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たった一つの行路 №110

/たった一つの行路 №110

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「……なるほどね」

 一通り状況を聞いたユウナは頷いた。

「要するにあなたは父を助けるためにエースを誘拐したと言うのね」
「誘拐じゃなくて、連れて来たって言って欲しいんだよ!」
「エース。あなたはどうしたいの?自分の弟のために力を貸してあげるの?」

 さっきからずっとエースは黙り込んでいた。しかし、やっと口を開く。

「俺は……ここに来るまでずっと何者かがわからなかった。“トキワの力”という不思議な力が使えて戸惑っていたし、なんで親が俺を捨てたのかと疑問に思っていた。……でもその考えは違った」

 エースはジョカを見る。ジョカはうんうんと頷いている。

「俺もジョカと同じ考えで、父を助けたい」
「それじゃあ、父を助けた後はどうするの?この世界に残って家族と一緒に暮らすの?」
「それは……」
「ライトはどうする気なの?」

 エースはユウナから顔を背けた。

「ある男に言われた。『世界を隔てて結ばれることはいけないことだと。もしそうなったら、過酷な試練が待っている』と……」
「…………」
「いけないことだから、ライトのことは諦めようと思う」
「あなたのライトを想う気持ちは、その程度だったの?」
「…………」

 エースは答えなかった。ただ、黙り込んでいた。

「……呆れた。私、あなたがそんな人だとは思わなかった。ヒロトやハルキ……トキオでさえどんなことがあっても相手を想う気持ちを諦めたりはしないのに、その程度の障害であなたは諦めるなんてね」
「…………」
「ライトは今でもあなたのことを想っていると言うのに……。2年もの間、1人であなたを探し続けたのよ?」
「…………」

 なお黙り込んでいるエースを見て、ユウナはため息をついた。

「まあいいわ。とりあえず、あなたがライトを諦めるかどうかは、ライトに会ってからよ」
「俺は――― 「「もうライトに会わない」なんて言わせないわよ。何の言葉も無しにライトと別れるなんて私が絶対に許さない」

 ユウナはエースを睨みながら言った。

「私はあなたとライトを会わせなくちゃいけないの。それが今回の私の仕事だから」

 エースから視線を外して、今度はジョカのほうを向いた。

「あなたたちと父親に会わせるのを協力してあげる。目的は同じSGでしょうから」
「え……?」

 ユウナの言葉にジョカやプレス、ミナノは意表を突かれたように驚く。

「何で、あなたたちがSGに……?」
「ちょっとワケありでね」

 そういって、ユウナはファイアの顔を見た。
 ずっと彼は本部のあるほうを見ていた。
 表情はずっと険しかった。

「とりあえず行きましょうか」

 何故かユウナが指揮を取ることにみんな異論はなかった。
 エースも考えながら足を動かし始めた。

「おっと!!ここは通さないぜ!!」
「!!」

 バンッ!! バンッ!!

 銃声の音が2発響いた。
 ユウナは落ち着いて後ろに飛び退き、銃弾をかわした。
 その銃弾は地面に当たると電気を帯びて破裂した。

「おーおーよくかわしたな!俺の『エレクトリック・リボルバー』をよ!」

 6連式リボルバーを持った大柄の男が肩にパチリスを乗っけて上空から降り立った。

「ガン!!」

 ファイアがふと彼の名前を呼ぶ。

「ファイアか!遊びに来たのか?それとも……」
「ガン……余計な話は無用だ」
「そうよ!ガン!」

 ストッ、ストッ……と、ビキニのように露出の多い服装をしている女のラムとオーラと冷静さを醸し出す美少年のアルが順に空から降りてきた。

「“レフトアーム”には処分命令が出されている。同じ仲間だと思っていたが、消えてもらうしかない」
「そゆこと!」
「侵入者も同じことだとよ!ファイア!」

 そうして、攻撃態勢に入るアル、ラム、ガン。

「お姉さんの名前はユウナって言ったよね?」
「え?」

 ふと、ジョカが尋ねてきた。

「あの3人はボクたち3人が抑えるよ!だから、お兄ちゃんを連れて3人で先に行ってほしいんだよ」
「……大丈夫なの?」
「ジョカ……」

 エースも心配するが、ジョカはにっこりと頷いた。

「わかった」

 ファイアとエース、そしてユウナは先の道へ進んで行った。

「それとユウナさん。ボクはお兄ちゃんの弟なんかじゃないんだよ?」
「え?どういうこと……?」

 ジョカたち3人を置いて、先へと進むユウナ、ファイア、エース。

「ジョカは弟じゃない。妹だ」

 ふと、エースはユウナに言った。



 たった一つの行路 №110



「食らいやがれ!『エレクトリックリボルバー』!!」

 ガンが先ほどの銃で電気を帯びた弾丸を連射した来た。
 しかし、銃弾に装填できる弾数は最高6発。
 3人はその攻撃を何とか回避した。

「3つに分かれましょう」

 ミナノが提案した。

「そうだね」
「気をつけろよ!特に、ミナノはドジすんじゃないぞ!」
「プレス!いつまでも私をドジッ娘扱いしないでください!」

 プレスの軽口に真面目に答えながら、その作戦を決行した。

「逃がすか!」
「あ!ガン!」

 ラムが止める間もなく、ガンはジョカを追っていった。

「アル……どうしよう?」
「……とりあえず、ジョカはガンに任せよう。他の2人を俺たちが倒せばいい」
「でも、アルならともかく、ガンじゃジョカには敵わないと思うけど……?」
「それでもいい。“とりあえず”だからな」
「わかった。私はミナノを倒すわ!!」

 そうして、ラムはミナノをアルはプレスを追っていった。



「どこへ行った……?」

 肩にパチリスを乗せて、右手に銃を持ったガンがいつでも発砲できるように神経を研ぎ澄ませていた。

 ガサガサッ……

「そこか!!」

 凄まじい反応で茂みの中を早撃ちする。
 茂みの中で電気が炸裂し、茂みが発火した。

「引っかかった!」
「何!?」

 ガンの目の前が光とともに真っ暗になった。
 いや、真っ暗と言うよりは、視界がぼやけると言うか、頭がくらくらし始めた。

「(くそっ……『怪しい光』か……)ハリーセン!ヤンヤンマ!」

 自分が動けなくなり、攻撃が出来ないと悟ると、自分が攻撃を受けないように護衛のためにハリーセンとヤンヤンマを繰り出した。
 ガンは混乱して前が見えないが、真正面の方向に先ほど怪しい光を放ったユキメノコとジョカがいた。
 ハリーセンとヤンヤンマは弾丸のような水鉄砲とソニックブームを放った。

「ユッキ!『氷のつぶて』を連射だよ!!」

 連続で放つ氷のつぶては、勢いよく水鉄砲とソニックブームに命中した。
 ソニックブームは相殺することが出来たが、水鉄砲は逆に押し返されてしまった。
 ユキメノコに命中し、ダウンした。
 だが、次の瞬間に、木の上からヤンヤンマとハリーセンに強力な電撃が落ちた。
 木の上にいたのは、ジョカがあらかじめ木の上に忍び寄るように指示を出しておいたピカチュウだった。

「ピッチ!よくやった!」

 ピカチュウを抱き寄せているところで、ガンがようやく混乱から復活した。

「くそ……まさか不意を突かれるとは思わなかった!こっからが本番だ!」
「マッグ!!」

 銃口を見て、ジョカが新たにポケモンを繰り出す。
 カタツムリのようなポケモンだが、属性は水ではない。
 炎、岩タイプのマグカルゴだ。
 電気の銃弾をマグカルゴはリフレクターと光の壁の両方を一瞬のうちに張って、攻撃を軽減して受け止めた。

「防御か?だが、そんなの何回も持たないはずだ!俺の銃の威力は伝説級のポケモンでも致命傷を負わせるほどの威力を持つんだぜ」
「知っているよ。だから、ボクはあらかじめ2匹のポケモンを忍ばせておいたんだよ」
「何?……また上か!?」

 ガンは銃を上に向けた。
 ピカチュウが上にいたのを思い出しての行動だった。
 しかし、今度は違う。
 不意に下から、地震の様な揺れ動く感覚がしたと思うと、ポケモンが飛び出してきた。

「しまった!下か!」

 銃を慌てて下に向けようとするが……

 ガギンッ!!

 鋭い前歯を持ったポケモンが銃を噛み砕いてしまった。

「そのまま『アクアテール』だよ!」
「くっ!」

 ガンは状態を逸らして、辛うじて攻撃をかわす。

「パチリス!『スパーク』!」

 ガンの肩を踏み切りにして、捨て身タックルのような一撃が入った。
 水タイプであるこのポケモンにとって、この一撃は耐えられるものではなかった。

「ビッダ……ありがとう」

 ビッダというニックネームのビーダルを戻して、ジョカはエルレイドを繰り出した。

「ガンの銃はポケモンの技を装填、圧縮して一気に打ち出すもので、それが無くなれば、ボクにだって勝機はあるんだよ」
「どうだかな!俺を舐めんじゃねーぞ!!」

 パチリスとともにミカルゲを繰り出すガン。
 一方のジョカもピカチュウを繰り出して、2対2のバトルになった。
 しかし、決着は早く着いた。

「これで、もう手持ちはゼロのはずだよ!」

 戦いを制したジョカがピカチュウとエルレイドを戻して言った。

「あなたの手持ちポケモンは4匹のはずだよ。だから、降参しなさい!」
「残念だったな!もう一匹いるんだよ!とっておきがな!」

 ガンが繰り出す最後のポケモンとは、ファイヤーだった。

「伝説のポケモンのファイヤー……?なんで……?」
「燃やし尽くせ!!『火炎放射』!!」

 命の炎ともいわれる強力な炎がジョカに襲い掛かる。
 しかし、ジョカはマグカルゴを繰り出して炎を防いだ。

「『光の壁』で防ぐとはな!だけど、そいつはもう限界のはずだぜ!」
「それはどうかな?」

 ジョカがマッグに手を当てると、淡い光を放ち、先ほどガンの銃で受けた傷が治ってしまった。

「何!?」
「これで終わりだよ!!マッグ!『ロックレイン』!!」

 どこからとも無く、空から岩の雨が降り出し、ファイヤーに命中していった。
 さすがのファイヤーもこの攻撃を避けきれず、ダウンしてしまった。

「く……くそっ!!」

 ガンはファイヤーを戻して逃げ出してしまった。

「やった!ありがとう、マッグ!」

 マグカルゴを労わって、ボールに戻す。

「急いでプレスやミナノを探さないと……」
「探す必要はない」
「!?」

 ジョカの目の前に現れたのは、“ライトアーム”のリーダーであるアルだった。

「え……?ミナノとプレスは……?」
「ミナノはラムが相手している。プレスなら、今頃は地面に転がっている。なに、死んではない。気絶しているだけだ」
「…………」
「お前がガンと戦う、俺がプレスと戦うと決まったことから、俺とお前の戦いは決まっていた」
「どういう意味?」
「そのままの意味だ。プレスは君の中で弱い方。ガンはこちらの中で弱い方。つまり、早く決着がついて、こうなることはわかっていたと言うことだ」
「ボクはそう思わないよ。プレスなら、君に勝てると思っていたんだよ」
「本当にそう思っていたのか?」
「……思っていても、現実は違うということが言いたいんだよね?」
「別に言いはしない。だが、お前を倒して、先に行った3人を倒させてもらう」
「そうは行かせないよ! ……あれ!?」

 フラッと……ジョカは眩暈がした。

「(まずい……トキワの力の副作用がもう……)」
「『リーフストーム』」
「!!」

 ズドドドドーンッ!!!!

 ドダイトスの攻撃が無防備なジョカに襲い掛かった。
 ジョカは吹っ飛ばされて、木に頭をぶつけて気を失ってしまった。

「……隙を見せるとは……意外にあっけなく片付いたな」

 アルは油断しない。
 ジョカが気絶していなかった場合も想定しながら、ゆっくりと近づいて、ジョカを動けなくした。
 動けなくしたと言うのは、ロープで木に縛り付けたと言うことだけど。
 
「ミナノはラムに任せて、俺は追いかけるか……」

 アルはピジョットに乗って急いで、SGに侵入せんとする者たちを追跡していった。



「着いた……」
「ここがSGの入り口か……。ところでこいつらは何だ?」

 走ってようやくここまで辿り着いたエースたち。
 ふと、エースはそこらでボロ雑巾になっている3人を発見していた。

「この3人はここの見張りみたいよ」

 ユウナが答える。

「ここまでボロボロにしたのは一体どんな奴なんだ……?」
「それはわからないわ。ただ、わかることは私達の他にもSGへ潜入している連中がいると言うことね」
「…………」
「それが私達の味方とは限らないけど」
「そうだな」
「ユウナ、エース、早く先へ進もう!」

「ああ」

 エースはファイアに言われて先へ進もうとするが、ユウナはふと足を止めた。

「ユウナ?何をしている?」
「私はここにいるわ」
「何で?」
「どうやら足止めをする必要がありそうだし」

 そう言って、ユウナはモンスターボールを手に取った。

「……わかった」

 頷いて、先に進んで行ったファイアの後を追っていくエース。
 その後ろ姿をユウナは見送った。

「お前1人で俺の相手をするとは正気か?」

 ユウナの後ろにはすでに追っ手の姿があった。

「正直、私も普通に戦ってあなたと1対1で勝てるとは思っていないわ。でも……」

 振り向いてユウナは言う。

「やるからには勝たせてもらうわ。アル!」

 彼女の目の前にいるのは、先ほど、プレスとジョカを倒して、追跡して来た美少年のアルだった。



 第二幕 Dimensions Over Chaos
 進撃のサーティーンカード④ ―――左腕<レフトアーム>vs右腕<ライトアーム>――― 終わり


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Last-modified: 2015-04-26 (日) 11:56:08
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