―――研究所裏口。
「ごめんくださーい!!」
トキオがノッポな男と戦っているころ、1人の女性が裏口から呼びかけていた。
彼女の服装はピンクのカーディガンを着て、白いロングスカートを履いていた。髪型は色が黒でお尻の辺りまでの長さがあるロングヘアだ。
そしてその先端を少し大きめなゴムで束ねていた。
「あら?ここ……チャイムがないと思ったら裏口でした……」
おっとりとした口調で、1人でボケる。
「……ええと、表口はこちらでしたね……」
そんなこんなで、彼女は白いロングスカートがはためかないほどゆっくりとした遅さで表へと回って行った。
「ガルーラ!!ヘルガー!!」
わずか5分でトキオの残りのポケモンは一体になってしまった。
「つ……強い……強すぎる……」
「強い……?違うな。お前が弱いんだよ」
「何だと!?」
「現に俺は一度もこいつに技を出させていません」
「え?」
「こいつが放ったのはただのパンチだ」
「……嘘だろ……ただのパンチが『真空波』レベル……いや、それ以上だと!?」
『真空波』は格闘系タイプの先制攻撃の技である。
それは拳に乗せて打ち出す技であり、遠距離系としての役割も十分あった。
「残りはその手に持っているポケモンだけみたいだな……。敵わないとわかっていてもやる気か?」
「くっ……」
トキオは唇をかんだ。
最後のポケモンは切り札のサンダースだ。
簡単には負けないとは思っていた。しかし、同時に相手のポケモンを全滅させるだけの力は持っていないと分かっていた。
技も出してない上に、まだ未知のポケモンが少なくても5匹いるのだ。
「おとなしくイエローに会わせてください。そうすれば、何の危害も加えないのですよ」
「(奴はそういうけど……イエローさんに会わせるわけには行かない……!!)」
トキオは覚悟を決めて振りかぶった。
「やる気か……」
「行け!!サンダ―――」
「トキオさん!!ようやく見つけましたー」
ズゴーー!!
トキオは予想外の言葉にずっこけた。
「あれ?バトル中でしたか……」
やわらかくおっとりとした特徴のある声、または側にいる人を和ませるような優しい声で状況を把握しようとする。
その女性は先ほどまで間違えて裏口から入ろうとした女性だ。
「お……オトハさん……なぜここに!?」
「何故って……理由もなく来てはいけないんですか……?」
「い、いえ!そういうわけでは!!」
あたふたとトキオは言う。
「オイ……お前は何だ?」
「私……ですか?」
オトハは手をそろえて丁寧にお辞儀をする。
「踊り子のオトハです。よろしくお願いします」
「いや、オトハさん!!のんびりと自己紹介している場合じゃないから!!」
彼女も2年前のロケット団との戦いに参加していた。踊り子姉妹の姉である。
「お前も邪魔をする気ですか?」
「邪魔って?」
右手を後ろに回して左手を掴んだ体制で首をかしげて聞き返す。
この体勢はオトハの癖らしい。でもこの癖のおかげで背がきっちりと伸びてキレイに見えて、スリムな腰と大きな胸が強調されるようだ。
「実は……」
トキオは事の顛末を分かりやすくオトハに説明した。
「そうなんですか……。それじゃ、私がトキオさんの代わりにあの人とバトルしますか?」
「……え!?何でそうなるの!?オトハさんじゃあの人には……」
「面白い……オコリザル!!やれ!!」
先ほどと同じく、オコリザルは拳圧をオトハに向けて飛ばした。
「危ない!!」
トキオはそういうが、オトハは動じなかった。
その攻撃は当たらなかったのだ。
「まさか……当てないのを分かっていたのか……」
「当てる気のない攻撃を避けるなんてことはしません」
「そうか……面白い……少なくても、そこの白衣の男よりはやりそうだな」
「え゛」
トキオの意思にかかわらず選手交代となった。
「次は当てますよ!!」
再び、オコリザルは拳圧を放った。
オトハはボールを持って構えた。
拳圧がオトハに向かっていった。しかし、勢いよくボールから飛び出してきたポケモンによってそれはかき消された。
そして、そのままオコリザルにぶつかっていった。いや、ぶつかる瞬間なんて見えなかった。まさに一瞬だ。
そのままオコリザルをぶっ飛ばした。
「な……何が起きたんだ!?」
「……マリルの『アクアジェット』か……」
男がポケモンを見てつぶやいた。
「正確には『アクアジェット』のスピードと『捨て身タックル』の威力を合わせた技です。技の名前はまだありません」
「まさか……オコリザルを一撃で倒すだけの力があるとはな……正直びっくりした」
と、男は言うがオコリザルは起き上がった。そして、気合を最大限にまで高めた上に怒りも最大限にまで高めていた。
「『こらえる』……『きあいだめ』……そして、特性の『怒りのツボ』ですね。急所狙いで一撃で倒したつもりでしたが……うまくいきませんでしたね」
「ふっ!やれ!!」
「マリル!!」
両者、電光石火級のスピードでぶつかっていった。そして、両者ダウンした。
「やるな……」
「あなたこそ……」
「少しお前を侮っていた。そして、お前の強さに敬意を示してお前を倒す名前を教えよう。俺の名前は『TSUYOSHI』!」
「ツヨシさんですね」
「違う!!決して、ツヨシでも、つよしでもないからな!ローマ字でTSUYOSHIだからな!」
「いや、口に出されるとどう違うかわからないだろ(汗)」
「行くぞ……」
「どうぞ……」
TSUYOSHIが次のポケモンを繰り出す。シザリガーだ。
しかし次の瞬間……
「『フラッシュ』!!」
一瞬の光が全てを包み込んだ。光が消えた一瞬でシザリガーは倒されていた。
「なっ!?」
「い、一瞬!?」
「さぁ、次は何ですか?」
オトハの隣にはのんびりと浮かんでいるバルビードの姿があった。
「どうやら、本当に本気で行かないといけないらしいな……ドクケイル!!」
「もう一度『フラッシュ』!!」
「同じ手はくわない!!」
フラッシュが終わったとき、ダウンしていたのはバルビードだった。
「どうです!?」
「もう次の手はうってあります!!」
「右……?左……?後ろか!?」
いや、TSUYOSHIの読みは全て外れていた。攻撃は地面からだったのだ。
地面から出てきたマッスグマがドクケイルを噛み付いてそのまま叩きつけたのだ。
「次ッ!!ハンテール!!『アクアテール』!!」
「マッスグマ!!」
避ける指示を出す。しかし、かわすことが出来なく、あっけなくマッスグマはダウンしてしまった。
「……ドクケイルの『痺れ粉』を受けていたのね……」
「よく分かったな」
「状況判断はバトルで常識です」
「そうか……うん?日差しが―――」
「『ソーラービーム』!!」
ハンテールに苦手属性の攻撃……草タイプの攻撃が命中して一撃で倒れてしまった。
「……まさか、あのマッスグマ……『あなをほる』攻撃に入る前に『にほんばれ』を発動させていたな……」
「ふふ……ちなみにマッスグマを出したのはバルビードの最初のフラッシュのときです」
「なかなか、攻撃を組み立てているな……だが!『ミサイル針』!!」
速攻でハリーセンを繰り出した。しかし、オトハの草ポケモン、ロズレイドが針を全て手の花でなぎ払った。
「もう一度……『ソーラー―――」
「させない!!『大爆発』!!」
ロズレイドの目の前にまで来て大爆発を決めた。そう、ミサイル針を打ちながら接近していたのだ。
「……残り一匹ですね」
「……ふっ……」
2人はボールを構える。
「(な、何だよこの二人の戦いは……ありえないほどの早さ……ありえないほどの強さじゃないか……)」
トキオはただただ唖然としていた。
「あなたはよくやった。しかしこいつで終わりです」
最後に繰り出したのは、体全体が丸っこく、ピンク色で長い舌を持ったポケモン、ベロベルトだった。
「それはやってみないとわかりませんよ」
にこっと笑って、オトハが出したのは卵を抱えたポケモン、ラッキー。
そして、出てからすぐに、卵をジャグリングして、連続で放り投げていった。
連続の卵爆弾である。
ベロベルトは目をカッとして、その攻撃を受けた。
卵はどんどん爆発していき、ベロベルトを爆煙で包み込んだ。
しかし、爆煙はすぐに吹き飛んだ。体を回転させて全てを受けたのである。
「そんな攻撃は効かない」
「やりますね」
「ベロベルト!やれッ!!」
ドリルのように回転し、突進のように突撃してきた。
ラッキーはそれを受け止めようとして弾き飛ばされた。その攻撃はオトハにまで飛んできた。
しかし、その場からジャンプして飛ぶように離れて攻撃を余裕でかわした。
さらにボールをかざしてラッキーを戻した。
「この攻撃をかわすとは……」
「私はかわすことだけがとりえですから。それにしても強いですね」
「当たり前です。手持ちの中で最強のポケモンですから」
「それなら、私も手持ちの中で最強のポケモンを出します」
最後のボールを取り出すと、中から出てきたのはシャムネコポケモンのペルシアンだった。
そして、すぐに消えた。
「!!(速い!だが……)」
『猫騙し』を繰り出すペルシアン。しかし、ベロベルトは回転して、攻撃を弾き返した。
「!!(防がれちゃった!?)」
「『メガトンパンチ』!!」
ペルシアンは攻撃を弾き返されながらも、着地して体勢を立て直した。だが、もうそこにはベロベルトの攻撃が迫っていた。
「決まりだ!!」
「(いえ、これならかわせます)」
オトハの思ったとおり、ペルシアンは飛び上がり、持ち前の柔軟性を生かして攻撃をかわした。まるでムーンサルトのようにしなやかだ。
そして、後ろ足で着地して、脚をバネのようにしてベロベルトの隙を狙って勢いよく切り裂いた。
ベロベルトとすれ違いになり、ズサーッと前足で着地した。だが、ペルシアンとオトハはまだベロベルトから目を離さない。
「あの攻撃を耐えるとは思いませんでした」
「この程度の攻撃ではやられない……んっ!?」
しかし、TSUYOSHIのセリフの後、ベロベルトはよろけて、膝をついた。
「どうやら、意外にも効いているな……。勢いをプラスした切り裂くだと思ったのですが……」
「いいえ……そのとおりですよ」
「(通常技だけでこの威力とは……思ったよりもこの女とペルシアンは強いらしい……。あの技を使うか……)ベロベルト……例の技です」
「ベローン!!」
ベロベルトは右手を後ろに左手を前に出して、前かがみになった。
「……(突進系の技かしら……?)」
「『ジャイロドリラー』!!」
回転をし始めたかと思うと、ベロベルトは地面へと潜っていった。
「ペルシアン!警戒して!」
「無駄です」
ペルシアンは突き上げられるように吹っ飛んでいった。
「終わったな。後はそのまま地面に叩きつけて擦り付けるだけだ」
「そんなことはないですよ♪」
「何ィ!?」
オトハは自信があった。この攻撃をかわすことが出来ると。
その証拠にペルシアンはそのドリル攻撃から飛び上がり、攻撃をかわして、ベロベルトのさらに上空にいた。
「なっ!?まともに攻撃を受けたはずなのに……。何故ダメージがないのですか!?」
「月舞踊……『流漂<りゅうひょう>』です。ペルシアン!次の攻撃です!!」
「っ!!これは!?」
ペルシアンの手からでてきたのは、太陽のエネルギーの光線……ソーラービームだ。
「『猫の手』か!!??だが、その程度の攻撃では倒せん!!」
ベロベルトの必殺技、ジャイロドリラーはソーラービームをも拡散してしまった。
だが、その攻撃の威力は衰えていた。
次の攻撃で決め技にするには十分だった。
「これで決めます……『キャット・ザ・ムーンサルト』!!
ベロベルトに噛み付いたかと思うと、体をグンと捻ってグルングルンと縦回転に回っていった。
そして、最終的にはベロベルトを地面へとたたきつけた。
「っ!!ベロベルト!!」
ベロベルトは戦闘不能になった。
「はい、私の勝ちです♪」
「……仕方がない。ここは立ち去るとしましょう。しかし、次に来るときはこうはいきませんよ!!」
すると、TSUYOSHIは、ベロベルトを戻して立ち去っていった。
「いや、もう来なくていい」
トキオはTSUYOSHIの後姿にそう言った。
そしてオトハはペルシアンを戻して一息ついた。
「すげーよ!!オトハさん!!あなたってこんなに強かったんですね!?」
今までただ見ているだけだったトキオが驚いて言う。
「あんな強い奴に勝っちまうなんて……」
「いいえ……」
「え?」
「あの人はまだ力を隠しています」
「う、嘘だろ!?何でそんなことが分かるんだ!?」
「だって、さっきあの人言ったじゃないですかー。あのベロベルトが“手持ちの中で最強のポケモン”だって。つまり、ベロベルト級以上のポケモンがまだ控えているということです」
「そ……そんな……あれ以上の実力なんて……」
「ええと……それよりもなんでしたっけ?」
「え?」
「私……何のためにここへきたのでしょう?」
「は……?」
オトハはすっかりここに来た目的忘れていたのだった。
たった一つの行路 №081
第二幕 Dimensions Over Chaos
イエロー・デ・トキワグローブ(後編) 終わり