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たった一つの行路 №053

/たった一つの行路 №053

 15

 ―――カントー地方セキクチシティのサファリゾーン
 そこにひとつの影があった。
 サファリの敷地内に入って、竜の湖と呼ばれる場所をずっと見ていた。
 すると、そこからひょこっと顔を出したポケモンが一匹。
 蛇のようだが、ドラゴンと分類されるそのポケモンの名はミニリュウ。れっきとしたドラゴンタイプのポケモンである。
 青年が餌を軽くミニリュウに投げる。けれどもミニリュウは警戒をしてそれに手を―――いや、手がないから口を?―――出そうとしない。
 そして、ミニリュウは驚いて逃げてしまった。
 青年は振り返りもせず、言った。

「アマ婆ぁ……逃げちゃったじゃないか。せっかく餌をあげていたのに」
「相変わらず、お前さんは優しいね」
「それよりも何の用だ?もうこの世界を出発するのか?それなら早いほうがいい。早くあいつらを倒して『“俺”は“僕”に戻りたい』。俺は早く彼女たちを助けたいんだ。こんないい加減、この旅を終わらせたい……」
「お前さんはそう思っているだろうけど、これは運命。変えることは難しいのじゃ」

 青年の言葉をばっさり切るように老婆は言う。

「それよりも、気づいているかい?」
「何を?」
「やっぱりまだ気づいていなかったんだね」
「…………!?」

 青年は目を閉じて神経を集中させた。
 そしてはっと、何かを感じて空を仰ぐ。

「この力は……!!」
「世界を変える力が働こうとする前触れだね。このような兆候が起きるのは世界が破滅するか―――」
「時空転換が起きるとき……つまり……あいつらの尻尾が掴めるかもしれない!!」
「そういうことじゃな。でも、その前にお主にはやらなければならないことがある」
「何を?」

 老婆は水晶玉を青年に見せる。
 すると、ジュゴンを繰り出すサングラスの少年の姿が映っていた。

「この少年にある場所に行くように指示を出すのじゃ」
「何で?確かこの男はトキオとかいうヤツ、ジョウト地方の大会で当たった“並”の実力者だぞ。そんな奴に何を……?」
「これも宿命(さだめ)じゃ」
「……それなら仕方がないか」

 そうして、青年は重い腰を上げる。

「さあ、行くのじゃ!リュウヤ!」
「言われなくても行く」

 こうして、リュウヤはサファリの出口を抜けていった。



 たった一つの行路 №053



 16

「だから言っただろ?お前は私には勝てんと」
「…………」

 何も言わずにエースは力尽きたメタグロスをボールに戻した。
 その戻す隙を狙ってサイドンが殴り、たたきつけてくる。
 でも、エースはサイドンの拳をしゃがんでかわし、たたきつける攻撃を間合いを取ってかわす。
 サイドンはその連続攻撃でエースに付け入る隙を与えない。
 それでもエースは真剣な顔で攻撃を見ていた。
 まるで弱点を探すかのように。
 実際にエースは逆転に機会をうかがっていた。
 左手に掴んでいるボールがその証拠だ。

「いい加減にあきらめたらどうだ?貴様に勝ち目などありえない」
「それは……どうかな……?」
「お前の持ちポケモンはシャワーズ、バンギラス、ハクリュー、メタグロス……それに手負いのクロバットに残りの一匹。驚くことではない。すべてお前の戦いは見させてもらった。その戦い方もな!サイドン!やれ!」
「(大きな一撃が来る!!)」

 サイドンが両腕を振りかざしたのを見てエースはさらにサイドンから離れる。
 サイドンはしっかりとエースを狙ったのだが、
 攻撃をはずした。衝撃が巻き起こり、地面がくぼんだ。

「無駄にかわすか……」
「無駄ではない。俺はずっと攻撃をみていたんだ。……そして、一撃で勝負を決めるためにな」

 すると、エースは地面を蹴ってサイドンに接近した。
 エースは右手にモンスターボールを掴んでそれを投げた。
 左手は依然、持ったままである。
 そして、右手から出したクロバットが飛び出して、サイドンを切りつけた。
 サイドンはよろめいて膝をついた。

「なんだと!?」
「油断したな。俺は言ったはずだぜ。お前のサイドンを見ていたってな。決めろ。『グランドクロス』!!」

 サイドンはかわそうとした。だが、クロバットは持ち前のスピードを生かして、エースが見切った弱点、角の少し上に命中させた。
 サイドンは目を白くさせて倒れた。

「だから言っただろ?俺はロケット団を潰すってな」
「どうやら、全力でお前を潰さないといけないらしいな」

 すると、サカキは3つのモンスターボールを投げつける。
 中から出てきたのは、シャムネコポケモンのペルシアン、沼魚ポケモンのラグラージ、精霊ポケモンのフライゴンだ。
 ペルシアン以外は地面タイプのポケモンだ。

「二匹だけでは貴様に勝ち目はない!」

 そして、3匹のポケモンが同時に襲い掛かった。

「ああ、確かに二匹だけじゃきついな。だけどこれならどうだ?」

 エースは左手に握っていたボールを放り投げる。
 そして、腰につけているボールを両手で覆った。
 目をつぶって念じる。
 すると、手のひらから光が溢れて、ボールを包み込む。
 3秒で目をかっと開いてボールを投げた。
 その中から出てきたのは元気いっぱいのハクリューだ。
 その前に放り投げたボールから出てきたのはシャワーズだ。
 ペルシアンの攻撃をクロバットが翼で受け止める。
 フライゴンはハクリューがスピードで翻弄する。
 ラグラージのマッドショットをシャワーズの水攻撃で受け止めた。

「何だと!?どういうことだ?そいつらに戦う体力は残っているはずはないのに!!一体何をした!?」
「っ……回復させたに決まっているだろ……」

 エースは額に手を当てて言った。

「まさか……特殊能力か?自分の体力を使ってポケモンを回復させる……“あいつ”に聞いたのと似た能力を持っているな」
「…………?“あいつ”?あいつって誰のことだ?」
「貴様に教えることなんてないな!ペルシアン!やれ!」
「くっ!ハクリュー!」

 ペルシアンがクロバットを捕らえて噛み付いて叩きつけて倒す。
 その一方でハクリューがフライゴンに冷凍ビームを命中させて一撃で倒した。

「ラグラージ!貴様の本気を見せてやれ!」

 ラグラージが全力で泥を放つ。

「(間に合わない……)」

 エースはハクリューとシャワーズに目配りをした。
 それでわかったように、二匹とも攻撃を繰り出す。
 シャワーズが『とける』を使ってラグラージの攻撃をかわして、ハクリューは『破壊光線』でラグラージを一撃でノックアウトさせた。
 そして、ハクリューにペルシアンが爪を突き立てるのを狙って、シャワーズが強烈なハイドロポンプを繰り出し、ペルシアンを壁に押し付けた。

「(指示も出さずにだと……!?)」
「どうだ……?これでも……『お前は勝てん』と……言うか?」

 息を乱しながらも倒れたクロバットを戻す。
 サカキは呆然と膝に手をつけて息を切らすエースを見る。

「仕方がない……貴様の力を認めてやろう」

 そういいながらもサカキは不気味に笑った。

「貴様にはこいつの実験台になってもらう!!」
「実験台だと?」

 サカキはマスターボールを投げつけた。中から出てきたのは、体の色は桃色のポケモン。
 それでもって、プロテクターのようなものを身に着けていた。

「ミュウか?いや……ミュウにしては背が高い……」
「ほう、ミュウのことを知っているのか?それならいいことを教えてやろう。こいつはミュウの細胞から新しく作られたポケモン、ミュウツーだ」
「新しく作ったか。ダークポケモンとか合成ポケモン<キメラ>とかそういうのを聞いているからいまさら驚かないがな」
「そういえば、お前はアンナのキメラと戦ったのだったな。しかし、そんなものとは比べ物にはならない!こいつはゼンタの遺伝子操作とボルグのポケモンの心を閉ざすのを同時に使って開発したポケモンだ。
 以前にもミュウツーを作ったことはあったが、こいつはしっかりと私の言うことを聞く。まさに私の最強の右腕だ!」
「以前にも……?」
「そう昔も作ったことはあった。だが、そんな昔のことはどうでもよい!まだ実践では試したことはないがちょうどいい!やれ!」
「させない。ハクリュー、『竜の怒り』。シャワーズ、『吹雪』」

 ハクリュー、シャワーズがそろって攻撃を放つ。二つの攻撃はミュウツーに直撃した。

「ふっ」
「(効いていない?)」

 サカキが嘲るのももっともだ。二匹の強力な攻撃を両手で止めてしまったのだ。

「ミュウツー、本物の攻撃というものを見せてやれ!」
「……させない。ハクリュー、『神速』」

 ミュウツーが動き始める前に、攻撃が届いた。
 届いたのだが、両手で攻撃が止められてしまった。
 そして、サイコキネシスで打っ飛ばしてしまった。
 次に、宙に浮いてシャワーズに近づいた。

「(指示は間に合わない……)」

 エースは目でシャワーズに指示を伝える。
 放った攻撃はハイドロポンプだ。
 それに対して、ミュウツーは壁を張って防御する。
 水は壁に当たって弾け飛び、攻撃が届くことはなかった。
 防いだ後にシャドーボールを繰り出した。けれど、シャワーズはとけてかわす。
 そのときにシャワーズはある技を発動させていた。その技で辺りは黒い霧に包まれた。

「無駄だ!周辺を破壊しろ!」

 ミュウツーは自分に力をためて、それを解き放った。
 ものすごい衝撃が発して、周りが吹き飛んだ。
 サカキやエースも例外ではなかった。

「……なんてポケモンだ……自分の主人まで攻撃するとは……」

 エースの右手には攻撃を受ける前に戻したシャワーズのモンスターボールがあった。
 一方の攻撃を受けたサカキは平気な素振りを見せていた。

「終わりだ!」

 指示を受けて、エースに近づくミュウツー。

「まだ終わらない……バクフーン……」

 それに対抗してエースは最後のポケモンを繰り出す。
 ミュウツーの接近をバクフーンは組み合って阻止した。

「そのポケモンでこいつに勝てるとでも思っているのか?やれ!」

 ミュウツーは力をこめてバクフーンを押していく。

「ああ……勝つ気だ。見せてやる。こいつの本当の力を……」

 エースはアイコンタクトでバクフーンに指示をする。
 ミュウツーが力押してくるのに対して、バクフーンは引いてそのまま転がっていった。
 そして、そのままミュウツーは為すすべなく壁に打ちつけられた。

「『地獄車』だと!?」

 そして、追撃で火炎放射を放ち、そのまま火炎車でミュウツーに突撃していった。

「何をやっている!奴を倒せ!!」

 サカキは怒ってミュウツーに叱咤した。
 ミュウツーは再び壁を張って火炎放射を途中から遮断した。
 しかし、火炎車を同時に防ぐことはできずにもろに直撃した。
 ミュウツーは壁に再び打ち付けられた。その攻撃のショックでプロテクターが割れた。
 プロテクターの下にあった顔はミュウよりも目つきの鋭く、ミュウの面影などどこにも見当たらなかった。
 ただ、体の特徴はミュウと似ているところがあった。

「ミュウツー!『シャドーボール』!」

 エースは先ほどから、声に出して指示を出さない。
 それにもかかわらず、バクフーンに確実に指示を伝えていた。
 シャドーボールを火炎放射で相殺した。

「バカな!?攻撃を相殺しただと!?」

 サカキが驚いている間に、ミュウツーに隙が出た。
 その隙をエースは逃さなかった。

「そこだ。『オーバーヒート』!!!!」

 火炎放射とは比べ物にはならない威力の炎がミュウツーを包み込んだ。

「ぐっ!すさまじい威力だな。だが……」

 炎に包まれながらもサカキは冷静を取り戻していた。
 それもそのはず、ミュウツーは炎から逃れてバクフーンの後ろを取ったのだった。

「(いつの間に!まずい……後ろだ!……強力な攻撃が来る……)『オーバーヒート』!!!!」
「やれ!『サイコキネシス』!!!!」

 同時に攻撃を放ったように見えたが実際にはミュウツーのほうが早かった。
 それにもかかわらず、バクフーンの炎はミュウツーの念動攻撃を防いだ。

「はぁ、はぁ……」
「……相殺するとは……やるようだ。だが、何度も防げるかな?」

 サカキはにやりと笑った。

「(何度も……防げるはずがない……。バクフーンが全力で『オーバーヒート』を撃てる回数は3回だ。それ以上は確実に威力が落ちる……。
 もうすでに2回は撃った。こうなったら伸るか反るか……バクフーンの体力とあの技に賭ける……)」
「やれ!!」

 ミュウツーは最大限にまで力を溜めたサイコキネシスを解き放った。

「この攻撃は防げまい!!」
「防ぐ?防ぐ気なんてない!!」
「何だと?」

 バクフーンとエースはミュウツーの攻撃に突っ込んでいった。
 そして、サイコキネシスがバクフーンまで及んだとき、体を丸めた。
 それゆえダメージを最小限に抑えることができた。

「終わりだ。バクフーン!」

 背中の炎を最大まで燃やす。その背中の炎はバクフーンの背中に形付けられていった。その姿はまるで炎でできた翼だった。
 しかも、その翼は自在にコントロールすることが出来るようだ。
 そして、バクフーンは翼をミュウツーに狙いを定めて、突っ込んだ。
 ミュウツーは反撃に出ようとサイコキネシスを放つ。
 しかし、先ほどの全力のサイコキネシスを放った後では思うような威力は出なかった。
 バクフーンのその炎の翼がサイコキネシスを防ぐクッションの役割をして、攻撃を防いでしまった。
 そのまま攻撃はミュウツーを捕らえた。
 攻撃がヒットしたとき、翼の炎がミュウツーに流れて行き、爆発して壁へと押しやった。

「…………な!」

 サカキは言葉も出ずに呆然としていた。

「『バーストフレイム』。俺のバクフーンの最強の技だ。これで勝負は……」

 「ついた」とそう言おうとしたが、エースは異様な気配に後ろを振り返る。
 エースは驚いて目を見開く。

「……ま、まだ倒れないのか?」

 あれだけの強力な攻撃を与えて、立っていられるはずがない。
 そう、エースは思っていた。

「……はは…………ハハハ!素晴らしいぞ!ミュウツー!!さすがロケット団の最強傑作!やれ!おっとその前に……『自己再生』だ!!」
「ちっ。させない」

 すぐにバクフーンは火炎放射を放つ。
 だが、ミュウツーの回復速度のほうが速く、そこそこ回復してから攻撃を受けることになった。

「(こうなったら……地道に削っていくしかない……)バクフーン」

 高速で接近して、火炎放射を放つ。
 しかし、回復したミュウツーにとって、その攻撃を受け止めるのは容易なことだった。
 右手だけで壁を張り、左手で黒い球体を作り出して反撃をしてきたのだ。
 虚をつかれたバクフーンはよけられず、直撃した。
 そのまま壁に打ち付けられて、黒い球体は爆発した。
 壁が崩れて、バクフーンは瓦礫に下敷きになる。

「決まりだ!」
「やられてはいない……」

 バクフーンは背中の炎を燃やして、瓦礫をなぎ払った。

「『噴火』か……まだそんな力が残っていたか……」
「…………」

 やはり指示を出さずに目で攻撃を指示するエース。
 またバクフーンは電光石火から攻撃を仕掛けようとした。

「同じことだ!!」

 ミュウツーはバクフーンのいる方向に黒い球体を放った。
 しかし、攻撃はバクフーンをすり抜けていった。

「何!?」
「まさか、こんな古典的な攻撃に引っかかるとはな」

 ミュウツーが即座に後ろを反応して、右手で壁を張る。
 その判断は正しかった。
 だが、バクフーンの青白い炎は壁をすり抜けてミュウツーの右手に攻撃を当てた。
 その右手は炎に包まれた。

「何を……?ミュウツー!『気合パンチ』!!」
「『炎のパンチ』」

 両者の右手の攻撃が激突した。パワーはミュウツーのほうが高い。
 だが、ミュウツーのパンチは押し切られた。
 そのまま、余っていた左手でミュウツーの顔に攻撃を命中させた。
 その攻撃でミュウツーが吹っ飛んだ。追い討ちをかけるようにバクフーンは突っ込む。

「決めろ!『バーストフレイム』!!!!」

 もう一度、炎の翼を身にまとってアタックした。
 だが、今度は左手で防がれた。いや、正確には左手で瞬時に作られたスプーンにだ。
 そして、そのままバクフーンをエースの方向に撃ち飛ばした。
 エースはバクフーンごと壁に打ち付けられてしまった。

「素晴らしい……。まさか、このような切り札もあったとは……実に素晴らしい……。こいつさえいれば、世界征服をすることだって夢ではない……」
「ぐはっ……ぐっ……はぁ……げほっ……世界征服だと…………?」

 口から血をにじませてエースは立ち上がる。
 パートナーのバクフーンはそれほどダメージはないらしい。
 ただ、ミュウツーの攻撃の影響でバーストフレイムは不発に終わってしまった。

「そうだ。世界征服だ。世界を我々ロケット団のものにしてすべてを支配下に置くのだ。お前は王の話を知っているか?」
「王?」
「昔は王が存在してすべての人々を支配していた。しかし、今の世の中は上に立つものがいない、すべて平等な世界。そして、争いごとが耐えない世界になっている。
 だから、我々ロケット団が世界を征服して、争いのない世界を作り出そうというのだよ。恐怖政治の名の下に」
「そんなもの……すぐに崩壊するに決まっている……」
「そんなのやってみなければわからない」
「独裁政権が永遠に続いた例なんて一度もないんだからな」
「一理ある。だが、この世界の平和がいつまで続くとも限らない。そうさ。歴史は繰り返されるのだ。そして、私がその歴史の一ページをめくるのだ」
「だから……そんなことはさせないといっているだろ……」

 エースはバクフーンの背中に掴まって立った。

「実に残念だよ。君が仲間になってくれないのは……」

 エースは後ろ見た。そこにはミュウツーの姿が。そしてエースたちを捕捉していた。

「(……そうか……『テレポート』か……)」

 至近距離からのサイコキネシス。
 バクフーンはエースの盾になろうと前に出たが、結果的にどっちも吹っ飛んだ。

「…………。さっきからミュウツーの攻撃の威力が落ちたと思ったら……その右手……『火傷状態』になっていたのか……すなわちさっきの青白い炎は『鬼火』か」
「はぁ……はぁ……今頃気づいたか?」
「小賢しい真似を。ミュウツー、なぎ払え!」

 再びスプーンを出して、左手だけで回転させてジャイロ回転の竜巻を繰り出した。

「っ。バクフーン」

 竜巻の中心に火炎放射を打ち込む。
 だが、ミュウツーに届くことはない。
 スプーンを回転させて、炎を遮断している限り、攻撃が当たることはなかった。
 そして、竜巻の軌道はバクフーンとエースを巻き込んで天井の方へと向かって行き、天井をぶち抜いた。
 エースはひるまず、バクフーンに連続で火炎放射を指示させる。
 だが、やはりスプーンによって防がれる。
 こちらから攻撃することによって追撃の心配はなかったが、まったくダメージを与えられないのは痛かった。
 やがて、竜巻によって打ち上げられたエースとバクフーンは不時着しながらも、次の相手の攻撃の前に体勢を整えて動く。
 ミュウツーは黒い球体を放つものの、エースたちのほうが一歩速くかわす。

「(スプーンを何とかしなければな……)」

 接近を試みる。

「そう簡単に近づかせると思うか?」

 すると、左手のスプーンが伸びて、バクフーンを攻撃する。
 でも、攻撃はすり抜ける。

「!!また影分身か!?」

 サカキはやや斜め上を見る。バクフーンが飛び掛ってくるのがわかる。
 ミュウツーは伸ばしたスプーンの端で殴りかかるが、炎を纏ったバクフーンには通用しなかった。
 そして、そのままタックルを食らわした。

「はぁ、はぁ……(……どうやら、スプーンでも『掬う』部分に当たらなければいいようだな……)」

 息を切らしても、冷静さを失わないエース。
 冷静さをなくしてはどんな展開も勝てない。彼はそう信じている。

「ミュウツー!『サイコキネシス』!!」

 テレポートでバクフーンから距離をとって、左手で攻撃を仕掛ける。
 しかし、その攻撃はタイミングが非常に遅くて、エースは楽にかわすことができた。

「(……左手で攻撃を仕掛けたか。……ということは、右手は使えないということか……)」

 ミュウツーの右手は火傷を追っている。
 今はその症状がひどくて右手で攻撃できないようだった。
 それを見抜いていた。

「(……これなら……スプーンによる打撃攻撃と念力攻撃を見分けてから、攻撃すればいい。威力はどちらも凄まじいが、チャンスはある。この攻撃を切り替える瞬間を狙えばいい)」

 エースは目を凝らした。覚悟を決めた顔だ。

「どうやら、何かを決めたようだな」
「…………」
「だが、これで終わりだ!!最大パワーで『サイコキネシス』!!」

 ミュウツーは左手にすべての力を集中させる。そして、全体に超強力な念道波を放った。

「バクフーン!決めろ!『バーストフレイム』!!」

 そして、エースが選んだ技は炎の翼を出すエースのバクフーンの最大の技だった。

「つっこめ」

 最初にサイコキネシスを防いだように、炎の翼を盾のようにして、接近していった。
 しかし、最初に受けたサイコキネシスとは全く威力が違ったために、炎の翼はどんどん弱まっていった。
 それにもかかわらず、バクフーンはサイコキネシスを耐え切った。

「繰り返す気か?」

 そう、そして、ミュウツーはスプーンを出して、またなぎ払おうとする。

「残念だが、それは俺のセリフだな」

 スプーンが空を切った。しかし、次の瞬間、ミュウツーはスプーンを投げ捨てた。

「(あの最大パワーの『サイコキネシス』を跳ね除けたのが分身だと?だが……)『スピードスター』!!」

 必中技の攻撃を放つ。
 しかし、技の威力は並みの威力ではない。
 まるで流星群のようだった。
 どうやら、サカキは影分身で来るのをよんでいたようだ。
 そして、本体はまだ、エースのそばにいた。

「炎全開!」

 バクフーンの目が青く光った。
 すると、背中の炎がさらに燃えた。
 その炎でスピードスターに耐えるバクフーン。
 そして、見事に耐え抜いた。

「行け」

 そして、今度こそ、接近を仕掛けるバクフーン。

「甘い!シャドーボール!」

 真正面に攻撃を打ってきたそして、黒い球体は爆発した。だが、サカキとミュウツーは確認もせず上を見た。

「本体は上だ!『サイコキネシス』!何度も引っかからない!!」

 と、指示をする。でも、上にはバクフーンの姿がなかった。

「何!?ということは!?」

 バクフーンはシャドーボールを受けながらも、接近をしてきた。
 そして、ミュウツーに組み付いた。

「今までの影分身はこのチャンスを作るための陽動だ。行け!最大輪『オーバーヒート』!!」

 両腕を防がれたミュウツーに防ぐ術はなかった。
 そして、今までで最大の炎がミュウツーを包み込んだ。
 炎の威力でミュウツーは壁へと押しやられ、さらに壁を貫通していった。
 そして、バクフーンが炎を止めたとき、そこに残っていたのは焼け焦げたミュウツーの姿だった。

「はぁ……はぁ……ミュウツーは全身火傷……これで勝負あったな」

 エースは完全にノックアウトしたミュウツーの姿を確認する。
 バクフーンを戻してエースは言う。

「さぁ、作戦をやめさせて、ロケット団を解散させろ」

 エースは毅然とした態度で言う。サカキは呆然としていた。

「ふふふ…………ハハハ!!」

 だが、サカキは笑い始めた。

「何がおかしい?お前の負けだ、潔く―――」
「確かに私は貴様に負けた。だから、ロケット団を解散してもいいだろう。お前に勝てないようじゃロケット団を存続させてもいつかは潰されるだけだ。
 だが、私を倒し、ロケット団を解散させても、この作戦は終わらない!!」
「……な、何だと?どういうことだ?」

 サカキの意外なセリフに戸惑うエース。

「どういうことも何も、そのままの意味だ。いいさ、教えてやろう……」



「“ダーススター”?何だそれ?」

 ヒロトはユウナのⅠ☆NAに顔を寄せてその単語の意味を問う。

「“ダークスター”。ロケット団のデーターベースによると、秘密裏にロケット団と協定契約を結んでいた組織みたい。組織の人数はたったの5人。でも、その戦闘力はロケット団の戦闘力を上回るらしい……」
「エドやシード……それにバロンよりも強い奴がいるということか!?」
「詳しい事はわからないわ。でも、強敵だということは間違いない……」

 ヒロトは息を呑んだ。

「ということは、そいつらを倒せば、その作戦は終わるんだな?」
「ええ。そして、その位置は……」



「ヤマブキシティのスプリントサンシャイン?そこが、基地の場所か?」
「信じるか信じないかは貴様しだいだ」
「そうか……そいつらを全員倒せば、この作戦は終わるんだな……。よし」

 エースはサカキに背を向けて部屋を去ろうとした。

「本当の目的がどこで行われるのか知っているのか?」
「……?ダークスターの基地じゃないないのか?教えろ」
「教えてやる。それはカントーでよく月が見える山だ」
「山……?月……?……お月見山か?」

 エースはサカキに聞くが、返事は何もしなかった。ただ、エースを見ているだけだった。

「(いいさ……行ってみればいいことだ)」
「貴様一人でそいつら全員に勝てると思っているのか?」
「さぁな。知らないな」

 エースは振り返りもせず、テクテクと部屋を離れていく。

「まぁいい。ところで私に勝ったところで一ついいことを教えてやろう」
「……?」
「――――――」
「……!?」

 エースはサカキのその言葉を聞いて、驚愕の表情を浮かべたのだった。



「……な!?そこにヒカリが!?」

 ユウナの肩を掴んでグラングランと揺さぶるヒロト。
 ユウナは目を回してたが、すぐにヒロトを張り飛ばした。
 ヒロトはゴロンゴロンと転がり、頭を木にぶつけた。

「落ち着きなさいって!私の任務はロケット団の本拠地を守るためだった。でも、バロンの話によると私の本当の任務はそのダークスターの奴らの付き添いでお月見山に行くことだったみたいなの」
「そうか!ヒカリはそこにいるんだ!!」
「(話を全く聞いていないわね……)」

 あきれてユウナはため息をついた。

「(でも、一体どこで、指令がすり替わったのかしら?)」

 ユウナは首を傾げた。

「よし!フライト!お月見山へ!」
「ちょっと待ちなさい!ヒロト!」

 ユウナはヒロトを引き止める。

「何だよ?」
「私の話を聞きなさい!?」
「話って??」

 ヒロトは聞き返す。
 すると、がさっと言う音がして何かが飛び出してきた。
 ヒロトとユウナは不意をつかれながらも、そちらの方を見てボールを構えた。


「話って何!?ヒロトさん、その人とどんな話をしたんですか!?」


「……誰?」

 ユウナは首を傾げて、ヒロトを見る。
 なんとも複雑そうな顔をしていたのはヒロトだ。

「コトハちゃん……」
「よかった!名前を覚えてくれていたのね♪」

 と、ヒロトの手を取る。
 そして、上目遣いでヒロトの事をじっと見る。その攻撃はヒロトに効果は抜群だった。
 耐え切れず、ヒロトはユウナの後ろに隠れた。

「……だれ?ヒロトの彼女?」
「違うって!この前シオンタウンでロケット団に襲われているのを偶然助けた女の子だって!」
「……で?何で私の後ろに隠れるの?」

 ユウナの声はどこか冷たい。
 その声はまるで氷柱のようにヒロトに突き刺さった。

「いや……彼女は苦手なんだよ……。あれだけアタックされると逃げるのが大変なんだよ……」

 と、コトハに聞こえないほど小さな声でユウナに言った。

「(むやみに人を助けた代償がこれね……呆れてものも言えないわ)」

 と思いつつも、呆れたという気持ちよりも感心という気持ちのほうが強いようだ。

「コトハ!ここにいたのですか……?探しましたよ!」

 続いて出てくるのは、おっとりした性格でボンキュボンとした体つきでなおかつスリムなスタイルを持った大人っぽい女性だった。

「……オトハさん……」
「あ、ヒロトさん……また会いましたね」

 オトハは少々顔を赤く染めながらも、丁寧にお辞儀をした。
 どうやら、これからひと悶着がありそうな予感である。



「どうしたのエース?」

 トキワジムを出たエースとライト。そして、ライトに告げた。

「ライトはお月見山に行ってくれ」
「え?一人で……?」
「ああ。ここは二手に分かれよう」

 突然のその言葉は……ライトを不安な気持ちに陥れたということをエースはそのとき気づきもしなかった。
 いや、気づく余裕さえもなかったのだった……。

「(あの時エース言ったよね?ずっと一緒にいてくれるって……)」



 第一幕 Wide World Storys
 VSロケット団⑨ ―――VS首領のサカキ――― 終わり


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Last-modified: 2015-02-11 (水) 14:43:07
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