14
ピッ!ピッ!
ポケギアを切る音が2回した。そして、2つのポケギアをベルトフックにそれぞれ引っ掛けて彼女は立ち上がる。
「……これで作戦も決まりね。……情報は全てそろった。攻め時ね」
ユウナは左腕につけていた自分の情報機器『Ⅰ☆NA』をしまうと、屋敷へと侵入していった。
たった一つの行路 №089
15
「何ごとですか?」
スーツの男がライトを連れ込んでベッドに寝かせたとき、外が騒がしくなってきた。
この屋敷にはメイドが10人。クラキチ本人に、他20人くらい。合計30人程存在している。
“なんだお前は?”
“不法侵入者め!”
“捕まえろー!!”
数人の男がポケモンを繰り出して、襲っていくが、その黒髪の秀麗な少女の前には全て歯が立たなかった。
そして、あっという間に男たちのポケモンはゼロになった。
“バトルシーン省略かよ!”
“強すぎだー!!(泣)”
「ほう……驚きました。まさかあなたがここを探っていたとは」
すると出てきたのはスーツの男。
「この件にあなたが絡んでいるとは信じられなかったわ。てっきり、兄と一緒にナシロ湖で修行しているのかと思っていたから」
「ふっ、あんな堅物の兄とは一緒にしないでください」
「そう……。それにしても、あなたがそちらの味方をするのなら容赦はしないわよ?“元ロケット四天王”のムラサメ!」
「ふっ、あれだけ正義とか人助けを嫌っていたあなたがよく言いますよ。“元ロケットルーキーズ”のユウナ」
ユウナはボールを構えて繰り出すのはラグラージだ。
「スズりん!『水の波動』!!」
「甘いですね」
ムラサメは俊敏な動きでかわす。すると、コウモリのように足を天井に貼り付けた。
「!!」
「『スラッシュダウン』!!」
そこから天井の落下速度を利用してポケモンを繰り出す。
勢いを増した切り裂くがラグラージを襲う。
ズガンッ!!
「むっ!?」
ハッサムの攻撃を素手で受け止めた。
それから、投げ飛ばして冷凍ビームを命中させて氷漬けにした。
「いくら元ロケット四天王だからといっても、私には敵わない」
「ほう、自信満々に言ってくれますね!これでも言えますか?」
「えっ!?」
ユウナの死角から空気の刃が飛んできた。
しかし、不意打ちにもかかわらず、ユウナはそれを回避した。
「君……やるね」
「遅いですよ。ログ」
ムラサメがログといった少年は、2階から現れた。
「気になって戻ってきてみたら、こんなことになっているなんてね。どうやら、僕の読みは当たったようですね」
「つまり、2対1でも君は私たちに勝てるというのですか?」
見た感じは劣勢だが、ユウナは全く焦っていなかった。
「まぁ、出来ないこともないでしょうけど、正直きついわね。それに、誰が2対1かしら?」
「何!?」
「っ!!後からか!?」
すると、岩を飛ばす攻撃がログを襲った。
攻撃の主はタテトプスだった。
「私もいるのよ!」
そういって現れたのはメイド服を着たライトだ。
「ちっ!」
「これで2対2ね」
ライトがユウナの隣に並び、ログは2階から飛び降りて、見事に着地した。
「とりあえず、ムラサメ……あなたの相手は私がするわ。ライトちゃんはそっちの子をお願い」
「わかったわ……よっ!!」
“よっ!!”でライトは、どこかのヒーローさながらにメイド服を脱ぎ捨てた。
すると、いつもの黒いスパッツに白のランニング姿になった。
そして、帽子を取り出して被り、ツバを後ろに向けた。
「タテトプス!『ラスターカノン』!!」
「!!」
ライトはログを狙って攻撃を指示した。
ログは間一髪で攻撃をかわした。
ラスターカノンで穴のあいた壁からログは外へと出た。
「あっ!待ちなさい!!」
ライトも慌てて彼を追いかけていった。
「アーボック!『ヘドロ爆弾』!」
紫色の汚れた爆弾がラグラージを襲う。
「そんなのどうってことないわよ?」
「何ですと?」
ラグラージが口から同様に泥の塊を繰り出して攻撃を相殺してしまった。
「ふっ!それならこれでどうだ!?クロバット!『多重影分身の……』」
「遅いわよ」
クロバットを出した瞬間に、ブラッキーが押さえつけてしまった。
「そう思うか?」
すると、クロバットだと思ったものは木片に変化した。
「これぞ『身代わりの術』!」
すると、数十匹のクロバットが屋敷内に出現した。
「『多重影分身の術』。行きなさい!一斉に『燕返し』!」
「無駄よ!ブラりん!」
ブラッキーは頷くと、クロバット同様の数だけ分身した。
「なっ!?」
「『ファントムハリケーン』!!」
さらにその分身から何匹にもブラッキーが現れて100匹以上のブラッキーが出現した。
そこから、怒涛の攻めでムラサメのポケモンを全てノックアウト。そして、ムラサメをもぼこ殴りにした。
「グフッ……」
倒れるムラサメ。
ユウナはラグラージとブラッキーを戻した。
「計算どおり、クロバットの『多重影分身の術』を『自己暗示』で能力コピーできたみたいね」
「ぐぐ……これで終わりませんよ!モルフォン!」
「残念だけどチェックメイトよ」
モルフォンを破壊光線で一撃でノックアウト。
ユウナはポリゴン2を戻して言った。
「勝負はすでに私の掌の中なのよ。あなた程度の相手になら私は負けはしないわ」
「ぐっ……ふふふ……ふはは!」
負けておきながら笑うムラサメ。
「何がおかしいのかしら?」
「お前はトラキチを止めるといったよな?なら、私やログの相手をしていていいのか?私たちを止めても無駄だぞ?全てはMr,トラキチの作戦だ。これはその取引が成功すればいいのだ」
「…………」
「つまり、ユウナ。お前は私たちの作戦に引っかかったんだよ!」
「クスッ」
だが、ユウナは笑う。
「何がおかしい?」
「言っているじゃない。この作戦は全て把握したと。あなたたちの主力は元ロケット四天王のムラサメ、元ロケット団幹部のシード、レンジャーの裏切り者ログ、それにボスのトラキチ」
「そうだ。そっちにMr,トラキチとシードを止める力が残っていると言うのか?」
「さぁ、どうかしらね?」
―――ライトvsログ。
「待ちなさい!!」
「…………」
チルタリスに乗ってライトはログを追っていた。
一方のログは器用に屋根から屋根へ飛び移って移動していた。
やがてログはとある海の近くの建物の屋上に飛び移ると、ライトを見据えた。
「やっと観念したわね!!」
ライトも同じくしてその屋上に降りた。
「さっきはよくもやってくれたわね!おかげで酷い目に遭うところだったじゃない!」
「それは君が余計なことに突っ込んだからだよ。違うかい?」
「余計なこと?違うわね!誰かが悪いことをしていたら止めるのが通りなのよ!!」
「悪いことか……」
ログはフッと笑った。
「何よ!何がおかしいのよ!」
「お金を稼ぐのが悪いことなのかい?」
「は?そんなの稼ぎ方によるじゃない!人に迷惑をかけるお金稼ぎは悪いことよ!」
「僕にはどんなことしてもお金を稼がないといけないことがあるんだよ。そう、例えどんなに悪いことをしようともね!」
「……間違っているわ!どんな目的があろうとも、悪に手を染めてはいけないのよ!」
「本当に君はそう思うかい?」
「え……?」
ログがふと悲しそうな目をしたのを見てライトは驚いた。
「だとしたら、君は悲しい人だね」
「なっ!どういう意味よ!!」
「目的を持っている人ならね、どんなことでもしてしまうんだよ。悪魔の声に耳を傾けてしまうのさ。君はそのような目的を持っていないんだね」
「っ!!そんなことない!!私だって目的は……」
「それじゃ、君はそのためにはどんな事だってするんだろう?」
「!!」
確かに……。ライトはそう思ってしまった。
「(自分はエースを助けるためなら、何でもしようと思っていた……。だけど……だけど、あいつみたいに悪いことをしてまでしたいとは……)」
「もし、その目的が悪事に手を貸すことでしか出来ないことだったとしたら、君は諦めるのか?……君のその目的と言うものはその程度なのか?」
「…………」
「僕は昔、フィオレ地方でレンジャーとして働いていた。だが、その活動の給料なんてたかが知れている。だから、よりお金を稼げる方法を考えた。それがこれさ!」
ログはスタイラーを使ってグ~ルグ~ルと群れて集まっていたキャモメをキャプチャした。
その数、ざっと30匹。
「!!」
「自分のキャプチャの腕を使って、高いお金で雇ってもらう。それが、僕の考える金儲けさ」
キャモメ達ががログの上を旋回している。
「そして今回の目的は、トラキチさんの邪魔をするものを排除しろということさ。だから、君にはくたばってもらうよ!」
ログがライトを指差すと、キャモメは一斉に水鉄砲を放つ。
「くっ!!」
ライトはチルタリスに飛び乗って、水鉄砲を回避した。
だが、息をつくまもなく、キャモメたちが体当たりを仕掛けてきた。
「チルタリス!『白い霧』!!」
霧を出現させて、自らの姿をくらました。
野生のキャモメたちは慌てる。
「チルタリス!最大パワーで『竜の波動』!!」
大きなエネルギーの塊を放ち、キャモメたちを一撃で吹っ飛ばした。
「あれだけのキャモメを一撃でだって!?」
ログは驚いた。だが、すぐに切り替えて、次の手を打ってきた。
「ムクホーク!」
モンスターボールからムクホークを繰り出したログ。
フィオレでポケモンレンジャーをやっていたといえ、ここに来てからポケモンを持ち歩いているらしい。
「『鋼の翼』だ!!」
「チルタリス!『竜の波動』!!」
だが、チルタリスの攻撃は当たらない。
ムクホークが華麗に回りながらかわして攻撃を叩き込んだ。
「っ!!なんてスピードなの!?」
「『ツバメ返し』!!」
「こっちも『ツバメ返し』よ!!」
2つの技がぶつかり合う。
一度や二度ではない。何度も何度もぶつかる。
ライトは落ちないようにチルタリスにしっかりとしがみついていた。
「『冷凍ビーム』!!」
「『エアスラッシュ』!!」
だが、攻撃は相殺に終わる。
技の威力は互角で決着はつかなかった。
「くっ!どうやら……最大の技で行ったほうがいいみたいだ……。ムクホーク!『ブレイブバード』!!」
ムクホークが赤いオーラを放って、チルタリスを見た。
「(うっ!凄い威圧感!並の技じゃ勝てないわ!)チルタリス!あの技よ!!」
チルタリスは頷いて、息を吸った。そして、吐くと不死鳥のようなものが飛び出していった。
「『フェニックスウェーブ』よ!!」
そして、二つの技が激突した。
ムクホークはその技の爆発で落ちて行った。
「くっ!ムクホーク!!」
ログはムクホークを戻して屋上に降り立つライトを見た。
「“もし、その目的が悪事に手を貸すことでしか出来ないことだったとしたら、君は諦めるのか?”」
「……?」
「さっき、あんたが言ったでしょ?私もその状況を考えたけど、私の答えはやっぱり手を貸さないわ」
「……それなら君は諦めるのか?」
「いいえ……私だったら別の道を探す!例えどんなに苦しい道だろうとも!もし、その悪の道に手を差し伸べたとしたら、私は納得しないもの……。
(いえ、私だけじゃないわ……エースだって私が悪いことをしてまで助けて欲しいなんて思っていないはずだもの……)」
「君はそうだろうけれど、僕はそうは行かない!金を稼ぐためだったら何でもする!!」
「…………」
ログは辺りを見回していた。
どうやら、キャプチャするポケモンを探しているようだ。
ふと、ライトは思いついた。
「ねえ、あんたは別に好きで悪いことしているわけじゃないんでしょ?」
「…………?」
「それだけの腕があるんなら悪い奴を捕まえるために使いなさいよ!私がいい仕事知っているわよ!」
「え?本当?」
「ほ、本当よ!(多分……)」
根拠がなくライトは言っていた。
「それなら、やめようかな……」
「えっ!?」
意外なログの言葉にライトはキョトンとした。
「実はあのトラキチは覚醒剤の密輸をしていたんだ」
「覚醒剤……」
「あ、覚醒剤と言うのは、ポケモンの覚醒剤。ポケモンの力を増幅させる薬なんだ」
「え?それならタウリンとかと同じ効果が……?」
「いや、それ以上の効果があるんだ。だが、ただ能力が上がるだけではないんだ。それは使ったポケモンの寿命を縮めたり、狂暴な性格になったりと副作用があるために裏にしか出回っていない代物なんだ」
「つまり……トラキチはそれを売り捌いて金を稼いでいたわけね……。ポケモンを何だと思っているの!!」
「…………」
「あんたもあんたよ!ポケモンがどうなっても言い訳!?」
「言っただろ。僕はお金を稼ぐためならどんなことをするって。だけど……うしろめたかったよ。他人の邪魔をしたり、騙したりとこの仕事は気に入らなかったし。
選挙の邪魔をするのだって、僕がキャプチャで操っていたんだ。ムクホークに見張らせてね」
「(……そんなに離れても操ることが出来るわけ!?)……そこまでなんであんたは金を稼ぎたいのよ!?」
「…………」
しかし、それに関してはログは口を開かなかった。あるいは口にしたくはなかったようだ。
「喋りたくないならいいわ。行くわよ!」
「えっ!?」
ライトに引っ張られて、チルタリスに乗せられた。
「トラキチを捕まえるのよ!でしょ?」
「あ、ああ」
そして、彼らは空へと飛び上がって行った。
16
「ここだな」
トラキチとシードがとある船の中に入り込んだ。
どうやらここが取引の船らしい。
“ぐわっ!”
“うわっ!”
しかし、その船の倉庫から、悲鳴が聞こえた。
「何だ?!」
トラキチとシードは急いで倉庫へと向かった。
倉庫に入ると、数人の人とポケモンが倒れていた。
倉庫は広く、バスケットコート一つ分の広さがあった。
「何者だ?」
シードが前に出る。
「来たよ。トキオさん!」
「ああ、油断するなよ!」
その船蔵の倉庫にいるのは、なんと、トキオとマサトだった。
第二幕 Dimensions Over Chaos
ジョウチュシティの密輸事件② 終わり