現在、トキオとライトはナシロ湖を横断していた。
「ナシロ湖って大きいわね」
「ノースト地方最大の湖だからね。それ故にいろんな種類のポケモンが住んでいるんだ」
湖を見ると、ミニリュウやタッツーが泳いでいたり、テッポウオが水面から飛び跳ねて遊んでいたりと、トキオの言うとおりたくさんのポケモンが姿を見せていた。
ところでトキオは、一度ライトにチルタリスから蹴落とされたのを反省してか、今度はしっかりとエアームドに乗っていた。
「ところであんた、ラティオスを持っていなかった!?何でテレポートで一気にオートンシティまで行かないのよ!!」
「仕方がないだろ!あいつは妹思いのラティオスなんだ。たまにアルトマーレへ帰るのを約束で俺の手持ちポケモンになっているんだ。そこらへんはきっちりけじめをつけないといけないだろ!」
「なるほど……ラティオスもシスコンで、トキオもシスコンというわけね」
「別にシスコンじゃない!ラティオスも俺も単に妹のことが心配なだけだ!!」
「そーゆーのをシスコンて言うんじゃない」
ライトが口を尖らせていう。
「以前アゲトビレッジに戻ったときなんか、カレンがハルキと一緒に温泉旅行に行くって言ってたんだぜ!俺はハルキに悪いことされないか心配で心配で……」
「真髄のシスコンね。言っておくけど、そんなに心配されたら、カレンは何も出来ないわよ。それにカレンはうれしいと思ってないわよ」
「俺は別にカレンを喜ばせるために心配しているわけじゃない!俺はあいつの将来が心配なんだ!それに何を考えているか分からない無口男の思うようにされるのが嫌なだけなんだ!!」
「要するに、あんたはハルキのことが嫌いなだけね」
「そうさ!俺はハルキのことが嫌いだ!!」
プイッ!っとそっぽを向くトキオ。
「あんたがハルキのことが嫌いでも、カレンがハルキのことを好きならどうしようもないことよ」
「それでも俺はイヤなんだよ!」
「もし、私がカレンだったらあんたなんてケチョンケチョンのペッチャンコにしてやるんだから」
「……えっ!?それ脅し!?怖いから!!(汗)」
おどけてトキオは言う。しかし、ライトはキッとトキオを睨んだ。
「言っておくけど、私もあんたのこと嫌いだから」
「え?(汗)」
面と向かっていわれてショックだったか、トキオは黙り込んでしまった。
しかし、その空気もそれほどもたなかった。
「ライトちゃん!!危ない!!」
「えっ!?」
ナシロ湖を半分超えた所でトキオがエアームドでライトのチルタリスに体当たりを仕掛けた。
しかしそれは下から撃って来た破壊光線をかわすためだった。
「あれは……ギャラドスの群れ!?」
ライトは下を見て確認する。
「いや……それだけじゃない……ハクリューやミロカロスの群れまでいる……」
「!?」
すると、いっせいにポケモンたちは襲い掛かってきた。
それも主にドラゴン系が使う『竜巻』の嵐だった。
「ぐっ!!」
「きゃぁ!!」
強力な風に吹き付けられて、うまくコントロールが効かないエアームドとチルタリス。
「とりあえず、こいつらを戦わないと……!!ゲンガー!!『10万ボルト』!!」
「くっ!チルタリス!!『竜の息吹』!!」
二人の攻撃がミロカロスに届くがそのミロカロスの前には鏡のような壁が……
「ま、まずい!!ゲンガー!!」
ミロカロスはチルタリスとゲンガーの攻撃を弾き返した。『ミラーコート』だ。
ゲンガーはライトのチルタリスにダメージが行かないようにと、自らダメージを受けに行った。
しかし、その瞬間、一匹のミロカロスは倒れた。
「『攻撃を受けて止めてくれてありがとう』……なんていわないわよ!」
「(いや……言ってるじゃないか)」
心の中でさりげなく突っ込むトキオ。だが、油断できない状況には変わりない。
「ところで、何でこいつら強いの!?ゲンガーが『道連れ』を使ってなければ、さっきので終わりだったわよ」
「ここのナシロ湖のポケモンは頭がいいんだ。弱いトレーナーが出てきたときは進化前のポケモンがでてくるんだけど、強くなれば強くなるほど、それに応じた野生のポケモンたちが現れるんだ」
「そんなのありィ!?私、普通にあの水系ポケモンたちに対抗できるポケモンがいないわよ!!」
ライトの残りのポケモンは水中専用のゴルダックと陸上で戦うバシャーモぐらいだった。
「それなら、ここは俺に任せてくれ!ジュゴン!!ローガン流……『氷の世界』!!」
空中でジュゴンを繰り出して、水中に向けてその技を放つ。
すると、一瞬にしてカッチーンと水面が氷付けになった。
水面にいたミロカロスやギャラドスたちは一瞬にして動けなくなった。
「すごい……でも、まだ飛んでいるハクリューの群れがいるわよ!!」
「ライトちゃん!早くこっちへ!!」
氷に降り立ったトキオはこっちへ来るように行った。
急いで降り立つが、もちろんハクリューは空から襲い掛かってくる。
「じゃ、行くぞ!サンダース!!例の技だ!」
トキオがサンダースを繰り出すと、瞬時に背中の針を立たせながら、放電し始めた。
すると、その針が一斉に飛び出して、ハクリューにダメージを与えていった。
しかし、ダメージだけではない。その針には電気も纏ってあり、痺れさせる効果まであった。
攻撃を受けたハクリューたちは、凍った水面の上で痺れていた。
「我流『サンダーランス・ショット』だ」
とトキオが言うと、ミロカロスとギャラドスたちは氷漬け、そして、ハクリューは氷の上で痺れていた。
「ランス?……ランスというよりもニードルの方がいいんじゃない?」
「まあ、細かいことは気にしさんな!先へ急ぐんだろ?」
「そ、そうね……。でもそれにしても、こいつのポケモンたち……おかしくない?」
「確かに……湖のポケモンたちが異様に殺気立っていた……。しかもよく見ると傷だらけだ!?致命傷には至らない傷ばかりだけど。何があったんだ!?」
氷漬けになっているギャラドスやミロカロスを見てトキオはそういう。
「あれ?」
「どうしたの?ライトちゃ―――」
トキオとライトが見ると、ハクリューがこっちを睨んでいた。
「忘れてた……ハクリューの特性は『脱皮』……つまり麻痺は……」
「トキオ……詰めが甘いわよ!!」
すると、ハクリューたちは一斉に飛び上がった。
「に、逃げるぞ!!」
エアームドとチルタリスを再び出して、全速力で彼らは逃げていった。
「追いかけてくるわ!?」
「しつこいぜ……でも見えたぜ!」
トキオが指差す先には湖の終わりが見えた。
「このまま一気に行くぜ!!」
「ええ!」
トキオとライトはスピードをさらに上げて、ハクリューたちを引き離しにかかった。
しかし……
ヒュッ!シュン!ブワッー!
「なっ!!」
「きゃあ!!」
突如の衝撃波にエアームドとチルタリスはバランスを崩して湖のほとりに落ちていった。
一方のハクリューの群れはその衝撃を見て恐れて戻っていった。
「いてえ……さっきの衝撃は何だ?!」
「ポケモンの技……?」
「否……違う。それは拙者の剣技である」
「誰だ!?」
トキオがそういうと、森の中から一人の男が出てきた。
格好は銀色の袴を羽織っていて腰に2本の刀を携えていた。
「拙者の名はクサナギ。剣士の高みを目指す者だ」
「クサナギ……?」
「剣士……?」
「今ここで高みを目指すために修行を積んでいる。つまり、拙者の相手をしていただきたい」
「まさか……野生のポケモンにあれほどの傷を負わせたのも……」
「傷?傷をつけぬ程度に手加減しているつもりだが……くっ、やはりまだ拙者は未熟ということか……」
「どっちにしてもお前の相手なんてしている暇はねえ!!」
「そうか、だが、相手をしないならここは通さん!通りたくば、拙者の屍を超えていけ!」
一歩、クサナギが踏み込む。
その瞬間、トキオの視界からクサナギが消えた。
「……!?……はやっ!!」
ドスッ!
「うっ!!」
「トキオ!?」
腹を小突かれて、トキオは気絶してしまった。
「ちょっと!卑怯じゃない!あんたは剣を持っていて、こっちは丸腰なのよ!?正々堂々と勝負しなさいよ!!」
「正々堂々か……これは失礼した。いつもの癖で」
「(どんな癖よ)」
「それなら、お主と戦うのはポケモン同士でやろうではないか!!」
すると、クサナギはポケモンを繰り出してきた。
「……私たちは急いでいるのに!!タテトプス!!」
ガキン!!
金属の音が響き渡る。
ライトはタテトプス。そして、クサナギはカモネギだ。
「なるほど……硬いな……」
「(こいつ……ポケモンにまで剣士まがいなことをしているわけ!?どこまで侍バカなのよ)」
「カモネギ!見せてやれ!鉄をも切り裂く抜刀術を!!」
「やれるものならやってみなさい!!『鉄壁』からの『メタルバースト』で弾き飛ばしてあげるわ!!」
クサナギはカモネギに二つのネギを渡した。それはどちらも長ネギだった。
長ネギは急所に当たりやすくするアイテムである。
「いざ、行かん!」
ズバ!ズバ!ドカン!!
「えっ!?」
タテトプスに反撃の余裕はなかった。
一瞬にして斬りつけられて、ダウンさせられた。
「そんな……防御力には自信があったのに……」
「ふっ、こいつの攻撃に防御など無意味だ。長ネギのクリティカルヒットでそれを無効化する」
「(……こいつ……強い!?あのミナノと同じくらい!?)」
「どうした?もう終わりか?」
タテトプスを戻して、ライトは次の攻撃に入った。
「プクリン!!『水の波動』!!」
クサナギとカモネギは余裕で構えていた。
「その程度の攻撃……無に等しい」
カモネギがネギを収めたと思った瞬間、水の波動が切り裂かれて、プクリンにまで達した。
「え!?プクリン!?」
致命傷にまではいたらなかったが、ライトにはその攻撃が見切れなかった。
「一体何を……!?」
「『真空波・一閃』……風をも斬り裂く斬撃だ。正確には風だけではない。火も水も風も目に見えないものまで切り裂くことが出来る必殺剣だ」
「……?」
「どうした?」
ライトは首をかしげていた。
「何故、こうも簡単に相手に技を教えるわけ?」
「そんなの愚問だな。戦いをより面白くするためだ」
「……つまりあんたは修行バカで侍バカでバトルマニアというわけね……」
「何とでも言うがいい。拙者は自分を高めるためならなんだってする!!『五月雨突き』!!」
「プクリン!『リフレクター』!!」
打撃攻撃と読みきって、壁を張るプクリン。
だが、カモネギの猛攻にあまり保つことは出来ないようだった。
「耐えて!!」
「引け!『時雨抜き』!!」
ネギを思い切って一振りした。しかし、それだけで何も起こらなかった。
「(え!?一体なんだったの!?外したの??でも……今のうちよ!!)プクリン!まるくなって『転がる』!!」
「『居合斬』!!」
ズガン!!
強力な二つの技が激突。
そして、立っていたのはカモネギだった。
「(つ……強い……)」
しかし、カモネギも剣(ネギ)をついて息をしていた。
「なるほど……相当のダメージを受けているのか……。さすがに無傷で切り抜けることは出来なかったようだ」
クサナギはカモネギを戻して、今度はバシャーモを繰り出してきた。
もっているのは厚みはあるがどこか質量が軽そうな剣だった。
しかも、左右に一つずつ持っていた。
「剣を持っているなんて反則じゃない!!」
「アイテムをもたせることは別に悪いことではない」
「……アイテムというか武器じゃない!!」
ライトのツッコミもクサナギの前には無意味だった。
「じゃあ、行って!ゴルダック!!」
気合十分で飛び出すゴルダック。
だが……
ズバッ!!!!
「えっ!?」
次の瞬間、ゴルダックは戦闘不能になった。
「(何で?そのバシャーモ……一体何をしたの!?斬りつけたような音だったけど……あのバシャーモ動いてないじゃない!?)」
「不思議そうな顔をしているな……教えてやろう。今の攻撃はカモネギの『時雨抜き』だ」
「まさか……時間差攻撃!?」
「実際振った時間と当たるまでに時間差があるというわけだ」
「しかも……まさか一撃で倒れるような威力なんて……」
「終わりか?」
「まだよ!!」
クサナギのバシャーモが剣を振り下ろしたとき、ライトのバシャーモがそれを受け止めた。
「なるほど……同種族同士の戦いか……」
「言っておくけど……このポケモンであんたの全てのポケモンを倒してあげるわよ!!」
「そうか……。バシャーモ!!『メテオレイン』!!」
「接近して!!」
剣から放たれる強力な火球をかわしていくバシャーモ。
そして、相手のバシャーモに照準を合わせて炎の蹴りをお見舞いした。
「『ブレイズキック』……決まったわね!」
「ヌルい」
「!?」
ズサーッと蹴りの勢いで地面を刷りながら後退したバシャーモ。
ライトのバシャーモの蹴りを二つの剣でガードしていた。
「このバシャーモの剣『兎爆』の力……見せてしんぜよう」
「『賭博』?賭けでもするの?」
と、ライトが言うけど、クサナギは無視した。
「この剣には2つの能力がある。一つは炎と爆発の能力。バシャーモの本来の炎を引き出して、剣の力を増幅させている。そしてもう一つは……」
クサナギのバシャーモは一気に切りかかった。
「えっ!?」
そう、斬りかかっているのだが、そのスピードが全く見えなかった。
そして、地面に転がるライトのバシャーモ。
「ウサギのような瞬発力を持つ剣だ。ゆえにこの剣の名前は『兎爆』。理解できたかな?」
「もともと、剣の名前や能力なんてどうでもいいのよ!バシャーモ!!『大文字』!!」
だが、クサナギのバシャーモは大文字を突き抜けて、ライトのバシャーモに切りかかる。
その剣のスピードになす術はなかった。
「終わりだ!『デュアルエクスプロージョン』!!!!」
バシャーモの二つの剣から凄まじい炎が吹き出して、クロスするようにライトのバシャーモに放った。
そして、大爆発を起こす。
「きゃあ!!バシャーモ!!」
ライトとバシャーモは吹っ飛ばされるが、間一髪のところで踏みとどまった。
「どうやら……攻撃を耐えたらしいな……お主もお主のバシャーモも……」
ボロボロながら立つ、ライトとバシャーモ。
「だが、これで止めだ。『デュアルエクスプロージョン』!!!!」
「はぁはぁ……(半端な攻撃じゃ……あの攻撃に太刀打ち出来ない……これで一気に倒す!!)バシャーモ!『オーバードライブ』!!!!」
全ての炎と闘気を右拳にあつめて、それを相手の交差する2つの剣にぶつけた。
その瞬間、先ほどよりも凄まじい大爆発が起きたのはいうまでもない。
そう、その衝撃はナシロ湖全域に伝わったといってもいい。
野生のポケモンたちはその衝撃にざわついた。
「はぁはぁ……」
「やるな」
バタリ バタリ
こうして両者のバシャーモは倒れた。
「うっ……」
バタリ……
そして、ライトも倒れた。
「あれほどの爆発を真近で受けて平気なはずがない。それを知っていてやったのか……この女は?」
自分のバシャーモの持っていた剣の欠片を拾った。
「それに『兎爆』をここまでバラバラにするとはな……いい勝負だった。今日の修行は満足だった。またお主と戦いたいぞ」
「待ちな……さい」
「ん?」
「はぁはぁ……一体……どうやったら……私はあんたみたいに……強くなれるの……?」
ライトが聞く。
「お主……強くなりたいのか?」
「この先……私には助けたい人がいるの……そのためには倒さなければならない奴がいっぱいいるの……そのためには強くならなければならないの……」
「それは、お主が自分で気づくことだ。強さとは教えられるものではない。自分で見つけるものだ」
「自分で……?そんな時間なんて……」
「与えられる強さなど、真の強さではない。拙者に言えるのはそれだけだ」
その言葉を聞いてライトは気を失った。
「つつ……お前……ライトちゃんに何をした?!」
ちょうど、トキオがお腹を抑えながら立ち上がった。
「拙者の修行に付き合ってもらっただけだ。そんなことよりも、お主……あいつをしっかりと導いてやるんだな」
「は?」
クサナギはそれだけ言葉に残して、歩いてその場を去って言った。
トキオはエアームドを繰り出して、とりあえず、近くの町のフールタウンへと向かったのだった。
たった一つの行路 №083
第二幕 Dimensions Over Chaos
ナシロ湖での導き(後編) 終わり