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たった一つの行路 №069

/たった一つの行路 №069

―――「行くわよ!!」―――

 巨大な怪物よりを見下ろせる高いところに女性はいた。
 青年は下から彼女の様子を確認した。

―――「いつでもかまわないよ!!」―――

 青年の合図で女性が槍を投げる。すると、その槍は見事にモンスターの左目を捉えて命中する。
 その攻撃に怒ったモンスターは片方の目でギロッと女性を睨む。
 そして、信じられないスピードで女性へ向かって建物に体当たりを仕掛けてきた。

―――「今よ!!」―――
―――「うん……『光の玉よ。月よ……太陽よ……偉大なる力を持って、今ここに力を吸収されたし!!』」―――

 下から呪文を唱えて、その玉をモンスターに投げつけた。玉はモンスターの眉間を捉えて、命中した。
 するとどうだろう。玉が凄まじい光を放って、モンスターを光に変えていき、そのまま玉に飲み込んでしまった。

―――「これが……封印の玉……すごい!!」―――

 女性は驚いて言った。

―――「……終わった……これでモンスターが破壊する世界が終ったんだ……」―――

 青年も安堵して呟くのだった。



 たった一つの行路 №069
 第二幕 Dimensions Over Chaos
 漂う日々たち⑤ ―――Seeking Day―――



 太陽が顔を出す時刻。
 スノーセのお城は相変わらず、見張りがうろついていた。
 しかし、少年はそれを掻い潜って、再びその部屋の窓に入った。

「迎えに来たよ!」

 入ってその部屋にいる姫に手を差し伸べる。姫は一瞬驚いたけれど、にっこりと笑う。

「本当に着てくれたのね……ネス君」
「約束は絶対忘れないよ。行こう!チロルさん!」

 『チロル姫』と呼ばないことも約束の一つだった。

「でも、どうやって抜け出すの?」
「それなら、問題ないよ!いい友達がいるんだ!!」

 ネスが窓の外から合図をすると、ネスの友達と言う人物がやってきた。
 いや、人物ではない。モンスターだった。
 体全体は青色で赤い翼を生やし、4つの足をもち、さらに長い尻尾もまで生やしてキバや爪まで持っている狂暴そうなモンスターだ。

「も、モンスター!?あなた、こんなのとも仲良しなの!?」

 もちろん、チロルは驚いた。
 多分、彼女は始めてモンスターを見たのだろう。当たり前の反応だった。

「“こんなの”とは酷い言い方だニ」
「モンスターってみんな恐れるけど、少なくても僕の友達たちはみんな仲のいいモンスターばかりだよ!だから、安心して!」
「“たち”?もしかして、これの他にもまだいるの!?」
「もしかして……モンスター苦手?」

 ネスが心配そうにチロルに聞く。

「いいえ!はじめてみたからびっくりしたの。これがモンスター……」

 そうして、べたべたと“彼”を触っていく。

「くすぐったい二!それよりも、ネス……後でおれっちに謝礼をくれニ!」
「心配しないでよ!それじゃ、宜しくね!ターボ!」
「わかったニ!おれっちに任せるニ!」

 ターボの背中にネスが乗ってその後ろにチロルが乗った。
 それから、窓から外に出てから飛び上がり、城の遥か上にまで出た。

「すごーい!」
「ターボ!あまり上のほうに行かないでよ!」
「わかったニ」

 一路、彼らは目的地に向かって飛んでいったのだった。



 ガチャ

“あれ!?チロル姫様がいないぞ!!”
“何!?本当だ!?まさか……逃げ出したのか!?”

 ネスたちが部屋を去った後にはすぐに見張りの者たちがやって来た。
 そして、チロルがいないことを知るや否や大騒ぎを始めた。

「落ち着きなさいYO」
“あ、ザンクス隊長!?”

 すると、一人の落ち着いたドレッドヘアの男が他の見張りたちに言った。

“私が探してきますYO。だから皆は心配せずに待っておりなさいNE”
“は、はい!ザンクス隊長!おねがいします!!”

 見張りの者たちは、皆、ザンクスという男に敬意を払って、送り出したのだった。



「ついた!」
「ここが……街の跡地……」

 ターボから降りてネスとチロルは周りの様子を見ていた。
 この場所はかつて街があったと言われる場所なのだが、今ではその面影はまるでない。
 コンクリートの残骸、鉄くず……ほとんど使え物にならない資材ばかりだった。

「チロルさん……何でこの場所を見たかったんですか?」

 疑問に思ってネスは尋ねてみる。

「この場所は、昔にモンスターが暴れた場所と言うことで恐れられているの。モンスターといっても、このターボ君みたいに話のわかるモンスターじゃなく、しかもとっても巨大な怪物だったらしいの。その怪物によって破壊されたのが……」
「この街なのか……」
「でも、この街はその一部に過ぎないわ……北の方にいくつも街があったけれども、それも全て潰されていった。私は考えたわ……」
「え?何を……?」

 ネスは聞いてみる。しかし、そのとき……

「見つけたわよ!!ネスッ!!」
「え!?」

 ネスにシュンと近づく一つの影が。
 その影はネスの首を捉えてクロスチョップを放ち、ネスをぶっ飛ばした。

「~~~☆」

 ネスに110のダメージを与えた。

「ネス……勝手に行かないでよ!探検なら僕たちも行くって言っているでしょ!」
「そうでんな!水臭いでんな!」
「……エリー……ザク……ガブ……どうしてここが!?」
「ターボに聞いたのよ!」

 エリーが言う。

「ターボ!何で言っちゃったんだよ!あれは内緒だって言ったじゃないか!」

 ネスは責める。

「おれっちはそのとき気が変わったニ。だから、エリーに教えた二」
「そんなときに気が変わらないでよ!気まぐれすぎだよ!!」

 ターボはきまぐれな性格だったと言う。

「おー!ここにいたか!!俺の花嫁!!」
「ゲッ!」

 明らかに露骨に顔をしかめているのは、エリーである。

「こんなところで何をしているんだい?エリー!」

 エリーに近づいて肩を回すこの男はマレン。
 彼も何故かここに来ていた。
 しかし、エリーは手を振り払ってマレンの顔に裏拳を叩き込んだ。
 マレンは怯んで動けなくなった。

「ターボ!!」

 ネスは顔をしかめて再びターボに責め寄る。

「おれっちきまぐれだニ。約束守るか守らないかその時の気分で決める二」
「めちゃくちゃだよ!!」

 結局この場に居合わせたのは、ネス、チロル、ターボ、ザク、ガブ、エリー、マレンの4人と3匹だった。



「さっきの話の続きだけど……チロルさん、考えたことって?」
「あ、続きね。その巨大なモンスターはある時封印されたの」
「封印……?」
「そう。聞いた話によると、私の御先祖様がその封印をしたらしいの」
「え!?それじゃ、今の平和があるのも、チロルさんのご先祖様のおかげなの!?」

 と言うが、チロルは俯いて頷かなかった。

「今の世の中が平和と呼べるかはわからないわ。それでさっき言おうとしたことなんだけれど、モンスターはそのときを境に出現するようになった。
 それまで私たち人間は高い文明を築き上げてここまで来たわ。でも、その文明の傍らで犠牲にしてきたものがあった。それを守るためにモンスターは現れたのかもしれないって」
「じゃあ、ザクたちが人間を滅ぼすために出現したって言うの!?」
「いいえ、私がそう考えてみただけです。彼らがそんなことするようにはとても見えません」

 チロルがザク、ガブ、ターボを見て言う。

「僕は、そんな事しないよ!いつまでもネスと一緒だよ!」
「そうでんな!」

 と、ザクとガブ。

「おれっちは知らないニ」
「気まぐれで破壊する気なの!?」

 ネスはツッコミを入れるが、ターボならやりかねない。とネスはそう思った。

「これから、行きたい場所があるので皆さんで行きません?」
「どこに行くの?チロルさん」
「玉が封印されている場所よ」

 こうして、4人と3匹は固まって歩いていく。
 ネスとチロルが先頭を歩き、エリーとザクとガブがその後ろを歩き、さらに後ろにマレンとターボが歩いていた。

「…………」

 だが、エリーはネスとチロルの様子を見てどこか不満なようだ。
 そのネスとチロルの様子を見てみると、仲良くお喋りをしていた。
 そう、親しげに。はたから見ると恋人同士のように。

「へぇーあいつら仲がいいんだな!」

 ネスとチロルの様子を見てマレンがエリーに言った。何気に強調しているようだ。

「と、いうわけで俺たちも仲良くしようぜ!」

 と、マレンはエリーの肩を抱き寄せる。

「誰が……あんたなんかと!!」

 もちろん、エリーは拒否反応を示してマレンの足をムギュッと踏みつけた。
 その場でヒヨコのようにピヨピヨと飛び跳ねるマレン。さすがに痛そうだ。

「ねえ……何でエリーは怒っているんだろう?」

 エリーに聞こえないように少し下がって、ザクは2匹に尋ねる。

「知らないニ。興味ない二」
「それは……これはあくまで予想でんがな……エリーはネスに気があるんじゃないでんな?そうでなければあんなにネスのことを気にしないでんな」
「でも、『前にネスのこと気になるの?』って聞いたら、張り倒されたよ……?」
「それは、たぶん照れ隠しでんな……」
「何喋っているの?ガブ?」
「なんでもないでんな」

 いきなり、エリーに聞かれて、冷静にガブは受け答えた。



 数時間してその玉が封印されているという場所に辿り着いた。

「これが玉が封じ込められているという遺跡……?」
「ええ、そのはず。地図で確認したから間違いないわ」

 遺跡……というよりも、天然の洞穴のようだった。
 彼らは中に入ってみるけれども、そこは暗く、しかも枝分かれして迷いやすくなっていた。

「昔……この土地で暴れまわったモンスターをここに封印されたといわれている。そして、昔の人はまた、二度とこのモンスターが外に出て暴れないように迷路の中に隠したといわれているわ」
「迷路……?何で迷路?」
「それはもちろん……モンスターを悪用させないためよ」
「悪用……。でも、モンスターが言うこと聞くなんてことは……」
「ないでしょうね。もし言うことを聞いてくれたのなら、こんな世界にはならなかったでしょうね」
「それで……姫さんは一体何をしたいって言うんだ?」

 ネスとチロルの話にマレンが突っ込む。

「別に私は何をしたいってわけじゃないの……。ただ外を見たかっただけなの。その一番わかりやすい場所が、昔街が破壊されたところや、玉が封印されている遺跡だっただけのことなのよ」
「へぇ、それじゃどこでもよかったわけだ」

 マレンは納得した。

「じゃあ、この奥のどこかに玉は隠されているというんだね……?」
「そうよ。でも、私たちは奥に行くことはしないわ。危険だし、それにもしモンスターを復活させることになったらそれこそ大変なことになりかねません」
「そうだね。戻ろうか……」

 昔の歴史に触れて、モンスターという生物だけを復活させてはいけないと言うことを学んだのだった。

「巨大モンスター?どんな奴だか知らないが、俺とターボなら、そんな奴楽々に仕留めてやるぜ!」
「マレン!?あんたバカ言ってんじゃないよ!!」
「そうだよ!マレン!」

 ネスとエリーが中心にマレンを引き止める。

「封印を解いてはいけませんよ!!」
「いや、解かねえよ!」

 こうして、ネスたちは、来た道を戻っていった。



「FUFUFU、この洞窟の中か……お姫様……いい事教えてくれるじゃないKA……」

 洞窟の入り口にある茂みで不適に笑うのは、お城で見張りの隊長をしていたザンクスだった。

「FUFUFU……」

 怪しく笑って、ザンクスは洞窟の奥へと消えて行ったのだった。



「リュウ……リュウ……聞こえるかい……?」
「アマネお婆ちゃん?何……?」

 所変わってウェノンのリュウの家。年をとった老婆がリュウに呼びかける。

「もうすぐ……大変なことが起こるぞ」
「大変なこと……?それって……何?」
「私にもわからない。だけど、もしかしたらそれは……この世界が滅びる危機かも知れない……」
「世界が滅びる……?うーん……僕にはよくわかんない……。でも、アマネお婆ちゃんがいうんだからきっとそうなんだね。じゃあ、僕はナミネちゃんと釣りに行ってくる!」

 老婆を家に残して、リュウはセミナへと走っていった。

「リュウ……いつか、お前も自分の運命に動かされる日が来る……それを知りなさい……」

 外に出かけたリュウに向けて、老婆は独り言をつぶやくのだった。



 つづく


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Last-modified: 2015-03-05 (木) 22:26:30
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