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たった一つの行路 №116

/たった一つの行路 №116

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 昨日のバーベキューパーティから一夜開けた。

「エース!!」

 ライトは意を決して、トキワグローブ邸にエースを尋ねに行った。
 しかし、中から出てきたのはイエローだった。

「ライトちゃん?エースなら、外へ呼び出されていったわよ」
「誰に?」
「そこまでは教えてくれなかったよ」

 ライトは駆け出した。
 とても嫌な予感がした。
 それは、エースが最初の発端となった謎の3人組……ジョカたちに攫われたのと同じように。

「エースッ!!!!」

 そんな予感とは裏腹に、エースを簡単に見つけることができた。
 だけど、そこには予想外の展開があった。

「……あんたは!?」

 エースの傍らにいたのは、ジョカと仲良しの女の子のミナノだった。
 あろうことか、ミナノはエースの腕にぴったりと引っ付いていた。

「エース……これ……どういうことよ?」
「見てわからないのですか?」

 エースの代わりに話すのはミナノ。

「エースが私の告白を受けてくれたんですよ?」
「嘘よ!!」
「嘘じゃないわ」
「エースは私だけを愛しているもの!」
「それは、昔の話でしょう?今は私を愛してくれているのです」
「…………」
「そこまで言うのでしたら、ポケモンバトルで相手をしてあげます。勝った方がエースさんと付き合えることにしましょう」
「いいわよ!」
「…………」
「エースもそれでいいですよね?」

 エースは先ほどから黙っているが、ミナノの問いに頷いた。

「勝負は決まっているでしょうけど」
「以前に戦ったようには行かないわよ!!」

 ライトは、そういってボールを構えたのだった。



 たった一つの行路 №116



 ライトは自分を愛する人を奪った年下の少女を睨んでいた。

「始めましょう。ポケモンバトルを」

 その少女、ミナノはボールを手にとって、そう言った。
 昨日、ライトがバトルを仕掛けようとしたのだが、ミナノは「明日の朝にしましょう」と言った。
 「こんな夜更けにやる意味がないでしょう」と。
 ライトは反対したのだが、エースの仲裁が入って、ミナノの意見が通ってしまった。
 勿論ライトはショックだった。
 自分を擁護せずに、ミナノの味方をしたことが、ライトにとって精神的ダメージを与えていた。
 しかし、それがミナノに対する激しい対抗心を生み出したのである。
 エースも勝負の行方を見守るためにこの場所にいる。

「…………」

 彼は複雑な表情でライトとミナノを見ていた。

「行くわよ!」
「どうぞ、来て下さい」

 ライトがゴルダックを繰り出して、『水の波動』を繰り出す。
 それを見て、ミナノがヘラクロスを繰り出して、角で攻撃を弾き飛ばしてしまった。

「飛ばすわよ!!『ハイドロポンプ』!!」
「そんなの当たらなければ意味はないです」

 言葉通り、ミナノとヘラクロスは回避する。
 そして、メガホーンが襲い掛かる。

「それは、あんたとて同じことよ!!」

 右へと回避して、ヘラクロスとの間合いを取る。
 その隙を狙ってハイドロポンプを放つが、横に倒れるようにしてヘラクロスは攻撃を回避する。

「これならどうです?」
「!!」

 ミナノはもう一つボールを持っていた。
 そこから突然何かが飛び出してきた。

 ズドンッ!!

 激しい衝撃音がこだまする。

「どうやらこれが、前に戦った時に受けた不意打ちの正体だったようね!!」
「!!」

 ライトに向かってきた攻撃は、ライトが新たに出したポケモン……プクリンが攻撃を防御した。

「まるでこれは『アクアジェット』で飛び出して、『とんぼがえり』で帰ってくる合成技みたいね」
「……まさか!!……気付かれるとは思いませんでしたよ」

 プクリンはサメハダーを一発殴りつけて、地面に転がした。

「ゴルダック!『クロスチョップ』!!」

 飛び掛って、サメハダーに襲い掛かる。

「甘いです!」

 ミナノは間一髪でサメハダーを戻し、ゴルダックを狙ってヘラクロスにメガホーンを指示する。
 しかし、プクリンがヘラクロスをマークしていて実行できない。

「(まさか、サメハダーの『ジェットブーメラン』に気付かれるなんて……。前に私が戦った時よりも強くなっているみたいかな?)」

 ミナノは心の中でそう思っていた。

「ゴルダック!!『ウォータースラッシュ』!!」

 両手に水を纏う。

「そこから、『クロスチョップ』!!」
「(……!?その場で!?)」

 モーションを見てミナノは驚く。
 全く接近をせずに、その場でクロスチョップを放ったのである。
 しかし、ミスではない。
 手に纏った水が×を形作ったまま、ヘラクロスに跳んできた。

「!?」

 攻撃を受けて、ヘラクロスは吹っ飛ぶ。

「どう?必殺『クロスショット』よ!」
「やりますね……だけど、そのくらいじゃまだヘラクロスは倒れません」

 ヘラクロスは角に力を溜めて、一気に放出した。
 破壊光線のような威力だが、形状は波動弾とも似ている。

「……プクリン!!」

 光の壁を張って防御をするが、そのヘラクロスの一撃は壁越しでもプクリンやゴルダックを吹っ飛ばした。
 それほどの威力なのである。

「くっ!それなら……」

 ライトは、一度プクリンとゴルダックを回収する。
 そして、変わりに相棒であるバシャーモを繰り出した。

「一気に行くわよ!!」
「同じことです。『ヘッドホーン』!!」

 先ほどの威力のあるエネルギーを放つヘラクロス。

「当たらなければいいだけのことよ!!」

 シュンッ!

「え!?」

 ミナノの視界からバシャーモが消えた。

 ズドンッ!!

 そして、ミナノの前にバシャーモが現した時には、ヘラクロスが倒れた後だった。

「くっ、やりましたね……!!」

 直後に、左右に持っているボールをかざして、新たなポケモンたちを繰り出す。

「(両方とも同じ技!?)」

 瞬間的に出てきて、繰り出した技は両方ともアクアジェット。

「くっ!」

 バシャーモに攻撃が当たらないようにボールへと戻すが、自分自身は片方のアクアジェットにかすった。
 技の勢いでライトは吹き飛ばされる。
 一方、アクアジェットを放ったポケモンたちは、1匹はミナノの持つ右手のボールに帰っていったが、もう一方は空へと留まった。

「……ムクホークがアクアジェットを!?」
「そんなに驚くことじゃありませんよ」
「…………」

 以前にも、あるポケモンが覚えなさそうな技を使ってきたトレーナーがいた。
 しかし、それでもやはり突然のことに驚いていた。

「ムクホーク!やってください!」

 急降下でライトに襲い掛かる。

「ならこれでどう!?」

 ズッガキーンッ!

 ライトの出したあるポケモンは、ムクホークの攻撃を軽く弾き飛ばしてしまった。

「トリデプスの『メタルバースト』ですね?」
「そうよ!『ラスターカノン』!!」

 ムクホークは飛び上がって、距離をとる。
 トリデプスは攻撃を放てども、空を飛ぶ相手には当たらない。
 旋回してかわされてしまう。

「これでどうです!?『アクアジェット』!!」

 体に水を纏って体当たりを仕掛ける。

「『鉄壁』!!」

 ガギンッ!!

「……(弾かれた!?)」

 鉄壁でさらに防御能力を上げたトリデプスの前にダメージはまるでなかった。

「(それなら……)」

 ミナノが手を挙げると猛スピードで上空へと上がっていった。

「これで沈めてあげます!」

 先ほどのように急降下でトリデプスへと接近する。

「これは!?」

 しかし、ライトは気付く。
 先ほどの攻撃とはまったく違うということを。

「(『ブレイブバード』に『インファイト』……さらに『アクアジェット』を加えた複合技!?) 」

 本当の捨て身の技であり、いくらトリデプスといえども、この攻撃を耐え切る自信はライトになかった。
 しかし……

「『メタルバースト』!!」

 あえて、カウンター技で勝負を仕掛けた。

「倒してあげましょう」
「簡単には倒れないわよ」
「!?」

 ムクホークがぶつかる直前、トリデプスの前に透明の壁が姿を現して、ダメージを軽減させていた。
 その壁は破れるものの、威力は半分ほどまで落ちて、トリデプスに伝わった。
 そして、煌くシルバーのエネルギーが放出して、ムクホークを倒してしまった。

「さ、サメハダー!」

 急襲のアクアジェット。
 リフレクターを張るために繰り出したプクリンがサメハダーをそのままがっしりと掴んだ。

「サメハダー!そこから『ギガインパクト』です」

 でも、サメハダーは動かなかった。
 いや、動けなかったのである。
 ライトはにやりと笑い、ミナノははっとした。

「そのまま『10万ボルト』!!」

 プクリン自身から放出される電撃は、完璧にサメハダーを捉えた。
 だが、打たれ弱いはずのサメハダーはダウンしなかった。

「!?」
「その程度の電撃じゃ倒れません。暴れなさい!!」

 目がハートだったサメハダーが理性を失い、プクリンを打っ飛ばした。
 
「くっ!プクリン!『リフレクター』!」
「そんなの意味ないです」

 全てを食い尽くす鮫。
 プクリンの壁をも食いつくし、プクリンにタックルをかまし、あっという間にダウンさせてしまった。
 そして、それはライトにも襲い掛かる。

「まずいっ!『メタルバースト』!!」

 最強の攻撃と最硬の防御が激突。
 メタルバーストが発動し、サメハダーは与えた分のダメージが返って来た。
 サメハダーを倒したものの、トリデプスもダウンしてしまった。
 先ほどのムクホークの攻撃をプクリンのリフレクターで半減させたといえ、トリデプスは相当なダメージを負っていた様だった。

「チルタリス!」

 竜の波動を放つがミナノはポケモンを出して、攻撃を弾いた。
 ミナノが繰り出したポケモンはサイドン。
 角を回転させて、攻撃をぶち抜いたようだ。

「それなら『冷凍ビーム』!!」
「効かないわよ」

 先ほどと同様に攻撃の軌道を見ると、角ドリルで攻撃を弾いてしまった。

「『ドラゴンダイブ』です」
「『鋼の翼』!」

 飛びついてきたサイドンを硬くした翼で当てる。
 しかし、正直に正面から攻撃したわけではない。
 体重の差では、チルタリスでは勝てないとわかっているため、飛びついてきたサイドンを避けるように攻撃を当てて後退したのだ。

「これでどう!?『フェニックスウェーブ』!!」

 チルタリス実質最強の技。
 不死鳥を形成した波動を打ち出すこの技は、素晴らしい色で相手を巻き込んで倒す。

「残念ながら、私のサイドンにその技は通用しませんよ」

 角ドリルを発動しながら、サイドンは自らを回転し、チルタリス最強の攻撃をかき消してしまった。

「でも……これならどう!?」
「!!」

 ゴルダックのハイドロポンプがサイドンに命中する。

「……なるほど……チルタリスの先ほどの攻撃は、ゴルダックの攻撃を当てるための布石だったわけですね」
「……!!」

 攻撃は確かに当たっていた。
 だけど、サイドンは倒れてはいなかった。

「(一撃で倒れないなんて!!)」
「サイドン!」

 攻撃が効かない自信があるのか、サイドンはゴルダックに近づいてパンチを繰り出す。
 それを見てライトは焦る。

「とりあえず、かわして!」
「無駄ですよ」

 右、左と2回のパンチをかわすが、3回目にサイドンの拳が入り、ゴルダックは打っ飛ばされ、木にぶつけられる。

「『捨て身タックル』!」
「くっ!避けて!」

 ドスッ!ドスッ!っと大きな足音を立てて接近するサイドン。
 巨体にもかかわらず、そのスピードはなかなか速い。
 だけど、ゴルダックは何とか気を取り戻して、その場を回避した。
 サイドンは、ゴルダックがもたれていた木に激突した。
 その木はいとも簡単に折れてしまった。
 当たっていたら、確実に一撃でダウンしていただろう。

「(もう一度、水攻撃を……)ゴルダック!『水遊び』!!」

 水を振りまいて、空中に湿気を満たす。
 水遊びは炎系の技をを弱める効果があるのだが、相手は炎系ではない。

「その程度の水で倒せると思っているのですか?」
「そこよ!『サイコキネシス』!」

 空中に散布された水が超能力で凝縮されて、幾つもの水玉がサイドンの周りを囲った。

「……! (水遊びはこのための布石!?)」
「『マジカルウォーター』!!」

 サイドンの周りを回転しながら、幾つもの水玉がサイドンに襲い掛かる。

「決まりね!」
「そう簡単にはいきません」
「え?」

 サイドンを隠すほどの大量の水玉は全てサイドンに命中したはずだった。

「そんな……!?」

 ところがその水玉は蒸発していった。
 その要因となっていたのは、サイドンの身体から発せられる灼熱をほこる熱だった。

「『火炎車』です。水遊びで威力は軽減していますけど」
「(炎系の技まで!?) ゴルダック!最大パワーで『ハイドロポンプ』!!」

 しかし、サイドンは角ドリルでハイドロポンプを弾きながら接近する。

「これでどう!?」

 今度は氷系の技『吹雪』を繰り出す。

「残念だけど、効かないわよ」

 今度は角ドリルと熱気を組み合わせて、冷気の風を防ぎきった。

「(くっ……水攻撃が効かないワケではないのね。でも、全て角や熱気で防がれている。……!! そうだ!) ゴルダック!!最大パワーで『ハイドロポンプ』!!」
「(ヤケを起こしたのかな?)」

 勿論それを角ドリルで防ごうとする。
 サイドンは完全に軌道を見切って、角で弾いているから、攻撃が効かないのである。

「これでどう!?『サイコキネシス』!!」

 ハイドロポンプとサイコキネシスの同時発動。
 しかし、サイコキネシスの対象はサイドンではない。
 一つの力を発動しながら、同時にもう一方の技を最大限の力で発動するのは容易ではない。
 やはりそのゴルダックの発動したサイコキネシスの威力はやはり通常より弱かった。
 だけど、それだけで十分だった。

「!?」

 サイドンにハイドロポンプが命中した。

「(まさか、サイコキネシスでハイドロポンプの軌道を曲げるなんて!)」
「追撃よ!『ウォータースラッシュ・ショット』!!」

 『水の波動』をスピードアップさせたような水の攻撃を怯んだサイドンに命中させて、ようやく倒すことができた。

「……残り2匹……まさかここまで強くなっているとは思いませんでした」

 ミナノが本当に予想外と言う顔をした。

「この一ヶ月間……あんたに勝つことだけを考えていたって言っても過言じゃないんだからね!!」

 ライトはミナノを指差して、そのセリフを言った。
 エースは腕を組んで2人のバトルを見ていた。

「(このままだと……ライトが勝つ?)」

 エースは複雑な顔でこのバトルを見守る。

「だけど、最後に勝つのはこの私です。あなたではありません」

 ミナノは腰につけてあるボールに手をかけて投げる。
 だが……

「あれっ!?」

 ボールの中からブースターが出てきた。

「ま、間違えた!手が滑ってブースターを出しちゃった!」
「……? これはチャンスなの?」

 ミナノは時たまこういったドジをするらしい。

「(まあいいわ)ゴルダック!『ハイドロポンプ』!!」

 先ほどサイドンを押しのけた強力な攻撃がブースターに襲い掛かる。

「かかりましたね」
「え!?」

 ブースターの前に一匹のポケモンが登場して、ゴルダックの攻撃を反射してしまった。
 そのポケモンの名はソーナンス。
 技は言うまでもなくミラーコートだ。
 足を踏ん張って全力で攻撃を放っていたゴルダックは避けることができず、その攻撃でダウンしてしまった。

「危なかったです。もう少しでブースターに致命傷を与えるところでした」
「(……? 前もそうだったけど、この子はわざとドジッ娘を演出しているの?それとも、計算尽くしなの?)」

 ライトはミナノという人物がちょっとわからなかった。
 ミナノは一見真面目そうな女の子である。
 だが、何もないところでこけたり、転んだり、壁にぶつかったり、手を滑らせてボールを落としたり、とかなりドジな面がある。
 しかし、偶然かそうでないのかわからないのだが、約70%の確率でそれが幸運を導いたり、相手の油断を誘ったりするのである。
 また、普通の口調は丁寧なのに、頭の中で考えているのはかなりタメ口っぽい。
 それがよく現れるのは、プレスとの会話やドジッた時の口調で、その時は素になるらしい。

「(こちらは後3匹か……とりあえず、ソーナンスを倒さないと!) ヤミラミ!!」

 ミナノはソーナンスを戻して、ブースターで勝負をする気だ。

「『影撃ち』!!」
「『火炎車』です」

 両者激突。
 しかし、ダメージを負ったのはヤミラミだけだった。

「炎の密度が濃い!?」
「私のブースターは切り札です。このブースターでラミのライコウも倒したんですよ?」

 ジョカ率いる“レフトアーム”とアル率いる“ライトアーム”が激突した時、ジョカとガン、プレスとアルは戦っていた。
 しかし、その中で行われていたもう一つのバトルが、ミナノとラミだった。
 ラミも伝説のポケモンのライコウを手持ちに持ち、ライトアームとしてガン以上の実力を持っていた。
 だが、ミナノはそのラミを最後の一匹の差で打ち負かしたのである。

「それなら、『シャドーボール』!!」
「『火炎放射』です!!」

 そして、ミナノの言うとおりブースターは最強の切り札だった。

「ヤミラミ!?」

 ヤミラミでは全く歯が立たず、ダウンしてしまった。

「くっ!バシャーモ!!」
「……チェンジです!」

 ライトのポケモンを見て、ミナノはソーナンスを繰り出してきた。

「これで、あなたのバシャーモは逃げられません。そして、攻撃もできません」
「そんなこと言ったら、決着つかないわよ」

 ソーナンスの特性は『影踏み』だからバシャーモをボールに戻すことはできない。
 そして、基本的にソーナンスは攻撃をしなければ、ダメージを受けることがない。
 何せ、覚えている技が『カウンター』と『ミラーコート』だけなのだから。
 それを考えると、ライトの言うことは正しい。
 バシャーモが攻撃しなければ、ソーナンスは何もできないのだから。

「残念ですが、私のソーナンスはこんなことも出来るんです」

 ミナノが指示を出すと、ソーナンスはバシャーモへと走っていった。

「何をする気?」

 ライトはとりあえず、ソーナンスの様子をうかがった。
 バシャーモに攻撃を加えると思いきや、走り去っていき、ソーナンスは木に頭突きした。

「……自滅なの?」
「さあ、始まりです」

 ソーナンスが光ったと思うと、跳んでくるようにバシャーモに襲い掛かった。

「え?」

 しかし、とりあえずバシャーモは自身の判断でかわした。
 だが、その次にまたソーナンスは木にぶつかって、跳ね返ってきた。
 跳ね返る速度も上げて。

「まさか……!?」
「その通りです。この技はソーナンスのカウンターを利用した必殺技『チャージングホッパー』です。跳ね返るたびに威力が上がる技です」

 説明している間にも、3回、4回、5回……とどんどん速度と威力を増していく。

「つまり、頭突きで自分に返ってくるダメージエネルギーをカウンターして威力と速度を増していると言うわけね。何て厄介な技を……」
「これでバシャーモは倒したも同然です」
「でも、弱点があるじゃない!」

 ズドンッ!!

 バシャーモに攻撃が命中した。
 一撃で決まった。
 ……はずだったが……

「『こらえる』。これを使えば、確実に止めることができるわ」

 バシャーモが両手でソーナンスを掴んで攻撃を止めた。
 そして、同時にバシャーモの特性『猛火』が発動した。

「『起死回生』なら無駄です。その程度の攻撃で私のソーナンスは―――」
「そんな甘い攻撃なんて出さないわよッ!!バシャーモ!!『オーバードライブ』!!!!」

 ソーナンスはカウンターの動作に入った。
 だけどカウンターが決まるのはソーナンスが攻撃を耐えた時のみ。
 そして、ライトの言うように、この攻撃は耐えるなんて甘い考えを捨てさせるものだった。

 ズドンッ―――――――――――――――――――――――――――!!!!

 全火力と全闘気を集中させたこの技はあらゆるものも破壊する強力な技。
 爆発を生じさせ、地形を軽く変形させ、クレーターまで作るこの技は、ブラストバーンやオーバーヒートなどとは全く比にならない。
 そのクレーターの真ん中で、ソーナンスは目を回して倒れていた。

「あと、そのブースターだけね!」

 ソーナンスがやられたのを確認する前に、ミナノはすでにブースターは出していた。

「『起死回生』と『オーバーヒート』を合わせた技といったところでしょう。恐るべき破壊力みたいですね」

 ズドンッ!!

 バシャーモとブースターが激突した。
 両者の電光石火だ。

「だけど、私のブースターには敵いません」
「……!?」

 ブースターの体内温度が上昇する。
 そして、逆にバシャーモの炎が弱まっていった。

「(炎(ちから)を吸収している!?) くっ!『起死回生』!!」
「回避です!」

 当たれば一撃で倒せるだけの威力を持ちながら、無情にもその攻撃は当たらない。

「私のブースターの力……『吸炎』。相手の炎の力を奪うことができます」
「(それで、バシャーモの力が失われたってワケね)」
「とどめです!『ブラスト』!!」

 ブースターは体全体から炎を吹き出した。
 そして、炎はブースターを中心に球が大きくなるように広がっていった。

「くっ!バシャーモ!」

 懇親の一撃を叩き込もうとブースターに接近した。
 確かにその攻撃は当たった。
 だが、威力は半分程度しか伝わらず、その後バシャーモは吹き飛ばされた。
 ライトは地面にしゃがんで吹き飛ばされないようにしていた。
 エースはいつの間にかバンギラスを繰り出して、その後ろに隠れていた。
 威力はまるで先ほどのバシャーモの『オーバードライブ』を見ているようだった。

「くっ……バシャーモまでやられるなんて……」

 そして、ライトは最後の一匹……チルタリスを繰り出した。

「決着をつけましょう。これで勝った方がエースさんと付き合うことになるのです」
「負けられないわ!ここで負けたら、何のためにここまでやってきたのかわからないじゃない!」

 ミナノはブースターに『火炎車』をライトはチルタリスに『竜の波動』を指示。
 しかし、ブースターの炎はチルタリスの攻撃を全く通さない。
 冷凍ビームにしてみても同様だった。
 やがて、ライトは一つの行動を取るしかなかった。

「もう、これしか手はないわね」

 チルタリスは接近してくるブースターを放っといて、地面に降り立った。

「一気に決めてください!『捨て身タックル』です!!」

 全力のタックルがチルタリスに向かって跳んできた。
 それをチルタリスは避けずに受け止めようとする。
 だけど、ブースターの力はチルタリスを圧倒し、そのままの勢いで木にぶつけた。
 しかし、ライトはにやりと笑った。

「これだけ接近すればどう?避けられないでしょ?」
「え……?まさか……!!」

 チルタリスは歌った。
 相手を眠らせるこの力は、相手のスピードやレベル、そして距離によって命中率はかなり変動する。
 レベルはともかくスピードと距離は条件を満たすことができた。
 何せ、ブースターはチルタリスの羽毛の翼に包められて、そこで眠りを誘う歌を聴いているのだから。
 そして、チルタリスは飛び上がって、ブースターをたたきつけた。

「これで終わりよ!!『フェニックスウェーブ』!!」

 不死鳥の波動を解き放ち、ブースターへと命中した。
 ブースターは眠りながら、体力を全て減らされた。

「っ……!! ……私の……負けですか」

 ミナノはブースターを戻してそうポツリと呟いたのだった。 



 第二幕 Dimensions Over Chaos
 道に迷う者たち④ ―――ライトvsミナノ――― 終わり


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Last-modified: 2015-04-29 (水) 13:00:42
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