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たった一つの行路 №070

/たった一つの行路 №070

―――「平和が戻ったのね……?」―――
―――「そうだよ……」―――

 モンスターからの封印から1年が経過した。
 そのモンスターを封印した2人を皆は集落の長として迎えて彼らを尊敬するようになっていた。

―――「これから……私たちの考えるように、この世界を良いものにしていくのね……」―――
―――「ああ、そうさ……これからも僕らはがんばらなければならない……。ここからが大変さ。だけど……」―――

 青年は女性の顔をしっかりと見た。

―――「あなたと一緒ならば大変なことなんて何もない。だから、がんばろう……」―――
―――「ええ……」―――

 二人は抱き合い、この集落の……世界の平和を祈ったのだった……。



 たった一つの行路 №070
 第二幕 Dimensions Over Chaos
 漂う日々たち⑥ ―――Fight Day―――



「来る……」
「……どうしたの……?アマネお婆さん……」

 まだ、日も出ていない暗がりの中、リュウは目を覚まして、祖母に問いかけた。

「もうすぐ、大変な事態に陥るじゃろう」
「大変な事態って……?」

 何のことだかわからず首を傾げるリュウ。

「まもなく、強大な力がこの地の全てを破壊しようとするじゃろう……それが私の占いに出ておるのじゃよ」
「占いに?本当?」

 リュウは急に不安な顔になる。

「大丈夫なの?」
「わからん……。しかし、希望がないわけじゃない」

 アマネは水晶玉を取り出してリュウに見せてやる。

「わしの占いにはこう出ている。……200年前に救った救世主の子孫が、再び世界を救うじゃろう!!……と」
「救世主……?子孫……?」
「そして……お主はその手伝いをするのじゃ……」
「僕が……?」
「これを、渡すのじゃ」

 こうして、リュウは手のひらに何かを握らされた。それを見ると、手のひらには小さなボールみたいなものがあった。

「幸運を祈る。急ぐのじゃ!リュウ!!」
「え……??う、うん……」

 アマネが言っていた大変な事態に陥るまでもう10分を切っていた。



 ドガーン!!バゴーン!!ズガガガーン!!ボエェェェェ!!

「一体この騒ぎは何よ!?」

 とても大きな音がして家から飛び出てきたのはウェノンの長の娘、エリーだ。

「なんだかわからないけど、大変なことが起こっているみたいね……あれ!?もしかして、この前の遺跡の方向じゃ……!?」
「そうみたいでんな!」

 遺跡の方向には煙が上がっていた。

「……どうやら確認しに行った方がよさそうね……」
「エリー!上でんな!!」
「上!?」

 ガブに言われて上を見ると、ゆっくりと降りてくるものがいた。ターボだ。
 そして、ターボに乗っているのはもちろんマレンである。

「オイ!!エリー!!」
「何?また求婚?うるさいわね!あたしはあんたが嫌いだって言っているじゃない!!」
「それを言う為だけに来たんじゃない!!この前遊びに行った遺跡が大変なことになっているんだ!!」
「そうだニ!とっても大きなモンスターが暴れまわっているニ!!」
「大きなモンスターですって!?それってもしかして……チロルさんが言っていた巨大モンスター!?」
「あの大きさからしてそうだニ!!」
「いったいどんな大きさなの!?乗せなさい!!」

 エリーは強引にターボに乗って飛び上がって、遺跡の方向を確認した。
 大きさを見て愕然とした。

「な……何なのよあのモンスターは……。いろんな生き物がいるけれどもあれほど馬鹿でかい大きさの生き物は見たことがないわ!!」

 エリーが言うの無理はない。高さはスノーセで見たお城の半分くらいの大きさで、何より高さよりも横幅の方が大きい。
 色は焦げ茶とグレーで見るだけで鎧の様な硬さを持っていることがわかる。
 強力な爪も持っていた。

「今から、俺があいつを真っ二つにしてきてやる!!だから、エリー!俺について来い!!」

 どうやらマレンはエリーにカッコイイところを見せたいらしい。

「見事に俺があいつを倒せたら、求婚に応じろよな!!」
「無理に決まってるじゃない!バカ!!」
「なっ!?お前……あいつを倒しても求婚に応じないと言うのか!?」
「バカ!!」

 エリーはもう一度バカと言う。

「そっちの無理じゃなくて、あんたがあのモンスターを倒すのが無理と言っているのよ!!常識で考えなさい!!あんなバカでかいモンスターを倒せるわけがないでしょ!!」
「エリー……俺の力を甘く見るなよ?これでも、獲物を狩ること一筋の俺だ!何も対策がないと思ったら大間違いだぜ!!」
「あら、そう……それなら勝手にやれば?」

 呆れるエリー。何を言っても無駄そうなのでもう止めないことにしたようだ。

「行け!!ターボ!!」
「わかった二」

 全速力で飛んでいった。

「気をつけるでんなー!!」



“かかれ!!スノーセを守るんだ!!”

 モンスターは遺跡からスノーセの方角へ進行していた。
 
“矢を放てー!!”
“槍で応戦しろ”
“打ち方準備!!”

 必死にモンスターを撃墜しようと猛攻撃を仕掛けていた。だが、そのモンスターは怯むことなく向かってきた。

「もしかして……あれが……私の知っている……巨大モンスター……?」

 すでに城から避難していたチロルが呟く。

「間違いない……左目に傷がある……。御先祖様が傷をつけたといわれる痕だわ」

 すると、モンスターは息を吸い込んだ。
 見張りの者たちはその間も攻撃をやめずに降り止まぬ雨のごとく攻撃を続けていた。
 しかし、そのモンスターが息を吹くと、全てが火の海になった。
 そして凄まじい温度の炎で城はみるみるうちに燃えていった。

「あれが……昔、記録にあったマグマのように全てを燃やす業火……」

 唖然としてチロルは呟く。

「何故このようなことに……?何故このモンスターが今、復活して現代にいるの……?」
「チロルさん!!」
「この声は……エリーちゃん!?」

 スチャッと飛び降りてきたのは、ターボに乗ってやってきたエリーであった。

「どうしてここに!?」
「あのバカが、モンスターを倒すんですって」

 上を見て呆れながらいうエリー。

「無茶よ!!矢でも槍でも効かなかったのに……エリーちゃん!?止めないの!?」
「バカは止めても治らないわよ」
「だって、あなたの婚約者なのでしょう?」
「……いつから私はあいつの婚約者になったのよ」

 エリーは拳を握り締めてチロルを睨む。

「あら、違ったのですか?」
「違うわよ!!」

 とことん否定するエリー。



「見てろよエリー……このクロールバレーに由緒伝わる史上最強の剣……覇者の剣の力を……」
「本当にそれで倒せるニ?」
「倒す!!お前は知らないだろう……この剣で様々な強敵を打ち破ってきたことを……そして、あのモンスターはこの剣のサビになるんだ!!」

 そういって、マレンはターボから飛び降りた。

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――!!!!!!!!」

 マレンには勝算があった。
 確かに、彼の剣の威力はネスと戦ったときのように木刀で岩を木っ端微塵にするほどの力を持っていた。
 だから、真剣ならばあいつを倒すことが出来ると……。



「起きるでんな!!」
「う~ん……ちょっともう寝かしてよ……」
「エリーが大変な目にあっているんだよ!!」
「むにゃ、むにゃ……」

 ネスは起きる気配なし。

「チロルさんが大変な目にあっているんだよ!!」
「えっ!?チロルさんが!?どこ!?どこっ!!?」
「やっと起きたでんな」
「みたいだね……」

 ガブとザクがやれやれと首を振った。

「ち、チロルさんはどこ!?」
「あ、ネス!落ちついて……あー」
「遅かったでんな……」

 ザクが「あー」と言った瞬間にネスは慌てすぎて見事に池へとダイヴしてしまった。毎回よくあるパターンである。

「それで……チロルさんは!?」
「落ち着くでんな!チロルはんは無事でんな!」
「むしろ危険になるのはこれからだよ……」
「何?何かあったの!?」

 ザクとガブは事の顛末を急いでネスに伝えた。
 巨大モンスターが復活したこと。
 マレンがエリーと一緒にスノーセへ行ったこと。
 主に二つだ。

「それじゃ……また……200年前のように繰り返されるの!?」
「わからないでんな……」
「うん。あの大きさのモンスターじゃ、僕たちも他のみんなでもどうすることができないよ……」

 ザクとガブは俯く。

「そんな……。いやだよ……僕はいやだよ……」
「ネス!?」

 ネスは体をぶるぶると震わせていた。

「(みんなを失いたくない……。今の平和を壊されたくない……)」
「ネス!!」
「え?」

 震えるネスの元へと駆けつけたのは、リュウだった。

「リュウはん……」
「リュウ!大変なんだよ!!モンスターが……」
「わかっているよ」
「え?」

 リュウはネスの手を取って立たせた。

「リュウ?」
「行くよ!」
「ど、どこに……!?」

 リュウは煙が立ち上っている方角を見た。
 もちろんそちらにある方角には、モンスターがいると思われた。

「僕が行ったところで何の役に……うわっ!」

 しかし、リュウは強引に引っ張っていった。

「この前ネスは僕に言ったよね?」
「え……?」
「みんなを失うのが怖いって……」
「う、うん……リュウがナミネと一緒にどこか遠くに行っちゃうんじゃないかって心配して……」
「それで今は、モンスターによって全てを失われるのが怖いんでしょ?」
「……さすがリュウだね……。僕の事わかっちゃうんだから……」
「そんなことないよ……」
「でも……何で僕たちはそのモンスターの方へと走っているの!?何もできるわけないじゃないか!」
「何も出来ない……?本当にそう思っている?」
「え?」
「ネスは『何も出来ない』んじゃなくて……『何もしない』んじゃないの?!」
「!?」

 ネスはばっと顔を上げてリュウを見た。

「ネスは『何かやって』後悔するのと、『何もしない』で後悔するの……どっちがいい?」
「そ、それは……時と場合によるけど……」
「じゃあ、今はどんな時でどんな場合なの?」
「…………」

 リュウに言われて、ネスの覚悟は決まった。

「やるよ……。何もしないで後悔するなんてイヤだ!」

 リュウはニッと笑ってネスと一緒に全速力でスノーセへ向かって行った。



“きゃあ!!”
“だれか助けてー!!”
“うわぁぁーーん!!”
“ママ―――!!”

 スノーセにこだまするのはいくつもの悲鳴。誰も、モンスターの攻撃を止められるものはいない。
 いや、止めようとすればするほどモンスターの攻撃は激しさを増していった。

「マレンさん!!」
「何やってんのよ!バカマレン!!」
「ちっくっしょーー!!あのモンスターめ……」

 体を引きずりながら、折れた剣を地面に刺して立っていた。

「あんたがあいつの右目なんかを攻撃したせいで余計に暴れまわっているじゃないの!!」
「でも、そのおかげであいつは何も見ることが出来ないぜ!?」
「どうせなら、あいつの急所を狙いなさい!!バカッ―――!!!」
「マレンの言ってた自慢の覇者の剣もあいつの爪の攻撃を防御する際に折れてしまった二。もうどうしようもない二」
「それに、相手の視力を失っては本当に闇雲に破壊を繰り返すだけです……。もう……打つ手はないの……!?」

 そんな時、走ってきた人物が二人……。

「ネス君?」
「ネス!リュウ?!」
「チロルさん!?大丈夫ですか!?……あ、エリーとターボも無事だね……!?よかった……」
「あんた、明らかにあたしを余り者扱いしたわね……」

 ギューッとエリーの耳つねり攻撃!
 ネスに55のダメージ!
 こうかはばつぐんだ!

「痛いよ……」 
「ネス君!?何でここに!?ここはもう危ないのよ!?私たちも避難しないといけないの!!何故来たの!?」
「失いたくないから……」
「え……?」
「(まさか、ネス……チロルさんに告白!?)」

 エリーは一瞬そう思った。

「過ごして来た日々や過ごしてきたみんなを失いたくないから……。だから、僕はここに来たんだ」
「(何だ告白じゃなかったのね……よかった……って!!)だからって何できたのよ!?」

 安心して即座にツッコミを入れるエリー。

「あのモンスターを……何とかしたくて……」
「なんとも出来ないわよあんな奴!!バカマレンの力でもどうにでもならなかったのよ?」
「そうです。でもマレンさんの力でどうにかなったのなら、先にあのモンスターの急所を教えておくんだったわ……」
「チロルさん、知ってたの!?」
「ええ、古い文献を見て知っていました。昔、モンスターを封印した方法も書いてありました」
「その内容覚えている?」
「ええ。……簡単に説明すると、一人の女性が槍でモンスターの急所を突いて弱らせている間に一人の男性が月と太陽にお祈りをして玉の中に封じ込めたということになっています」
「玉?」
「ええ」
「それじゃ、その玉を……」
「最初は私もそう思いました。しかし、その玉がどこにあるかわからない上に、その玉の発動条件と言うのは200年に一回なのです」
「そんな……それじゃ……あいつを止める方法は……」

 エリーは愕然として膝をついた。

「いいえ、私はまだ諦めません!」

 チロルは自分に言い聞かせる。

「ターボ……手伝ってくれない?」

 そう言ったのは、ネスだった。
 みんなが驚いてネスを見た。ただリュウだけは冷静に見ていたが。

「な、何をするニ?」
「あいつの上に行ってほしいんだ」
「バ、バカ!!あんた、一体何をする気なの!?」
「そうですよ!ネス君……危険です!!」
「さっきリュウに教えてもらったんだ。何もしない後悔と何かした後の後悔……するならどっちがいい?って。僕は後者を選ぶよ」
「だからってあんた……」
「チロルさん……あいつの急所を知っているんでしたよね?」
「ええ……モンスターの額です……でも…………」
「ありがとう!ターボ!飛んでくれ!!」
「全く、人使いが荒いニ!!」

 と、ターボは苦笑しながら巨大モンスターの上空に飛んでいった。

「(人じゃなくてボーマンダでしょ)」

 密かにリュウは心の中で突っ込んだそうな。



「よし!何とか上に出れたね!」
「あのモンスターは今目が見えないから攻撃に気をつけなきゃいけないニ」
「ありがとう、ターボ……後は僕に任せて……」
「一体何をする気ニ……ニッ!?」

 ターボはその光景を見て目を丸くした。
 もうすでにネスはスカイダイヴをしていたのだ。



「ネス君が飛び降りた!?」
「…………」

 心配するチロルと冷静にそれを見るリュウ。

「ば、バカか……?あいつ……死ぬぞ?あんな上空から飛び降りたら……」
「それはあんたも同じでしょ!さっきあんたもあのくらいから飛び上がったでしょう!!バカね!!」
「俺は死なねえ!愛するものを残して死ぬことなんて断じてしない!!」
「エリーさん……ネス君は……」
「大丈夫ですよ!チロルさん」

 マレンの言動を無視して、エリーは言う。

「だって…………あいつは……ネスだもの……」

 握っていた手を緩めて、笑ってみせるエリー。

「(ネス……)」



―――「これは?」―――

 エリーたちに合流する前、リュウは走りながら、ネスに何かを投げ渡していた。

―――「僕にもわからない……でも……」―――
―――「でも?」―――
―――「それをアレに直接ぶつければいいのだと思う」―――
―――「するとどうなるの?」―――
―――「…………」―――
―――「わからないんだね……」―――
―――「それは僕のお婆さんから渡されたものなんだ。渡されただけでどんな効果があるものなのかは教えてもらってないけど、渡された瞬間にわかったんだ。これはアレにぶつける物だって」―――
―――「わかった……これをあいつにぶつけてみるよ」―――

 モンスターは上のほうにいる気配を読み取っていた。しかし、その反応はもうすでに遅かった。
 ネスがそのボールを持ってダイヴしていたからだ。

「どうにでもなれ―――!!!」

 そのボールをモンスターにぶつけた瞬間、凄まじい光があたりを照らした。



「リュウ……うまくやりおったようじゃの……」

 リュウの祖母のアマネはウンウンと頷いて、家の中に入っていった。

「(でも、これからが本番かもしれん……。巨大ヒードランを封印させたことで“奴ら”一体どう動くじゃろうか……?」



「ちっ!」

 鎧を着て、遺跡から光を見ていた男は唾を吐き捨てた。

「邪魔が入ったKA!!このまま世界が混沌に満ちてくれると思っていたのにNA!だが……」

 男は持っていた玉をぎゅっと握って割った。

「この程度のレベルの連中……実力行使で何とでもなるNA……。FUFUFU……」

 鎧を脱ぎ捨て、石を取り出し、さらにボールからモンスターを繰り出した男はどこかに消えてしまった。
 その鎧には“ザンクス”と名前が彫られていた……。



 つづく


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Last-modified: 2015-03-09 (月) 21:18:13
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