ポケモン小説wiki
たった一つの行路 №102

/たった一つの行路 №102

 オ前ハ知ラナイダロウ。
 自分ノ中ニモウ1人ノ自分ガイルコトニ
 オ前ハ知ラナイダロウ。
 俺ガオ前ヨリモ全テノ点ニオイテ勝ッテイルコトヲ
 オ前ハ知ラナイダロウ。
 俺ガオ前ヲ乗ッ取ッテ俺ノ思ウガママニ動ク日ガ来ルコトヲ
 全テハオ前ガ弱イカラ
 全テハオ前ガ許セナイカラ
 ダカラ、俺ハオ前ヲ消シ去ッテヤル



 たった一つの行路 №102



 13

 空から一匹のドラゴンポケモンが降りてきた。
 鋭い爪と威圧感を持つそのポケモンはボーマンダ。
 そして、その背中に乗っていたのは、険しい顔つきに少し目じりを上げているハルキだった。

「…………」

 ライトが修行を始めて5週目になろうとしていた。
 ハルキは手持ちのボーマンダから降りて、TCの入り口に入っていった。

「おかえりなさい。ハルキさん。どこへ行かれていたのですか?」

 穏やかな口調でハルキに話しかけるのは、モトキの妹のハナだ。
 彼女はハルキの正面に立って、見上げるように話しかけている。
 何せ、ハルキとハナでは身長が20cmほど違うので、そうなるのは必然だった。

「…………」

 しかし、ハルキはハナに何も語ろうとはしなかった。
 ロケット団のルーキーズに所属していたときも、ハルキはユウナたちとあまり会話をかわそうとはしなかった。
 喋るのはいつも必要最低限のことだけ。しかも、何も言わずに1人で行動に出ることが多い。
 だから、彼を協調性のない人間とか、自己中心的な人間とレッテルを貼られてしまうのである。
 実際、ここに着てから4週間の間に、TCのメンバーはハルキと距離を置いていた。
 ただ1人を除いては。

「……(ズズッ)」

 彼女はまたどこから取り出したのか、お茶を飲み始めた。
 そして、遠くから見守るようにハルキを見ていた。

 カレン……どこにいるんだ?
 ずっと側にいて守ると決めたのに……
 俺が見つけ出すまで、無事でいろよ……

 ハルキは椅子に腰掛けて、手を組んでその上に額を置いた。
 そして、幾時間か彼は眠りについた。



「ハルキさん」
「……?」

 ハナに肩をゆすられて、ハルキは目を覚ました。

「招集をかけられました。行きましょう」

 いつもの大広間に集められて、TCのメンバーが集合した。
 今集まっているのは、リーダーのテツマ、カンナ、シラフ、ハルキ、ハナ……。
 メンバー全体の半分の人数にも満たなかった。

「どうしたのですか?(ズズッ)」

 正座をしてハナは首を傾げつつ、湯飲みを手にしながら言った。
 ハナとハルキ以外の3人は非常に険しい顔をしていた。

「実は、シラフがこんな手紙を発見したのじゃ!」

 テツマがそう言って、手紙を取り出した。
 その手紙には以下の事が記されてあった。

“あなた達の基地の場所は調べさせてもらいました。数日後にあなた達を逮捕します。覚悟しなさい。by:SG”

「(差し押さえの予告……?)」
「SGの予告ですね。でも、どうしてこの場所がわかったのでしょう?」

 きょとんとハナは首を傾げる。
 その姿は純粋な可愛さで溢れていた。
 だが、そのハナの胸倉を掴んだ。
 シラフである。

「お前らの仕業なんじゃねえのか?お前らがSGにこの場所を教えたんじゃねえのか?」
「おい。やめろ」

 ハルキが言うと、シラフはハナを突き放した。
 「いたっ」と地面についた瞬間に顔を歪ませて声を上げたが、すぐに笑顔に戻って立ち上がった。

「俺はもともとお前らを信用していない!何より、お前らが入ったあたりから、周りで怪しい動きが多くなったと俺は考える!だから、お前らの仕業なんじゃないのか?」

 シラフが声を荒げた。
 彼は実質、TCのナンバー3であり、実力もリーダーのテツマに匹敵する力を持っていた。
 
「本当はお前ら……SGのスパイなんじゃねえか?」
「…………」
「…………(ズズッ)」

 ハルキは何も言わない。そして、ハナはやはりお茶を啜っていた。

「特にハルキ……手前が一番怪しいんだよ!毎日毎日、俺たちに何も言わずにどこへ行っているんだ?」
「…………」
「オラ!答えろ!」
「シラフ!その辺にしなさい!」

 深く追求するシラフの肩をつかみ、今までずっと話を聞いていたカンナが止めた。

「ハルキがSGのスパイだという証拠はどこにもないわ。それに、今すべきことはそのSGと戦うために準備をすることじゃないのかしら?」
「カンナ!お前は甘いぞ!」

 カンナやテツマの方が年上のためにいつも敬語で話すシラフだが、熱くなると見境がなくなるようだ。

「もしSGのスパイだったらどうする?仲間だった奴が敵だとわかったとき、対処できるって言うのか?」
「そ、それは……」
「スパイだったら今のうちに倒しておくのが上策なんだよ!!」
「やめんか!バカモン!!」

 テツマの雷が落ちた。
 シラフはビクッとして、我を取り戻した。

「スパイがいたときはそのときじゃ。じゃが、我輩は仲間を信じておる。ここにおるのは、SGのやり方に不満を持った13人なのじゃ」
「……はい……」

 シラフは蚊の鳴くような声で答えた。

「とりあえず、話はそれだけじゃ。いつSGの連中が攻めてきてもいいように準備を怠るな!以上じゃ!」

 そうして、散らばる。
 ハルキも自分の部屋に戻ろうとしていた。
 しかし、彼は奇妙に感じた。

「(…………なんだ?この違和感は…………?)」

 カンナは本を読み始め、シラフは舌打ちをして部屋へ戻る。
 テツマは日課の筋トレを始めていた。
 そして、ハナは笑っていた。
 だが、ハルキにはハナのその笑いがとても不気味に思えた。
 まるで何かを知っているかのように……。



 14

―――「さ、“三重人格”?」―――

 修行を開始してから2週間経った時、エレキは修行に行き詰まっていた。
 ポケモンたちの強さはモトキが認めるほどに随分成長したのだが、トレーナー自身がそれほど強くなっていなかった。
 それを睨んで、モトキはエレキを1人で修行をさせていたのだが、さほど大きな変化は見られなかった。
 そんな時、モトキが呼び寄せたハナが一言、エレキに指摘したのである。

―――「そうです。三重人格です(ズズッ)」―――

 相変わらず、ハナはお茶を飲んでいた。

―――「さ、三重人格って、あの、一人の中に三つの性格を持つ人のことですよね……?」―――
―――「はい。そうです」―――

 にこりと微笑んでハナは頷く。

―――「そ、そんな……僕にそんな人格なんて……」―――
―――「私にはわかります。今のエレキさんの中には2種類の願望を持つ人格があります」―――

 エレキが気弱に言うのに対し、ハナは話を続けていく。

―――「全てを消し去るという強い破壊願望。そして、全てを守り留めたいという強い守護願望……」―――

 エレキは自然とゴクッと唾を飲み込んだ。

―――「つまり、突き進む矛と防ぐ盾を同時に持っているのです」―――
―――「……そ、そんな人格が僕に……?」―――
―――「でも、今、エレキさんの人格達は眠っています。いえ、実際は片方の力が徐々に強まりつつあると思います」―――
―――「か、片方の力……?そ、それって、どっちなの?」―――
―――「全てを消し去るという欲を持つ矛の方です。そして、その矛の力は恐らくエレキさんの精神を侵食していきます」―――
―――「!?」―――
―――「だから、エレキさんがもう一つの人格……盾の人格を完全にコントロールするのです。すると、矛の人格もコントロールすることが出来るでしょう」―――
―――「ぼ、僕は一体何をすれば……?……えっ……あれっ?……体が……?」―――

 バタッ

 音を立ててエレキは地面に倒れた。
 ハナの傍らにはチリーンが浮いていた。

―――「エレキさん。自分を強く持ってください。そうすれば、きっと自分自身に打ち勝つことが出来ます。そして、何のために戦うのか。何のために強くなるのか。そのことを自分の力で見出すことができれば、もしかしたら、本当の力の封印を解くことも……」―――

 ハナはあらかじめ用意した毛布をエレキにかけてあげた。
 そして自分は、虚世界を出て行った。

―――「(どれだけかかるかわからないけれども、この催眠術は自分に打ち勝つまでは解けないようになっています。もし、負けたら今のエレキさんの人格がいなくなり、もう1人のエレキさんが代わって出てくるかもしれない。……だけど、私はエレキさんが戻ってくるのを信じています」―――



「ヒィッ!!」

 エレキは夢の中にいた。
 いや、夢の中というにはあまりにもリアル過ぎて、痛みも感じていた。
 そして、目の前では攻撃から守ってくれているエレキと本能のままに傷つけていくエレキの2人が戦っていた。

「へたれナオ前ラナンカ消シ去ッテ俺ガ本当ノえれきニナル!邪魔スルンジャネェ!!」
「マスター……しっかりしろ」

 この場にエレキは3人いた。
 1人は自分の本能に従い暴れるエレキ。いわば矛のような存在。
 1人は自分の理性に従い冷静に答えを導き出すエレキ。盾は彼である。
 そして、マスターであるエレキ……自分だった。
 ハナに催眠術をかけられて大分経つ。
 マスターエレキにはどれくらい経ったかなんて正確に把握ができなかった。
 その間に、理性である盾のエレキを見つけて仲間にすることが出来た。
 しかし、もう一つの本能である矛のエレキは決してマスターを慕おうとはしなかった。
 結果、こうやってケンカ……いや、戦いになってしまったのである。

 メリッ!!

「ぐっ!!」

 盾のエレキは矛の凄まじい右ストレートを食らって、膝をついた。
 その隙に乗じ、くるりと一回転しまわし蹴りを顔に叩き込んだ。
 吹っ飛ばされて、地面に転がる盾。
 盾を飛ばしたのを見て不敵に笑う矛。

「俺ハイツモオ前ニ不満ヲ持ッテイタ」
「え、え!?」
「ぽけもんばとるハ俺ノ数十倍下手糞デイツモぽけもんタチニ迷惑ヲカケテバッカリ。TCノ活動デハ仲間ノ足ヲ引ッ張ッテバッカリ。ソシテ、気ニシテイタ“えあー”ニハイイヨウニアシラワレテバッカリ……」
「え、エアーは関係ないよ!!」
「関係ナイダト?ばかナ。俺ハ前ダ。オ前ノ考エテイルコトハワカル。ソシテ、オ前ハ考エナガラ何故、彼女ヲ奪ワナイ?彼女ノ心ヲ。彼女ノ体ヲ。彼女ノ全テヲ……。オ前ハ消極的過ギンダ!俺ガオ前ノ一部ダト考エルト腹ガ立ツンダ!ダカラ、俺ガますたーニナル!」

 矛と本能のエレキ。
 それは歯止めの効かない理性。
 エレキのネガティブである性格とは別物である。
 しかし、それをポジティブと呼ぶ者はいない。
 ただ、我欲の為に突き進む矛である。

「ぼ、僕はエアーを大切に思っている。だ、だから、お前には指一本も触れさせない!」

 ズゴッ!

「うっ……」
「誰ニ指一本モ触レサセナイッテ?」

 右脇腹が痛打した。
 マスターはあっけなく仰向けに倒された。

「力ガナイ奴ガ守ルナンテ戯言ヲ抜カスナ!以前、“力が欲しい”トイウ言葉ヲ聞キ、一度ダケ力ヲ貸シテヤッタコトガアルガ、アレハオ前ガクタバルノガ俺ニトッテ不都合ダッタカラ。ソシテ、ドレダケ俺ガ“俺自身”ノママ外ニ出ラレルカ試スタメダ!ソレ以外ノ何物デモナイ!」

 矛は倒れているマスターを見下ろす。
 マスターは息を荒くして矛を見た。

「俺ハモウ嫌ダ。オ前ヲ消シ去ッテ、俺ガオ前ニナル」
「い、い……や……だ……」
「!?」

 マスターはふらふらしながら立ち上がった。

「ぼ、僕は他人と比べて何も自信が持てない。も、物事を慎重に考えすぎて失敗する。だ、だから、仕方がないと思っていた」
「…………」
「こ、このまま、人格が変わって僕が消えてしまうのもいいかなって考えてみた。で、でも、そんなの嫌だ。他の誰に負けても、自分に自信が持てなくても、自分自身には負けたくはない!そ、それに……やっぱり、お前にエアーを渡せない!!」

 立ち上がってマスターは拳を振りかざす。

「ソレナラ、俺ヲ一発デモ殴ッテミロ!……ナッ!?」

 矛のエレキが焦った。
 後ろから羽交い絞めにされたのである。
 そう、先ほどまで倒れていた盾のエレキに。

「ずっと私はこの機会を待っていたんだ。お前が隙を見せるこの瞬間をな」
「クソッ!!」
「てりゃぁぁぁぁぁ!!」

 バキッ!!

 矛の右頬にマスターの拳が入った。
 マスターの懇親の一撃。

「はぁはぁ……」

 エレキは自分の右拳を抑えて、矛を睨んだ。

「え、エアーは……ぼ、僕が守る」
「フン、二人ガカリカ」

 矛のエレキの姿が徐々に透明化してきた。

「少シハオ前ノ力ヲ認メテヤル。ソシテオ前ノ力ノ一部ニナッテヤル。ダガ、一ツダケ聞ク」
「な、何を……?」
「オ前ハ一体何ノタメニ戦ウ?」
「ぼ、僕の答えは決まっているよ!み、みんなを守るために……」
「守ルタメニ戦ウノカ?」

 冷たい笑いを浮かべる矛。

「な、何がおかしいの!?」
「本当ニ戦イハ守ルタメニヤルモノダト思ッテイルノカ?」
「……?」
「マアイイ。オ前ニトッテ戦イノ本当ノ意味ヲ知ラナイ限リ、“俺ノ人格”ハ消エルコトハナインダカラナ」
「ど、どういう意味!?」

 しかし、矛は答えず、マスターであるエレキの中に吸い込まれていった。

「う、うわっ!?」

 エレキは尻餅をついて、自分の体を見る。
 しかし、なんとも無かった。

「大丈夫だ。“あいつ”はお前なんだからな」
「で、でも、何でこんなに僕の人格がいくつもできちゃったの!?」

 残った盾のエレキに尋ねるマスター。

「……それは……私にはわからない。まるで大きな力が働いているのではないかと思う」
「お、大きな力?」
「そう。まるで、力を封印するかのような……」
「ふ、封印って……僕の中の?」
「…………。とりあえず、“あいつ”は“お前”を乗っ取ろうとしているが、私は再び、一つの人格に戻れるように協力する。それまでよろしく」
「う、うん……」

 盾がマスターエレキの中に入っていった時、エレキは気を失った。



 15

 ―――同時刻。迷いの森。

「はぁはぁ……くっ……」

 頭からツーっと血が流れ落ちる。
 しかし、彼はそんなことお構い無しに1人の少女を背負い、歩き続けていた。

「くっ……あいつ……今度会ったらただじゃおかねぇ……」

 ラグナはエアーを背負いセリフを吐き捨てた。
 あの強力な攻撃の中で、ラグナはエアーを背負い逃げることが出来た。
 だが、ラグナは右足と頭をケガして引きずっていた。
 やがて、体力がそこを尽き、膝ががっくりと折れた。

「…………ち、畜生…………」

 ドサッ

 倒れるラグナ。
 エアーもまだ目を覚ますことはなかった。



 何時間経っただろうか?
 ラグナとエアーはまだ気絶したまま動かなかった。
 そんな2人に近づく3つの影があった。

「見つけた」

 淡々と青髪で黒いマントを羽織った男はラグナを見つけるなり、それだけ言った。

「『見つけた』って……怪我しているじゃない!手当てをしてあげないと!」

 ブルーのタイトスカートに赤と白のチェックのシャツの女性が慌てた表情で黒マントの男を叩いた。

「とりあえず、本部まで運ぼう!」

 緑髪の男の提案に二人は頷いて、飛行ポケモンに二人を乗せた。
 そして、彼らは飛び上がった。



 第二幕 Dimensions Over Chaos
 三人のエレキ 終わり


トップページ   編集 凍結 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2015-04-21 (火) 21:48:23
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.