10
一日が経った。
トキオとユウコはナルトたちに報告して護衛……と言うよりも選挙妨害作戦の妨害作戦をすることになった。
「さて……やるとはいったものの……一体どうすればいいんだろう……?」
「とりあえず、ナルトさんの周辺に怪しい奴がいないか見ればいいんじゃない?」
「そうだね」
と、ユウコの提案であたりを見て回ることにした。
“お願いします!お願いします!”
トキオとユウコが周辺を調べている間に、選挙の手助けをしているポケモンや、応援者、そして立候補者のナルトは道行く人たちに握手を交わしていく。
見た限りでは、今のところトラブルはないようだった。
「本当に妨害なんてあるのあるのかしら?」
トキオと離れたところで、ユウコがそうぼやく。
トキオはまじめに辺りを探している。
「(妨害の噂はあるのに誰もその瞬間を目撃した人はいない……。と言うことは……見えないところでやっていると言うことだろうか……?)」
建物の物陰、マンホールの中、ゴミ箱の中と手当たり次第に探すトキオ。
そして、考えていた。
「(あるいは気づかない程度に攻撃されていたと言うこと……?それとも、応援者の中にスパイが紛れ込んでいると言うこと……。可能性は無くもない)」
トキオは手を休めて、ゴミ箱の上に座った。そして握手をしているナルトたちのほうを見る。
「(スパイの可能性を除いたとして目撃されずに攻撃する方法なんて……。あ!そういえば……)」
トキオが気づいたそのときだった。
ボンッ!!ボンッ!!ボンッ!!
「なんだ!?」
一斉にゴミ箱が爆発をし始めたのだ。
順番に、ボンッ!ボンッ!ボンッ!と。
「ゴミ箱が……?爆弾か!?」
すると、トキオの座っていたゴミ箱も……
ボンッ!!
と爆発した。
「グハッ!!」
トキオは吹っ飛んだ。
「トキオ!?大丈夫!?」
ユウコが駆けつけて来た。
そして、その爆発の騒ぎで街の人たちや選挙の手伝いをしているものたちがパニックを起こしていた。
「いつつ……どういうことだ?」
「きっとこれが嫌がらせなのね」
「だけどおかしいんだ。さっきゴミ箱を調べたんだが、爆発するようなものは何も入っていなかった。つまり、ポケモンの攻撃とも考えられる」
「えっ!?でも、何も入っていないゴミ箱を爆発させるなんてこと出来るの!?」
「分からないけど……ポケモンであることには間違いないと思う……」
トキオはボールを取った。
「一番、やりやすい手で行くか!『あられ』!!」
ジュゴンを繰り出して、街中にあられを降らしはじめた。
「ちょっと!そんなことしたら、街の人が余計パニックになるじゃない!」
「あ゛……」
街中であることを忘れていたトキオ。
しかし、トキオの推理は当たることになる。
消えていたポケモンたちが姿を現した。
「見えた!ポケモンは広場に3匹!」
「あっちに2匹いるわね。どうやら、トキオの作戦は当たったようね。でもどうやって?」
「俺の知り合いに姿を消せる技を使えるポケモンがいたからさ、もしかしたらと思って……。よし。とりあえず、あのポケモンを倒して、トレーナーを見つけよう!」
「そうね!」
ユウコは逃げる2匹を追って、トキオは戦闘態勢に入った3匹と対峙していた。
カクレオン、スリープ、エーフィだ。
「ジュゴン!一気に決めるぞ!『吹雪』!!」
あられが降る中での吹雪は絶対的な命中を誇る。
よって、ダメージは逃れられなかった。
「……!?効いてない!?」
スリープ、エーフィが光の壁を二重に張って、攻撃を防いだのである。
そして、カクレオンが消えて後ろに回りこんできた。
「(『影打ち』か!?)『JET』!!」
トキオの素早い掛け声に、ジュゴンも反応してアクアジェットをお見舞いした。
建物の壁にぶつかるはずだったのだが、その勢いを利用して壁蹴り、壁蹴りと方向を変えて、ジュゴンにカウンター攻撃をした。
「ちっ!」
そのカウンター攻撃を頭突きで受け止めるが、ダメージはジュゴンの方が大きかったようだ。
さらに、後ろからスリープとエーフィーがサイケ光線を放ってくる。
「(くっ!!)」
よけられないと悟り、ヘルガーを出して攻撃を受け止めさせた。
しかし、悪タイプにもかかわらずダメージが入った。
しかもヘルガーは首を振っていた。今ので混乱したらしい。
「(スリープが『ミラクルアイ』でも使ったか!?それにしても、このポケモンたち……予想以上に強い……)」
そして、苦戦しているのはトキオだけではない。
「キマワリ!『マジカルリーフ』!マリルリ!『アクアテール』!」
ユウコも逃げたキルリアとスリープと戦っていた。
しかし、スリープに攻撃するはずだったアクアテールはかわされて、キマワリのマジカルリーフをぶち抜いたキルリアのマジカルリーフがマリルリにダメージを与えた。
さらにその隙にスリープはキマワリに催眠術をかけた。
「や……やるじゃない」
ユウコは冷汗を流す。
「キマワリ!起きなさい!」
ユウコが起こしている間に、キルリアがサイコキネシスでキマワリを戦闘不能にして、スリープは雷パンチでマリルリを吹っ飛ばして、街の壁にめり込ませた。
「うそっ……」
瞬く間にやられて、さらに2匹のポケモンがユウコに襲い掛かった。
「くっ!」
ユウコはポケモンを用意するが……
シュン!ザパー!
目の前で2匹が吹っ飛んだ。
「ユウコさん?“野生の”ポケモン相手に何をやっているの?」
「えっ?」
ユウコが声の先を見ると、そこには泥だらけの少女……ライトと攻撃を放ったヤミラミとゴルダックの姿があった。
「ライトちゃん?」
スリープとキルリアはまだ立ち上がった。
「今ので倒したつもりだったけど……意外にタフね。ユウコさん、ここは私にやらせてよ。修行の成果を試すにはいい機会だわ」
「え?いいわよ」
ゴルダックが接近してキルリアに尻尾で攻撃を仕掛けて、ヤミラミはスリープと組み合った。
「(キルリアの身代わり!?)ゴルダック!」
キルリアが身代わりの影からサイコキネシスを仕掛けると、ゴルダックも同じ攻撃を放ち、相殺させた。
一方のヤミラミとスリープは……
「(取っ組み合いで押されている!?スリープ程度なら、軽く決められると思ったのに!?それなら……)ヤミラミ!」
しかし、スリープの強力なパンチがヒットした。
ユウコはヤミラミがマリルリのように吹っ飛ぶと思っただろう。
だが、吹っ飛ばなかった。
ヤミラミは、足を踏ん張って攻撃を耐え切ったのだ。
「決まりよ!『しっぺがえし』!!」
完璧なカウンター技が炸裂した。
「ゴルダックも決めるわよ!!『ウォータースラッシュ』!!」
ゴルダックの平手に水が纏わりつき、鋭い刃を形作った。
水は勢いが凄まじいと鉄をも斬るという。そのくらいに洗練されていた。
「『ショット』!!」
まさに水の斬撃。
離れたキルリアもエナジーボールで相殺を試みたが、攻撃を真っ二つにして、キルリアを倒した。
「ふう。これで片付いたわね」
ライトはユウコのほうを見た。そして、倒れていたキマワリとマリルリを見ていた。
「(そうか!さっき、スリープの力が予想以上に強いと思ったのは、キルリアがマリルリの『ちからもち』を『トレース』して『スキルスワップ』でスリープと特性を交換したからね……)」
「ライトちゃん!?先ほど、おかしなことを言ったよね?」
「え?何かおかしいこと言いました?」
そして、トキオは苦戦をしていたが……
「『フレアブレイク』!!」
ヘルガーの炎の爪でカクレオンを倒し、残りはエーフィとスリープのみ。
「これでどうだ!!ジュゴン!『ドラゴンフリーズ』!!」
すると、巨大な大きさの氷のドラゴンが出現して、スリープとエーフィを襲った。
2匹はそのドラゴンに飲み込まれたように見えた。
「倒れたのはスリープだけ……と言うことは、こっちだな!!」
くるりと後ろを向いて指をさすトキオ。ジュゴンもその指先に振り向いた。
予測どおり、そこにはエーフィがサイコキネシスを放つところだった。
「『JET』!!」
エーフィの攻撃をも上回る速度で、ジュゴンが攻撃を決めた。
「ふう……。さぁ……トレーナー!出て来い!!」
トキオは大声で呼ぶが、誰も出ては来なかった。
「ポケモンを置いて逃げたか……?」
「「トキオ!」」
そこへユウコとライトが駆けつけてきた。
「ユウコさん!それにライトちゃん!?……あ、そっちは!?トレーナーは見つかった!?」
「いいえ。トレーナーはいなかったわ。それに、ライトちゃんの話を聞くと、このポケモンは野生のポケモンだって言うの」
「野生のポケモンだって!?野生のポケモンにしても、トレーナー並に戦略が強かったぞ!?」
「確かにオートン山で戦ったポケモンと同じくらい……賢さで言ったらそれ以上ね。でも、これを見て!」
ライトが2つのボールをトキオに見せた。
それは先ほどライトとユウコが戦ったキルリアとスリープだった。
「つまり……トレーナー登録されていない?」
「そういうこと。だから、野生のポケモンなのよ」
「ど、どういうことだ!?つまり、野生のポケモンが選挙の邪魔をしていたと言うことか!?」
トキオたちは考えるが、それ以上は何も分からずじまいだった。
そして、ナルトの選挙活動が再開された。
今度は邪魔するものは出てこなく、無事に一日を終えることが出来たのだった。
だが、トキオたちは気づかなかった。上空で一匹のムクホークが飛んでいてその首に付けられていたカメラがきらりと光ったことに。
3人はSHOP-GEARに戻ってきた。
「ナルミさん……ライトちゃんが来たから、後はリクに頼んでもらっていいかな?」
「いいえ。ありがとう。おかげで助かったわ」
ナルミがトキオに握手する。
「(トキオって……本当に女の知り合いばっかりね)」
その様子を見て、ライトは白けた目で見ていた。
「だけどトキオさん!妨害してきたのが野生のポケモンだと分かったので、これで僕も仕事がしやすくなりましたよ!」
と、リクがパソコンをいじりながら言う。
「でも、野生のポケモンが襲うって話もおかしいですよね……。そんな話聞いたことないし……」
「ウィ~……それってもしかしたら、レンジャーの仕業なんじゃないか?」
「あ、フウト師匠!!」
「(また飲んでわね)」
フウトの右手に持っている酒ビンを見て心の中で突っ込むユウコ。
「レンジャーって、確かスタイラーを使ってキャプチャして野生のポケモンの助けを借りる奴でしたよね?」
「つまり、野生のポケモンを操って、妨害している線もあると言うわけか……」
リクとトキオが深く頷く。
「ウィ~そういうことさ。グビグビ……プハッー」
ビンのまま酒をグビグビと飲むフウト。そして、アルコールの匂いを周りに撒き散らす。
みんな不快になっていることなんてお構い無しだ。
「本当にレンジャーだとしたら……厄介だな」
「そうですね……。あ、トキオさん!これを……忘れるところでした」
すると、リクはトキオにあるものを手渡しした。
それは、最初に来たときに預けたP☆DAだった。
「おっ♪リク!サンキュー!」
リクの肩をポンとトキオは叩く。
「うんっ!聞けるぞ!ゴット・カーナーのセカンドシングル『カナちゃんが倒せない』が!」
「トキオ……もしかして……その子のファンなの?」
「そうですけど?……うわっ!?どうしたんですか!?」
なんか、メラメラと燃えているユウコ。
「トキオ……私がメジャーデビューしたら私のファンになりなさいよ!」
「へっ?は、はい……(汗)」
すると、炎のオーラを消して、いつもどおりに戻る。
「(そういえば……ユウコさんってアイドル志望だった……)じゃあ、そういうわけで、リク。後は頼むわ」
「がんばってね」
トキオが言うと、ユウコがまたリクの頬にキスをした。
もちろん、彼は赤くなってしまった。
「ユウコちゃーん!僕にもキスしてー!」
とか何とか、騒ぐ駄目兄ちゃんのフウト。
「どうしようかな?情報を教えてくれたらいいわよ♪」
「あ、忘れるところだった。フウトさん!パラレルワールドの情報が知りたいんだ!」
「ウィ~?パラレルワールド?聞いたことないな……」
「ええと、つまり、次元を越えたもう一つの世界のことなんですけど……」
「ウィ~聞いたことあるような無いような……」
「駄目そうね。キスはお預けね♪」
「そんなー!」
悔しそうに地面をおもいっきり叩くフウト。
きっとアルコールのせいで演技がオーバーになっているのだろう。
「どうしよう……フウトさんでもだめか……」
「やっぱり、トキオの言うことなんて聞くんじゃなかった!」
「ライトちゃん……そんなこと言わないでよ……」
「あっ!!」
何かに気づいて大きな声を出したのはリクだった。
「リク?何か知っているのか!?」
トキオが聞き返す。ライトも自然と彼のほうを見た。
「いえ、僕は知らないけど……。もしかしたらユウナさんなら知っているんじゃないですか?」
「ユウナさんか……」
「ユウナ?」
ライトがふと首を傾げる。
「誰?」
「さぁ?」
ユウコも首を傾げる。
「でも、ユウナさんは連絡が全く取れないじゃないか」
「確かにそうですね。仕事をしているときはよほど重要なことじゃない限り、絶対返信もしない人ですからね……。でも、行って直接聞いてみてはどうですか?」
「直接って……どこにいるんだよ!?」
「今ユウナさんは……」
「ああ、ユウナならジョウチュシティだよ。ウィ~」
酒を飲みながら答えるフウト。
「ジョウチュシティ……?そこで一体何を……?」
「実は、お兄ちゃんのことと関係しているの」
ナルミが言う。
「え?また?」
「関連しているとは言うけど、実際はユウナさんが気になるから調べに行っていると言う感じです。クラキチが密輸に手を貸しているって話なんです」
リクが説明をする。
「密輸って……一体なんの?」
「それをユウナさんが調べに行っているんです」
「なるほど……」
トキオが頷く。
すると、ライトがバンッと机を強く叩いた。
「行きましょう!ジョウチュシティに!じっとなんかしていられないわよ!!」
「……恋する気持ちは押さえられないって感じね」
ユウコも立ち上がった。
「だけど、今日は遅い……。ポケモンセンターで休んで、明日出発しよう」
そうね。と、ライトとユウコは頷いた。
こうして彼らの目的地は自然とジョウチュシティになったのである。
たった一つの行路 №087
第二幕 Dimensions Over Chaos
オートンシティの選挙(後編) 終わり