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たった一つの行路 №099

/たった一つの行路 №099

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「はぁはぁはぁ……たす……助けてーーー!!ヒィーーー!!」

 ダークグリーンの前髪を垂らして、息を切らしながら少年は逃げていた。
 彼が通った道は溝が出来たり木が傷つけられたりと燦々たる状況になっていった。

「うわっ!!」

 やがて少年は石につまづいて転んだ。

「やっと追いついてわよ!!」
「オイドン腹が減ったぜよ。早く始末するぜよ」
「うわっ!!お願い!!パチリス!ルージュラ!」

 逃げられないと悟って少年は慌ててポケモンを繰り出すが、二人の大人はそれぞれケンタロスとフローゼルの攻撃で倒してしまった。

「そ……そんな……」
「さぁ……決めるよ!ハシラ!」
「合点!スティック!」
「(……死んだ……)」

 少年は攻撃から逃れられず、目を閉じた。
 だが、2人は攻撃をやめさせた。
 予期せぬことが起こったからだ。

「えっ?うわっ!!」

 ドガン!!ドガン!!ドガン!!

「何ぜよ!?」
「上から人が落ちてきたわ!!」

 その数3人。

「あ~んもう!!イターイ!!私の体が傷物になったらどうするのよー!!」

 1人はセーラー服を着た二十歳前後の女性。

「…………そんなことはどうでもいい。重い……どけ」

 1人は上にのしかかっている女性を除けようとする無愛想な白髪の少年。

「うぅ……ここはどこ……?」

 もう1人は黄色い髪に帽子のスパッツの少女だった。
 そう、彼女たちはマングウタウンからワープしてきた残りの3人、上からユウコ、ハルキ、ライトだった。
 まさに上からその順番で積み重なっていた。



 たった一つの行路 №099



「ハルキ!ユウコさん!早くどけてよ……重い……」
「私は重くないわよ!!重いとしたら、ハルキよ!」
「そんな議論に興味はないから、早くどけ!!」

 そんなこんなでライトから降りるユウコとハルキ。

「……大変な目に遭ったわ」
「い……痛いよ……」
「え?誰!?」

 声が聞こえたと思った時、ライトは下にいる感触を初めて感じた。
 ライトは少年の背中に馬乗りになっていたのである。
 慌てて立って、少年の背中から避けてあげた。

「……大丈夫?」
「だ……大丈夫じゃないです……」

 手を差し伸べて、少年はその手を掴んで立ち上がった。
 そして、ライトの顔を見たとき、突如頬を硬直させた。

「あんた……名前は?」
「ぼ、ぼ、僕はエレキです」
 
 もじもじしながらエレキは答える。

「エレキ君……? 可愛いー♪」
「え!?」
「ユウコ?」

 エレキのその仕草に萌えたか?ぬいぐるみのようにエレキを抱きしめるユウコ。

「パッと冴えなく、もじもじしているところがツボだわー♪」
「……ライト。ユウコってこんな性格なのか?」
「多分……(汗)」

 その影響でエレキは顔を真っ赤にしてさらに慌てふためく。

「ユウコさん……いい加減にエレキを開放してあげたら?とっても辛そうだよ?」

 そう。ぬいぐるみのようにギュッと抱きしめているということは自然と彼の顔を胸に当てているということである。

「えー。可愛いのに……。まぁいいわ」

 ユウコが腕を放すと、エレキは顔をまだ真っ赤にしながら、じりじりとユウコから遠ざかった。
 エレキはユウコに危機感を覚えた。

「ところでエレキ……。実は私たち探している人がいるんだけど、手伝ってくれない?」
「さ、探している人ですか……?い、いいですよ。あっ!で、でも……」
「でも何?」
「……あ、アレを見てください……」

 ライトがエレキの言われた方向を見ると、そこには先ほどからいるマフラーをした女性と竹刀を持った中年太りの男がいた。
 そして、彼らはとっても腹を立てているらしい。

「あたしたちを50行以上も無視するなんていい度胸じゃないの!!行くわよ!ハシラ!」
「合点!スティック!何者か知らないがオイドンたちがお前らを倒すぜよ!!」

 そう言って、ケンタロスとフローゼルが襲い掛かってくる。
 だが、攻撃をカポエラーとゴルダックが受け止めた。

「……なんだ?お前らは」

 突然の攻撃にハルキは冷静に受けて、問いかける。

「いきなり攻撃してくるなんて卑怯じゃない!!しかもトレーナーに向かって!!」

 ライトも当然の反応を示す。

「ハァ?何を言っちゃってくれてるの?邪魔者はトレーナーであれポケモンであれ容赦しないのがあたしたちよ!?」
「そうぜよ!そうぜよ!」
「それならやってあげるわよ!!ゴルダック!!『ウォータースラッシュ』!!」
「カポエラー。『回し蹴り』」

 ガギッ!! ズドン!!

 攻撃は見事にヒットした。が……

「あら……この程度なの?」
「正直拍子抜けぜよ」
「「!?」」

 ゴルダックのウォータースラッシュをフローゼルは素手で受け止めて、ケンタロスはカポエラーのキックを角で受け止めていた。
 そして、それぞれゴルダック、カポエラーを吹っ飛ばしてダウンさせた。

「うそでしょ……一撃!?」
「くっ……」
「ちょっと!!しっかりしてよ!!ハルキ!ライト!」
「う、うぅ……」

 ユウコはエレキをまた捕まえて今度は首を絞めている。
 エレキはとても苦しそうだ。
 しかも、ユウコはただ口を出しているだけで、ライトたちに加勢しようとは考えてもいないようだ。

「相手は手ごわいわね……」
「意外とまずい展開かもな……」

 ライトとハルキは相手の予想外の強さに焦っていた。

「終わりだ!!」

 そして、ケンタロスとカポエラーが襲い掛かった。

「♪『ヒートブラスト』!!」

 ゴォオーーー!!

「なっ!?」
「何ぜよ!?」

 突然の凄まじい業火が巻き起こり、それに巻き込まれたフローゼルとケンタロスが一瞬でダウンしてしまった。

「こ、この声は……!?」

 エレキがふとつぶやく。

「誰!?」
「どこぜよ!?」
「♪ここだぜぃ~」
「!!!!」

 全員が驚いた。
 何せ、ライトたちの目の前にその男がいきなり現れたのだから。
 男は金髪で身長は180くらいあった。
 さらに、何故かエレキギターを弾き鳴らしてやかましかった。
 その頭にはペラップがいた。

「♪まったく~探したんだぜぃ~!」
「見つけたでヤンスよ!エレキ!」
「も……モトキさん……トラン……」
「あいつ何者なの……?」
「ありえないぜよ!一撃でオイドンたちのポケモンを倒すなんて只者じゃないぜよ!一旦撤退するぜよ!」

 そういってハシラという中年男とスティックという女は逃げていった。

「あ!待ちなさいよ!!」
「待て、ライト」
「ハルキ?」

 追いかけようとするライトの手を掴む。

「あいつらに追いつくのは無理だ。それに、追いついたとしても…………」
「……くっ……」

 唇を噛み締めて悔しそうにするライト。
 今までこの日のために強くなろうと修行してきたのに、まったく歯が立たなかったことが肉体的よりも精神的なダメージを負ったようだ。

「それで……あんたは何だ?」

 改めて、ハルキが金髪の男に聞く。

「♪俺は~モトキっ!よろしくな~!(ジャジャーン)」
「オイラはペラップのトランでヤンス!」
「答えになってない……。しかも、ギターがうるさい」
「♪まーまー少しはいいじゃないか~いいじゃないか~」
「モトキ……少なくてもギターはしまうでヤンス。あの人……本気で怒りそうでヤンスよ?」

 トランに宥められて、渋々ギターケースにエレキギターをしまい、背中に背負うモトキ。
 そのギターケースの先端にトランは落ち着いた。

「オイラたちはリーダーに頼まれてエレキを探していたでヤンスよ!なにぶん、物騒になってきてるでヤンスから」
「物騒?……どういうこと?さっきのエレキみたいに、理由もなく襲われるってこと!?」
「わ、理由がないわけじゃないと思うけど……」
「どういう意味よ?はっきり説明して!!」
「う、うわっ!!」

 グラングランとエレキの胸倉を掴んで揺さぶるライト。
 エレキの頭の上にはすでにヒヨコが飛んでいる。

「♪ところで~君たちは~何でこんなところにいるのだぁ~?」

 そう聞かれて、ハルキとライトは返答に困った。
 何せ違う世界から来たのである。
 でも、正直に話すには相手が信じるかどうか問題である。
 それに、相手はなんだか、マイペースでつかみどころがない性格だったからライトもハルキも困っていた。
 2人が困っていたところ、1人の女性が前に出た。
 先ほどまでずっと黙り込んでいたユウコだ。

「「ユウコ?」」

 前に出たかと思うと、スタスタと歩いていって、モトキの正面に立った。

「あれっ?でヤンス!?」

 トランがユウコを見て驚いている。それはモトキとて同じだった。

「ここにいたのね!!私の白馬の王子様!!」

 トスッ

「えっ!?でヤンス!」
「…………」
「えぇ―――!?」
「ちょっ!!ユウコさん!?」

 それはそれは突然のことだった。
 ユウコは身を預けるようにモトキに抱きついたのだ。
 そのことには周りにいた全員が唖然としていた。

「お……♪俺だって~……捜していたさ」

 ギュッ

「ちょっ!?でヤンス!?」
「……っ!?」
「なぁ―――!?」
「うそ……」

 そのユウコを抱き寄せるように手を背中に回して抱きしめ返すモトキ。
 まさかまさかの展開に、さらに騒然とした。

「私は、違う世界からあなたに会いたくてここまで来たの!」
「♪そ~だったのか~…………」
「あの時は助けてくれてありがとう…………できるなら、ずっと私の側にいて……」
「♪もちろんさ~」
「じゃあ、お願い!誓いの口付けを……」
「♪ああ~」

 そのままノリに乗って、唇を近づけさせる二人……

「スト―――ップ!!スト―――ップ!!あんたたち!ちょっと止まりなさい!!離れなさい!!」
「そうでヤンス!!いきなりラブシーンに入るじゃないでヤンス!!」
「えー!別にいいじゃない!同意の上だし」「♪え~!別にいいじゃないか~読者も望んでいるんだし~」
「流れ的に悪いでヤンスよ!!」
「見てると腹が立つのよ!!」
「そっちでヤンスか!?」

 どうやらトランが止めたのは進行上の不都合を正してくれようとしてくれたのだが、ライトが止めたのはあくまでいちゃついているのが、見ていてムシャクシャしたかららしい。

「モトキとユウコが相思相愛なのはわかったから、説明してくれ。ここは一体どこなんだ?そして、さっき襲ってきた奴らはいったい……?」

 ハルキが話を元に戻す。

「モトキ……ちょっといいでヤンスか?」
「♪なんだ~? ……あっ、ユウコはちょっと聞かないで~」
「えぇ?隠し事!?夫婦の間に隠し事なんてなしよ♪」
「いつから夫婦になったでヤンスか!?」

 とにもかくにも、モトキとトランは二人で何かを話していた。
 それが終わった時、モトキは言った。

「♪とにかくみんな来てくれ~」
「え?」
「オイラたちの本部に案内するでヤンス!」
「え、えぇ!?ど、どういうことですか!?モトキさん!?」

 驚きの声を上げたのはエレキ。

「♪とにかく、そこで話をきこ~ぜ」

 こうして、モトキとトラン、そして、エレキに、ユウコ、ライト、ハルキの三人はついていった。
 ユウコはモトキにずっと引っ付いていたという。



 かつて無人発電所と呼ばれる場所があった。
 そこには伝説の3鳥と呼ばれるうちの一匹、サンダーが生息していたことでも有名である。
 しかし、あるときその発電所はジョウト地方のコガネシティとカントー地方のヤマブキシティをつなぐためのリニアの発電所として建て替えられた。
 それは今でも動いていて日夜人々のために役立っている。
 そこから程なく歩いたところに洞窟があった。
 しかし、洞窟と言っても構築されて中は、石柱が並んでいたり、ドラゴンの銅像が立っていたりと、まるでゲームに出てくるジョウトリーグチャンピオンのワタルの部屋みたいだ。
 そのような通路を通ると、いくつかの分かれ道があるが、まっすぐに進んで行く。
 そして、辿り着くとそこには普通の民家の家っぽく、小さかった。

「……こんなに狭いの?外から見たら凄そうだったのに……」
「♪いや~テツマのおっちゃんが~ここが狭い部屋がイーって言ったからさ~。だから、おっちゃんの部屋は狭いのさ~。広いところならフィールドくらいの広さがあるぜぃ~」
「……ギターがうるさい」

 ライト、ハルキ、ユウコの3人は謎のギターリストのモトキと冴えない少年のエレキにこの場所へと連れて来られた。

「良くぞエレキを探して来てくれた!さすがだ、モトキ!」
「♪ユウコ~どっかデートに行こ~」
「いいわよ♪私、温泉がいいわ~」

 口元に髭を生やした歳をとっていそうな割に筋肉質のお爺さんはモトキを褒めていた。
 しかし、偉そうな口ぶりでモトキに話しても、当の本人はマイペースでギターを弾き、しかも、ユウコとイチャイチャしていて話を聞いていなかった。

「モトキー!テツマさんの話を聞くでヤンス……。テツマさんが怒るでヤンスよ?」

 相変わらずギターの先端に止まって、モトキにひそひそと助言するのは、ペラップのトラン。
 しかし、トランの助言も虚しく、テツマは激昂した。

「人の話を聞かんか―――!!」

 ハイパーボイス並みの衝撃が巻き起こり、大気が震えた。

「(このじじいもうるさい……)」
「(ヒ、ヒィー)」

 ハルキはテツマもモトキ同様の印象を覚え、エレキはテツマの気迫にビビッていた。

「それで、一体こやつ等はなんじゃ!?我輩はエレキのみを連れて来いといったはずじゃぞ?何故余計な者も連れて来た!?」
「♪それは~この人たちが~伝説に語り継がれる3人のゆ~しゃ(勇者)だからです」
「ボケナス!!そんなの聞いたことないわッ!!」

 あっさりとテツマは伝説を否定した。

「モトキ……あなたがこの子達を連れてきたのには何か理由があるのでしょう?」

 すると、このフロアに入ってきた女性がメガネをきらりと光らせて聞いてきた。
 エレキはふと「カンナさん」と呼んだ。

「♪ま~な」
「その理由を我輩にわかりやすく教えろ!」
「♪だ~か~ら~行ったじゃないですか~!この3人は伝説に語り継がれるゆ~しゃだって!」
「モトキお兄さん……その説明ではだめです(ズズッ)」
「……誰?」

 ライトが後ろを振り向くと、フリルのついた白いワンピースを着た女の子がいた。
 その女の子はとても幼く見えた。
 そして、その手には『シズオカのお茶』とプリントされているペットボトルをお茶会で飲むように丁寧に正座して飲んでいた。

「三人の伝説の勇者じゃなくて、救世主です」
「ハナ!根本的に説明になってないでヤンス!!」

 ハナと呼ばれる女の子にトランがツッコミを入れる。

「え~と、それなら……3人の漫才トリオ?3バカ?」
「全然違うでヤンス!」
「無名の怪盗?それとも、破壊者?」
「悪い人たちじゃないでヤンスよ!!」
「じゃあ…………あわ~」

 ハナが何かを喋ろうとしたところで、カンナがハナを押しのけて言った。

「……あなた達が何者か、そろそろ話してくれないかしら?」
「♪だから~」
「もうお前には聞いとらん!」

 テツマがモトキを一括。
 モトキは軽いノリで「♪ちぇ~」と舌打ちをして、口を閉じた。

「私達は、森で迷っていたところをモトキに助けられました。そして、モトキさんは私達がとってもバトルで高い素質を持っていることを見抜いてくれたの。だから、私達はバトルを教わるためについてきたの!」

 ライトは一編にそう話した。
 しかし、ライトの話した内容は事実とはちょっと違っていた。
 本当なら、「別世界からエレキの背中に落っこちてきて、何だかわからないうちにバトルに巻き込まれて、モトキに助けられて、何も言わずにモトキについて来いといわれた」という所。
 その事実を話さなかったのは訳がある。
 この場所に来るまでにライトは自分たちのことを簡潔にモトキに説明をした。
 モトキは少し考えると、ライトに先ほどテツマに言った内容を話せと言われたからである。
 モトキが何を考えているかはわからないけど、ユウコにメロメロになっているあたり、裏切って厄介なことにはならないだろうという自信がライトにはあった。
 それに、万が一、モトキとバトルすることになったら、勝機は0だということも承知していた。
 敵を増やすことよりも、味方を増やすことが先決だとこのときライトは思ったのである。

「モトキが推薦するほどの腕を持つ3人ねぇ…………」

 カンナがまじまじと順番にユウコ、ハルキ、およびライトの顔を見る。

「♪もし3人ともTCに入ってくれるなら13人になるぜ~」
「ふふっ、いいんじゃないかしら?テツマ」
「カンナも認めるならそれでいいだろう」

 ライトは深い息をしたときだった。

「俺は信用できないぜ!」

 いつの間にか、壁に寄りかかった男が鋭い目つきでモトキを睨んでいた。

「し、シラフさん……?」

 エレキは少々怯えて、その男の名前を呼んだ。

「何が信用できないというんじゃ!?シラフ……お前、説明してみろ!!」
「第一に、モトキ!てめーが一番信用できねぇ!!目的もなくTCに加わりやがって、一体何を考えていやがる!?」

 モトキのことなのに当の本人は口笛を吹いていて、しかも妹はのんびりとお茶をたしなんでいた。

「第二に、ガキばっかりじゃねえか!こんなんで、SGに対抗できると思ってんのか!?このメンバーで本気で勝てるとでも思ってんのか!?」

 シラフの鋭い眼と感情を剥き出しにした声にエレキはより怯えている。
 ハルキはさほど興味なげにそっぽを向いている。
 ライトはといえば、ガキという言葉にムッと来ていた。
 「ガキでもあんたよりは強いわよ!!」と言おうと前に出ようとしたけど、次の声に遮られた。

「別にいいじゃない~ねぇ~モトキ~♪」

 ユウコの声である。

「♪そ~だよな~!大事なのは、実力さ~。アレだよ~あれッ!女の子が~外見じゃなくて中身が大事なのと同じさ~」
「さっすがモトキ♪よくわかってるぅ~」

 そしてイチャイチャとユウコとモトキ。
 トランは「また始まったでヤンスか」とげんなりとしていた。
 またライトはその様子を見て、イライラもしていた。

「そういうことじゃ。我輩の決定に文句があるのか?シラフ!!」

 テツマにそういわれると、シラフは不快感を露にして舌打ちをした。

「アクアといい、この前入ってきた“あの二人”といい、生意気なガキばかりだ!!とにかく俺はてめーらを信じてないからな!!」

 そう吐き捨てると、シラフはこのフロアを出て行ってしまった。



「モトキ!しっかりと説明してもらうわよ!!」

 バンッ!と机を叩いて、話を聞きだそうとしているのはライト。
 しかし、当の本人はユウナとイチャイチャの真っ最中である。
 当然、彼女は怒りに燃えて、モトキの頬に拳をぶつけた。

 ゴキッ!!

 骨が砕けたような音がした。

「♪ちょっ!痛いじゃないか~!」
「そうよ!!ライト!こんなにきれいな顔が傷ついたら、あんた、どう責任を取るの!?」
「それなら、ちゃんと話を聞きなさいッ!!!!」

 このライトの形相に、エレキとトランはテツマの先ほどの剣幕よりも恐怖を感じたと言う。



「サーティーンカード?」
「そ、そう。ぼ、僕達が所属している組織の名前は、サーティーンカードって言うんだ」

 モトキが相変わらず、説明したがらないのを見て、ライトはエレキにこの集団を説明してもらうように言った。
 本当なら、この場所に来る前に話してもらおうと考えていたのだが、モトキがエレキに口止めしていたために、それは出来なかった。
 エレキはモトキから了解をもらって、ライト達に説明をしていた。
 そして、エレキは『THRTEEN CRAD』とスペルを書いた。

「……エレキ?スペルはこうじゃないの?」

 ふと、ライトは気付いて、『THIRTEEN CARD』と書き直した。
 間違いを指摘されて恥ずかしくなったか、さらに顔を俯かして前髪で顔を隠した。

「なるほど……だから『TC』なんだ……」
「ほ、本当なら、『サーティーンガード(TG)』になるはずだったんだけど、テツマさんが間違えて、『サーティーンカード(TC)』って書いたのが始まりだったらしいんだよ……。こ、これはアクアさんから聞いた話なんだけどね……」
「どこかで聞いたことあるような間違いね……。ところで、アクアさんって?」
「あ、アクアさんは僕をこの組織へ入れるのに進めてくれた人で、僕の先輩なんだ…………」
「ところで、俺たちが入ると13人になるって言っていたが、他にはどんな奴がいるんだ?」

 ライト同様に立っていたハルキがエレキに尋ねた。

「えーと、テツマさん、シラフさん、カンナさん……あっ!カンナさんは昔四天王のメンバーだったほどの実力なんだ……。後は、僕、アクアさん、モトキさん、ハナさん……」
「それに私とユウコとハルキ……残りの3人は?」
「そ、それが……僕は知らないんです……」
「どういうこと?」
「ちょ、丁度そのとき僕はいなかったんで……」
「♪そ~言えば、そんときエレキは彼女のことを探していたんだよなぁ~」
「わわわっ!!も、モトキさん!!余計なことを言わないでください!!」

 顔を真っ赤にして慌てるエレキをユウコは面白そうに見ていた。

「残り3人がわからないのか……」
「♪アクアが2人をつれて残りの1人を探しているらしいぜぃ~」
「えぇ?あ、アクアさんが!?」
「♪エレキその時いなかったからなぁ~。彼女を探していて~」
「に、二度も言わないでください!!」

 すでにエレキは半べそ気味だ。

「じゃあ、次の質問ね。SGって何?」

 ライトは真面目に聞いた。

「え、SGというのは略称で正式名称は『スカイガーディアン』と言って、ポケモン協会の公認の組織なんです。そ、そしてプテラのシンボルを掲げています」
「……?何でプテラ?」
「そ、それは、10年前くらいにある有名なトレーナーがなくなって、そのトレーナーが使っていたポケモンの一つがプテラなんです。そ、その人は僕の父さんの―――」
「そうか。で、この組織は何をする組織なんだ?」
「あ、はい」

 エレキの話に割って入るようにハルキが尋ねる。

「大抵はテツマさんから任務をもらって、各地を調査するんです。でも、最近はSGを邪魔する仕事が多いんです……」
「SGを邪魔する!?SGはポケモン協会公認の組織なんでしょ!?その邪魔をするって事は……」

 ライトは何かと正義感が強い。
 つまり、TCのやっていることは悪いことなんじゃないかと考えた。

「き、近年になってSGが奇妙な活動をし始めたんだ。そ、それがどうもポケモン協会に見つからないところで動いているんだ。ち、近くに住んでいる住人はSGは正義を遂行する組織だって信じている。だ、だから、僕はテツマさんを信じて動くことしか出来ないんだ……」
「……要するにSGに対抗するための組織と言うわけか」
「結構面白そうな仕事しているのねぇ~ダーリン~♪」
「♪そうなんだよ~ハニー」
「そ 「そこッ!!うるさいわよ!!」

 トランが突っ込もうとした所に割ってライトの拳が入る。
 しかし、今度はモトキの顔じゃなくて腹に一発入った。

「ちょ!?大丈夫!?モトキ!?」
「♪う~」

 苦しそうにうめくモトキ。
 でも、ユウコの膝枕でとっても幸せそうだ。

「じゃあ、エレキ……最後の質問よ。エースって知ってる?」
「え、エース……?トランプのカードですか?」

 ガゴンッ!!

「殴るわよ?」
「ヒッ!!し、知りません!!し、しかも殴ってから言わないでください……」

 本人真面目に答えたのに、殴られる始末。
 すでにエレキの目からは涙を滲ませていた。

「♪さぁ!!はじめようか!!」

 突如弾け出したようにモトキが立ち上がった。
 ユウコにお腹を摩られて苦しそうだったモトキだが、まったくなんでもないようである。

「何を始めるんだ?」

 ハルキがモトキのテンションに白けながらも聞いた。

「♪何って、シュギョ~(修行)さ~。だって、ここに連れて来たのはライトちゃんたちにバトルを教えるためなんだぜ~!教えなかったらつれて来た意味ナッシング~じゃないか~」
「え?その話……ほんとのことだったの!?」
「♪これでも~俺はショ~ジキ者なんだぜぃ~」
「さすが私の王子様~♪」

 いっそうユウコはモトキにべっとりとくっついた。

「♪ついでに、エレキもシュギョ~すっか?」

 少し、エレキは戸惑いながらも頷いた。

「ぼ、僕も強くなりたいです!!」
「私も行くわよ~ダーリン!」
「興味ないな」
「え?」

 ライト、エレキ、ユウコが修行を決意する中、ハルキがそう言った。

「何でよ!?ハルキ!!」
「目的を見誤らない事だな。目的は強くなることではない。エースを探し出すことだ。そんなこともわからないのか?」
「わかっているわよ!!……でも、今の実力じゃ……勝てないのよ……」
「それなら勝手に修行しているがいい。俺は自分のやり方でエースを探し出す。それに一刻も早くカレンと合流したいからな」
「(……まさか……早くカレンと合流したいだけなんじゃ……?)」

 ライトがそう思ったとき、ハルキは何も言わず出て行ってしまった。

「♪ま~仕方がないな~。この4人で修行をすることにしよう」
「で、どうするんですか?」
「♪ちょっと、ユウコ、離れてくれ~」
「え~!!……は~い……」

 渋々とモトキの腕に絡み付いていた腕を解いて、ライト達に並んだ。
 モトキは懐からとある本を取り出した。

「何それ……?」
「♪行くぜ~『ヤヘノ=キトトン=シイセ』!!!!」

 モトキがおかしな呪文を唱えたかと思うと、ライト達の体におかしな現象が起きた。

「ちょっと……これ……」
「か、体が……本に……」
「吸い込まれてるぅ!?モトキィ―――――――!!!!」

 3人の体がスゥ~ッとその本の中に吸い込まれていった。

「モトキ……エースって……」
「トラン」

 モトキがとっても珍しく真面目な口調で話し始めた。

「ライトちゃんにこの話をするにはまだ早い……。修行が終わってからでも遅くはない。 ♪ハナー」
「はい(ズズッ)」

 いつの間にかモトキの部屋に入ってきていたのかわからないが、ハナが湯飲み茶碗でお茶を飲みながら座っていた。

「♪ハルキを頼むぜぃ~」
「はい。わかりました」

 はにかんでその場を立ち去るハナ。

「♪さぁ~俺達は、彼女達のシュギョ~をしてあげないとな~」

 すると、モトキは競泳選手のように飛び込みをして、その本の中へと入っていったのだった。

「(♪そういえば、あの3人はどこまで探しに行ってるんだろ~)」

 残りのライト達の見知らぬメンバーのことを気にしながら……。



 第二幕 Dimensions Over Chaos
 サーティーンカード 終わり


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Last-modified: 2015-04-20 (月) 20:19:04
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