―――「『兎爆』をここまでバラバラにするとはな……いい勝負だった」―――
―――「はぁはぁ……一体……どうやったら……私はあんたみたいに……強くなれるの……?」―――
―――「それは、お主が自分で気づくことだ。強さとは教えられるものではない。自分で見つけるものだ」―――
―――「(強さを…………見つける…………??)」―――
たった一つの行路 №084
6
「んっ……あれっ?……ゆ、夢?」
ゆっくりと目を開けて見ると、天井が見えた。
どこかの建物だということは彼女……ライトは簡単に理解できた。
「(いたた……でも、この体の痛さと重さは…………?夢じゃない?)」
体を動かそうにも、その重さのせいでなかなか動かすことが出来なかった。
しかし、その重さがバトルが原因でないことを知るのは一刻も必要はなかった。
「ルーカシュね~~~さ―――ん♪」
「あうっ!」
歪曲されたイントネーションで声を発する男の声が聞こえたと思うと、自分の体に不思議な電撃が走った。
「……一体……何……?い゛!?」
ライトの体に乗っかって、気持ちよさそうに寝ている男が約一名。
夢の中で何を考えているかは、その寝言で想像つく。
しかものんきに涎までたらしている上に、顔はしまりなくデレデレと。
でもってライトの肉まんのような胸をギュッと鷲づかみにしていた。
「…………」
ワナワナと拳を握り締めて、怒りの炎を燃やすライト……次の瞬間だった……
「…………ギャパーーーー!!!!」
ライトが奇声を上げた。
トキオを蹴り飛ばし、吹き飛ばし、投げ飛ばし、布団を撒き散らし、荷物も全て撒き散らした。
そのライトの行動は台風のごとく凄まじかった。
―――15分後。
「うぅ……何でこんな目に…………」
危うく大ケガのところ軽症で済んだトキオ。
そんな彼は、ポケモンセンターの食堂で朝食をとっていた。
注文した品は、コッペパンにコーンスープ、そして、レモンティである。
「ケガしているから、一人でいるのは大変だと思って、側についていてあげたのに……」
一応、下心無しの親切心だったらしい。
「ただ、そのまま寝ちゃったうえにライトちゃんの上に乗って夢まで見て、そのまま夢に塗れたのは仕方がないとして……」
それは、トキオの普段の下心であることには間違いない。
「ああ……おかげでライトちゃんを怒らせちゃったよ……」
それは当然といえよう。
まず第一に、気絶してから一度も目を覚まさず、そして、目が覚めたときにトキオが自分の体に乗っていてしかも、胸を掴まれていたとすれば、誰だって怒るだろう。
「どうにか、仲直りの方法を考えないとなぁ…………。言い訳しても聞かなかったわけだし……どうしよう……」
とにかく、レモンティを飲みながら、朝食の間ずっと考えていたのだった。
―――「トキオの痴漢、変態、最低!!」―――
そう言って、ポケモンセンターから飛び出してきたライト。
一応、荷物は適度にまとめて飛び出してきたらしい。
「トキオがあんなことする人だとは思わなかったわ!!」
一応、トキオは弁解したのだが、その言葉をライトは聞き入れてもらえなかったらしい。
「早い所、パラレルワールドに行かないと……確か、その情報はオートンシティにあるって言っていたわね……」
と、進もうとするが、ライトは足をふと止めた。
「……でも、オートンシティに何しに行くのかしら?ルーカスさんは“あいつ”の所って言っていたけど……“あいつ”って奴の居場所を私は知らないのよね……」
ライトは腕を組んでその場で考えた。
「……よくよく考えたら、トキオに『私一人で何とかする!!』って啖呵を切っちゃったけど、本当は私ひとりじゃ何も出来ないのよね……私……バカかも……」
ふとライトはベンチを見つけて座り込んでしまった。
「それに……今のままじゃ、絶対あの3人組になんて勝つことなんて出来ない……どうすればいいんだろう……」
すると、数人の子供……といってもトレーナーだろうか?
恐らく初心者トレーナーと思われる少年少女が喋りながら走っていた。
“本当なの?”
“本当みたいだよ!今日、ショップで『ドーピングアイテム』が解禁されるんだってさ!”
“それでポケモンを強くすることが出来るんでしょ!?それじゃ、早く行って買わないと!!”
その話をライトは聞いていた。
「『ドーピングアイテム』……?」
ドーピングアイテムとは、『マックスアップ』、『タウリン』、『リゾチウム』、『インドメタシン』、『ブロムヘキシン』、『キトサン』という、ポケモン能力を向上させるアイテムである。
『プラスパワー』とは違い、能力を維持できるので、値段はとっても高いのである。
「もしかしたら……それを使えば私も強くなれるかもしれない……」
ライトは微かな望みを抱いて、ショップへと走っていった。
「凄い込んでる……(汗)」
ライトはショップの中を見て唖然とした。
そこには、客!客!客!だったのだ。
先ほどの子供の話を聞くと、今日がフールタウンのショップで解禁されるので、集まらないはずがなかった。
それはきっと、W○iの解禁とか、ドラ○エの解禁とか、ハリ○タの解禁とかに似ているだろう。
「お金には余裕があるから買える……買うわよ!!」
と、ライトも一心不乱に客の中に割っていった。
「私はどうしても強くならなきゃらないのよ!!どきなさいッ!!」
客の中を泳ぐように書き分けていく。
「(最後の一個!?……そこよ!もらった!!)」
手を伸ばして、最後のインドメタシンに手を伸ばした。
ガシッ!ガシッ!
やった!と、ライトは思って手元に手繰り寄せようとして気づいた。
「!?」 「!!」
その最後のインドメタシンを掴んだものがライト以外にもいた。
相手はライトよりも見た目が年上の女性だった。
「あんた誰?私が先に掴んだのよ?放しなさい!」
「イヤよ!何言っているのよ!私が先に掴んだのよ!」
同じ高さの目線で2人はにらみ合う。
身長は同じなのだが、体格に差があった。
つまり、どういうことかというと……ライトは『ポン キュ ポン』で、相手の女性は『ボンッ!キュ!ボンッ!』の差である。
「ここは私に渡しなさい!」
「何よ!これは私に使ってこそ意味があるのよ!!」
ギャーギャーと、2人はショップの真ん中でケンカをする。
だが、このケンカは後に終わることになる。
「あれ?」
「へっ!?」
二人ともアイテムを持った感触が一瞬にして消えていた。
“これくださいー”
と、一人の少年がそのライトたちが持っていたレジに通していたのだ。
“ありがとうございました!すごい……完売だ!”
こうして、ドーピングアイテムは全て完売になったという。
店長は満面の笑みで喜んでいたという。
二人はショップの前で途方に暮れていた。
だが、また睨み合いが始まる。
「あんたが……放していれば、私が買えたのよ!!」
「そんなのこっちの言い分よ!!」
とかギャーギャーきりがない。
とにかく、女同士の口喧嘩は醜いったらあーりゃしない。
「私ね……最近負け続きでイライラしているのよ……分かる?」
「イライラしているの私とて同じよ!!欲求不満でおかしくなりそうだわ!」
こうして、二人はモンスターボールを取り出して、一触即発状態に……
「ストップ!!やめなよ!!」
と、ここへグラサンの男が乱入。
もちろんそれはトキオである。
「何が原因か分からないけど、ケンカの上でのポケモンバトルはダメだよ!!……って、ライトちゃん?」
相手が誰か分からずに止めたらしい。
「痴漢変態サイテー男!!一体なにしに来たのよ!まさか、私をストーカーしていたの!?」
「い、いや……だから、あれは本当にごめんって!!もうあんなことは二度とないようにするから……ほんとにごめん!!」
頭を下げて謝るトキオ。
そんなトキオを見て、考えるライト。
「……半径2メートル」
「へ?」
「次に私から半径2メートル以内に入ったときは、許さないわよ!」
「はははっ……わかりました(汗)」
こうして、仲直り(?)出来たという。しかしそれは、ライトとトキオの話だけである。
「ところで……何で彼女と……え!!??」
トキオはライトとケンカした相手を見て目を丸くした。
「トキオ?どうしたの?」
「全く……私を無視して話を進めるんじゃないわよ~!トキオ♪」
どうやら、ライトのケンカの相手は、トキオを知っている様子。
「どういうこと?」
ライトは首をかしげた。
「一体、こんなところで何をやっているんですか!?ユウコさん!?」
「何って……お買い物よ♪」
狐色の一般的なセミロングに紺色のスカート、そして、白いブラウスに赤いネクタイ。
そしてその上に黒いカーディガンを着ているのが、ユウコという人物だった。
というか、ぶっちゃけセーラー服である。
「というわけで……お久しぶり!トキオっ♪」
「お久しぶりです。って、フギャッ!」
無残な声をあげるトキオ。
抱きつかれて押し倒された。
「(む……胸がぁ……ユウコさんの胸がぁ……)」
と、トキオの体に密着するようにユウコのおっきな胸がのしかかる。
大抵の男なら意識せずにはいられないだろう。
むしろ、トキオが意識しないわけがない。
「ちょっと、トキオ!ちゃんと倒れないで私を支えてくれないとダメでしょ!情けないわね!」
「…………」
ライトはトキオがいやらしいとかそう思ったことは今まであったけど今度は違う。
唖然とユウコの行動に気圧されていて、そんなことは感じられなかった。
「トキオとユウコさんって……恋人同士なんですか?」
ライトがふと質問する。
ユウコが起き上がってライトを見た。
「はぁ?何を言ってるの?こんなの挨拶に決まっているじゃない!」
と、ライトは『へ?』といって目を点にする。
てか、挨拶で誰にでもするのだろうか?
「ところで……その格好は?」
ようやくトキオも起き上がって服装を突っ込んだ。確かにそんな格好は誰もしていない。
「え?普通でしょ?この格好?」
いや、どう見ても普通じゃない。とライトとトキオは同時にそう思ったようで、やれやれと首を振っていた。
「そんなことより、トキオもスミに置けないわねぇ!彼女と一緒に2人旅なんて!」
「いや……ちがいま―――」
「こんな男と2人旅をするくらいなら、死んだ方がまし!」
「……(泣)」
トキオが反応する前に、ライトが沿う断言する。
なんか、トキオ哀れなり。
「……なんだ……違うのね。確かに、トキオは“私みたいな”胸が大きい人が好きそうだしね」
思いっきり“私みたいな”を強調して言うユウコ。
さすがにライトはそれにムッと来たらしい。
「胸がなによ!!……あんっ!」
瞬時の出来事だった。ライトが胸を強調しようとした瞬間、ユウコが手を伸ばして彼女の胸を掴んだのだ。
その出来事に、ライトは胸を引っ込めて、顔を赤く染める。
「あら、私より可愛い声を出すのね。……そうね、女の子は胸だけじゃ決まらないものね。ところで、その反応を見ると触られるのは1度や2度って程度かしらね」
「…………(赤面)」
ライトは文句も言えずユウコを見る。
このときライトは思った。
口ではこの人には敵わない……と。
「あれ?おかしいわね。さっき『こんな男と2人旅をするくらいなら、死んだ方がまし!』って言っていたけど、今まで2人旅していたんでしょ?矛盾してない?」
「それは……今日からよ!今日から!あ、そうだ!!」
焦って答えるがそこでライトは思いついた。
「ユウコさんも同行してくれませんか?オートンシティまで!そうすれば、2人旅じゃないし!」
「あ、それいいかもしれない♪」
と、喜びの声を上げるのはトキオ。
それを、ジト目で見るのはライト。
「……私はかまわないわよ。……どちらにしても今は何をやるにしても集中出来ないから……」
「へ?何か言いました?」
ユウコの声が最後の方になって低くなったためにトキオは聞き取れなかったらしい。
「ううん。なんでもない。それじゃ、オートンシティへ行きましょうか♪」
こうして、ユウコがオートンシティまで同行することが決まったのだった。
「(ところで……俺は別に胸が大きい人が好きってわけじゃないんだけどな……)」
と、心の中で言うトキオだった。
7
「店長……この売上を例の場所に運べばいいのですね?」
「はい……お願いします。Mr.M」
先ほどライトとユウコがケンカしていた店の裏側で、何らかの取引が行われていた。
店長がスーツケースをスーツの男に手渡す。
「大丈夫です。私はプロですからね……」
と、スーツの男は黒いスーツケースを持って店の外へと出て行った。
そんな様子を物陰から見ている3人組がいた。
「あの男のスーツケースの中から金の匂いがしますね」
メガネをかけた白いTシャツ、大体17歳くらいの男がメガネをクイッと上げながら言った。
「ジュンちゃんが言うんだから間違いないね♪」
童顔でショートカットでボンッと白いTシャツの上からでもはっきりと分かる巨乳の20代半ばの女が、猫を被ったような喋り方で言う。
「つまり……アレを奪還して届ければ、今回の依頼はコンプリートというわけだ」
長い髪のポニーテールのグレーのジーンズに黒のランニングの男が、口にくわえていた煙草を落とすと足でもみ消した。
年齢は20歳前後くらいだろう。
「行くぞ!ジュンキ、ミナミ」
「リョーカイ♪」
「いいですよ」
後編へつづく