だとしても2回しか撃てない。2回目の攻撃で必ずバテてしまう。使いどころが難しい技だわ)」

 それでもユウナは再び繰り出してきたグレイシアをウイりんとぶつけた。

「『炎の渦』!!」
「どうやら、技の威力も落ちているようだな。『吹雪』!!」
「!!」

 炎の渦が圧倒的な冷気によって押しのけられる。

「そのまま吹き飛ばせ」
「っ!!ウイりん!『フレアドライブ』よ!!」

 自分達に向けられる強烈な吹雪に対抗するため、こっちも出せる限り威力の高い技で対抗する。

「(うぅ……)」

 ウイりんの側に居れば、炎の力で吹雪の力を軽減させることができる。
 しかし、ユウナはウイりんにぶつかるように指示を出した。
 そうなれば、自分が吹雪の的になるとわかっていた。
 彼女はそれに耐えるつもりでいたのだが、寒さのせいで体の機能が鈍ってくる。

「(気をしっかりと……)」

 でも、足が言うことを利かず、膝がガクッと折れる。手が悴む。頭が真っ白になっていく。

「(ウイりん……)」

 気を失いかけた時、吹雪が止んだ。
 ウイりんがグレイシアを吹っ飛ばしたのだ。
 ユウナは顔を上げて宙に居るグレイシアへと追撃の指示を飛ばす。

「だい…もんじ…」

 しかし、指示を飛ばす前にウイりんは攻撃を放っていた。
 絶好のチャンスを逃すウイりんではなかった。

「(カードを……)」

 慌ててカネコウジはカードを引くが、引いたカードを見て、カネコウジは顔をしかめる。
 その間に大文字がグレイシアに当たって消滅。
 ウイりんはユウナの元へとすぐに戻って、炎で暖める。

「あ…りがと…う…ウイりん……」

 ガウッとウイりんはにっこりと吼える。

「……仕方がない。私の最後の切り札を見せよう」

 カネコウジは一枚のカードをかざす。

「うっ!!眩しい!!」

 一瞬、凄まじい光が放たれる。
 そして、光が収まった時にユウナが見たのは、凍り付けになっているウイりんだった。

「っ!?一瞬にして!?」

 驚いてばかりも居られない。
 相手のポケモンをいち早く察知して、ユウナも最後のポケモンを繰り出す。

「フリーザーとポリゴン2……どうやら勝負はあったようだな」
「…………」
「さっきレジアイスと戦わせた時、ポリゴン2は麻痺をしたはずだ。それに、もしそのポリゴン2の最強の技が『トライアタック・ファイヤー』だとしたら、私のフリーザーには絶対勝てない。君もわかっているんじゃないのか?」

 図星だった。ユウナには全てそれがわかっていた。
 このままでは勝てないということを。
 しかし、彼女は諦めてなかった。むしろ、クスッと笑っていた。

「何がおかしいのかな?」
「確かに“このまま”のポリりんで“普通に”戦っていたら、私に勝ち目はないわ」
「……?」

 ユウナは左手にI☆NAを固定装備して、ポリりんと一緒に相手に向き直った。

「私の戦い方……見せてあげるわ」
「君の戦い方を見せるだと?」

 ユウナの言葉を聞いてフンッと鼻で笑うカネコウジ。

「今までのは君の戦い方ではなかったと言うのかな?」
「……行くわよ!ポリりん!『トライアタック・ファイヤー』!!」

 カネコウジの問いには答えず、炎属性のトライアングルの攻撃をフリーザーに向けて飛ばす。

「フリーザー。『フリーズドライ』」

 ドライアイスのような冷気をぶつけて、あっけなくポリりんの攻撃を相殺してしまった。

「その程度の攻撃じゃ、フリーザーは倒せんよ。『吹雪』&『プラスパワー』」

 カードをかざすと、今までにない一番の吹雪がこの空間を凍結していく。
 この吹雪は実は、サカキやサトシのミュウに放った攻撃と同じだった。
 だが、今回はサポートのカードの力も加味されていて、威力は格段に上がっていた。

「部屋全体を凍り付けにして終わりだ。君の戦い方と言うものはこの程度だったとはな」

 恐らく凍り付けになっているだろうユウナに向かってそう言い放つカネコウジ。

「……あら?これで終わったと思っているの?」
「!?」

 冷気が立ち込める白い霧の中でユウナの声が響く。
 やがて、その冷気が晴れていくと、まったく攻撃の影響を受けていないユウナとポリりんの姿があった。

「な……なんだ?そのポリゴンの姿は……?」

 吹雪を防いだこともカネコウジにとってショックだったのだが、それ以上にびっくりしたのがポリりんの姿だった。
 ポリゴン2ともポリゴンZとも、ましてやポリゴンとも違う形になっているポリりんがそこに存在していたのだ。
 そのポリりんの様子とは、全体的に体が大きくなっていて、表面が鋼に近い強固な体になっていたのである。
 つまり、その体で吹雪を楽に防いだと思われる。

「そっちが来ないなら、次はこっちから行くわよ」

 ユウナはI☆NAを操作して、何かを放ってポリりんにぶつけた。
 すると、みるみるうちにポリりんの姿が変化していった。

「ポリりん!そこから『トライアタック・ファイヤー』!!」
「何をしようと同じだ!!『吹雪』!!」

 しかし、先ほどとは根本的に違うものがあった。

「なっ!?吹雪で押し切れない!?」

 威力、大きさ、エネルギー密度……どれをとってもポリゴン2のとき以上の威力を持っていた。
 しかし、それでも2つの攻撃は互角のままだった。

「うぬぬ……!!フリーザー!この程度の攻撃……押し切ってみろ!!」

 10秒くらい経っただろうか?
 そのくらいの時間を費やしてようやくフリーザーはトライアタックを押し返した。

「クスッ。こっちは次の準備完了よ!『トライアタック・ファイヤー』!!」
「なにッ!?」

 ポリりんのトライアタックは一発だけを出すタイプでサイケ光線や冷凍ビームのように出し続けることのない単発式の攻撃である。
 フリーザーの吹雪は出し続ける放出式。
 つまり、単発式と放出式の攻撃が互角の状態でぶつかり続けると言うことはどういうことか?
 そう。単発式のほうは放出式の技を続けている間、別の行動を取れるのである。
 ユウナはその時間、ある技をポリりんに指示をしていた。
 そして、その間はフリーザーが吹雪で一撃目を押し返すまでずっと待機させていた。
 2撃目のインパクトを強めるために。

「バカなっ!?」

 吹雪の攻撃をまったくもろともせずに、炎属性のトライアタックがフリーザーにクリーンヒットした。

「いったい何を……」
「別に対した事してないわ。あなたのフリーザーが一撃目のトライアタックを吹雪で押し返している間に、『自己再生』で回復して『テクスチャー』で炎属性に転換させただけよ」
「それだけじゃない。いったいポリゴンに何をしたんだ?」
「ポリりんに情報を送ってあげただけよ」
「情報だと?」
「ポリゴンの進化方法は『アップグレード』の情報を与えること。ポリゴンZへの進化方法は『あやしいパッチ』の情報を与えること。その2つの共通点はどちらも特定のアイテムから情報を譲与されることにより進化するものだったわ。私は今あやしいパッチの情報を与えることでポリりんをポリゴンZにフォルムチェンジさせたの」
「ポリゴンのフォルムチェンジだと……?」
「そして、私は考えた。もしかしたらその2つのアイテム以外にもポリゴンを進化や変化させる情報が存在するのかもしれないと。私は答えを求めて2年間研究し続けた。その答えがさっきのM(メタル)フォルムとこれよ!!」

 ユウナは再びI☆NAを構えて、情報をポリりんへと送った。
 すると今度はポリゴンZの状態から、ぐんぐんと横に翼のようなものを形作っていった。
 体全体の軽量化……しかし、その中でも一部だけ強化されているのが翼だった。

「W(ウィング)フォルム!!」
「……そんなのこけおどしだ!!フリーザー!『フリーズドライ』!!」

 ガキンッ!!

「なっ!?」

 ポリりんの翼があっけなく、フリーザーの攻撃を防いでしまった。

「これで決めるわ。ポリりん、『ウィングブレード』!!」

 地面を蹴って空を掠めながら跳ぶポリりん。
 スピードはそれほど速くはなかった。

「それならこれでどうだ?『氷の息』!!」
「!!」

 吹雪だけでも凄まじい威力だったのにもかかわらず、その氷の息は遥かにそれを凌いでいた。

「コレが本当の最大の技だ」
「そう……それなら良かったわ。それ以上の技はないとわかったのだからね」
「なっ!?」

 氷の息からポリりんが飛び出した。

「何故だ!?あらゆるポケモンを一撃で倒せるはずなのに!?ましてやそのポリゴンは飛行タイプのはず!?」
「あら、目先の姿にとらわれ過ぎたわね。現在のポリりんのタイプはテクスチャーをしたときから変わってないわよ」
「なんだと!?と言うことは……今は……」

 ズドンッ!!!!

 最大の一撃がフリーザーにヒットしたのだった。



「何故だ……レジアイスの『アイスリフレクト』でマヒ状態になっているはずなのに何故動けた……?」

 フリーザーが倒れると、カネコウジの持っていたカードは全て燃え尽きてしまった。
 その中でカネコウジは疑問に思っていたことをぶつけた。

「そんなの簡単なことよ。あなたが一撃目の『トライアタック・ファイヤー』に気を取られている間になんでもなおしを与えただけよ」
「くっ……まさか私が君のような娘に負けるとはな……」
「私からも一つ聞いていいかしら?」
「なんだ?」
「何故私の手持ちポケモンを知ることができたのかしら?」
「……カードの力……と答えておこう」
「……そう」

 ユウナは北西をへと目を向けた。

「君はどうしてもあのリュウヤの手助けをしようというのだな?」
「そうよ」
「私たちがどんな目にあおうとも……か?」
「そうよ」

 即答だった。

「私たちはまったく悪くない。悪いのは私たちの世界を滅ぼした神だ!そのために、私たちは神を倒さなければならない!他の世界を私たちの世界のような目にあわせないために……」
「……言っていることはわからなくもないわ」

 「でも」とユウナは繋げる。

「私の任務はリュウヤの手助けでナミネとジョカを助けること。私は神がどうとか、そんなものに関わる気はないわ。それに私は世界全てとかそんなものは守れなくても、身の回りだけでも守れる人になりたいの……」

 ふと、ユウナの胸にズキッと来るものがあった。
 よみがえる過去の記憶……
 破壊される研究所……
 肌に感じる炎の温度……
 炎の中で倒れる家族達……
 気がつけば、ユウナは膝をついて顔面蒼白の顔をしていた。

「(もう……あんなことにはなりたくない……。私は強くなるの……。周りの人を守れる強さが欲しいの……)」
「まあいい。君がこの先行くと言うのなら、私は止めることができまい。もう戦う力はないからな」
「行くわよ!!」

 カッと顔を上げてカネコウジに怒鳴ると走ってユウナは行ってしまった。

「(だが、この先に待っている相手に君は絶対敵わない。私と闘ったことによる影響もあるが、それ以前に…………。まあいい。どっちにしろ、作戦の成功は確実だ)」

 北西へと走り去るユウナをカネコウジはただ眺めているだけだった。



「……時間を浪費したわね……」

 カネコウジを倒して、急いで北西へと向かっていた。
 カネコウジと戦っていた柱のフロアはすでに抜けて、草むらのある庭園を抜けて、ユウナは北西の頂点のフロアへもう一息のところへやってきた。

「次がリュウヤの言っていた生贄の間だけど……。また誰かが居るかもしれない……。万全の状況を整えなくちゃ」

 ユウナは肩にかけていた軽量のリュックから元気の塊と回復の薬をポケモンたちに与えた。
 しかし、持っている道具だけでは全てのポケモンを完全に回復するに至らなかった。

「(これで何とかなるはず……)」

 扉に手を掛けて、慎重に扉を開いていった。

「(何かある……)」

 扉の周囲に誰もいないことを確認して、扉を閉めてその“何か”を見た。
 透き通るような大きな結晶体がそこに存在していた。

「これは……どこかで見たことあるかもしれない」

 気になって遠くからI☆NAのセンサーで検索してみる。すると十秒も時間がかからずして検索結果が出た。

「……クリスタル……スイクンの水晶壁と同じ性質を持ったものね。でも、厳密にはスイクンが張った訳じゃなさそうね。スイクンとはまた別のもので作られたようね。もしくはポケモンとは関係していないかも」

 最初のカネコウジのときみたいに襲われることを警戒して辺りを確認しながら、近づいていく。

「ん?」

 ある程度近づいた時、ユウナは気付いた。

「(この中に誰かいる……)」

 目を凝らすと、人の影が見える。黒いワンピースのドレスに長い黒い髪の女の子……いや女性だった。
 ユウナはひと時その姿に魅了された。

「(すごい綺麗……)」

 黒いワンピース風のドレスを着こなして、真っ黒で長い髪は凛とした清らかさを醸し出している。
 顔立ちが整っていて、すごく美しく、まるで女神のようだった。

「(それに……私よりあるかも……)」

 自分の胸と彼女の胸を交互に見て比べる。
 ユウナのスタイルもそれほど悪くは無いのだが、その中にいる女性のスタイルが良すぎるのである。

「(そんなことより……もしかして彼女が……)」

 ふと、リュウヤの聞いていた特徴が重なった。

「(でも、幼くて純粋ってイメージには見えないわね……。それは時が経っているからだろうけど)」

 女性……ナミネはユウナから見ると大人っぽいイメージに見えた。

「(早く助けないと……)」

 水晶壁に近づこうと一歩足を踏み入れた。

「っ!?誰!?」

 後ろから視線を感じて振り向く。

「……あ」
「大丈夫か?」

 彼の顔を見て、警戒を解いた。

「無事だったのね。ヒロト」

 エースに雑草と言われた緑髪の頭に、黄色いシャツにグレーのジーンズ。
 紛れも無くヒロトだった。

「今、ナミネを助けようとしているところよ。ヒロトも手伝ってくれない?……多分どこかでこの水晶壁のようなバリアーを張っているポケモンがいると思うんだけど……」

 ドスッ!!

 ユウナが後ろを振り向いたそのときだった。
 背中に鋭い痛みは走り、そのまま前のめりになって地面を滑っていった。

「うぅ!?」

 慌てて後ろを振り向くと、そこにはヒロトしかいなかった。

「……あなた……どういうつもり!?」

 ヒロトが繰り出しているのはライチュウ。先ほどの攻撃は恐らくパンチ系の類だろう。

「やれ!」
「くっ!!スズりん!!」

 水を纏った拳と電気を秘めた拳がぶつかって大きな衝撃を巻き起こした。



 第二幕 Dimensions Over Chaos
 ラハブの新境地⑤ ―――VSカネコウジ(後編)――― 終わり


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Last-modified: 2015-05-07 (木) 21:19:33
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