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たった一つの行路 №112

/たった一つの行路 №112

 タタタタタッ…………

 二人の走る音が石造りの回廊に響く。
 ユウナに殿(しんがり)を任せたエースとファイアは最上階へと向かってひたすら先へ進んでいた。

「…………」
「…………」

 エース、ファイアともに無言だった。
 お互いのことを知らないためか、共通点がないためかわからないが、とにかく二人は喋らなかった。

「エース」
「……?」

 大体最上階まで半分を過ぎた時、ファイアは言った。

「トップは3人いるんだ。さすがに2人だけじゃ……」
「いや、トップは実質2人だ」
「……え?」
「トップのうち1人が俺の父さんだからな」
「え……!?どういうことだ!?」

 ファイアは足を止めた。

「説明しろよ!」
「……行くぞ」

 しかし、エースは止まろうともしないし、説明しようともせず、ただ上へ上へと突き進む。
 そんなエースに不信感を持ちつつも、ファイアは再び走り出す。

「俺は妹が言っていた全ての元凶を倒す。お前はもう1人のトップを倒せ」
「…………ああ」

 丁度、2人は分かれ道に差し掛かった。

「この最上階に俺の戦うべき相手が……そして、奥にお前の戦うべき相手がいる」
「そうだな。エース……負けんなよ」
「それはこっちのセリフだ」

 2人は分かれて走り出す。
 そして、同タイミングに扉を開けてその敵に向かって言い放った。



 たった一つの行路 №112



「…………」

 目の前にいる2人の人物を前にしてエースは睨んでいた。
 1人は仮面を被った赤に近い茶色の髪でマントを羽織っていた。まるでどこかの王子のようなカッコイイ服だった。
 もう1人は白いシーツのようなものを被って幽霊みたいなカッコをしていた。

「……ブラック……ヤレ」

 ブラックと呼ばれた赤っぽい髪の仮面の男が命令されて前に出た。

「はい……ホワイト様」

 命令に従事し、ブラックと呼ばれた男はドンカラスとキングドラを繰り出す。
 エースも対抗するためにクロバットとハクリューを出した。
 その間、ホワイトと呼ばれる奴は姿を隠そうとした。

「待てよ。逃げんなよ。どこに隠れているんだ?“本物のボス”は」

 ブラックと戦いながらも、エースは逃げるホワイトに向かって言い放った。

「本物ノぼすダト?何ノコトカナ?」
「とぼけるな。ユウナから全ては聞いている。ホワイトとブラックというのは仮の名前であることも、そして、このSGの実権を全て把握している本当の黒幕のこともな」
「…………」
「どこに隠れている?元ロケット団の機密部隊の三獣士サキ」
“フフフンフン……ばれては仕方がありませんね”

 部屋のスピーカーから女の声が聞こえてきた。

“だけど、あなたが知ったところで何も変わることはないのですよ。君はここで消えるのですからね”
「悪いが、ここで消えるつもりはない。俺は“この人”を連れてここを出る」

 目の前の男を見ながらエースはそういっていた。

“君に勝てるかな?その男に……何故ならそいつは…………!? だ、誰だ!?”
「……?」

 ズドーンッ!!

 放送が途切れたと思ったとき、隣の壁が爆発した。
 爆発に巻き込まれてホワイトが巻き込まれた。
 しかし、その正体は機械でできたロボットみたいなものだった。
 代わりに壊れた壁から女……サキの姿が現れたのである。
 そして、壁の向こうからこっちの部屋に誰かが入ってきた。

「(……ファイアか……?いや、ファイアはもっと遠くで戦っているはず……。じゃあ、誰が……?)」

 その人物は言った。

「一体、ヒロトもエレキもどこに行ったのよ!」

 帽子を被ったランニング姿でスパッツの少女。
 そして、ぷんぷんと頬を膨らましている少女は、あのライトだった。

「ここにもいないじゃない……ヒロトもエレキも……」

 そう、ヒロトもエレキも見つからなかった。
 しかし、ライトの目には1人の男の姿が映った。

「っ!!」

 最も会いたかった人。それが彼女のすぐ目の前にいた。

「エース……?エースでしょ!?」
「…………ライト?」

 内心では驚いていたが、顔には出さないエース。
 そんなエースに近寄り抱きつくライト。

「もう……絶対放さない……」
「ライト、ちょっと待て……」

 いきなり女の子に抱きつかれば大抵、慌てふためくもの。エースも例外ではなかった。
 2年ぶりということも有り、それにこの突拍子もない偶然が重なっていたためもあり、当然といえば当然である。

「エース……帰ろう……。私達の世界に」
「ライト……話を聞け」

 エースはライトを強引に引き離した。

「とりあえず、やらなきゃいけないことがある。話はそれからだ」
「うん!で、何をやればいいの?」

 エースは前を見た。
 今、ハクリューたちがブラックのポケモンに押されながらも善戦していた。

「俺はブラックと呼ばれている父さんを助けないといけない。そのためにはあのサキという女を倒さないといけない」
「……エースのお父様!?」

 驚いてライトは言う。

「俺は今、その父さんと戦っている。だから……」
「私はあのサキという女を倒せばいいのね?」

 丁度ライトが見ると、サキが起き上がってきたところだった。

「私の計画の邪魔はさせない……。ここまでSGを乗っ取るまでどれだけかかったと思っているの?これからだというときに……邪魔はさせない!!」

 その先の前に、ライトが立ち上がった。

「何を言っているのよ!悪いことは必ず暴かれる……これは当然のことなのよ!エースの代わりに私があんたを倒すわ!」
「やれるものならやってみなさい!エンテイ!フリーザー!」

 こうして、エースとライトの戦いは始まった。



 23

 しかし、誰が予想したことだろうか?
 サキよりも強さではるかに行く人物がいることを……。

「エン!?シャワ!?ぐっ……」

 倒れるファイアのポケモンたち。
 ファイアの目の前にいるのは、マフラーで口元を覆い隠した男……アウトだった。

「なかなか強いよ、少年。筋もいい。私のストライクを倒しただけでも十分賞賛に値するな」
「何を!カイ!『アイアンテール』」

 カイという名のニックネームのカイリューを繰り出し、アウトに向かって攻撃する。
 しかし、2つのハサミを持つハッサムに受け止められてしまった。

「『ドラゴンクロー』!」
「『メタルクロー』」

 ズドンッ!!

 パワーは全くの五分だった。

「しかし、君はよく似ている。13年前に俺が葬った男と……」
「……13年前?……俺が葬った男?」
「熱い魂を持ち、どんなに不利な状況でも覆そうとする闘志。彼を見ているようだ」
「……まさか……」

 ファイアは一つの事件のことが頭に浮かんだ。
 そう、13年前の事件のこと。

「押し切れ」

 カイリューの力をも押し切り、ハッサムのタックルでカイリューが吹っ飛ばされた。

「止めだ。『サイレントブレード』」

 音もなく斬りつけられたカイリューはドスンと地に伏せた。

「っ!! ニョロ!!」

 ニョロトノのハイドロポンプを発射。
 しかし、ハッサムは避けてニョロトノに接近戦を挑む。

「あ~いたいた!確かニョロボンにニョロってニックネームをつけていたな」
「……!!」
「確か名前は……」
「……レッドだな?」

 ファイアがポツリと言った。

「そう、そんな名前だったな!でも何で少年が知ってんだ?」
「そうか……。そうか……」

 ファイアは拳を握り締めた。

「……お前が……お前が父さんを殺したのか!!」

 怒りの表情をあらわにしてアウトを睨みつけて叫ぶ。

「……ふーん。なるほど、その息子だったってワケか。こっちも納得したよ」
「…………」
「……大丈夫。君まで消そうなんて思わないからさー」
「ニョロ!」

 ハイドロポンプがハッサムを捉えて、一撃で倒した。

「何……?」
「死んだ父さんは戻っては来ない。だけど、一つはっきりしたことがある」
「ほう……?」
「お前を倒せば、俺は父さんを超えたということになるって言うことだ!」
「正論だな。少年」

 今度はヘラクロスが出てきてメガホーンで突進してきた。
 ニョロトノは何とか回避するが、それでも相当のダメージを負ってしまった。

「かすってもいないのに!?」
「次で終わりさ」

 もう一回メガホーンで突進してくる。
 今度は避けずにハイドロポンプで真っ向勝負。
 しかし、空気を切り裂き、ダメージを与えるこのメガホーンは、水をも切り裂く。
 よって、ハイドロポンプをもろともせずに突っ込んでくる。
 攻撃はニョロトノを貫いた。

「ほう……『影分身』か」
「(バレてる!?)」

 すでにアウトもヘラクロス自身もニョロトノが影分身の真上に跳んでいる事を察知していた。 

「『地球投げ』!」
「突っ込め!」

 空中でのしかかる攻撃を決めて、確かにダメージは与えた。
 しかし、その後のさらに空中でヘラクロスがニョロトノを捉えて地面へと投げつけて地球投げを完璧に決めて見せた。

「ライ!『ツバメ返し』!!」

 グライオンのツバメ返し。
 ヘラクロスはかわそうとしたが、麻痺をして動けなかった。
 先ほどのニョロトノの攻撃は飛び上がって攻撃する『跳びはねる』。
 その攻撃で麻痺したのだった。

 ズドン!

 一撃が入って、ヘラクロスは吹っ飛ばされたが、辛うじて体力を残していた。
 とどめの一撃を入れようと、グライオンは接近した。

「ヘラクロス、『インファイト』!!」

 特性の『根性』を発動した状況でのこの一撃は、グライオンでも耐えられるものではなかった。
 しかし、むざむざやられたわけではない。
 グライオンもしっかりとツバメ返しを決めて、相打ちに持っていった。

「……少年。後一匹じゃないのか?」
「くっ……」

 圧倒的不利だ。ファイアは心からそう思った。
 しかしアウトは淡々とアーマルドを繰り出してきた。

「だけど、負けるわけには行かない!!グレイ!」

 透き通るような氷色のポケモン。
 また、イーブイ進化形の中でも1,2の神秘的な雰囲気を醸し出すグレイシアだ。

「『氷のつぶて』!!」
「『シザークロス』!!」

 目に映らない速度で打ち出される高速のつぶては、アーマルドも簡単に対抗できるものではなかった。

「連続で打ち出せ!」
「掻き分けて前に出ろ!」

 しかし、アウトの指示がなかなか実行できないアーマルド。

「(ここに来て、ポケモンのパワーが上がったか?相当やるじゃないか)アーマルド!」

 つぶてを爪で弾きながら、アーマルドは呼吸を吸い込み、そして、水鉄砲を吐き出した。

「……!! (この威力、ハイドロポンプクラスはあるぞ!?)」

 連続でつぶてを発射しているグレイシアに向かって吐き出す水流は、あれだけシザークロスで弾くのが大変だったつぶてをいとも簡単に止められてしまう。
 しかも押し返して一気にグレイシアへ命中した。

「む?今度は影分身じゃない!?確かに手応えはあったからな」

 実際にグレイシアがいた場所には誰もいなかった。

「身代わりか……」
「グレイ!最大パワーで『吹雪』!!」

 アウトとアーマルドはグレイシアの行方を捜した。
 しかし、左右を見ても後ろを見ても、まして上を見てもグレイシアは見つかることはなかった。
 そのとき、グレイシアがアーマルドの足元からぴょこっと顔を出した。
 そこから、凍りつかせる吹雪を至近距離で吐き出した。

「……!! 下から!?」

 この意表を突く攻撃にアウトも対抗が出来ずに驚くばかりだった。
 凍りつかされ、グレイシアのアイアンテールをとどめに食らってダウンした。
 そして、次の不意打ちが来ないうちにファイアの元へと戻り、次のポケモンとのバトルに備えた。

「後残り2匹だな」
「やるなー少年」

 アウトが軽い口調で言う。

「君の強さは父親譲りのようだな。大体ここまでは君の父親も戦えたんだよ」
「どういう意味だ?」
「つまり次のポケモンで終わりということだよ」

 ボンッ!

 ボールの中から、一匹のトンボポケモンが出てくる。
 その名もメガヤンマ。ヤンヤンマの進化系だが、その能力は桁違いに強いと言ってもいい。

「やれ!」

 ファイアの視界からメガヤンマが消えた。

「!!」

 そして、見つけるまで1秒。
 しかし、その一秒でグレイシアに攻撃を与えるのは十分だった。

「しまった!グレイ!」

 切り裂く攻撃を受けたものの、何とか持ち直して迎撃に入ろうとする。
 だが、グレイシアとファイアを撹乱しながら、メガヤンマは常に移動し続けて攻撃を加えてくる。
 こちらの攻撃は当てられず、あちらの攻撃はヒット&アウェイで徐々に体力を削られる。

「くっ。グレイ!『アイスウインド』!!」

 グレイシア自身に氷の風を張ることにより、相手の攻撃のダメージを減らし、さらに相手を攻撃する攻防一体の技。
 メガヤンマが一度接近して、グレイシアにダメージを与えた時、メガヤンマの羽が少々鈍った。

「止まれ!」
「(そこだ!)『冷凍ビーム』!!」

 アウトが攻撃を中止した瞬間を狙って攻撃する。
 絶妙のタイミングだ。
 しかし、目を光らせてメガヤンマは回避する。

「(『見切り』か!?)ならもう一発!」
「そうはさせないよ。『シグナルビーム』!」

 同時発射のビーム攻撃。
 基本的に威力は冷凍ビームの方が上だ。
 だが、シグナルビームが徐々に押し返し、グレイシアの手元で爆発した。

「うわっ!!」

 近くにいたファイアも巻き込まれてグレイシアと一緒に地面に転げた。

「(くっ……『アイスウインド』を使っていなかったら、今のでやられてた……)」
「今ので倒れなかったか……。じゃあ、次は今の3倍の力で撃つぞ」
「なっ!?今の3倍だと?」
「やれ」

 集束して放つシグナルビーム。
 アウトの言うとおり、先ほどの3倍のエネルギーがその攻撃に含まれていることが、ビームの大きさを見ればわかる。

「うおぉ!!『氷のつぶて』!最大連射!」

 一番速く撃てるこの技をすぐに指示して撃つ。
 しかし、このシグナルビームは先ほどのアーマルドの水鉄砲の威力よりも高い。
 その水鉄砲にさえ負けてしまった氷のつぶてではシグナルビームを防ぐことは出来なかった。

 ズドンッ!!

「ぐぅ……」

 強大な爆発が生じて、ファイアとグレイシアは吹っ飛ばされて地面に倒れた。

「く……」
「ほう……まだ動けるか」

 ファイアとグレイシアを見てかすかに息があると悟る。

「気が変わったな……。やっぱり、父親と一緒のところへ送ってやるか。メガヤンマ」

 頷いて、先ほどと同等の威力のシグナルビームをチャージした。

「さらば、少年」

 アウトが手を下ろし、シグナルビームが発射されようとした。

 ゴォッ―――――――――!!

 しかし、攻撃は放たれることはなかった。
 炎による攻撃でメガヤンマの攻撃は中断されてしまった。

「……『火炎放射』か。それも相当のレベルだな……」

 その攻撃の方向を見たとき、ドラゴンのタトゥの男がいた。
 そして、傍らにはボーマンダが睨みつけるようにアウトを見ていた。

「リュウヤ・フィラデムか……。やっぱり、タクスじゃ時間稼ぎくらいにしかならなかったか…………」
「…………」

 無言でファイアに近づき、状態を確かめる。

「お…まえ…は?」
「意識はあるみたいだな」

 自分が何者か答えず、リュウヤはアウトに向き直る。

「何故お前がここにいる?その理由を教えてもらう」
「ふっ」

 ふと、アウトが手を挙げると、メガヤンマがリュウヤの後ろに回りこんだ。

「……!」
「それを私が易々と教えるとでも思ったか?」

 切り裂く攻撃。

「そうだろうと思った」

 ボーマンダがドラゴンクローで攻撃を弾き飛ばす。

「一度君と戦ってみたかったんだ。ずっとザンクスやスティーブとかが相手をしてたからな」
「俺は、望んで戦おうとしているわけじゃない。一刻も早く自分の大切なものを取り返したいだけだ」

 メガヤンマのシグナルビームをボーマンダの火炎放射が相殺する。

「やるね。なら、これでどうだ?今の3倍の『シグナルビーム』!」

 先ほど、ファイアたちを瀕死までに追い込んだ攻撃を再び放とうとする。

「ボーマンダ、『竜の咆哮』!」

 ズゴンッ!!

 破壊光線級の……いや、それ以上のエネルギーの衝突が生じた。

「さぁ、教えてもらうぞ。何でこの世界にいるのか?」
「まあいいだろう」

 ダメージを負ったメガヤンマを戻して、アウトは語りだした。

「実は面白い事が判明したのさ。この世界にいる『トキワの力』を持つ人間は“アイツ”の封印を解く鍵になると」
「何だと……?(トキワの力……?)」

 キーワードが何のことだかわからなかったが、“アイツ”という言葉を聞いてリュウヤは表情を青ざめた。

「正確には、『トキワの力』が封印を解くのに手っ取り早い方法だという事だ」
「じゃあ、お前らが今までやってきたことは何なんだ!?」
「“アイツ”の封印を解く条件は『1000エナジー』と『6人の特定の生贄』の2つ。今でやってきたことは、その両方の事だ。そして、1000エナジーは他の世界の生き物の生命エネルギーから抽出してきた。その代償は世界の生き物にとってそれぞれだけどな。石化したり、光になって消えたり……世界によってもたらす影響は違うらしい」
「そのために、お前達は俺の友達を……」
「まー君にいい事を教えてやる。エナジーの方は後一回くらいで集まる。そして、生贄の方も残りの2人は見つけたも同然だからな」
「何!?」
「ケーシィ」

 ふと、アウトは一匹のケーシィを繰り出した。
 そして、その手には不思議な模様の石を持っていた。

「……それではリュウヤ・フィラデム……次合うときは、“アイツ”が復活した時かな?」
「(ケーシィにカオスニウムを持たせている!?)逃すかっ!!」

 アウトとケーシィがテレポートで逃げる瞬間、リュウヤはアウトの足を掴んだ。

「……リュウヤとあいつが消えた……?」

 すると、2人はファイアの目の前から消えてしまった。



 24

「クロバット。『グランドクロス』」

 クロスしたエアーカッターが赤いギャラドスに命中して倒れる。

「目を覚ましてくれ」

 近寄ったエースはブラックと呼ばれる男の仮面を剥ぎ取った。
 彼の顔は目つきこそ悪いが、精悍な男の顔つきだった。

「あんたなんだろ?俺の父親は」

 仮面の力を失って、気を失う父親をエースは揺さぶる。
 その時、ガシッとエースの右手を掴んだ。

「……っ……」
「父さん?」
「……お前は……?」
「俺はエースだ……」
「まさか……!本当にエースなのか?」

 体の力がぐったりと抜けていて、起き上がることができず、仰向けの体勢から自分の顔を覗き込んでいるエースの顔をじっと見る。

「そうか……。ジョカが連れてきたのか……」

 しかし、彼の顔は嬉しい半面、少し不安があった。
 そして、彼はハッと思い出した。

「……サキは!?」

 ロケット団の機密部隊の三獣士の肩書きを持っていたサキはそう簡単に倒せない。
 そう、彼は思っていた。

「大丈夫」

 エースが指を差すと、ライトがサキと戦っていた。
 そして……

「ゴルダック!チルタリス!」

 ハイドロポンプと竜の波動。
 しかし、威力はモトキに修行をつけてもらう前とは比べ物にならないくらい増していた。

「そ…ん…な…こんな……小娘に…負ける…なんて…」

 ドサッ!

 サキのポケモンであるスターミーやペルシアン、そして、切り札であったフリーザーとエンテイを倒し、ライトは勝利した。

「ちょっとギリギリだったわね」

 ライトが言うのも、ゴルダックとチルタリス以外に残っていたのはバシャーモだけだったからだ。
 しかし、それでも3匹やられただけなので相当ライトの実力は上がっていた。

「エース!!」

 サキとの戦いを終えてエースに飛びつこうと考えていたけど、エースの父親の存在に気付いて、その気持ちを抑えた。

「大丈夫ですか?お父様?」
「……その娘は?」
「私の名前はライトです。エースのかの――― 「ただの友達です」

 ライトの言葉を遮って、エースが言う。

「え……?」

 ライトはその言葉に耳を疑う。

「父さん……これで終わったんだな?」
「……ああ」
「……?」

 やや長い間があったのが気になるが、エースは自分の肩を貸して父親を立ち上がらせた。

「父さん、帰ろう。俺たちの本来住む場所へ……トキワシティへ……」
「そうだな」

 2人は歩き出す。
 ライトはそんな2人を見えてなかった。

「(エースにとって、私は……ただの友達……?)」

 ライトは目の前が真っ暗になった。
 エースを助ける為にここまで来たのに。
 今まで必死にしてきた事はなんなのだろうと……。



 25

「♪トラン~どうだった!?」

 相変わらず、エレキギターを手にシャカシャカと鳴らしながら、トランに話し掛けるモトキ。
 しかし、彼が今いる場所は、SGの本拠地のど真ん中……では断じてない。
 SG本部の近くにある山の頂上だった。

「どうやらほぼ全てのバトルが終わったでヤンスよ!」
「♪それで~?」
「でも、ターゲットはいなかったでヤンス」
「♪そうか~」

 トランに報告を受けて、モトキはギターを鳴らすのを止めて、ギターをケースに閉まった。

「ここにいると思ったでヤンスけどねぇ……」
「そ~だな~」

 やや、トーンを落としてトランの言葉に相槌を打つ。

「でも、“時空間侵入者”はいたでヤンスよ?」
「♪トラン~それは、俺たちもだろ~」
「オイラたちは、置いといてでヤンス!!」
「♪それに~あのライトやヒロト、リュウヤもだろ~?」
「他にいたでヤンスよ!」
「…………え?そ~なのか?」

 少しモトキは驚いたよう。

「もしかしたら、その連中を調べれば、何か掴めるかもしれないでヤンスよ!?」
「…………」

 エレキギターを背負ってから、手を組んでちょっと思考に浸る。

「じゃあ、とりあえず引き続きハナに頼んで、俺たちは姉ちゃんに報告にいこ~ぜ」
「でヤンスね」

 モトキはこの場を後にしようとした。

「ダーリン!待ってよ」

 が、ユウコの声で引き戻された。

「♪だけど~ユウコが気になるからい~や」

 と言い、光の速さでユウコに駆け寄るモトキ。

「ちょっとでもモトキがまともになったと思ったオイラがバカだったでヤンス!!」
「私を置いてくなんて酷いよぉ!」
「♪これも、俺とハニーの試練の一つなのさぁ~」
「つまり……これでまた一つ……私たちは絆を深めたという事なのね!?」
「♪そ~さ!」
「……見てられないでヤンス」

 トランがそう言ったセリフの真意は、ユウコとモトキが今、熱いキスをしているからではない。
 バカバカしいモトキのセリフとそれに反応しているユウコに呆れているからである。

「ユウコー!モトキー!そろそろ行くでヤンスよ!」

 トランは彼らを促して、山を降りさせたそうだ。



 第二幕 Dimensions Over Chaos
 進撃のサーティーンカード⑥ ―――決着――― 終わり



 注釈
 ポケスペの設定ですが、書いていた時期の都合により大体25巻くらいの内容までからの未来設定になっています。


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Last-modified: 2015-04-26 (日) 12:01:45
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