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たった一つの行路 №057

/たった一つの行路 №057

 わしは試練を与える者。
 様々な試練を与えてきたが、あれからもう何十年経つのかのう……
 すべての始まりは一体なんだったか、忘れてしまったが、そろそろこの世界にとどまるのも潮時かもしれん。
 その前にあ奴に伝えなければならぬことがある。
 それを伝えたらわしはこの世界を去る。
 それにしても、気になるのは、“別の世界の者”が今、このカント―地方に4人……いや、わしも含めて5人もいるとは……
 運命とは……時に恐ろしいのう……



 たった一つの行路 №057



 26

 溶岩が煮えたぎる暑きフィールドで戦う二人。
 実際にはこれは幻に過ぎないのだが。
 それでも、トレーナーに与える影響は少なからずともあるだろう。

「くっ……!」
「お主は強いのう。まさかここまでやるとは思わなかったぞ」

 火山のフロア。
 コトハ対タキジの戦い。
 タキジのセリフから、コトハが善戦していると思えるが、それは全く違った。

「(このおっさん……あ、遊んでる……。私は最後のポケモンだというのに……あいつはまだ4匹もストックがある……ここまで実力差があるものなの!?)」

 コトハの最後のポケモンは暴れ牛ポケモンのケンタロスだった。
 しかし、タキジの2匹目のポケモン、バクフーンとの戦いでかなり体力を消耗していた。

「(……私のレベルじゃこいつには勝てない……せめて、オト姉ェレベルじゃないと!でも、あきらめるわけには行かない!!)」

 必死に相手を見るコトハ。まだ、目の光は失っていない。

「ふむ。心力もなかなかじゃな。それじゃ、このポケモンを倒せたらお主の勝ちとしよう」

 そういって、タキジはハイパーボールからポケモンを繰り出した。
 その中から出てきたのは、威風堂々としていてなんとも壮言とした風格を持つポケモンだった。
 コトハはそのポケモンを見て息を呑んで、怯んだ。

「伝説の……ポケモン……エンテイ……!?」
「さぁ、突撃じゃ!」
「負けないわ!ケンタロス!『捨て身タックル』!!」

 ケンタロスとエンテイが衝突した。2匹の衝突に空気が震えた。

「……互角!?」
「ふむ、確かにこの世界の者にしては強い部類に入るじゃろう。だが、この世界の者はポケモンの力を半分程度しか引き出せておらん!」
「!?」
「実際、今エンテイには何の指示も出しておらん。その意味がわかるかのう?」
「け、ケンタロス!退いて!」
「エンテイ、退いて炎じゃ!」

 コトハの指示はまったく意味を持たなかった。
 タキジの指示は後退しながら、炎攻撃をするもので、ケンタロスはただ後ろに下がっただけ。
 退くだけに精一杯だったケンタロスはその攻撃をよけ切れなかった。

「そして、技というものはわしのいう意味では違う意味を持つ。俗に炎ポケモンなら『火炎放射』とか言うが、それはただの炎攻撃であって、それは技とは言いがたい。
 わしが言う技と言うのは、『必殺技』じゃ。それをお主に見せてやろう」
「見せなくていいわよ!ケンタロス!『破壊光線』!!」
「エンテイ、『マグマストーム』じゃ!!」

 ケンタロスの起死回生の破壊光線も、エンテイの技の前に飲み込まれてしまった。
 そして、その炎にケンタロスとコトハは巻き込まれてしまった。

「きゃあーーー!!」
「少々やりすぎてしまったか……これではトレーナーが助からんのう……(まぁ、どの道ポケモンバトルに負けたあの女の子は……)」

 タキジはちょっと引け目を感じていた。
 しかし、エンテイが攻撃をやめた時、コトハの傍らには一匹のシャワーズの姿があった。

「む?」
「『ウォーターウォール』。……危なかったな……」

 ようやくこのフロアに来たのは、青いバンダナを被った少年、エースだった。

「大丈夫か?」

 エースはコトハを揺さぶってみるが、返事はなかった。

「(気絶しているだけか……それならよかった)」

 エースはコトハから離れて、ゆっくりとタキジを見た。

「あんたがこの子を!?」
「すまんのう。ちょっと力の加減を間違えてその子ごと消してしまうところじゃった」
「次は俺が相手になる」

 エースはシャワーズを前に出して、そして、新たなボールを手に取った。

「それより……お主がエースじゃな」
「!?」

 エースは少し驚いた。

「何故俺の名前を……?まさか、あんたがサカキの言っていた……」
「そうじゃ。わしがダーススターのタキジじゃ」
「そうか、それなら話が早い。俺のこの『癒しの力』の秘密を教えてもらおうか……」
「教えて欲しいのはそれだけかのう?」
「……?どういう意味だ?」
「お主が一番知りたがっていることをわしは知っておるんじゃが……」
「……まさか……俺の正体……そして、俺の本当の両親のことか?」
「じゃが、実力ない奴に教えるほどわしも甘くない。このポケモンを倒すことができたら教えてやろう」
「望むところだ……絶対に負けられない」

 アイコンタクトでシャワーズに指示を送り、すぐにシャワーズは姿を消した。
 そして、後から、奇襲を仕掛けた。
 だが、エンテイはまるで後ろに目があるかのごとく、地面に潜ってかわした。

「『とける』から『ハイドロポンプ』。なかなかいい攻撃をするのう」

 そして、下から、シャワーズを突き上げようとしたが、すぐにその場を飛んでかわした。
 同時にその場所に水攻撃を放つ。
 しかし、エンテイはそれを炎で押し切ってしまった。

「……戻れ」

 瞬時にポケモンを交換した。
 その場に出てきたのは、ゴンベだった。

「このフロアでは水攻撃が半減するみたいだからな。肉弾戦で勝負を仕掛けるぞ」
「わしはどっちでもいいぞ?かかってくるがいい」

 ゴンベは地面にパンチをして地震を起こす。
 エンテイは容易くかわして、跳びながら炎攻撃を繰り出す。
 その炎はゴンベを囲んでじわじわと体力を減らそうとする。
 同時に、強烈なタックルが襲い掛かった。

「…………」

 しかし、それを振り払うかのように、ゴンベは自ら回転をして炎を振り払った。
 そして、エンテイのタックルをも受け流した。

「なるほど、『高速スピン』で炎でできた渦を破って、なおかつエンテイの攻撃をいなそうとしたわけじゃな……じゃが、これならどうじゃ?『フレアジャベリン』じゃ!!」

 エンテイが口から火を出そうとしているところで、一度停止する。
 そして、次の瞬間にはゴンベにその炎の槍が命中していた。

「(速い!?)」

 エースにも何が起きたかわからなかった。
 そう、一瞬でゴンベが吹っ飛んだのだ。

「これをよけきれる者はおらんぞ?耐えきった者ならわしが戦った中でも何人か居るがの」

 ゴンベは一瞬にしてやられてしまった。

「ぐ……」
「次のポケモンを出さんのか?それとも降参か?」
「ゴンベ……どうやらこのままの姿ではこれが限界だったようだな……。この勝負は負ける訳には行かない……力を貸してくれ……」

 エースはゴンベに両手を当てた。
 そして、淡い光とともにゴンベを癒していった。
 さらに、ゴンベはみるみると姿を変えていって、巨大なポケモンに姿を変えた。

「(ほう……これが癒しの力か……。まさに“あの娘”の力とそっくりじゃな)」
「行くぞ。カビゴン」
「ふむ。エンテイ」

 2匹のポケモンが衝突。
 先ほどのコトハのケンタロスと同様の状態になった。

「ふ……エンテイ、退け!そして、炎攻撃じゃ!」
「カビゴン、逃がすな」

 カビゴンはエンテイを掴んで、放さなかった。
 怒ったエンテイは至近距離からの炎攻撃をするが、カビゴンが放すことはなかった。

「エンテイ、力を溜めるんじゃ」
「……『目覚めるパワー・バトルエレメント』!!」

 カビゴンは目覚めるパワーを発動させた。
 しかし、発動させたのはいいが、その使い方は違っていた。
 目覚めるパワーの力を自分に溜め込んで、一気にエンテイを一本背負いの要領で投げつけた。
 そして、怯んだエンテイにのしかかりが決まった。
 攻撃を決めたとき、エースはすぐにカビゴンを戻した。

「来るか……?最大の攻撃が……」
「ふっ、エンテイ、最大パワーの『マグマストーム』じゃ!」
「一発に賭ける……バクフーン、『バーストフレイム』!!」

 バクフーンの炎の翼とマグマの嵐が激突した。



 ―――数秒後。

 バクフーンとエンテイは力尽きていた。

「相打ちか……」

 エースはタキジをじっと見る。

「教えてもらおうか……。俺の力の秘密、俺の正体……そして、俺の両親が今どうしているのかを……」
「いいじゃろう。わしのエンテイに勝ったのじゃ。知る資格がある。まずはじめに言っておくことがある。お主はこの世界にいるはずのない存在なのじゃ!」
「……!?」

 エースは驚きながらも、タキジの次の言葉を待った。

「お主のその力は“ある世界”に伝わる『トキワの力』と呼ばれるものじゃ」
「『トキワの力』……?トキワシティと何か関係があるのか?」
「察しがいいのう。しかし、先ほども言ったとおり、これは“ある世界”に伝わると言った。この世界にそのような話は存在しない」
「まさか……俺は……」
「そう、お主は別の世界の人間なのじゃ」
「……別の世界……」

 エースは呆然とした。

「それなら、俺の両親は?」
「まず、お主の本当の名前を教えてやろうか。お主の名前は、『エース・デ・トキワグローブ』だ」
「エース・デ・トキワグローブ……?」

 タキジに言われた言葉をそのまま復唱してみた。
 しかし、首を傾げる。どうもしっくり来ないらしい。

「そして、母親の名前は、『イエロー・デ・トキワグローブ』」
「……イエロー……?もしかして、その人は黄色い髪でポニーテールの女性か?」
「うーん、そうだったかもしれんのう」
「(それなら……あの夢に出てきた人が……俺の母さん……?)」

 一度だけエースは夢に見たことがあった。
 優しそうで、素敵な黄色い長い髪の女性。
 どこか懐かしい雰囲気を持った女性だった。
 夢の中でエースは追いかけたが、その人に追いつくことはなかった。

「俺の父さんは!?」
「残念だが、そこまでは知らん」
「そうか……。だが、俺が決めたことは一つ。俺は母さんを探し出す。絶対に」
「それなら一つ忠告してあげよう。お主と今まで付き添っていた少女とは別れることじゃ」
「ライトと!?」
「わかっていると思うが、お主らは違う世界の者たち同士じゃ。そんな二人が結ばれてはいけないことなのじゃ」
「そんな決まりごとなど、俺の知ったことではない」
「じゃが、もしお主らがそれを望むなら、過酷な試練が待ち受けるじゃろう。それを乗り越える勇気があるかのう?」
「…………」
「ゆっくり考えることじゃな」

 そうしてタキジは、部屋から去ろうとした。

「待て……お前は一体何者だ?何故俺の正体を知っていた?」

 タキジは後ろを向いたまま、一言言った。

「わしは世界を放浪するもの。運命を詠う者。ただそれだけじゃよ」

 言葉を残して、タキジは姿を消したのだった。



 27

「見つけた……こいつだな!」

 いくつかのワープポイントを経て、目的のフロアにたどり着いたのは、黒いズボンに白いTシャツ、そして、黒いコートっぽい服の男。
 その男、ラグナはあるポケモンと対峙していた。

「部屋を広くしたり、空間を変えたりしているのはこのナッシーの仕業だったんだよな!こいつを倒せば、歪んだ空間が元に戻るはずだ!」

 そう言って、そのナッシーに攻撃を仕掛けるラグナ。
 アーマルドが爪で攻撃するのだが、軽くサイコキネシスで吹っ飛ばされてしまった。

「つっ!なんてパワーだ!?」

 慌てて、壁を突き抜けて落ちてしまいそうなアーマルドをボールに戻す。
 そして、そのナッシーはラグナが敵意を持っていると判断してタマ投げ攻撃を仕掛けてきた。

「(なんてヤローだ。アーマルドを一撃で倒すとは……)だが、俺をあまり甘く見るな!」

 タマ投げ攻撃をかわさず、クチートを繰り出して、即座に放った技で一気にタマをぶち破り、ナッシーに直接ダメージを与えた。

「『メタルボール』だ!パワーなら負けねぇってんだよ!」

 すると、ナッシーは怒った様で超能力を繰り出した。

「な!何だ!?足場が!?」

 ラグナの足元がぐにゃぐにゃと変化したり、天井が歪んだりと足場が変化し始めたのだ。

「よくわかんねーが、あいつの仕業だろ!?クチート!思いっきり驚かしてやれ!」

 クチートは頷いて、すぅっ吐息を吸い込む。
 そして、次の瞬間、怪音波が流れ始めた。
 この技は『金属音』でも『ハイパーボイス』とも違っていた。
 単なる『嫌な音』である。
 ナッシーもろにその攻撃を受けてしまった。
 そして、歪んだ空間が元に戻った。

「とどめだ!」

 クチートは一気に接近して、一気にナッシーを撃破した。

「さて……後は、ダークスターのボス……“ダイナ”を倒すだけだが……」

 ラグナは奥にある大きなドアを見た。そこが、ボスの部屋らしい。

「奴の実力は……計り知れない……。ユウナはまだか?」

 と、ラグナがこぼしたとき、一人影がラグナに近寄った。
 ラグナは後ろを振り向いて、ボールを構えた。

「誰だ!?」
「……ええと、あのーどちらさまでしょうか?」

 質問に質問で返すこの女性。

「ダークスターでもロケット団でもないようだな……」
「ええ。私の名前はオトハです。ダークスターを倒すために来たのですが……ここはどこですか?」

 おっとりと笑顔でラグナに問いかける。
 どうやら、ワープパネルを言っていたら偶然ここについてしまったらしい。

「……まぁいい。俺の名前はラグナ。今から、ダークスターのボスを倒しに行くところなんだが、てめぇも行くか?」
「ボスですか。分かりました」

 オトハも真剣な顔になり、ラグナに同意した。
 そして、二人は足を踏み入れた。だが、そこで、二人は驚いた。

「……!? 誰もいないだと?」



 28

「おかしいですNE。フロアが元の小さい部屋に戻ってしまったようですNE。そうか……ナッシーがやられたようだNA!」

 特徴がある語尾で話すのは、ナポロンという男。ダークスターの一角である。

「くっ!カメックス!!」
「ち……エーフィ」

 2人の一番のパートナーで攻撃を仕掛ける。

「甘いですYO!私の“竜虎の陣”は破れはしないのですYO!」

 カメックスのハイドロカノンをいとも簡単にかわして、エレブーの雷パンチが炸裂。
 そして、エーフィのサイコキネシスをもろともせず、接近して尻尾を叩きつけるギャラドス。
 いずれも、戦況は、ナポロンに分があった。

「……いくらなんでも……この実力の差は……ないでしょ……!?」
「言っただろ……こいつらの強さは……俺たちを凌ぐと……」

 いつもポーカーフェイスのハルキだが、このときはカレンでもわかるように焦って見えていた。

「カレン。あの二匹で行く」
「分かったわ!」

 こうして、繰り出したのは、ハルキがマイナン。
 カレンがプラスルだ。

「プラスル!『手助け』!」
「マイナン、『10万ボルト』!!」

 特性プラス、支援技で一気に威力を強める。

「無駄DA!エレブー!『避雷針』!!」

 エレブーは角の部分を延ばした。
 すると、電気がすべてエレブーに引き寄せられてしまった。

「なっ!」
「そんなぁ……」
「そして、この電気はすべてエレブーのパワーとして使われるんだYO!」

 瞬時にエレブーは消えた。
 そして、一瞬のうちにプラスルの後ろに回りこんでいた。
 それを読んでいたのか、マイナンがプラスルをかばって、エレブーの雷パンチをもろに受けてしまった。

「プラスル!『アイアンテール』!」

 マイナンに攻撃をした隙を逃さず、攻撃をヒットさせてエレブーを吹っ飛ばした。

「けれど、これでチェックメイトですYO!ギャラドス!」
「しまった!」

 エレブーにばかり目が行っていたカレン。
 ギャラドスの光線は、プラスルとカレンに向けられていた。
 当然、攻撃はかわすことができなかった。
 しかし、次の瞬間、ふわっと、自分の体が何かに押された。いや、掴まれて押し倒されたという方が正しい。
 攻撃が終わったときその正体を知った。

「は、ハルキ!!」
「だ、大丈夫か……?カレン……」

 ギャラドスの攻撃を見ていて、カレンがかわせない事をわかって飛び込んだようだった。
 ちなみに、マイナンもプラスルをかばったようで、マイナンも瀕死状態である。

「なんでこんなことを……!?」
「あんたは俺に支えになるといってくれた……だから、俺も、あんたの支えになる……。だから、助けた。そう……俺はあんたをまもっ……」

 最後まで言い切れず、ハルキは気を失ってしまった。

「ハルキぃ―――!!」
「次はお前の番ですYO!」

 ナポロンのセリフににらみつけるカレン。
 最後のボールを握り締めるが、そこで思わぬことが起きた。

「そう、お前の番だ。ザンクス!」
「何ですKA!?」

 突然壁が破壊されて、炎がナポロンを襲う。
 しかし、回避して、壁から中に入ってくる男を見る。
 その男とは竜の刺青を入れた長身の男、リュウヤだった。

「あ、あなたは!?」

 気絶したハルキを抱きかかえながら、尋ねる。
 リュウヤはカレンを一瞥したのち、ナポロンを睨んだ。

「(……!?この人……! 凄い殺気!?)」

 カレンはハルキを抱きしめた。それは、恐怖から来るもので、決して愛情のこもったハグではない。
 歯を食いしばり、射殺すかのように見る目から、凄まじい殺気を一瞬でカレンは感じ取ったのだ。

「ここに来れば何か手掛かりがつかめると思ったが、まさか本当に貴様がいるとは思わなかったぞ!」
「やれやれ……まだ恨んでいるのKA?」
「恨む……?恨みとか言う言葉で片付けてもらっては困る!返してもらうぞ!!お前たちに奪われた俺のすべてを!!ザンクス!!」
「残念だが、私の名前は“ここ”ではナポロンと呼ぶんだYO?『リュウヤ・フィラデム』……」
「これはこっちのセリフだ。俺は、その名前を捨てた。……お前たちからすべてを取り戻すまでは……なっ!」

 火炎と強力な突風が放たれる。
 しかし、ギャラドスはもろともせずに向かってきて、カイリューに噛み付くこうとする。
 だが、ギャラドスは弾き飛ばされた。

「何DA!?ちっ!エレブー!」
「リザードン」

 一瞬のうちに2匹のポケモンが消える。

「何なの……?この戦いは……」

 所々にチカッチカッと激しく衝突する姿しかカレンの目には写らなかった。
 彼らの戦いはカレンにとって別次元のバトルだった。

「あ!」

 カレンがエレブーとリザードンを見つけたときは、すでに勝負を決めていた。
 リザードンの手に持っている炎の剣(炎でできた剣)がエレブーを貫いたのだ。
 貫いたといっても、外傷はないだろうが。
 そして、リザードンは剣をナポロンの眉間に突きつけた。
 リュウヤはゆっくりとした足で、ナポロンに近寄る。

「俺の世界や他の世界を滅ぼして……次はこの世界を滅ぼそうというのか……?」
「ふっ!なかなか腕を上げたじゃないKA!君が少年だったときとは比べ物にはならないNA!」
「ごまかすな!俺は、貴様らを倒して、俺の世界を元に戻すんだ!それまでは、どこまでも貴様らを追い続ける!地獄の果てまでな!」
「残念ながら、私はこの世界に偵察に来ただけですYO。別に私たちが手を下すわけではありませんNE。
 ただ、この世界を滅ぼそうとしている、この世界の住人のダイナという男がとってもいい奴なので力を貸してやったのですYO。だから、後にこの世界は…………」
「(俺の世界……?世界を滅ぼす……?一体、彼らは何の話をしているの……?)」

 カレンは全く話について来れていないようだった。

「とりあえず、この世界はダイナに任して私は元の世界に返りたいと思います。その後でゆっくりとこの世界を……FUFUFU……」
「逃がすものか!」

 リザードンが剣を突き刺す。だが、ナポロンの姿は歪んで消えてしまった。

「……しまった!分身!?」
「だが、このまま君に追って来られるとちょっと厄介なんですYO!少しでも手負いの状態にしておいた方がいいですNE!」
「!!」

 巨大な釜がリュウヤに襲い掛かる。
 しかし、電撃がその攻撃を弾き飛ばした。プラスルの電撃波だ。

「こしゃくな小娘め……!!」
「こしゃくなのはどっちだ!カイリュー!」
「ふん!」

 ナポロンはポケットから不思議な色をした鉱石とスターミーを繰り出した。
 スターミーが超能力を発動させると、その意思も呼応して、その瞬間にスターミーとナポロンは消えてしまった。
 カイリューのドラゴンクローはナポロンがいた場所を空切るだけとなった。

「……危なかった……」

 カレンはへたれこんでその場に腰をつけた。
 リュウヤは無言でリザードンとカイリューを戻して、フライゴンを取り出した。
 そのまま穴から出ようとしていた。

「ちょっと待って!」

 カレンはリュウヤを引き止める。

「一体何が起こっているの!?世界を滅ぼすって何!?あなたの世界って何なの!?」

 カレンは尋ねるが、リュウヤは黙っていた。

「そのままの意味だ。世界は星の数ほど存在する。このお前がいる世界はその一つに過ぎない」
「だからそれはどういう意味かと……」
「俺にも世界があった。“ミヤビ”と呼ばれる世界が。だが、異世界からやってきたあいつらに滅ぼされた」
「!?」
「そして、俺はそいつらの手がかりを追って“アワ”にやってきた」
「“アワ”?」
「この世界の名称だ。他にも“ティブス”や“ネボン”など、様々な世界がある。俺は空間を超えて、旅をするものだ」
「それじゃ、世界を滅ぼすって!?」
「何度も言わすな……。世界が滅びるというのは世界がなくなる……そのままの意味だ」

 カレンは息を呑んだ。

「そ、それを止める方法はないの!?」
「それは自分で探すことだ。俺は手伝えない」
「何で!?」
「俺は俺の世界を救うためだ……」

 リュウヤはフライゴンに飛び乗る。そして、ハルキを見る。

「(俺も……あいつのように自分を省みずに飛び込んで守ってやりたかった……。だが、できなかった。でも、今ならそれができるような気がする。待っていろ……ナミネ……)」

 フライゴンは様々な過去を背負ったリュウヤを乗せて飛び去る。

「世界が滅びる……?そういえば、ナポロンという奴がダイナに任せるといっていたわ……!そいつを倒せばいいのね!」

 とカレンは立ち上がる。だけど、フラッと眩暈がして倒れた。

「くっ……こんなところで……」

 そうして、カレンの意識は途絶えたのだった。



 第一幕 Wide World Storys
 闇の星④ ―――他の世界の住人達――― 終わり


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Last-modified: 2015-02-15 (日) 11:10:31
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