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「う~ん……」
日の光が入る部屋のベッドで寝ている者がいた。
その者は何かにうなされている様だった。
そして苦しそうに誰かの名前を呼ぶ。
その声は聞き取れないほどだ。
同じく部屋の中で本を読んでいた少女は彼にうめき声に気づいて、彼の顔を見た。
苦しそうな顔をしていた。
「(……いったいどんな嫌な夢を見ているんだろう……?)」
彼女はそう思っていた。
やがて男は何か吹っ切れると、がばっとベッドから飛び起きた。
「ひ、ひかり……?」
天井から差し込む光を眩しそうに見ながら言った彼の最初の一声はその言葉だった。
「ひかり……?あ、天窓の日光の事ね!」
「え?ん?……あ……!あっ!お前は!確かバンダナ男と戦っているときに『歌う』攻撃をして割りこんできた人!」
寝ぼけた頭を振って彼、ヒロトは身構えた。
「ちょっと!まだ、私をロケット団だと思っているの?違うわよ!といっても、昨日まで私もあなたたちがロケット団だと思っていたのだものね。……無理も無かったわね」
「……と言うことはお互い勘違いしていたということか……」
「そう言うことね」
ヒロトは安心して胸をホッと撫で下ろした。
「ところでヒロト……」
ヒロトは名前を呼ばれて、彼女を見る。でも、不思議に思って首を傾げた。
「あれ?俺、名前を名乗ったおぼえは無いけど?」
「あなたの仲間から聞いたのよ!」
「(ああ、ハルカたちか……)」
「話を戻すけど、ジラーチは無事にオーキド博士に届けられたわ。だから、もう大丈夫よ」
「そうか……。よかった」
「それで、ジラーチに関する結果が一週間ぐらいかかるから、オーキド博士がのんびりして行きなさいだってさ」
「わかった」
「あ!自己紹介がまだだったね!私はライト!ホクト地方出身のトレーナーよ!目指しているのはジムリーダー!(本当に目指しているのはエースのお嫁さんだけど♪)」
と、彼女は少し薄ら笑いを浮かべた。
「じゃあ、俺も自己紹介しないとな!俺の名はヒロト……って、知っているか。ノースト地方の出身で目標は……今のところ無い。(旅する目的はあるけど)」
と、ヒロトは苦い顔をしていた。
「カントーの大会のためにジム戦をしてまわっていたんだけど、タマムシシティでジラーチのことを知って、助け出したんだ。……あ、もしかしてハルカたちからもうその話は聞いた?」
「ええ。昨日聞いたわ」
「え!?昨日??」
ヒロトは目を丸くした。
「あんた、ずっと寝てたのよ?あれから一日経って今はもう昼よ。ちょっと心配で私があなたを見ていたのよ」
どうやら、ライトの話を整理するとこういうことらしい。
ヒロトたちはトキワシティを出て一回野宿をした。
そして、その夕方にヒロトとエースが戦って、ライトがプクリンたちで二人を眠らせた。
でも、ヒロトは夜が来て朝が来ても目を覚まさなかったために心配になってライトが看ていたと言う事だ。
この話からすると、ヒロトたちはトキワシティからマサラタウン間を1日半で来たという事である。
つまり、これが“あの”伝説に並ぶ第二位の記録だと言うことである。
しかし、そのことにヒロトはまだ気づいていない。
「ヒロトが目覚めたなら、私はエースを探しに行こっ!」
するとライトはスキップをしながら、部屋を後にして行った。
「……エース……あのバンダナをした男かな?」
たった一つの行路 №039
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「さて、これからどうしようか?」
腕を組んでユウキは言った。
「言ったじゃない!サトシに会いに行くって!」
ハルカはエネコの毛並みを手入れしながら言った。
確かに予定ではジラーチを預けたらサトシの家に行く予定だった。
「あ、サトシなら今、オーキド博士のお使いに出ていていないよ」
ケンジはハルカの手元にいるエネコをスケッチしながら言った。相変わらず、彼の絵はうまい。
「えー!?せっかく会えると思ったのに~」
マサトはがっくりとうなだれた。
昨日再会したラルトスはマサトの左肩に乗っていた。
そして、マサトの真似をして、がっくりとした。
「でも、そろそろ戻るはずだけどな~。そんなに遠くには行っていないし……」
「じゃあ、どうしようか……」
マサトは悩んだ。
「サトシはいないけど、サトシのポケモンたちならいるよ!会いたいかい?」
もちろんケンジの提案をマサトたちは受け入れたのであった。そして、彼らは庭に向かったのであった。
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オーキド邸、ポケモンの庭の裏では、バンダナをした少年が電話を掛けていた。
「あ、バトラーさん?ジラーチの繭……いや、ジラーチを見つけました。……あ、これにはワケがありまして……。……はい。……はい……はい。解りました。それで……。……というわけで、一週間後にまた電話します」
もちろんこの長い電話を掛けているのはエースである。その電話が終わり、ポケギアのスイッチを切った。だが、そのエースに後ろから忍び寄る影があった。
その影はバッと!後ろから攻撃を仕掛けた。エースはそれを軽くかわした。
「何でかわすのよぉ~!」
その攻撃をしかけたのは他ならぬライトだった。その攻撃の名は抱きつく攻撃である。
「……あ。つい……敵かと……」
と、エースはぶっきらぼうな声で言った.
「私が敵だって言うの~?」
ライトは笑顔で言った。
内心はわからないが、おどけた様子で言っているように見えた。
「だから、ごめんって」
「じゃあ、態度で示してよ!」
と、ライトはそっと目を閉じた。
「…………」
エースは一回頭を掻いて、ライトにそっと近づいた。
そして、後ろに回ってライトの胸の上辺りに手を回して抱き寄せた。
「本当に悪かった」
エースはそう呟いて、そのまま20秒間くらい抱きしめた。
「うん……」
ライトは頷いた。
20秒と言う短い時間だったがライトには、とても長く感じたことだろう。
「悪かったついでにもう1つ。ちょっとこれから一人でやることがあるからライトたちはマサラタウンで待っててくれ」
「え!?」
エースは、ライトから離れた。ライトはすぐに振り向いたが、視界にエースの姿は入ってこなかった。
空を見ると、ハクリューに乗って飛び立つ姿が見えた。
「……エース……」
ライトは彼の名前を呟いた。どこかその表情は切なかった。
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「うわぁ~~~!ポケモンたちがいっぱいだ♪」
マサトは目の前に広がる一面の庭を見て、はしゃぎ始めた。
肩に乗っているラルトスも同じ反応をした。
「ほんとにいっぱいかも!あ!あのポケモンたちは……!」
ハルカが指差す先には空を飛びまわるオオスバメと、岩山で休んでいるコータスがいた。
「良くわかったね!あの二匹はハルカの知っている通り、ホウエン地方で一緒に旅したサトシのポケモンだよ」
「わ~!オオスバメ!コータス!」
ハルカは手を振り、二匹を呼んだ。
オオスバメはハルカに近寄って、頭上を飛びまわった。
コータスは相変わらず、大泣きした。感動の再会といった所だろうか。
「あ!あの踊っているポケモンはサトシのワニノコでしょ?」
「じゃあ、あの色違いのポケモンはサトシのヨルノズクだね?凄く頭がいいって言う」
ハルカとマサトは次々とサトシのポケモンを当てて行く。
「初めて見てよくわかるね……?」
「サトシのポケモンは話に聞いていたから!」
と、マサトは言った。
「それにしても、そのサトシって奴のポケモンは特徴ある奴ばっかりだな」
ユウキがボソッといった。そのとき、ユウキの頭上を一匹のポケモンが通り過ぎていった。
そのポケモンはユウキの帽子を奪い取って、走り去って行った。
「あれは!」
「エイパム!」
「ああ、あれはサトシが最近ゲットしたポケモンだよ。なんだか、他人の帽子が好きみたいなんだ」
と、ケンジは説明した。
「って!俺の帽子を返せ!!」
ユウキはムキになってエイパムを追いまわした。だが、一向に捕まる様子はないようだった。
「ここにいたか……」
「あ、ヒロトさん!」
ヒロトはあくびを噛み締めながら、ユウキを見ていた。
「ほんとにサトシって奴のポケモンは特徴があるな。いったいどんな奴なんだ?」
「サトシはポケモンのことを第一に考えていて、それでもってとっても熱い性格なんだ。攻撃しかしない感じにね……」
マサトはヒロトにサトシの事を説明した。
「で、彼の出身がここ、マサラタウンというわけか。(……もしかしたら、この場所で彼とバトルするかもしれないな)」
ヒロトはそんな予感がしていた。いや、それは予感ではなくもっとハッキリとしていたものだった。
「予知夢かぁ……」
「何か言いました?」
「え?何でもないよ!ところで、そのラルトスはどうしたんだ?」
ヒロトは話題を逸らした。
「このラルトスはね、サトシたちと旅をしていたときに出会ったラルトスなんだ。二年前のことだったんだ―――」
そして、マサトはラルトスとの出会い(馴れ初め話?)をヒロトに説明した。
その説明を聞くヒロトの様子はどこか羨ましげだった。
「そして、エースさんが偶然持っていたポケモンがそのラルトスなんだ。そうしたら、昨日エースさんが、僕に譲ってくれるって言ったんだ!」
「そうか……よかったな……」
ヒロトは急に暗い顔になった。
「じゃあ、俺はちょっと外に行って来る……」
そして、とぼとぼと歩き去って行った。
「ヒロトさん、なんか元気ないね。どうかしたのかな?」
「(もしかして、ヒロトさん、ラルトスとの出会いの話を聞いてヒカリさんのことを思い出しているのかも?)」
突然ラルトスはマサトの肩から降りて庭を走り出した。
「え?ちょっと待ってよ!ラルトス!!」
マサトは急いでラルトスを追って行く。
ちなみにユウキはまだエイパムから帽子を取り戻すのに必死だ。
56
一人になったライトには寂しさが募っていた。
「(違うの……。私はキスを期待していたのにエースはそれに気づいてくれなかった。なんで?なんでなの……?)」
ライトは道端を当ても無くぶらぶらと歩いていた。
「(どうもエースの様子がおかしいわ……。もしかして、私じゃ不満なのかな?それとも積極さが足りないのかな?……最近はキスもしてくれなくなったわ)」
はぁ、ライトは大きいため息をついた。
そんなライトの視界に入ってきたのは、一人の女性だった。
年は20代、いや、もう30代になろうってところだろうか?
20代と言われてもおかしくないくらいとても活き活きとしている人だった。その女性の傍らにいるのはバリヤードだ。だが、様子がおかしかった。
バリヤードは傷だらけで立っていた。どうやら、何かから、女性を守っているらしい。
ライトは急いで近づいてみた。そこにいたのは一匹のヤミラミだ。
「バリちゃん!しっかりして!バリちゃん!」
バリヤードは気絶寸前。かろうじて意識はあるが、もう戦えない状態だった。
そこへヤミラミが突っ込んだ。バリヤードはあっけなくシャドーボールで飛ばされて、ヤミラミは女性に襲い掛かった。
女性は目を閉じた。
「危ない!『リフレクタ―』!!」
女性の前に強力な壁が現れて、ヤミラミの攻撃から身を守った。
ヤミラミは壁から弾き飛ばされて、後ろへ下がった。
そして、2撃目をライトの方へ向けてきた。シャドーボールだ。
しかし、ライトのポケモンはその攻撃を軽く受け止めた。全く効果はない。
「効かないわよ!(それにしても、このヤミラミ……気性が荒いわね……。普通のポケモンとは何か違うような……)」
ヤミラミはシャドーボールが効かなかった事に腹を立てて今度は突っ込んできた。
「同じことよ!『リフレクター』!」
ヤミラミの攻撃がリフレクターに接触した。
すると、ライトの予想に反して、リフレクターはいとも簡単に破壊された。
そして、ヤミラミの攻撃がクリーンヒットした。
「くっ!まだよ!」
ライトの予想外だったといえ、しっかりと対策はしてあった。
ヤミラミの攻撃の隙を狙って、カウンターに出ていたのだ。右手にシャドーボールをそのままダイレクトにぶつけた。
どちらもダメージを受けたが、ダメージはヤミラミのほうが大きかった。
さらにヤミラミの様子がおかしかった。あれだけ気性の激しかったヤミラミが攻撃を仕掛けてこないのだ。何かにまごついている様だ。
「特性『メロメロボディ』。この子に直接、手を出すとこの子の虜になっちゃう特性よ!あーあ、私もこんな特性があったらいいのになぁ。そしたら、エースだって……」
ライトはがっくりとしながら、そう言った。
「おっと、いけない……!プクリン、『歌う』!」
メロメロ状態のヤミラミは喜んでこの歌を聞いてしまった。案の定眠りにつく。
そして、すかさずライトはモンスターボールを投げる。ヤミラミはあっさりと捕獲された。
ライトはヤミラミのボールを手にとった。ライトの腰につけているボールラックには6つとも全てつけてある。
リュックは今、持っていないためヤミラミを仕舞えなかった。
とりあえず、持っていることにした。
「大丈夫ですか?」
ライトは襲われていた女性とバリヤードに話し掛けた。
「ええ、私は大丈夫よ!でも、バリちゃんが……」
「大丈夫!私に任せて!プクリン!『願い事』!!」
プクリンは手を合わせて、祈りを捧げた。
すると見る見るうちにバリヤードの傷が治っていった。
完全には元気にならなかったが、立てる程度には回復した。
「よかった……。ありがとう!ところであなたは?」
「私はライトです」
「ライトちゃん……いい名前ね」
「え?いい名前ですか?」
ライトは名前のことで誉められたことがないらしく、照れ笑いをした。
「よかったら、私の家に寄って行かない?これからちょうどティータイムの時間なの」
「(このヤミラミは後からでも持って行けるし、エースはいないし、他にやることないし……)それじゃあ、お言葉に甘えて!」
ライトはこの女性の好意に甘えることにした。
「私の名前はハナコ。よろしくね!ライトちゃん!」
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村の中心部から少し離れた高原にある木の上にヒロトはいた。
彼は、ずっと考え事をしていた。
「(夢……。最近はノースト地方を旅したときに見せられた夢が現実になってきた。フライトで空中を飛びまわる夢。マサトたちがピンチになったとき、助けに入ろうとしてこける夢。
自分が囮になってマサトを先に行かせる夢。そして、昨日はメタグロスでいきなり攻撃をしかけられる夢。全てが現実になっている……。
全てこの夢の通りに進むなんて嫌だ!ましてや、最後に見た夢だけは現実にさせるわけには行かない!!いや、もう現実になんかさせてたまるか!!)」
ヒロトは木の上から飛び降りて見事に着地した。
「ヒカリ……会いたいよ……」
ヒロトは空を見上げた。
この空のどこかにいるはずなのに、会えないという現実にヒロトは寂寞の思いが混み始めてきた。
ヒロトは完全に失念していた。
そのためにこの瞬間に気づくことができなかった。
突然仕掛けられた攻撃をヒロトはもろに受けて吹っ飛んだ。
吹っ飛んでその勢いで地面に叩きつけられて、ヒロトは意識を失った。
“ターゲットに命中!”
黒服を着て“R”のシンボルを持ち、仮面をした下っ端の男が言った。
“追撃しますか?”
下っ端の男はリーダーである仮面の男に聞いた。
リーダーの傍らには禍々しいバンギラスの姿があった。
そのバンギラスは、普通よりも威力の高い破壊光線を放った。
しかし、特筆するべき点は破壊光線の威力よりも普通のバンギラス以上の体格をしていた。
リーダーの計算通り、ヒロトを吹っ飛ばして、気絶させることに成功した。
「いえ、もういいでしょう。それよりあなたたちはそのあと、ターゲットを捕まえることだけを考えなさい」
“はっ!”
“あの……”
「なんだ?」
仮面をした女の下っ端が今度は聞いた。
“ヤミラミが見つかりません!”
「あのヤミラミか。ほっときなさい!一匹や二匹いなくなろうと今の我がロケット団には支障は有りません!」
“はい!”
そうして、仮面の女も引込んだ。
「よし、捕獲しなさい!」
“はっ!”
仮面をした男女二人が飛び出して行った。それぞれ、オニドリルとカメールだった。
その二匹とも、普通のポケモンより大きく、何より目つきが鋭かった。
そうして、襲い掛かるが、オニドリルは氷で遮断され、カメールは念動力で吹っ飛ばされた。
“なっ!?”
“誰だ?!”
「ヒロトさんにいったい何をしているのよ!」
仮面の男女を阻んだのは、ハルカだった。
爆発でヒロトに駆け寄ろうとしたところ、怪しい2人組みが襲い掛かってきたので、二人が迎え撃った次第である。
“邪魔をするのなら容赦はしない!”
“私たちはロケット団よ!盾突くんなら命はないわ!”
「ポケモンたちの雰囲気が、雰囲気がいつもと違う!一体何をしたっていうの?」
相手のポケモンをみて、ハルカは気を引き締めて迎え撃つ。
“オニドリル、『燕返し』!”
“カメール、『水の波動』!!”
「エネコ、『捨て身タックル』!エーフィ、『サイコ光線』!!」
オニドリルは素早い攻撃を繰り出す。だが、一瞬の隙を狙い、エネコがタックルを決めて、オニドリルを一撃で撃破した。
一方のカメールの攻撃もエーフィが押し込み、カメールを一撃でダウンさせた。
“そんなバカな!”
“私たちのポケモンが一撃!?”
「エーフィ、『サイコキネシス』!!」
次のポケモンを出される前に、仮面の男女を吹っ飛ばして気絶させた。
二人はしばらく戦えないだろう。
「全く役に立ちませんね」
「あなたがリーダーね」
リーダーの男はダウンジャケットを着て、やはり仮面を被っていた。
「直属の部下が情けない。まさかこんなにあっけなくやられるとは……。これも邪悪なる力に溺れた結果ですね」
「邪悪なる力?」
ハルカは首を傾げた。
「特別に教えてあげましょう」
そして、男は1つのボールを取出した。黒く不気味なボールだった。
「このボールはダークボール。ポケモンの力を最大まで引き出すボールです。このボールで捕まえたポケモンは全ての技と身体能力がアップします。さらに性格も強暴になってより戦闘向きになります。
これこそが邪悪なる力。邪悪なるポケモンというわけです。そして、このポケモンたちを使って、我々ロケット団は世界を征服するのです!」
「じゃあ、なんでヒロトさんを狙ったの!?」
「こいつのことですね。こいつは、我々ロケット団にとって邪魔な存在なんですよ。なんといっても、今までで二番目に邪魔した数が多い人物なのですから。
だから、捕まえてもうそんなことをさせない様に体で覚えさせるのです。ロケット団の恐ろしさをね。でも、知ったときはもう遅いです……」
「ヒロトに手出しはさせないわよ!」
「ほう、私に刃向かう気ですか。それなら容赦はしません。私の名はビシャス!ロケット団幹部、『邪悪なるポケモン使い』です!さぁ、破壊しなさい!」
幹部ビシャスは二つのボールを投げた。
一つ目は邪悪なるモンスターボール。
もちろん出てきたのは、彼の説明した邪悪なるポケモン。それもバンギラスである。
目つきは鋭く体格も大きかった。
しかし、二つ目は普通のモンスターボールだった。
ポケモンは同じくバンギラス。このポケモンも普通のバンギラスとはどこかが違っていた。
だが、どう違うか説明しようにもハルカにはそれがわからなかった。
「やりなさい!『砂おこし』!!」
二匹のバンギラスが出た時点ですさまじい砂嵐が生じた。いや、砂嵐のレベルではない竜巻レベルだ。それはビシャス以外の全てを巻き込んだ。
そして、砂嵐がやんだとき、ビシャスの視界には誰もいなかった。
「やれやれ、消し飛びましたか」
「そう簡単にはやられないわ!」
ハルカはゴンベの穴を掘るで地面に逃れていた。
「やりますね。でも、あなたたちは勝てません。バンギラスたち!破壊しなさい!」
邪悪なるバンギラスは即座に破壊光線を放った。
ゴンベはその攻撃にも即座に反応してかわしたが、もう一匹のバンギラスがゴンベを潰した。
「ゴンベ!?そんな、一撃でやられるなんて!」
ゴンベを戻して代わりにフシギソウとバシャーモを繰り出す。
「ムダなことですね。このような力を見せ付けられて、なぜ戦うのですか?」
「フシギソウ!!『葉っぱカッター』!!」
鋭い葉っぱを連続で放つ。だが、バンギラスは腕を使って防御した。
「効いてない!?……それなら『ソーラービーム』よ!!」
フシギソウはすぐに力を溜めて放った。
しかし、バンギラスの方は黒いエネルギー状のものを放って相殺した。
「えっ!?」
バンギラスはさらに恐ろしい速さで接近した。バンギラスは拳を振り上げる。
「『眠り―――」
だが、バンギラスの素早い攻撃の前に技を言うことすらできなかった。
同じく、もう一匹のバンギラスにバシャーモが攻撃しているが、ハルカがフシギソウにつきっきりのため、うまく攻撃を繰り出せていなかった。
「バンギラス!破壊しなさい!」
次々と邪悪なるバンギラスは尋常なる破壊光線を放った。
バシャーモは距離をあけられて、避けるのが精一杯だった。
「(これじゃ、バシャーモもやられちゃう!?なんとかしないと!)」
「これで終わりです。『拡散破壊光線』!!」
邪悪なるバンギラスは大きく息を吸いこんだ。次の瞬間には破壊光線が分裂して火の粉のごとく、バシャーモとフシギソウに襲い掛かった。火の粉と破壊光線の威力は大違いであるが。
2匹ともかわしきれずに命中した。
「……っ!バシャーモ……」
バシャーモはもう一匹のバンギラスに顔を踏みつけられていた。もうバシャーモの体力は残っていなかった。
「だから言ったじゃないですか。かなわないって!」
「くっ!フシギソウ、『花弁の竜巻』」
フシギソウの起死回生の攻撃。邪悪なるバンギラスに攻撃は命中した。
「(やったか!?)」
どうやら効果はあったようで、バンギラスが一歩引いた。
しかし、バンギラスの顔にはまだ余裕があった。
「(この攻撃でもあまり効いていないなんて!!)」
ハルカは青ざめた。花弁の竜巻以上の攻撃は今のフシギソウに存在しなかった。
「危なかったですね。まさか、このような威力の攻撃を持っていたとは予想外でした。並のバンギラスだったら致命傷になっていたでしょう。しかし、私のバンギラスには意味をなさなかった様ですね」
ハルカは次の手を考えようと思考を巡らせる。
でも、何も思い浮かばない。焦りが押し寄せて、頭が真っ白になっていた。
「終わりです!破壊しなさい!」
ビシャスは邪悪なるバンギラスに破壊光線を指示した。
狙いはハルカとそのポケモンたちだ。
状況は絶望的だった。
しかし、一人の声がその状況を覆した。
「オオスバメ!『鋼の翼』!!」
どこからともなく、一匹のオオスバメが邪悪なるバンギラスの顔に攻撃を仕掛けた。
バンギラスはその衝撃で顔を上に向けてしまった。
破壊光線はものの見事に空へ消えていった。
「続いて『燕返し』!!」
また、オオスバメはバシャーモを踏みつけていたもう一方のバンギラスにも攻撃を仕掛けた。
バンギラスの腹にくちばしがめり込み、バンギラスを吹っ飛ばした。
バンギラスは腹を抱えこんだ。
「一体誰ですか!?」
ビシャスは声の主を探った。ハルカもトレーナーを探した。
二人の目に映ったのは、白いホットパンツの青いジャケットを着て右腕に赤い布を巻きつけていた。
髪は肩に掛からない程度に縛ったツインテールで長さも短めの女の子だった。
年はハルカよりも少し年上に見える。
「まさか、カントー地方に着て早速ダークポケモンに会えると思っていなかったわ!そのバンギラス、捕獲させてもらうわよ!!」
第一幕 Wide World Storys
マサラタウンの集結② ―――ロケット団幹部:ダークマスタービシャス――― 終わり