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たった一つの行路 №060

/たった一つの行路 №060

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「くそっ……まさか、私が……最強のトレーナーである私が……負けるとは……!!しかも、最強のポケモン、デオキシスが負けるとは……」

 ヒロトにデオキシスを倒されて、スプリントサンシャインのボスの間に戻ってきたダイナ。
 しかし、そこに待ち受けていた者たちがいた。

「『メタルクロー』!」
「!?」

 気づいて、飛びのくダイナ。

「何だ!?貴様らは!?」

 ダイナの目線の先には黒色が基調の男と柔らかいイメージを醸し出す女がいた。

「あなたがダイナですね?」
「てめぇを倒しに来た!!」

 ずっとこの部屋にいたオトハとラグナだ。

「何!?貴様ら……ここまでどうやってきた!?ナポロンやクロノは何をやっている!?」
「ナポロンという人は知りませんけど、クロノさんとは私が戦って退けました」
「てめぇを倒せば、終わりなんだろ?覚悟しろ!」

 ラグナ、オトハはそれぞれボールを構える。

「貴様ら……誰に向かって物を言っている?私はポケモンマスターのダイナ!貴様ら青二才に負ける要素など微塵もない!!」
「(後ろ!?)」

 ドカン!

 完全なダイナの不意打ちだった。
 バリヤードがオトハとラグナの後ろに回りこんでのサイコキネシスだった。
 しかし、オトハは気が付いてベトベトンを繰り出して、攻撃を受け止めた。

「!!(こいつ……俺の攻撃を予測しただと!?)」
「あぶねーな!オトハ、ありがとよ!」
「御礼には及びませんよ♪それよりも次がきますよ!」
「な~に!今度はこっちの番だ!クチート!!」
「クチートごときに何が出来る!?バリヤード、遊んでやれ!」

 バリヤードはクチートに接近し、ビンタを繰り出す。
 クチートはメタルクローを繰り出していた。
 二つの攻撃が激突して、凄まじい衝撃が生じる。結果、バリヤードは打っ飛ばされた。

「バリヤードが力負けしただと!?」
「つか、普通、力負けするだろ?俺のクチートを甘く見るんじゃねぇー!」
「そうか、貴様らがここまで登って来ただけのことはある。ルンバッパ!バリヤードと一緒にこいつらを掃除しろ」

 ダイナもようやく本気になったようで2匹でバトルに挑む。

「ようやく本気でやる気になったか?」
「ここからが本番のようですね」

 2人も気を引き締めて対抗する。
 バリヤードはテレポートを多用し、多方面から様々な攻撃を繰り出す。
 しかし、クチートはそれを口や頭ですべて打ち砕いてゆく。
 攻撃が止んだとき、クチートは接近して、バリヤードに容赦ない攻撃を繰り出す。
 どうやら、『我慢』をくりだして、攻撃に耐えていたようだった。
 一方のルンバッパは体格の割に機敏な動きでベトベトンに接近して、強烈なパンチ攻撃をベトベトンに繰り出していく。
 だが、ベトベトンはとけて、攻撃をほとんど無効化した。
 今度は水系の技を繰り出すが、ベトベトンにはまるで効果がなかった。
 いや、効果がなくなるというよりも、ベトベトンはどんどん大きくなっていった。

「(こいつなんだ?攻撃をするたびに大きくなっている!?)」
「この子に水や毒攻撃は効果がないですよ?それらの攻撃はすべて吸収します!そして、その吸収された攻撃を、一気に放出することも出来ます!ベトベトン!!」

 オトハに指示を出されると、ベトベトンは攻撃された分だけの水を放出した。

「ルンバッパ!防御だ!」

 バリアーを張って攻撃を防ぐルンバッパ。
 しかし、攻撃が止んだ後にはもう次の攻撃が迫っていた。
 攻撃を繰り出したのはベトベトンではない。
 バリヤードに攻撃を仕掛けていたはずのクチートだった。
 体をひねり、遠心力を加えたメタルクローでルンバッパをぶっ飛ばした。

「だが、バリヤードはまだやられて……」
「『バブルボム』!!」

 ベトベトンの追撃の技がバリヤードに直撃した。

「これで終わりです!」
「そんな攻撃ではバリヤードは倒せないな」
「!!」

 ダイナの言うとおり、バリヤードは健在だった。

「だが、俺の攻撃ならどうだ!?」

 クチートはすでにバリヤードの後ろに回りこんでいた。

「(速い!?)」

 クチートはベトベトンの方へと吹っ飛ばし、ベトベトンは硬化した拳でバリヤードを地面に叩きつけてダウンさせた。

「……どうやら、私はまだ貴様らをなめていたようだ」
「(なっ!?)」
「!!」

 ダイナはポケモンを繰り出すのと同時に、この部屋すべてを電気で覆いつくした。

「貴様らに……私が倒せるものか……!!私はこの世界を真の世界へと導く者。人間もポケモンもこの星も……すべて無であることが真の世界!!それでこそ意味がある!」

 部屋のすべてが煙に包まれる中、ダイナがオトハとラグナが倒れていると思われる場所にセリフを吐き捨てた。

「けっ!何が真の世界だ。馬鹿馬鹿しい!」
「何もなくなったら意味なんてないじゃないですか……。生きていることに意味があるんです。あなたのしていることはただのわがままです!」
「貴様ら、この電流に耐えただと!?」

 煙から姿を現すのは、無傷のオトハとラグナだ。
 ベトベトンとクチートはダウンしていたが。

「電気攻撃なんて、俺のこいつには無駄だぜ!」
「部屋を電気で覆い尽くしたとしても、その継目を見てよければ造作なんてありません」

 ラグナの傍らにはヌケニンがいた。
 そしてオトハは電撃を自力でよけたようだ。

「……デンリュウ!サンダー!奴らを跡形もなく消し去れ!!」
「ラグナさん!デンリュウを頼みます!私がサンダーを抑えます!」
「頼むぜ!」
「メタモン!『変身』!」

 サンダーに変身して、メタモンは戦う。

「ヌケニン!蹴りをつけろ!『シャドークロー』!」

 しかし、この重い攻撃を軽く受け止める。

「効いていねーだと!?」
「私のデンリュウは一番のパートナー!貴様ごときに勝てると思うな!!『目覚めるパワー』!!」

 高速で動く目覚めるパワーを繰り出すデンリュウ。
 しかし、ヌケニンも尋常じゃないスピードでそれをかわす。

「スピード勝負なら負けねーぞ!!」
「誰もスピードで勝とうとなんて思っていない!『目覚めるパワー』!!」
「一気に決めろ!『零距離シャドーボール』!!」
「確かに、貴様のヌケニンの速さは尋常じゃない。だが、そんなことは関係ない。デンリュウ、『電磁界』!!」
「なっ!?」

 デンリュウは回りに電気の結界を張巡らせる。
 その中に入ったヌケニンはすばやさが極端に落ちてしまった。
 その隙を狙って、デンリュウが燃える拳でヌケニンを殴りつけてKOさせた。

「近づいたすべてのポケモンを麻痺させる。そして、麻痺した貴様のヌケニンはデンリュウの炎のパンチをよけることは不可能。そういうことだ」
「ちっ!腐っても最後のボスか……。だが、負けるつもりはねぇ!オーダイル!!」
「次はそいつか」
「“次”?違うな。“最後”がこいつだ。俺にはもうこいつしか残っていないんでな」
「ふっ!貴様の運が尽きたようだな」

 ラグナの言ったことは本当である。マリーとの戦いで我を忘れたラグナはダーテングがやられたあと、ピクシーとカイリキーを繰り出して倒されていた。

「デンリュウ、そいつはお前に任せる!」

 ダイナはオーダイルから目を離した。

「けッ!後悔するなよ!」

 そして、デンリュウとオーダイルは激突した。
 一方、メタモンとサンダーの戦いは続いていた。

「まさか、私のサンダーと互角とは……!だが、終わりだ!サンダー、『100万ボルト』!!」
「(100万!?)メタモン!『光の壁』!!」

 よけられないと持ったオトハは防御を指示する。しかし、壁はあっけなく破れて、メタモンは攻撃を直撃した。

「スイクン!」

 オトハは気絶したメタモンを戻し代わりのポケモンを出す。

「まさか……貴様がスイクンを持っているとはな……驚きだな」
「別に驚くことではありません。この子は私が小さなころからいたポケモンです。ジョウトで伝説のポケモンと知って驚きましたが…………」

 その時、もう一方のバトルで大爆発が起きた。
 ダイナは余裕でそのバトルの結末を見た。
 結果はデンリュウが勝ったと思っていた。しかし、予想は大きく覆された。

「相打ち!?」
「ちっ!勝てると思っていたのにな!オトハ!残りはそのサンダーだけだ!俺はもう残りのポケモンはいねぇ!」
「私も最後のポケモンです!つまり、ダイナさん……これが最後の激突です!!」
「……最後も何も、貴様らはもう終わっているんだよ!!サンダー!『100万ボルト』だ!!」

 最初にデンリュウが部屋に流した電気の数倍の電気が一気にオトハたちに襲い掛かった。

「スイクン……このバトルを終わらせましょう。『聖なる衣』!!」



「わ、私は……この世界を真の世界に導くものだ……。貴様らなどに負けてたまるか……」

 最後の激突……オトハのスイクンが繰り出した聖なる衣は、100万ボルトを凄まじい激突の末に跳ね返した。
 その電撃をサンダーは浴びて、ダウンした。
 しかし、ダイナはまだあきらめようとはしていない。

「デンリュウ!立て!サンダー!まだ終わっていない!早く!邪魔するこいつらを消すんだ!!」
「ダイナ……てめぇの負けだ!おとなしくしやがれ!」
「うるさい!貴様などにまだ負けてはいない!私は私は……」
「もうやめて……ダイナ……」
「!?」

 ラグナは反射的に声のいる方を見た。
 そこにいたのは、白い法衣を着て十字のペンダントをしている女だった。
 その女はいきなりダイナに抱きついた。

「クレア!?何をする!もう少しで、この世界をこの世界を変えることが出来るんだ!無意味な世界を……」
「無意味なことなのですか?私と一緒に生きていくことが……?」
「…………」
「私はそんな事を望まない……」
「クレア……最初は賛同してくれたではないか……」
「最初はあなたについていこうと思っていました……。そして、最後の最後まであなたに服従していました。でも、それじゃいけないと思いました。
 ダイナ……言っていましたよね?人は、生まれ、成長して、恋をし、新しい命を産み出して、老いて行く。それに意味はないと言いましたよね?
 そして、意味を見出せないなら存在する必要はないともあなたは言いました。でも、存在するからこそ、意味があるんじゃないでしょうか?
 それを私たちで見つけていきましょうよ……」
「クレア……」
「私はあなたが側にいればそれでいいのよ……だから……もうやめて……」
「……そうか……。わかった。二人で静かな所で暮らそう……」
「うん」
「オイ!てめぇら!勝手に話を進めるんじゃねぇ!」

 ラブラブモードに入っているところにラグナが突っ込む。

「てめぇらは警察に今までやってきたことの―――」

 ラグナは口をふさがれた。オトハはにっこりとして言った。

「ダイナさん……彼女を大切にしてあげてくださいね」
「……ああ……」

 ダイナはバリヤードにテレポートを指示すると、二人は姿を消してしまった。

「オイ!なんで逃がしたんだ?!」

 ラグナはオトハを責める。

「もう、あの人たちはきっと今日のようなことをしないでしょう。だから、そっとしてあげましょう」

 オトハは相変わらず笑顔を崩さずに言った。

「てめぇと話していると、こっちの調子が狂うぜ……」

 こうして、ロケット団とダークスターとの戦いが幕を閉じた。



 たった一つの行路 №060



 35

 ロケット団、ダークスターとの戦いが終わって、夜が明けた。
 様々な戦いがあって、街や人に大きな被害もあった。
 そのような被害を出しながらも、ロケット団の侵略を防ぎ、裏ではダークスターの野望を挫くことに成功した。
 それから、ロケット団と戦った勇敢な少年たちは、ケガをした者を介抱したりと、大忙しだった。
 ニビシティで激しい戦いを繰り広げたマサトはニビシティの病院で1週間ほどで退院した。
 その間、ユウキとハルカはマサトが起きるまで交代で看病をしていたが、目を覚めてからは、マサトはどんどん元気になって行った。
 それから、マサトは再びカントーのジムめぐりをする旅に出たという。
 ナポロンの攻撃をもろに受けたハルキは、カレンが介抱していた。
 心配して、ラグナとユウナも見に来ていた。
 ユウナとラグナもそれぞれ、包帯をして手当てを受けていたが、軽症ですんだようだった。
 ハルキは1ヶ月ほど入院していて、それからカレンとオーレ地方に戻っていったという。
 マヤの戦いでピカチュウに変身させられていたサトシは、マヤのから聞き出した方法でサトシを元に戻していた。
 そして、1週間眠り続けたある日、何事もなかったかのように起きて、カスミはサトシに向かって泣きながら思いっきりビンタしたという。



「はっ!エース!?エースは!?」

 ほぼ事件の夜明けにライトは飛び起きて病室を飛び出した。
 そして、近くにいたカスミに近寄る。

「ライト!?大丈夫なの!?」
「カスミ!エース……エースは知らない!?」
「え?知らないわ」
「そう……」

 がっくりと落ち込むライト。

「何も言わずになんて……何か聞いていない!?」
「聞いていないわ……」
「エース?」

 ふと、ズボンとワンピースをいっしょに着用した少女が首を突っ込んだ。

「そういえば……あの戦いが終わってから、見ていないわね……」
「誰ですか?」
「あ、初めてだったわね。私はユウナよ」
「はじめまして……って、エースと会ったの!?」
「スプリントサンシャインで会って、一緒にダークスターと戦ったけど……それ以降姿を見ていないわよ」
「どこに行っちゃったんだろう……?」
「ライト……初対面で聞くのも悪いけど、エースのことが好きなのね?」
「ええ!そうよ!いつも一緒に旅をしてきたんだから……」

 ライトは涙目で答える。

「それなら……追いかけなさいよ!好きなら追いかけなさい!(本当は私が言う台詞じゃないんだけど……)」

 ユウナに言われて、自分自身に頷くライト。

「うん……わかった。ケガを治して、エースを見つけて見せるわよ!」

 そうしてライトは苦しみながらも、1ヶ月間養生し、エースを探す長い旅に出たのだった。



 36

 同じハナダシティの病院。
 戦いからほぼ1日たった夜明けのことだ。
 こちらは最悪の状況だった。

「何でだ……!?何でヒカリは、起きないんだ!?」

 ヒロトはダイナのデオキシスを倒した後、ヒカリをすぐにハナダの病院へと運んだ。
 だが、医師の診断は、ヒカリはもう目を覚まさないという。
 死んではいないが、もう目を覚ますことはないと言う。
 ヒロトは、それを聞いて愕然とした。

「く……なんでだ……何でこんなことになったんだ……」
「ヒロト……」

 ヒカリの病室。
 ヒロトの目の前でヒカリは横になっていた。
 しかし、目を覚まさない。
 周りにいた全員、ヒロトに何か言葉をかけようとするが、誰もその言葉が見つからない。

「こんなことになるんだったら……せめて……」
「ヒロト……あんまり自分を責めるなよ」

 トキオは静かに言う。

「何もお前のせいでヒカリちゃんがロケット団に入って、そして、こんな風になったとは言えないんだぞ?」
「じゃあ……なんだよ……俺のせいじゃ無ければ誰のせいにすればいいって言うんだ?ロケット団か?ダークスターか?……違う。その一番の原因になったのは俺なんだ……」

 涙を流すヒロト。
 その場にいたコトハがヒロトに近づこうとした。
 でも、オトハは彼女を止めて、首を振った。

「(……ヒロトさん……)」

 オトハも部屋の出入り口のところでなんて声をかければいいか考えていた。でも、いい言葉が思いつかなかった。

「(……ヒロトのせい……?確かにヒロトのせいね。悪いけど、これは事実ね)」

 部屋の水面台の近くにいたユウナがふと思う。

「(ヒカリはヒロトのことが好きだった。でも、嫌われたことから彼女は復讐する為にロケット団に入ったと言った。でも、それは最初だけだったみたい。
 ヒカリは自分の気持ちに問いかけて、やっぱりヒロトが好きなんだと思い出して、今度はヒロトを探すためにロケット団を利用するようになった。
 結局は最初のときにヒロトはヒカリの気持ちを受け止めてなければこういう結果にはならなかったでしょうね……)」

 そう思っていても、実際にはヒロトには言わない。
 言ったところでヒカリが目を覚ますわけでもないから。

「うぅ……」

 ヒロトは涙を流す。そう、ただそれしかできない。
 悲しんで、悲しんで、悲しむことしか出来ない……。
 そんな暗い雰囲気の中、ヒロト以外の他4人は、黙り込んでいた。

「おやおや……こうなってしまったのか……」

 突如、黒い服を着た魔女のような老婆が部屋に入ってきた。後ろから来てびっくりしたオトハはすぐにドアから離れた。

「あんたは……あの時の婆さん!?」

 ヒロトは涙を拭かず、その老婆を見た。

「あ゛!俺にアルトマーレへ行けと教えたインチキ占い師!!よくもあの時は嘘をついたな!」

 トキオは怒ってその老婆につかみかかろうとする。

「でも、可愛い女子に会えたじゃろ!?」
「……確かに」

 納得したトキオ。カノンの顔を思い出していた。

「そんなことよりも、その子を目覚めさせたいんじゃろ?」
「!?」

 その老婆の言葉に、みんな目を丸くして彼女の顔を見る。

「出来るのか!?教えてくれ!!」

 もちろん一番その話題に食い付いたのは他ならぬヒロトである。
 老婆の胸倉をつかんでぐらぐらと揺さぶる。

「ヒロト!落ち着け!」

 トキオはヒロトと老婆を引き離す。あわや、老婆を窒息させる勢いだった。

「ハァ、ハァ……まったく、落ち着かんか……。じゃが、それにはお主の覚悟が必要じゃ」
「覚悟?ヒカリが助かるんなら俺は何でもする!」
「そうか……じゃが一つだけ言っておく。この方法を使えば、この子は助かるかもしれん。じゃが、代わりにお主は命を落とすことになるぞ!!」
「「「「!!!!」」」」

 4人は驚く。

「なっ!?つまり、このまま、ヒカリを放っておくか、ヒロトの命を賭けて、ヒカリを助けるかということか!?」

 トキオは驚いていった。

「それでもお主……やるのか?」

 老婆は真剣な目でヒロトを見る。

「ヒロトさん!駄目よ!死んじゃいや!私と一緒に生きてよ!その人のことなんて忘れて私と―――」

 コトハの口を押さえて、オトハは無表情のヒロトを見る。

「(ヒロトさん……どうするんですか……?えっ?)」

 オトハはちょっとびっくりした。ヒロトの口元に笑みを浮かべた。

「やります」
「オイ!ヒロト!こんな婆さんの言葉なんて信じるな!」

 トキオは反対する。

「私もあまりお勧めできないわね。この老婆の言うことが信用できないわ。(ヒロトの命を賭けるということは、ヒロトの魂か生命エネルギーみたいなものをヒカリに移植するということになる。果たしてそんなことが可能なの……?)」

 ユウナも反対のようだ。

「それでも……俺はやる!」
「本当にいいんじゃな?」
「ヒロト!」 「ヒロトさん!」

 トキオ、コトハはヒロトを引き止める。

「トキオ……。俺はノースト大会のあの日、ヒカリから告白されていたんだ。でも、俺はお月見山でこうなるのを恐れて、ヒカリから逃げていた。自分が好きだったのを押し隠して。
 あの時夢を見た運命から逃げるために。しかし、結果的にこうなってしまった。俺は、逃げていたんだ……。
 だから、俺はもう逃げない!そして、これは今までの行為に対する報いなんだ……。だから、トキオ……」
「……わかった……」

 トキオは下を向いて、椅子に座った。

「ちょっと!あんた!ヒロトさんを止めないの!?」
「コトハ!やめなさい!」
「だって……」

 コトハはどうしてもヒロトの決断に反対のようだ。

「コトハちゃん。期待に応えられなくてごめん。俺は、ヒカリを探すためにここまできたんだ。そして、ヒカリが好きな気持ちは、きっと君が僕を想う気持ちと同じなんだ。だから……ごめん……」
「ヒロトさん……」

 コトハはうつむいたかと思うと、ふっと、部屋の外へ走っていった。

「コトハ……」

 オトハは追わなかった。コトハはきっとヒロトとの別れも見たくなかったし、涙も見せたくなかったのだろうと思っていた。

「オトハさん……ユウナ……ありがとう」
「…………」
「……ヒロトさん……」

 無言のユウナとそれ以上言葉が出ないオトハ。
 ヒロトはもう一度、3人の顔を見る。

「ここまで俺に付き合ってくれて、ありがとう!婆さん……頼む!」
「分かった……」

 老婆はある一匹のポケモンを繰り出した。
 頭に電波を持ち、その電波で霊界からの指示を受けているといわれているポケモン。
 今は、彼らにそのポケモンはわからなかった。
 そのポケモンは、ヒロトの意識を手で掴み取ると、その掴みとった手でヒカリに押し当てた。



 白い世界……。
 そう、真っ白な世界。何もかもが白い。
 何もない。そう、白い。そして何も無い。
 ここに存在するのは自分の体だけ。
 漂うものは何一つ無い。
 自分の体だけがそこに存在する。
 恐怖なんて無い。
 ヒカリに会えると分かったらもう恐怖なんて無い。
 そして、その白い世界の中に一筋の光が見えた。
 眩しい。見えないけど、分かる。
 そこにはいる。
 ヒカリが……。
 そこには見える。
 ヒカリの姿が……。

―――「ヒカリっ!」―――

 俺はヒカリを懸命に呼ぶ。ヒカリは振り返って俺を見る。

―――「ヒロト……?」―――

 ヒカリが俺を見たとき、彼女の目から涙がこぼれた。そして、俺に近づいて抱きつく。俺はそんな彼女に手を回す。

―――「ヒロト!ずっと会いたかった…………」―――
―――「俺もだ……」―――

 俺も泣きたかった。でも、泣かない。

―――「私…………改めてあなたに言いたいことがあるの…………」―――

 改まった顔で、ヒカリは俺を見る。

―――「私はヒロトが好き!ずっと一緒にいたいの!いいでしょ!?」―――

 俺は笑顔で答える。

―――「俺もヒカリのことが好きだ!うん。俺も一緒にいたい!」―――
―――「良かった…………私、ヒロトが私のこと嫌いなのかと持っていた…………」―――
―――「そんなことなんて無い……。俺はずっと6年間……ヒカリを探してきたんだ……」―――
―――「私も、ヒロトを探していた…………」―――

 俺は必死にお互い抱きしめあう。
 出来ることならずっとこうしていたい。
 時が止まればいいと思っていた。
 でも、そうは行かない。
 ヒカリを元の世界に戻してあげないと。

―――「ヒカリ…………あっちの方が見える?」―――

 俺は白い世界の中で、一つだけ黒い空間を指差した。

―――「分かるよ!」―――
―――「そっちに行くんだ!」―――
―――「わかった!」―――

 ヒカリは、俺の指示に従って、その黒い空間の方へと進んでいく。
 これでいいんだ。
 きっとこれでヒカリは生き返って、俺は安心して眠りにつくことができる……。
 だけど、ヒカリは足を止めた。

―――「ヒロト……一緒に来ないの?」―――
―――「俺は行けない。その道を通れるのは一人だけなんだ」―――

 俺は本能的に分かっていた。
 その空間を一人が通れば、閉じて、残った者は永遠の眠りにつくということを。
 ヒカリもそれを感じ取ったのだろうか?
 でも……まさか……。
 ありえないことではないか……。
 小さいときからヒカリは何かとカンがよかった。
 そのおかげで小さいときは助かったこともあったが、逆にそのせいでとんでもない目に遭った時があった。
 そう、ヒカリのカンは侮れない。

―――「ヒロト……私だけ行かせようというの?それなら私は行かないわよ!」―――
―――「駄目だ……ヒカリ。行くんだ!」―――

 俺は無理やりヒカリを押していく。
 力のほうは俺のほうが上でどんどん黒い空間に近づいていった。

―――「私……。私だけが生き返っても何も楽しくない!それなら、ヒロトに生きていて欲しい!」―――
―――「そんなの……そんなの俺も同じだ!ヒカリに生きていて欲しいんだ……」―――

 俺は正直な気持ちを吐き出す。

―――「じゃあ、私の話を聞いてくれたら、私が行くわ」―――
―――「ん?」―――
―――「私がヒロトを好きになった理由」―――

 俺を好きになった理由?それは確かに気になった。俺の何に惹かれたのか。俺は聞くことにした。

―――「私が迷ったとき、いつもヒロトは傍にいてくれた。私が挫けそうなときにヒロトは傍にいてくれた。そう、ヒロトはいつも私を光への道へ導いてくれた。
 そして、その道を導くあなたとこの世界が好きだった。そう、私はあなたがこの世界にいて……この世界で生きているあなたの姿が好きなのよ!つまり…………」―――

 トンッ

 不覚だった。
 ヒカリの話に聞き入っていて、不意を付かれて、黒い空間へと押し込まれた。
 そのとき俺の目に映ったのは涙で俺の顔を見るヒカリだった。

―――「私は……あなたが死ぬのが一番嫌なのよ!!だから、生きて!私の分まで!私が愛した世界を守って!」―――
―――「ヒカリ……ヒカリ―――!!」―――

 俺は、黒い空間に包まれた。
 やがて白い世界と黒い空間がつなぐ道は途絶えていった。
 俺は、どうなるのだろうか……?
 分からない……。
 でも一つだけ分かったことがある。
 


 俺は……ヒカリを救えなかった。



 第一幕 Wide World Storys 最終話
 ヒカリの道 終わり



 あとがき
 区切りという意味では章が4章なので4回目なのですが、3章の区切りがあってないようなものだったので、本格的なあとがきは2章以来になります。
 そして、この回で第一幕のWide World Storysが終了になります。と、言いたいところですが、もう一話だけR-18で続きます。
 次回の話は置いておくとして、この第一幕の話なんですが、コンセプトはヒロトの旅立ちから、ヒカリを探し出す所までと決めていました。
 結果的には、見ての通り、BAD ENDなんですが。
 しかし、この話は第一幕です。
 続くとしたら、もしかしたらこの不幸はヒロトにとって単なる通過点に過ぎないのかもしれません。
 なので、よければ続きの第二幕も読んでいただけると幸いです。
 そうでないと、第一幕でネタを散らばらせた意味が全くない(苦笑)。
 そういうわけで、続きも是非ともよろしくお願い致します。


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Last-modified: 2015-02-21 (土) 14:07:30
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