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柱がたくさんあって隠れながら戦うには絶好の場所……ここでも戦いは続けられていた。
その柱の隠れて、彼女は息を切らして身体を休める。
「(相手のポケモンはジュゴン……でも、モンスターボールらしきものは見当たらない……一体どうやってポケモンを繰り出しているの!?)」
ポシェットからI☆NAを出して必死に調べる。
しかし、結果はERROR。
まったく相手のバトルスタイルが読めずにいた。
「(ここは長期戦でじっくり相手を観察してから行くのがベストね……)」
隣にいるブラッキーを横目で見ながら、ユウナは行動を開始した。
いや、しようとした。
「隠れようが無駄だよ」
ユウナが動くより先にカネコウジが行動を起こした。
たくさんあるカードから一枚を引き抜くと、とある現象が起きた。
「っ!!(敵のジュゴン!?)」
ユウナの隣にはブラッキーがいたはずなのに、何故か突然敵のジュゴンと摩り替わっていた。
しかも、吹雪がユウナに襲い掛かる。
「くっぅ!! がはっ!!」
凄まじい冷気と突風でユウナは吹き飛ばされて、柱にぶつけられる。
気を失いかけたが、何とか意識は保つことができた。
そして、ジュゴンが連続で攻撃を仕掛ける。やはり吹雪だ。
「そ…う何度も…やらせない…わよ!!」
吹雪を繰り出す一歩前にレアコイルを繰り出して、強力な電気攻撃をジュゴンに叩き込み、一蹴した。
「はぁはぁ……ありがとう…コイりん……っ……!!」
レアコイルを戻した後、不意にくらっと眩暈がして膝をつく。
「(これはかなり不味い…かも……強力な氷攻撃を受けて身体ダメージを負った……。どこかで一度体勢を立て直さないと……)」
ブラッキーがどこへ行ったかはわからないが、とりあえず、ブラッキーなら大丈夫だと判断し、ふらふらと柱で身を隠しながら、ユウナは移動を始めた。
「(逃げるつもりか……?まあいい、存分に楽しませてもらうぞ)」
カネコウジは余裕の表情でこの部屋から立ち去ろうとするユウナの気配を感じ取っていたのだった。
たった一つの行路 №127
「はぁ…はぁ……ここまで来れば大丈夫かしら……」
ふらふらとよろめきながら、先ほどの場所から10分くらい南にユウナは逃げてきた。
「(見る限り……相手はカードからポケモンを繰り出して攻撃してくるようね。でも、それだけじゃ説明がつかないことがいくつかある……)」
柱の一つにもたれるように、ズズズッと彼女は腰を下ろした。
「(何もしていないのに私のポケモンが交換されたこととか、自分のポケモンが相手のポケモンとすり換わったことこととか……全然わからない……ポケモンの能力なの?でも、そうだとしてもジュゴンがあんな力を使えるなんてどういうこと?エスパーポケモンならまだわかるけど……)」
「鬼ごっこはもう終わりにしようか」
男の声が聞こえたと思うと、白い冷気に気がつくと一気に地面が凍りついた。
「……!!(もう追いついてきたの!?)」
ふと、柱から覗き見る。
そこには先ほどの男がラッキーと一緒にいた。
だが、それだけではない。ラッキーは一つのポケモンを抱えていた。
「(っ!!ブラりん!?)」
そのブラりんは氷漬けにされていて、まったく動きがとれずにいた。
ユウナは冷静にその場から離れようとしたが、ゴツッと頭をぶつけた。
「……!?」
恐る恐る手を触れると、何もないのに壁のようなものが存在していた。
しかも、その壁は氷そのもののように冷たかった。
「『アイスバトルフィールド』。これで君は逃げることができなくなった。大人しく観念しなさい」
カードを片手にそう告げるカネコウジに対してユウナは挑戦的な目で見る。
「……観念する?バカを言わないで」
ボールを投げて中からスズりん(ラグラージ)を繰り出す。
「逃げられないからって、私が負けると決まったわけじゃないわ」
「君は負ける。そう、リリスの占いに出ている」
「……そうなの」
白けた目でユウナはカネコウジを見る。
「そういわれると、破って見せたくなるのよ。私はね、データとか情報は信じるけどね、運命とか占いとかは大っ嫌いなのよ!!」
スズりんは水鉄砲を放って、ラッキーに牽制する。
しかし、ラッキーは並外れた体力を持っている上に、カネコウジのラッキーは攻撃にびくともしなかった。
だが、それはユウナの計算のうちだったらしい。
「『マッドショット』!!」
ラッキーは水鉄砲を正面から受け止めていた。
水鉄砲が止んだ時、スズりんはその場から移動した後だった。
ラッキーから見て右90度の方向から、地面タイプの攻撃技が襲い掛かる。
ズドドドドッ!!
「……。『アイスボール』よ!!」
一回の攻撃では倒せないと踏んで、ぐるりぐるりと時計回りに動いて、アイスボールの連続攻撃を繰り出す。
このスズりんの攻撃は、自らが氷のボールとして体当たりするものではなく、氷の球を打ち出して連射するタイプの『アイスボール』だ。
一回、二回、三回…………そして、最後の五回目を放った後、
「『ウォーターパンチ』!!」
最後の巨大なアイスボールに隠れて、接近を指示した。
アイスボールがラッキーにヒットし、そのまま水属性の拳をラッキーに当てようとした。
「今だ」
ところが、ズゴンッ!!と衝撃音がしたと思うと、スズりんが地面を滑るようにユウナの元へ打っ飛んできた。
スズりんは受身を取って、相手の次の攻撃を受ける構えを取ったが、ラッキーは動こうとはしない。
「(……『捨て身タックル』ね。でも……)」
スズりんの腹部を観察してユウナは思う。
「(ラッキーの攻撃にしては威力が高いわ……。それに、あっちはその攻撃の反動しか受けてないみたい……。異常に防御力が高いようね)」
しかし、ユウナは気にしていたことが一つあった。
I☆NA<インフォメーションナビ>で相手のポケモンを検索したのだが、まったく反応がしないことだった。
いつもなら、ポケモンや技、特性が発動した時は、分析してくれる。
そこから、ポケモンを捕獲するなり、敵の攻略法を探すなりするのである。
「(相手はポケモンであり、ポケモンではないということかしら? ……いずれにしても、負けられないことには変わりがないわね)スズりん!!」
スズりんが頷いて、サンドストームを起こす。
「視界を悪くして、どこから襲うかわからなくすると言うのか?無駄なことだよ」
ラッキーとカネコウジはお互いわかる位置に立っている。
「下だ」
カネコウジに言われてラッキーはジャンプした。
スズりんが凍った地面から飛び出してくる。
捨て身タックルがそのままスズりんへと落下する。
「(読まれていた!?)スズりん!『砂嵐』全開!!」
自分の周りを台風のように砂利と砂埃を撒き散らす。
少しでもラッキーの攻撃の直撃を避け、あわよくば、外してくれるようにと意図を込めた指示だった。
「コレでどうじゃ」
カネコウジは一枚のカードをかざした。
ズドンッ!!
「っ!!」
スズりんは自らが掘って来た穴へと叩きつけられた。
ラッキーは台風のような砂嵐の中、何事もなかったように、攻撃をやってのけたのである。
「この『見えない壁』の力の前に砂嵐やあられなどは無意味だ」
「…………」
「さぁ、観念するんじゃな」
「あら、甘く見ないで欲しいわ。スズりん!!」
スズりんに合図すると、地面がゴゴゴゴッと揺れ始める。
「なっ!?」
二本の水柱がラッキーを捉えた。
アッパーのような二つの水柱はラッキーを上昇させた後、引力に従って地面へと打ちつけられた。
そして、カネコウジの持っている一枚のカードとともに消滅した。
「(消えた……?)」
スズりんが穴からヒョコッと出てきて、ユウナの元に戻る。
相手の不意打ちを警戒してだ。
「(ポケモンはカードから出している実体を持ったモノと考えていいわね……。でも……)」
ユウナはカネコウジが持っている数十枚のカードに目をやった。
「(ポケモンの他にもあのカードから何か特殊な効果をもたらす攻撃をやってくるときがあるのよね……。アレはいったい……)」
「こいつでどうだ」
次に引き出したカードで出たものは、氷のボディを持った氷山のようなポケモンだった。
「(レジアイス……)あなた氷使いね」
ジュゴン、レジアイス、ラッキーと見て使っているポケモンのタイプを見抜く。
「そのとおり。しかし、それがわかったところで勝てはしない」
「スズりん!!」
水に乗って接近する。滝登りのようだ。
「凍らせろ」
レジアイスが冷たい冷気をスズりんへと飛ばす。
するとみるみるうちに滝登りの水が凍り付いていった。
スズりんが凍りつくのも時間の問題である。
「『砂嵐』よ」
自分の周りに砂嵐を起こして、冷たい冷気を当たらないようにする作戦のようだ。
「『冷凍ビーム』」
さらにレジアイスは氷攻撃を撃ってくる。しかし、砂嵐が攻撃を防御する。
「そのくらいの冷気なら、砂嵐で防げるわよ!!」
ユウナは自信満々だった。
「伝説のポケモンと言えども、たいしたことないわね」
「そうか。それなら、レジスチル。本気の冷気を見せてやれ」
「え?」
カネコウジに指示されると、レジアイスの持つ空気が一気に変わった。
ぶわぁっ!と言う風と共に周りの気温が一気に低下した。
「っ!!」
あまりの寒さにユウナもぶるぶると震えだす。
「真の冷凍ビームを見せてやれ」
「……っ!!スズりん!『あなをほる』!!」
嫌な予感がして、すぐに地面へと潜らせる。
ユウナの直感は正しかった。
レジアイスの放った冷凍ビームは先ほどのモノとは別物だった。
「(……っ!!さっきの威力の5倍……いや、10倍はあるかも!?)」
しかし、スズりんは勇敢にもレジアイスの下から水の拳のアッパーをかます。
上空へと打ち上げられてから重力に従って落下した。
「スズりん!冷凍ビームを打たせないで!連続攻撃よ!!」
隙を作らずに一気に畳みこもうとする。だが……
「……!? どうしたの?スズりん!!」
その場所から動こうとはしなかった。いや、動けなかったと言う方が正しい。
「『冷凍ビーム』」
そして、あっけなく冷凍ビームが被弾してスズりんは倒された。
「(一体何があったの?)」
レジアイスにセンサーを向ける。しかし、結果はやはりERROR。
「(レジアイスによる攻撃?それとも、あの男によるカードの効果なの?)」
カネコウジを見るけど、特に何もしていないよう。ユウナはすぐに前者だと判断する。
「それなら、全力で倒すだけよ!ウイりん!!」
ここぞとばかり相棒のウイりん(ウインディ)を繰り出す。
「一発で決めるわよ!!『スパイラルショット』!!」
「『冷凍ビーム』」
凄まじい威力の技の激突。
炎も氷も負けてはいなかった。
「いけっ!!」
ウイりんのスパイラルショットが押し始めたが、レジアイスの前に来たところで爆発した。
「(厄介だな。あのウインディ)」
「ウイりん!『フレアドライブ』よ!!」
一吼えすると、炎を纏って突進して行った。
しかし、突然凄まじい烈風が襲い掛かった。
慌てて、目を閉じようとした。
「(……!!コレって最初の時と同じ!?)」
やがて風が止むと、ウイりんの代わりに別のポケモンの存在があった。
「『冷凍ビーム』だ」
「っ!! ポリりん!『高速移動』で回避!」
最初の時の不意打ちの時とは違い、今度は的確に反応ができた。
恐ろしい冷凍ビームを何とかかわす。
「(あんな攻撃を受けたら一撃でお陀仏よ)そこで『トライアタック』!!」
レジアイスの後ろを取ると3種類のエネルギー体をヒットさせた。
ふらりとレジアイスはよろけるものの、たいしたダメージはない模様。
反撃の冷凍ビームを繰り出してくるが、ポリりん(ポリゴン2)は難なくかわす。
「それならコレでどう!?ポリりん!『トライアタック・ファイヤー』!!」
トライアタックは基本的に炎、かみなり、氷の3種類を合成した技である。
しかし、この技はファイヤー……つまり炎を特化して放つトライアングルの攻撃なのである。
接近してレジアイスの攻撃できない死角から攻撃をぶつけた。
氷のレジアイスが炎で燃え上がる。
やがて氷の冷たさが勝り、火は消されるだろうが、少しの間はなんとかなるだろう。
「よし……ポリりん!!……え?」
ユウナの呼びかけにポリりんは動けなかった。
「(さっきのスズりんと同じ!?)」
レジアイスはまだ炎上しているために攻撃どころではない。
その隙を突いて、ユウナはポリりんを戻して、代わりにコイりん(レアコイル)を繰り出す。
「『ラスターカノン』!!」
その間にユウナはポリりんの状況を観察する。
「(麻痺している……。どうやら接近からの攻撃だと何かしらのカウンターを受けるようね)」
ズドンッ!!
「えっ!?」
ふと、振り向くと、コイりんに冷凍ビームが当たっていた。
属性防御のお陰で威力を軽減させたもののダメージは絶大で、間一髪のところだった。
「さすがに一発は受けてしまったな」
カネコウジのカードがまた1枚燃える。
「(『なんでもなおし』?)」
そのカードをユウナは見逃さなかった。
どうやらそのカードの力で炎上状態を治したようだ。
「(トレーナーとポケモン……両方を見ていないといけないわね)」
同時に10万ボルトを指示。電撃を飛ばす。
「レジアイス。『アイスリフレクト』」
コイりんの攻撃のタイミングを見計らって、レジアイスが突っ込む。
10万ボルトを直撃しながらも、レジアイスは体当たりでレアコイルを押しつぶそうとした。
「コイりん!!」
ユウナの指示は避ける指示だったのかわからないが、コイりんはかわせなかった。
「『大爆発』よ!!」
「発動せんよ。『アイスリフレクト』は接近攻撃した者を麻痺させる攻撃。今、レアコイルは麻痺をしている。発動できるはずが……」
しかし、カネコウジは気がついた。コイりんの体内のエネルギーがドンドン上昇していっているのに。
「残念だったわね」
すると、コイりんの片割れの一匹が地面の中から現れた。
「な!?まさか?」
レジアイスがコイりんから避けると、コイルが2匹だけで1匹足りなかった。
「私のレアコイルは分裂できるの。それに一匹が何も状態異常がかかってなければ……」
一匹のコイルのエネルギーもドンドン上昇して行き、最大パワーになった。
「もう2匹のコイルも誘発して爆発するのよ!」
ズゴ―――――――――ンッ!!!!
レジアイスを巻き込んで文字通りの大爆発が起きたのだった。
第二幕 Dimensions Over Chaos
ラハブの新境地④ ―――VSカネコウジ(前編)――― 終わり