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たった一つの行路 №101

/たった一つの行路 №101

 さて、何故ラグナがこんなことになっているのか説明しなければなるまい。
 それは4週間前のことである。

「っ!!どこだここは!!」

 今までずっと気絶していたラグナは急に目を覚まして飛び起きた。

「……俺は……何でここにいるんだ……?思い出せねぇ……」

 軽く頭を打ったようで何があったか前後のことが思い出せなかった。
 仕方がなく辺りを見回すがそこは暗く、深い、見渡す限りの森であった。
 少し身体を動かし、木に寄りかかった。
 その時、初めて一つの人影に気がついた。

「目が覚めたでアルね!?」

 その少女、エアーは爪先立ちでじっとラグナを見つめていた。
 そうやら、ラグナを観察していたようだった。

「……てめぇは誰だ?」

 自分を見ていた少女に向かってラグナは鋭い声を放つ。

「私の名前はエアーアル!宜しくアル!!」
「…………。…………っ」

 エアーの自己紹介を無視して、ラグナは頭を抑えて立ち上がる。

「てめぇは何だ?」
「私はエアーアル」
「名前じゃねぇ!!てめぇが何者かって聞いてんだよ!!」
「私はトレーナーアル」
「そんなの腰についているボールを見ればわかんだろうが!!」

 エアーの短パンの腰のバックルにはしっかりと6つほどモンスターボールが取り付けられていた。

「じゃあ、何が聞きたいアルか?」

 エアーの言動はラグナを苛立たせる。
 どうも、調子が合わないらしい。

「ここがどこか教えろ」
「ここは……森アル」
「……どこの森だ?」
「カントー地方にある北の森アル」
「何て名前の森だ?」
「知らないアル」
「…………」

 何を聞いても無駄だと悟ったか、頭を押さえて、やれやれと首を振った。
 そんなラグナの隣に寄り付くようにエアーはラグナに顔を寄せ付ける。

「君の名前を教えて欲しいアル!」

 しかし、ラグナはエアーの質問には答えず、エアーを片手で軽く突き飛ばし、舌打ちをして歩き出した。

「どこ行くアルか?」

 エアーはラグナの後ろをヒョコヒョコとついていく。
 当然ラグナは鬱陶しく思っていた。

「決まってんだろ!!森を出るんだよ!!」
「出られないアルよ」
「は?」
「私、この森に来て2ヶ月になるけど出られないアルよ」
「そんなバカな話あるか!!」

 と言ってラグナはまっすぐ進んでいく。

「てめぇはついてくんな!!」

 ついていこうと思ったエアーはラグナの大声に少しビビリ、怯んで足を止めてしまった。
 その間にラグナはずっとまっすぐ走っていった。
 だが、その行動が無駄なことだと30分後に知ることになる。

「ほら、言った通りアル」
「……ウソ……だろ?」

 まっすぐ走った先に待ち受けていたのは、エアーだった。

「どういうわけか、ループしているアルよ」
「わけわかんねぇ!!」

 近くの木を蹴り飛ばすが、そのショックは自分へと帰ってくる。
 そして、痛めた足を押さえる。いわゆる自業自得だ。

「足、大丈夫アルか?」
「うるせェ!!」
「そういうわけで森を出ることが出来なかったから、修行しながら野宿していたアル」
「いろいろ試したんじゃねぇのかよ!!」
「試す必要は無いアル」
「何でだ?」
「ちょうど山篭りしたかったアルから!」
「(くそっ……こいつ……天然か?)頭痛ェ……」
「頭、大丈夫アルか?」
「てめぇのせいだッ!!」



 たった一つの行路 №101



 そして、今日に至る。
 エアーはラグナに懐こうとしていたが、ラグナは一向として、エアーと距離をとっていた。
 積極的に自分のことを話そうとするエアーに対して、ラグナは話そうとはせず黙り込んでいた。
 だが、エアーの言うポケモンバトルの修行には付き合っていた。
 しかし、あくまでラグナの考えていることはこの森を脱出することだけだった。
 エアーが最低限の荷物を持って立ち上がった。

「ラグナたん。ちょっと水浴びしてくるアルよ。覗いたらお仕置きアルよ」
「……誰がてめぇみたいなガキの身体を見るか」

 この日も夕食(という名の木の実)を食べ終えて、エアーがお風呂(という名の水浴び)に行った。
 エアーは長期の野宿の生活にもともと慣れているようで、木の実とか水だけでも生活していられるようだが、ラグナはそれほど野宿の生活が好きでは無い上に栄養のない食べ物のせいでこの森に迷い込んだ頃と比べてげっそりと痩せてしまっていた。
 それでも、食べないよりはましである。
 今は体を休めて空を雲が少々かかっている三日月を見つめながら、考え事をしていた。

「(1番手っ取り早いのは空からの脱出だが…………)」

 そう思いながらも、ラグナはその考えを即却下した。
 実はポケモンだろうが、乗り物だろうが、彼は必ず乗り物酔いを起こす体質の為、飛行ポケモンをパーティに入れていないのである。
 つまり、移動するときは必ず徒歩になる。
 本人曰く、地に足がついていないと気持ち悪くなるらしい。

「(エスパーポケモンをゲットしてテレポートで脱出することも考えたが……駄目だ。ここらへんのポケモンはレベルが低い上にエスパーポケモンなんていやしねぇ)」

 つまり、彼らには脱出する方法は無いのである。

「つーか、絶対おかしい……。一体どうやったらこんなマリオのゲームみたいな無限ループ現象がおきやがるんだ?それこそエスパーポケモンの仕業か?」

 あれこれと考えたが、結局全てが意味をなさなかった。
 仕方がなく、ラグナはもう一つのことを考えた。

「(ちっ……少ししか思い出せねぇぜ……)」

 自分が何故ここにいるのか?だっだ。
 しかし、これでも彼が思い出したことが少しだけある。
 それは、気を失う寸前に何かの依頼を受けて、誰かと一緒だったということ。
 ラグナはよくSHOP-GEARに頼まれる依頼をこなしていた。
 それは、金を稼ぐ為でもあり、自分が今までしてきたことを少しでも償えたらと言うことである。
 ラグナは以前、ロケット団のルーキーズとして、ユウナ、ハルキ、ヒカリと一緒に暗躍していたことがある。
 ロケット団は潰れて今は散り散りと自分の新しい生活に慣れていた。
 ユウナはSHOP-GEARの一員になり、しかも、リーダーとして任されるほど腕を上げていた。
 ハルキはオーレ地方でカレンと仲良く暮らしている。
 アゲトビレッジの長、ローガンに長として認めてもらえるようにがんばっているとか何とかとユウナから聞いていた。
 そして、残りのヒカリは幼馴染のヒロトと仲良く旅にでている“はずだった”。

「ふぅ……」

 一息ついて、ラグナが旅のうちに身につけた技術のうちの一つ……蒸留で作った水を少し口に含んだ。

「(そうだ……ユウナだ……。SHOP-GEARでユウナから依頼を受け取ったんだ……。そして……その後だ!その誰かに会ったのは……誰だ……?一体……)」

 しかし、その先が思い出せなかった。
 もうどうしようもなく、ラグナは横になった。

「(とりあえず……この森を抜けることと、俺の記憶を取り戻すこと……早くしねぇとな)」
「ラグナたん!!」

 ちょうどその時エアーが水浴びから帰ってきた。
 その時の格好は、タオル一枚を身体に巻いていただけだった。
 いつも頭に巻いている鉢巻はなく、髪の毛はびっしょりと濡れて、ぼさぼさだった。
 長い髪だと乾かすのが時間がかかるが彼女の髪はそれほど長くないから、そのままにして置けば乾くことだろう。

「どうアルか?」
「どうって何がだ?」
「私のか・ら・だ♪」
「何度言わせりゃわかる」

 顔を引きつらせて、ラグナは身体を起こした。

「俺はてめぇみたいなガキの身体になんて何の魅力も感じねぇ!10年後に出直して来やがれ!」

 そう言われると、エアーはプクーっと頬をハリーセンのように膨らませた。

「ラグナたんって……胸が大きい子が好きアルか?」
「当たりまえだろ?女なんて胸が大きくて何ぼだろうがよ」

 今まで、この森の脱出以外の話題を振られても、会話をしなかったラグナが初めて喋った。

「第一、ペッシャンコだったら男と何も変わらねーだろうが」
「そういう問題アルか?」

 ラグナの持論を聞きながら、エアーはラグナの隣りに座った。

「それなら、ラグナたんの彼女の理想のタイプは、ただスタイルがいい女アルか?性格とか顔は興味ないアルか?」
「彼女?……俺には彼女なんていらねぇ」
「何でアルか!?」

 意外な返答に戸惑う。

「てめぇに教える義理はねぇ。そんなことより、てめぇこそどうなんだ?」
「え?」
「エレキって奴だ」
「っ!?何で知っているアルか?」
「てめぇ……自分で話したの覚えてないのか?」
「覚えているアルけど……」

 エアーが口ごもるのには訳がある。
 最初のうち、仲良くなろうとして色々な話題でラグナに話し掛けていた。
 しかし、どんな話題にも振り向こうとしなかったから、自分の気になる人をとりあえず語ってみたのである。
 だけど、ラグナは黙り込んで知らん振りをしていたので、聞いていないんだなとエアーは思っていた。
 実際、ラグナは黙り込んで話に興味がないようにしていただけで、エアーの話を聞いていないわけではなかった。

「自分で言ったじゃねぇか。『エレキたんがカッコイイアル!でも、最近忙しくて会えないアル……どうすればいいと思うアルか?』って」

 エアーの口調でセリフを一言一句間違えず真似して言う。

「い、一緒に旅をしたいとは思ったアルよ?でも、自分の気持ちがわからないアル……」
「俺から言わせてもらうぜ」
「アル?」
「自分の気持ち正直になれ!それが答えだ」
「そうアルか……?」
「ぐちぐち頭で考えるよりも、行動で示せ!俺だったらそうする。あとは自分で考えやがれ」

 そう言い残すと、ラグナは木にもたれてスヤスヤと寝息をかき始めた。

「…………私の…………エレキたんに対する気持ちは…………」

 エアーは、木の実を焼いていた時からずっと燃やしていた焚き火をずっと見ていたのだった。



 ―――翌朝。

 ポツポツ……

「うん?」

 鼻に水滴が落ちたとき、ラグナは目を覚ました。
 まだ少し暗く、夜明け前のようだ。
 その暗くしている原因は一筋の光も差し込まないほどの雲の量と空から降ってくる天使の涙だろう。

「ちっ、雨か……。ん……?」

 辺りをラグナは見回すが、エアーがいないことに気がついた。
 どうせ、木登りとか、1人でポケモンバトルの修行をしているのだろうと思っていた。
 だが……

「アルゥッ―――!!」

 大きな声が聞こえた。
 しかし、野生のポケモンにしてはどこかで聞いたことがあるし、特徴のある語尾だと思っていた。

「エアーの悲鳴か?」

 そう思い、ラグナは駆け出していた。
 鬱陶しい木々と草木を掻き分けて、進んだ先に、エアーとゴウカザルが倒れているのが見えた。

「エアー!てめぇ……何をやっていやがる?」
「ラグナ……たん……」
「オメーもこいつの仲間か?」
「あ゛?誰だてめぇ」

 男の声がして振り向くと、そこには太ったスポーツ刈りでゆったりとした『Gravity』という黒い文字が入った白いTシャツにラフなグリーンのハーフパンツを穿いた少年が立っていた。
 年齢はエアーよりと同じくらいか幼いくらいだと認識した。

「俺が誰でもいいだろうが。俺が聞いているのは、オメーがこいつの仲間か?って聞いてんだよ!!」
「こんな奴、仲間じゃねぇ。ただの知り合いだ」
「そうか……じゃあ、オメーも打っ倒す」

 少年がボールを投げると、覆いかぶさるようにケッキングが襲い掛かってきた。

「ケッ……」

 ズドンッ!!

 硬い牙でケッキングのおなかを捉えた。
 しかも、向かってきた力を利用してそのまま投げ飛ばして、木にぶつけた。
 ケッキングにぶつけられた木は数本を巻き込んでなぎ倒された。

「……俺と戦うなら相手してやる。だが、覚悟を決めやがれ」
「へぇ!!やるもんだな」
「ラグナたん……気をつけるアル……」
「エアー……てめぇは寝てやがれ」

 エアーをちょっと見た後、ラグナは少年を見据える。
 少年は余裕だった。
 その証拠に倒れた木の中から、ケッキングが姿を現した。

「てめぇもちっとはやるようだな!クチート!本腰で行くぜ!!」

 ケッキングがのしのしと重量感たっぷりの音を立てながら走って接近する。

「(スピードはたいしたことねぇ)クチート!!『マウスバッド』」

 クチートの頭の方の口を振り回して、殴りつける。

「そのケッキングの……パワーは……」

 エアーのうわ言がラグナの耳に届いた頃には、クチートとケッキングの攻撃が衝突した時だった。

 ズギャンッ!! ズシャンッ!! ズシャンッ!! ズシャンッ!! ズシャンッ!! …………

 ケッキングのパンチはクチートの攻撃を押しのけて打っ飛ばした。
 先ほどの攻撃のお返し……いや、それ以上だ。
 木を十数本なぎ倒してしまった。

「オラ!どうした?これでしまいか?」
「ハッ!おもしれぇ!パワーで俺のポケモンを上回るなんて、てめぇ、上等だぜ!」

 ラグナは笑っていた。

「行くぜ!ダーテング!!『リーフスラッシュ』」

 団扇のような手の葉っぱに風をまとった。

「ケッキング!!ぶちかませッ!!」

 シュバッ!! ズシンッ!!

 ケッキングとダーテングが交錯して、ダーテングが振り向いた時、ケッキングが膝をついた。

「『裂水<れっすい>』!!」

 そのまま、手の葉っぱから繰り出す凄まじい風の斬撃を繰り出し、ケッキングに強烈な一撃を叩き込んだ。
 衝撃の音とともにケッキングは木にもたれるようにして気を失った。
 それを確認して、少年は丸いポケモンを繰り出した。
 いや、そのポケモンを丸いと言うにのは間違っていた。

「ケッ!せっかちな野郎だ。出した瞬間からすでに『転がる』のトップスピードとはよ!」

 そういいながら、ラグナとダーテングは紙一重でかわした。

「だが、ドンファンでいいのかぁ?一撃で倒してやるぜ!」
「一撃で倒すだって?オメーは相性で物を言っているのか?」
「相性?そんなの関係ねぇな!」
「そうか。ということはオメーもパワーに自信があるトレーナーなんだな!?」

 ラグナは先ほど繰り出したダーテングの風の斬撃、裂水を繰り出す。
 少年のドンファンは、自信を持ってダーテングへと突っ込んでいった。

 ズドンッ!!

 ダーテングの攻撃は決まった。
 しかし、ドンファンは倒れずに転がって向かってきた。

「もう一発!!」

 ズドンッ!!

 連続して二撃目を命中させた。
 それでも、ドンファンを倒すのには十分とはいえなかった。

「くっ……」

 だが、舌打ちをしたのは少年の方だった。
 二撃目の裂水での衝撃で吹き飛ばされて、転がる攻撃をキャンセルされてしまっていたのだ。

「オラッ!!食らいやがれ!!『葉っぱカッター』!!」

 瞬時に接近して、葉っぱを繰り出す。
 しかし、その攻撃を鼻先で弾き返してきた。
 返されたカッターをまともに受け、ダメージを負ったダーテング。

「舐めるなよ!転がっていなくてもこいつの力はつえーんだぜ!」
「悪かったな。ちょっと舐めてたぜ。『エナジーボール』!!」
「そんな攻撃が効くか!!」

 緑色のボールを繰り出すもあっけなく打ち返そうとする。

「こんな攻撃で倒そうなんざ考えてねぇ!」
「っ!!まさか、ドンファン!!回避を……」

 エナジーボールの威力は、葉っぱカッターの威力を遥かに下回っていた。
 それは、ボールの見た目と実際に打ち返してみた感想である。
 もしかしてそれは手加減して撃ったからという少年の予測が浮かんだ。
 そして、同時に何故そんなことをしたのか?と思う。
 それは、ドンファンがエナジーボールを返すのと同時にドンファンが返すことの出来ない強力な攻撃を繰り出して、次の初動を遅らせるためだった。
 無論、ラグナはダーテングに裂水を指示して、エナジーボールを打ち抜き、ドンファンを吹っ飛ばした。

「どうした?次来いよ!」

 ラグナは親指でクイッと自分を指差し挑発した。

「なら、コイツでどうだ!!」

 次に繰り出したのは、岩・鋼のノーマル技ではほぼ攻略不能のボスゴドラだ。

「チェンジだ」

 一旦ラグナはダーテングを戻して、ピクシーを繰り出した。

「なんだ?そいつで俺の鉄壁を誇るボスゴドラを倒すってか?」
「ピクシー!『コメットパンチ』!!」

 ガギンッ!!

 とっても硬い金属音が響く。
 ボスゴドラが2メートルくらい後ろに下げられた。

「へぇ。まさか、ピクシーの攻撃力がこれほどあるとは思わなかったぜ!だが……」
「…………」
「決定力不足だぜ!!」

 少年の言うとおりだった。
 ピクシーの攻撃は完璧に決まったのだが、強固な体のせいでダメージは全くと言っていいほどなかった。

「ピクシー!!『メロメロ』!!」
「効くかッ!『メタルクロー』!!」

 腕を振りかざし、ピクシーを捉えた。
 いとも簡単にピクシーは上空に飛ばされて、地に伏せた。

「一撃だ」
「ちっ、一撃か……(カウンターさえもさせないほどの威力か)だが、次でそいつを倒す」
「やれるもんならやってみやがれ」
「レントラー。『雷牙<ライガ>』!!」

 接近し、ボスゴドラに噛み付く。

「そんな攻撃で、倒せるものが……なっ!?」

 少年の思惑とは裏腹にレントラーのキバがボスゴドラの体を噛み砕いた。
 ボスゴドラは一撃でダウンしてしまった。

「なんだ!?今の攻撃は?ただの『かみなりのキバ』じゃねーのか!?」
「あ゛?『かみなりのキバ』も『雷牙』も同じだろ!」
「(……だが、おかしい!それにしたって、この攻撃力は尋常じゃない!何か秘密があるはずだ)」
「俺のレントラーはな、極度の男嫌いなんだぜ。だから、その分だけ攻撃力が増すんだ」

「(……何だ?もしかして、そのからくりはただ特性が『闘争心』だけだからってか?)」

 最初にピクシーを出したのも、ただ無謀にかかってきただけでなく、ボスゴドラの性別を確認するためだった。
 しかし、ラグナは十分にピクシーでも戦えると考えて出したのではあるが。

「(そんなのどうでもいい!パワーでねじ伏せるだけだ!)」

 少年の繰り出しポケモンはハリテヤマ。
 ラグナはそのままレントラーで行く。

「捻じ伏せろッ!!」
「『10万ボルト』!!」

 電撃を飛ばし、ハリテヤマに命中させるが、さほど効いていない模様。
 そして、強力な張り手が振り下ろされるのを見て、レントラーは思い切って後ろに跳んだ。

 ズシンッ!!!!

 地震級の揺れが巻き起こる。
 地面にはハリテヤマの手の跡が残っている上に、半径5メートルくらいの窪みがボコッと出来ていた。

「そいつのパワーは洒落になんねぇな」
「うらっ!『つっぱり』!!」

 一撃一撃をレントラーに向けて無理おろす攻撃は、確実に地面や周囲の木に手形として残っていた。
 その攻撃をレントラーは紙一重でかわしていた。
 しかも、凄まじい威力のせいでツッパリをしたときに生じる衝撃波にも当たらずである。

「当たれば……一撃で倒せるんだ!!」
「当たらなければ意味ねぇんだよ!レントラー!!」

 指示を受けて跳びつくようにフットワークを使って接近する。
 だが、ハリテヤマはレントラーの動きを読んでいた。
 着地する地点を狙って、つっぱりを繰り出したのだ。

「(捉えた!!)」

 少年はそう思った。

 ズシンッ!

「!?」

 しかし、攻撃は当たらなかった。

「(レントラーの尻尾か!?)」

 ハリテヤマが攻撃を繰り出した瞬間に尻尾で横から腕を弾いて攻撃の軌道をずらしたのである。

「やれッ!!」

 地面を蹴り、体当たりするように回転しながらハリテヤマの腹に噛み付いた。
 そして、

 ヴァリッ! ヴァリッ!! ヴァリッ!!! ヴァリッ!!!!

 強烈な電撃とともにハリテヤマを木にぶつけていった。
 その力はまるでミサイルのごとく重い一撃だった。
 やがて、立派な神木と思われる木にぶつかったと思うと、さらに電撃が炸裂して燃やしてしまった。

「当たれば一撃?そんなのこっちも同じことなんだぜ?」

 少年のポケモンとラグナのポケモンの破壊力はほぼ同等かラグナのほうが少し劣っていた。
 だが、それでも違うことは命中率だろう。
 ラグナは確実に少年のポケモンにダメージを与えた。
 そして、風はラグナの方に吹いていた。

「(ヤベーな……。あのヤローがここまでつえーとは)」
「『10万ボルト』!!」

 危機を感じながら、ラグナの攻撃をかわす。
 
「(残ってんのは後二匹……ヤローの余力を考えると、勝ち目は薄い)」
「何だ?逃げてばっかりか?」
「(俺から手を出した手前……逃げ出すわけにはいかねー!)」

 覚悟を決めて少年はボールを取り出した。
 だが、その前に草むらから飛び出した、ポケモンがレントラーを攻撃した。

「なっ!?」

 突然の攻撃にラグナは驚いたが、それほどダメージはなかった。

「邪魔すんじゃねぇ!!『10万ボルト』!!」

 飛び出してきたポケモン……クロバットに向けて攻撃を放つ。
 しかし、クロバットは消えるように移動し、楽にかわす。

「ちっ!これならどうだ!『回転雷牙<カイテンライガ>』」

 地面を蹴り、回転しながらクロバットに襲い掛かる。
 先ほど、ハリテヤマを一撃で倒した技だ。
 だが、当たらない。
 クロバットのスピードが明らかに上回っているのである。
 かわしたクロバットはヘドロ爆弾を繰り出して、レントラーを倒してしまった。
 そして、クロバットは姿をくらましてしまった。

「(……野生のポケモンにしてはスピードも技のキレもつえぇ。ってことは、どこかにトレーナーがいやがる!!)」
「そうか!!」

 少年はそのポケモンがなんなのかわかったようだ。
 ラグナを見たかと思うと、ハガネールを繰り出してきた。

「2対1だろうが、ぶっ潰してやる!!オーダイル!ダーテング!」

 トレーナーが近くにいると思い、2匹のポケモンを繰り出すラグナ。
 思ったとおり、今度は茂みからハクリューが飛び出してきた。
 先にハクリューを倒そうと考えて、ダーテングにハクリューへの攻撃を集中させた。
 しかし、ハクリューのスピードもとにかく速かった。
 ダーテングの攻撃をかわしながら、オーダイルにヒット&アウェイを繰り出した。
 ハガネールを倒すのに集中していたオーダイルは集中力を削がれて、ハガネールにまったく攻撃できない。

「『ギガインパクト』!!」
「!!」

 少年のハガネールの攻撃力も例外ではなかった。
 全てのポケモンの攻撃力が桁違いで、オーダイルは一撃で負けてしまった。
 オーダイルに気をとられていた一瞬の隙を狙って、ハクリューがダーテングを攻撃。
 瞬く間に、ラグナのポケモンは倒されてしまった。

「ちっ!誰だ!出てきやがれッ!!」

 ラグナは痺れを切らして、森の中を叫んだ。
 すると、ガサゴソと茂みから音がした。

「やっぱり、兄貴だったんですね!」

 茂みから出てきた男を兄貴と呼ぶ。
 そしてその後ろからひょっこりとテンガロンハットを被った子が出てきた。

「プレス君。大丈夫?」

 名前を呼ばれた少年は「ああ」と頷いた。

「あいつは……」

 バンダナの男はラグナを見て呟く。

「お兄ちゃん……知り合い?」
「てめぇ……また会ったな」

 ラグナはその二人を見て言った。
 だけど、実際に話しかけたのは、プレスと呼ばれた少年が兄貴と慕い、テンガロンハットを被った子がお兄ちゃんと呼んでいたバンダナの男だった。

「……誰だったかな?」
「な゛!?てめぇ!!俺のこと覚えてねぇのか!!」
「……どこかで会ったかもしれないが」
「とにかく、兄貴!一気に片付けるぜ!」
「ああ」

 プレスの呼びかけで、兄貴と呼ばれる男は頷きハクリューに破壊光線を指示。
 ハガネールがストーンエッジを繰り出した。

「(やべぇ!ヌケニンをッ!!)」

 ラグナはモンスターボールを構える。しかし、そのときに後ろにいる存在……エアーがいたことに気付いた。

「くそっ!!」

 エアーに手を伸ばすラグナ。

 ズドンッ!!!!

 その攻撃はラグナもろとも巻き込んで大破したのだった。



「……いない」

 攻撃で巻き起こった煙が晴れると、そこには倒れていたエアーもラグナも姿を消していた。

「……ん?何であいつがここにいるんだ?」

 バンダナの男は思い出したようにふと呟いた。

「お兄ちゃん……やっぱり知っているの?知り合い?」
「……いや、なんでもない」
「でも、バッチリだよ!さすがお兄ちゃん!『トキワの力』を使いこなしてきたね!」
「……そうか?まだ、俺にはこの力にはまだ何かが隠されているような気が知れないのだが?」
「……!! さすがお兄ちゃん……そのことに気がつくなんて……。でも、その力は自分に大きな反動を与えるものなの。だから、まだ教えられなかったんだよ」
「……そうか」
「そんなことより、ジョカ」

 暇そうに懐に入れていたリンゴを取り出し、かじりながらプレスが言う。

「あの二人はどーすんだ?このまま放っておくのか?」
「大丈夫だよ。このまま放っておいても。さて、戻ろう。ミナノが心配しているんだよ?」
「またドジしていると困るからな。早く帰らねーとな」

 こうして、彼らは森の中へと消えていった。



 第二幕 Dimensions Over Chaos
 迷いの森のラグナ 終わり


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Last-modified: 2015-04-21 (火) 21:47:57
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