あの時……私は全てを失った。
絶望へと叩き落されて、一人になり、悲しみに打ちひしがれて、死にたいとも思った。
でも、そんな私を拾い上げてくれた人がいた。
その人に感謝して、半生をそこで育った。
だけど、成長して、私は利用されていたんだと気づくと感情は憎しみに変わった。
激しい憎しみに実を焦がれて、そして最後は身を滅ぼすところだった。
でも、そんなことがあったにもかかわらず、今……私は生きている。
私を必要としてくれる人が今はいる。
そして、私がしたいと思うことが今は出来る。
だけど、人を信用することがなかなかできない。
私の心の傷が疼くから……
だから、私の武器はいつもデジタルの中の世界。
情報は全てが計算的、機械的に動く。
正確にインプットすれば動いてくれる。
そう。情報は私を裏切りはしない。
でも、他人を信じないわけじゃない。
時と場合に応じて、信じるか信じないかは自分で決める。
これは時に大切なことだと学んだ。
信じすぎてもダメ。
信じなくてもダメ。
世界の情報と比べると、他人と生きていくということは難しいことなんだとはっきり分かる……
そんな世界の中で私は……生きている……
たった一つの行路 №088
11
以前にも説明したが、ジョウチュシティは港町でノースト地方最大の都市である。
その港があるためか、キャモメが街の中まで飛び交っていた。
だが、それはジョウチュシティの東側の話である。
東側が海に面している影響で、そこは船着場として利用されていてそこは荷物を搬送するものや客船に乗り込む者など、人で溢れかえっていた。
ちなみに、ここのジムも東側にあり、ジムリーダーのヒビキは毎朝門下生たちと海岸でのランニングは欠かさない。
そして、西側はショップやポケモンセンターそれに、民家や金持ちのお屋敷がある。
つまり、この街は東と西でだいぶ違いがある街なのである。
「さてと……ジョウチュシティといっても広いからな……ユウナさんとの連絡は……」
オートンシティを出発して標高3000メートルのオウギ山を抜けてここへ来たのはトキオ、ユウコ、ライトの3人だ。
トキオはリクに直してもらったP☆DAで電話をかけるが、やはりユウナには繋がらない。
ちなみに電話機能もやはりリクに頼んでつけてもらったものである。
「ダメだな……」
「ユウナさん……一体どこにいるのかな……?」
「情報を得るために仕事に来ているんだから、聞き込みとかどっかに潜入でもしてるんじゃないの?」
「刑事じゃあるまいし……」
トキオがユウコに突っ込むが、ライトが手を挙げる。
「それありかもしれないわ!その線で探そう!」
「オイオイ……」
そんな感じでライトは街の方に消えていった。
「本当に行っちゃったよ……」
「じゃあ、私も街中で聞いてみることにするわ。ところで彼女の人相は?」
「人相って……なんか犯人探しみたいな言い方だな……」
もう、ユウコたちから見ればユウナは指名手配犯扱いだった。
「ええと、とりあえずユウナさんの特徴は……」
ユウナの特徴は緑のワンピース……に踝までのブラウンのGパン生地のハーフパンツ。ワンピースの上から腰の少し上辺りを黒のベルトで締めている。
髪型は黒のストレートなのだが、最近、ワックスを付け始めたが、所々髪の毛をハネさせていた。
胸元にはロケット。そして左腕には白のブレスレットをつけていた。そして、瞳の色はヒスイ色。
……トキオの説明を要約するとこんな感じである。
「ずいぶん詳しいのね」
「かわいい子は忘れられないんだよ。あ、でもユウナさんはかわいいと言うよりも魅力的かな?」
「私とどっちが魅力的?」
ズイッと。トキオに迫るユウコ。
顔は笑っているのだが、トキオは恐怖を感じて一歩下がった。
「ゆ、ユウコさんのほうが魅力的っスよ……」
と言うと、ユウコはそのままトキオの頬にキスをする。
突然のことでトキオは唖然とした。
「まぁ、お世辞でも別にいいわよ。早くそのユウナって子を探しましょう」
「あ、はい(どっちにしても魅力で言ったらユウコさんのほうが上だけど)」
こうして、ユウコはポケモンセンターへ向かっていった。
「俺は……まず、あそこへ行ってみるか……」
といってトキオはまずジョウチュジムにやってきた。
「お~!トキオではないか!久し振りに挑戦しに来たのか?」
出迎えてきたのは、特訓大好きのジムリーダーのヒビキだった。
「実はユウナさんを探しているんですけど見ませんでした?」
「ユウナ?誰だい?」
トキオはヒビキにユウナの特徴を先ほどのユウコ同様に伝えた。
「う~ん、知らないな……」
「そうですか……(う~ん……情報を集めに来ているのだから、ジムリーダーの所にも一応話を聞きに来ているのかと思ったのにな……)」
ピロリロリ~ン♪
ジムを出るとトキオのP☆DAが鳴った。
すぐに出ると、大きな声がトキオを襲った。
“トキオ!!一体何してるのよ!!!!”
「~~~☆☆☆」
そしてトキオは耳を押さえて怯んだ。
“オートンシティに行くって言って一週間以上も経っているじゃないの!何やってんの!?”
「る、ルーカス姉さん……」
相手は、マングウタウンで留守番をしているルーカスからだったようだ。
どうやら、トキオは今までの経緯をルーカスに説明していなかったようだ。
「す、すみません……。今、ジョウチュシティにいるんです」
“は?ジョウチュシティ!?一体何遊んでんのよ!!”
「遊んでませんって!」
トキオはルーカスに今までのことを説明をした。
“ナシロ湖で剣士に襲われて、黒いスーツの男を助けて、オートンシティで選挙の手伝いをして、ジョウチュシティで人探しをしている……?そうなんだー”
「そうなんですよ」
“そんなデタラメな話を信じられると思っているの!!??”
トキオは信じてもらえなかった。
“遊んでいないで早く酔っ払いフウトから情報を聞き出して帰ってきなさい!以上!”
「いや、ほんとですって!!」
トキオの弁解虚しく、連絡は途絶えた。
「……これは早く切り上げないと……(汗)」
ピロリロリ~ン♪
すると再び電子音が鳴った。
「ん?またルーカス姉さんか?」
かけ直してきたのか?と思いつつトキオは受けると、今度は違う人だった。
“トキオさん!リクです!ジョウチュシティにつきました?”
「リクか!」
オートンシティのSHOP-GEARのリクだった。
「そうだ!!選挙妨害の方はどうなった?」
“最近妨害はないのですが、気になる情報があったのでトキオさんに連絡しました”
「気になる情報?」
“実は、クラキチには実の弟がいるんです。その弟はジョウチュシティで暮らしているって聞いたことがあるんです”
「え!?」
“つまり、悪いことしているのは、クラキチじゃなくて、その弟なんじゃないかと……”
「なるほど……さすがリクだぜ!サンキュー!」
“あと、そいつがもし取引とかするとなると船の上かと思うんです”
「そうか。わかった!ありがとうな!」
そういってトキオは連絡を切った。
「ユウナさんを探すのも大事だけど……この件も放っとくわけには行かないし……協力すっか。さて、港に行ってみよう」
トキオは港に向かって歩き出した。
12
「見つけた!あんたがユウナよね?」
ユウコはユウナをいとも簡単に見つけていた。
「あなたは……?」
緑のワンピースにブラウンのGパンのハーフパンツ。腰に黒いベルト。黒髪のストレートで胸元のロケットに右腕の白のブレスレット。
さらに加えて、ユウコが見慣れない機械を左腕につけていた。
「あれ?でも右腕にブレスレットをつけているからユウナじゃないか……」
「私はユウナよ?」
去ろうとするユウコを引き止めるユウナ。
「あ、よかった!探していたのよ!」
「何の用かしら?私、あなたのことなんて知らないわよ?」
「実は……(ムグッ)」
と、ユウコが事情を説明をしようとしたところ、ユウナに口を塞がれた。
「ちょっと、静かにして」
ユウナは敷地内にはいる一人の男を見ていた。
その男は黒いスーツに黒のスーツケースを持っていた。
「(スーツケースを持っている!?)」
「プハッ!何するのよ!」
「あ、ごめんなさい」
ユウナは慌てて、手を放した。
「私、今仕事中なの。後にしてもらえるかしら?」
「そうは行かないの!こっちにも用事があるの!」
「何の用?いま、この屋敷を調べないといけないの!!」
今、ユウコとユウナがいる場所は西地区の豪邸が並ぶ屋敷のうちのひとつだった。
「この屋敷を?何でそんなことを?」
「機密情報よ。教えられないわ」
「SHOP-GEARのリクの知り合いだといっても?」
「……え?リクの?」
ユウナが驚いてユウコを見る。
「実はあんたが困っていたら助けてとリクから言われてきたのよ。それが終わったら私たちに情報をくれない?」
「……何の情報かは知らないけど……いいわよ。リクの紹介なら」
何気に少し嘘を含ませたユウコ。
正確にはリクはただユウナを紹介しただけである。
「それで、何を調べているの?」
「ここにいるトラキチという男を調べているのよ」
「トラキチ……?(どこかで聞いたような?)」
「このトラキチという男は今、オートンシティで知事をしているクラキチと言う男の弟なの」
「え!?嘘ッ!?」
「そして、トラキチが裏で密輸をしてお金を稼いで兄のクラキチの支援をしているという情報があるの。もしその噂が本当なら、大変なことよ?
その事実を調べたくてここまで来たんだけど……さすがに大きい屋敷ということがあって侵入が難しいのよ……」
「なるほど……そういうわけだったのね」
「それに、今の屋敷に入って行った黒いスーツの男……」
「あ、さっきの男ね。どこかで見たことあったと思ったらフールタウンにいたわね」
「え!?」
「スーツケースを3人組に盗られていたから、私たちが助けてあげたのよ」
ただ、ユウコはあまり活躍していないが。
「3人組ってもしかして……チーム『トライアングル』……?」
ユウナが恐る恐る聞いた。
「確かそんな名前だったわね」
ユウコのその言葉を聞くと、ユウナは額に手をつけて深いため息をした。
「彼らは、SHOP-GEARの賞金稼ぎのチーム『トライアングル』。しかもその仕事は私が頼んだことで、黒いスーツケースを奪って私の所へ持ってくる手はずになっていたのに……。あの男が持っていたのはそういうわけか……」
がっくりとユウナ。
「え?もしかして、私たち邪魔してた?」
「ええ……。信じられないことにね」
再びユウナはため息をついた。
「くっ……。ますますあの屋敷の中に潜入する方法を考えないといけないのに!!一体何を密輸して金を稼いでいるか調べないといけないのに!場合によっては奴らを潰さないといけないのよ!」
「そ、そんなに大変な仕事だったのね(汗)」
事の重大さを身にしみて知ったユウコだった。
そんなやり取りを尻目に、スーツの男は屋敷に入る直前、屋敷のメイドに迎えられて、中に入っていった。
その様子を見たユウコはピンと来た。
「ねぇ。お詫びと言っちゃ何だけど、私が潜入してもいいかな?いい考えがあるんだけど……♪」
「えっ?」
ユウコはニンマリと顔を微笑ましてユウナを見たのだった。
13
「潜入成功ね♪」
「成功したのはいいんだけど……」
ユウコの隣で納得行かない顔をしている少女が約一名。
「何で私がこんな格好しなくちゃいけないの!?」
彼女らがしている格好は、ごく最近まで『おかえりなさいませ!ご主人様♪』でブレイクした喫茶店の格好……つまりメイドの格好である。
狐色の髪のユウコは満更もなく着こなしているが、一方の黄色の髪のショートカットの子は恥ずかしそうである。
「知っている?メイドってね、ご主人様のためにならなんでも尽くさないといけないのよ?“彼”に尽くすつもりと思ってやってみなさいよ?」
「私が尽くすのはエースだけよ!!」
と、文句を言うのはライト。
―――10分前。
「メイド服で潜入!?」
ユウナが驚いた顔でユウコを見る。
「確かにそれはいい作戦かもしれないわ……。でも、肝心のメイド服がないことには……」
「ふふふ……私を誰だと思っているのかしら?」
「知らないわよ」
とユウナは返す。
「じゃーん!!」
と、どこからともなく、ユウコはメイド服を2着繰り出したのだ。
「本当にどこから出したのよ(汗)」
ユウナはメイド服を取ってみる。
「でも……無理ね……」
ユウナは服を見たまま言う。
「私は着れないわ」
実はこの2着とも、ユウコが着られるサイズになっている。
つまり、ユウコは身長が160センチ台でさらに胸が90センチオーバーと大きい。
だが、一方のユウナはスタイルはユウコに劣るが(といってもユウナのスタイルはいいほうである)、身長は174センチあり女性の中でも大きい方である。
早い話、サイズが合わないのである。
「誰もあんたが着るって言ってないわよ?」
「は?」
ユウナはユウコの言葉に首を傾けた。
すると、ユウコは手を振った。
その先にいるのは黄色のショートカットの女の子だった。
「(あの子はライト……)」
ユウナはその子の名前を覚えていた。
「その人がユウナさん?」
「そうよ」
「(あれ?この子……私のことを覚えてない?)」
ちなみに、ライトとユウナは面識あるのだが、ライトはエースのことで頭がいっぱいだったためか、ユウナのことを覚えていないらしい。
「ね?これなら大丈夫でしょ?」
ユウコがライトの隣に並ぶ。すると、身長はぴったり同じだった。
「へっ?何の話?」
「なるほどね」
ユウナも納得した。
―――現在。
「ユウコさん!大体なんでメイド服なんて2着も持っているんですか?」
「アイドルのたしなみよ?」
「どんなたしなみよ!!」
屋敷内でツッコミをかますライト。
「ちなみに、ジョーイ服もジュンサー服も持っているわよ♪」
「はいそうですか……」
もう、呆れるしかないライトだった。
どうやら、ユウコは制服とかそういうのを私服にしているらしい。
だから、メイド服だろうがセーラー服だろうが平然と外を歩けるらしい。
「もちろん、ウェディングドレスも持っているわよ♪」
ライトに見せびらかすが、そこはスルーした。
「じゃあ、2手に別れて探しましょう♪」
「はい……ってユウコさん!?」
ライトは隣を見ると、もうすでにユウコの姿はなかった。
「…………」
とりあえず、ライトは屋敷の中を見回っていた。
どうやら、メイド服ということもあって、あまり怪しまれずにすんでいるようだ。
そんなときだった。
“さすがMr.M!今回も完璧だったようだな”
“いえいえ……このくらい私にとって簡単ですよ”
「(この声……聞き覚えがある!!)」
ライトはそっとその部屋のドアの前に耳を当てて話を聞くことにした。
「これでまた、私の懐が潤う!」
「何かあったらまた私を雇ってくださいよ。仕事は完璧に遂行してあげますよ」
中にいるのはどうやらスーツの男と偉そうな男だった。
「それなら、もう一つお前に頼みたいことがあるんだ」
「何でしょう?Mr,トラキチ」
「今、オートンシティで私の兄が選挙をしているのだ。その争っている男と言うのがナルトというジムリーダーナルミの兄らしいのだ」
「それで……命令はログと同じく、選挙の邪魔しろと言うことですか?」
「それでもいいが、お前は腕利きの忍びという噂を聞く。だから、あわよくばナルトという男を消してくれ」
「フフフ……いいでしょう」
「さぁて……私はそろそろ取引先の相手に会いに行かなくてはな」
「そちらの護衛はいらないんですか?」
「ふっ、心配ない」
「(大変な話を聞いちゃったわ……急いでユウナさんに知らせないと)」
「見たことのないメイドだね」
「!?」
耳元で斬りつけるような鋭く冷たい声。
それに震わせるライト。
後ろにいるのはライトよりも若干年下の少年だった。
「(コイツ誰!?)」
「君の名前は?所属は?」
「(とにかくこいつから離れないと……)」
ライトは飛びのいてモンスターボールを構えた。
「やっぱり侵入者だったんだね。念には念を入れて正解だったよ」
「えっ!?」
シュンッ!ズガッ!
「うっ!!」
鈍い痛みを受けて、ライトは倒れた。
すると、部屋から、男が2人でてきた。
「何事だ?!……ん?ログ、そのメイドがどうした?」
ログと呼ばれた少年は紫のバンダナに黒のスカーフを口元に巻いていた。
「侵入者みたいです。トラキチさん」
「ほう……その女か……。そういえば、この子はフールタウンで見たことがありますね」
すると、依頼人のスーツの男は舌を舐めた。
「こいつ……どうするんだ?」
「どうするか……」
トラキチはう~んと頷く。
「私が始末してもかまいませんか?」
「かまわないが……」
「じゃあ、いつもの部屋を借りますよ?」
スーツの男が気絶しているライトを担ぎ上げる。
「ふっ、いいだろう。さて、ログ。留守番を頼むぞ?」
無言でログは頷いた。
すると、クラキチは玄関の方へ向かい、そこの近くで突っ立っている男に声をかけた。
「最近何かと油断できませんからね。よろしくお願いしますよ?シードさん」
「心配なんて無意味だな」
すると、クラキチとシードは外へと出て行った。
「ムラサメさん」
「Mr,Mと呼びなさい」
「多分……今日は荒れますよ?」
残ったログがムラサメに忠告した。
「……そうか。だが、お前がいるから大丈夫だろう」
「いや、ちょっと出て行くので、留守番をお願いしようとしたのですけど……」
「そ、そうか……早く戻って来いよ?その間に私はちょっと楽しんでいますよ。ふふふ……」
そういうと、ムラサメはライトを担いでどっかの部屋に消えていった。
第二幕 Dimensions Over Chaos
ジョウチュシティの密輸事件① 終わり