光あるところに影はある。
光は色を識別したりするために重要なものだ。
なら、影の重要性というものはあるのか?
影は光に消されて消えてしまう運命。しかし、光に照らされて影は生きる。
そう、影は……すなわち闇は消すことはできない。
たとえ、どんなに光を宿した心の持ち主でも……
たった一つの行路 №056
「な……なんだあいつは……!?」
「ピジョット……?それともカイリキー!?」
ラグナとユウナがそれぞれに声を上げる。
マリーが切り札として出したポケモンは、ただのポケモンではなかった。
ピジョットの翼を生やして、カイリキーのような体格を持った、合成ポケモン<キメラ>だった。
「これが私の切り札……鳥人『イカロシュ』よ!さぁ、力を見せつけてやりなさい!!」
「させない!カラりん!」
ガラガラがすぐに指示を受けて、骨を投げつける。
しかし、イカロシュはヒョイッと2撃を軽くかわした。
骨ブーメランのようだったが、当てることはできないようだ。
かわりに、空中から繰り出すクロスチョップをまともに受けて吹っ飛ばされてしまった。
「カラりんの攻撃が通用しない……!?」
「飛んでるポケモンに地面技は効果ないわよ~☆さぁ、くたばりなさい!」
上空からの攻撃を必死にユウナはかわし続けた。
しかし、当たるのは時間の問題であった。
爆裂パンチを転がってかわしたとき、新たなポケモンを繰り出した。
「スズりん……全力で『砂嵐』!!」
部屋全体を、サンドストームで覆う。
すると、お互い……いや、部屋全体が見えなくなってしまった。
「……少しでも、飛行能力を落とそうという考えね?でも甘いわよ!その程度でイカロシュはびくともしないわ!!」
そして、ラグラージに接近するイカロシュ。
再び爆裂パンチを放った。
「別に、これでダメージを与えようと思っていないわ!むしろ、この程度じゃ通用しないでしょうね。でも、これであなたのイカロシュの視界はどうなったかしら?」
「!!!」
イカロシュが攻撃したものはラグラージであってラグラージではなかった。
つまり、影分身だった。
「しまった!」
「あなたは、このキメラの力に任せていただけ。キメラの使い方なら、バロンの方が10倍強かったわよ!」
辺りを見回して、探すイカロシュ。でもラグラージは見つからなかった。
「けれど、これであなたも、自分のポケモンが見えないはずよ!これで条件は互角!」
「そうでもないわよ!スズりん!『のしかかり』!!」
穴から飛び出して、後ろから一気にのしかかった。そして、動きを封じ込めた。
「これで終わりよ!スズりん!」
「『竜巻』!」
抑えられた状態から、地面へ竜巻を巻き起こす。
その竜巻は砂嵐をも吹き飛ばすほどだった。
そして、スズりんにのしかかられた状態から、逆にスズりんを空中で羽交い絞めにしてしまった。
「やってくれるわね、あんたのラグラージ!でも終わりよ!『地球投げ』!!」
「まだよ!全力で『砂嵐』!!」
遠心力を加えて、地面へと叩き落そうとする。
しかし、その直前で、再びすべての視界を遮断した。
「今更無駄よ!」
「そうでもないわよ!!」
ユウナが自信に満ちた声でそういった。
その後、2つの地面に付く音が聞こえた。
一匹はラグラージ。もう一匹はイカロシュだった。
しかし、ダメージを負っているのはイカロシュだけだった。
「どうして!!??」
砂嵐が晴れていくと、ユウナの傍らにはもう一匹のポケモンがいた。人工のポケモンであるポリゴン2だ。
「こんな砂嵐の中でも、絶対に命中させる技を持つポケモンが私にはいるのよ!とどめよ!ポリりん!『サイコキネシス』!!」
「(『ロックオン』か……)しかし、その程度は効かない!」
防御を指示するマリー。だが、イカロシュは麻痺して動けないようだ。
「な!?まさかイカロシュに放った攻撃は『電磁砲』!?」
全力の力をこめて解き放つ攻撃。イカロシュを持ち上げて、一気に壁にぶつけた。
「私の勝ちよ!」
「…………そうね。あなたの勝ちね」
マリーは淡々とそういった。
「じゃ、あなたを捕縛するわ」
そうユウナが動いたとき、ラグナがいきなり前に立った。
「ちょっと!ラグナ!邪魔しないでよ!」
「こいつは……俺が消す……!」
「え?」
「こいつなんだ……俺の生きる道を踏みにじった奴は!」
「!!」
ラグナの発言に驚くユウナ。
「だから、邪魔するな!!」
ユウナを突き飛ばして、ラグナは眉間にしわを寄せて、マリーに近づく。
「駄目よ!」
でもユウナはラグナを突き飛ばし返す。ラグナは前のめりに倒れて唖然とした。
「報復はやめたほうがいいわ!」
「報復はやめたほうがいい……だと?てめぇ……前になんて言った?家族を失って、警察に仕返しするって言っていたよな!あの誓いは一体なんだって言うんだ!?
あれを報復以外に何という?一体何があったか知らないが、てめぇに俺を止める権利はねぇ!!」
「あるわよ!」
「どんな理由だ?」
「仲間……だからよ!」
「仲間だったら、その復讐を手伝ってくれるのが、仲間というものじゃねぇのか!?」
「違うわ!仲間だったら、その無意味な復讐を止めるのが仲間というものよ!」
「……ということはてめぇ……復讐をやめたのか?」
「ええ!やめたわよ!」
「そんなの嘘だ!それなら、今まで家族を手にかけられて憎しみはどこへ行ったんだ!?」
「それなら、もう……過去に流したわよ。私は教えられたの。復讐をしても何も戻ってこないということを……。だから、私は過去の柵<しがらみ>に生きるのはもうやめたの。
だから、ラグナももう、復讐とか……やめてよ!」
ユウナは必死に訴える。
ラグナはただユウナを見ていた。
その間、ラグナがどんな心境だったかはわからない。
でも、ラグナは答えを出した。
「ちっ!口ゲンカじゃお前にはかなわねぇよ!……やめだ!ロケット団も!復讐も!てめぇを見たらすべてが馬鹿らしくなってきた!」
「……それってどういう意味よ!」
ユウナは両手に腰を当てて不満そうな表情を浮かべる。
「気にするな!で、何でてめぇはここにいるんだ?」
ユウナは今の事情を簡単に話した。
自分がロケット団の本拠地を壊したこと。
現在、ダークスターのこの本拠地を侵攻中だということ。
ダークスターの計画を止めようとしていることなど。
「とりあえず、ダークスターを倒せばいいんだな!?俺は進むぞ!」
「でも、あなたケガしているんじゃないの……?その女に酷くやられて傷だらけじゃ……」
「けっ!こんなのケガのうちにはいらねぇよ!」
ユウナから見たら、所々があざだらけで今にも倒れそうに見えたようだ。
でも、彼はケロッとしていた。
「大丈夫ならいいけど……それじゃ、私も、この女を縛ったら追いかけるわ!」
ラグナは頷いて、ワープパネルを踏んでこの部屋を去っていった。
「さてと……」
ユウナはマリーを見た。
いや、見ようとしたのだがそこにはマリーはいなかった。
「え……?」
「まんまと引っかかったわね!!」
「まさか……!しまっ―――」
イカロシュの手刀がラグラージ、ポリゴン2、そして、ユウナにも入った。
ユウナは腹を抱えて倒れこんだ。
「まさか……私を……騙していたのね……!」
「私の力は信じ込ませること。つまり騙まし討ちなんて容易いことなのよ!」
「それに何この威力……!?ポリりんは相性が悪いのは仕方がないとして、スズりんまで……!?」
「イカロシュの特性は『根性』。状態異常の今なら、威力は急激に上がるわよ♪」
「(まさか……『ロックオン』から『電磁砲』を受けた際の麻痺を利用したって言うの!?くっ!油断したわ……!)」
何とか力を振り絞って、残りのポケモンを出した。
「ブラッキーにウインディ……その二匹で私に挑むのね?でも、あなたは動けるかしら?」
歯を食いしばって、ゆっくりと立ち上がる。
「ポケモンたちががんばっているのに……私だけ寝ていられないわよ!!」
「それじゃあ……これで終わりにしてあげるわよ!!イカロシュ!!『手念丸』!!」
「ブラりん!『サイコキネシス』!!」
動きを封じ込めようと、イカロシュに念じる。
だが、その攻撃はイカロシュの4つの手に打ち消されてしまった。
「!!」
「その程度の攻撃は効かないわよ!!」
「じゃあ、全力で行くわよ!これが私の最高の攻撃よ!ブラりん!『手助け』!ウイりん!『スパイラルショット』!!」
「!!」
超強力な螺旋の炎を放ち、イカロシュを包み込む。
それを受けるのは異彩なオーラを放つイカロシュの手。
そして……その戦いは、決着がついた。
敗者は、傷を負って気絶して、勝者はぼろぼろになりながらも、ガッツポーズをして言った。
「ラグナ……やっぱり行けそうにもないわ……。後は任せたわよ……」
25
「…………? ……あれ?おかしいですね?いきなり目の前の風景が変わっちゃいました?」
おっとり口調で話すのは踊り子姉妹の姉のオトハ。
エースを置いてきて、スプリントサンシャインに入り込んだのはいいものの、何故か迷ってしまったのだった。
それもそのはず。入ったらすぐにワープポイントで飛ばされてしまったからだ。
でもって、今彼女がいるのは、地面から壁にかけてすべて鋼鉄……鋼で覆われている部屋だった。
もちろん、その広さはバトルができるほど広い。
「一体ここは何なのでしょう?」
少し歩いてみる。
足元はパルシェンの殻のように硬く、鈍い光沢を放っていた。
それは壁も同じで、オトハが手で壁を軽く叩くと、コンコンと硬そうな音を立てる。
「ここは鋼の間だ」
「誰!?」
オトハは振り返った。
そこには黒いフードに黒いブーツ、黒いネクタイの全身ブラックの男の姿があった。
この男は以前フォッグス島でトキオとユウキが二人がかりでも勝てなかった男だ。
「クロノ…さん?」
「……オトハ。何でこんなところにいるんだ?」
「それはこちらが聞きたいです。私たちは、ダークスターを倒すためにこの建物に攻め込んだんです!」
「……たった4人でか?……いや、5人か?」
「そうです」
「俺たちダークスターの頭数が5人だとして、1対1の考えか……甘いな」
「俺“たち”……?まさか……クロノさん……?」
「そうだ。今の俺はダークスターに所属している」
クロノが名乗りを上げて、オトハは一歩下がった。
「まさか……あなたがこんなことをしていたなんて……。でも、何故?原因は何なの?“あの時”、影島が滅びたこと!?それとも、“あの時”、月島の人々から、追放されたこと!?それとも…………」
「そのすべてさ!すべてがこの俺の運命を変えてしまった。そして、俺は悟った。俺は闇に生きるしかない。俺は知っている。光というものの裏には必ず影がある。
だが、闇と呼ばれるものは、光がなくても存在する。だから、俺はそれに生きていく!」
「影島が滅びたのは仕方がないじゃないですか!あの時、凄まじい地殻変動で島ごと沈没してしまったのですから。それに、あなたが月島を追放された原因も自分がまいた種じゃないですか!」
「今となっては関係ない」
「あなたは、コトハの初恋の相手でした。最初は仲良く行っていると思ったのに、数週間たったある日、あなたはコトハを無理やり……。そのことであなたは追放された……」
「ああ。その後、追放された俺は、月島を滅ぼしてやったのさ」
「え!!!???」
オトハは困惑した。
俺は、島を滅ぼしてやったのさ。
つまり、クロノがオトハたちがいた月島を滅亡させた。
「いや、実際には俺たちダークスターがだけどな」
「一体何のために……?こんなことを!?」
クロノはオトハから視線を外した。
「お前が光ならば、俺は闇そのものだ。光と闇は交わることはない。そして、闇は光さえも飲み込む。そう、ブラックホールのようにすべてを滅ぼしていくのさ。そう、これは必然だったのさ」
オトハはボールを構えた。
「……?やる気か?島の敵討ちのために……」
「いいえ!私は別に敵討ちで戦おうとは思っていません。でも、島が滅ぼされたことに恨みがないわけではありません。
月島には私の生まれた村があり、慣れ親しんだポケモンたちもいて、一緒に笑ったり泣いたり踊ったり歌ったりしました。
でも、それ以上に私には許せないことがあるのです」
「ふっ。コトハのことか?」
「そうです。コトハはあなたのことが好きでした。でも、あなたはその好意を踏みにじったのです。私はそのことは許せません!」
「好きだったか。それなら俺もあえて自分の気持ちを言おう。俺はコトハよりも……オトハ、君の方が好きだった」
「…………」
「だが、闇と光は交じり合うことがない!光は闇に消えるのだ!」
スリーパーが突如出現して、攻撃を仕掛ける。
「オトハ……君じゃ俺には勝てない!昔、散々バトルして俺に負けたのを忘れたか?」
「あら?そうでしたっけ?でも、今やったらわかりませんよ?」
「わかるさ。俺の力はあのときの10倍は上がっている!!」
「!!」
ビュッと後から斬撃が飛んでくるのを察知して、しゃがんでかわすオトハ。
後ろを振り向くと、スリーパーがいた。
「『サイコチャクラム』!!」
スリーパーは自分の催眠術に使う道具を浮かして、自分のサイコパワーで刃を形作った。
それが、先ほどの攻撃だった。そして、その攻撃を再び放つ。
オトハは真剣な目になって、その攻撃をかわすように指示する。
結果、オトハとパートナーはいとも容易くも複雑に動くチャクラムをかわしたのだった。
「かわすか……。だが、本番はこれからだ」
「チャーレム!『シャドーボール』!!」
反撃の口火を切り、黒い球体を放つ。
「『サイコカッター』!!」
一方、スリーパーは手でエネルギーを振り放つと、それがカッターのような形状になって飛んでいった。
両者の技が激突して相殺した。
「さぁ、受けてみろ……」
スリーパーは両手でその技を連発する。
「でも、連続で放っても、私たちには当たりません!」
「果たしてそうかな?」
「!!」
かわすことにおいては自信のあるオトハだったが、一つのカッターがチャーレムに命中すると、連続で攻撃が決まってしまった。
チャーレムは息を切らして、膝をついた。
「(そうでした!チャーレムはクサナギさんとのバトルでダメージを受けているんでした!)」
そのことを思い出して、すぐにチャーレムを戻して、新たなポケモンを投入する。
その動作は、クロノに一瞬の隙も与えなかった。
普段はおっとりしているのに、こういうときの行動が早い。
「ペルシアン……!?しまった!」
登場した瞬間に、スリーパーに飛びつき、パンと大きな音を立てて怯ませる。
『猫騙し』だ。
そして、そのままスリーパーの頭を尻尾でたたきつけて、距離をとって、すぐにタックルを決めて吹っ飛ばした。
「連続攻撃か……だが、スリーパーの防御を甘く見るな……」
すぐに立ち上がるスリーパー。そして、巨大なカッターを放った。
「ペルシアン!」
オトハは呼びかけるが、その攻撃はペルシアンにヒットしてしまった。
そして、横向きになって倒れた。
「スリーパー!とどめの『気合パンチ』!!」
動けないのを狙って、接近攻撃を仕掛けてくる。
「引っかかりましたね」
「なっ!」
ペルシアンは即座に起き上がって、スリーパーの腹に噛み付いた。
そして、噛み付いたままバックドロップの要領で頭から叩きつけてノックアウトさせた。
「どうしてだ!?まともにあのサイコカッターを受けて……何故動ける!?」
「まともに受けて……?違いますよ。まともになんて受けては動けませんよ。ただ、攻撃の弱所を見極めて、受け流しただけです。月舞踊の一つ『受風』です」
「どうやら……俺が思っていたよりもオトハは強くなっていたようだな。それなら、本気で行かせてもらう!ブラッキー!!」
「ペルシアン!行きますよ!」
「残念だが、これで終わりだ。もうお前のペルシアンは動けない!!」
「え!?」
クロノの言うとおり、ペルシアンは必死でもがいているように見えるが、全く動けないようだった。
「まさか……『影縛り』……?」
「そうか……お前は知っていたのか……」
「知っているも何も……『影縛り』は影島の一族が作り出した技ですよ。近くの島の私たちが知らないはずがありません。でも、まさかあなたがこの技を使えたなんて……」
「自慢ではないが、俺は影島の中では、1,2を争うほどのトレーナーだった。実力で俺が使えないわけがないだろ?さぁ、お前のポケモンは動けないし、戻すこともできない。そんな状況で何をする?」
ブラッキーが自らの影を伸ばして、ペルシアンの影をつなぐことで、相手の動きを制限していたのだ。
「別に動けなくてもできることはありますよ?」
「何だと?」
するとペルシアンは鳴き声をした。
すると、ブラッキーは自分の影を戻していった。
「!?ただの鳴き声でこの技を破っただと!?」
「ただの鳴き声でないですよ?この影縛りと言う技が、相手を拘束する技で攻撃技でないというなら、それを使えないようにしただけです」
「……『挑発』か……やってくれる!ブラッキー!やれ!」
「ペルシアン!迎え撃ってください!」
そして、2匹のポケモンが衝突した。
攻撃してはよけて、攻撃してはよけての繰り返しで、なかなか勝負は決まらなかった。
それでも少したつと両者の攻撃が少しずつヒットし始めた。
2人とも隙を作ることで大きな攻撃を当てることを考えているようで、小技だけで勝負をしていた。
「温いな……!『ダークカッター』!!」
「!!」
クロノを見ると、別のポケモンがスタンバイしていた。
そのポケモンはスリーパーと同じように手にエネルギーを集中させてそれを放った。
しかし、攻撃力はスリーパーの比ではなかった。
オトハはそのポケモンの姿を見て自分も新たに繰り出そうとしたのだが、一歩遅く、手前でその技が爆発した。
「終わりだ。ゲンガー!『影縛り』!」
爆煙の中をゲンガーの影が入り、ペルシアンを捕らえた。
そして、煙が晴れたとき、影を縛られたペルシアンとオトハの姿があった。
必死でもがいてみるが、全く影は破れなかった。
「ブラッキーとスリーパーも影縛りは使えるが、このゲンガーは俺の一番のパートナーでな……こいつは複数の奴の影を縛ることができる。
だから、相手が何人いようと、どれだけ強かろうと関係ない!そして……」
クロノはブラッキーにある技を指示した。
すると、ブラッキーの影が鞭のようにしなやかに、そして、槍のように尖らせた。
そして、ペルシアンを一気に叩きのめした。
「縛られた相手は、ブラッキーが『影縫い』でしとめる。このコンボを止めることは不可能だ」
クロノが喋っている間も、何とか逃れる方法を考えてはいたようだが、全く攻略法なかったようだ。
「そして、これで終わりだ」
ブラッキーの影縫いが、首筋に突きつけられた。
「残念ですけど、まだ終わりませんよ?」
「!?」
クロノが後ろを向くのとブラッキーが吹っ飛ぶのは、同じタイミングだった。
「どういうことだ!?なぜ、2人いる!?」
目の前にいるのはオトハ。
そして、後にワタッコと一緒にいるのもオトハだった。
前と後ろに2人のオトハの姿があったことに驚くクロノ。
「さぁ、どうしてでしょう?この攻撃を耐えられたら教えてあげます!ワタッコ!『壱の舞』、『弐の舞』、『参の舞』!!」
壱の舞でワタッコは飛び上がり、雪のような綿胞子を振りかざして相手に接近する。それだけではなく回転攻撃で、ゲンガーに直接ダメージを与えた。
弐の舞でゲンガーの周りを跳びながら、種マシンガンを放ちまくる。
参の舞で接近して地面に叩きつけて両手から繰り出したソーラーパワーを一気にぶつけた。
怒涛の連続攻撃がゲンガーに決まった。
「……なんて連続攻撃だ……何より、早くて隙がない……しかし……」
ゲンガーはなんとか立ち上がった。
「多分耐えるんではないかなと思っていました。ほとんどこの技は草系が中心の技でしたし。何より、あなたのゲンガーはレベルが高そうでしたし」
オトハは真剣な顔でそういう。
「(それにしたって、今の攻撃は本当に隙がなかった。技を打つ早さも、スピードも全てワタッコという種族の力を超えている。
連続でこれほどの技を繰り出すとは……一体オトハはどれほどの実力を隠し持っているんだ!?)」
「とどめです!ワタッコ!『終の舞』!!」
ワタッコは風を纏って突撃した。
手を振って、風を起こして、連続で叩く。
最後には強烈な真空波を巻き起こし、ブラッキーとゲンガーを吹っ飛ばした。
さらに、その風は鋼の壁をも切り裂いてしまった。
「ゲンガーとブラッキーがダウン……。それにこの技の威力……ここまでやるとは……」
「さっきのはこういうことです」
オトハが指示を出すと、影につかまっていたオトハはぐにゃぐにゃと変化していった。
そして、元の姿に戻った。
「メタモンか」
「ゲンガーの『ダークカッター』の爆発の瞬間で入れ替わったんです。私自身は爆発の瞬間にワタッコに掴まってあなたの上を通ったのです。それで……まだやるのですか?」
「正直、君がここまでやるとは思わなかった。だが、ただでは終わらせない!」
すると、クロノが新しく出したのはサーナイトだ。
「これで終わりだ……」
クロノが指示を出すと、サーナイトの影が実体化をしていった。
しかもその数は、13体。しかも、その影はすべて違う形をしていた。
「やれ!『シャドーナイツ』!」
そして、13体の影が襲い掛かる。
「まずいわ……戻って!」
ふらふらのワタッコを戻すオトハ。
「(『終の舞』は強力ですけど、使った後に体力の大半を費やしてしまうのが欠点なんですよね)」
そして、別なポケモンを繰り出す。
水晶のように透き通り、きれいなポケモン。
「(伝説のポケモンのスイクン!?やはり……ここは……)」
「スイクン!『聖なる風』!!」
白い風を巻き起こす。その一陣の風はサーナイトの影たちを一掃した。
そして、シャドーナイツを倒したとき、そこには何も残っていなかった。
「……!?クロノさんは!?」
オトハは周りを見る。
「今回はお前の勝ちということにしておこう。次回に会ったときはお前を光ごとの見込んでやる……」
と言う声を残して、クロノはどこかへ消えてしまった。
「……クロノさん……」
オトハはスイクンを戻して一言つぶやくのだった。
第一幕 Wide World Storys
闇の星③ ―――クロノとオトハ――― 終わり