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たった一つの行路 №106

/たった一つの行路 №106

「ぐわっ!!」

 一方では、テツマは倒れ、シラフに踏みつけられていた。

「言っただろ?老いぼれが俺に勝てるはずがないと!!」

 やはり、テツマは負けてしまったらしい。

「さて、敗者はどうするべきか?消してしまうのがいいか?いや、だが、見せしめのためにリーダーは捕らえておかないとな」
「ぐぅ……」
「だが、痛めつけておかないとな!散々人をこき使いやがって!!」

 ビシビシ……

 テツマを蹴りに蹴り付けるシラフ。
 テツマがいかに肉体を鍛えているとはいえ、これだけ蹴られれば、痛いだろう。

「なぁ……ちょっといいか?」
「あ?誰だお前?」

 いつの間にか、1人の男が入ってきていた。
 上半身は白い包帯を巻き、その上に黒い浴衣みたいなのを羽織っていた。

「SGって奴は誰だって聞いてんだよ」
「SG……?お前……誰だ?TCでもSGでもないお前が何でここにいる?」
「そうか……まぁいい。俺はてめぇをぶっ潰せばいいんだな?」
「あ?誰に物を言ってんだ?俺はシラフ。このTC壊滅作戦の最強指揮官だ。お前みたいな男に付き合っている暇はない!」

 シラフはスターミーを繰り出してハイドロポンプを放った。

「やっぱりてめぇでいいんだな!」

 バリバリバリッ!!

「なっ!!」

 ハイドロポンプを真正面から突っ込み、切り裂きながら、スターミーに噛み付き、強烈な電撃でノックアウトさせた。

「俺の名はラグナ。てめぇを打っ潰す」

 眉間にしわを寄せて、獲物を狙うようなハイエナの目を持つラグナは、ニヤリとボールをかざした。



 たった一つの行路 №106



「☆『ばかぢから』!!」
「『まもる』」

 一方、膠着状態だったこちらは、展開が変わろうとしていた。

 バキッ!!

 ヌオーがレジスチルの攻撃をまともに食らってしまった。

「(しまった……。もう、『まもる』を使うだけの体力が残されていないのか……?)」

 最初の三匹からずっと『まもる』を使用していたため、当然といえば当然だろう。

「最大パワー!『水鉄砲』」

 マジカのポケモンは全く避けようとはしない。
 攻撃を受け止め、それに耐え続け、隙が出たところを叩き込むという戦略だ。
 そして、この水鉄砲を受け止めようとする。
 だが、威力に押されて、壁に押し付けられた。

「『アクアテール』」

 今度は接近し、打撃攻撃を試みる。

 ガギンッ!!

 硬い音がした。
 ダメージを与えたはずだが、それでもレジスチルが反撃に来た。

「☆『爆裂パンチ』や!」
「ヌオー」

 ドガンッ!!

 攻撃を避けられず、ヌオーは吹っ飛ばされる。
 アクアテールを受けたのにもかかわらず、まだレジスチルは平然としていた。
 一方のヌオーは後一撃受けただけでダウンしそうだった。

「☆次で終わらせてやるで!」

 マジカが相変わらずコメディアンのような口調で言うと、ハルキは口元を緩めた。

「終わりなのは……お前の方だ」
「☆負け惜しみでっか?……あれ?」

 ズドン

 レジスチルは倒れた。
 しかし、体力がなくなり、戦えなくなったというわけではない。
 よく見ると、レジスチルは眠っていたのである。

「☆一体いつの間に!?」
「気付かれないようにやるのが、戦いってものだ」

 ヌオーがレジスチルにアクアテールを繰り出した後、レジスチルの反撃を受けたが、そのときにヌオーが『あくび』を繰り出したのである。

「そして、知っているはずだよな。『希少ポケモン保護法』。伝説のポケモンをむやみに捕獲してはならない……」

 ハルキは左手にモンスターボールを構えた。
 左肩につけている機械が作動をし、ボールに光が集まった。

「☆な、何をする気や?」

 そして、ボールをサイドスローで放り投げて、レジスチルに当てた。
 レジスチルはボールに吸い込まれていき、暴れる気配もなく、収まった。

「な……」

 ハルキはレジスチルが収まったボールを手にした。

「打たれ強くて、倒せないのなら、倒さず動けなくさせるまでだ。このポケモンは預からせてもらう」
「☆そんな、アホなぁ~」

 オーバーリアクションをするマジカ。
 そんなマジカを無視して、ハルキはテツマと合流をしようとしたのだった。 



「…………」
「……そんな……」

 ドサッ

 手に本を持つ無言の女性とメガネを掛けた聡明な淑女の戦いが終わった。

「カンナは倒した……次は……あの乱入してきた男……」

 リタンが見据えたのはラグナ。
 そのラグナはダーテングを繰り出し、シラフのワカシャモと互角の戦いをしていた。

「お行きなさい……」

 気絶したカンナを放っといて、リタンはその場で待機していたライチュウで電撃攻撃をラグナに向けて放った。

「!! ダーテング!!『裂水』!!」

 不意打ちにもかかわらず、ラグナはリタンの攻撃に気付いて、電撃に風の斬撃をぶつけてきた。
 攻撃はダーテングが押し切ったが、ライチュウは回避した。

「隙だらけだ!!」

 同時に、ワカシャモのブレイズキックが襲う。
 でも、オーダイルを繰り出して攻撃を防いだ。

「てめぇら、2対1でやろうっていうのか?上等だぜ!かかって来やがれ!」
「相当な自信だな。だが、その自信は己を滅ぼすぜ!ワカシャモ!」
「ライチュウ……お行きなさい」

 2対1の激闘が始まる。
 ワカシャモの蹴りがダーテングを捉えようとするが、オーダイルがそれを庇うように防ぐ。
 しかし、ワカシャモを巻き込まんとするほど強大な電気の猪が襲いかかった。
 ワカシャモは蹴りをした反動で飛び退いて攻撃をかわすが、逆の反動を受けたオーダイルはかわせず、もろにダメージを受けてしまった。

「ちっ……オーダイル!『アクアスティンガー』」

 通常でオーダイルは『ひっかく』、『切り裂く』、『メタルクロー』などの接近技を覚えるが、この技はその技の応用といえる。
 水を纏ったところから、さらに洗練したように鋭い爪の形をした水が相手を切り裂く技である。

「…………」
「当たんなきゃ意味ないんだよ!!」

 だが、シラフとリタンのポケモンは簡単には当たってくれない。

「当たりめぇだ!!」

 ズバッ!!

 ライチュウに攻撃が命中した。
 しかし、攻撃を当てたのは風のエネルギーを手に纏ったダーテングの方だった。

「……。『貫け。雷鋭の猪』」

 ダーテングの攻撃を受けながらも、先ほどオーダイルに放った強大な電撃を撃った。

「ちっ!ぶち抜け!!『裂水』!!」

 風の斬撃で相殺しようとした。しかし、出すタイミングが遅れた上に、その電撃の密度は相当なもので、相殺しきれずにダーテングは爆発に巻き込まれた。
 おかげで相当のダメージをダーテングは負ってしまった。

「てめぇの技……おもしれぇな。技が生き物みたいになるなんてよ!」
「…………」
「だが、負けねぇ」
「おら、余所見してんじゃねえぞ!!」
「ケッ!オーダイル!」

 ドガンッ!!

 ワカシャモの蹴りがオーダイルの顔に。
 オーダイルの水の爪がワカシャモの体をそれぞれ捉えた。
 そして、両者ともに倒れた。

「……『貫け。雷鋭の猪』」
「『裂水』!!」

 オーダイルばかり気をとられてはいなかった。
 ライチュウの電撃に先ほどと同じ、風の斬撃を繰り出す。
 先ほどより、打ち出すタイミングは早かったのだが、威力はライチュウの方が若干上であり、技がぶつかった瞬間、ラグナのいる方に向かって爆風の影響を受けた。

「……ライチュウ、もう一撃」

 連続して、爆発が起こっている場所に向けて攻撃を飛ばそうとした。

 ドガン!

「!?」
「そんな攻撃を何度も受けてられっかよ!」

 ダーテングは電光石火を応用した素早い動きで背後に回り込み、ライチュウを気絶させた。

「オラッ!かかってこいよ!」

 ラグナは挑発する。

「ちっ!図に乗るなよ!」

 シラフはオニドリル、リタンはトゲチックを繰り出した。

「(どっちも飛行タイプかよ)」

 ラグナは心の中で舌打ちをした。

「『ドリルくちばし』!」
「『舞え。烈風の鷹』」

 対してダーテングは、風の斬撃を繰り出すが、オニドリルは回避してダーテングにダメージを与える。
 ダーテングの攻撃はトゲチックの鷹のような風で打ち消した。

「どうした?その程度か!?『鋼の翼』!」
「……『原始の力』」

 2匹同時の攻撃が襲い掛かる。

 ガキンッ! ズガンッ!

「!?」
「…………」

 オニドリルの鋼の翼はラグナのクチートが受け止めた。
 しかし、もう一方の攻撃を受け止めたのは、ラグナのポケモンではなかった。

「……久しぶりだな。ラグナ」
「あ?何でてめぇがここにいるんだ?」

 トゲチックの原始の力を受け止めたのは、ハルキのエーフィだった。
 『光の壁』を張って、攻撃を受け流していた。

「“何で”とは随分な言いようだな」

 ぶっきらぼうな物言いでハルキは言った。

「……マジカの奴は負けたのか?全く役に立たねえ奴だ」

 シラフは白けた様に言う。

「それより、あんたがSGのスパイだったなんてな」
「驚いたか?」
「興味ない。あんたがSGだろうがTCだろうが俺には関係のないことだ」
「お前は何考えているか本当にわかんない奴だ」
「ハルキが何を考えているかどうかわからないのは同感だな」

 シラフの言葉にラグナは同意する。

「……だがそんなことより、てめぇを潰す!『メタルボール』!!」

 クチートの口のような頭から鋼の球体を吐き出す。
 ラスターカノンと似たような技だが、違うのは重みのある打撃系の技だということだ。
 オニドリルはそれをくちばしで粉砕した。
 一方のハルキはエーフィのサイコキネシスでリタンのトゲチックを牽制していた。

「久々のタッグだな。俺の足をひっぱんじゃねぇぜ!ハルキ!」
「…………」

 ラグナとハルキは背中合わせに相手に立ち向かう。

「その程度の攻撃で倒せると思うな!」

 翼をたたんで、くちばしを突き出して、突進してくる。
 クチートはそれを真正面から受け止めようとする。

 ズガガガガガッ!!

 オニドリルのパワーに押されるものの、くちばしを手で掴んで耐えているクチート。
 壁に押し付けられながらもそこで、勢いを留めた。

「叩きつけろ!!」

 くちばしを手に思いっきり、コンクリートの地面へたたきつけた。
 1回、2回とバウンドし、オニドリルは体勢を立て直す。

「コイツでどうだ!『オウム返し』!」
「!! 相殺しろ!!」

 クチートのメタルボールを真似するオニドリル。
 それにいち早く気付いたラグナはクチートに指示し、相殺させた。

「(威力も同じか!?)」

 大抵、オリジナルの技を『オウム返し』や『物まね』などの模倣で繰り出すと、模倣が負けるのだが、シラフのオニドリルは威力さえも全くコピーして打ち出したために、オリジナルにひけをとらなかったようだ。

「ならば攻めるパターンを変えるだけだぜ!クチート!てめぇの攻撃を見せてやれ!」
「パターンを変えようが、意味なんざねえよ!」

 オニドリルは、チリチリと気迫が伝わってくるプレッシャーのゴットバードを構えた。

「弾丸のようなこのスピード、かわせるものか!!」

 シュンッ!!

 オニドリルの攻撃はクチートを串刺しにした。
 ……と思ったのは動体視力が良かったシラフの一瞬の映像だった。

「な……!?」

 刹那、クチートが消えて上からオニドリルを欺きの口で噛み砕いたのである。

「『不意打ち』からの『アイアンヴァイト』。確実に決めるためにわざわざ打つ隙を与えたんだぜ!」
「『潰せ。地獄の蛇』」
「!!」

 だが、ラグナはすっかり油断をしていた。
 ハルキとリタンが戦っていたはずなのだが、砂の蛇がクチートを噛み砕くように砂に飲み込んでしまった。

「オイ!ハルキ!何をやっていやがる!」
「…………(くっ……対応が遅れた……)」

 ラグナに何もいわず、ヌオーを繰り出し、サンドパンに応戦した。
 エーフィでトゲチックを倒したのは良かったが、サンドパンにやられて、その交換の途中、ラグナに攻撃の余波が及んだようだ。

「『水鉄砲』」

 ヌオーの攻撃をかわし、サンドパンが接近戦に出る。
 アクアテールを繰り出してダウンを狙うが、かわされてブレイククローで打っ飛ばされてダウンした。

「全知全能なる神は言った……。『常に体長は万全を期して望むべし』」
「……?」
「神の意志に基づいて戦うことで、立ちふさがる異教徒者たちを倒します」
「……異教徒者?」

 ハルキはリタンの口にした単語を復唱した。
 ハルキとリタンのバトルは止まっているが、ラグナの方はレントラーとドータクンをそれぞれ繰り出して戦っていた。

「神は言いました。立ちふさがるものはすべて異教徒者だと。神の言葉を信じる者は救われるのです。だから、私は神の教えに従って倒すのです」
「…………」
「あなたも神に祈りますか?神の教えを聞いて、動くことにより、あなたも救われるのです。そして、みんなが皆幸せになるのです」
「…………」
「子供の頃から、ずっと神を信じてきました。あるとき、神の声が聞こえました。SGの組織に属して役に立つことにより、みんなが幸せになると……」
「興味ないな」

 ハルキはキッパリと言った。

「……!? 何故……?あなたは神を信じないのですか?」

 ハルキは答えなかった。代わりに、ボーマンダを繰り出して、竜の波動を放った。
 ブレイククローで打ち消されたが、その隙にドラゴンクローを叩き込んだ。
 サンドパンは地面を転がって、壁にぶつかった。しかし、まだまだ戦えるほど余裕のようだ。

「……。……『潰せ。地獄の蛇』」

 砂で出来た蛇がボーマンダを飲み込むように襲いかかる。

「『破壊光線』」

 砂蛇が貫通した。
 そして、サンドパンにそれなりのダメージを与えた。
 だが、砂の蛇にぶつけた分、威力が軽減していた。

「……『ジャスティスクロー』」

 素早い動きで駆け寄り、神々しく光る爪で切り裂いた。
 ボーマンダは地面に落とされた。

「この一撃を受けて立っていられたポケモンはいません」
「……『ジャスティスクロー』……“神の一撃”か……。だが、神が正義とは限らない」
「……?神をぼうとくする気?」
「この世に神なんているはずがない」
「……私は神の声を聞いたことがある。神の教えることは絶対なの」
「……別に俺はそんなのに興味はない」

 スーっとハルキが手を挙げると、ボーマンダは起き上がった。

「……!確かに攻撃は当たったはず!?破壊光線の反動で無防備だったはず!!」
「確かに攻撃は当たった。だが、反動が解けるのが早く、防御に専念することができたおかげだ」

 ボーマンダがドラゴンクローをサンドパンに打ち込む。
 サンドパンはブレイククローで対抗する。
 2度、3度すれ違い、4度目に、サンドパンに傷をつけた。

「俺は神なんて信じない。易々とそんなもんを信用する気なんてない」
「……なんて哀れな人なの?神を信じることが出来ないということは、すなわち誰も信用できないということになります」
「……言っただろ。俺はそんな考えに興味ない。『つばめ返し』」
「……哀れな羊に魂の救済を……『ジャスティスクロー』!!」

 急降下から繰り出される技をサンドパンは先ほどの強力な爪で押しとめた。
 一進一退の攻防だ。

「これで決めさせてもらう。『流星群』」
「!! 『スピードスター』」

 両者、超至近距離からの攻撃。しかし、威力は桁違いだ。
 サンドパンのスピードスターは、ボーマンダの顔を狙って流星群の狙いを外させるのが目的だったのだが、ボーマンダは怯まなかった。
 さすがのサンドパンもこの一撃には耐え切れずにダウン。
 ボーマンダは自身の攻撃の爆発に吹っ飛ばされ、地面に転げたが、まだ動くことができた。

「『眠れ。絶氷の狐』」

 爆発の向こうからの攻撃に対応することはできなかった。
 寸分の狂いもなく、ボーマンダに命中しようとしていた。
 だが、攻撃は効かなかった……否、別のポケモンがブロックした。

「……! ヌケニン!?」
「コイツとのバトルが退屈で、首を突っ込んじまったぜ」

 ラグナのヌケニンはシャドーボールを繰り出し、爆発の向こうにいるリタンのポケモンに牽制した。
 しかし、攻撃を回避したらしく、リタンと無傷のルージュラが爆煙の中から姿を現した。

「スカタンク!『火炎放射』!!」

 シラフが攻撃を仕掛けるものの、ヌケニンは砂嵐を体に纏い、火炎放射を防いだ。

「弱点の攻撃なんか、受けなきゃいいだけだろうが!」
「くそっ!ざけるな!ヌケニン1匹にやられてたまるか!!」

 ラグナとシラフの戦いも佳境を迎えていた。
 ラグナのレントラーとシラフのドータクンが矛と盾の戦いを繰り広げていたが、最後にはレントラーの『回転雷牙<かいてんらいが>』でドータクンを撃破した。
 その後で、レントラーの攻撃に恐れたか、ヌケニンを繰り出したが、ラグナも対抗してヌケニンに交代。
 交換したのを見て、『影討ち』で一発で決めようとしたシラフだったが、攻撃をかわし、返り討ちにした。
 現在、ヌケニンとシラフの最後の一匹、スカタンクが戦っていた。
 その合間を見て、ヌケニンがリタンのルージュラの強力な技を防いだのである。

「スカタンク!最強の技だ!!『ダークフレイム』!!」

 『悪の波動』と『火の粉』を合成したような技で、見た目は青黒い強力な炎だった。

「さっきの砂嵐の壁で防げると思うな!!纏わりつき、すべてを焼き尽くすまで消えない暗黒の炎だ!!」
「面白い技を出してきやがったな!それならこっちも新技を試させてもらうぜ!ヌケニン!」

 頷くと光を放った。
 『怪しい光』と似ているが、その光は鈍く黒く質量のある重そうな光だった。

「その程度の攻撃で破れるか!この攻撃は、相手の攻撃をも吸収して、威力を増―――」

 シラフは言葉を失った。
 攻撃がぶつかった瞬間、消滅してしまったのである。

「終わりだ!」

 ドシュッ!!

 ヌケニンの一撃がスカタンクを撃破した。
 だが、爆発が起き、ヌケニンは巻き込まれてダウンした。

「ちっ、特性の『誘爆』か……」
「何でだ!?何故、攻撃が消えたんだ!?」
「教えてやる。『消滅の光』。これがさっき放った技だ。コイツは相手の実体のある攻撃を相殺することができる。それが、どんな強力な技だろうがだ」
「くそっ!!」

 シラフはヤケを起こして、ラグナに殴りかかった。

 ズドム!

「ガハッ……」

 しかし、ラグナの強烈な右ストレートを腹部に叩き込まれて、気絶してしまった。

「オイ、ハルキ!助けいるか?」
「結構だ」

 ハルキがブラッキー。リタンがルージュラ。
 両者ともに最後の一匹である。
 だが、ハルキのブラッキーは、マジカ戦でエーフィを庇った傷を背負ったまま戦っていた。

「神の加護が無かったようね……。まさか、連戦になるとは思わなかったでしょうから……」

 リタンはブラッキーがボロボロなのは、マジカとハルキのバトルを見ていたからわかっていた。
 そして、最後のポケモンがブラッキーだということも。

「あなたには信仰が足りない。神を信じること……人を信じること……それを学びなさい」

 ルージュラが冷凍ビームを繰り出して、ブラッキーに当てた。
 ブラッキーは氷漬けになってしまった。

「信仰が足りない?だがな、俺よりも信仰が足りない女なら知っている」
「……?」

「“あいつ”は組織を信じず、味方も信じず、そして俺たちにさえも完全に心を開くことができなかった。今はマシになったがな。俺も似た様なものだが、根本的に俺は違う」
「何が違うって言うの?」
「信じるものを心に決めているところだ」

 すると、ブラッキーの体が輝いた。
 そして、自力で氷から抜け出した。
 しかもよく見ると、体力が回復していた。

「どうして?」
「『願い事』を使ったまでだ」

 すぐさま電光石火が、ルージュラに命中して吹っ飛ばした。
 ルージュラは不意打ちに対抗できなかったが、巻き返して冷凍ビームを放った。
 ブラッキーはサイコキネシスで軌道を変えて攻撃を防ぐが、接近して繰り出される『気合パンチ』まで防ぐことはできなかった。

「……終わりです。『眠れ。絶氷の狐』」

 先ほどはヌケニンに邪魔をされたが、今度はさえぎるものは何もない。
 氷の狐が一目散にブラッキーに向かってコンクリートの地面を素早く駆け抜ける。
 気合パンチを受けて、怯んでいたブラッキーにはこれをかわすことはできない。

 ズドン!!

 氷の狐が砕け散るほどの勢いでブラッキーに命中した。
 ブラッキーは傷ついて地面に転がった。

「終わりね……」
「まだだ。お前の力はこんなものじゃないだろ?」

 ハルキの言葉にブラッキーはピクリと反応した。
 そして、力を振り絞って立ち上がった。

「一体どこにそんな力が……!?」

 ブラッキーはハルキのほうを見た。
 正確にはハルキの腰にかけているボールの一つを見ていた。

「(負けられないんだよな。惚れている奴の見ている前ではな)」
「これで最後です。神に祈りなさい!!」

 氷の狐をとどめに3匹も解き放った。

「ブラッキー。行くぞ」

 コクンと頷いて、ブラッキーはハルキと一緒に動き出す。
 一匹目の狐を身代わりでブロックし、二匹目の狐をかわし、三匹目の狐をアイアンテールで崩した。
 そして、ルージュラが無防備になった。

「『シャインボール』」

 ブラッキーの体の色からは似つかぬ光の玉を放った。

「(避けられない!!)」

 ルージュラに炸裂。
 びりびりと電気のように炸裂すると、ルージュラは倒れた。

「はぁはぁ……ふう……」

 ハルキは息を整えて、ブラッキーを戻した。

「―――なの?」
「……?」

 リタンはポツリと言葉を漏らした。

「一体あなたが信じるものって何なの?」

 ハルキは右手にブラッキー、左手にエーフィのボールを持った。
 もし、このボールがこの世界のボールのように透き通って中が見えたのなら、ブラッキーがツンとエーフィにそっぽを向けて、エーフィは優しく微笑んでいただろう。

「自分が信じるものは自分自身とポケモン。そして、自分が一生を懸けて守ると誓った女性<ひと>だけだ」

 そうぶっきらぼうにハルキが言うと、ラグナは「何カッコつけてんだ」とからかい、ハルキは「真面目に言っただけだ」と、ちょっと赤くなって言った。



「何で、ラグナがここにいるんだ?」

 バトルが終わって、一通り侵入者を拘束し終えたハルキはラグナに疑問をぶつけた。

「成り行きだ」

 と、一言でラグナは終わらず。
 ユウナとかライトだったら、絶対ここはツッコミを入れてもっと聞き出そうとするのだが、ハルキの場合は「そうか」で終わってしまう。

「ああ、とりあえずめんどくさい話は置いといて、ここに来た経緯を話す」
「それなら、この桜餅をどうぞ(ズズッ)」

 すると、ラグナは、ここについてからの経緯を話し始めた。



―――「え!?逆にSGの本拠地へ攻撃をする!?」―――

 アクアの大きな声にびっくりしたヒロトはラグナを背負っていたのだが、落としてしまった。
 その瞬間、ラグナは目を覚ました。
 攻め込むという大胆な発案をしたのは他でもないハナだった。

―――「今、かなりここに潜入しているので、あちらの守りは手薄のはずです(ズズッ)」―――

 ハナはやはりこんな時でもお茶を飲んでいた。

―――「でも、この場所がこの状態のとき、私達が行くことはできないわよ」―――
―――「大丈夫です」―――

 ニコリとハナは言う。

―――「説得力無いわよ」―――
―――「だが、ピンチはチャンス隣合わせというからな。彼女の言うとおりかもしれない」―――

 カイリューに乗ってスタンバイしているリュウヤは言った。

―――「俺もリュウヤの意見には賛成だな。今から行けば隙を突ける」―――

 ヒロトも賛成だった。

―――「何だかわからないアルけど、賛成アル!」―――

 先ほどアクアに状況を聞いたばかりでまだ把握できていないエアーもとりあえず賛成する。
 賛成しきれないのはアクアだけだ。

―――「でも……せめて半分くらいはここに残って、守らないと……」―――
―――「それなら俺が残るぜ」―――

 名乗り出たのが、ラグナだった。

―――「俺は強ぇ奴と戦えればそれでいいんだ!」―――
―――「(ラグナは飛行ポケモンに乗りたくないだけじゃないのか?)」―――

 ヒロトは思ったが、口には出さなかった。

―――「ここに残るのは、私とラグナさんでいいですね?」―――

 こうして、アクアは渋々ながらもハナの提案に乗ることになった。
 そして、ここに戻って来たのにもかかわらず、すぐにこの場を去って行った。

―――「そういうわけで、ラグナさん。中をお願いします」―――
―――「あ゛?てめぇはどうすんだ?」―――
―――「私はここに残って敵を引き付けます」―――
―――「一応聞くが、大丈夫なのか?」―――

 相手は雑魚7人と、リタンの部下の2人の計9人。
 それをいたいけなちっちゃな少女一人に任せるのもラグナは不安だったらしい。

―――「さっきSGに殴りこみに行った人たちよりも大丈夫です」―――
―――「他人事だな」―――
―――「私が殴りこみに行くわけではありませんもの」―――

 にっこりとハナは笑った。

―――「……。(汗) とりあえず、俺は中に行く!無理だと思ったら、洞窟に誘い込めよ!」―――



 こうしてラグナはここに来たのである。

「うめぇな!この桜餅……」

 差し入れで出された桜餅を食べるラグナ。

「それなら、早くハナの所に行かなければならないんじゃないか?」

 ハルキは気絶しているテツマとカンナの頭にタオルを乗せるとそう言った。

「あ!そうだったな!…………って、オイ!」
「ズズゥ……はい?」

 ハナはのんきにお茶をすすっていた。

「いつの間にここに来たんだ!?桜餅まで出しやがって!!」
「10分前からここにいました」

 相変わらずの笑顔、相変わらずのお茶が彼女のトレードマーク。
 この時もそうです。

「あいつらは!外にいた9人の奴らは!?」
「大丈夫です。ちゃんと懲らしめましたから大丈夫です。もう二度とポケモンバトルをしようとは思わせないようにしましたから」

 彼女は笑顔でそう言い放つ。

「後は、アクアさんたちが無事にSGを倒してくれることを祈りましょう」
「そうだな……って、オイ!俺たちはいかねぇのか!?」
「不測の事態に備えてです(ズズッ)」
「ラグナ……どっちにしてもお前は乗り物酔いだから無理だろ」
「う゛……」

 ハルキに指摘されて、口を濁す。
 そして、ラグナは思い出したように聞いた。

「ハナ。そういえば、アクアたちが出発する前に何かを渡したよな?アレって何だ?」
「アレですか?……アレはとっておきです」

 そういって、ハナは教えようとはしなかったとさ。



 第二幕 Dimensions Over Chaos
 襲撃のスカイガーディアン③ ―――預言者のリタン――― 終わり


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Last-modified: 2015-04-22 (水) 22:15:17
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