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たった一つの行路 №041

/たった一つの行路 №041

 62

 赤い帽子に青いズボン、そしてリュックを背負った少年が、道を走っていた。
 急いでいると言うよりもどこか嬉しそうに走っていた。

「ピカチュウ!もう少しで家に着くぞ!ママの手料理がいっぱい食べられるぞ!」

 少年はピカチュウと一緒に走っていた。そして、少年は家に辿り着いたようだ。

「ママ!ただいま!!」

 少年は元気よく、ドアを開けた。中からは少年の母親が出てきた。

「あら、お帰り~!ピカチュウ~!」

 母親は身をかがめて、ピカチュウを抱きしめた。少年はずっこけた。

「あら?サトシ、お帰り」
「た、ただいま……」

 少年……サトシは気を取りなおして立ちあがったのだった。



 たった一つの行路 №041



「うん!やっぱりママの手料理は美味しい!」

 サトシは勢いよく、母親、ハナコの作った料理を食べ尽くした。
 ピカチュウもポケモンフーズを食べておなかいっぱいのようだ。

「そう言えば、今、ハルカちゃんたちが来ているわよ」
「え!?ハルカたちが!?」
「マサト君がカントーのポケモンリーグに出る為にジムバッジを集めているんだって」
「そうか……マサトももうポケモンを持つ年になったんだ……。じゃあ、マサトたちに会ってくる!研究所にいるんだろ?」
「ええ!行ってらっしゃい!」

 ハナコは元気よく息子を見送った。またサトシはピカチュウと一緒に走り出した。

「ピカチュウ!もう少しでマサトたちに会えるぞ!」

 ピカチュウも嬉しそうだった。だが、一歩踏み出したときに、地面が抜けてしまった。
 サトシとピカチュウは漫画の様にあっさりと穴に落ちてしまった。その名の通り落とし穴だ。

「いたたたた……。こんなことするのは……!まさか……またお前らか!?」
「またお前らか!?と声がする!」
「地平線の彼方から、」
「ビッグバンの彼方から、」
「我等を呼んでる声がする」
「お待たせニャーン!」
「健気に咲いた悪の花……」
「ハードでスイートな敵役……」
「ムサシ!」
「コジロウ!」
「ニャースでにゃーす!」
「ロケット団のあるところ、」
「世界は、」
「宇宙は、」
「君を待っている!!!」
「ソーナンス!」
「チリーン!」
「マネネ!」
「やっぱり……お前らか……」

 サトシはあきれた様に言った。

「やっぱりお前らかと声がする……」
「地平線の彼方か―――」
「こ~ら!何度も言うニャ!台詞のムダニャ!」
「そうね!そんなことどうでもいいのよ!」
「お前ら……ほんとにいつもいつも俺のピカチュウを狙っているよな!」
「そうよ!って!いつの間にあんた、出てるのよ!!」

 そう、サトシはいつのまにか穴から出ていた。

「お前らがケンカしてる間に出たんだよ!ピカチュウ!『10万ボルト』だ!」

 サトシの指示に従い、電撃を放った。
 電撃はあっけなくロケット団に命中し、爆発した。

「もー!なんなのよ!全然出番無いじゃない!」
「せっかく初めての出番だったのに!!」
「「「やな感じーーー!!!!」」」

 こうして、いつも通りロケット団は3連星になった。

「ふう……。さて、行こうかピカチュウ!」
「ピッカ!」

 再び、サトシとピカチュウは研究所に向かって走っていった。



 63

「(ヒカリ……だと?)」
「(ヒカリって……確か)」
「(ハルキ?……まさか……)」

 ライトの言葉を聞いてヒロトとカレンは呆然と立ちつくした。
 ハルカはふとヒロトの表情を見る。
 信じられないという顔をして呆然としていた。
 その時、ふとエースは言った。

「ああ、確かに俺らと同じくらいの年だったな。どうせポケモンを道具としか思っていない歪んだ連中だろう」

 その時、何かが弾けた様にヒロトがエースに飛びついた。
 そして、エースに思いっきり殴りかかった。
 エースはその勢いでテーブルにぶつかって床に倒れた。

「キャッ!ヒロトさん!」
「っ!なんだ?なんのつもりだ!?」

 エースはヒロトを睨んだ。だが、それ以上にヒロトもエースを睨んでいた。

「ヒカリは……ヒカリはそんな奴じゃない!!」
「…………。そのヒカリと言う奴と知り合いなのか……」
「悪いか!?」

 エースはゆっくりと立ちあがった。

「(ヒカリさんってヒロトさんが探している人だったんだわ!でも……)ヒロトさん!ちょっと待って!同じ名前で別人ってこともあるかも!!」

 ハルカは言った。

「いや、絶対そうさ!ライトの言った特徴がそのままそっくりだったからな」

 ヒロトはエースを睨みながらも言った。
 そのエースは冷たく笑った。

「何がおかしいんだよ!」
「……いや、まさかな。ロケット団と知り合いの奴と今、俺はこの場にいるなんて思わなかったからな」
「なんだと!?」

 ヒロトはさらにエースに殴りかかる。
 しかし、ヒロトは殴りに行った右ストレートをかわされて、右腕を捕まれて、その勢いで投げ飛ばされた。
 しかも、その方向はエースが投げ飛ばされたテーブルがあった。

「いつつ……。この野郎!!」

 ヒロトは立ちあがった。

「何を怒っている?もう少し冷静になれ。ヒカリって女も自分の力欲しさにその組織に入って悪に手を染めたに決まっている」

 ヒロトはエースの胸倉を掴んだ。

「お前に!お前にヒカリの何がわかる!!」
「じゃあ、逆に聞く。お前はヒカリの何を知っているって言うんだ?」
「ヒカリはな!!ヒカリは……。ヒカリは……」

 ヒロトはそのあとにつづく言葉が見つからなかった。

「俺が言っていることが真実じゃないという根拠はどこにある?」

 そう言われると、ヒロトはエースを離した。

「ヒカリがお前の何かは深くは聞かない。だけど、1つ言っておく。淡い希望は時に自分をも滅ぼす。それが大きいほどにな。そんなリスクをあんたは背負えるのか?」
「エース!やめて!さすがに言い過ぎよ!」

 ずっと黙っていたライトが口に出した。

「とりあえず、作戦会議は一度終わりだな。ヒロトの情報が入った時にまた会議を開こう」

 そう言うと、エースは部屋を出て行った。
 ライトもエースを追って出て行った。

「畜生!!」

 ヒロトは倒れているテーブルを思いっきりやつあたりで蹴った。
 エースやヒロトがぶつかった際に倒れたテーブルだ。
 もうほとんど壊れていて使い物にならなかった。
 そして、ヒロトは部屋を出て行った。

「ヒロトさん!」
「ハルカ、待った!今は一人にしておいた方がいいんじゃないか?」

 ユウキはハルカをとめた。

「でも!」

 ハルカはユウキを押しのけようとした。

「私……決めた」

 ハルカとユウキは同時に彼女のほうを見た。
 正確には部屋にいる全員が彼女を見た。

「私、ロケット団と戦います!必ずロケット団を倒します」

 そう言うと、カレンも部屋を出て行った。

「なんだか、めちゃくちゃな会議になっちゃった……これから大丈夫かなぁ……?」

 マサトとこれからに少々不安を覚えたのだった。



「エース!ヒロトに対して少し言い過ぎじゃないの?」

 ライトはエースの後ろを歩きながら言った。

「私だって、エースが、今エースが言ったみたいに言われたら、怒るわよ!どうしたの!?エースらしくないわよ!!」
「俺らしくないか……。確かに俺らしくなかった。だが、あいつと面と向かっているとどうしても文句を言いたくなる。どうしてかな?」
「仲直りしようよ!これから一緒にロケット団と戦って行くんでしょ!?」
「さぁ、それはどうかな?」
「え?」

 エースは足を止めた。それにつられてライトも足を止めた。

「ロケット団と戦うかどうかはあいつ次第だ。ちなみに俺は仲直りする気はない」
「エ~ス!!」

 ライトは何度も言うが、結局、エースの結論は覆らなかった。



 一方、ヒロトはベッドに横になっていた。そして、エースの言葉を思い出していた。

―――「じゃあ、逆に聞く。お前はヒカリの何を知っているって言うんだ?」―――
「(俺は……ヒカリのことを知っている。小さい頃からずっと、ずっと一緒にいたんだ。旅立つあの日まで……)」

 ヒロトは思い出していた。旅をはじめる為の買出しへヒカリと一緒に行ったあの日を。

「(あの日はいよいよ旅立つと言う期待と不安でいっぱいだった。そこへヒカリが言ったんだよな……)」
―――「私と一緒に旅しない?」―――
「(でも、俺は断った。自分に自信がなかった。いっしょに旅をして行く自信がなかったからだ。でも、今考えるともう1つ理由があった。
 それは、俺はヒカリが好きでそれがヒカリに知られるのが怖かったんだ。あの時はそれが本当に怖かったんだ。今思えば、それは杞憂だったが。
 ヒカリが俺の事が好きだったとしても、仲のいい友達と見ていたとしても、旅をして行けたんだと思う。それが俺の最初のあやまち……)」

 ヒロトはベッドから起き上がり窓の外を見た。

「(そして、俺が知っているのは、ノースト大会で準決勝でヒカリと戦ったときまで。あれ以降はヒカリの姿を見ていない。それから今まで6年間。俺はヒカリのことを何も知らない……)」

 ヒロトは何気なくボールからピカチュウを出した。
 ピカチュウはすぐにヒロトの頭に飛び乗った。

「でも、今は知ることが出来る。ロケット団を倒して、その真実を知ることが出来る!ヒカリに会うためにも俺はロケット団と戦う!シオン!協力してくれ!」

 シオンは鳴き声を上げて、ヒロトに協力を誓った。
 さらに隣の部屋でも、窓から空をぼんやり眺める者がいた。

「ハルキ……ついに見つけたわよ……!今度こそ……」

 カレンも決意を新たにするのだった。



 64

 オーキド研究所のドアが開いた。
 そして、玄関から大きな声が響いた。

「こんにちは~!」
“ピッピカチュ~!”

 声の主はもちろんサトシとピカチュウだ。
 そして、真っ先に玄関に現れたのは、ユウキとハルカだった。

「あ、サトシ!」
「ハルカ!元気だったか?」
「もちろんよ!」

 仲良く話すハルカとサトシの姿に、ユウキはすねていた。
 そのユウキの頭に一つの飛行物体が飛んできた。
 その物体はメガネを持って飛びまわっていた。
 しかも、サトシはその物体に見覚えがあった。

「うわ!ジラーチ!なんでジラーチがここにいるんだ!?」
「待ってよ!ジラーチ!」

 と、マサトはジラーチに飛びついて捕まえた。

「あ、サトシ!」
「ラルゥ!」
「マサト!それに……ラルトス?」
「あ!このラルトスはね、ホウエン地方のときにあったラルトスなんだよ!」
「ラルゥ♪」

 ラルトスは何かとマサトの真似をした。

「あ、そんなことより、なんでジラーチがいるんだ!?千年の眠りについているはずだろ!?」
「実はね……」

 と、マサトが説明をはじめようとすると、ライトが現れた。

「そろそろ作戦会議をはじめるわよ!……あれ?あの人は?」

 ライトはピカチュウを連れたサトシを指す。

「俺はサトシです。こいつがピカチュウ。あ!もしかしてその帽子!」
「ん?あ、この帽子、知ってるの?」

 ライトは帽子を取って見せた。

「それって、ポケモン公認キャップだよな!?」
「よく知ってるわね!」
「俺も持ってますよ!今はこの帽子を被っているけど」

 サトシが被っている帽子とは、アニメのAG版の帽子である。

「あ!僕、知ってるよ!確か限定100個の帽子だって!僕も出したんだけど、外れたんだよね……」

 とマサトは言った。

「俺はハガキ千枚出して当てたんだ!」
「そこまでしてその帽子を欲しかったの?」

 マサトは何気なく突っ込んだ。

「あら!私も彼と同じよ!ハガキ千枚出してやっと当てたのよ!」

 ライトは帽子を被りなおして、サトシを見た。

「どうやらあなたとは気が合いそうね。私の名前はライト。よろしく!」
「はい!」
「(どうやら、ライトさんとサトシってどこか通じる所があるのかな?)」

 ユウキは内心そう思っていた。

「そう言えば、さっきライトが言っていた作戦会議ってなんのことですか?」
「あっ!行けない!みんな急いで!」

 そう言ってライトたちは会議室(と言うより応接間)に向かった。



 65

「それでロケット団の基地に着いて情報が入った。それはここ、マサラタウンの南、グレンタウンの北にあるフォッグス島といわれる場所らしい」
「フォッグス島?」
「霧で隠れている上に凄く小さな島らしい。だから、確認できないのかもしれない。しかも、普通の船ではなぜか近づけないらしい」
「普通の船では近づけないと言うことは、ポケモンで行くしかないって事ね」
「おのずとそう言うことになるだろうな」

 カレンの問いにヒロトがそのまま答えた。

「だが、そんな島がロケット団の本拠地とは思えないが?」

 と、エースが聞いた。
 ちなみにエースとヒロトの距離は誰よりも離れていた。やはり、仲直りをしていないらしい。

「支部だけでも見つけ出せれば、本拠地の場所、ボスの正体とかが割り出せるってわけですね」
「そう言うことさ、ユウキ。……少し考えれば解ることだろ?バンダナ君」

 と、ヒロトはエースに皮肉っぽく言った。エースは何も言わず黙っていた。

「それで、本題。行くメンバーについてなんだけど……」
「それなら、全員で行きましょう!戦力は多いほうがいいかも!」

 ハルカはそう言った。

「確かに。それがいいかもな」

 ヒロトは賛成した。

「俺はマサラに残るグループと基地に侵入するグループの2つに分けた方がいいと考える」

 と、ヒロトと正反対の意見を言ったのはエースだった。

「まず、マサトは残ったほうがいい」
「え!?なんで!?僕もロケット団と戦う!!」
「お前はジラーチを守るんだろ?守りながら戦う事なんて出来るわけがない。ましてや、他の人の助けなんか当てに出来ないぞ?」
「……でも」
「ジラーチを守るのはお前の役目だ。解ったな?」
「……はい」

 マサトはしぶしぶと受け入れた。

「じゃあ、マサトが残るなら私も残るかも!」

 ハルカはそう言った。

「残るんならあんたも残っていいんだぞ?腰抜けの雑草」
「誰が腰抜けの雑草だ!?」

 ヒロトが思いっきり反応した。
 ヒロトの髪が緑色でぼさぼさしていることからそういったのだろう。

「だってそうだろ?近くにいながら“彼女”について何も知ろうとはしなかった腰抜けだろ?」
「いいだろう。腰抜けじゃないって証明してやる!……俺は行くぞ!」

 ヒロトは怒鳴って言った。

「私は絶対行きます!」

 カレンも立候補した。

「もちろん俺も行く」
「エースが行くところが私の行くところよ♪」

 と、ライトはエースに抱きつく。ラブラブ度は健在だった。

「ところで、そのフォッグス島に行くにはポケモンで行くんですよね?それはもういるんですか?」
「それなら……」
「あ!俺に任せてください!俺にいい案があります!」

 ヒロトはユウキの疑問に答えようとした。だが、サトシが割ってきた。

「そう言えば、あんたは?」
「俺はサトシ。俺も協力するよ!ロケット団と戦うのに!」
「…………」

 エースは黙り込んだ。

「やめといた方がいい!」

 そう言ったのは、ヒロトだった。

「ロケット団とかかわるとろくなことにならない!まず、第一にロケット団の強さをわかっているのか?」
「それなら……ヒロトさん!俺とバトルしてください!」
「……。わかった。それで決めよう」

 ヒロトは複雑な顔をして言った。
 でもそれはサトシのロケット団と戦うという思いに複雑だったのではない。
 サトシと戦うことになったという夢が現実になったことに複雑になったのだ。
 そして、場所を庭に移した。

「ルールは2対2のシングルバトル」
「いいぜ!」

 ヒロトはキノガッサを出した。

「(草系……それなら!)マグマラシ!君に決めた!」

 ボールとともに現れたのは、あくびをしたマグマラシだった。あのヒノアラシの進化系だ。

「そちらからいいぜ!」

 ヒロトはサトシに先手を譲った。

「行くぜ!マグマラシ!『電光石火』!!」

 素早い動きでマグマラシはキノガッサに接近する。
 そして、体当たりをかます。
 そのまま攻撃はキノガッサに命中する。
 キノガッサはちょっと後退した。
 そして、マグマラシは一度サトシの元に戻る。

「もう一回『電光石火』!!」

 サトシは連続で攻撃を仕掛ける。

「マッシュ!ジャブで受け止めろ!」

 キノガッサはマグマラシの二回目の攻撃を見切っていた。
 電光石火のタイミングに合わせて、軽くジャブをマグマラシの額にかました。
 マグマラシは少し飛ばされた。

「マグマラシ!?」
「そのまま、ラッシュだ!」

 マグマラシを飛んだのと同じスピードでマッシュは接近し、ジャブの嵐を繰り出す。
 そのスピードは最初の比にならなかった。

「マグマラシ!かわせ!」

 そのジャブをマグマラシはなんとかかわして行く。
 しかし、それは100発目までだった。
 101発目がマグマラシの腹に命中して、吹っ飛ばされた。
 ちなみにキノガッサは1秒間に20発ジャブを放っている。

「接近しろ!『マッハパンチ』!」
「マグマラシ!『煙幕』で撹乱だ!」

 キノガッサの攻撃が決まる前にマグマラシの煙幕がたちまち広まって行った。
 キノガッサは攻撃をとめた。

「(このまま攻撃をするぜ!)」
「マッシュ、『ソーラーパンチ』を地面にかませ!」

 サトシが決断するのよりヒロトは速かった。
 太陽の力と風の力を集めた拳を地面にふるった。
 すると、強烈な風が発生して一気に煙幕は晴れていった。
 マグマラシが丸見えになった。

「(それでも攻撃だ!)マグマラシ!『火炎放射』!!」
「マッシュ、突っ込んで『爆裂パンチ』!!」

 マッシュは炎攻撃にもかかわらず、マグマラシに突っ込んで行った。

「無茶苦茶だよ!草に炎は弱いんだよ!」

 マサトは見ていて言った。

「そんなことは常識だ。だが、奴のキノガッサは違う」
「え?」

 エースは言った。

「あいつのキノガッサは氷攻撃も炎攻撃も通用しない。なにせ、俺のハクリューの冷凍ビームが効かなかったんだからな」

 エースの言ったことは現実となった。
 キノガッサは炎を浴びながらも接近して行き、パンチを命中させた。
 サトシとヒロトの中心で戦っていたはずなのに、マグマラシはサトシの遥か後ろまで吹っ飛ばされた。

「マグマラシ!」

 サトシはマグマラシに近づく。しかし、マグマラシはまだやられていなかった。

「(くっ!でもダメージが大きい!一体どうすれば……?火炎放射以上の攻撃と言ったら……あれしかない!)」
「マッシュ!『マッハパンチ』!!」

 追い討ちをかけるように、キノガッサは接近した。

「マグマラシ、地面に向かって『火炎放射』!!」
「一体何をするつもり!?」
「…………。(なるほど……)」

 ハルカは疑問に思った。それとは逆にカレンはサトシの行動の理由を理解している様だ。
 火炎放射でマグマラシは一気に空へと舞いあがった。

「そのまま『火炎車』でキノガッサに突っ込め!!」

 マグマラシは炎を纏って、落下体制に入った。

「そうか!火炎放射で飛ぶことで、動けなくても攻撃できると言うわけだ!」
「それに重力の影響で威力は上がる!」

 マサトとユウキが順々に説明した。

「でも、避けられたら終わりでしょ?」
「攻撃の後には必ず隙が出るものさ!だから、サトシの攻撃は当たるはずさ!……あれ!?キノガッサがいない!?」

 ユウキがハルカに説明している間に、キノガッサは消えていた。
 いや、キノガッサの攻撃がマグマラシに命中していた。

「え!?」

 マグマラシは空中で攻撃を受けてそのまま地面へ叩きつけられた。
 キノガッサは余裕で着地した。

「『マッハパンチ』の後に『スカイアッパー』だって!?そんなに攻撃を切りかえることが出来る物なのか!?」

 ユウキは驚いた。

「…………。今のは予想していたんじゃないの!?サトシが今のような攻撃に出るということを」

 ライトはそう思っていた。

「マグマラシ!戻れ!」

 サトシはマグマラシをボールに戻そうとする。
 その時、サトシの目の前にキノガッサが接近してきた。そして、拳を振りかざす。

「うわっ!」

 サトシは驚いて腰を引いた。

「ピッカッ!!」

 サトシのピカチュウがサトシの肩から降りて臨時体制を取った。

「何をするんだ!」

 サトシは当然怒った。

「今のは、威嚇のつもりでやっただけさ!要するにロケット団と戦っているときはポケモンを戻すだけでも隙になるということさ!」
「!!」
「ところで、そっちの二匹目はそのピカチュウでいいのか?」
「はい!ピカチュウ!頼んだぜ!」
「それなら……シオン!」

 ヒロトはキノガッサをボールに戻した。
 それと同時にピカチュウがヒロトの頭から飛び降りた。

「ピカチュウ対決ね……。見た感じはどちらも強そうね」

 カレンは同時に実家にいるローガンのピカチュウを思い出していた。

「サトシのピカチュウも強いけど、ヒロトさんのピカチュウは尋常じゃない強さだからな…」
「ああ。ヒロトさんのピカチュウは強い……」

 マサトとユウキがそれぞれに言う。
 そして、バトルが始まった。

「「電光石火!」」

 最初は同じ技だった。同じスピード、同じ威力の攻撃がぶつかって交錯した。

「シオン、『電撃波』!!」
「ピカチュウ、『10万ボルト』!!」

 両者、ともに電撃技を指示する。電撃波は絶対命中を誇る攻撃技。10万ボルトは電気系の中で最もポピュラーかつ手ごろな技である。

「なっ!」

 ヒロトが予想もしていなかったことが起きた。ピカチュウの電撃波を押し切って、サトシのピカチュウの10万ボルトが打ち勝ったのだ。
 そして、爆発が起きて、シオンは少し後ろへ飛ばされた。

「畳み掛けろ!『かみなり』!!」

「シオン!『10万ボルト』!!」

 かみなり…それは電気系最強の技である。
 しかし、今度は10万ボルトとかみなりが爆発し、相殺で終わった。

「サトシのピカチュウの『かみなり』とヒロトさんのピカチュウの『10万ボルト』が同じ威力!?」

 ユウキがそうつぶやく。

「(普通に電気攻撃すると、確実に防がれる……。それならば、スピードで勝負だ!)」
「シオン!『スピードスター』!」
「ピカチュウ、『高速移動』!!」

 ピカチュウは毛玉を毟って、飛ばして攻撃する。
 一応必中技なのだが、サトシのピカチュウのスピードはそれを上回っていた。

「そのまま回避しながら接近しろ!」
「それなら、シオン!『電撃波』!!」

 このピカチュウの収束した電撃を飛ばす攻撃は鍛えることでいつのまにか音速をも超えていた。
 見てから避けるのはほぼ不可能であった。
 無論、ピカチュウに攻撃は命中した。

「ピカチュウ!……なんて攻撃の速さだ!」
「決めろ!『10万ボルト』!!」

 続いて強力な電気を放つ。

「(懐に飛びこむなら今だ!)ピカチュウ!『電光石火』!」

 10万ボルトへと向かっていき、それをぎりぎりまでひきつけてかわした。
 そして、そのままピカチュウへとタックルする。

「行っけ―――!!!!」
「シオン、今だ!『サマーソルト』!!」

 ピカチュウはバック宙の要領で後ろへ飛び尻尾を突き出した。
 そのまま、向かってくるピカチュウに尻尾をぶつけた。
 そして、真上へぶっ飛ばした。その高さ、30メートル。

「ピカチュウ―――!!」
「まさか……電光石火の威力を利用して、その力の向きを変えたのか!」
「でも、それでも、あんなに飛ばすなんて!」

 ユウキとハルカは驚いた。

「(いや、これを利用する!)ピカチュウ!そのまま『アイアンテール』だ!!」

 サトシは再び落下の勢いを利用すると事を思いついていた。

「シオン!こっちも『アイアンテール』で向かい打て!」

 サトシのピカチュウが落ちてくるタイミングで、ピカチュウは飛びあがった。
 サトシのピカチュウのアイアンテールが上から下に振り下ろすのに対して、ヒロトのピカチュウは横に薙ぎ払う物だった。
 どう考えてもサトシのピカチュウが有利だった。
 しかし結果は違っていた。
 インパクト後、ピカチュウはヒロトの方向へシオンはサトシの方向へ吹っ飛び、不時着した。
 ダメージの量は同等だった。

「シオン、『充電』!!」
「え!?」
「そこでその技!?」
「…………」

 ユウキとマサトは口を挟んだ。それとは逆にエースは冷静に見ていた。

「(今、しかない!)ピカチュウ!『ボルテッカー』!!!!」

 ピカチュウしか使えない最強の技。しかし、反動が加わるリスクのある技である。
 ピカチュウは電気を纏って、ヒロトのピカチュウに向かって地面を駆けて行った。

「シオン、尻尾に全ての力を込めろ!『エレキテール』!!」

 尻尾が電気を纏って、光り輝いていた。
 強力な電気が尻尾に流れていることは明白だった。
 そして、二匹のピカチュウの攻撃が激突した。

「ピカチュウ!」
「シオン!」

 結果はどっちもダウンしていた。サトシとヒロトはそれぞれピカチュウを抱き上げた。

「ご苦労様ピカチュウ……。ゆっくり休んでくれ」

 サトシはヒロトを見た。
 ヒロトはちょうどピカチュウをボールに戻したところだった。

「君の強さはわかった。実力は充分にある様だし、ついていってもいいけど……なんでロケット団と戦うんだ?なにか理由でもあるのか?」
「作戦会議が始まる前にロケット団の騒動があったことを聞きました。仲間が困っているのに助けないわけにはいかないでしょ!」
「そうか……。いいよな?ライト」
「(なんで私に振るの……?)いいよね?エース?」
「好きにしたらいい」

 そして、サトシもロケット団の基地潜入作戦に加わった。

「そう言えば、サトシが言っていたいい案っていうのは?」

 ハルカが聞いた。

「水ポケモンでいけばいいじゃないか!俺の知り合いに水ポケモンのジムリーダーがいるです!彼女の力を借りれば行けますよ!」
「と言うことは、もう一人増えると言うわけか……」
「でもジムリーダーならいいんじゃない?肩書きは十分でしょ?」
「そうだな」

 エースとライトはサトシが推した人物も加えることにした。

「じゃあ、俺連絡とってきます!」

 そう言って、サトシは部屋へ入っていった。

「ケンジは残るって言っていたから、残っているのはユウキだけだが……」
「俺は……行きます!」
「え!?ユウキ!?」

 ハルカは驚いた。

「何が出来るかわからないけれど、俺も行く!あ、もしかしてハルカ、俺のこと心配している♪」
「なんでユウキ嬉しそうなの?」

 マサトは何気なく突っ込んだ。

「ユウキだけじゃなくて、みんな心配よ!ヒロトさんもエースさんも……」
「大丈夫さ!そんなに簡単にロケット団なんかに負けなさ!」
「そうよ!私だっているんだから!」

 ヒロトとライトは前向きに言った。
 こうして、フォッグス島へ行くメンバーが決まったのだった。



 第一幕 Wide World Storys
 マサラタウンの集結④ ―――マサラタウンのサトシ――― 終わり


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Last-modified: 2015-02-01 (日) 10:08:45
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