34
―――ライトとミナノがバトルしているのと同時刻。
蛇口を捻ると冷たい水がシャワーの口から噴き出した。
捻りすぎたらしく、強くかつ冷たい水が彼女に降りかかる。
慌てて、シャワーの口を排水溝へと向けて、一呼吸した。
お湯が出るようになって、初めて自分の体に当てる。
頭を濡らして、体を撫でるようにゆっくりと胸元を洗い、徐々に下へ下へとシャワーのお湯を当てる。
頭から足の指先までお湯で濡らし、火照リ始めたところで蛇口を止めて浴室を出ていった。
「(ここにいるのもあと1日ね。それまでにライトやオトハの問題を解決しないと……)」
風邪を引かないようにするため、すぐに備え付けのタオルで体を拭いた。
深呼吸をしながら軽くストレッチをしてから、服を着て、髪を整える。
そして、すっきりとした顔で食堂へと向かおうとしていた。
しかし、同じ部屋の彼女がまだ寝ていた。
「オトハ?朝ご飯食べに行かないの?」
そんなユウナはベッドを揺すってオトハを起こそうとする。
「……んっ……ショウスイネフシト……」
「え?ショウスイネフシト??」
「その、魔方陣には触れてはなりません……どうか、お願いです……エクソシスト様……どうか、神の反逆者……ルシファーさんを……」
「(一体この子……何の夢を見ているの?(汗))」
ちょっと面白そうなので、ユウナはもうちょっとオトハの寝言を聞いていることにした。
「絶対に……許せません……私は……ラーメンを……食べたかったので…す……」
「(ラーメンの恨みなの?)」
少しするとオトハは寝言をやめて落ち着いたと思われた。
「(そろそろ起こそうかしら?)」
と思って、オトハに触れようとしたが、ふと彼女の目から涙がスゥーっと流れてシーツにしみこんだ。
「……なぜ? ……あなたはそこまでして、孤独を貫こうとするのですか?……私じゃ……力になれませんか……?」
「(オトハ……)」
その言葉を聞いて、ユウナは起こすのを止めた。
夢の中できっと“彼”に言っているのだと思ったからだ。
「私じゃ……ルシファーさんを止めることはできませんか?」
「(えっ!?まだ夢の続きなの!?)」
どうやらそうらしい。ユウナはずっこける。
「(やっぱり……放っときましょう)」
ユウナは部屋のドアノブに手をかける。
「ダメ……です……ユウナさん」
「え、何?」
自分の名前を呼ばれて、ユウナはふと振り向く。
「……そんなところは……あぁ……や……やめてください……そんなことされたら……私……あぁ」
「…………(汗)」
色っぽくしゃべるオトハの声を聞いて、ユウナはちょっと顔を赤くして部屋を出て行った。
たった一つの行路 №118
ユウナが食堂へ向かうと、そこそこの人数がそこに揃っていた。
「おはよう!ユウナさん!」
元気よく挨拶をしてきたマサトに対してユウナもおはようと返す。
そして、カスミとエレキ、ハナも遅れてユウナに挨拶をした。
その4人は一緒に食べ始めたらしく、テーブルの上のパンや果物の減り量が同じくらいだった。
ふと、ユウナはもう二人、座った形跡がある様子を見つけた。
「後の2人は誰?」
「あ、あとの二人は……」
「私よ」
エレキが答える前に、ナダデココフルーツを持ってアクアがやってきた。
「あ。ユウナ」
そして、おにぎり一つとオレンジジュースを持ってきたのはヒロトだった。
「(アクアとヒロトだったのね)」
ヒロトは座って早々、おにぎりを食べ始め、アクアはエレキの隣に座った。
ユウナはバスケットに一杯パンが入っていたので、そこからとって食べることにした。
「ユウナさん。オトハさんは?」
マサトがその質問をすると、ヒロトはおにぎりを詰まらせて蒸せた。
そして、オレンジジュースが入っているコップを片手に、ゴクッと3分の1ぐらいになるまで飲み干した。
「オトハなら寝ているわ。……いつものことだけど」
今日くらい早めに起こそうとユウナは思ったのだけど、彼女の睡眠はかなり深い。
起こすのはかなり骨が折れるのである。
「寝ているといえば、サトシはいつまで寝てるのかしら?」
「ヒロトさん、サトシは?」
「サトシなら、俺が起きた時まだぐっすり寝てたよ。まぁ、俺が起きるのがちょっと早かったせいもあるからな」
オレンジジュースを全て飲み終えると、ヒロトは立ち上がった。
「散歩してくる」
「あ、ヒロトさん!僕もいく!」
ヒロトの後を追うようにマサトも食堂から去って行った。
「そういえば、モトキを知らない?昨日から見当たらないんだけど」
アクアがパンを千切って食べながら、この場で尋ねる。
ユウナとカスミは首をかしげた。
「モトキお兄さんはユウコさんとデートに行きました」
「デート?これからの組織の話をしようと思っていたのに……」
ハナの言葉にアクアはがっくりとする。
TCで動けるのは、今のところ、ケガで動けないテツマとカンナを除くと、年長者はアクアとモトキになる。
だから、少しでも今日、話しておきたいとアクアは思っていた。
「ご……ごちそうさま……」
やや落ち込んだ感じのエレキは、気の抜けた声で言うと、そのまま外へといってしまった。
何かあったらしい。
「私もそろそろやることがあるから行くわ」
と、アクアもエレキの後を追うように食堂を後にした。
この場に残っているのはユウナとカスミとハナだけになった。
ちなみに、トキワグローブ一家(シルバー、イエロー、ジョカ、エース)は自分達の家で。
ファイアとリーフはトキワグローブ邸に泊めてもらっていた。
ミナノとプレスはどこかで野宿しているのだろう。
「やっぱりお茶はシズオカですねぇ」
「ハナ、シズオカってどこのこと?」
「え?シズオカってマッサーラのことですよ」
「だから、それどこよ?」
カスミとハナはハナの飲むお茶で盛り上がっていた。
ユウナはその話を黙って聞きながら、パンを少しずつ千切って食べた。
途中で、コーヒーが飲みたくなり、ブラックコーヒーを持ってきて飲んだ。
お腹が満たされて再びコーヒーをおかわりしたころでだいぶ時間が経ったのだが、それでもまだハナとカスミはお茶について熱く語っていた。
「(どうしようかな?)」
ユウナが3杯目のコーヒーを迷っている時だった。
丁度、白髪の男……ハルキが食堂へと姿を現したのだ。
「あらハルキ、随分遅いわね」
「……ずっと起きてた。外へ行っていただけだ」
「外へ?どこへ行っていたの?」
外から帰ってきたハルキに向かってユウナが尋ねる。
しかし、彼は語らず、そのまま席に座ってパンを頬張り始めた。
「何をしたのって聞いているのよ?」
ユウナは語尾を強めて、ハルキに尋ねる。
「別に」
そっけなく、ハルキはパンをむしゃむしゃと食べ続ける。
「その態度は……何かあったのね?」
「何もない」
「その割には、いつもより、食が進んでいるじゃない?」
「…………」
黙ってハルキは食べ続けるが、ユウナが痺れを切らして、ハルキの腕を引っ張った。
「おい……何するんだ?」
「ちょっと来なさい」
ハルキはユウナに引っ張られ……いや、半ば連れ去られるように食堂を後にした。
「本当ね。このお茶上手いわね」
「そうでしょう?」
カスミとハナはまだ、お茶の話をしていたと言う。
バタンッ!
ドアを勢いよく閉めて、ハルキが逃げないようにとドアの前に仁王立ちになった。
「……あんまり話したくなかったんだがな……」
右手で頭を抑えてヤレヤレとハルキ。
ユウナの目を見て、喋るまで帰す気はないということを悟ったようだった。
「エースがライトのことを突き放した」
「え?どういう意味?」
朝、カレンと一緒に見た出来事をユウナに話した。
しかし、ハルキはあまり説明するのが上手でないらしく、伝えるまでに10分くらい要したとか。
「……ミナノのことを好きになり、ライトのことを突き放した……?」
「ああ」
「……ライトはそれでいいと思ってるの?」
「あいつの気持ちなんて俺には興味ない」
ハルキの問いに、ため息をつく。
「あなたに聞いた私がバカでした」
「これで話は終わりだ。俺は事実を話した」
「とりあえず、話してくれてありがとう」
ドアを開けると、ハルキはそそくさと部屋から出て行った。
「……とりあえず、エースがライトと一緒にいたくないって言うなら、ライトに諦めてもらうしかないわね……。できることならエースも一緒に戻ってもらおうと思っていたけど……」
ハルキに続いて自身も部屋を出た。
今度はゆっくりとドアを閉める。
「(それにしても、オトハはよく目覚めないわね……)」
部屋を出てからふと気付く。
ずっと頭から布団をかぶっていたために彼女の存在を忘れていたのだ。
「それじゃあ、ライトを連れて私達の世界に戻るしかないわね」
一方、先に部屋を出たハルキはロビーで黙り込んでいた。
ミナノの一言を思い出していた。
―――「私にはわかります。エースさんは私を見ていない。ライトさんだけを見ているんです」―――
その後、プレスが来て、一緒にとっとと行ってしまったため、ハルキはその場に取り残された。
「(そんなにライトの事を心配するなら、何故エースはライトから離れようとする?)」
35
「もしかして、落ち込んでいるの?」
トキワシティの郊外に流れる川をずっと座ってたたずんでいたエレキは彼女の声を聞いて振り向いた。
「あ、アクアさん……」
「そんなに離れたくなかったのなら、泣きつけばよかったじゃない。ずっと側にいて欲しいって」
そういわれて、苦笑いをするエレキ。
エレキはSGでエアーと再会したときのことをふと思い出した。
それはエレキがエアーとアクアの戦う場所へ戻って、エアーが気を取り戻した時のことだ。
―――「エレキたん!久しぶりアル!」―――
彼女は心のままにエレキに語りかける。
そんな純真無垢で天真爛漫な彼女にエレキは惹かれていた。
やがて、スティックとハシラとのバトルが終わり、アクアが他のみんなを探しに行ったときのことだった。
―――「私、エレキたんに話したいことがあるアル!」―――
その言葉を聞いてエレキは緊張した。
まさか、エアーからの告白なのでは?と思っていた。
―――「私、エレキたんのことをほっとけない“弟”だと思っていたアル!!」―――
―――「え、えぇ?」―――
ちなみに、エレキとエアーは同い年である。
―――「てっきり、エレキたんのことが好きかと思ったけど、ラグナたんに言われて心の整理をしたアル。そしたら、そういう結論に達したアル!」―――
その言葉に、エレキは何の反論もできなかった。
―――「だから、これからも友達で宜しくアル!」―――
エレキはアクアを見る。
「そ、そんなことできないよ。か、彼女は僕にそんな気はないって言っていたんだから……」
「あら、諦めるの?」
「…………」
エレキはうつむく。
「自分の気持ちを伝えてないんでしょ?未練があるなら、伝えればよかったじゃない」
昨日の夕暮れ時、エアーはエレキに別れを告げてトキワシティを旅立っていった。
エレキは何も言わなかったのである。
「……ううん。こ、答えならわかってるよ」
立ち上がってズボンについた土を払う。
「か、可能性が1%でもあるならと思っていたけどエアーちゃんにその気はないよ」
「ふうん。0%だから、諦めるって言うんだ」
「ぼ、僕はくじけないことにしたんだ。わ、割り切って前へ進もうと思うんだ」
「…………」
「な、何!?」
アクアにじっとつめられて、赤くした。
「出会った頃と比べたら、成長したなって思ったの」
「そ、そうかな?」
「でも、女の子と付き合うことに関してはまだまだね」
「うぅ……」
でも、実際エレキは少し成長したという。
「(前に進むという気持ちがヒロトにもあればいいんだけどね……)」
エレキの姿を見てアクアはふと思った。
36
―――「エースがライトのことを突き放した」―――
まだユウナに起こされたくなくて彼女……オトハは布団をかぶって抵抗を試みたら、聞こえてきたのはハルキの一言だった。
オトハはにわかに信じがたかった。
ハルキにその真実を確かめたかったけれども、聞き出すタイミングがつかめなかった。
もたもたしているうちに、ハルキもユウナも部屋を出て行って結局聞けず仕舞いだった。
このままではいけないと思って、オトハは起きて、身支度を整えて、急いでトキワグローブ邸へと足を運んだ。
中からはシルバーが出てきたので、エースを呼んでもらった。
彼は帰ってきたようで、シルバーが呼んでまもなくして顔を見せてきた。
オトハは迷わずエースの腕を掴んで外へと飛び出した。
そして、エースを近くの森へと連れてきた。
「一体何の用だ?俺はオトハさんに言われる筋合いなんて何もないぞ」
言い方からして、ライトの話のことだと彼もわかっているなと思った。
「何でですか?何でライトさんの傍にいてあげないんですか?」
「それをあなたに説明する必要があるか?」
「説明して欲しいです」
「なら言う。俺はライトよりもミナノのことが好きになった。ただそれだけのことだ」
「待ってください!それなら、あの時どうしてライトさんをハナダシティに残して一人で旅立って行ったのですか!?」
「……それは、6年間付き合って……ライトに愛想が尽きたから……」
「嘘です」
エースが目線を逸らして迷いながら言うのに対して、オトハはしっかりと目を見てはっきりと断言した。
「あなたはライトさんのことを求めていたはずです。一人で居た時もライトさんのことを忘れたことなんてなかったんじゃないですか?」
「……!?」
普段ポーカーフェイスのエースの顔がかすかに狼狽を見せた。
「エースさん。本当はライトさんと一緒に居たいのでしょう?何かワケがあって、こんなことをしているのでしょう?」
「…………」
「エースさん!!ヒロトさんの二の舞にはならないでください!後悔をしないためにも大切な人の傍にいてあげてください!!」
「うるさい!!」
エースが珍しく声を張り上げる。
「エース……さん?」
「そんなこと、お前の知ったことじゃない。大体、俺がそんな風にライトを想っていたなんて、あんたの想像だろ?証拠なんてどこにもない」
「そ、それは……」
やや顔を赤くして戸惑うオトハ。
それに、次に続く言葉が見つからなかった。
「俺は“雑草”みたいにはならない。それに、もうライトとは赤の他人だ」
エースの背中がどんどん遠のいていく。
何かを言わないと思っているのだが、言葉が見つからない。
やがて、彼の背中は森の茂みの中へと消えていった。
「(どうして……?どうしてですか……?)」
ふと、思い出されるのは1年前のこと。
エースは覚えてないだろうけど、オトハははっきりと覚えている。
彼が倒れて、苦しみながらライトと呻いていた事を。
「(せっかく、ライトちゃんに会えたのに……どうして素直になれないんですか……?)」
その場に座り込んで呆然とする。
ライトの気持ちやエースの気持ちを考えると彼女の目からふと、涙が零れ落ちた。
「(そんなの……悲しすぎるじゃないですか……?)」
ただ、彼女は涙した。
「……俺だって……」
しかし、オトハの言葉を思い出すとエースは深く迷っていた。
「一緒にライトと居たい……だけど……」
「♪違う世界の者たちは~結ばれてはいけない~とでも言われた~?」
「……!?」
ふと声がして、後ろを振り向くと、エレキギターを背負ったモトキの姿があった。
しかし、何故か彼は頭に大きなたんこぶと頬に絆創膏が張ってあった。
何かあったのだろうか?
「(こいつ……いつの間に?まったく気配なんて感じられなかった……)」
「♪だいじょ~ぶだよ~!君達は結ばれても何の問題もないよ~。そんなこと言われたら~俺とユウコも~ダメになっちゃうじゃないか~」
「……どういうことだ?俺は確かに“奴”に言われたんだ」
「♪だいじょ~ぶ、だいじょ~ぶ!俺を信じろって~」
軽い口調で言われても、説得力はまるでない。
エースも信じることはできなかった。
「“奴”の言葉はまるで俺を締め付けるような威圧感があった。絶対的な束縛力を持つような強烈な威圧感が……。その言葉に背いたら、ライトの身に何かが起こるんじゃないかという不安が俺を襲ったんだ」
「♪だから~君は~彼女と別れることを選んだの~?」
「…………」
黙り込むエース。
「アハハッ♪」
そのエースをモトキは笑った。
「何がおかしいんだ」
「♪もしそんなことがあっても彼女は~君と一緒に居たいんじゃないかな~?」
「…………」
「♪だけど~最終的に決めるのは~君さ~」
「…………」
モトキの言葉はエースの心を軽くしてくれるような気がした。
普段は信用できない奴だけど、このときばかりは何故かモトキを信用する気になった。
「(自分の心に嘘はつきたくない……)」
ふと、後ろを振り向くエース。
しかし、もうそこにはモトキの姿はなかった。
「モトキ!遅いでヤンス!」
「♪わりィ~わりィ~」
トランの言葉に平謝りする。
口調を聞く限りでは、本当に軽い感じで気持ちがこもっていないように聞こえる。
「モトキお兄さん。大丈夫ですね?」
「♪あぁ~!一応、ユウコに別れを告げてきた~。寂しいけど~」
やはり軽い口調に聞こえるモトキの声。
しかし、今のはちょっと陰りのある声だった。
「……それと、わかっているよな?ハナ」
「ええ」
急に真面目な口調になって聞くと、ハナは頷いた。
「♪それなら~任せたぜぃ~」
「はい。いってらっしゃい、モトキお兄さん、トランちゃん」
モトキの背負ったギターの先端にトランが乗り、モトキは妹に手を振って歩き出そうとする。
「ちょっと待ちなさい」
しかし、一人の女性の声が彼の足を止めた。
「ずっと探していたというのにどこへ行く気なの?これからTCのこの後のことを話さなくちゃいけないのに」
チェックのシャツで青色の髪を持つアクアだ。
「♪アクアさんごめ~ん!俺たちTCを抜けるから後はがんばってねぇ~」
モトキはアクアに向き直るとあっけらかんと言った。
「それはどういうこと!?2人とも、カントー地方を安定させるために力を貸すといったのは嘘だったの!?」
ハナがモトキの顔を見る。
アクアさんに説明をお願いしますとモトキにアイコンタクトしているようだ。
「♪ごめんなさい~。実は俺たちは別の目的のためにTCを利用していたんだ~」
「利用していた!?」
「♪そ~。“この世界”の情報を集めるためさ~」
「情報を集めるため?」
「♪“この世界”に紛れ込んだと思われる“影人”を探すためさ~」
「“影人”?何よそれ?」
「ドッペルゲンガー……みたいなものです」
モトキの代わりにハナが言う。
「ドッペルゲンガーって、自分とそっくりな人で見たら死ぬという……あの?」
「はい。でも、本当に死ぬというわけではないですよ?」
「オイラはその影人を追っているでヤンス。そして、手掛かりを見つけたでヤンス。だから報告に行くでヤンス」
「どこへ?」
「♪アクアさんの知らないところさ~。じゃ~俺は行ってくるよ~」
「ヤンス」
「ちょっと!!」
モトキの腕を掴もうと手を伸ばした。
しかし、掴んだと思ったのだが、次の瞬間にはモトキは消えていた。
一瞬のうちに姿を消したのである。
驚くアクアを尻目にハナは笑顔だった。
「あんたたち……一体何者なの?」
相変わらずハナは、マイペースでお茶を啜っていたという。
第二幕 Dimensions Over Chaos
道に迷う者たち⑥ ―――漂う気持ちたち――― 終わり