ポケモン小説wiki
たった一つの行路 №120

/たった一つの行路 №120

 38

 空は紫とか赤とか混じって奇妙な色をしている。
 海はオレンジと黄色が交じり合ったとっても歪な色をしている。
 陸はといえば、青やグレーなどまるで混沌とした色をしている。
 まるでここはこの世の世界とは思えない空間だった。
 果たしてここは天国か……地獄か……いいや、もしかしたらどちらでもないのかもしれないし、どちらも当てはまる場所なのかもしれない。
 この空間に一つの建造物があった。
 城下町のような馬鹿でかい広さは無いが、塔から見下ろすと六角形の広がりを見せる場所だった。
 その中心に奇妙な色の空へと伸びる塔が存在していた。
 その塔のてっぺんはどこまでも続いているように見えるが、途中で途切れているように見えた。
 まるで宮殿と塔が合体したような建造物。
 このようなワケの分からない世界にいるなら、なるほどなと納得しそうな建造物だった。
 その塔の中階層。
 丁度、遠くから塔を見ると霧で外装が途切るように見える部分から1人の男が外を眺めていた。

「もう少しで……“アレ”を復活させることが出来るのですNE?」

 貴族……いや、王様が羽織る様な派手なマントを肩にかけた語尾に訛りのあるドレッドヘアの男が、背後についたマフラーをした色男に問いかける。

「ああ。もう少しだ。私が行った世界のイエロー、ジョカ、エースのうちの2人を連れてくれば、“アイツ”を復活させることが出来る」
「それにしてもアウト、不運だったNA。まさか、リュウヤ・フィラデムがティブスに居たなんてNA。おかげで私の裏工作もまったく意味を成さなかったNA」
「すまんな。せっかく、ティブスのポケモンリーグの会長を誘拐し、会長に成りすましてくれたというのに」

 謝っているわりに、アウトはひょうひょうとして言う。

「しかも、今、“奴”は下で暴れているなんてNA」
「だが、ザンクス……それは問題ないのだろう?」

 ザンクスと呼ばれた男はKUKUKUと奇妙に笑う。

「リュウヤ・フィラデム……一人で我々に勝てるとでも思っているのKA?まったく浅はかなことだNA……」

 ふと二人は並んで、下を眺める。
 激しい爆発が起こって、壁や地面などを壊れる様子が窺うことができる。
 その二人にカツッカツッと足音を立てて近づく人影があった。

「ところでアマネ・フィラデムが死んだっていうのは本当のことなのかい?」

 赤いハイヒールに胸元が大きくはだけたシャツの女性は腕を組んで2人に問いかける。
 年齢的に言っても20代……いや、10代と言っても通用するだろう。
 しかし、彼女の醸し出す雰囲気は色気や大人っぽさが存分に出ていた。

「リリス……ああ。本当のことだよ」
「そう……残念ね……。アマネとの決着はあたしの手でつけたかったのにね……」

 爪を噛み締めるリリス。

「そんなにフィラデムを叩きのめしたかったのなら、今あそこにいる孫を潰せばいいじゃないですKA」
「ふっ。それも面白いけど、あたしは孫にはあまり興味はない」
「だろうNA。ところで……」

 アウトは自分に言っているのだなと思いザンクスに向き直る。

「その2人を連れ去る手筈はもう済んでいるんだNA?」

 アウトはニヤッと笑う。

「ああ。あの2人が行っているから平気だ」
「“ノッポ”のほうは分かるけど、新人の方は大丈夫なのかい?」

 リリスがアウトに尋ねる。

「新人……トロイのことか?奴は強い。俺たちの中でもトップクラスでな。それに何よりそいつを選んだ理由は……分かるよな?」
「そうだNA」

 再びザンクスは下を見下ろす。

「リュウヤは下の3人が仕留めますし、2人が“アレ”の復活のため……」
「すべては……“奴”を倒すため……」
「あたしたちの呪縛を解き放つため……」



 たった一つの行路 №120



 39

 ヒロトとオトハがタキジとハナとの騒動に巻き込まれてから、すでに3時間ほど経過していた。
 オレンジ色の太陽が刻々と沈んでいった。
 そんな森の中、ダークグリーンの髪の少年、エレキがポケモンの修行をしていた。
 ワニノコやパチリスが飛び交い技を出し合う。

「あ、あの時の感覚……なんだったんだろう?」

 2匹のポケモンを戻してエレキは座り込む。
 あの時とはSGに乗り込んでストムと戦った時のこと。
 彼はとても不思議な感覚を覚えた。
 ふと、自分のいつもの感覚が抜け落ちて、まったく違う自分になってバトルした。
 これは、盾のエレキとも矛のエレキとも違う人格だった。
 その感覚を味わってからというもの、矛と盾の人格はどこかへと消えてしまった。

「も、もしかして、盾の言っていた僕の封印と言うものが解けたのかな?よ、よくわからないけど……」

 ふと、息をついて周りを見る。
 だんだんと暗くなってきて不気味になっているのがよくわかる。

「……な、何か出てきそう……」

 ポケモンが居るとはいえ、一人で居ることが不安なエレキはぶるぶると震えだした。
 トキワの森は昼でも暗いといわれている。
 夜となると暗さはよりいっそう増すだろう。

「ご、ゴーストポケモンとか……出て来ないよね……?」

 しかし、そのときガサゴソと草むらが揺れた。

「ひ、ひぃーっ!! だ、だ、誰!?」

 思いっきり後ろずさりをして、木にぶつかってグハッと声を上げる。
 再び、ガサゴソと草木が動くと、そこから何かが出てきた。

「え……?ひ、人?」

 すでに暗くてよく見えないため、近づくエレキ。
 だが、酷く動きが鈍いことに気がついた。

「こ、この人って……」

 青い髪にマントを羽織った両腕に竜の刺青の男……リュウヤだった。

「りゅ、リュウヤさん!!」
「ッ……確か、お前はあのときにいた奴の一人……ぐっ……」
「……!?」

 刺青とかに目が行っていたがよく見ると、マントが焦げていたり、腕が凍傷にかかっていたり、見て分かる通り酷い有様だった。

「は、速く運ばないと……」
「そ…れより…“あいつら”が……襲って…来る……」
「あ、あいつら?」
「はや…く…しないと……」

 そういい残してリュウヤは気を失った。



 トキワシティのはずれ、1ばんどうろに近い場所。
 そこに二人の少年達とポケモンが倒れていた。

「うぅ……」

 太目の少年と三つ編みの少女だった。
 太目の少年は辛うじて意識があるが、三つ編みの少女は完全に気を失っているようだ。

「ミナノ……大丈夫……か?」

 彼女の名前を呼びかけても反応はなかった。
 少年……プレスは拳を握り締めて、地面を叩く。

「く…そっ…あの男…ジョカを……」

 それだけを言って、プレスも気を失ってしまった。



 トキワグローブ邸。
 ここで、リュウヤの危惧していた事態が起こっていた。

「あ……あなた!!……痛っ!!」
「やっと見つけましたよ。イエロー・デ・トキワグローブ。ついて来てもらいますよ」

 イエローの両方の腕を一纏めにして片手で捕獲しているノッポの男が居た。

「あなた……リーフちゃん……」

 家の中は無残にも散らかって、リーフが気絶していた。
 シルバーも相棒のマニューラやオーダイルが傍らに倒れていた。

「くっ!!放して!!」
「封印を解くために来てもらいます」

 暴れるイエローだが、まったくノッポの男の拘束は揺るがない。
 やがてノッポ男はトキワグローブ邸を出た。

「さて、森へ急がないといけません」
「うわぁ!!」

 持っていたロープでイエローの手首を一まとめにすると、イエローを肩に持ち上げて走り去ろうとした。

「待てッ!!」

 誰かが止めたがノッポ男は気にせず通過した。

「お前ッ!!イエローさんをどうするつもりだ!!」

 ファイアだった。
 ニョロトノを繰り出してノッポ男の脚に冷凍ビームを撃って凍らせようとする。

「邪魔をしないでください」

 足を止めて、一つのモンスターボールを地面に落とす。
 すると中から舌の長いポケモンが飛び出して、ニョロトノの冷凍ビームを払いつつ、ファイアに接近した。

「仕留めなさい。『乱れ突き』」
「っ!!ニョロ!『ハイドロ……」

 メリッ!

 ハイドロポンプ……と言いかけたところで、口が止まった。
 ファイアの腹にベロベルトの舌がめり込んでそのまま近くの家の壁に勢いよく吹っ飛ばされた。

「ファイア君!!」
「ぐぅ……」

 腹を抑えて倒れるファイア。

「邪魔をしなければこんなことにはならなかったのですよ?」

 ファイアにそう言い捨て、立ち去ろうとする。
 しかし、ファイアのニョロトノがそれを許さなかった。
 トレーナーが指示しなくても、彼自身の判断で男に襲い掛かった。

「無駄だよ。『パワーウィップ』」

 舌を強力なムチのように打ち付けて、ニョロトノを一撃で沈めてしまった。

「くそっ……」
「今度こそ、行かせて貰います」

 ファイアに戦闘の意思が見られなくなったことを認知して、今度こそ立ち去ろうとした。
 だが、それは叶わなかった。
 強力な水鉄砲がノッポ男の道を塞がんとし、足を止められてしまったのである。

「てめぇ。俺とバトルしねぇか?」

 とある一軒家の屋根の上から声は降ってきた。
 ファイアは見上げるが、月の光で誰だか確認できなかった。
 でも、跳んで降りてきて、ようやく彼を確認することができた。

「……ラグナ?」
「つーか、ファイア。てめぇ遊んでんのか?一撃でのされちまってよー」
「ぐっ……」

 膝をついて何とかファイアは立ち上がった。
 身体が痛い筈なのだが、現在の状況を見るとそうも言ってられない。

「うるさい。第一、何でお前は屋根の上なんかに登ってたんだよ!」
「なんとなくだ!」
「飛行ポケモンでも使ったか?」
「自力で登ったんだ!俺が飛行とかエスパーポケモンを使うかッ!!……っと……!」

 ラグナはオーダイルに指示して、ノッポ男の進路に再び水鉄砲を放った。

「逃げるなよ、てめぇ。いきなり人を攫うとはどういう用件だ!?」

 ノッポ男は黙ったまま、ベロベルトを再び繰り出した。

「けっ!オーダイル!」

 ベロベルトのパワーウィップを受けながらもオーダイルは接近してパンチを繰り出した。
 ズドンッ!!っと強力な衝撃がベロベルトとオーダイルの拳から生まれる。
 ベロベルトがよろける。
 パワーではオーダイルの方が上のようだ。

「『乱れ突き』!!」
「叩きのめせ!!」

 カクレオンのように舌を伸ばして巧みに攻撃を仕掛けるベロベルト。
 オーダイルは果敢に攻めるが、その舌に押されて攻撃に転じることが出来ない。

「拉致があかねぇ!『水の波動』!!」

 水の波動を打ち出すが、ベロベルトは舐める様に攻撃をブロック。
 まったくダメージはない。

「いけッ!!『アクアスティンガー』!!」

 水の波動は囮。
 舌が止まった瞬間に接近し、一気にベロベルトを鋭い水の爪で切り裂いた。
 水の爪と言われてそれほど威力ないものだと思われるが、実は違う。
 水は極度に凝縮するとかなりの切断力を生む。
 その一撃で、ベロベルトもかなりのダメージを負ったようで、息を切らしていた。

「なかなかやるようだな……。なっ!!」

 ノッポの男が驚くのも無理はない。
 いつの間にか肩に担いだイエローが居なかったのだ。

「イエローは返してもらうぜ」
「!!」

 いつの間にか、ラグナの傍らにはイエローを乗せたヌケニンが浮かんでいた。

「助かったよ……」

 ヌケニンから降りて、手首のロープを切って解放されて、ラグナに礼を言うイエロー。
 ラグナは「どうってことねぇよ」とイエローを見ずに返す。

「やるようですね。しかし、返してもらいますよ」

 ベロベルトが再び接近する。
 しかし、最大パワーの冷気がベロベルトを包み込んだ。
 そして、冷気が止むとベロベルトの氷像が完成していた。

「はぁはぁ……お前の好きのようにはさせない……」

 グレイシアの吹雪だ。
 苦しそうなファイアだが何とか立ち上がってノッポ男を威嚇していた。

「2対1か……この状態では少々不利ですね」

 ノッポ男がもう一つのモンスターボールを取ったそのときだった。
 その男の隣にテレポートしてきた男がいた。
 黄色いシャツにグレーのジーンズ。緑髪の少年だった。
 テレポートをしたのはフーディンだ。
 そして、ラグナは呼びかける。

「ヒロト!丁度良かった!そいつを倒せ!!」

 ヒロトがちらりとラグナを見る。
 しかし、それも束の間、ノッポ男に言った。

「TSUYOSHI。俺が一人連れてきた。戻ろう」

 ヒロトの右腕には誰かを抱えていた。
 その抱えている人物を見たとき、イエローが叫んだ。

「ジョカ!」

 ヒロトが抱えているのは紛れもなく、イエローの娘、エースの妹のジョカだった。

「ヒロト……てめぇ、どういうつもりだ?」
「何で、ヒロトがジョカを……!?」

 ヒロトは再びちらりとラグナとファイアを見た。

「『テレポート』」

 しかし、不敵に笑うとフーディンにテレポートを指示した。

「逃げんじゃねぇ!!オーダイル!!『ハイドロポンプ』!!」

 オーダイルの攻撃も無駄だった。
 当たる瞬間にヒロトとTSUYOSHIはその場から消え去ってしまったのだ。

「どういうことだ!?」
「あの男とヒロト……どういう関係が……!?」

 ラグナとファイアはただ立ち尽くす。
 イエローも目の前で消えた娘を見て呆然としていたのだった。



 40

「……でしょ?ハルキも頭にくるでしょ!」
「…………」

 ポケモンセンターのロビー。
 カレンは昼頃にようやくライトと一緒にポケモンセンターに辿り着いた。
 それからすぐにライトは部屋へとこもってしまった。
 頭にきたカレンは、食堂へ行き、ヤケ食いを始めた。
 隣で見ていたハルキは止めようとしたが、彼女の凄まじい形相にどうすることも出来なかった。
 昼食後から現在に至るまでカレンとハルキはロビーにずっといた。
 ほとんど、カレンが愚痴をこぼすのをハルキが聞いていただけだが。
 基本的にうるさいのは嫌いなハルキだが、カレンはまた別らしい。
 自らは喋らず、適当にカレンの話す事を頷いていた。

「……はーすっきりした」
「そうか(やっと終わったか)」

 と、ハルキはふと立ち上がる。

「ねえ……ハルキ」

 呼ばれて振り返る。

「ハルキは……裏切らないでね?」

 何も言わずにカレンに背を向けて歩き出した。
 少し不安そうな顔をしたカレンだったがハルキは言った。

「世界中の誰もが敵に回っても……俺はお前を守る。それが俺の生きる道だ」
「ハルキ……」

 ガシッ!

 背中に彼女の重みを感じるハルキ。
 自分の手をハルキの胸周りにまわしてギュッと抱きしめるカレン。
 二人は少しの間、そのまま過ごしたのだった。

「えーと……。あ、ハルキとカレン!丁度いいところにいたわね」

 ポケモンセンターにあったパソコンを片手に操作しながら、歩み寄ってきたのはユウナだった。
 カレンは顔を真っ赤にしてハルキの背中を離れた。

「“こっち”にテレポートしてきた9人を集めてくれない?最終確認をするから」
「そのことなんですけど……ライトをどうするのかなって?」
「それは自分で決めてもらうしかないわよ」

 ユウナはばっさりと言う。

「冷たいように思われるかもしれないけど、自分の問題は自分で解決するしかないのよ」
「…………」

 そういって、ユウナは椅子に腰をかけた。
 ハルキとカレンは残りの6人を集めに行ったのだった。



「……ライト……本当に私たちと一緒に元の世界に戻るのね?」
「…………。……うん」

 ユウナの質問に俯いてライトは答える。
 彼女の目は光を失ったように淀んでいた。
 その姿を見てカレンが悔しそうに拳を握り締めている。
 現在、ユウナたちはオトハを除いたこの世界に来た8人で明日のことを話し合っていた。
 翌朝、彼らはこの世界から自分達の住んでいる世界へ戻る。
 しかし、ユウナにとって気がかりはライトとオトハだった。
 本当だったら、ユウコもその対象だったのだが、彼女はこの話を始まる前にこう言った。

―――「私も戻るわ」―――

 彼女がどういう心境だったか、わからないけど彼女がそうしたいならと咎める気はなかった。
 多分、ユウコが単にモトキに飽きたのだとユウナは思っていた。
 丁度そのとき彼女に情報が入り込んできた。
 リュウヤとプレスとミナノが気を失って病院に搬送されたことだった。
 だけど、ユウナはあまり気にしていなかった。
 自分たちの世界に戻るにはあまりにも関係ない情報だったから。
 オトハのことを彼女達は待っていたのだが、丁度そのとき、ラグナとファイアがポケモンセンターのロビーに乗り込んでいた。
 そして、一声目がこれだった。

「「ヒロトはいるかッ!!」」
「ラグナ……うるさい」

 さぞ迷惑そうにハルキはラグナとファイアを睨みつける。

「ヒロトがどうしたのよ」

 ラグナとファイアは説明をした。
 トキワグローブ邸が襲われたこと。
 ジョカが攫われたこと。
 ヒロトがTSUYOSHIと言うノッポ男に手を貸していたこと。
 イエローを攫おうとしたこと。 
 それら全てを話し終えたときのみんなの反応はそれぞれだった。

「ヒロトさんがそんなことするはずが無い!!何かの間違いだよ!!」
「私もそう思うわ!きっとそうだとしても、何か理由があったのよ!!」

 と、マサトとカレン。

「だが、ラグナの言うことが嘘だとは思えないな」
「一体どうしちゃったのかしらね」

 と、ハルキとユウコ。

「ジョカを助けに行こう!」
「ちょっとは落ち着きなさいよ!」

 と、サトシとカスミ。

「TSUYOSHIというノッポって……まさか、マングウタウンでトキオと戦った男……?」

 ライトはポツリと言う。
 しかし、まったく元気がない。

「(ジョカとイエローさんを攫うなんてどういうことかしら……?)」

 ユウナはその行動の意味について考えていた。

「取り合えず、俺はヒロトの奴を見つけたらボコボコにしてやる!!」
「そして、ジョカの場所を聞き出す!!」
「あなたたちもちょっとは落ち着きなさい」

 とりあえず、昂っているラグナとファイアをユウナは宥めようとする。
 そんなときだった。

「あ、みんな居るな?」

 ヒロトがポケモンセンターへ入ってきた。
 当然視線はヒロトに集中する。
 ちなみに、後ろにオトハがいたのだが、そのことにはユウナ以外気がつかなかった。

「(……なんか殺気が混じっているのは気のせい……か?)」

 そう思ったのも束の間、ヒロトはいきなり胸倉を掴まれた。
 掴みかかったのはラグナだ。

「オイ!ジョカをどこへ連れて行った!」
「……ジョカ?ジョカがどうしたって?」
「とぼけるなッ!!てめぇ、さっき俺とファイアの目の前でジョカを攫って行ったじゃねぇか!」
「!?」

 ヒロトは驚いた顔を見せる。

「ラグナさん!待ってください」

 オトハが割って入る。

「ヒロトさんはそんなことしていません!」
「どういうことだ!?オトハ!」
「だって、私……ずっとヒロトさんと一緒でしたもの!」

 そのオトハの真剣な声と目にラグナは声を詰まらせる。

「だけど、俺たちは見た!ヒロトがジョカを抱えているところを……」

 ラグナの代わりにファイアが続ける。

「私を信用できませんか……?」

 悲しそうな顔でオトハはファイアの目を見る。
 子犬のような目を見るとファイアもいたたまれなさから、目を背ける。

「私はヒロトがやってないことを信じるわよ」

 そう言ったのはユウナだった。

「証言者がオトハと言うこともあるしね。それにオトハが嘘なんてつけるはずがないわ」
「(珍しいこともあるもんだな)」

 ハルキはそう思った。

「だが、それなら、俺たちが見たヒロトは……?」
「きっととっても似た人だったのでしょう」

 にっこりとオトハは言う。
 その言葉にファイアとラグナは顔を見合わせる。

「ところでジョカはどうすんだ?」
「それなら、俺たちが居場所を知っている」

 とヒロト。

「どういう意味だよそれ!やっぱりてめぇが!」
「場所を教えたのは俺じゃない。リュウヤだ。ここに来る前にリュウヤのところへ行ってきたんだ」
「リュウヤ……あいつ、見つかったのか?」
「今は病院に居るけどな。だから、リュウヤが動けるようになったら、ジョカを助けに行く!」
「そうか!じゃあ、俺たちも……」

 サトシが張り切って立ち上がる。

「だけど、助けに行くメンバーはこっちで決めさせてくれ」
「?」
「リュウヤが言っていたが、この先のバトルは危険と一言で言うには足りないくらい危ない場所らしい」
「分かったわ。それは、明日の朝までには決まることなのかしら?」

 ユウナが尋ねる。

「ああ。明日の朝までにはは決める。だから、今日はもう休んでくれないか?」



 ヒロトの最後の言葉をきっかけにそれぞれ部屋へと戻って行った。
 そして、今、外ではユウナとオトハが星空を見ていた。

「マングウタウンで見たときと同じ星空ね……」
「世界が違っても星の美しさは変わらないんですね」

 夜の涼しい風は、オトハの長い髪をなびかせ、続いて隣にいるユウナの頬を掠めて過ぎ去って行った。

「結局、オトハはどうするの?」

 念のため、ユウナは聞く。
 しかし、彼女もオトハの答えは分かっていた。

「私は……ヒロトさんといっしょにいます」
「そう、それなら良かった……これで、残りはライトだけね」
「エースさん……嘘をついています」
「……そうね。でも、こればっかりは本人達がどうするしかないわ」

 ユウナとオトハはずっと空に輝く空を眺めていたのだった。



 41

 トントン

 ドアをノックする音に気がついた。
 でも、彼女は出る気になれなかった。
 助けようとした彼に傷つけられて、他の女とキスしているところを見せられて、もう彼女は何の気力も起きなかった。

 トントン

「(ほっといてよ……)」

 しかし、ドアを叩く主は諦めようとしない。
 必死でドアを叩き続ける。
 彼女はだるい身体を起こして、ドアを開けた。
 その姿を見て、彼女は身体を固まらせた。

「(エース……)」

 青いバンダナにジャケット……まさに、彼はエースだった。



 第二幕 Dimensions Over Chaos
 道に迷う者たち⑧ ―――狙われたトキワグローブ――― 終わり


トップページ   編集 凍結 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2015-05-06 (水) 11:12:17
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.