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たった一つの行路 №049

/たった一つの行路 №049

 ああ、あなたは一体どこにいるの?
 私の心を奪って、あなたはどこへ消えてしまったの?
 私はあなたのことをこれだけ想っているのに……
 体どこへ行けば会えるというの?
 それとも、もう会えない運命なの?
 あきらめるしかないの……?
 教えて……ヒロトさん……



「は、は、ハクッション!!ハックション!!うぅ……だれか、噂でもしているのかな……?」

 ヒロトは……道に迷っていた。
 タマムシシティにいるはずなのだが……。

「なんで、こんな霧と森の中なんだ?ディンのテレポートでタマムシシティに一直線のはずだったのに……」

 ヒロトは首を傾げていた。
 だが、ヒロトのポケモン、フーディンも隣で首を傾げていた。

「というか、ここはどこだよ?」

 ポケナビで場所を調べようとしたが、ポケナビはジャミジャミと砂嵐だ。

「ポケナビ……壊れたのか……?(汗)」

 テレポートは不発。ポケナビは壊れている。彼の辿る道は1つだ。

「参ったな……仕方がない……歩いて探すか」

 そう、彼には道に迷うという道しかなかった。



 たった一つの行路 №050



 9

「はぁ……」

 タマムシシティの公園に膝ほどまでのこげ茶のハーフパンツに赤のダイヤのマークが刻まれた紫のTシャツに白のツバ付き帽子を被った少年がうつむいてベンチに座っていた。
 朝方の6時にもかかわらず、そこは人々が多かった。
 しかし、彼の雰囲気が重くて、過ぎ行く人たちは彼の姿を見ても誰も声をかけなかった。
 いや、声をかけようとする人もいた。だが、反対方向から聞こえる神秘的な歌声が行く人々を誘って行った。
 彼はその声に誘われないほど深く、苦しんでいた。
 やがて、音楽が止まり、人々が散って行った。

「はぁ……」

 再び少年はため息をつく。
 そこへ、彼の重い雰囲気を押しのけて一人の女の子が近づいてきた。
 服装は踊り子のようで少し露出が多かった。
 それに、胸が大きくかなり目立っていた。

「どうしたの?そんなに落ち込んで?」

 ベンチの片隅で一人でため息をついている少年が珍しかったのか、それとも、かわいらしい顔をしたのに惹かれたのか、彼女は彼に話しかけた。
 そして、隣に座った。

「何かつらいことでも会ったの?」
「べ、別にないよ……」
「何にもないのに、一人でベンチに座っているのは何かあると思ったんだけどね~。ジムリーダーに負けたの?それとも、彼女に振られたとか……?あ……」

 彼女は口に手を当てた。さすがにまずい事言ったなと後悔したのだろう。

「そんなことじゃないよ。ただ……」
「ただ?……やっぱりなんかあったんじゃない!!」
「あ……」

 少年はしまったと思いつつ頭をかいた。

「実は……姉ちゃんが記憶喪失なんだ……」
「記憶喪失……?」
「そう。そして、必死で記憶を取り戻そうとしているんだけど、全然ダメなんだ」
「何が原因で記憶喪失になったの?記憶を取り戻す手っ取り早い方法はもう一度再現すればいいのよ!」

 すると彼は厳しい目をした。

「それは出来ない……そんなことは……。姉ちゃんをもうあんな目に遭わせるわけには行かないんだ……」
「よほどお姉ちゃんが大切なのね」
「大切だよ!今までいっしょに旅をしてきたんだ!大切に決まっているじゃないか!!」
「私にもお姉ちゃんがいるんだ。2つ上のね」
「え?」
「お姉ちゃんを大事にする気持ちは私にもわかるわよ」
「…………」

 少年はうつむいた。突然彼女は立った。

「それじゃ、一度会ってみていい?」
「え?」
「いろいろと試してみたら、記憶喪失は治るかもしれないわよ?」
「ありがとう……ええと……」

 少年は頭をかきながら、目を泳がせる。

「私はコトハよ!」
「俺はショウ!よろしく!」
「ショウ、私はちょっとオト姉ェにこのことを伝えてくるから少し待っててね!」

 そういって、走り去って行った。
 踊り子の服が走るたびに裾が揺れて華やかだった。

「……元気で……可愛くて……きれいだなぁ……」

 気づけばショウは本音を口に出していた。
 そして、10分後。コトハが戻ってきた。

「お待たせ!」
「う、うん……」

 ショウは目を泳がせた。
 10分の間にコトハは姉に話をしてきただけではなく、着替えてきたらしい。
 茶色のツバ無しのソフトな帽子に、クリーム色のキャロットスカートに赤茶色の半袖でヘソ出し、そして、シマシマのネクタイだ。
 この服装のせいで、ボディラインがくっきりと浮かび出ていた。
 それで、ショウの目の置場がないらしい。

「じゃあ、行きましょう!あなたのお姉さんのいる病院へ!」

 そういって、先に歩き出していった。

「お、お姉ちゃん以外にあんなに胸が大きい子に会ったのは初めてだ……」

 とボケーっとしていた。そこにコトハが遠くから声をかける。

「ところで病院ってどっち!?」
「こっちだよ!」

 ショウは病院の方を指差しながら、走ってコトハを追いかけたのだった。



 ―――タマムシシティのポケモンセンター。

「どうぞ、オトハさん」

 ジョーイさんがオトハにボールを返した。

「ありがとうございます」

 そういって、オトハはボールを6つ受け取った。
 彼女は白いロングスカートに薄い黄色のポロシャツにピンクのカーディガンを羽織っていた。
 彼女の柔らかい印象が存分に出ていた。
 ボールを受けとって2階を少し歩いていた。

「たしかコトハはポケモンセンターの二階で待ち合わせと言っていましたわね……」

 コトハは用事ができたと言い、近くにいた少年と一緒にどこかへといってしまったのだ。
 そのことについてオトハは別に何とも思っていなかった。
 ただ、別のことを考えていた。

「コトハはヒロトさんのことを諦めたのでしょうか……?」

 ずっとオトハは疑問に思っていた。ヒロトとヤマブキシティで別れてから、コトハはずっと逆ナンをやめていた。
 しかし、今日になって彼女は突然知り合った男の子についていってしまった。

「(……コトハがヒロトさんを諦めるなら、私が……)」

 左手を握り締めた。
 あのシオンタウンでの祭りのことを思い出していた。
 いちゃもんをつけてきた男たちを振り切る為にヒロトが握ってくれたこの左手。

「(暖かい温もりを持った手でした……)」

 しかし、想いを振り払うように髪の毛が乱れるほど頭を振った。

「(いえ、ヒロトさんには探している人がいるのです。想っている人がいるのです……。だから、私が出る幕は有りません……。私は静かに彼を見守っていればそれでいいのです……。それで…いいのです……)」

 自分にそう言い聞かせる。
 しかしながら、簡単にその想いを立ちきる事は彼女には出来なかった。
 なにせ、彼女にとって彼への想いははじめて異性に想いを寄せることだったからだ。早い話が初恋である。
 しばらく歩いて、オトハはテレビが付いているロビーの前で足を止めた。そこには人々が慌しく雑談をしていた。

“ロケット団が全面的に攻撃をしかけたんだって!?”
“そうらしいわ……。もしかしたら、ここも攻撃してくるんじゃない!?”
“ここは大丈夫だよ!タマムシシティは優秀な警察がいるって言うじゃないか!そんな簡単にやられるものか!”
“そうね……”
「……ロケット団……」

 オトハは1つの単語を口に出した。
 ロケット団の存在。その存在が彼女とヒロトを引き合わせたと言える。

「ヒロトさんはまたロケット団と戦っているのでしょうか……?」

 口に出したその時だった。爆発音がすぐ下から響いたのだ。

“なんだ!?”
“1階が爆発したみたい!”

 2階のロビーは騒然となった。

「何があったのかしら……?」

 すると、下から悲鳴のような声が響き渡った。

「なんでしょう?行ってみましょう」

 オトハは下へといってみると、そこには何人もの倒れた男の姿が。
 そして、中心には銀色の袴を羽織った一人の男の姿があった。
 一番目立ったのが、腰に差している2本の刀だ。

「弱い」

 そう男は言った。
 倒れているのは男だけ。
 そして、それは恐らくその男が刀で斬ったのだと思われる。
 しかし、血が出ていないことからするとみねうちだろう。
 ジョーイさんを初めとする女性には手を出していなかった。

「あなたはなんですか?」

 ジョーイが果敢に聞いた。

「拙者の名はクサナギ。剣士の高みを目指す者だ」
「…………。剣士ならなぜ関係のない人を斬るんですか!?」
「なんてことはない。拙者は身の上、ロケット団に所属している」
「!!」
「そして、拙者はこのタマムシシティの乗っ取りを任された。ただそれだけである」
「なぜロケット団なんかに??」
「このように修行ができるからである」

 クサナギは辺りを差して言った。

「間違っているわ!そんなこと!!」
「間違っていようが間違っていまいが、拙者の修行の為、覚悟しなされ!」
「待て!」
「誰だ?」

 一人の男が立っていた。オトハも彼を見た。
 彼はよくカウボーイがよく被る帽子に、茶色のベスト、白いTシャツに黒いGパンをはいていた。

「俺が相手になる!」
“カツトシさん!”
“あの人は、前回のシンオウリーグの優勝者よ!”

 女性陣を押しのけて、カツトシという男が、クサナギに対峙した。

「そうか……それなら、いざ参る!」
「なっ!?」

 だが、勝負は一瞬のうちについた。
 カツトシという男はポケモンも出せずに一瞬で地に伏した。

「あっけなかったな。また一人、この『風鋼丸』の錆になったか」
“なによ!ポケモンバトルじゃなかったの!?”
“トレーナーを斬るなんて卑怯よ!”
「何を言っている?拙者はポケモンバトルなどやるとは言ってはいない。だが、ポケモンバトルでも勝てる自信はあるがな」

 一階に集まっている女性陣は一歩後退した。

「拙者は女を斬る興味はない……。だが、掛かってくるなら容赦なくポケモンで相手をしてやる」

 と、残った女性たちに言った。
 しかし、クサナギのオーラに圧倒されてか、誰も、一歩踏み出そうとした者はいなかった。

「あなたは、何のために強くなるのですか……?修行するというからには、何か目的があるのでしょう?」

 いや、踏み出した者が一人いた。
 それは、ずっと今まで二階で物事を見ていたオトハだった。

「質問には答えない。それより、一歩踏み出してきたと言う事は、お主が戦うというのだな?」
「争い事は嫌いです……。でも、避けられない戦いというものも有ります。それがきっと今です」
「じゃあ、はじめようか……。改めて名乗ろう。拙者はロケット四天王の一人クサナギ!剣を司る男だ」
「それなら私も名乗らせて頂きます。私の名前はオトハ。月島の末裔です」

 クサナギは早速刀の代わりに懐からボールを取り出して投げた。
 中から出て来たのはニドキング。
 しかし、普通のニドキングと違う点が1つあった。
 あるアイテムを持っていた。そのアイテムを一気に振りかざした。
 オトハは軽くかわしたが、地面がおもいっきり割れた。

「それはなんですか?」
「それは拙者が『太い骨』で作った剣、『破骨』。ニドキングの大きい体を活かした強力な剣である。さぁ、お主は何で来る?」

 オトハはモンスターボールを取り出して投げた。

「ニドキング、いざ!行かん!」

 オトハのポケモンが出るのと同時に、ニドキングは攻撃をしかけた。
 攻撃は当たった物と思われた。
 だが、攻撃は地面にあたり地面に衝撃が走っただけだった。

「これならどうだ?『ボーンラッシュ』!」

 ニドキングの持っている骨で作られた剣、名前は『破骨』。
 ニドキングの振りかざす剣はオトハのポケモンを襲った。
 そして、攻撃をしているうちにどんどん砂煙がたってきた。
 何分が経っただろうか……。ニドキングはついに息を切らして、攻撃を止めた。
 煙が晴れた時、どよめきが走った。

「……まさか、あの攻撃を全て避けるとはな」

 クサナギは驚きもせずに言った。

「チャーレム、反撃です!」
「ニドキング、『居合切り』」

 チャーレムが拳を光らせて接近する。
 一方のニドキングは刀を構えたまま、チャーレムが近づくのを待っていた。
 ニドキングは剣を振り下ろす。
 しかし、チャーレムの無駄のない動きはニドキングの剣をあっさりとかわしてしまった。
 そして、ニドキングの顎に拳を当てた。アッパーが決まりニドキングは、背中を地面に打ち付けた。
 チャーレムが無事、着地すると、センター内に歓声が起きた。

“あの人凄い!”
“何者なの?あの人?”
「どうやら、拙者はお主のことを甘く見ていたようだ」
「それならどうするのです?ここで引いてくれますか?」
「愚問だな」

 クサナギはまた別なポケモンを繰り出す。

「言っておくが、拙者のポケモンは三体。最初のニドキングはまだ、未熟。次はこうは行かんぞ?」

 そして、出したのはバシャーモ。しかし、やはり持っているのは剣。
 剣は厚みがあるが重量は軽そうだった。しかも2本だ。

「こいつの剣の名は『兎爆』。こいつの力を見誤るなよ?」
「何をしかけてくるか解りませんが、今度はこちらから行きます!チャーレム、『目覚めるパワー』です!」
「バシャーモ!お主の力を見せてやれ!『矢気弐句の舞い』」

 すると、バシャーモの剣、兎爆が炎に包まれた。そして、チャーレムに接近する。
 エネルギーを溜めて放った目覚めるパワーを簡単に切り裂き、チャーレムの目の前に出た。

「決まりだ」

 バシャーモの剣がチャーレムを捕捉した。
 そして、チャーレムは吹っ飛ばされた。だが、まだやられてはいなかった。

「ほう、バシャーモの攻撃を受けてもまだ立っていられるとはやるな」
「私のポケモンを甘く見ると痛い目に会いますよ?」
「それじゃ、本気の技で行く事にしよう。バシャーモ!『メテオレイン』!!」

 バシャーモの炎が剣に伝わり、バシャーモが剣を振りかざすと、炎の塊が打ち出された。
 それを何度も振ることにより、烈火が襲いかかる。まさに隕石の雨の様だ。
 そのような激しい攻撃にもかかわらず、チャーレムはかわしていた。
 だが、最後にバシャーモは瞬時に剣を収めて一気にでかい一撃を放った。

「(かわせない!!)」

 オトハがそう思ったときには、チャーレムは攻撃を受けていた。
 最後の一撃はチャーレムが攻撃を受けたのと同時に爆発した。
 爆煙が立ちこめる中、クサナギが言った。

「バシャーモに『メテオラ』まで出させるとは、なかなかやるな」

 煙が晴れた。しかし、チャーレムはまだ立っていた。

「(バシャーモの『メテオラ』を受けて立っているだと?)」

 チャーレムは目を光らせた。どうやら、本気になったようだ。チャーレムの体から、凄まじいオーラが吹き出てきた。
 しかし、オトハはチャーレムをボールに戻した。

「ムキになっちゃダメ。まったくこの子は短期なんだから……」
「オイ!そいつはまだ戦えるだろ!?続けさせろ!」

 クサナギは不満らしい。剣士の決闘で言ったら、それは相手に背を見せて逃げることだろう。
 そのことに納得が行かないらしい。
 でも、オトハは答える代わりに別のポケモンを出した。

「なんだ?このポケモンは!?見たことがないぞ!?」
「私のとっておきのポケモンです」

 オトハの次のポケモン……姿、形を見れば、一目でどんな種類かはわかった。
 しかし、1つだけ違うところがあった。

「青いベトベトンだと?」
「私のベトベトンは“かなり”特別ですよ」

 そう言って、オトハは微笑んだ。

「……どちらにしても、倒す。同じ事だ。バシャーモ、『メテオレイン』」

 バシャーモは二刀を振りかざして、業火を放つ。
 それは寸分のズレもなく、ベトベトンへ向かっていった。

「ベトベトン、『バブルボム』!!」

 指示を受けたベトベトンがした事は、口から泡を吐き出したのだ。
 しかも、見る限り、その性質に毒は混じっていない、透明の物だった。
 それをいくつも放ち、バシャーモのメテオレインを相殺していった。

「それなら、『メテオラ』!!」
「ベトベトン!」

 両者、強力な攻撃を放つ。
 バシャーモが剣を振るって、巨大な業火を出したのに対して、ベトベトンは驚くべき技を放った。
 その技で、バシャーモの攻撃はぶち抜かれた。

「『ハイドロポンプ』だと!?」

 そのまま攻撃はバシャーモに命中した。
 いや、命中したのだが、剣で受け止めたと言うのが正しい。
 と言うものの、ダメージは逃れられなかった。

「私のベトベトンは突然変異のベトベトンなのです。青いベトベトンは臭いがきつくなく、そして、水系の技も使うことが出来るのです」
「なるほどな。だが、まだ終わってはいない!バシャーモ!最終奥義を使いなさい!『デュアルエクスプロージョン』!!」
「そして、普通の毒攻撃も使うことが出来ます。ベトベトン!『ヘドロ爆弾』で牽制です!そして、『捨て身タックル』!!」

 ヘドロ爆弾をバシャーモの剣が切り裂き、そのまま勝負はバシャーモがそのまま勝負を決めたかにみえた。
 しかし、バシャーモの最後の二刀は爆発しなかった。
 振るう直前で、ベトベトンがバシャーモを体当たりして押し倒したのだ。
 つまり、振ることが出来なければ、攻撃にならないということだ。

「まさか……バシャーモまでやられるとは……。お主、只者ではないな」
「いいえ、私はただの踊り子ですよ?」

 クサナギはバシャーモを戻す。
 その一方でオトハもベトベトンを戻した。

「それなら、拙者の最強のポケモンで挑もう。これに拙者が負けたら、潔くこのポケモンセンター乗っ取りを諦めて、拙者はロケット団から手を引こう」
「どう言うことですか?」

 オトハは首をかしげた。

「そんなに簡単にロケット団を辞められるものなのですか?」
「拙者は別に入る気はなかった。入りたがっていたのは、拙者の弟である」
「弟さんですか……」
「その話しは置いといて、最強のポケモン、いざ参る!」

 そうして、クサナギが最後に出したポケモンは、『長ネギ』を持ったカモネギだった。

「あら、最後のポケモンと言うからには……」
「なんだ?弱そうにみえたか?」
「いえ、剣が普通ですね」
「カモネギにはネギと決まっているであろう」
「それなら、私はこの子で勝負です!」

 オトハが出したのは、一番のパートナーのワタッコだ。

「カモネギ、いざ行かん!『五月雨突』!!」

 クサナギの言う通り、このカモネギのレベルは高かった。その証拠にカモネギのネギの突きはすさまじく速かった。

「ワタッコ、そのままの状態を保ってください」

 それなのにオトハは攻撃も防ぐ指示もしなかった。

「!?」

 だが、そのカモネギの攻撃が当たらない。ワタッコはふわふわと空中を漂ってかわす。

「なるほど、お主のポケモンはどうやら攻撃よりも回避能力が高いらしい。このカモネギの攻撃をかわせた奴は今までにいなかったからな」
「誉めていただいてありがとうございます」
「いや、別に誉める気で言ったわけではないが……。だが、この攻撃はかわせるかな?カモネギ、『居合斬』!!」
「!!」

 カモネギは剣を鞘に収めるような構えをネギで取った。そして、次の瞬間、何が起きたかもわからず、ワタッコは吹っ飛んだ。

「ポケモンたちの技に『いあいぎり』という技はあるが、この『居合斬』は拙者が直々に教え込んだ本当の居合である」
「つまり、あなたの剣技をポケモンに教えているという事ですね」
「そう言うことである。だが、拙者比べればこの剣の力は拙者の一部分に過ぎないがな」
「ふふ」
「何がおかしい?」

 クサナギが言うのに対して、オトハは笑った。

「いえ、少し私と似ているなと思いまして」
「何?」

 すると、カモネギの攻撃をまともに受けたはずのワタッコが立ちあがった。

「!!……まさか、居合斬に耐えるとは……」
「耐える?違います。受け流したのです。私もポケモンに舞踊を教えているのです。舞踊を組み合わせた応用技ですけれど。今のは『流漂』。流れに身を任せてすべての打撃攻撃を無効化させる技です」
「つまり拙者の攻撃を全て封じるというのか……。面白い!カモネギ、全ての攻撃技で対応してやるぞ!カモネギ、『乱風』!」
「ワタッコ!風に乗るのです!」

 カモネギは一振り放つと、風が舞い起きた。その風を利用して、ワタッコが舞いあがる。

「しかし、それは自殺行為と言う物だろう。拙者の攻撃はかわせまい。カモネギ、『真風波』の乱れうち!」

 宙に浮かんでいるワタッコをそのまま狙い撃ちをする。だがワタッコはオトハが何も指示していないのにもかかわらず、いとも簡単に攻撃をかわした。

「『流れに身を任せる』これがワタッコの一番の戦法です。ほぼ全ての攻撃には必ず風が発生します。炎は熱風、氷は冷風、パンチやキックでも僅かな風が起きます。その風を感じとってワタッコは攻撃をかわすのです」
「そうか、それならこれでどうだ?『真空斬』!!」

 風を巻き起こしたまま、カモネギは飛びあがってワタッコに接近する。そして、風をも切り裂く刃を放つ。

「風をも切り裂くこの攻撃なら、かわすことは出来ない!」
「いいえ!かわすことは出来ます!」

 カモネギの一振りは空振りに終わった。

「!!」
「私のワタッコは『念力』で空中を移動することもできるのです。次で決めます!『わたほうし』と『ソーラービーム』!!」

 ワタッコはまず、わたほうしで攻撃をしかけた。
 ダメージを与えることは出来ないが、相手を鈍らせる技だ。
 カモネギは切ろうと試みたが、ネギに綿がくっついて思うように動けなくなった。
 そこへソーラービームが間髪なく襲った。
 綿胞子によって視界をさえぎられたことも会ってカモネギはかわすこともできなかった。
 そして、一撃でダウンした。

「!!(早い!だがそれよりも、『ソーラービーム』溜めなしで撃つだと……?)ふっ。拙者の負けである」

 クサナギはおとなしく自分の負けを認めた。

「お主のポケモンを一匹も倒せなかったのだから、負けを認めるほか有るまい」

 クサナギはポケモンを戻して言った。

「あと、バカ弟を引っ張ってやらないとな」
「弟ですか?弟さんも剣士なのですか?」
「あいつは剣士ではない。あいつは……。お主も会ってくれるか?拙者の言う事を素直に聞く奴ではないのでな」
「それで、弟さんはどこを攻めているんですか?」
「あいつは、確か病院だったな」

 何とか、ポケモンセンターの戦いは終結した。



「一体なんの騒ぎだ?」

 ショウとコトハが病院に入ると病院は慌しくなっていた。
 コトハはフロントに言って事情を聞いて来た。

「ロケット団が何人かで病院を襲撃しているみたい!」
「ロケット団……」

 ショウは目つきを変えて言った。

「早く姉ちゃんのところに行こう!」
「あ!待ってよ!」

 ショウは急いで階段を上って行った。もう、ショウはコトハと来たことを忘れていた。
 ショウは姉のユウコの病室に入りこんだ。ユウコは眠っていた。だが、側に一人の人物がいた。

「お前は誰だ!?」

 男は振り向いてショウを見た。格好は鉢巻をして、ジャケットを羽織って、ハーフパンツの男だった。

「お前、こいつに似ていますね。……そうか。お前がこいつの弟ですか。ふっ、腑抜けた顔をしていますね」

 ショウはカチンと来た。

「お前は誰だと聞いてるんだ!!」
「そう暑くなるな。私の名はムラサメ。ロケット四天王の一人です」
「ロケット団だと!?」

 ショウはボールを構えて、ムラサメを睨みつけた。

「一体何が目的なんだ!?」
「目的?それはこのタマムシシティを我がロケット団の手中に収めるためです。その為に中枢となる施設を破壊しているのです。
 そして、私がここに来たのは、病院を破壊する為です。でも、予想外でしたね。ここでこの女に会うことになるとは……」
「……!まさか、お前……!」

 ショウは拳を握り締めた。

「お前がねーちゃんを!?」
「そうだとしたらどうするのですか?」
「ぶっ飛ばす!!」

 ショウは無我夢中で突っ込んだ。拳をムラサメに突きたてた。だが、簡単にかわされた。

「アツイですね。たかがそんなことくらいで暑くならないでください」
「たかがだと?お前のせいでねーちゃんは記憶喪失になったんだ!」
「それは私のせいではありません。ゼンタに聞いた話だが、あの薬には記憶を一部失う作用があると聞きました。だからそのせいでしょう」
「どちらにしろ、俺は許さない!!」

 ショウはドンファンを繰り出して、突進をしかける。

「暑すぎです。モルフォン!」

 ドンファンがモルフォンにぶつかった瞬間、ドンファンはダウンした。

「……!?確かに攻撃は当たったはず!?なんでドンファンの方が負けたんだ?」
「お前の実力では私には勝てません。諦めなさい」
「諦めるもんか!ギャロップ!!『火炎放射』!!」
「無駄ですね」

 モルフォンはいとも簡単に攻撃をかわすと次には5匹ほどに分身をした。

「!!」
「終わりです。『ヘドロ爆弾』!」

 ショウは慌てて攻撃を回避した。しかし、爆発してショウは廊下に転がって行った。

「どうしたのです?私をぶっ飛ばすのではなかったのですか?モルフォン!さっきのドンファンの様に倒してしまえ!『ギガドレイン』!」
「ギャロップ!火の粉!!」

 攻撃は3匹のモルフォンに命中する。そして、消滅した。だが、二匹のモルフォンが襲いかかった。

「!!」
「終わりだ!」

 すると、再びモルフォンは5匹に戻って攻撃をしかけた。
 だが、そこへ強力な炎がモルフォンを焼き尽くした。

「…………!!あなたはなんですか?」
「ロケット団ね!?」

 ようやく現れたのはコトハだ。

「ショウ!もうちょっとゆっくり行きなさいよね!」
「悪かった。でも、今はそれどころじゃないんだ!」

 ショウの目線はずっとムラサメに向けられていた。

「あいつのせいで、ねーちゃんは……」
「……そうなの!?それなら私も手伝うわよ!!」
「2人だろうが、関係ない」
「ギャロップ!!!火炎放射だ!!!」

 ショウの攻撃はやはり、かわされた。

「あつくなりすぎですね」

 でも、ショウはにやりと笑った。

「そうでもないわよ」

 火炎放射はモルフォンには命中しなかった。
 だが、コトハのポケモンに命中した。
 そして、その炎をまとい、一気にモルフォンへとタックルをかました。
 ムラサメは舌打ちして、モルフォンを戻した。

「まさか、技と攻撃を外して、女のブースターに当てて『火炎車』の威力を上げるとは……」
「甘く見るといたい目を見るわよ!」
「そうだ!!俺は絶対お前を倒す!!」



 第一幕 Wide World Storys
 VSロケット団⑤ ―――VS闘志のクサナギ――― 終わり


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Last-modified: 2015-02-08 (日) 18:19:15
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