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たった一つの行路 №117

/たった一つの行路 №117

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「ふわぁ……。もう朝……?」

 カレンはベッドの上で上体を起こして、両手を挙げてあくびをしていた。
 ポケモンセンターに泊まっていたカレンは自分の部屋を見渡す。
 そこには、相部屋になったカスミの姿がある。
 まだ、カスミはすやすやと眠りについている。
 他の部屋にはオトハ&ユウナやヒロト&サトシ、ハルキ&ラグナなど適当に分けられていた。
 ところが、カレンはあることに気がつく。

「……あれ?ライトはどこへ行ったんだろう?」

 実はカレンはカスミだけではなく、ライトも一緒だった。

「……昨日、殺気立っててライトに話しかけられなかったけど、一体何があったんだろう?」

 カレンは心配になって、着替えて部屋を出た。
 ロビーから玄関へと歩いていく。

「どこか行くのか?」

 すると、ロビーから声をかけられた。

「……あ、ハルキ!早いのね!」
「……ああ」

 無愛想にハルキは、頷く、
 実を言うとハルキは、決して早起きをしたわけではない。
 夜が更けてきた辺りから、相部屋のラグナに気付かれずに部屋を出て、カレンの部屋の一番近くのソファで見張っていたのである。

「ライトなら、少し前にここを出てどこかへ行った。かなり真剣な顔をしていたな」

 ライトがいないことを話すとハルキからそう返ってきた。

「やっぱり、何かあるのかも……。私も行ってみる!」
「それなら俺もついていくぞ」

 二人はポケモンセンターを後にした。



 たった一つの行路 №117



「ねぇ、どこ行ったんだろうね?」
「…………」
「こんな朝早くに何やってんだろうね?」
「…………」
「ねぇ、ハルキ!聞いてる?」

 カレンとハルキはライトを探して走っていた。

「聞いている」
「じゃあ、返事くらいしてよ!」
「…………」
「ハールーキぃ!」

 パコンッ!!っとカレンはハルキの頭に一撃与えた。

「っ!!」

 カレンはハルキの前に立って頬を膨らます。

「私が喋った時くらい返事くらいしてよね!」
「知らないから黙っていただけだ」
「知らないなら、知らないって言えばいいじゃない!」
「…………」
「そこで黙らないでよ!!」

 ムギューッとハルキの頬を引っ張ってハルキに制裁を加える。
 でも、そんなこんなで二人は仲がいい。

「町の中にはいないのかな?」
「いないみたいだな。他に考えられるのは、トキワの森だが?」
「どうだろう? ……でも、一応行ってみよう!」

 2人は北へ向かって走り出した。
 そして、2人が見たのはチルタリスの一撃がブースターを倒して、ミナノがボールを戻すところだった。

「あ……ミナノとバトルしていたのね」
「(エースも一緒だったのか)」
「でも、こんな朝早くに何でかな?ハルキ、行ってみよう」

 カレンがライトに声をかけようとした。

「ライ―――」
「ちょっと待った」

 ハルキがカレンの口を塞いで止めた。

「少し様子がおかしくないか?」
「え?」

 そのままの体勢で、2人はライトたちの様子をうかがった。



「約束ですから、ライトさんにエースと付き合う権利は渡します。だけど、こんな強引なやり方はどうかと思います」
「強引?あんたのやったことに比べたら強引も何もないじゃない!!勝手に割り込んできて!!」

 ミナノの言葉を怒って返すライト。

「どっちにしてもこれで元通りよ!エース」

 ミナノをスルーして、ライトはエースの目の前に立つ。

「みんなと一緒に帰りましょう!」

 ライトはエースの目を見て話す。
 しかし、彼はライトの目を見てはいなかった。
 先ほどから、ずっと目を背けたままだ。

「ライト……俺は……」
「何?」
「お前と一緒にいることはできない」

 ライトは耳を疑った。

「……え? 何て言ったの?」
「俺は、お前と一緒に帰る事はできない。そして、一緒にいることもできない。それに違う世界の人間同士が結ばれてはいけないことなんだ」

 目を瞑ってエースはライトに打ち明けた。

「どうして?どうしてなの?私のことを嫌いになったの!?」
「そうだ。だから、俺は2年前、お前を置いて姿を消したんだ。早く、お前の世界に帰れ。目障りだ」
「……そんな……」
「ちょっと!どういうことよ!!」

 ライトが膝をついてがっくりとしているところへ、カレンがエースに掴みかかった。

「2年間、必死であんたのことを探してきたライトに向かって何でそんな事を言えるの!?」
「事実だ。それに、俺は彼女と一緒になることを決めたんだ」

 エースはミナノに向かってアイコンタクトをした。
 ミナノはコクンと頷いた。
 その行為にカレンは本気で怒った。
 平手を振り上げてエースの頬に殴りつけようとした。
 が、それは止まった。

「ちょ!ハルキ!放して!この女の敵に一撃お見舞いしてあげるんだから!」

 ハルキがカレンの手を掴んで止めたのだ。

「あんた……どういうつもりなんだ?」
「俺はライトよりもミナノのほうが好きになった。それだけだ」
「そうか」

 バキッ!!

「ちょっ!!」

 ハルキは思いっきり、グーでエースの頬を殴り飛ばした。
 エースは地面に転がった。
 その行動にカレンは驚いていた。

「あんたは最低だ。1人の女を守るどころか、裏切った上に別の女に心を移す……男の風上にも置けない」
「ハルキ……」
「…………」

 エースは殴り返そうとせず、ハルキを見上げていた。

「ライト……大丈夫?」

 そっと、ライトに話しかけるカレン。

「嘘よね?」

 ライトは目からポロポロ涙をこぼす。

「……ねぇ、エース……嘘だって言ってよ。今まで言ったことは全部嘘なんでしょ?」

 エースは立ち上がってズボンについた泥を払った。

「……ミナノ」
「え、なんですか…………!!…………」

 エースがミナノに近づいたと思うと、いきなりミナノを抱き寄せて唇を奪った。
 突然のことに、エース以外の誰もが呆気に取られていた。
 そう、キスをされたミナノさえも。

「これがその証明だ」
「そ…ん…な…」

 ここまでこられると、ライトはもうこの場から立ち去るしかなかった。

「ライト!!」

 カレンは走り出したライトを追いかけていった。
 トキワの森の方角だ。

「あんた、本当にどういうつもりだ?」

 ハルキは明らかに怒りを含んだ口調でエースに言う。
 こんなに怒るハルキも珍しかった。

「…………」

 しかし、エースは何も語らない。
 そして、歩いてトキワシティへと戻ってしまった。

「エース……」

 ミナノはエースに唇を奪われて、恍惚としていた。
 しかし、それも数秒間経った後には彼女の顔は曇らせてしまった。

「(本当に……これでよかったのかな?)」
「あんた、何か知っているのか?」
「え?な、何も知らないですよ? な、何も知らないんだからね!! キャッ!」

 ズデンっとミナノは大げさにこけてみせる。

「(絶対何か隠しているな)」

 ハルキはミナノを見てふとそう思ったらしい。



「グスンッ……エース……」

 ライトは泣いていた。
 エースの酷い言葉、行動はライトを深く傷つけていた。
 2年もの間、彼を想い続け、捜し求めた彼女にとってこれは残酷な仕打ちだった。
 エースがいた場所から離れて、ここに至るまでにモトキとユウコがいちゃついているシーンを目撃した。
 自分がこんな酷い目にあっているのに、こんな人知れずイチャイチャしているなんて……と思い、ライトはモトキの頭をサッカーボールの如く蹴りつけた。
 本当はもっと酷い目にあわせるつもりだっただが、カレンに抑えられて、できずじまいだった。
 それから、再び、悲しくなってモトキたちがいたところから立ち去って一人で泣いていた。

「……ライト……」

 エースがライトを振った時から、カレンはライトを追いかけていた。
 朝早く起きたカレンは、同室だったライトがいないことに気がついた。
 何かあったのかなと思い、ロビーにいたハルキと一緒にライトを捜しに行った。
 そして、目撃したのがエースがライトを振るシーンだった。
 エースがライトを振った理由というものがカレンとハルキを怒らせるものだった。
 エースをハルキに任せて、カレンは傷ついたライトを追ってきたのだが、どう声をかけていいかわからなかった。

「ねぇ……カレン……」

 涙声でライトは尋ねる。
 呼ばれて恐る恐るカレンは近づいた。

「私……エースのことが好きなんだよ?……でも、エースは私のことが嫌いみたい……。どうしてなの?」

 顔を上げてポロポロ涙をこぼすライト。
 カレンはその顔を見るのが心苦しくなり、目を逸らす。

「2年前まであんなに私のことを好きだって言ってくれたんだよ?どうして?ねぇ……どうしてこうなっちゃったの!?」
「ライト……落ち着いてよ」

 カレンの両肩をがっしりと掴んで、ライトが揺らす。

「この2年の間……エースに何があったの!?ねぇ……教えて……」
「…………」

 カレンもライトもそのまま黙ってしまった。
 まるで時間が止まったようだった。
 風の音とライトの零れ落ちる涙以外は……。



 1時間ほど経った。
 しかし、ライトはまだ落ち込んだままだった。

「ライト……みんなのところへ戻ろう?」
「…………」
「ライトなら、素敵な彼氏がまた出来るって!……ね?」

 どれだけ元気付けようとも、ライトは明るくなることはない。

「……とりあえず、戻るわよ!!」

 痺れを切らして、カレンはライトの手を引いて強引に歩き出した。
 ライトはそれにつられて歩くが、まるでのれんのようにふらふらとしていた。

「(本当に……エースはどういうつもりなの!?)」

 次に会ったら、今度こそ一発殴ってやろうと思ったカレンだった。



 第二幕 Dimensions Over Chaos
 道に迷う者たち⑤ ―――再会のための契り――― 終わり


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Last-modified: 2015-04-29 (水) 13:01:11
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