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たった一つの行路 №113

/たった一つの行路 №113

 ―――SGのアジトの入り口。

 そこには3人の玄関を守る者がいたのだが、ユウコが全員を倒してしまった。(といいつつもほどんとはトランが倒した)
 さらにその場所では、ユウナとアルの激しい戦いが繰り広げられていたのだが……

「……くっ……」

 アグノムとアルがその場に倒れていた。
 強力な一撃を受けたようでアグノムのほうは凄まじい傷を負っていた。
 そして、ユウナの姿はどこにも無かった。

「……まさか……あの女……あんな力を隠していたとは……」

 この時点で、リュウヤがアウトを退け、ライトがSGの諸悪の根源のサキを倒し、ブラックことエースの父親のシルバーを助け出していた。
 そして、その三人のヘッドを除いて最強と謳われていたのが彼……アルだった。

「SGは……もう……終わりだな……」

 ユウナとの戦いで傷ついた腕を抑えながら、小さな声で呟いてアルは立ち去ったのだった。
 そして、彼の行方を知るものは誰もいなかった。



 たった一つの行路 №113



 26

 やがて、諸悪の根源とされるサキは捕まり、警察に連行されていった。
 他のSGのメンバーも希少のポケモン……伝説のポケモンを捕まえた罪で捕まっていった。
 『希少ポケモン保護法』がポケモン協会の会長によって改正されたと言われていたが、ポケモン協会側の調査により、何者かが会長を拘束して、会長に成りすましていたことが判明した。
 しかし、その会長に成りすました奴はまだ捕まってはいない。
 警察の事情聴取を全て引き受けたのは、TCの年長者で一番信用のあるアクアだった。
 そして、他のSGへ潜入したメンバーのライトやエース、及びヒロトたちは、近くの街……トキワシティへ向かっていた。
 だが……

「…………」
「…………」

 ライトはエースの後ろを歩き、『ただの友達だ』といわれたことにショックを受けて……

「…………」
「…………」

 エレキは戦いが終わった後にすぐにエアーに会ったのだが、何かあったらしく黙り込んでいた。
 その様子を受けてか、エアーも黙っていた。

「……くっ……」
「…………」

 その後方を歩いていたファイアとシルバーもそれぞれ、何かを考えていたようだった。

「……何でこんなに空気が重いんだ?」
「そんなこと……私に聞かないでよ……」

 SGとTCの戦争が決着し、全てが丸く収まったと思われていたが、各々の行動がまた新たな悩みの種を増やしてしまっていた。
 そんな心配が全く増えなかったのは、最後尾を歩いていたヒロトとユウナだった。
 右足をケガをしていたユウナはヒロトに肩を貸してもらって歩いていた。

「それにしても、あなただけじゃなく、ラグナまでこっちに来ていたとはね」
「ああ……。俺もユウナがこっちにいるとは思わなかった。そして、ライトとバンダナを会わせるために一仕事していたとはな……」

 ヒロトはまだユウナに何のためにここに来たのかを話してはいない。
 ちなみにヒロトとユウナが鉢合わせしたのは、ユウナがアルとの勝負を終えて、SGに潜入してすぐのことだった。
 方向音痴であるヒロトは、アメ&ラナとの戦いが終わった後、迷いに迷って入り口付近に逆戻りしてしまったのである。
 戦いが終わって、ヒロトは真っ先にリュウヤを探していたのだが、彼を発見することはできなかった。

「(あいつ……一体どこに消えたんだ……?)」
「……あなたにも会わせたい人がいるのよ」
「……ん?」

 ユウナがポツリと言ったのを聞き、彼女の顔を見る。

「……俺を……? ……誰に?」
「……それが……今どこにいるかわからないのよね」

 ヤレヤレとユウナは渋い顔で言った。



 アクアは警察の事情聴取を受けるとともに一つだけエースに頼まれたことがあった。
 それは、ジョカとプレス及びミナノの説明だ。
 彼らは何も知らずに計画に加われてしまった被害者であるということを警察に説明してくれ……と。
 恐らく、何とかなるだろう。
 ちなみに、モトキとユウコはどこに行ったかわからなかった。



「着いたな。トキワシティ」

 シルバーが言うとエースが前に出てきた。

「ここが……父さんの生まれた街……」
「ああ……。だが、実のことを言うと俺も子供の時にここで過ごしたという記憶がない。小さい時にいろいろあったからな」
「いろいろ……?」

 エースはシルバーの顔を覗く。

「それはまた今度話してやる。とりあえず、うちへ行くぞ」

 エースは頷いて、シルバーの後についていく。
 どうしようかと戸惑うライトとファイアたちもシルバーに促されて、足を進める。

「俺たちも、行くか?」
「そうね」

 ヒロトとユウナも彼らに従ってついていくことにした。



 トキワグローブの家に着いた時、彼らを待っていたのは、とても意外な人物達だった。
 その一人を見たとき、シルバーは足を止めた。

「……父さん?」

 エースは首をかしげて、シルバーと同じ方向を見る。そして、彼自身も少しの間、息をするのを忘れた。
 他の全員が何があったかわからないでいた。
 しかし、2人だけ、その状況を飲み込めた人物がいた。

「「イエローさん!?」」

 ユウナとライトは彼らの目線の先に、イエローがいたことに気付いた。
 そして、イエローはシルバーの奥さん。
 さらに、エースはシルバーとイエローの……

「イエロー!」
「あなた……」

 シルバーは走り出して彼女を抱きしめる。

「すまない……」

 そう、シルバーは一言だけ言う。

「もう……どこにも行かないでください……。レッドさんみたいにいなくなるなんてことにはならないでください……」

 ああ……とシルバーは頷く。
 エレキは恥ずかしそうにその様子を見て、エアーは能天気にはしゃいでいた。

「母さん……? あんたが俺の母親なのか?」

 エースが一歩踏み出して、イエローに問いかける。
 しかし、自分自身、その質問が無意味なことはわかっていた。
 夢でも見た姿と似ていたし、妹だと言うジョカとも雰囲気は同質なものだった。
 だけど、エースにはある言葉が欲しかった。
 自分がイエローの子供であるという確証が……。

「……こんなに大きくなって……」

 ふと、エースを抱きしめるイエロー。
 イエローとエース……身長は無論エースのほうが高い。
 だから、抱きしめるとなるとどうしてもイエローがエースの胸に顔を押し付ける感じになってしまう。

「(……俺は……この温もりを知っている……)」

 十数年も前に感じた母親の温もりを思い出した。
 それは遥か記憶の彼方に忘れ去られ、奥に埋められたはずの記憶。
 だけど、それが彼の欲しかった確証になった。
 言葉なんて、無くても、もう平気だった。

「母さん……やっと……会えたんだ……」

 エースはほろりと涙をこぼす。

「うん……やっと会えたんだよ……」

 つられてイエローも涙を流す。
 シルバーも涙こそさえ見せなかったが彼らと同じ気持ちになっていたことは間違いない。

「(……エース)」

 一方のライトはとても複雑な気持ちだった。

「あれ?ユウナさん!!ライトさん!!それにヒロトさんまで!?」
「あ!?エースさんがいた!!」

 そんな感動ムードもいずれ終わりが来る。
 ピカチュウがトキワグローブ家から飛び出してくるとともに、その家にいつの間にか住み着いていたカレンとサトシが出てきた。

「カレンとサトシ……!?」
「あなたたち……トキワシティにいたの!?」

 ライトとユウナは驚く。

「あとのマサトとカスミはどこへ行ったんだ?」
「ユウコさんとハルキもまだ見つからないし……」

 カレンとサトシは落ち込むが、

「マサトとカスミならハナダシティに」
「ハルキならTCにいるわよ」

 ユウナとライトが教えると、2人は明るくなった。

「あ……それより……オトハを知らない?」

 ヒロトから離れて、カレンにひそひそと話すユウナ。
 しかし、その問いは無意味だった。

「あ!ユウナさん!無事だったんですね?」

 当のオトハが姿を現した。
 そして、辺りを見回しているうちにオトハは彼の姿をも確認することになった。

「(……ヒロト……さん?)」
「(オトハ……さん……?)」

 ふと、2人の間に奇妙な空気が流れていた。

「ユウナ……もしかして、俺に会わせたいといっていたのは……」
「答えるまでも無いでしょ?」

 と、背中をユウナは叩いたのだった。



 27

 エースたちがトキワシティに着いて早くも3日の時の流れた。
 その2日前にアクアとジョカが、そして、プレスとミナノが警察の事情聴取から帰ってきた。
 どうやら、ジョカたちは無事釈放になったらしい。
 前日にはハナダシティからファイアの恋人のリーフとずっとハナダシティで待機していたマサトとカスミがトキワシティへやってきた。
 そして、この日にはTCの本部にいたハルキ、ラグナ、ハナがトキワシティへやってきた。
 そのときラグナはとても気分悪そうにしていた。
 それはハルキのボーマンダの後ろに乗っていたからだというのは言うまでもない。

 現在、その夜。
 トキワシティのトキワグローブ邸では全員が揃ったということでバーベキューパーティが催されていた。

「あちぃ!」
「コラ!サトシ!急いで食べたら火傷するじゃない!」
「ラグナさん!それまだ生です!」
「……ぐわっ!リーフ!てめぇ、それを早く言いやがれ!!」
「ハルキ……どう?おいしい?」
「ああ……」
「キャッ!ごめんなさい!イエローさん」
「ミナノがこけてイエローさんの服にタレがついた!!!!」
「プレス!そんなに大きな声で言わなくていいんじゃないかな!?」
「大丈夫ですよ、ミナノちゃん。洗えば落ちるんだし」

 サトシは急いで食べてカスミに注意されていた。
 ラグナはまだ生のままの肉を食べてリーフに注意されて、カレンとハルキは仲良く食べている。
 また、ちょっとしたハプニングも起きた。
 ミナノが転んで、持っていたタレをイエローの服にかかってしまった。
 ミナノは謝って、イエローに許してもらっていた。

「♪こ~いつはサイコ~だな」
「そうね~♪」
「材料を刺し終えた!……って、ユウコさん!?いつの間にここに着たんですか!?」
「モトキお兄さん、それも焼けてますよ」
「♪お~!ハナ、サンキュ~」

 マサトがバーベキューの材料を乗っけようとしたとき、いつの間にかユウコとモトキがバーべキューを仲良く食っているのを発見した。
 ハナはモトキがずっと前からいたような口調で話していた。

「あれ?全員揃ってないアルよ?」
「ほ、本当だ……」

 エアーに言われて、エレキは辺りを見回して気付いた。

「どうしたんだろう……?」

 エレキに言われて、料理の手伝いをしていたリーフも辺りを見回す。

「……ファイア……?」



 リーフの心配をよそに、ファイアはトキワグローブ邸のリビングにあるソファで横になっていた。
 考え事をするように彼はボーっと天井を見ていた。

「ファイア……あなた、食べに行かないの?」

 後ろから上から声をかけられたと思うと、そこにはユウナの顔があった。

「今……はしゃぐ気分じゃないんだ」
「……よほど昼間の話が堪えたのね」
「……!? どうしてユウナが知ってるんだ?」
「ごめんね。盗み聞きしちゃった。でも一つだけ言わせて。事実を受け止めないことには前には進めない。かつての私もそうだった。あなたもそれを認めないといけないわよ?」

 ユウナはそう言い残して、外へ出て行った。

「事実を受け止めないことには……前へ進めないか……」

 この日の昼のこと。
 ファイアはシルバーに話を聞きに行った。

―――「一体、13年前に何があったんですか!?何で俺の父さんは死んじゃったんだ!?」―――
―――「13年前……」―――

 その場にはシルバーだけではなく、イエローとその子供たち、エースとジョカも同席していた。
 他のヒロトやライトたちは外へ出ていたようで、ユウナを除いてこの話を聞いていた者はいない。


 イエローはレッド先輩のことが好きだった。
 しかし、先輩はイエローではなく、当時ハナダジムのジムリーダーだったカスミを選んだ。
 イエローはそれを自分のこととして喜んだけど、ショックだったんだ。
 そんなイエローを俺は見てられなかった。
 同じトキワシティという共通点が俺らにはあり、トキワシティへ来る口実に俺は度々イエローと会っていた。
 やがて、俺とイエローは結ばれて、俺たちの間にエースが生まれた。
 エースが生まれたことで俺たちはさらに幸せになると思っていた。


―――「…………」―――
―――「……一体どうしてこんなことになったんだ?」―――

 エースは黙って聞いていたが、ファイアは尋ねずにはいられなかった。
 シルバーは「落ち着け」とファイアを宥めて、続きを話し始めた。


 だが、ある時、俺たちの前からエースが姿を消した。
 まだ0才でハイハイができるようになったぐらいだから、そんなに遠くまで行かないだろうと思っていた。
 でも、近くを捜したが見つからなかった。
 仕方がなく、誘拐の線で当時SGのリーダーだったレッド先輩にも協力してもらってエースを捜すことにした。
 2年間かけて捜したんだが、それでも見つからなかった。


―――「俺が誘拐された……?」―――

 エースが確認するように言った。

―――「誘拐かどうだったかはわからない。突然お前が姿を消したんだ」―――
―――「…………」―――
―――「何が原因かはわからない……だけど、何らかの影響で別の世界へ飛ばされたんだ」―――


 エースを失ったイエローを俺はとてもじゃないけど、放っておけなかった。
 仕事を中途半端にしてイエローといる時間が占めるようになっていた。
 その悲しみからだんだん薄らいできた頃に、俺たちの2人目の子供、ジョカが生まれた。


―――「……ボクが?」―――

 今までずっと黙っていたジョカがキョトンと父親の顔を見る。


 しかし、ジョカが生まれて1年も経たない頃だった。
 レッド先輩の前にサキが姿を現したのは。


―――「……サキ。ライトが倒したあいつか」―――
―――「そうだ」―――


 レッド先輩は奴と戦おうとした。
 そして、レッド先輩と協力しようと俺とイエローはイエローのおじさんにジョカと留守番を頼んで、出かけていった。
 そのことが、俺たちの運命を激しく変えるものだとは知らなかった。


―――「まさか……そのときが……」―――

 ファイアの問いにシルバーが黙って頷く。


 レッド先輩のピンチに駆けつけた俺とイエローだったけど、イエローは交戦中に不思議な空間に飲み込まれて、消息を絶った。
 しかも、サキにはアウトという協力者がいて、レッド先輩は奴にやられてしまった。
 さらに、俺はサキに操られて“ブラック”として洗脳されてしまった。
 それから、13年もの間、SGはサキの奴に占領されてしまい、時は流れた……。


―――「あの時、俺はだれも守ることができなかった。レッド先輩もイエローも……。すまない……。君のお父さん……レッド先輩を死なせてしまって……」―――

 ファイアは謝るシルバーの顔を思い出す。
 父親の真相を知った今、ファイアはどうするべきなのかと、思う。
 けど、何も彼には思い浮かばなかった。
 ぶつけようが無いこの想いを漂わせているだけ。
 どうしようもない、仕様が無い虚しさを持て余すだけだった。
 アウトの奴に復讐したいとも思えない。
 かといって、何かしなくてはいけないと思っていた。

「ファイア……」

 1人の少女がリビングに入ってきた。

「リーフ?」

 彼女がソファの近くまで来た。

「隣……座っていい?」
「ああ、もちろん」

 リーフが腰掛けるけど、しばらくは何も喋らなかった。

「ジョカちゃんから聞いたよ」

 10分経ったところでリーフのほうから口を開いた。

「……アウトって人に復讐しようと思っている?」
「…………」
「……私、ファイアには復讐をして欲しくない……」
「……勝てなかった」
「……え?」
「……アウトって奴、強いんだ。戦ったけど、あいつの言うに父さんと同じところで負けたんだ」
「…………」
「でも、もし、もう一度あいつに会ったとしても、俺は復讐のためには戦わない」
「え?」
「……俺は父親を超えるために戦いたい」
「それでこそファイアよ!」

 にっこり微笑むリーフ。

「ありがとうな。励ましてくれて」
「ううん。そんなたいしたことしてないわよ。それよりも、バーベキューパーティへ行きましょう?」

 リーフに手を引っ張られて、ファイアは外へと飛び出していったのだった。



 第二幕 Dimensions Over Chaos
 道に迷う者たち① ―――13年目の真相――― 終わり


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Last-modified: 2015-04-29 (水) 12:45:47
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