6
「もう一方の世界ではカスミさんがジムリーダーをしているんですか?」
ハナダシティを散策する二人の少女がいた。
昨日、この町にやってきたカスミとハナダジムでファイアと一緒に住んでいるリーフだ。
カスミはリーフから様々な情報を教えてもらっていた。
以前に、ファイアの母親がハナダシティのジムリーダーをしていたこと。
しかも、そのファイアの母親の名前も同じくカスミだったと言う事。
まずこの二つがカスミに印象に残っていた。
「そうよ。そして、私には3人のお姉さんがいるの。いつも私は隅っこで健気に咲くカスミソウって呼ばれていたわ」
「カスミソウですか……」
「サクラ、アヤメ、ボタン……お姉ちゃんたちの名前はとても花がある名前なのに、私の名前はカスミ……。何でこんな名前なのかしらね……」
「でも……」
ため息をつくカスミにリーフが言う。
「でも、カスミソウって、1年中咲いている花ですよね?冬に咲いているのを見かけたことがあります」
「ええ。知っているわ」
「だから、『カスミ』という名前には、いつでも強く咲いていられるようにという願いが込められているのではないでしょうか?」
「寒さに負けずにか……そういう考え方もあるのね」
リーフにそういわれて、カスミは頷いた。
「私もお姉ちゃんがいるんです」
「リーフのお姉さん?」
「そう。私はファイアと一緒に今はここで住んでいますけど、お姉ちゃんはマサラタウンでパパとママの仕事を手伝っているんです」
「お手伝いねぇ……」
「でも最近は、いろいろと忙しくてカントーのあちこちを飛び回っていますが……」
「飛び回っているって……何をしているの?」
「私が聞いてもお姉ちゃんは教えてくれないの……なんかとても大きなことらしくて……」
「大きなことねぇ……あ、それより!!」
急に笑顔になって、カスミは問いかける。
何かを思いついたような顔だ。
「何ですか……?」
「ファイアとはどこまで行っているの?」
「どこまで……え……!?いや……そんな……」
急に顔を赤くして、もじもじし始めるリーフ。
「そ、それより、カスミさんこそどうなんですか……?」
「わ、私は……その……」
「カスミさんにも相手はいるんですね?どんな人なんです!?」
「いつも無茶をして……無鉄砲で……ほっとけない人……よ……」
「それじゃ、一度ぐらいキスしたんですか!?」
「き、キス!?」
そう言われて、カスミはあのときのことを思い出した。
サトシがマヤの魔法によってピカチュウにされてしまった時のことである。
その魔法の解除方法は術をかけられた者が想っている人とキスをすることであった。
その方法、サトシは無事、ピカチュウから元に戻ることが出来た。
しかし、あれ以降、サトシは自分からキスをすることもないし、カスミもうまくことが進まなく、つまり進展がゼロだった。
「したことないんですか?」
「いいえ!あ、あるわよ……でも……」
「でも?」
「あいつの方から、してもらったことがないのよ。それにあいつは鈍感だし」
サトシの特性『鈍感』。
これは、とても厄介な特性であることには間違いない。
「どんな人か会って見たいですね」
「一緒にこっちに来ているはずだから、そのうち会わせてあげるわよ。それより!リーフとファイアはどうなのよ?」
「え、あ、それは……」
こうして、カスミとリーフは一日中、恋話を続けていたという。
たった一つの行路 №097
7
ユウナ、マサト、カスミの3人はハナダシティに来ていた。
そこでハナダシティのジムリーダーのファイアとそのガールフレンドのリーフに出会った。
いち早くエースの居場所を知るために情報が欲しい三人はファイアに天才双子のマサミとナナキのいる岬の小屋へ案内してもらうことになった。
その岬の小屋へ行く途中にあるのは、ゴールデンボールブリッジゲートブリッジ。
その由来は材料が『きんのたま』で作られたからとか、もともとは金色の橋でできていたが争い事で焼け落ちて、うまくそれを再現できなかったとか一説があるが、全ては謎である。
その橋では最近、ポケモンバトルを仕掛けてきて、負けた奴は通さないという、橋を占領している連中がいた。
現在、その橋でファイア、ユウナ、マサトが足止めを食らっていた。
“そこの3人!この橋を通りたければ、俺たちを倒すことだな!”
“負けたら通さないわよ!”
“つまり、通さないってことだわいな!”
「誰この人たち?」
「最近、この橋を占領している、橋5兄弟さ。ほんとの兄弟じゃないみたいだけど」
「強いのかしら?」
「まぁ、俺に任せてくれ」
ワンピースとズボンを一緒に履いた女性(ユウナ)とメガネの少年(マサト)を差し置いて、ポケットモンスターファイアレッド、リーフグリーンの主人公の格好をした少年(ファイア)が前に出た。
「俺1人で戦う」
“なんだ!?”
“1人で戦うですって!?”
“舐めるなよ!!”
頭にきて一斉に襲い掛かる5人。
そのポケモンはキャタピー、カイロス、ドガース、ニョロモ、及びヒトカゲだった。
「行くぜ!!ライ!!」
だが、ハサミを持った一匹のポケモンがその5匹を一蹴。
瞬く間に倒してしまった。
「あっという間だったわね」
「ファイアさん……水系のポケモンだけを使うんじゃないんだ……」
ユウナの言うとおり、あっという間だった。
そして、何が起こったかわからないようで、トレーナーたちは目をパチクリさせていた。
「ああ。ジム戦では水系しか使わないけど、それ以外のときは今まで育て上げたポケモンたちで戦っているんだ」
マサトの問いに答えながら、ファイアはボールに戻した。
「あなたのグライオン……なかなか育てられているわね」
「どうも。さぁ、先に進もうか!」
ファイアが先導して先に進んでいった。
「こんにちはー!」
小屋に辿り着いて、ファイアがドアを開けるけど、返事は返って来ず、誰もいなかった。
「あれ?おかしいなぁ……。どこに行ったんだろう?マサミ!ナナキ!」
彼らの名前を呼ぶが、返事が返ってくることはなかった。
小屋は何かの資料とかフロッピーとかディスクとかが散乱していた。
また、机の上には片付けないで置きっぱなしになっている皿やマグカップなど。
そして、パソコンが数台設置されていた。
「もしかして、ハナダシティに行ったんじゃないの?」
「いいや、二人がハナダシティに顔を出す日は定期的に決まっているんだ。だから、いつもは二人揃ってここにいるはずだけど……」
「いないわね」
ユウナが渋い顔をして小屋の中を見ていた。
散らかっていると思いつつ辺りを見回すと、見慣れない大きい機械が置いてあることに気付いた。
あまりの大きさに最初は何なのか気がつかなかった。
「この機械って何かしら?」
ユウナは慎重にその装置を触りながら言った。
「その機械はカントーのポケモンの転送システムさ。マサミとナナキはその管理を任されているんだ」
「そんな大事な仕事をあなたと同じくらいの年の子がやっているわけ?」
「俺と違って2人はとっても頭がいいのさ。何せタマムシ大学で2人揃ってトップの成績を持っているくらいの頭脳だからね。それに家系のせいでもあるだろうな」
「家系?」
「ああ。2人の父親はこのポケモン転送システムの発明者。母親はあのオーキド博士の孫なんだ」
「オーキド博士の孫ねぇ……」
ユウナはその馬鹿でかい転送システムをまじまじと見ていた。
「家系なら、僕もパパがジムリーダーなんだよ!だから、僕もジムリーダーになるんだ!!」
ずっと2人の話を聞いていたマサトがふとそう言った。
マサトの言葉を聞いて、ユウナはファイアが少し暗い顔をしたような気がした。
「あっ!もしかしたら、小屋の外で何かやっているのかもしれない……!外に出て探してくるよ!」
マサトは外へと飛び出して行った。
そうして残ったのはファイアとユウナだけになった。
「そうか。マサトも父さんがジムリーダーか……」
「(……マサト“も”……?)まさかと思うけど、昨日リーフが言っていた13年前にある事件で亡くなった人って……」
頭の回転が速いユウナは気付いた。
13年前の事件とファイアの父親は関係があるのではないかと。
なぜなら、今とユウナが13年前の事件を追求しようとした時とファイアが同じ表情をしていたからだ。
「…………」
しかし、ユウナはそれを聞いてしまったと思った。
あまりにもファイアが険しい顔をしていたからだ。
でも、ファイアは答えた。
「ああ。俺の父さんは13年前の事件で亡くなったんだ」
「…………」
「とっても強いジムリーダーだった。その強さはどのトレーナーよりも強く、そして、カントーの3強って呼ばれたほどの実力者だったんだ」
「カントーの3強?」
ファイアは頷く。
「俺はその強さを意識した時に父さんはいなくなった。そして、父さんを超えたいと思った。でも、今となっては比べることはできないんだ……」
「亡くなった人を超えること……。確かにそれは難しいことね…………」
ファイアのその気持ちはオトハのヒロトを想う気持ちと似ているようだがそれは違う。
オトハがヒカリの存在を超えるのも対象がいない限りできないことだが、愛や情熱は変わることもあり、何かに変えることもできる。
しかし、以前に過去の物として存在した強さを越えることというのは対象が居ない限り比べることは出来ない。
強さはその人物のものであり、愛や情熱とはまた別のものである。
そうユウナは考えていた。
「あなたは父さんを超えたいの?」
「そうだ!俺は超えたい……!」
力強くファイアは答える。
「それならば、キチンと前を見て進むことね」
「え?」
「あなたのお父さんがどれほどの強さを持っていたか、あなたにどれほどの影響力を持っていたかなんて私にはわからない。だけど、あなたが自分のお父さんを気にしているうちは超えられないと私は思う」
「気にしているうちは超えられない……?」
「別に気にしないで……。私の持論だから」
すると、ユウナは小屋のドアに手を伸ばし開けて外へ出て行った。
「どこ行くんだ!?」
「ナナキとマサミを探すに決まっているでしょう。おそらく二人はこの近くに居るはずよ」
「何でそんなことがわかるんだ?」
「ここにさっきまで誰かがいたという証拠を見つけたのよ」
「何それは?」
「その1:この小屋が開いていたこと。普通外出する時は鍵を閉めるものでしょ?あなた、普通にこのドアを開けることできたでしょ?」
「あ……そういえば……」
「その2:パソコンの1台がまだ熱を帯びていたこと。これはパソコンが今まで使われていた証拠ね。それに他の一台も付けっぱなしだったし」
「言われてみれば、スクリーンセーバーになっていたかも……」
「その3:小屋の中にあったマグカップの中のコーヒーが完全に冷めていなかった。少なくても、30分くらい前にはこの部屋に居たことになるでしょ?」
「なるほど……。それなら、早く見つけよう!」
「ファイアはあっち、私はこっちを探すわ」
「OK!!」
そして、二手に分かれて森の中へ探しに行った。
「アル!ここか!?岬の小屋って言うのはよー!」
「そうだ」
ユウナとファイアが森の中へ入ってすぐに謎の美少年のアルと他2名が小屋に近づいていた。
そして、3人は鳥ポケモンから降りて小屋のドアに手をかけた。
「ここはラムちゃんに任せてーな!」
自分のことをラムちゃんを呼ぶ女は、どこかさばさばとした女性だった。
そして、小屋の中に入っていった。
「ガン……見張りを任せた」
「ああ。しっかりやれよ!」
ガンという大男に見張りを任せて、アルもその小屋の中へと入っていった。
だが、その時、もう1人の人物が小屋に近づいていた。
「あ!?もしかしてあなたがナナキさんですか!?」
メガネをかけた少年……マサトである。
結局、辺りを探しても2人は見つからなく、仕方がなく戻ってきたようである。
「……誰だお前?」
「僕はマサトです!小屋を探してどこにもいなかったから森の中を探したんですよ!よかった……」
「そうか……。それで何のようだ?」
ガンは自分の正体を隠して、マサトが何者かを探った。
「実は、僕たち情報を知りたいんです!」
「情報?そんなの知らない!帰れ!」
「えー!?そんな…………折角、エースさんの情報が手に入ると思ったのに……」
「(エース!?)」
心の中でガンは驚いた。
「(コイツ……エースを探しているのか?あのイエローの息子のエースを……?コイツはいったい何者だ?)」
「みんなは中にいるんですか?」
「(みんな……?こいつに仲間が居るのか?……でも、小屋の中にはいなかった筈……。どちらにしても、コイツを逃がすわけには行かない……)」
チャキ……
「え……?」
ガンが武器を構えていた。
それは、一般的に銃と呼べるような代物だった。
「『エレクトリックリボルバー』!!」
ズドンッ!! バリバリバリッ!!!!
「うわぁ―――!!!!」
その攻撃を直撃してマサトは吹っ飛んだ。
そして、森の茂みの中に埋もれた。
「……なんだ……この程度の不意打ちもかわせない奴か……」
「い、一体何をするんだ!!」
茂みからよろよろと出てくるマサト。
威勢よくガンに意見をする。
「俺の名前はガン。決してナナキという奴じゃねえぜ」
「ガン?何者だよ!?」
「お前こそ一体何者だ?なぜエースのことを知っている?」
「え……!?お前……エースのことを知っているの!?」
「知っていたらなんだって言うんだ?」
「知っていることを全て教えてもらうよ!」
そうして、マサトはグラエナを繰り出した。
「やるのか?まあいい。相手してやる!エネルギーも切れたことだしな」
「(エネルギー!?)」
そういって、ガンはパチリスを繰り出した。
「何をするかわからないけど、行けっ!グラエナ!!」
「パチリス!いつもの頼むぜ!!」
すると、電撃と衝撃が巻き起こったのだった。
森へナナキとマサミを探しに行ったユウナだったが、なかなか二人は見つからなかった。
「参ったわね……。Ⅰ☆NAの機能が完璧に使えればこのくらいの人捜しは朝飯前なのに……」
そうユウナはヤレヤレとぼやく。
「それにしても、コーヒーを冷ますほど小屋を出る何かがあったってことかしら?」
ユウナはよくコーヒーを飲む。
いつもSHOP-GEARでパソコンを打ち込んでいるときに飲んだり、休憩したり飲んだりと結構コーヒー愛好者である。
そんなユウナは、冷めたコーヒーが大嫌いで、必ず冷ます前に飲み干していた。
だから、コーヒーを置いといて外に出るということは彼女にとっては考えられないことだった。
そこから、コーヒーを放って置くほどの大変な事態があったのではないかと推測していた。
もちろんこれはユウナの主観であり、ナナキとマサミが温かいコーヒーを好いていたということにはならない。
ちなみに、ユウナは苦いブラックコーヒーがとても大好きである。
「もしそうだと仮定すると急いだ方がいいかもしれないわね」
走り出してナナキとマサミを探し始めるが、野性のポケモンが次々と襲い掛かってくる。
そのたびにブラりん(ブラッキー)を繰り出してなぎ倒して進んで行った。
そんなときだった。
「だれか助けてくれ――――っ!!」
誰かの助けを呼ぶ声が聞こえてきた。
ユウナは急いでその声の方へと向かう。
でも、そこに人の姿はなく、ポケモンが何かに群がっている姿があった。
「オニドリルがいっぱいね……」
すると、オニドリルたちはユウナが現れたことに気付いて、一斉に襲い掛かってきた。
ドリルくちばしの応酬である。
だが、そこら辺の野生のポケモンの攻撃をいなすことなどユウナに何の造作もないことだった。
「スズりん」
周りに水しぶきを立てたと思うと、オニドリルを森の奥へ押し飛ばしてしまった。
でも、それは襲われた者には攻撃が行かないようにコントロールされていた。
「……ポケモン?」
ユウナが呆気にとられたのも無理はない。
顔が人間、そして体がコラッタだったからである。
「た、助かったー……ありがとう、おねえさん」
「コラッタが喋ってる!?」
すると、ユウナはモンスターボールを構えた。
「へ?」
「貴重なポケモンね……これはゲットした方がいいかも」
「ちょっと待って!!待ってください!!捕まえないで―――!」
そのコラッタは捕まることを恐れて、急いで茂みの中に隠れようとする。
「あ!待ちなさい!……でも、ここの世界のポケモンを捕まえてあっちで育てて影響はないかしら……」
「僕はポケモンじゃないよ!!小屋の岬のナナキだよ!!……ってちょっと!聞いてます!?」
ユウナは自分をナナキと呼ぶコラッタの話を聞いていない。
まだ捕まえるかどうか悩んでいるようだ。
「とにかく捕まえることにしよう」
「え!?」
「スズりん!『水鉄砲』!!」
「ギャァ――――――ッ!!!!」
ナナキの無残な悲鳴が響き渡ったのだった。
第二幕 Dimensions Over Chaos
ハナダ岬の邂逅(前編) 終わり