―――「あなたがハルカね?」―――
―――「え?そうですけれど……」―――
―――「……困った時はいつでも私の所へ相談に来なさい」―――
―――「えっ?」―――
―――「何でも相談に乗るわよ。ポケモンのことでも、この先何をすればいいかも、そして、恋の悩みでもね」―――
―――「何で?何でですか!?どうして私のことを気にするんですか!?」―――
―――「それはね……」―――
たった一つの行路 №078
あれは2年前のこと。
ロケット団との戦いの傷を治したマサトは、ハルカとユウキと一緒にカントー地方の冒険を続けた。
もちろん、マサトのジムバッジを巡る旅の続きであった。
最初にロケット団の戦いの前に、マサトはピンクバッジ、ゴールドバッジ、レインボーバッジをゲットしていた。
それから、騒動の後にゆっくりと時間をかけてオレンジバッジ、ブルーバッジ、グリーンバッジ、そして、クリムゾンバッジの順に手に入れた。
ただ、ニビシティのグレーバッジは、騒動の間にタケシがマサトに実力を認めてバッジを渡したのだ。
こうして、マサトはカントー大会に出場を果たした。
カントー地方の冒険や、ロケット団との激しい激闘を経験したマサトは難なく準々決勝まで楽に勝ち抜くことが出来た。
準決勝は多少苦戦したものの勝利。
そして……決勝は……
「サーナイト戦闘不能!!」
マサトはその瞬間、拳をギュと握り締めた。
「ラルトスの勝ち!!よって勝者、マサト!」
このコールでその手を挙げた。すると、観客が沸きあがった。
そう。彼はカントー大会を制覇したのだった。
それから、マサトはその報告のためにホウエン地方のトウカシティへと帰っていった。
しかし、途中で姉のハルカとは別れることになった。
ジョウト地方にポケモンコンテストがあると知ったからである。
その出場に向けて、彼女もまた歩き出したのである。
ユウキはマサトと一緒にホウエン地方へと戻った。
父のオダマキ博士の手伝いをする為である。
ユウキはハルカと一緒に行くといったのだが、ハルカが1人で旅したいのといった為に、寂しかったのだ。
それから、1年の月日が流れた……。
「ハルカ君……実は話があるんだ……」
「え?いきなりどうしたの!?」
ジョウト地方のポケモンコンテストを終えたハルカは船に乗ってミシロタウンを経由してトウカシティに戻ってきた。
彼女は何年ぶりか忘れていた。
そう、マサトが一人立ちするために一緒に旅について行ったときからである。
しかし今、彼女は一人ではない。一緒に旅をしている同行者がいた。
彼は、ハルカのコンテストのライバルであるシュウだった。
ホウエン地方をサトシたちと一緒に旅をしていた頃、まだハルカが駆け出しのコーディネーターだった頃にすでにロゼリアを連れた人気あるコーディネーターになっていた奴である。
「…………」
そのシュウはライバルであるハルカを見つめていた。
「なっ?どうしたの?黙っているなんてシュウらしくないかも!!」
「ずっと、言いたかったんだ」
「え?」
「最初に君に出会ったときから僕は君の事をずっと気にしていた」
「!?」
「最初はコーディネータとして危なっかしくて見ていられなかったからだと思う。でも、君は腕をメキメキと挙げていった。
すると僕は君に追いつかれないように、君をライバルとして目をつけていたのかもしれない」
「…………」
ハルカは黙って、シュウの話に耳を傾けていた。
「そして、ジョウト地方のグランドフェスティバルで君と会って戦った時、その感情はもうなかった。実力は僕同等、いや真の力はそれ以上だということがわかったからだ。
でも、それでも僕は君を見続けていた……」
「シュウ?」
「わかったんだ……」
一呼吸おいてハルカに言う。
「僕は君が好きなんだ。ハルカ君」
シュウの一言がハルカの心に刻まれる。
「(シュウが……私のことを……好き……?)」
トウカシティに到着して、ホッとした所での突然な告白だった。
それゆえにハルカは理解するまでに少しかかった。
「(好き……?ええと……私のことが好き?……これって……告白?……えっ!?“告白”!?)」
「ハルカ君……?」
何の反応もないハルカの目の前で手を振って意識を確認するシュウ。そこでハルカははっとした。
「わっ!私は!……ええと……」
ハルカはシュウの気持ちに答えようと必死に言葉を考えた。
「私は……」
少し目線を外し気味に答えようとする。
その頬はほんのり桃色だった。
「ハルカ――――――!!」
だが、その言葉は一人の少年の声に遮られた。
白い帽子に黒いズボンの溌剌とした少年だ。年はハルカと変わらない。
「久しぶりだな!一年ぶりだよな!」
事もあろうか、少年はシュウを押しのけてハルカの手を握った。
「ユ、ユウキ……」
声に出してその少年の名前を呼ぶ。
「みんな、ハルカが帰ってくるのを待っていたんだぜ!」
「えっ!?そうなの……?」
「そうさ!早く、センリさんのところへ行こう!」
「う……うん」
話はどんどんユウキのペースで進んでいく。
「あれ?」
けれど、そこでやっとユウキはシュウの存在に気がついた。
「確か……シュウだったよな?前にタマムシシティで会ったよな?」
「ああ。そうだよ」
「何でハルカと一緒にいるんだ?」
「そ、それは……」
ハルカが気まずそうに説明をしようとする。でも、その前にシュウが言った。
「ハルカ君をここまで送りに来たんだよ」
「そうか……じゃあ、もう帰るのか?」
「ああ、そうさせてもらうよ」
シュウがくるりと来た道を引き返そうとしていた。
「待ってよ!そんなに急いで行かなくてもいいでしょ!家に寄っていってよ!」
シュウの腕を掴んでハルカは引き止めた。
「いい……でしょ?」
弱々しい口調(女の子らしい口調というべきだろうか?)でシュウに言う。シュウは頷いて、トウカジムに向かうことにした。
そのときユウキが少しばつが悪そうな顔をしていたのをハルカは気がつかなかったが、シュウはそれを見逃さなかった。
「どう?ママ?」
「あら?可愛いじゃない♪とっても似合っているわよ!!」
トウカジムに戻ってきたハルカがまずしたことは着替えだった。
いつも、モンスターボールのロゴの入った赤いバンダナにボディラインが一目でわかる赤いシャツにスパッツなのだが、ジョウトに行った際にいろいろと自分に合う服をチョイスしていたのである。
その服装というのが、赤が基調の裾にレースがかかったスカートに白のシャツの上に赤のラフな長袖、そして、頭にはバンダナではなくピンク色の少し大きめのリボンである。
髪型もツインテールでいつもの彼女と違っていた。(なお、髪型のイメージとしては映画の『波動の勇者』のときにドレスを着ていたときのイメージである)
それが今の彼女の格好だ。
「は……ハルカ……その格好……似合うな」
「え?ユウキ、ありがとう」
チラッとハルカはシュウを見るけど、シュウは黙り込んだままだった。
そのままの調子で、彼らは腹ごしらえを始めた。
でも、シュウやハルカが自ら喋ろうとはせず、主にセンリとユウキが聞いていくような会話になった。
内容はジョウト地方での旅に会ったトラブルとか、コンテストのバトルとか、旅に出会った人たちのことであった。
やがて、その会食は終わって、片付けに入った。
「センリさん……お願いがあります」
「なんだい?」
椅子に腰掛けたまま真剣な目でユウキはセンリを見ていた。そして、その真剣さが伝わって、ミツコもハルカも片付けを止めた。
「僕とハルカのお付き合いを許してくれませんか?」
「!?」
騒然とした。あまりにも突然なことであった。
「ユウキ君?」
センリも驚いていた。
「ずっと……最初に会った時から僕は……ハルカのことが好きだったんだ!でも、最初はその気持ちに僕は気付かなかった。いつまでも、友達のような感覚でいた。
でも、カントー地方から帰ってきて、ハルカと別れて気付いたんだ!僕は、ハルカが好きだって……だから!!」
椅子から立ち上がり、頭を下げてユウキは言う。
「ハルカとのお付き合いを許してください!!」
シーンと静寂になり、誰もが口を閉ざしたのだった。
ここはとある町の研究所。
広い町だが、ほとんど何もない場所である。
といはいえ、有名な建物がある。
それはポケモンの研究所である。
そこに、頭にピンク色のリボンをつけた少女が呼び鈴を押した。
すると、中から出てきたのは、グレーのスカーフにグラサンをかけて、白衣を着た男の姿だった。
「きゃっ!怪しいかも!!」
あまりにも服装がおかしい人が出てきたから、彼女は尻餅をついて驚いた。
「あれっ!?ハルカちゃんじゃないか!!どうしたんだい!?」
「へ?」
ハルカはあっけにとられたような顔をしていると、彼がグラサンを外した。
「トキオさん?何でこんな所に?」
「それはお互い様だよ!それにしても、ハルカちゃん……見違えたよ♪可愛いよ!その格好♪」
「あ、ありがとうございます。ところで……」
「まあとりあえず、上がってってくれよ!」
「あ、ええ」
半ば強引にハルカは中へと連れ込まれていった。
「飲み物だけどレモンティでいいかい?」
「え、ええ……お構いなく……」
トキオがレモンティを2カップ分入れている間、ずっとハルカはうつむいていた。
「いやーそれにしても、あれから1年なんて早いよなー。君の弟のマサトはカントーのポケモン大会で優勝するし、君はジョウトのグランドフェスティバルで優勝するし……。
特にマサトなんか、見違えるほど強くなっているよな!ジョウト大会では俺が圧勝だったけど、今戦ったらどうなるかな?やっぱりマサトの方が強いかな?でも、成績なんてそのときによって変わる物さ!
その点、俺は全ての大会に最低ベスト8にまで残っているからな!マサトもまだまだこれからというわけだ!あ、俺はもう大会に出る気は無いんだ。
実は一ヶ月前にここの責任者のトミタ博士に了解をもらってここに居候させてもらう事になったんだ!俺の夢はポケモンの博士になることだからね!
まず助手から始めないといけないわけだ!だから、がんばっているのさ!」
と、こんな感じにトキオは一方的に喋り続けた。
「……っと、レモンティーを入れたよ。あれ?どうしたの?元気ないの?」
何も聞き返さないので不安に思ったトキオはハルカに問い掛ける。
「ふぅ……少し一息入れようかしら?あら?この香りはレモンティ?」
レモンティの香りに誘われて応接間に入ってきたのは、ここのもう一人の助手、ルーカスだった。
「あ、ルーカス姉さん!」
トキオが入ってきた人物の名を挙げるなり、ハルカは顔をあげて彼女を見た。
「トキオ……あんた、サボって何飲んでんのよ?」
「いや、まだ飲んでませんよ!」
「へぇ……それじゃあ、今から飲む気なのね?仕事中に」
「だから……(汗) それに今はハルカちゃんの応対を」
「ハルカちゃん?」
ハルカの名前が出たとき、ようやくルーカスは彼女に気がついた。
「ルーカスさん……話があります!」
「へ?」
ハルカのいきなりの反応にトキオは目を点にした。
「いいわよ。なんでも相談に乗るって言っていたしね」
ルーカスは軽く了承した。
「という事で、トキオ。あんたは仕事に戻りなさい」
「え゛!俺も話を聞きますよ!」
「い い か ら 戻 り な さ い!!」
凄みを利かせたルーカスの言葉に、トキオは恐れをなしてその場から急いで立ち去っていった。
そんな彼は、せっかく作ったレモンティを飲みたかったとぼやいていたという。
「それで、ポケモンの悩みかしら?これからなすべきことに対する悩みかしら?」
「…………」
はぁ、とルーカスは溜息をついた。
「恋の悩みのようね」
そう言って、ルーカスはトキオが作って自分で飲むはずだったレモンティを飲んだ。
「はい」
そして、ハルカはこれまでにあったことを話した。
ジョウト地方でシュウに会ったこと。
トウカシティに戻ったときに、シュウに好きだといわれたこと。
ジムに戻ってから、ユウキがセンリにハルカと付き合いをしたいから認めてくれといったこと。
そして、その後にあったことも……。
「つまり、その後、センリさんが『私は大いに構わないが、それはハルカが決めることだ』と答えたわけね。そして、ユウキが『好きだ。付き合ってくれ』と」
コクッとハルカは頷いた。
「複雑ねぇ……。同時に2人の男の子に告白されちゃったわけだ」
そうして、またレモンティを啜る。『このレモンティ後味が悪い』とぼやきながら。
「そして、一晩考えて答えも出せず、“少しの間でかけます”と置手紙を置いて私のところへ来たのね」
「はい……」
そうして、ルーカスは少しの間考えていた。
どうすればいいか。
いや、×××だからユウキと付き合えとか、○○○ならシュウと付き合えとか、そんな助言ならいくらでも出来ただろう。
でも、その助言では曖昧にしか納得できないということは自分の経験からわかっていた。
彼女はどうアドバイスをするか思いついた。
「そうね……。その前に一つ話していいかしら?」
レモンティのカップをコトンと机において言った。
「なんですか?」
ハルカはルーカスを真剣に見た。
あれだけ、深く考えていたのだから、きっと素晴らしいアドバイスなんだろうと思ったからである。しかし、内容は意外な方向に行った。
「落ち着いて聞いてね。……あなたとヒロトは……兄妹なのよ」
「…………???? …………はい?」
いきなり言われて、ハルカは何のことかわからなかった。
「え?何を言っているんですか?私とヒロトさんが兄妹って?そんなわけあるわけ無いじゃないですかー」
ハルカは笑って話を流そうとした。
「私、一年前にあなたと会った時言わなかったかしら?私にとってハルカ、あなたは妹みたいな存在だって」
「……た、確かに言いましたけど…………!?えっ?ええええ――――――!?」
ハルカは大きな声を挙げて驚いた。
「ど、ど、ど、どういうことですか!?私とヒロトさんが兄妹って!?信じられないかも!!え!?でも、それじゃ、私とルーカスさんも姉妹ということ……!?」
立ち上がって、ルーカスに詰め寄るハルカ。
「いえ、あんたと私は赤の他人よ」
「……??本当にどういう意味ですかっ!?」
「とりあえず、落ち着いてレモンティでも飲みなさい」
「は、はい……」
ルーカスに促されて、座ってレモンティを一杯啜った。
「正確に言うとね、あなたとヒロトは腹違いの兄妹なのよ」
「腹違い……?」
ルーカスは幼いころのことを話し始めた。母親が亡くなったときのことであった。
―――「お母さんッ!?」―――
幼い少女が母親の手を握っている。
その隣りにはよちよち歩きをしている子供の姿があった。
―――「ルーカス……よく聞きなさい……実は……この子……ヒロトのお父さんはあなたのお父さんではないの……」―――
―――「え?どういう意味?」―――
突然に打ち明けられる事実。でも幼いルーカスにはその意味もわかるはずがなかった。
―――「この子の本当の父親は私よりずっと若いトレーナーなの……。彼は私のことを忘れるかもしれない……けれど、この子がいるということは事実……。それをいつか、この子が大きくなった時にヒロトに打ち明けて欲しいの……」―――
―――「……よくわからないけど……わかった……」―――
―――「そう、ヒロトの父の名前は覚えているわ。彼の名前は……」―――
「『センリ』……そう、はっきり言ったのを私は今でも覚えているわ」
「パパ……?パパの名前……?でも!!」
ハルカは再び立ち上がる。
「センリという、別の人じゃないの!?」
「いいえ。このセンリはあなたのパパさんの名前なのよ。知り合いの情報屋に確認してもらったから間違いないわ」
「嘘ッ?……それじゃ、パパは不倫していたということ!?」
「ハルカ、落ち着きなさい。これはあなたがまだ存在しない時の話のことよ?まだ、あなたの母親にも出会っていなかったに違いないわ」
「言われてみればそうかも……」
そう言われて、ハルカはソファに腰掛けた。
「でもこのことは、あなたのパパ、センリさんには言わない方がいいかもしれないわね。色々とややこしいことになりかねないし」
「そうかも」
確かに今の幸せな家庭環境を壊すのはどうかなとハルカも思ったようだ。
「ヒロトさんはこのことを……?」
「知らないわ。教えようと思ったときには行方が分からなくなっていたし、それに“あの時”なんか言い出せる雰囲気じゃなかったし……」
「…………」
「私の話はそれだけよ」
「え!?」
ちょっと待ってといわんばかりハルカは言う。
「まだ、私の相談したいことが解決されていないじゃないですか!?」
「ふふっ」
「??」
ルーカスは微笑む。それにハルカは首を捻って頭にクエスチョンマークを浮かべた。
「言ったでしょ。母親が違うにしろ、あなたとヒロトは兄妹なの」
「……??」
「ヒロトには自分の思う人しか目に映っていなかった。そう、大事な人はわかっていたのよ」
「え?」
「つまり、母親が違っても、ヒロトの妹なら、本当に一緒にいたい人、つまり大事な人がわかるんじゃないかしら?」
「…………」
「ここから先は、あなたが考えることなのよ。自分を好きになってくれる人がいて、そして、どっちも好きなのはわかるけれど、本当に大事な物くらいは自分で決めなさい。それに、どちらか選ばないとどちらにも失礼なのよ」
「…………」
ルーカスは時計を見てはっとした。
「もうこんな時間!?休憩をそろそろ切り上げて仕事しないと!今日中にメリープの毛の手入れをしないといけないのに!!……ハルカ、よければ少しここで考えてから帰りなさい」
「はい……」
迷うハルカを置いてルーカスは仕事へと戻っていった。
そして、ハルカはトウカシティへの帰り道で決断したのだった。
「ハルカ!どこへ行っていたんだ!?」
トウカシティに戻ってきたハルカを待っていたのは、父のセンリ、そして、ユウキとシュウだった。
「ハルカ!心配したんだぜ!」 「ハルカ君。心配したよ」
ユウキとシュウの声がハモる。そして、2人が顔を見合わせるとピリピリした。
「パパ……私……」
「ハルカ……何も言うな。シュウ君とユウキ君に話は聞いた。どちらもいい子ではないか。私も娘をこんなに心配してくれるなんて嬉しいよ」
「(え!?それじゃ、シュウ、パパに話しちゃったの!?)」
シュウを見ると、ハルカを見ずにそっぽを向いていた。
「私は考えたよ。どちらも好きで決められないというのなら、ユウキ君とシュウ君でポケモンバトルをして決めようと」
「え!?」
ハルカはセンリの提案に驚きを隠せなかった。
「ちょっと待って!!」
ハルカが止めるがそのバトルは、有無も言わず始まった。
バトルは熾烈を極めた。
しかし、最後はユウキのライボルトがシュウのロズレイドを打ち勝ち、ユウキの勝ちとなった。
「ま……負けた…………」
シュウはぐったりとしてうなだれた。
「ハルカ!勝ったぜ!」
シュウの実力は紛れもなく本物だった。
ジョウト地方のポケモングランドフェスティバルでファイナリストにまで残るほどの実力である。
しかし、ユウキも実力をさらにアップさせていた。ホウエン地方に戻ってからの1年間、オダマキ博士の手伝いをしながら、センリに特訓をつけてもらっていたからだ。
つまり、このバトルはどちらが勝ってもおかしくはなかったのである。
「ハルカ……これで決まったな。これでいいのだろう?」
センリがハルカに言う。けれども、ハルカの意外な行動にみんなは目を疑った。
「ハルカ君……?」
シュウのところへ駆け寄ったのである。
「私……シュウのそんな情けない姿は見たくないかも……。立ってよ!いつものように堂々としてよ!」
「は……ハルカ……なんでだ!?勝った俺じゃなくて、何で負けたシュウを選ぶんだ!?」
ユウキにはハルカの行動が信じられなかった。
「私はユウキが好きよ。それにシュウも好き。それが決められずにいた……」
「決められずにいたから、私が強い方をと思ってバトルさせたのだが……」
と、センリは言う。
「ええ。でも、どっちが強いかなんて関係無いわ!ちょっとの間外に出てきて考えて決めたの!ユウキといた時間は楽しかった。でも、それ以上にシュウといたときのほうが楽しかったの。
シュウといると落ち着くの!!だから……」
「ハルカ……そうか……わかったよ……」
残念そうに落ち込むのはユウキの番だった。
そして、センリはそれに納得したのであった。
一週間後……シュウとハルカは再び旅に出た。
彼らがどこに行ったかは知るものはいない。
そして、彼らがトウカシティに戻ってくるのはずっと後になってからである。
―――約1年後……トウカジム。
「ただいま―!」
“ただいまー!”
「おかえりなさい。マサト、ジラーチ」
マサトが2年ぶりにトウカシティに戻ってきた。
彼はオダマキ博士に頼まれてリュウキュウ地方へお使いに行っていたのだ。
「僕、かなり強くなったんだよ!あれ?パパは?お姉ちゃんは?」
「ハルカね……一年前に帰ってきて、シュウ君と旅に行っちゃったのよ」
「え?シュウと!?」
「ええ。仲良く旅に出て行ったわよ」
「そうか……だから、ユウキの元気がなかったんだ……」
当然、オダマキ研究所へと足を運んでいるマサト。ユウキにも会ってきたようだ。どうやら相当落ち込んでいるらしい。
「ところでパパは?」
「ジムの方に居るわよ」
マサトはテッテッテと、ジムの方へと行った。そして、センリに声をかけた。
「マサトか?」
「ただいま!」
マサトは帰ってくるなり話を始める。
「パパ……僕ね、改めて、このジムを継ぐことにしたよ!そのためにね、明日、パパの起点になったノースト地方に行ってみようと思うんだ!」
「ノースト地方か……ノースト地方も起点になったけれども、カントー地方の冒険も起点になったんだ」
「え?そうなの?」
「ああ。まだ14,5歳の時だったな……。その時にとってもスランプに陥ってね……。そのときに一人の女性がアドバイスしてくれたんだ」
「一人の女性?」
「あ、マサト、勘違いするなよ!?その人とは何もなかったんだからな!?」
「パパ……何慌ててるの?」
「はは……そうだな(汗)」
「で?どんなアドバイスをくれたの?」
「それはな、タマムシシティに行ったときのことで……」
センリははっとして口を閉じた。
「やっぱりこの話は無しな!」
「えー!そこまで話をしといてずるいよ!!」
センリは話をはぐらかしたのだった。
―――明朝。
グリーンのハーフパンツにそして、いつものシャツにめがね。そして、少し大きめなリュックを背負った。
「ジラーチ!“僕たち2人の最後の冒険”に行こう!」
“うん!”
高速船に乗って、彼らが目指すのは、ノースト地方の港町、ジョウチュシティだった。
第二幕 Dimensions Over Chaos
ハルカの運命の相手 終わり
次回、新しい章で本編スタート!