何もかもが順調だった。
シンオウリーグを勝ち抜き、ホクオーリーグを勝ち抜き、あと一回でポケモンマスターになれる所まで来た。
だが、それなのに……それなのにあの女は……俺から権利を奪いやがった……
奴は絶対ゆるさねぇ。
あいつをこの世から消してやるまで、俺は戦い続ける。
たとえ、それがどんなに面倒くさく、後々になって後悔するようなことでもな!!
たった一つの行路 №054
17
―――「エース……話があるの……今から会えない?」―――
ある夜のこと。
それはマサラタウンに滞在していたときのこと。
ライトはエースが自分から興味が薄れてどこか遠くに行ってしまうのではないかと恐れていた。
それが現実になるかのごとく、エースは行き先も告げず、ライトから離れていった。
―――「ああ。もうちょっと待ってくれ」―――
その一言だけを言ってポケギアを切るエース。
そのあまりにもあっさり言葉にライトは不安を感じた。
その不安は一層深くさせた。
エースは空が漆黒の闇に染めてからやがて、暁の太陽が出る30分くらい前まで、ずっと姿を現さなかったのだ。
しかも、それまでライトはずっと、窓の外を眺めていたのである。
ライトが諦めて寝ようとしたとき、エースはハクリューに乗って戻ってきた。
ハクリューを戻して、部屋へと入るエース。
―――「どうしたんだ?」―――
エースがあっさりとした口調でライトに問う。
―――「エース……私のこと好き……?」―――
ライトはその一言だけ言った。
―――「…………」―――
エースは黙り込む。
―――「(なんで……なんで何も言わないの……?私のことが好きじゃなかったの?)」―――
ライトはエースに顔を背けて唇をかみ締める。
―――「(あの時交わしたキスは……嘘だったの……?)」―――
最初のキス……それはオレンジ諸島での連絡線での上だった。
自分が告白すると、エースも好きだった返事をしてくれて、ライトはすごく喜んだ。
しかし、今、エースは答えようとはしない。
ライトは非常にショックを受ける。
―――「ライトは……俺になんて答え欲しいんだ……?」―――
ライトは涙を拭いてエースを見る。
―――「(“なんて答えて欲しいんだ……?”ですって?そんなの決まっているじゃない!)」―――
心の中ではそう思いつつも決して口に出そうとはしなかった。
―――「俺の答えはライトに伝わっているはずだ」―――
ライトは頭にクエスチョンマークを浮かべる。
―――「お互い信じあっていれば、愛に言葉なんて要らない。俺はそう思っていた。でも、それは俺たちにはまだ早かったのかな?」―――
ライトは呆然とした。
まさか、エースがそんなことを考えていたなんてと思うばかりだった。
そんな風に考えるエースをライトは大人っぽく見えてずっと付いていきたいと思った。
―――「……ごめん……私が悪かったわ……。私は心のどこかでエースを信用できてなかったんだわ。だからこんなことになっちゃたんだわ」―――
そういって、ライトはエースに抱きつき腰に手を回す。
―――「でも、一つ約束してくれない?これからずっと一緒にいてくれない?どこに行く時だって、絶対私と一緒だよ!!」―――
―――「ああ」―――
迷わずエースは頷く。
そして、ライトはつま先で伸びをしてエースの唇に自分の唇を押し付けた。
身長はエースの方が高いために、ライトは精一杯背伸びをした。
それを見たエースはライトを支えてやった。
約何秒かくらいキスをした後……エースはライトをベッドに押し倒すのだが……。
―――「おはよー!!」―――
と、ハルカのモーニングコールで中断されたのはつい数日前のことである。
「何でなの?」
ライトがボスの右腕であるマルクを倒して、奥の部屋まで入ったとき、そこにはエースがただ一人立っていた。
そして、二人は外に出て情報交換をしようとしていたのだが、エースに思ってもいなかったことを言われたのだ。
「私一人でお月見山へ……?」
「…………」
エースはためらいながらも、ライトに頷く。
傷だらけのハクリューを出して、手を当ててやった。
ゆっくりだがハクリューの傷が癒えていく。
「でも……」
「頼む……」
エースはライトがどうしてそこまで意見するのかは承知していた。
それにもかかわらず、エースはライトに一人で行くように頼んだ。
「…………。わかった。でも、エースはどこに行く気なの!?」
「俺は今回の作戦を企てた集団を叩き潰す」
「……? ……ロケット団じゃないの?」
「詳しいことは後で話す。とりあえず、お月見山へ頼む」
そういって、エースは急いで回復したハクリューに乗って東へ飛んでいった。
「(……エース……そこまで私と離れなくてはいけない理由があるの?それとも、今回の戦いに私は足手纏いなだけなの……?)」
それでも、信じてくれるエースのためにライトはチルタリスを繰り出して、一路、お月見山へ飛び立った。
「(済まないなライト。俺の問題にお前を巻き込むわけには行かない……)」
エースは心の中で謝る。
そして、目的地へと向かっていった。
18
「『シグナルレーザー』!!」
角から繰り出すビームがロケット団数人を巻き込んで爆発した。
「はぁ…はぁ…ふう。お疲れ……ジュゴン」
息を整えてジュゴンを戻した。
するとどこからか足音が聞こえた。
あわてて、そのトレーナーは振り向いた。
「お前は!!確か……リュウヤ!?」
「俺の名を覚えていたか……伝説のトレーナー、ローガンの孫のトキオ」
「何故そんなことを知っている!?」
トキオは構えた。
リュウヤという男。
彼は両腕にドラゴンの刺青をして黒いマントを羽織っていた。
そして、背は190センチ位の長身だった。
「ロケット団をここまで倒すとは……レベルを上げたか……」
「一体何の用だ?まさか!?お前もロケット団!?」
「……あんな奴らと一緒にするとはな」
リュウヤはあきれて頭をかかえた。
「とりあえずだ。お前はお月見山に行け」
「お前に命令される覚えはない!」
「別に命令しているわけじゃない。これからのお前の道を示してやっているんだ」
「俺の道は俺が決める!」
「そうか……。それよりも、お前のラティオスがそろそろ戻ってくるころだな」
「!?」
すると、カレンをヤマブキシティに送っていたラティオスが急に戻ってきた。
「なっ!?どうしてわかった!?」
リュウヤはそれには答えずに言う。
「お月見山へ行け。そして、あいつの力になってやれ」
「お月見山に何があるんだ!?それに“あいつ”って誰だ!?」
「お前にとって“あいつ”といったら一人しかいないだろ?」
そういって、リュウヤは一匹のドラゴンポケモンを繰り出した。
「ラティオス!?お前もラティオスを!?」
何も言わずに、リュウヤは飛び去ってしまった。
「リュウヤ……いったい何者なんだ?それに“あいつ”って……まさか!」
トキオは何かを思い出したようだ。
「あの時お月見山で偶然助けたハルちゃんのことか!?」
なんだか、勘違いしているトキオだった。
とりあえず、トキオはそのお月見山に向かうことにしたのだった。
19
辺りは森に囲まれた何もない平地だった。
そこに、2人の美女と元ロケット団の女と方向音痴の男がいた。
「それで?この人は誰なの!?ヒロトさんの彼女……じゃないわよね!?」
コトハがヒロトに顔を近づけて必死の形相で見る。
「いや……違うって……」
違うのは事実なのだが、とっても険しそうに答えるヒロト。
「コトハ……今はそんなことを聞いている場合じゃありませんよ。ロケット団を倒すんでしょ」
「うん……。(それはそうだけど……気になるじゃない……)」
コトハは靴のつま先をトントンと地面をつつきながらオトハの問いに答えた。
「ちょっと待って!あなたたちもロケット団と戦うというの!?」
「駄目だ!関係ない人たちを巻き込むわけには行かない!!」
当然、ユウナとヒロトは断る。
「シオンタウンで助けてもらったのでその恩返しがしたいんです」
オトハがのんびりとした口調かつ笑顔で話しかける。
「駄目よ!あなたたちみたいな弱そうなトレーナーが勝てるほど今私たちが戦っている組織は弱くないわよ!!」
ユウナはあっさりと言った。
「(……ユウナ……はっきり言いすぎだ……)」
「それに、あなたたちが戦って得することなんてあるの?」
「あるわよ!ヒロトさんの役に立てる。それだけで十分よ!!」
まじめな顔かつ大声で言うコトハ。
「(参ったな……)」
困ってしまったヒロト。
「それと、ヒロトさん!タマムシシティをロケット団から退けたのは私たちのおかげなのよ!!」
「え?嘘だろ?」
ヒロトは目を点にした。
「確か……ロケット四天王のムラサメさんとクサナギさんでしたね。2人ともいい人でしたよ!」
「オト姉ェ!あの二人のどこがいい人なのよ!」
「うそ……あのクサナギとムラサメを退けたというの?『闘志のクサナギ』と『乱忍のムラサメ』を……」
「強いのか?」
「ええ。ロケット団の中でもトップクラスに入るほどの実力者よ。特にクサナギは気まぐれだけど、本気でトップを目指そうとすればバロンやボスのサカキにも負けないわ。それほどの才能を持った人よ」
ユウナは盗んできたデーターベースを見せた。
「そういえば……そのロケット四天王って何者なんだ?幹部とどう違うんだ?」
ヒロトは疑問に思って尋ねる。
「ロケット四天王は主に特殊な能力を持った人たちなのよ。メンバーは『水陣のレグルス』、『闘志のクサナギ』、『乱忍のムラサメ』、『信女のマリー』よ!」
「そうだとして、何で2人はここに?」
「ちょっと!話の骨を折らないでよ!」
ヒロトはオトハに尋ねる。
「それは……」
「それは、ショウとヒロトさんが電話しているのを盗み聞きして、そのままここへやってきたのよ!」
オトハが言い渋っていると、コトハが代わりに答えた。
「ショウと会ったんだ……それなら本当のようだな……」
「(盗み聞きね……なんで、盗み聞き?)」
ユウナはふと疑問に思った。が、大して意味はないと持ったので聞き返さなかった。
一方でヒロトは決心した。
「じゃあ、お願いします。オトハさん。コトハちゃん」
そう言われると、コトハは笑顔で喜んだ。
オトハもにこやかな笑顔で微笑んだ。
「というわけで、三人ともヤマブキシティを頼みます!」
そうして、ヒロトはフライゴンを出す。
「ヒロト!そんな勝手なことは許さないわよ!」
「ユウナ……情報をありがとう」
ヒロトはそうつぶやいて北へと飛んでいった。
「ちょっと!ヒロトさん!私はついていくわよ!!」
コトハはフライゴンに飛びつこうとしたが、オトハがコトハのネクタイを引っ張って動きを止めた。
当然引っ張られたコトハは苦しそうだ。
「コトハ……ヒロトさんは私たちを信じてくれているのです。だから、私たちのやれることをやりましょう」
オトハはコトハに顔を見せずに言った。
その顔はとても見せられなかった。
一緒についていきたいけどついて行けない。
そして、それを我慢して唇をかみ締めているその顔を妹に見せるわけにはいかなかった。
「(……信じることか……。ヒロト……あなたなら、ヒカリを救うことが出来るかもね……)よし、私たちはヤマブキシティに行くわよ!」
「ええ!」
そうして、意気揚々とコトハは先へ走って行った。
「よろしくお願いします。ユウナさん」
オトハは握手を求めた。
「ところで、あなたもヒロトが好きなのね」
「……!!なっ……何でそれを……?」
ユウナに指摘されて、一気に顔を赤く染めるオトハ。
「あなたのしぐさとか表情を見ればすぐにわかるわよ。妹の方は見たままでわかるし」
ユウナは洞察力が優れていたのであった。
「はい。確かに好きです。でも、ヒロトさんには大切な人がいると聞きました」
「それは私も聞いている。ヒロトは今、その人を助けに行っているのよ。深い闇の底に沈められてしまった希望というものを引き上げにね」
「希望……?」
オトハは首を傾げた。
でも、納得してすぐに頷いた。
「ねー!早く!二人で何を話しているのよ!ヤマブキシティに行くわよ!」
オトハとユウナは頷いた。結構この二人はウマが合うようだった。
20
―――「親父~ポケモンくれよ!」―――
シンオウ地方で一人の少年……ラグナがポケモンをもらった。
その当時、シンオウ地方では珍しかったジョウト地方に生息するというワニノコを手に彼は旅立った。
「(そうだ……そのとき俺の旅は始まったんだ。テンガン山を登り、雪原を踏み越え、海をも越えていった)」
余談だが海を越えるときはいつも酔うのは別の話である。
「(……さまざまな試練を乗り越えて、初めての大会……シンオウ大会で優勝をした……)」
その後、ラグナはホクオー地方に渡り、優勝をして後一回の優勝でポケモンマスターになるところまで来た。
そして、迎えたホクト地方のポケモンリーグ。
ラグナの因縁の女が目の前に現れた。
―――「そこのかっこいい兄さん~♪」―――
「(……そう、そいつは巧みな言葉と仕草で俺の心を揺さぶっていった……。最初は気にしていなかったんだが、あまりにも自然体すぎて、本当に俺のことを惚れているのだと思っていた。
そして、満更でもなく、そいつと付き合う羽目になったんだ……。でもそれが不幸の始まりだったんだ……)」
額を窓にくっつけて外を見る。
外は慌しく、ジムトレーナーたちやジュンサーがロケット団を相手に東奔西走していた。
「(まず、俺はホクト地方の選考会に出た。そこでは勝たなくてもいいが、勝った方がいいと踏んで全力で挑んだ。3回戦ったうち、2人は全然本気を出さずに勝てた。
しかし、最後に戦ったセンリという奴は全く違っていた。一目見たときから、普通にやったら負ける。そう思った。
だから、最初から全力で……一撃で倒すことだけを考えていた。それは成功に終わった……)」
ころころと、手の中でモンスターボールを転がす。
その中には最近ロケット団のゼンタにもらった化石ポケモンが入っていた。
最近もらったといっても、ラグナはすでに鍛え上げて最終形態まで育て上げているが。
「(それ以降は歯ごたえのない奴ばかりだった。ほとんど全員を一撃で倒して、勝ち上がっていった。今回も俺に匹敵する強さを持つ奴はいないと、天狗になっていた。
だけど浮かれていた反面、ライバルといえる存在の奴がいなくて残念にも思っていた……)」
テクテクと、自分が指定されているフロアを歩く。
今、ラグナはスプリントサンシャインの中にいた。
ラグナのいたフロアは高さが20メートルもある建物とは思えないフロアだった。
一体何のためにあるフロアなのか、見当もつかなかった。
「(そして、準決勝であの女と戦うことになった。その夜、俺はそいつに呼ばれたんだ……)」
―――「ねぇ~ラグナぁ~私に勝ちを譲ってくれないかなぁ~☆」―――
「(……そいつは甘い声で俺の耳元にささやきかけた。一瞬気が遠くなるような気分になったが、抑えて冷静に言った)」
―――「正々堂々と戦う。バトルはそういうものだろ!?」―――
―――「負けてくれないの……?私がこんなに頼んでいるのに?」―――
彼女は目をウルウルさせてラグナを見る。でも、動じなかった。
―――「いくらお前の頼みでも、こればかりは譲れねぇな」―――
ラグナは背を向けて、その場を後にしようとした。そのときだった。
ラグナは急に目眩を起こして、片膝をついた。
―――「(なんだ……!?)」―――
―――「それなら……力づくでやるしかなさそうね!!」―――
その女は急に声のトーンを変えて、ラグナに言った。
今までの甘い声とは全く違う。凍てつく刃物を振りかざすような鋭い口調だ。
―――「て……てめぇ……」―――
それから、ラグナは後頭部を殴られて気絶させられた。
その後の記憶はラグナにもない。
ラグナは頭を抱えた。
「うぁあっーーーーー!!!!!!」
必死で記憶を押さえ込もうとするラグナ。
そして、思いっきり窓に向かってパンチする。
窓にはひびが入る。それと同時にラグナの右手からは赤い血が流れ出る。
「はぁ……はぁ……これも、これも……あいつのせいだ……」
記憶が跳び、彼が目を覚ましたのは大会が終わって3日後のことだった。
ラグナはすぐにポケモンリーグにそのことを訴えたのだが、全く相手にされなかった。
それもそのはず、その女とはポケモンリーグの関係者の子供であり、そんなことをするはずは絶対にないと信用されていたのだ。
「(その後、俺はカントー地方に行ってジムまわりをしようとしたが、あの事故以来、全くバトルに集中できなくなってしまった。
だが、俺のことを調べていた奴がロケット団にスカウトしたいといい、俺の望みをかなえてくれるといったから俺はロケット団に入った。あの女を……消すために!!)」
すると、どこからか突如、何もない場所から一人の女が現れた。
「あなたが、私のパートナーね?よろしく☆」
「……?この声……?」
聞いたことのある甘い声。ラグナはふと後ろを振り向いた。その人物を見て、顔色を変えた。
「て、てめぇは……」
「え?あ、あれ?あなたは……?何でこんなところにいるの?確かこのフロアに来るのはあなたじゃなくてもう一人の男の子だったはずよ!」
慌てて、その女は説明する。
「何でてめぇがここにいるんだ!」
右手をギュッと握り締めるラグナ。視線はずっと彼女を刺すように見ていた。
その女は、驚いた表情からニッと笑い、声のトーンを変えた。
「わからないの?」
彼女は自分の着ていたコートを脱ぎ捨てた。
すると目に付くのは豊満な胸と大きいお尻。白衣を黒く染めた服にホットパンツ、髪型はポニーテールをねじっていた。
そして、黒く染められた白衣の背中には大きな赤い文字で“R”と縫い付けてあった。
「……ロケット団……だと!?」
「ずっと同じ組織で働いていたのに気づかないなんて鈍いわね☆」
「てめぇ……騙しやがったな!?」
「騙される方が悪いのよ!」
ぐぐぐ……と拳をさらに握り締める。
「ばれてしまってはもう駄目だけどね。それにしても、あなたの場合簡単に術中にはまってくれたわ。本当に面白いくらいにね。普通バカでも引っかからないわよ!」
「ゆ、ゆるさねえ!!」
カチンときて殴りかかるラグナ。
「そうね、正体がばれた今、あなたを消す必要がありそうね」
ラグナの拳が空を切り、代わりにカポエラーの蹴りがラグナの頬に命中し、そのまま飛ばされた。
「これで終わりね。このロケット四天王『信女のマリー』に歯向かうなんて、あんたいい度胸してたわよ」
そして、トーンを再び戻すマリー。
「でも、そんなの無駄に終わったみたいだけどね☆」
「だ、誰が終わりって言った!?」
「何!?」
壁にぶつかって煙を起こしたあたりから、突如、斬撃が飛んできた。
地面を切り裂きながらマリーに向かっていく。
だが、カポエラーがその攻撃を蹴り飛ばして軌道を逸らした。
「なっ!?(ダーテングの『裂水』が効かない!?)」
頭から血を流しつつも反撃してきたラグナだった。
しかし、くらくらして距離感がつかめないらしい。
「どうやら、徹底的にやるしかなさそうね……」
マリーはさらにボールをもう一つ手にした。
21
「ここね……あのレイラが言っていた、スプリントサンシャインは……」
トキオのラティオスと別れて、ついに大きなビルの前に立ったポケモンスナッチャーのカレン。
「ここに、ハルキがいるのね!?よし!」
意を決して、中に入ろうとするカレン。
「おい……待て」
「誰!?」
カレンは突然の空からの声にボールを構えた。
でも、その姿を認識したとき、ボールを引っ込めた。
「エースさん!!」
ゆっくりとハクリューを着地させて、ボールに戻す。
「どうしたんですか!?このケガは!?」
「ああ……大丈夫だ……それより、あんた、何でこの場所がわかったんだ?」
「え?わかったって?」
「ここはロケット団に指示を出していた裏組織、ダークスターの本拠地だ」
「ダークスター……?」
「何もわからずここに着たのか?」
「いいえ……私はここに私の探している人がいると聞いてここに来たのよ!」
「そうか……」
「それより、ライトさんは??」
カレンは空を見上げた。
カレンは想像した。
ここでライトがいたら、一緒にチルタリスで降りてきて、ポケモンを戻して、べったりとエースにくっついていると。
「ライトは別な場所に行ってもらった。そいつらの作戦を止めるために」
「その作戦って?」
「それはわからない。だが、ろくな計画には間違いないだろう」
「それもそうね!他の人は?」
「ああ。さっきポケギアで連絡を取ったが……ニビのマサトたちは、退けたが3人とももう戦える状態ではないらしい。ハナダのカスミはサトシが重症だからついてあげるとか」
「セキクチシティはお兄ちゃんが何とかしてくれているから……残りは……あれ?ヒロトさんは?」
「あの“雑草”か?知らない。そういえば、最初からいなかったぞ?」
「じゃあ、ヒロトさんに連絡しないと!」
「カレン、頼む」
「え!?私、ヒロトさんの番号知らないわよ!」
「俺も知らない」
ヒロトの状態を知ることは出来ないようだった。
「結局、2人で乗り込むしかないようね」
「そのようだな」
エースとカレンは改めて、入り口を見た。
そして、一歩足を踏み入れようとした。
「『爆裂パンチ』!!」
「ん?」 「!!」
エースとカレンは即座に反応してかわした。
「く!避けられたわ!次は当ててよ!ニョロボン!」
一人のネクタイをつけた少女が突如攻撃を仕掛けてきた。
「誰?!」
「どうせ、ロケット団かダーススターのどちらかだろ。迎え撃つぞ」
エースの答えにカレンはボールを取った。
そして、ニョロボンの拳を受け止めるのは、ブーバーだ。
「決めろ。ハクリュー」
神速から繰り出す攻撃。
だが、その攻撃は受け止められた。
青いベトベトンによって。
「!?」
「ニョロボン!間合いを取って!」
「ベトベトン、戻って!」
青いベトベトンはボールに戻っていった。
そのボールを持っていたのは、白いロングスカートを穿いたスリムでスタイルのいい人だ。
「強いわね……あの二人」
「ああ。特にあの白いロングスカートの女は強いかもな」
エースもハクリューを戻した。
するとそのとき、2人の女の後ろから、ワンピースとズボンを一緒に来たような少女が走って来た。
「待って!コトハ!オトハ!その人たちはロケット団じゃないわ!」
「え!?ユウナさん!それ先に言ってくださいよ!」
「コトハの早とちりです……」
「オト姉ェの言えたことじゃないでしょ!」
どうやら、この3人は先ほどのオトハ、コトハ、ユウナだったようだ。
「なんだ?あんたたち?」
エースが当然のように聞く。
「私たちは、ダークスターを倒すために来たのよ♪」
コトハが張り切って言う。
「何でダークスターのことを知ってるの!?」
「それは、ユウナさんが教えてくれたからです」
オトハはしみじみと答える。
「それ以前に、何であんたたちが奴らと戦おうとする?」
「えーと、それは……」
「私はただ彼に協力するだけ」
オトハが言い渋っていたので、代わりにユウナが答える。
「彼?」
カレンが首を傾げる。
「そう。ヒロトさん♪ヒロトさんが戦うって言ったら私も戦うのよ♪」
「ヒロトさん……って、ヒロトさんは無事なの!?」
「ええ、さっきも霧の中で会いましたが……ヒロトさんとお知り合いなんですか……?」
オトハがマイペースな口調で尋ねる。
表情は少し曇っていたが。
「別に俺はあいつと…… 「うん。一緒に戦う仲間だよ!」
エースは否定するのだが、カレンは素直に話した。
「じゃあ、私も仲間に入れて!」
コトハが無邪気に言う。
「入るも何も……戦う時点で仲間も何もないじゃないか……」
こうして、ダークスターの本拠地に入る5人が決まった。
「でも、そういえば私……ブラりんとポリりんの体力尽きているんだった……どうしよう……」
ユウナはバロン戦から全く回復をしていなかった。
「そういえば私も、ブースターを回復させていなかった……」
「私なんか……メタグロスとブーバーしか戦えないよ……」
コトハとカレンがそう言う。
実際、ここに来るまでに4人とも急いでいたために、全く回復せずにここまで来たのだ。
「しかたがない……俺に傷ついたポケモンを貸してみろ」
「何を?」
エースはユウナのブラッキーとポリゴン2のボールを持って、精神を集中させた。
淡い光が出てきてボールを包み込んだ。
そして、エースは2つをユウナに返した。
「……ふう。これで回復しているはずだ」
「そんなことなんてあるわけないでしょ!」
コトハが冗談だと思って言う。
でも、ユウナがブラッキーとポリゴン2を出したとき4人は驚いた。
2匹とも、完全とはいえないが、バトルできる具合にまで回復をしていたのだ。
「エースさん!?この力は一体!?」
カレンが尋ねる。
「わからない……この力の正体については俺も知らない……(だから、俺は知るためにここに来たんだ……)」
「じゃあ、私のポケモンたちも回復させて!」
「エースさん、私もお願いします!」
「ああ」
「…………」
コトハとカレンのボールを受け取るエース。
しかし、オトハはエースをじっと見ていた。
数分後、ほぼすべてのポケモンが回復して、準備が整った。
「よし!どんな相手が来ても私が倒してやるわよ!」
コトハはすごく張り切って入っていった。
「じゃあ、行くわよ!」
「(ハルキ…………今行くわよ!)」
ユウナとカレンもコトハに続いて入っていった。
しかし、オトハとエースはまだ入っていなかった。
「さて……俺も行くか……」
エースが立ち上がる。
でも、フラッとして倒れた。いや、倒れるはずだった。
オトハがエースを受け止めた。
「やっぱり、その力には副作用があるみたいですね……」
「気づいてたのか……?」
「便利な力にはそれなりの副作用があると思っていました」
「ああ、あんたの思ったとおり、この力は多用しすぎると、眩暈が起こるらしい……いや、眩暈というか、眠気というか……。だから、俺は少し休んでから行く……」
「一人でいるのは危ないですよ?」
「大丈夫だ……俺には頼もしいポケモンたちがいる」
エースは大丈夫だといって、オトハを先に行かそうとする。
でも、オトハは心配のようだ。
「それでは、なにかあったら、私に連絡ください。すぐに戻ってきますから……」
オトハは自分ポケナビの番号をエースに渡して、建物の中に入っていった。
「……俺は……少し休むと……するか……」
そして、エースはその場に倒れこんで、しばしばの眠りにつくことになったのだった。
気づけば、太陽は西へと沈み、あたりを漆黒の闇に支配する時間となっていた。
第一幕 Wide World Storys
闇の星① ―――スプリントサンシャイン――― 終わり