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たった一つの行路 №107

/たった一つの行路 №107

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 リザードン、フライゴン、カイリューの三匹が太陽を追いかけていた。
 しかし、どんなスピードで飛んでも、太陽に追いつくことはない。
 何故なら、太陽は沈み行くものだから。
 それに、太陽を追いかけるといえども、彼らの目的は太陽ではない。

「そこか?」
「そこよ」

 ヒロトの指摘にアクアが頷き、彼らはSGの入り口の手前で降り立った。
 丁度、そのSGの入り口のところには、3人の見張りがいた。
 ヒロト、リュウヤ、アクア、エアーは見張りに気付かれないように草むらや木の陰に上手く身を隠した。

「これからどうするアルか?」
「慎重に行くべきか……。それとも強行突破するべきか……」

 ヒロトは腕を組んで悩む。

「3人なら、強行突破で援軍を呼ばせないように片付けるのが手っ取り早いが……」

 リュウヤはすでにモンスターボールを構えている。

「駄目よ。失敗した時のリスクが大きいわ。1人でも逃がしたらすぐに援軍を呼ばれるわよ」

 アクアが飛び出さんとするリュウヤを引き止めた。
 リュウヤの強攻策とアクアの慎重策の2つが出たが、結局の所、決めかねていた。
 その時のことだった。

「……アクアたん。その光は何アルか?」
「え?」

 エアーに指摘されて、アクアは自分のサイドバッグを見た。

「本当だ……。一体何かしら!?」

 慌てて中を見てみると、本が輝いていた。

「アクアさん、それは?」
「これは、ハナから預かったものだけど……」
「何の本なんだ?」

 アクアに手渡されてヒロトは内容が気になり、本を捲った。
 すると、本の中から、何かが飛び出した。

「アル!?」
「え!?」
「……!?」

 4人が驚いて空を見る。
 しかし、一番驚いていたのはヒロトだった。
 何故なら、その“もの”がヒロトに向かって降って来たからだ。

「ちょっと!!待て―――!!」

 ズドンッ!! ズドンッ!! ズドンッ!! ズドンッ!!

 計四回、ヒロトの上へと降ってきた。

「ここはどこ?」
「や、やったぁ!しゅ、修行はもう終わりだよね?」
「ダーリン!!」
「♪俺はここさぁ~」

 そう。説明するまでもないが、本の中から出てきたのは、虚世界で修行を行っていたライト、エレキ、ユウコ、そしてモトキだった。

「エレキにモトキ!……で、そこの2人は誰?」

 最初に口を開いたのは、アクアだった。
 そして、ようやく外に出られた開放感を味わったところで、モトキたち以下4人はアクアを見た。

「♪アクア~!ひっさしぶり!」
「ちょっと、あんた誰よ!モトキとどういう関係!?」

 ユウコがアクアにいちゃもんをつける。
 「まーまー」と、モトキはユウコを宥める。

「え……エアーちゃん?」
「エレキたん!?久しぶりアル!」

 いつものように、エアーは能天気な声でエレキに挨拶をした。
 エレキの方はと言うと、こちらも相変わらずモジモジとしているが……。

「♪へぇ~。この子がエアーちゃんか!独創的な子だな~」
「モ~ト~キ~」

 嫉妬剥き出しの目でモトキを射るユウコ。

「♪わ~かってるって~ユウコちゃん♪」

 モトキが肩に手を回すと、ユウコもモトキの肩にもたれるようにうっとりとした表情になった。
 この二人は相変わらずラブラブなご様子。

「で、一体これはどうなってるの?状況を説明してくれませんか?」

 みんなが再会やら、なにやらしている中、ライト一人だけは真面目に状況を把握しようと努めていた。
 そこで、ライトは一番まともそうなリュウヤに尋ねていた。

「その前に……君はそこから早くどけてあげたらどうだ?」
「え?」

 ライトは恐る恐る下を見る。

「……うぅ……」

 そう、ヒロトがライトの下敷きになっていた。
 慌ててライトは飛び退いた。

「ごめんなさい!!……って、ヒロト?」
「いつつ……え?ライト?何で、この世界にいるんだ!?」
「それはこっちのセリフよ!!」

 お互い、意外な場所で再会したので驚きの様子。
 しかし、お互いの状況を説明するには時間がなかった。
 何故なら……

“お前ら!そこで何をやっているんだ!”
“この連中……TCじゃないの!?”
“本当だ!!上に知らせるんだ!!”

 門番をしていた3人が、ヒロトたちを見つけてしまった。

「こうなったら、行くしかないだろ?」

 リュウヤがモンスターボールを構える。

「そのようだな」

 ヒロトも仕方がなくボールを構える。

「♪ここは~俺とユウコに任せてくれ~ぃ」

 声がしたかと思うと、そこにはエレキギターを鳴らしているモトキがいた。

「大丈夫なのか?」

 リュウヤが不安そうに問いかける。

「♪ダイジョ~ブ。ダイジョ~ブ。愛に勝るものなんてぇ~ないから~!」
「そうか……なら任せた」
「そうだな」

 ヒロトとリュウヤたちは、何の躊躇もせず先に進むことにした。
 ただ、彼らの実力を知っているからそうしたのではないのだろうけど……。

「♪じゃーユウコ、トラン、後は任せたぜぃ!」
「え!?ダーリンは戦わないの!?」
「♪ダイジョ~ブ。ダイジョ~ブ。トランと一緒なら~勝てるから~!」

 ユウコはふと辺りを見回してから言った。

「そのトランはどこ?」
「♪えぇ?」

 ふと、声が裏返るモトキ。
 そういえば、ずっとトランの姿がなかった。

“とりあえず、あいつらを捕まえるか……”
“3対2だし……楽勝よね”
“先に進んでいった連中は、全て幹部級が相手してくれるから安心だしな”

 余裕の表情で3人が襲い掛かってきた。

「♪もしかして~まだ本の中~!? ……ユウコ~とりあえず、あいつらをお願い~」
「わかった!エアームド!!」

 ユウコが戦っている間、モトキは本をぶんぶんと叩き落すように振って、トランを出したと言う。



「なるほど……ライトは“バンダナ”を助けるためにこの世界まで来たということか」
「(よっぽどエースのことを嫌っているのね……。今まで名前で呼んだの聞いたことないし……)」

 ヒロト、ライト……その他の4人は門番達をモトキとユウコに任せてSGのアジトを走り続けていた。

「ところで、何をすればいいアルか?」
「そ、そういえば……。ア、アクアさん、どうすればいいんですか……?」

 エアーとエレキが走りながら疑問をアクアにぶつける。

「とりあえず、SGのボスである“ヘッド”を倒すの」
「頭さえ倒せば、全て崩せると言うわけか……理には適っているな」
「だけど、ボスのところまで辿り着くのには、そう簡単にはいかなさそうだな」

 ヒロトが足を止めると、他の5人も足を止めた。

「ここから先は通さんぜよ!」
「あたしたちが全員倒してやるわよ!」

 目の前に待ち受けていたのは、マフラーをした女性と竹刀を持った中年太りの男だ。

「あ、あの二人は……」
「スティックとハシラ!?」

 エレキとライトがそれぞれ言った。

「知っているの?」
「ぼ、僕がライトさんと出会ったときに、僕を襲っていた人たちです……」
「この前の借り……返させてもらうわよ!!」

 ライトが出ようとしたが、エアーとアクアが出る。

「エレキたん!ここは私が戦うアル!エレキたんを襲う悪者なんて許せないアル!」
「ライトとエレキが歯が立たなかったのなら、私が出るしかないということよ。そういうことだから、先行ってくれる?」
「アクアさん!?」

 ヒロトはアクアを引きとめようとしたが、リュウヤがガシッと肩をつかんだ。

「俺たちは先へ行くぞ」
「だけど……」

 リュウヤはこっそりと小声で言った。

「この先に、ちょっと気になる奴がいる……。もしかしたら、俺が探している敵の手掛かりかもしれない……」
「…………」

 リュウヤはそういうと先へ行ってしまった。
 ヒロトは少し考えて、アクアを見た。

「ヒロト!リュウヤ!エレキとライトを連れて速く行きなさい!」

 そう言われてしまっては、ヒロトは進むしかなかった。
 急いでリュウヤを追っていった。
 つられて、ライトとエレキもついて行った。

「さぁ!行くアルよ!」

 エアーが繰り出すのはゴウカザル。
 アクアは無言でエレキブルを繰り出していた。



 さらに10分くらい走った。

「…………」
「うわっ!」
「ど、どうしたんですか?」
「急に止まらないでよ!!」

 止まったのは先頭を走っていたリュウヤ。
 いきなり止まったことにより、まるで車の玉突き事故みたいにズドンズドンとリュウヤにぶつかってはこける。
 3人よりリュウヤのほうが幾分かがたいが良かったために、3人とも跳ね飛ばされる感じだったが。

「……3人とも、先に行け」
「「「え?」」」
「いいから行け」
「…………。わかった」

 ヒロトが頷いて、ライトとエレキをつれて先へ進んだ。
 ライトとエレキは不思議そうにリュウヤを一瞥してから、先へと進んで行った。

「いるんだろ?出て来いよ」

 リュウヤが言うと、物陰から男が出てきた。
 マフラーを口元に巻き、スーツを着た優男のような奴だった。

「“リュウヤ・フィラデム”……よくここまで来た。呆れるほどの執念だよ」
「確か……お前はアウトって言ったな。アマ婆ぁから聞いている。何でお前がこんなところに?まさか、ザンクスと同様にこの世界の者に手を貸して世界を滅ぼそうというんじゃ……」
「はぁ?そんなめんどくさいことはしないよ。と言っても、私がしているのはもっとめんどくさい事なんだけど」
「一体何を……?」
「とりあえず、君には消えてもらうよ。こいつによってね」

 指を鳴らすと、一人の少年が姿を現した。

「さぁ、タクス……やれ」

 指示を出すと、アウトは姿を消してしまった。

「うぅ……」

 タクスは頭を抑えて、何かに耐えているようだが、やがて目の色を変えて全てのポケモンを繰り出した。
 伝説のポケモンのエムリットを始めとした5匹だった。

「(操られているな)」

 リュウヤも同時に5匹のポケモンを繰り出した。
 リザードン、フライゴン、ボーマンダ、ガブリアス、カイリュー……いずれもドラゴンポケモンとしての力を秘めているポケモンである。

「こんなところで手間取っている暇はない。みんな頼む。“みんな”を助けるために……」

 リュウヤが言うと、雄叫びを上げて、飛び掛っていった。



「あ、あれ!?ら、ライトさん?ひ、ヒロトさん?」

 オドオドと周りを窺いながら1人の少年……エレキがいたはずの仲間を呼びかける。
 しかし、いつの間にかエレキは一人になってしまっていた。

「ど、どうして……?み、みんなどこ行ったの……?ど、どうしよう……」
「来たな……オレ様の獲物……」
「……!」

 ズドンッ!!

 空気を切り裂くような刃が飛んできて、エレキの足元に当たって爆発した。
 吹っ飛んだエレキは、なんとか受身を取って大きなダメージを回避した。

「ひぃー!」
「おっと!オレ様から逃げられると思うなよ!!」

 男はかなり服装がラフで威圧感があった。
 その傍らにいるのはとても強そうなフローゼル。
 先ほどの攻撃はフローゼルの『かまいたち』か『ソニックブーム』かそれらの類の技なのだろう。

「オレ様の名前はストム。大人しくオレ様の手によって掻ッ消えろ!!」

 先ほどの攻撃を再び繰り出す。
 エレキは叫び声を上げてかわした。

「オラオラ!!どうした?戦わないのか!?」
「ぼ……僕は……」

 ズドン!

「うっ……」

 腹に一撃が入った。
 勢いよく吹っ飛ばされ、壁がめり込むほどの勢いで打ち付けられた。

「……掻ッ消えろ!!」

 容赦なくフローゼルがアクアジェットで襲い掛かる。
 そのまま当たっていたら、恐らくただではすまなかっただろう。

「…………ワニノコッ!!」

 ズドンッ!!

「な……に……!?」

 フローゼルの水を纏った突進攻撃を片手で吹っ飛ばしてしまった。
 しかも驚くべきはフローゼルより一回りくらい小さいワニノコがそれをやってのけたことだろう。
 さらに、それでフローゼルはダウンしてしまった。

「……何をしやがったって言うんだ!?」

 よりいっそう目をギラギラさせてストムは豚猿ポケモンのオコリザルを繰り出して、ワニノコを襲わせた。
 クロスチョップや空手チョップなどのチョップ系統の攻撃をワニノコに叩き込まんとする。

「……ワニノコ」

 だが、それらの攻撃が全く通用しない。
 全て受け止められていた。

「(バカな!?体格の差は歴然のはず!それにオレ様のオコリザルの攻撃力は鋼鉄に拳の形を残すくらいの破壊力を持つほどだ!?何で、こんなガキの……しかもワニノコごときに!?)」

 ふと、エレキの瞳<め>を見た。
 すると、身震いを起こして、少し後ずさりをした。

「(何だその瞳<め>は!?最初にビビッていたときとは、違う瞳をしてやがる……)」

 その刹那がストムの命取りだった。
 後ろからパチリスが飛び出し、電撃を放出し、オコリザルとストム自身にダメージを与えた。
 オコリザルは倒れたが、ストムは体を感電しながらも立っていた。

「(ちっ、『あなをほる』か。だが、奴は何だ?最初の瞳が逃げる草食動物だと例えると、今の奴の瞳は獲物を狩る肉食動物の瞳だ……)けっ!最大パワーで掻ッ消してやる!!!」

 ストムはラムパルドを繰り出して、『諸刃の頭突き』と言う強力な技を繰り出していた。

「ワニノコ!!『アクアテール』! パチリス!!『アイアンテール』!」

 ワニノコがラムパルドの右サイドへ、パチリスが左サイドを回り込んでそれぞれ叩き込もうとする。
 しかし、ラムパルドの大きい尻尾で一掃されてしまった。

「!!」
「ガキが!!オレ様を本気にさせておいてただで済むと思うなよ!!」

 怒りのような強烈なオーラがストムから滲み出る。
 まるでそれがラムパルドに伝わるように、攻撃力が増していた。

「掻ッ消せ!! ロトム!『ボルテッカー』!!」
「!!」

 ラムパルドの他にも、ストムはロトムを繰り出してきた。
 ロトムの体が電気の球で包まれエレキに襲い掛かる。
 ボルテッカーはピカチュウ系しか使えないワザと言われているが、ストムのロトムも繰り出してきた。
 しかも、ロトムは浮遊することができ、空中を自在に動くことができる分、ピカチュウよりも相手に攻撃を当てやすかった。

 ズガガッ!!

「!!」
「そうは……させない」
「こいつ……また瞳の色が変わった!?」

 今度は先ほどの草食動物の瞳でも、肉食動物の瞳でもなかった。
 まるで全てを受け入れるような穏やかな瞳……仏のような瞳だった。
 そして、ストムの空中を動き回るボルテッカーをキマワリが受け止めた。

「終わりだっ!!」

 接近からの『花びらの舞』をロトムにぶつけた。
 ボルテッカーの反動を予想よりも受けていたロトムは耐え切れずダウン。
 しかも、後ろにいたラムパルドにさえも攻撃が及んだ。しかし、ダウンには至らなかったが。

「何だお前は……まるで別人が何人も居やがる様だぜ!……2重人格者か!?」
「……違うぜ!“俺”は……“私”であって、“私”は……ぼ、“僕”であって、“僕”は……“俺”だ!!」
「……!?」
「わからないようだな!!それなら、簡単に説明してやる!今の俺が、矛をつかさどるエレキ。全てを見透かしたような瞳をしやがる野郎は盾をつかさどるエレキ。そして、腰抜けヘタレ野郎がマスターであるエレキだ」
「……ケッ」

 ストムはツバを吐き捨てた。

「よくよく考えたらどうでもいいことだ!ヴォオーイ!捻り潰せ!ラムパルド!!」

 もはや常時『諸刃の頭突き』状態の破壊力を秘めているラムパルド。
 そこからのパンチや尻尾攻撃は、盾を司るエレキの力でもまともに受け止められる攻撃ではなかった。

「攻撃だ!!」

 エテボースを繰り出し、闘争心を剥き出しにしたエレキが前へ出る。

「掻ッ消えろ!!『ストーンダイヴ』!!」

 超捨て身の技。
 全身が岩のような体を持つラムパルドは攻撃のために接近したエテボースたちを跳んでかわす。
 二撃目に全パワーを込めた一撃を叩き込む気だ。

「その間にトレーナーを叩くッ!!」

 エテボースをストムに向かわせようとする。

「引っかかったな!」
「なっ!?」

 エテボースに電撃が命中し、エレキの元へ返ってきた。
 そのストムが繰り出した、一匹とは伝説の鳥ポケモンの一匹、サンダーだった。

「くそッ!?」
「終わりだ!」
「(しまった)!!!!」

 エレキが上を見たときにはすでに手遅れだった。

 チュドドドドーンッ!!

 エレキの頭上からラムパルドが落下した。
 そして、その一撃はコンクリートで出来たこの建物の下へずっと貫通していってしまった。

「終わったな。雑魚がッ。オレ様に楯突くからこういう羽目になんだよ」

 ストムは貫通した穴から下を見てからニヤリとして、サンダーとラムパルドを戻して下の階へと降りていった。
 そこには気絶したエレキの姿があった。



“オイ、マダ終ワッテナイダロ!立テ!”
“君は何のために戦っているんだ?そのことを忘れては駄目だ”

 彼の頭に入る“俺”と“私”のメッセージ。
 
“ますたー!オ前ノ力ハマダコンナモノジャナイハズダ!”
“ポケモンバトルとはどういうものか……それに気づけば、自ずと道は開けるはずだ”


 ポケモンバトル……
 僕にとっては、負けて、負けて、負けて……ただ苦しいものでしかなかった。
 みんなは何のためにやっているんだろう?
 ライトさんは恋人を見つけ出すとためと言っているし、
 ユウコさんはモトキさんと一緒にいるためと言っている。
 僕のポケモンバトルをする意味は……?
 その意味のないバトルのせいでポケモンたちを傷つけてしまっている。
 それは僕が不甲斐ないばっかりのせいもあるんだけど……。
 でも、みんなはそんな僕を励ましてくれる。
 僕を恨んでなんかいない。


「ヴォオーイ!まだ息があったのか!?」

 下層エリアへ降りてきたストムがピクリと動くエレキの姿を見てサンダーを繰り出した。

「今度こそ掻っ消えろ!!『かみなり』!!」

 電気を溜めて、エレキに向かって放とうとする。
 しかし、上から2匹のポケモンが降りてきて、サンダーに不意打ちをした。
 パチリスとワニノコだ。

「な!?こいつら、さっきラムパルドに倒されたはずじゃ!?」

 エレキはその必死に立ち向かう2匹を見た。


 恨んでいないし、僕を助けてくれる……。
 何でだろう?

―――「エレキ、お前は苦しいのか?ポケモンバトルが?」―――

 ふとエレキはずっと昔にした父親との会話を思い出した。

―――「だ、だって、負けるし、面白くないんだもん……」―――
―――「そうか……それならポケモントレーナーは止めた方がいい。無理にやっていいことなんて何もない」―――
―――「…………」―――
―――「ポケモンたちは、何でお前にいつもついてくるかわかるか?」―――

 エレキは首を振る。

―――「お前といるのが楽しいからだ」―――
―――「…………」―――
―――「こいつらを見ているとよくわかる」―――

 父親はポケモンたちを撫でてやる。

―――「わかるか……?ポケモンバトルはな―――」―――


 あ……そういえば、父さんが言っていた……
 ポケモンバトルは―――


 ズドンッ!! バリバリッ!!

 その時、ワニノコは電撃を浴び、パチリスはドリルくちばしを受けてダウンした。

「次はお前だ!!」

 彼は立ち上がった。
 足元にはたくさんの瓦礫が散乱していた。
 ラムパルドの強力な一撃で砕きまくったフロアの地面や天井の残骸だろう。

「ポ、ポケモンバトルは……」
「あん?」
「バトルは楽しむものだ!!」

 エレキはルージュラを繰り出した。

「……バトルは楽しむものだと?何を寝言をほざいてやがる!!」

 サンダーは10万ボルトを繰り出し、ルージュラの放った冷凍ビームを打ち消そうとする。
 だが、冷凍ビーム一閃。
 10万ボルトを打ち消し、なお、サンダーを凍らせてしまった。

「な!?」

 たったの一撃でサンダーがやられてしまった。
 攻撃の相性が悪かったとはいえ、ストムは予想外の出来事に驚いた。

「てめー……!!」

 そして、ストムはエレキを見て驚く。

「さぁ!次を出してよ!」
 
 ストムの目の前にはどことなくオドオドとしたエレキはいない。
 何が彼を変えたのか、イキイキとバトルを楽しもうとするエレキの姿があった。

「(なんだ……?こいつの放つオーラみたいなものは!?くそっ!!)てめー!!ラムパルド!!やれ!!」
「ルージュラ!『天使のキッス』!」

 繰り出した瞬間にはもう混乱。
 ラムパルドは完全に暴走していた。
 しかし、エレキは動じない。

「これで終わりだよ!『シャドーボール』!!」

 ルージュラを戻して、エレキの最後のポケモン、ムウマージを繰り出した。
 黒い球体を放ち、ラムパルドを倒してしまった。
 吹っ飛んだラムパルドはストムの上にズドンッとのしかかった。

「ぐわっ!!」

 そして、ストムはあっけなく気絶してしまった。

「僕の勝ちだよ!」

 そういって、エレキはムウマージを戻した。
 すると、シュンとエレキの出す雰囲気が変わり、辺りをキョロキョロと見回しはじめた。

「……あ、あれ?ぼ、僕は……?」

 いつもの弱気なエレキに戻ってしまった。

「い、今の感覚って……?」

 しかし、彼がストムを倒したことには変わりはなかったと言う。



 たった一つの行路 №107
 第二幕 Dimensions Over Chaos
 進撃のサーティーンカード① ―――暴風雨のストム――― 終わり


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Last-modified: 2015-04-25 (土) 13:52:56
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