怪物が暴れまわり100年が経った。
生き延びている人間や動物の数は凄まじいほど減少していた。
それにもかかわらず、まだ怪物と呼ばれるものは、活動を続けて、人々の不安の日々は続いていた。
―――「諦めないで!きっと私たちに未来はある!」―――
すべての人間が失望を抱いている中、一人の女性が周りの人を励ましていた。
“未来なんて……あるものか!すべてあの怪物が俺たちの未来を奪って行ったんだ……。あの怪物を倒さない限り、俺たちに未来はない!”
“そうよ!……それとも何なの……?あんたがあの怪物を倒せるとでも言うの?”
彼女は不適に笑った。
―――「私があの怪物を倒して見せる……必ず……!」―――
右と左の瞳がそれぞれエメラルドとサファイアのように透き通った色をしたその女性は、果敢にもその怪物に立ち向かおうとしていた。
たった一つの行路 №066
第二幕 Dimensions Over Chaos
漂う日々たち② ―――Star Day―――
木でできた2階建ての家。そう、前回と同じくネスの家である。
そこでグースカと寝ている少年がいた。
「起きて……ネス……起きて……」
「う~ん……」
「起きてってば!ネス!」
「ザク……もうちょっと寝かしてよ……あと、10分……いや、5分でいいから……」
「分かったよ……ネス……」
そして、ザクは口をあけて炎を吐き出す。
当然ネスは飛び起きて、バケツの水をぶっ掛けてその後に近くのため池にダイヴした。
「ネス……いい加減に学習しようよ」
「学習するのはどっちなんだよ!毎回布団を燃やして!いい布団を探すのも大変なんだから!!」
「それなら、燃やされないように起きればいいじゃないか」
「ザクが起こさなければいいんだよ!」
「そう」
ザクは頷いて、ザクの寝室(と聞こえがいいが、ほとんど木でできた小屋)から飛び降りた。
邪魔者がいなくなって清々したのか、再び眠りについてしまった。
ネスは夢を見ていた。
「ラーメン……ラーメン……だめ!そこは!そこは押しちゃ駄目だ!そのラーメンシステムには……納豆爆弾が仕掛けられて………………だから、サーモンといったじゃないか!!」
よく分からない夢である。
「一体、ネスは何の夢を見ているの?」
30分ほどして、赤いワンピースの赤いショートヘアの少女がネスの部屋へとよじ登ってやってきた。
ネスの寝室は上からロープがかかっており、それを頼りによじ登っていけば、行くことができるのであった。
「ここは……スタンガンか?それとも、ハリケーンか……?ぐはっ!!」
「いい加減、起きなさいっ!!」
その少女はワンピースの裾がめくりあがるのもお構い無しに、ベッドの横からミドル気味の蹴りを寝ているネスの脇腹に叩き込み、そのまま部屋から叩き出した。
もちろん、部屋からたたき出したということは、大体ビルの2階くらいある高さから跳び落ちるということになる。
何の抵抗も出来ず、溜め池へと真っ逆さまだった。
「ブッ―――!!ガハッ!ガハッ!一体なんなんだ!?」
水を吐き出してむせるネス。
「朝から災難でんな」
「ガブ?と言うことは、さっきの蹴りは……」
「そうよ!あたしよ!!」
部屋から顔を覗かせる少女。
「エリー!なんて起こし方をしてくれるんだよ!溺れ死にかけたじゃないか!」
「大丈夫よ!ネスだもの!」
「だから、意味分からないって!」
ロープを伝って、下へと降りるエリー。
「また着替えないといけないじゃないか!」
「着替えなんていいじゃない。どうせ、ネスが何着ているかなんて読者のみんなは知らないんだから!」
「エリーの服装だって、分からないじゃないか!」
「あたしならさっき『赤いワンピースの赤いショートヘア』って、説明があったわよ!」
「ネスはんは天然ちぢれラーメン頭と言うのしか書いてなかったでんな」
「ほっといてよ!」
ネスは拗ねる。
「ところで、あたしはあんたと漫才をするためにここに来たんじゃないの!」
「漫才風にしたのはエリーでしょ!」
「あたし気になることがあるのよ!」
「(な、ナチュラルに無視された……)」
どうも、エリーはツッコミを無視する傾向にあるらしい。と言うよりも、人の話を聞かないというほうが正しいかもしれない。
「ねえ、最近リュウが怪しいと思わない?」
「何が怪しいって?」
「だって、この前一緒にセミナに行った辺りから、リュウが一人でセミナに行くことが多くなったもの!」
「別に思わないよ。ただ、セミナの湖に釣りにでも行ってるんじゃないの?最近、釣った魚を持って僕のところに来ることがしょっちゅうだもん」
すると、エリーがため息をついた。
その仕草にちょっとムッとするネス。
「あんた、リュウの親友の癖に何も分かってないわね」
「何が!?」
「なるほど。きっと好きな女の子でも出来たでんな!」
エリーの微妙な顔の表情を読み取って推測をした。
「さすがガブ!よく気づいたわね!だから、これからセミナへ行ってリュウを尾行しようと思うの!あんたも行くのよ!」
「きょ、拒否権無しなの?」
半ば強引に……と言うよりももう強制執行でネスを引っ張っていくエリー。
それになんの突っ込みも無しのガブ。
こうして、2人と1匹は再びセミナへ向かっていったのだった。
2人と1匹がウェノンからセミナへ行くと、もう夕暮れ時で、セミナの集落は少し落ち着いていた。
魚の養殖や釣りで稼ぐこの土地は夕暮れ時になると、釣りをしていたものたちは皆自分の家へと戻っていく。
戻っていくと、魚料理が出たりして、夕ご飯が始まり、子供たちも家へと戻っていく。
そして夜は明かりを照らすのは月の光のみなので集落では、早めに床に着くのである。
ここで注意しなければならないことがある。
ウェノンもだが、電気もガスも敷かれていないのである。
原因がウェノンもセミナも湖の近くや森の中と言う点もある。
「……リュウ、いないでんな」
「リュウの奴、一体どこに行ったのかしら!?」
「セミナに来ていないんじゃないの?」
ネスが疲れた顔でエリーに言った。
「朝、あんたのうちに来る前にリュウがセミナの方向に言ったのをあたしはこの目で見たのよ!間違いないわ!」
「エリー、だけでなくワイも見たでんな!」
「わ、わかったって!そんな迫らないでよ!!」
ぐいぐいと顔を近づけながら自分の意見を主張するエリーとガブにネスは気圧された。
「それなら、リュウがここに来たか人に聞いてみたらいいんじゃ……」
「それを最初に言いなさい!」
キッと鋭い目をしてネスをみるエリー。
「(そのくらい最初に気づいてよ……)」
と、露骨に疲れた顔をするネス。
エリーとガブはそんなネスに目もくれず、情報を集め始めた。
ネスは情報収集をエリーたちに任せて、セミナの集落を改めて見回ってみた。
主に石と木と布で作られた家はそれほど強度はそれほどないが、通気性がよく、湖の湿った風がよく通っていた。
壁も石をくっつけ合わせて作り、強度はウェノンにある木の壁よりも硬かった。
どうやら、この石は湖の西にある川原から運んで作ったものであり、ウェノンではマネができなかった。
ウェノンの家の大半は近くにある木を切り開いて、木材にして建てた家が大半であった。
「(場所によって、家って違うんだな……)」
しみじみと集落を見回っていたネスの後頭部に、衝撃が走った。
不意をとられた、ネスはそのまま前のめりに倒れこんで、すぐに後ろを見た。
「何サボってるのよ!!」
そこには右足を高く上げた状態の赤いワンピースを着たエリーがそこに立っていた。
「……っ!エリー……」
「……何?文句なら聞かないわよ!」
「……やっぱりいい……」
ネスはエリーの方を見てそういった後、下を向いて立ち上がろうと両手を突いた。
「フギュ!」
しかし、ネスは立てずに無残な声を上げた。
エリーがネスを踏みつけたのである。
「ネス……見たわね?」
エリーが頬を赤くして言った。
「……僕は……見てない……見てないよ……何も見ていない……(真っ白なパンツを見たなんて言えるはずがないっ!!)」
「エリー!そんなことよりも、リュウをどうするでんな?場所が分かったでんな?」
ガブが助け舟を出した。エリーは大きく息を吸い込み、そして吐き出して、ネスの腰から足をどかした。
「……まぁいいわ。あんたの言葉を信じるわよ。リュウは、西の川原の方に行ったって!今から行くわよ!」
ネスとガブは文句も言わず、エリーの意見に頷いた。
「(助かったよ……ガブ)」
心の中で感謝をするネスだった。
「リュウ君……星がきれいだね」
湖の西の川原。エリーの得た情報の通り、リュウはここにいた。
しかし、いたのは彼一人だけではなかった。
「ナミネちゃんが星が好きだって言うのを聞いて、星を見るのに一番いい日を選んだんだ」
「私のために?」
「それだけじゃないよ。僕も星を見るのが好きなんだ。この遠い空の向こうにこの星とはまた違う星があるんだと考えると、ワクワクするでしょ?」
「うん!そう思うよ!」
コクコクと頷く膝までの黒いワンピースの少女ナミネ。
「リュウ君。ありがとう」
「ナミネちゃんにそういってもらえるとうれしいよ」
照れ笑いを浮かべる、リュウ。
川原の前で二人は並んで座って空を見上げていた。
「エリーの言ったとおりでんな!」
「本当だ!……女の子と一緒にいた……」
ネスはどこかショックだった。
「へぇ……リュウもなかなかスミに置けないわね!」
「そういえば、ナックラーは?」
「キバちゃん?キバちゃんが……」
「どうしたの?」
俯くナミネの顔を覗き込むように見ている。
「姿がいきなり変わっちゃったの……。体が大きくなって、それで飛べるようになったの」
「それはね、成長したんだよ。そう成長することによって姿が変わる生き物もいるんだ。トンボやカエルと同じだよ。ヤゴからトンボのように、お玉杓子からカエルになるように、ナックラーもビブラーバになったんだ。だから、落ち込むことなんてないよ」
「ううん。違うの。それだけじゃないの。最近、キバちゃんが飛べるようになって、仕切りに飛んで遊びに行くようになったの……。だから心配で心配で……」
「そうだったんだ……。仲のいいキバがいなくなって寂しいんだね」
「うん。でも、リュウ君に会う前じゃなくてよかった」
パッと顔を上げて、リュウを見る。
「リュウ君がたまにセミナに来てくれるおかげで私は寂しくないの!」
明るい笑顔を見せるナミネ。その笑顔を見るだけでリュウは自然と顔がほころんだ。
「それで、今日はどんな話をしてくれるの?」
「じゃあ、今日は同じ友達のエリーの話をしようか」
「女の子?」
「うん」
「あたしの話……?一体どんな話をするのかしら?」
「きっと、いつもリーダーぶっているわがままなじゃじゃ馬娘と言う説明をすると思うよ!」
ドッカーーン!
凄まじい音が響いたような気がした。
その音はもちろん、エリーがネスの頬にパンチした音だった。
「~~~っ」
「誰がじゃじゃ馬娘ですって?」
あまりにも大きいダメージに言葉が出せないネスだった。
「(ドッカーーン!って、どんな音でんな?)」
「ウェノンの話はしたよね?」
「うん。ここみたいに石でできた家はなくて、木材や布で床を作っているって。変わった人は穴を掘ったり、木の上に木材を敷いて寝ている人もいるって話よね?」
「そう。エリーはその集落の長の娘なんだ」
「偉いんだね」
「だから、みんなをまとめる力はあるんだ。ここに来ようと計画するときだって、エリーが中心に引っ張っていたんだよ」
「頼もしい人なんだね」
「(あれ?エリーの悪口が全くないでんな)」
「なんか言った?ガブ?」
「え?何も言っていないでんな!」
地獄耳でんな。とガブはふと思う。
「リュウはあまり人の悪口は言わないしね」
「何?あたしに悪いところがあるって言うの!?」
大有りでしょ。と、ガブとネスが思ったのは言うまでもない。
「それじゃ、今度は私から話をするわね」
「どんな話だい?」
「こんな話知ってる?昔々……私たちも、お父さんたちも、おじいちゃん達もいなかった時代……大体300年前くらいって聞いたの。その時代のこの土地に大きなモンスターが暴れまわっていたんだって」
「モンスター?」
「うん。噂では50メートルくらいもある巨大なモンスターだったんだって。様々な文明を持った私たちの先祖は、そのモンスターを攻撃するんだけど、ことごとくかわされて、人間の住む街を荒らしまわったんだって」
「そういえば、ネスに聞いたけど、昔は電気とかガスとか使っていた集落もあったらしいけどらしいけど消滅してしたって言っていた」
「そのモンスターが全てを壊してしまったんだって。そして今、私たちの住むこの土地ではそれらに頼らないで生きていこうってことなんだって」
「そうなんだ……」
ふと、リュウは疑問に思う。
「どうしたの?」
「そのモンスターって一体どこから現れたんだろう?」
「分からないよ。私もそのときにはいないのだから……」
「アハハ。そうだね」
笑って空を仰いだ。空を見ると、たくさんの星たちが流れるように消えていっていった。
いわゆる流星群である。
「見てよ!流れ星だよ!」
言われてナミネも空を見上げた。
草陰に隠れていたネスたちもそれに気づいて見ていた。
「私……怖いよ……」
「どうして?」
不安そうなナミネ。
「だって、流れ星って空から降ってきているんでしょ?こっちに落ちてきたら……」
フフッ。とリュウは含み笑いをした。
「大丈夫だよ。そのときは僕が守るから」
ナミネの黒い瞳を見て、リュウは笑顔で言った。
「そんなことより、願い事はした?流れ星に願いを言うと、叶うって聞いたことがあるよ」
「うん!してみる!」
両手を組んで目を瞑り、ナミネは何かを願った。
リュウも空を見上げて目を瞑って何かを念じていた。
「ナミネちゃんは何を願い事した?」
「リュウ君といつまでも一緒に入れますように!って。リュウ君は?」
「僕は……遠い世界に行って、離れていても、星になってもまた君に出会えますようにって」
「遠い世界に……?リュウ君……どこかに行っちゃうの?」
子犬のように寂しそうな瞳でリュウを見つめるナミネ。
「分からない。でも、この先、どんなことがあっても、必ず僕はここに帰ってくるよ。君の元にね」
そう言って、ナミネの左手をそっと握った。
そのまま、ナミネとリュウは星空を見続けていた。
「(いつか遠い世界に行って離れてもか……)」
ネスは考えた。
考えたこともなかった。僕はずっとザクやリュウ、エリーと一緒に遊んで暮らしていけると思っていた。
このまま平穏な日々が続くと思っていた。
リュウのような考えは思いつかなかった。
遠い世界ってなんだろう?
変わった世界なのかな?
他の世界には何があるんだろうな?
僕は怖い……。
みんなが離れて、今を失うのが怖い……。
もう失いたくない……今の……
「って、リュウのやつ!!生意気に手なんかつないで!!!」
ネスが思慮に漬かっているときに、エリーの鋭い声が響いた。
「(エリー……怒っているでんな……)」
「うわっ!」
「え!?」
「な、何するでんな!」
どたどたと、倒れこんで草陰から2人と1匹が出てしまった。
それらの声を聞いて、リュウは草むらを見て、ナミネはリュウの後ろに姿を隠した。
ナミネとリュウは同じくらいの身長で隠れるといっても、あまりナミネの行動は意味を成さなかった。
草陰に驚いたリュウだったが、草陰にいた人物に気づくと、ほっと息をついて、彼らに手を振った。
ナミネはひょこっと顔を出して、リュウの隣に並んだ。
「この二人が、前に話したネスとエリーだよ」
リュウに紹介されて、ナミネがヒョコッとお辞儀をした。
「はじめまして。ナミネです」
「あっ……宜しく」
突然の紹介で戸惑ったネスもつられて頭を下げた。
「そんなことより、ナミネとはどこで知り合ったのよ!!」
「最初にセミナに来たときに知り合ったんだよ」
「2人でこんなところへ何しにきたのよ!誰もいないこんな川原で!!」
「何ってね……」
エリーの質問に顔を見合わせる二人。
「星を見に来たんだよ」
「それ以外に来る理由なんてあるの?」
さらりとリュウとナミネは答える。
「本当に?本当にそれだけの理由で!?本当に不純な動機なんてないでしょうね?」
「なあにそれ?」
「星を見るののどこが不純なの?」
「…………」
ナミネとリュウを口撃しても、まさに暖簾に腕押しのようにエリーの言葉が一方的に流れていくようだった。
「そうだ。みんなうちに来て御飯を食べない?おかーさんに言って御飯を遅めに作ってもらうように頼んでいたの」
「ナミネちゃん、こんな大人数で大丈夫なの?」
ナミネは笑顔で頷いた。
「それなら、言葉に甘えていこうかな?」
「ワイも腹が減ったでんな!」
「いっぱい食べるわよ!」
それぞれに喚起の声を上げながら、和気藹々とセミナへ戻って行った
この夜は流れ星たちがたくさんあり、彼らの未来を占うようだった。
つづく