66
青い空……青い海……見渡す限りの水平線……進めど進めど先はずっと海。
彼らは同じ景色に飽き飽きしていた。
「なぁ、カスミぃ~まだ着かないのか?」
「私に聞かないでよ!!私は言われた方向を進んでいるだけなんだから!……そんなことよりサトシ、本当に大丈夫なんでしょうね?」
「何が?」
「『何が』って!?本当にロケット団に勝てるかって聞いているの!!」
「それなら勝つさ!」
「一体その根拠はどこから来るの?大体いつもサトシはね……」
と、くどくどと喋っているのは、『自称』世界の美少女、カスミである。
しかし、ジョウト地方、または最近までサトシとノースト地方を旅していたときと雰囲気がどこか違う。
黄色のホットパンツに水玉に白のブラウス。
そして、髪はおろして、活発感より清楚感をかもし出していた。
しかし、やはり性格は変わらないらしい。
サトシはいつもカスミに文句を言われている。だが、負けじと言い返す。
サトシの肩の上ではピカチュウがやれやれと肩をすくめて、首を振っていた。
『また始まった……』と言わんばかりに呆れていた。
そして、サトシの肩を降りて、上手い具合に“ヒレ”に寄りかかっている一人の人間を飛び越えて、“尻尾”の後方で進んできた海をずっと眺めているシオンに近寄った。
シオンはピカチュウの気配に気づいて、振り向いた。そして、何かを話して始めた。
“ぴかーーーぴかぴか、ぴかちゅう。ぴかぴ、ぴかかぴ!”
“ぴ~か。ぴぴか、ちゃー!ぴか、ぴっぴかぴかぴかちゅー”
“ぴかか……”
“ぴぴぴ……”
““ちゃぁ~””
「一体何を話しているんだ?」
ずっと“ヒレ”に寄りかかっていたヒロトは目の前で喋っている二匹に尋ねた。でも、聞いてももちろん“ピカ”としか答えられなかった。
実際にはこんな話をしていたらしい。
「カスミと旅をするといつもサトシはケンカするんだよ~。もう大変だよ!」
「大変なのか~。でも、ケンカするほど仲がいいって言うじゃない!大変と言えば、ヒロトなんか、一人で旅をするととんでもないところへ行ったりするんだよ!旅してて大変だよ!」
「人間てそういうものなのかな?……確かに迷ったりしたりすると大変だよね。僕も何回も迷ったもん」
「でも、ヒロトなんか毎回だよ!今はマサトたちが一緒にいるから大丈夫なんだけどね。……お互いトレーナーには苦労するね」
そうだね。と、二匹はため息をついていた。
トレーナーもピカチュウたちも疲れるが、波乗りをしているポケモンはもっと疲れているはずだ。
今、サトシ、カスミ、ヒロトはカスミのギャラドスでフォッグス島へ向かっている。
サトシはカスミを呼ぶためにマサトのジラーチを使って、すぐに呼び寄せたのだ。
現在で、ちょうど3日目だ。そろそろ疲れも見えてきた。
「ヒロトさん~!あとどのくらいかかりますか!?」
聞いてきたのは、ホエルオーに乗っているカレンだ。
「そろそろ見えてくるはずだけど……」
ヒロトは答えた。
「結構かかるわね」
「ハルカたちは大丈夫かな?」
「……zzz……」
ホエルオーに乗っているのは、カレン、ライト、ユウキ、エースだ。
「ねぇ!ユウキはどう思う?」
「え?何が?」
カレンはふとユウキに聞いた。
「サトシさんとカスミの関係!」
「そんなこと俺に聞かれても……。見ての通り、旅の仲間かな?それ以上はないんじゃないか?」
「チッチッ!甘いわね!」
と、指を振りながら言うのはライトだ。
「何が甘いんですか?ライトさん?」
「あれは絶対デキているわよ!だって、あんなに仲がいいじゃない!」
「仲がいい?ケンカしているじゃないですか!」
「ケンカするほど仲がいいって言うじゃない!……そう言えば、サトシって結構イケてるかもね!エースがいなかったら付き合ってもいいタイプだわ」
と、寝ているエースを見ながら言った。ある意味ライトの爆弾発言だ。
「二人ともまだまだね!私が見る限り、あの二人の関係は仲間ってだけね。カスミの方はサトシさんの事を意識しているみたいだけど、サトシさんはただのケンカ仲間としか思ってないみたいね!それか、単なる照れ隠しね!」
カレンはそう言い切った。
というか、そこまで分析できて、なぜハルキと自分の分析が出来ないのが不思議である。
「あれ?なんか見えてきたわよ!」
カスミが前を指差した。すると、水平線から霧が見えてきた。それと同時に黒い点みたいのが見えてきた。
「何だあれは?」
「霧かな?でも……あの黒い点はなんだろう?」
サトシとカレンが順々に言った。
「まさか……!!この展開は……!!」
「ヒロトさん、どうかしました?」
「…………。……いや、なんでもない」
ヒロトはサトシの問いに答えなかった。
そして、黒い点がはっきりと見える前にその物体は攻撃をしかけてきた。破壊光線だ。
「え!?ギャラドス!かわして!」
カスミの即座の指示により、なんとかかわすことに成功した。
「でも、あれを見て!一匹だけじゃないわ!」
「1,2,3,4……ゲッ!10匹くらいはいるぞ!!」
カレンとユウキがそう言った。
そして、そのポケモンがはっきりと見えて、サトシは言った。
「あのポケモンは……古代ポケモンのプテラ!!」
「え!?なんでそんなポケモンが現代に!?」
「ロケット団がいたら『ロケット団の科学に不可能はない』とか言いそうだな」
ヒロトは口を尖らせてユウキに言った。
そして、再びプテラたちは破壊光線を放つ。しかも10匹同時に。カスミのギャラドスとユウキのホエルオーはかわすように指示を出す。
なんとかかわしていった。
「でも、こんな数かわしきれないわよ!サトシ!何とかしなさい!」
「わかってるって!ピカチュウ!『10万ボルト』!!」
例のごとく、ピカチュウは一気に電撃を解放した。
古代ポケモンとはいえ、プテラは電気に弱かった。
一気に3匹が海に落ちていった。
「よし、シオン!『電撃……って、うわっ!?」
ヒロトが指示を出した瞬間に破壊光線が海に当たった余波でヒロトは海へ投げ出された。
「ヒロトさん!」
誰もがヒロトを呼んだが、戻ることは出来なかった。
サトシのピカチュウの援護もあって、なんとかプテラたちを振り払って、島へと全速力で向かって行き、霧の中に突入した。
プテラはギャラドスたちを追おうとした。
だが、2匹のプテラが一瞬のうちに凍り付いて、海へと落下した。
残りの5匹のプテラは同時に後ろを向いた。
そこにいるのは竜のような大型ポケモン。
でもって乗り物ポケモンと総称されるポケモンだ。
そして、その上にのっているのはヒロトだ。
「カスミがギャラドスを持っているって聞いて、フロルの代わりにこいつを加えといてよかったぜ!レイン!『水の飛沫』!!」
レイン……ラプラスは細かい水しぶきをプテラに散布した。
効果は抜群の様だが、決定的なダメージにはなっていないようだ。
「そして、これで終わりだ!『絶対零度』!!」
ラプラスは超強力な冷気をプテラの中心に発生させた。
その影響で、プテラに着いていた水滴が、いっきに凝結し、莫大なダメージを発生させた。
プテラはドボン、ドボンと次々に海へと落ちて行った。
「さて、急ぎますか!レイン!頼むぜ!」
たった一つの行路 №042
67
―――二日前。某都市。
「これから、カントー征服計画最終会議をはじめる!と言いたいところだが……」
「また何かあったの?この大事なときに?」
「どうせ、また誰かがしくじったんだろ!」
机に足を上げて態度悪く言っているのは、もちろんいつものあの男だ。
「バロン!いつも言っているだろ!会議の間はしっかりとした態度で臨めと!」
「はいはい……わかりましたよ!マルク殿」
またバロンはボスの右腕と呼ばれるマルクに注意されていた。
バロンは反省の色もなく、マルクを皮肉って応対した。
「…………。先に言われてしまったが、バロンの言う通り、悪い報告をしよう。まずシオンタウンの秘密基地が警察に検挙されてしまった。逮捕者はいなかったのがせめてもの救いだがな」
「あのレイラがいながら失敗したやつだな。珍しいこともあるもんだな」
「…………」
レイラはバロンの言葉に答えなかった。
「次にタマムシシティの秘密基地も検挙されてしまった。その上、幹部のシードを含めた他数十名も捕まったようだ。さらに、ホウエン地方のファウンスからはるばると持ってきた繭も何者かによって奪われてしまった」
「タマムシの秘密基地は一番規模が大きく、設備が整っている場所じゃないですか。一体何があったのですか?せっかく私が繭を運んできたというのに……」
か細い声で、しゃべっているのは、ココと言う女幹部だ。
「何者かに侵入された上に全員やられて、通報されたらしい。しかも、噂によると子供だけだったと言う」
「子供ね……。最近、やたら強い子供が多いものね。かわいい子もいるけど」
「かわいい子?そう言えば、レイラ……。お前そういうのをいたぶるのが好きだったよな……」
「いたぶるなんて、口が悪いわね~バロン!……可愛がるのよ♪」
レイラは怪しい表情を浮かべてさらりと、そしてねっとりとしか感じで言った。
バロンはその言葉に少し寒気がした。
「そして、もう1つ。マサラタウンにスナッチャーが現れた」
「スナッチャー?あのルーキーズの中にもいた他人のポケモンを奪う奴か?」
「そうだ。ビシャスがその戦いに参加して、ダークポケモンを一匹奪われた。そのスナッチャーには気をつけるように!以上、報告を終える。
そして、これからのことを話す!シードが捕まった分を差し引いて、作戦を立てた。この作戦が全て成功すれば、カントー征服は間違いないだろう!」
そういって、マルクは“極秘”と書かれた冊子を幹部全員に配った。
バロンは冊子の中身を見て1つ聞いた。
「マルク!“ロケット四天王”やシャドーに派遣したあの“ジャキラ”もこの作戦に参加するのか?」
「当たり前だ!」
「この、ロケットルーキーズも参加するのか?しかも、分裂させて」
「ここに書いていることをいちいち繰り返すな!時間のムダだ!」
「へいへい!わかりましたよ!マルク殿!」
「ちっ!」
マルクはバロンから目をはずした。
「思いっきり、マルクをけなしているわね」
「ふん!別にかまわないだろ。俺はあいつより強くなったんだからな!」
バロンの言葉は確かである。地位は幹部ということで、マルクよりは下だが、最近では実力をさらに上げて、ロケット団の中でもトップクラスの力をつけたという噂である。
「ところで、エドと他数人の強力な戦力の名前が載っていないようだけどこれはどういう事?」
レイラが一通り目を通して、マルクに聞いた。
「最近、重要な研究をしているところに悪い報告が多い。だから、そのようなことにならないように今、ある場所に戦力を集めている。そこでは、重要な実験を行っているからな!
それが成功すれば、ロケット団の戦力は格段に高くなることだろう!」
「それの護衛というわけね」
「さて、作戦を開始する為にそれぞれの場所へ向かえ!作戦開始は5日後だ!」
そう言うと、幹部全員が立ちあがり、準備をはじめた。
「さて、暴れてやろうか!久々に血が騒ぐぜ!」
「ふふふ……」
バロンとレイラはそれぞれ飛行ポケモンを出して、この場を後にしたのだった。
―――「ヒロト!ヒロト―――!!」―――
「おい?どうした!?」
「はっ!」
あまりにも彼女が騒いだので、ハルキは慌てて起こした。
「ゆ、夢か……。よかった……」
「悪い夢でも見ていたのか?」
「え……。うん……とっても悪い夢だったわ」
ハルキは彼女……ヒカリにタオルを渡した。ヒカリの額は汗でぐっしょりだった。
「思い出したくもない夢だわ……」
「そうか。とにかく、4人とも集合しろだと。俺は先に行っている」
「珍しいわね!ハルキが指示に従うなんて!」
「別に。たまたまだ」
そう言って、ハルキは去っていった。
ヒカリはハルキが渡したタオルで顔をぬぐった。
「(本当に嫌な夢だったわ……。ヒロトが、私を……私を助ける為に犠牲になる夢。ヒロトが出てくれたのは嬉しいのに……。こんな形で出て欲しくなかったわ)」
ヒカリは気を取りなおして、3人が集まる場所へと向かった。
ちょうどヒカリがついたとき、そこで、ユウナは二人に冊子を渡していた。ヒカリも受けとって、それを見た。
「で?4人の向かう場所は全員違うのか?」
「そのようね」
ぱらぱらとめくって速読したのはラグナだ。
ラグナの問いに自分の任務が書かれた部分を丹念に読んでいたヒカリはそう答えた。
「まったく、めんどくせーな!」
ラグナは冊子を後ろに投げた。ところがその冊子は後ろにいた人物に当たってしまった。
「いっ!ラグナ!どういうつもり!?」
「あん?ユウナ、いたのか?」
「いたのかじゃないでしょ!ずっとここで指令をI☆NAに入れていたのよ!ちょっとは気づきなさいよ!」
「そんなめんどくさい事してられっか!」
「周りを見るだけなのになんでめんどくさいのよ!」
「あ~いちいち、うるさいな」
ラグナとユウナの口論が始まった。
「最近、ラグナとユウナ……ケンカするのが増えたな」
「結構いい感じだと思うんだけどなぁ」
ハルキとヒカリは他人事の様に二人を見ていた。
「(それにしても、この冊子の表紙にそれぞれの名前がついているがなんか意味でもあるのか?それにとてつもないことが起こる気がする……)」
今、誰も気づいていなかったが(ハルキはうすうす感じているみたいだけど)、これから彼ら4人の運命を大きく変えることになるとは、予想も出来ない事であった。
68
「エース!起きて!ついたわよ!」
「ん?朝か?」
「どちらかと言うと、夕方みたいね」
エースがようやく起きて、ホエルオーから飛び降りた。
それを見計らってユウキは、ホエルオーを戻した。
「夕方なのか?霧のせいであまり前が見えないけど?それに前は森だな」
「そうね……。森だわ!」
エースとライトの言う通り、周りは霧、前方は森だった。
「どうしよう……ヒロトさんが……!」
「ヒロトさんを助けに行かないと!!」
「大丈夫みたいだよ!ほら!」
カスミとサトシがギャラドスで戻ろうとしたところをユウキが制した。
ユウキは上を見ていた。サトシとカスミもつられて空を見る。
すると、緑の竜が舞い降りてきた。フライゴンとヒロトだった。
「ヒロトさん!」
「プテラたちはなんとか倒したから、後は油断せずに進もう!」
ヒロトは何事もなかったようにフライゴンを戻した。
「た、倒したって……?あれだけの数を……?」
カレンはヒロトに聞いたがそれ以上何も言わなかった。
「でも、どうやって進むの?こんな霧と森の中なのに……」
「だが、かえって好都合なんじゃないかな?霧だと、ロケット団は俺たちを見つけにくい。だから、一気に集団で進めば……」
「残念だが、霧だから見つけにくいと言うことはないな」
ヒロトが説明しているところにエースが突っ込んできた。ヒロトは口をへの字に曲げた。
「あんたも“さっき”言っただろ?『ロケット団の科学力なら不可能はないだろうな』って。霧を見る装置ぐらい、ロケット団が作っているだろ?」
「そう考えると、やっぱり分かれたほうがよさそうね(あれ?“さっき”って、そのとき、エースは寝てたような気が……)」
エースの考えをライトが受けた。
「それで、どうやって決めようか?」
「あ!それならそう言う展開を予想してあみだくじを作ってきたよ♪」
「(一体どんな展開を予想していたんだろう……?)」
カレンはライトに心の中で突っ込んだ。
何はともあれ、そのあみだくじで3つのグループを決めた。
「わ~い♪エースとだ♪」
「ライト……。今はこんなことしている場合じゃないぞ……」
「アツイわね~」
ライトは大げさにエースに飛びついて押し倒した。カレンはそんな二人を見て手で煽った。
「俺は……。なんだ、カスミとか……」
「なんで残念そうなのよ!」
「いや、別にそんなことじゃ!!」
カスミはサトシに殴りかかる。でも、サトシは逃げる。
「えーと、俺もサトシさんたちと一緒です!」
「よろしく!ユウキ!」
カスミはサトシを追いまわすのを止めて、ユウキと握手した。
「と言うことは……」
「私とヒロトさんですね」
結局、エース&ライト組、サトシ&カスミ&ユウキ組、ヒロト&カレン組の3グループに分かれた。
「そうだ!さっき空から、見たんだけど、この島の真ん中は森でないみたい。あまり見えなかったけど」
「まず、その島の中心に行こう!」
「そこがロケット団のアジトかもしれないわね!じゃあ、あとでそこで落ち合いましょう!」
そして、分かれて進んでいった。
―――エース&ライト組。
「ねー!エース!」
「なん……!おい!」
「こうして歩けば見つかりにくいでしょ♪」
ライトはエースの左手を取って、思いっきり腕を組んで思いっきりくっついた。
「これで影は一つしか見られないから、見つからないよ♪」
「いや……影が1つでも見つかったらダメだろ?それに歩きにくい……」
「見つかったって、私とエースのラブラブパワーでどんな敵だって倒せちゃうわよ♪」
「それにしたって、慎重に行かないと……」
「お願い♪エ~ス……」
ライトはキラキラとした目でエースを見つめた。たいていの男はそんな目に弱い。
「……仕方がないな」
エースはライトの手を強引に振り解いた。ライトは一瞬あっけに取られたが、いきなり体を引き寄せられた。
エースはライトの肩に左手を置いて、自分に引き寄せたのだ。よって密着した形となった。
「これでいいだろ?」
「うん♪」
さらにライトはエースの腰の当たりに両手を回した。
こうして、敵地の中、森の中、霧の中なのに、ラブラブオーラを撒き散らして進むこととなった。
幸いロケット団は近くにいなかったが、ロケット団に見つかったら、嫉妬で攻撃されていたことだろう。
―――ヒロト&カレン組。
「ねえ、ヒロトさん」
「ん?」
「ヒロトさんの探している人もロケット団に入っているんですよね?」
「なんだよ、突然……」
「私、ハルカさんに聞いちゃったんです。ヒロトさんにはずっと思いを寄せていた幼馴染がいるって」
「…………」
「だから……」
「『だから、同情します!』とか?そんなのはいらない!」
「そういうのじゃありません!」
カレンは足を止めた。ヒロトも足を止めて後ろのカレンを見た。カレンはじっとヒロトの目を見つめていた。
「私も知り合いがロケット団にいるみたいなんです!」
「!!」
「エースさんは厳しいことを言っていましたけど、私はヒロトさんに協力します!どんなことがあってもヒロトさんに協力します!絶対ロケット団から彼女を取り返しましょう!」
「……そうだな。でも、ヒカリがどうしてロケット団に入ったかがわからないんだ……。あれから考えたんだけど、時間は人を変える。
あのバンダナの奴が言ったようにな……。だから、もしかしたらヒカリも……」
「ヒロトさん!」
カレンは大きな声で言った。
「ヒロトさんが信じないで誰がヒカリさんを信じるんですか!?ヒロトさんはヒカリさんの味方じゃないんですか?」
「……そうだったな……。ありがとう……カレン」
ヒロトはしっかりと前を向いて歩き出した。
「(そう、私もハルキを信じないと!)」
カレンも気持ちを新たにして歩き出したのだった。
「でも、カレン……もうちょっと、小さな声で言わないと敵に見つかるよ」
「あ、ごめんなさい」
―――サトシ&カスミ&ユウキ組。
「(なんでこんなことになっちゃったんだろう?)」
ユウキは後頭部に汗を掻きながら黙々とピカチュウと歩いていた。
ユウキの5メートル先にはカスミが、5メートル前にはサトシが歩いていた。
そう、見ての通り、二人はケンカしていた。
何が原因でケンカをしているかはわからないが、ムードはかなり悪いと言えた。
その間にはさまれて、ユウキは困っていたのだ。ピカチュウもため息をついていた。
「(黙っていても仕方がないし……)サトシさん。カスミさんとはどういう関係なんですか?」
ユウキは、5メートル下がってサトシに話しかけた。
「カスミ?アイツとはただの旅の仲間だよ!」
サトシはあまり怒った様子もなく、普通に答えた。そして、再び話題が無く黙り込んでしまった。
「(まずい……なんか気まずいぞ……)」
「あれ見て!」
しかし、前方にいたカスミがそんな雰囲気を振り払った。カスミはサトシたちを手招きすると。前を指差した。
「なんだ?これ?」
「町のようだ……」
森を抜けると、そこはユウキの言った通り、まわりは町のようだった。
しかし、人は住んでなく、ひっそりとして不気味な感じが漂っていた。
そして、中心に建っている建物は1番立派だった。
「あそこが怪しいわね!」
「行ってみよう!」
「サトシ、待ちなさい!ヒロトさんたちがまだ来ていないじゃない!!」
サトシが飛び出すと、カスミがフードの部分を掴んで止めた。その勢いでピカチュウはサトシの肩から転げ落ちた。
「でも!」
「でもじゃないわよ!」
再び、サトシとカスミの口論が始まった。ピカチュウとユウキは再びため息をついた。
それと同時に、ユウキとピカチュウは何者かの気配を感じた。
サトシとピカチュウの死角から、マジックハンドが飛んできた。
ユウキはそれに気づいてピカチュウを抱えてかわした。
「え?」
「なんだ!?」
カスミはユウキを見て、サトシは攻撃してきた方角を見た。
「え?なんだ!?と声がする!」
「地平線の彼方から!」
「ビックバンの彼方から!」
「我らを呼んでる声がする!」
「お待たせニャーン!!」
「『水鉄砲』!!」
「うわぁ!!」
ユウキはラグラージを出して、攻撃した。
それは簡単に命中して、女の方、ムサシが吹っ飛んだ。
「ムサシ!」
「こら!ニャ―たちの登場シーンの邪魔をするニャ!」
「あれ?あいつらはロケット団なのか?」
「でも、ロケット団らしくないわね?」
エースとライトが合流した。
「でも、あいつらはロケット団よ!毎回毎回サトシのピカチュウを狙っているのよ!」
「なんでサトシのピカチュウを?」
「さぁ?」
「とりあえず、今日こそピカチュウをいただくぞ!」
「しつこいぞ!ピカチュウ!『10万ボルト』!!」
指示されるままにピカチュウは電気を放出した。それは見事に2匹と一匹に命中。しかも、ムサシは水を浴びている為に効果はてきめんだった。
そして、毎度の如く爆発を起こして空へ飛んで行った。
「なんでいつもこうなるのよ!」
「真っ向勝負をしたのが間違いだった!」
「次こそ成功させるニャ―!」
「「「やな感じ―!!!」」」
そして、3連星になって飛んで行った。
「弱いなーあいつら。本当にロケット団なのか?」
「全員集合ね!」
ようやく、ヒロトとカレンが合流した。
「さて、突入するぞ!」
「いや、前を見ろ。敵さんが出てきたぞ」
勢いづくサトシにエースが止めた。新たに5人と一人の雰囲気の違う男が姿を現したのだ。
黒いフードに黒いブーツ、黒いネクタイの全身ブラックで年齢はヒロトと同じくらいの男だった。
「お前らが10人の侵入者のうちの7人だな?」
「そうだったらなんだ!」
サトシは男を睨んで言った。
「ここで仕留めさせてもらう」
黒い男は威圧を効かせて、一歩踏み出す。
「(なんだ、こいつは全く今までとレベルが違う!?)俺がこいつを……!!??あれ?」
「どういう事だ?」
「なんで?」
「動けない!!」
ヒロト、エース、カレン……だけでなく全員が動けなかった。
「もう、お前らはこの島に入った時点で罠に掛かっているんだ!お前らは生きてこの島を出ることはできない。やれ!ゲンガー!『シャドーボール』!!」
強力なシャドーボールが放たれて、ヒロトを中心に爆発した。そして、全員がシャドーボールの爆発に巻きこまれて吹っ飛ばされた。
「なんて威力だ……」
サトシは攻撃の後に出来た地面の窪みを見てそう言った。
「おい、お前ら!全員を縛ってボールを回収しろ!」
男は5人の部下にそう命じた。
サトシやエースはなんとか動こうとしたが、まだ動けない。
「(なんだ……?まるで何かに縛られているような感覚だ……)」
そうしている間に、エース、カスミ、カレン、ライト、そしてサトシと次々縛られていった。
「(あれ?10人の侵入者?10人って……私たち7人と他の3人って誰だろう??)」
ライトは考えていた。
「ところで、残り3人の侵入者は?」
「二人はこいつらが吹っ飛ばした様だ。残り一人はどこかに隠れているんじゃないか?直に見つかるだろ?もう、バリアーで外に出られないようにしたんだからな」
「(え?と言うことは、あの二人は侵入者としてカウントされていたの?じゃあ、あと一人って誰!?)」
下っ端たちの会話を聞いてライトはさらに考えていた。
「とりあえず、こいつは今消しとかないとな」
男はそう言って、気絶しているヒロトに近づいた。
どうやら、先ほどのシャドーボールをまともに食らってさらに吹き飛ばされた衝撃で壁にぶつかってそのまま気絶したらしい。
「ゲンガー!」
ゲンガーは手をヒロトの頭にかざした。
「ヒロトさんに一体何を!!?」
「『夢食い』さ!でも、ただの夢食いじゃない。俺のゲンガ―の夢食いは生命力さえも食ってしまうほどの威力があるのさ。それで幾人もの夢を食いつぶしてきたものさ」
「や、やめろ!」
「こいつはロケット団を散々と邪魔してきたらしいからな。俺も指令でやらないといけないんでな!」
「やめろー!!」
もうダメかと思われた。だが、どこからかシャドーボールが飛んできた。
それがゲンガーに命中して、吹っ飛ばした。
「もう一人の侵入者か?」
男は周りを見回した。
「あれ?町が……?」
ライトは周りの景色を見ていった。町だと思っていた景色は、実は全てただの大きな岩の塊だったのだ。つまり幻だったらしい。
「そこか!」
男は岩の上を見た。
するとそこにはグレーのスカーフにサングラスをかけた男の姿がそこにあった。
「俺のライバルを勝手に消されては困るな!」
「お前のライバルだと?こいつが?」
グラサンの男は岩山から飛び降りて見事にこけた。
「いたた……」
「何者だ?お前?」
「ザングース!『連続切り』!!」
「え?」
グラサンの男に気を取られていた下っ端5人は油断していた。
まだユウキは縛られていなく、ポケモンを出して、一気に5人の下っ端を気絶させた。
次いで、エースたちの縄を切った。
「ありがとう。ユウキ!」
「お礼ならあの人に!」
ユウキはグラサンの男に向いて言った。
「トキオさん!ありがとうございます!でもなぜここに?」
「聞きたいか?」
「別に聞きたくない」
「よし聞かせてやろう!」
エースが聞きたくないと突っ込んだのを無視し、トキオがそのまま話を進めた。
「俺はある所で修行を積みヒロトにバトルを挑もうとしたのだが、奴の場所はまったく見当がつかなかった。そこで俺は一流の情報屋のフウトのことを思い出したんだ。そこで、ヒロトの場所を聞いたらここを言われたという訳!だから、ここは俺に任せとけ!」
「じゃあ、俺たちは先に進みます!ここはお願いします!トキオさん!」
サトシが言って最初に建物っぽいところに入っていった。次いで、カスミとエースも行く。
「カレン?どうしたの?」
ライトはカレンに声をかけた。
「お兄ちゃん!!」
「「お兄ちゃん!!??」」
ライトとユウキはあっけに取られた。
「今までどこに行っていたのよ!!お兄ちゃん!」
「悪かった。でも、大丈夫だ。この件が終わったら、一緒にいられる!それまで……」
「別に一緒に居なくてもいいわよ」
「ちょ、妹よ、辛辣じゃないかい!?」
トキオのちょっとかっこいいセリフもカレンの前には形無しである。
「とりあえず、気をつけてね!その人、絶対強いわよ!」
「わかっているさ!」
ライトとカレンは一緒に入っていった。
「ん?君は行かないのか?」
「俺はここに残ります!気絶したヒロトさんについていたほうがいいと思うし、何より、あの男はとてつもなく強い気がするんです」
「わかった。ところで、お前は何者だ!?」
黒づくめの男にトキオは言った。
「俺の名はクロノ。今はワケあってロケット団の用兵をやっているというところだな」
「用兵?」
「詳しいことはお前たちに説明することはない!そう、雑魚に用はない!ゲンガーやれ!『シャドーボール』!!」
「ヘルガ―、『フレアブレイク』!!」
ヘルガ―はシャドーボールをぶち抜くと、一気に攻撃を叩きこんだ。
「…………」
「俺は強いぜ?さぁ、一気に勝負を決める!」
第一幕 Wide World Storys
フォッグス島① ―――トキオ参戦――― 終わり