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たった一つの行路 №073

/たった一つの行路 №073

 流れ行く人たちの中で……思うんだ……
 心が通じ合う仲間といつまでも居たいと……
 移り変わる季節の中で思うんだ……
 あの女性(ひと)と共に生きて行きたいと……
 漂う時の中で僕は思うんだ……
 何も変わらずに……このまま平和に生きていたいと……
 ただずっと……
 ひたすらに……
 それだけを僕は望んでいたんだ……
 失いたくない……この永き時間を……
 守りたい……大切な人を……
 僕は何も変えたくない……
 けれど……今僕が置かれている状況は………………



 たった一つの行路 №073
 第二幕 Dimensions Over Chaos
 漂う日々たち⑨ ―――Journey Day―――



「ち、チロルさん……そ……そんな……僕を庇って……」

 目の前にいた女性(ひと)が石になってしまった。
 その精神的ショックは計り知れなかった。

「あとはお前だけDA!チロル姫と一緒に仲良く石にしてあげますYO!!」

 石を振りかざすザンクス。そして軽くヒョイと投げた。
 ネスにはザンクスが見えておらず、ただ呆然としていた。
 だが、石がぶつかる寸前、何かの尻尾が石を打ち返した。
 ザンクスは強烈に打ち返された石を表情を変えずにキャッチした。

「ネス君!?しっかりして!!」
「ネス君?前を見てよ」

 駆けつけたのは、ナミネとキバだった。
 だが、2人が駆けつけたこともネスは気づかなかった。

「しっかり……ネス君……」

 ナミネがネスを揺る。

「……ナミネ……ちゃん……」

 虚ろになった目でナミネを見るネス。

「チロルさんが……チロルさんが……」
「見ていたよ。多分あの石を壊せばいいのよ。お願い!キバちゃん!」
「うん!」

 キバが空からザンクスの持っている石を狙って突進して行く。

「何が来ようと無駄DA!」

 トラのモンスターが突如、ザンクスの目の前に現れて叩きつけた。さらに連続で強烈な拳をキバに叩き込んだ。

「あぅっ!」

 キバは地面にめり込んで気絶した。

「キバちゃん!!」
「この世界の者たちでは私には敵いませんYO!!やるんDA!!」

 ザンクスが命令すると、圧倒的な速さでナミネとの距離をつめた。

「(ダメ……やられる……)」
「待て!!」

 ナミネは目を瞑った。だが、その拳はナミネの目の前で止まった。

「まだ残っていたんですNE。もうここの者たちの魂は全て吸収したと思ったのですがNE」
「リュウ君!!」

 青い髪の白服の少年……リュウがザンクスを呼び止めた。

「一体なんでこんなことするんだ?僕たちをその石で石にして一体どうしようというんだ!?」
「我々は“ある目的”のために特異点とエネルギーを集めているんですYO」
「ある目的だって?」
「だが、それをあなたたちに教える義務がありませんNE!!」
「教えてもらわなくていい!お前が何をしようと……ナミネちゃんは僕が守る!!」
「リュウ君……」
「やれるものならやってみなさいYO」

 シュン!ゴスッ!

「うっ!!」
「リュウ君!?」

 拳が入って、リュウは膝をついてうずくまった。一瞬で移動したトラのモンスターの仕業だった。
 ナミネがリュウに近寄る。だが、肩を捕まれて、近づくことが出来なかった。

「おっと、邪魔をしないでくださいYO」
「きゃっ!!」

 そのまま力を込めて地面に投げつけて、ナミネを転ばした。

「ナミネ……ちゃん……」
「まず、あなたから石にしてあげますYO」
「うぅ……」

 リュウは肩膝をつけて立ち上がろうと必死になった。そして徐々に立ち上がる。だが、息が荒く、かなり無理をしていた。

「FUFUFU……」
「(ダメだ……捕まる……)」

 どうにか石を奪還する方法を考えていた。だけど、どの作戦も成功するとは思えなかった。
 それでもリュウは諦めなかった。相手を見て次の行動を見ていた。
 そして、次にザンクスがやる行動はわかっていた。
 ザンクスの手から石が投げられた。

「(かわすんだ……)」

 足を一歩踏み出した瞬間、膝をついて止まってしまった。

「(あ、足が……)」

 そのまま石はリュウに向かっていく。

「ダメだ……」

 口に出してしまった。
 本当にこれまでだと思った。
 だけど、石がリュウに当たらなかった。
 目の前に何かがいたからだ。
 リュウはそれを見て酷く驚いた。

「え……?ネ……ネス……!?」
「……はぁ……はぁ……うっ」

 庇うようにネスはリュウの前に立っていた。
 そして、崩れ落ちるように倒れた。

「ネス……何で……」

 ネスの体が徐々に固まっていく。

「もう……僕は……」
「……ネス……?」
「もう僕は……誰かがいなくなるのはイヤだ……。それでも誰かがいなくなるのなら……僕が……犠牲になる……」
「そんな……そんなの間違っているよ……」

 リュウがネスの肩をつかんで話しかける。

「リュウ……僕は……いつまでもみんなと一緒に仲良く暮らしたかった……。それももう無理なんだね……」
「そんなことないよ!!あいつから石を奪って壊せば……」
「ネスッ!!」
「ネスはん!!」

 その時遠くから、ザクとガブがやってきた。

「ザク……ガブ……」
「ネス!!何やっているの!?何でこんなことになっているの!?」
「ごめん……僕はもう無理だよ……」
「そんな……ネス……大丈夫だよ……大丈夫なはずなんだよ!!だって……ネスでしょ!!」

 ザクが口を噛み締めながら言い放つ。

「だから……ザク……それ根拠……ないよ……」

 そして、石化が顔にまで達して、最終的にはネスは石になってしまった。

「ネス!!」
「ネス君……」
「ネス……」
「ネスはん……」
「残りはあなたたち2人のようですNE。無駄な抵抗はやめなさいYO」

 トラのモンスターを引き下げて、ザンクスがせせら笑う。

「そんなこと……させない!!」
「うちらが相手になるでんな!!」

 ザクとガブがナミネとリュウの前に立つ。

「こいつらなんDA?やる気KA?だが……」

 ズガッ!!ドガッ!!バキッ!!

「うわっ!!」
「ぐわっ!!」

 瞬く間にザクとガブは吹っ飛ばされて気絶させられた。

「相手にもならないNA。この程度のレベルで私に勝てるとでも思ったのですKA?」
「ザク……ガブ……」
「……次こそお前だ!」
「やめて!!」
「ナミネちゃん!?」

 再び石を投げて、今度はナミネがリュウを庇った。
 しかし……

「!?」
「なんともないわ……?」
「よかった……」
「FUFUFU……」

 しかし、ザンクスが不敵な笑みを浮かべる。

「HAHAHA!!……これはこれは……予期せぬ収穫ですNE!!」
「え!?どういう意味だ!?」
「やれ!!」

 シュン!!ズドッ!!

「うっ……」
「ナミネちゃん!?」

 腹を小突かれてナミネは気を失って倒れる。だが、ザンクスがナミネを支えて倒れないようにした。

「この子は私がもらっていきますYO」

 拳を握り締めてザンクスを睨むリュウ。
 今まで誰にも見せたことないような険しい表情だった。

「ナミネちゃんを……ナミネちゃんを……ナミネを返せ!!!!」

 彼の怒りが体を動かしてザンクスに向かっていく。
 拳を振りかざして、ザンクスの顔を狙う。
 だが……

「残念ですNE」
「なっ!?うわぁぁあああ!!!!」

 ズババババ!!

 凄まじい放電がリュウを襲った。

「あなたの相手をしていても面白いですが、これからやらなければならないことがあるのでNE」
「うっ……」

 ドサッ!

 リュウは倒れた。

「お前もこの石で友達と同じ目にあわせてあげますYO」

 本当にもうだめだ……とリュウは悟った。
 
「リュウ……諦めるのかい?」
「うぅ……その声は……」

 水晶玉を持った年を取った老婆がリュウの目の前に立っていた。

「アマネおばあちゃん……」
「あんたの想いはそんなものだったのかい?」
「ここにいたのですKA!……裏切り者……アマネ」

 ザンクスが目の色を変えてアマネを見据えた。

「裏切り者ねぇ……。ワタシャ、別に裏切ったつもりはおらんぞ。それにしても…………ザンクス、あんた年をとっておらんの。仲間もみんな同じ目にあっておるんじゃな?」
「アマネ……お前は計画から抜け出して唯一“呪縛”を受けなかった人物DA。だから、我々の中では裏切り者なのですYO」
「それは私のせいではないよ。お主等の欲に目がくらんだせいじゃ」
「どっちにしろあなたも始末してあげますYO!裏切り者としてNE!!」

 トラのモンスターがアマネに襲い掛かる。だが、アマネは微動だにしない。
 モンスターの攻撃は、包帯のようなものでぐるぐる巻きにした一つ目のお化けのようなモンスターが受け止めたのだった。

「……!!!どうやら、腕は鈍っていないようですNE」

 ザンクスが首を引いて一歩下がらせた。次の攻撃を繰り出すためである。

「リュウ……戦う覚悟はあるかの?」
「戦う……?……僕が……?アマネおばあちゃんのように……?」
「そうじゃ!だが、それには覚悟が必要じゃぞ?一度戦うと決めたからにはもう元には戻れないぞ?」
「元に……戻れない……?」
「でも、お主がやらなければならないぞ。これは宿命<さだめ>なのじゃ」
「宿命<さだめ>……。宿命でも何でもいい……僕は……みんなを助けたい!!」
「そうか、分かった。サマヨール!!」

 モンスターに呼びかけてアマネは力を蓄えさせた。

「何をする気DA?」
「ザンクス……ちょっと待っておれ。今、ちょっとした儀式をやるからのう。リュウ、じっとしておれよ」

 アマネのモンスターのそれぞれの手から青い炎がゆらゆらと出現して、一つが地面に5方星を描き、もう一つの炎がリュウの両腕に纏わりついた。

「えっ!?あ、熱い!!」
「我慢しとれよ……。これが我が代に伝わる……儀式……力を引き出す儀式じゃ!!」
「なっ!?まさか、これがアマネの家系に代々伝わると言うドラゴン使いの儀式ですKA!?」

 そして、5方星に描かれた地面の炎が空に向かって垂直に伸びていった。リュウはその炎に飲み込まれるように見えなくなった。

「だが……これが儀式ですKA?笑わせてくれますNE。炎に包まれた中の人はいったいどうなるんですかNE?」

 ザンクスが言うが、アマネはにやっと笑って炎の中を見ていた。
 やがて、炎は消えていった。
 中から出てきたのは、青い髪の白い服の少年……そう、ほとんど何も変わっていないリュウだった。
 変わったところと言えば、両腕のドラゴンの刺青が施されてあったところであるが。

「もう大丈夫じゃぞ。それとリュウ」

 ヒョイッと、6つの小さいボールが取り付けられているバックルをリュウに投げ渡した。片手でリュウは受け取った。

「見せてやるんじゃ、お主の力を」

 コクッと頷いてザンクスを睨みつける。

「あまり変わっていない様に見えますがNE!!やりなさい!!」

 トラのモンスターがリュウを襲う。
 ネスやザク、ガブを襲ったのと同じスピードだ。

 シュン!シュン!シュンッ!!

「!!」

 だが、かわす。あまりにもあっさりと、あまりにも簡単に。

「何をやっているんDA!!しっかり狙うんDA!!」
「…………」

 無言でアマネからもらったうちの一つのボールでモンスターを繰り出した。
 蛇のようなモンスターだ。しかし、蛇と言うにはあまりにも可愛い顔をしていた。
 恐れるに足らないと、ザンクスは思っていた。
 だが、次の瞬間、トラのモンスターは吹っ飛んだ。

「バカNA!!」

 ザンクスは膝をついたトラのモンスターを見て驚いていた。
 一方リュウはボールから出てきたモンスターに話しかけていた。

「ミニリュウ……よろしく」
「はじめまして、リュウ君。こちらこそよろしくね」
「リュウ、今のうちに残りのボールを入れるんじゃ」

 ボールを一瞥して、4つのボールをそれぞれ当てていった。全てのモンスターはボールの中に納まった。

「よくもやりましたNE!!やるんDA!!『雷鳳丸<らいほうがん>』!!」

 シュッ!!ズドドド!!

「!!」
「うっっ!!」

 ミニリュウが吹っ飛んでしまった。先ほど、ターボを吹っ飛ばした技である。

「戻って!!」

 だが、次の瞬間、リュウは先ほど収めた4匹のモンスターを繰り出した。

「ヒトカゲ!フカマル!ビブラーバ!ボーマンダ!力を貸して!!」
「リュウ……うん!力になるよ!」
「やるでんな!!」
「私もナミネちゃんを助けたい」
「やるニ」

 4匹がトラのモンスターとザンクスを見て戦闘態勢をとった。

「雑魚が4匹集まっても同じですYO!それに……」

 ザンクスが一言言うと、2人の男がいきなり現れた。

「ヘイ!随分楽しんでいるようダナ」
「だが……相手はアマネと子供の2人のようだな」

 一人は言葉に訛りを感じる男でもう一人は、髭を生やしてステッキを持った紳士の男だった。

「新手……?」

 リュウが2人の男を見て構える。

「いかん!!まさか……スティーブとカネコウジがいたとは!!」
「手出すなYO!スティーブ、カネコウジ。こいつらは私が倒しますYO」

 後から来た2人を見ずににやっと笑っていた。

「リュウ……ここは撤退するぞ」
「な、なんで?アマネおばあさん!僕は戦う!!」
「今のお主じゃ、こやつ等全員と戦うどころか、一人にも勝てんぞ!!」
「だけど……ナミネや……ネスが……」
「今は生き残るほうが大事じゃ!!」
「うっ……」

 突然、リュウはふらっとした。くらっとして倒れた。
 しかし、一つ目のモンスターがリュウを受け止めた。

「どうしたのですKA、アマネ?戦うのではないのですKA?逃げるのですKA?」
「覚えておくことじゃな。この子の名前は『リュウヤ・フィラデム』!ワシ、『アマネ・フィラデム』の孫じゃ!次に会った時はお主らを倒すぞ!!これがわしらに課せられた宿命なのじゃ!!」
「ふん、逃がすわけないじゃないKA!」

 トラのモンスターが瞬間的に動いて襲う。
 だが、それは同じくアマネの隣にいたモンスターが受け止めた。
 しかも、次の瞬間そのモンスターもくらっとしていた。
 
「開くのじゃ!『トランスゲート』!」

 すると、空間に出来た異次元の扉へとリュウたちは姿を消したのだった。
 トラのモンスターはまだ目を回していた。

「くっ……怪しい光による混乱状態ですKA……。やってくれますNE」
「ザンクス、逃げられたようダナ」
「しかし、スティーブ!この女がいることで我々の計画はとっても順調に行きそうですYO」
「そうか……それならよしとしようか」

 気絶しているナミネを見て3人は笑っていた。

「これからどうする?」
「この世界にもうエネルギーを調達できるものはない。だから、次の世界を探すぞ」

 こうして、3人もどこかへと行ってしまった。



「僕は……これからどうすれば…………」
「リュウ、お主は強くなるんじゃ……」
「強く……?」
「そう。みんなを助けたいのならそれ相応の力を身につけるのじゃ……それからでないとお主はあいつらに勝てん……」
「分かったよ」
「それと、言葉遣いも変えるのじゃ」
「言葉遣い……?」
「そのように甘えたような喋り方じゃ、相手に舐められる」
「うん!分かった」
「“うん”は余計じゃ。それに、自分のことは“僕”じゃなく“俺”といいなさい」
「え……僕は……」
「少なくとも戦いが終わるまではな……」
「分かった……。俺……やってやる!!」
「その意気じゃ!“リュウヤ”!」

 彼らの漂流の旅が始まった。
 それは、友を助けるため、愛する者を助けるための果てしない旅だった。



 To Be Continued Wide World Storys



 あとがき
 この第一章は、他の世界のキャラに焦点を当ててみました。
 その中でここはモンスターボールが存在しない世界、かつポケモンたちが人間としゃべることができる世界になっています。(正確にはこの世界の人間ならモンスターと意思の疎通ができる)
 結果的にこの章はBADEND風になっていますが、話は続きます。
 むしろ、この話はヒロトたちがロケット団と戦った話より結構前になるわけですが。
 はたして、リュウ……もといリュウヤは世界を戻すことができるのか?
 リュウヤの今後を見守ってあげてください。
 次の章はまた場面が変わります。


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Last-modified: 2015-03-13 (金) 20:59:01
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