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たった一つの行路 №030

/たった一つの行路 №030

 23

 私とオト姉ェはシオンタウンに来ていたの。
 そこで幽霊が出るといわれているポケモン屋敷で肝試しをやることにした。ほとんどオト姉ェをからかうためだったんだけどね。
 そして、ポケモン屋敷に入ってオト姉ェが偶然地下室への道を見つけたのが運命の分かれ道だった。
 そこで私が先に行ってみようと言ったために、ロケット団の班長カエシという男に命を狙われる羽目になってしまったの。
 私とオト姉ェは肝試しをするためにポケモンをまったく持ってなく、カエシと呼ばれる男のポケモンの攻撃を避けることしかできなかった。
 オト姉ェはもともと避けるのが上手かったからよかったけれど、私はほとんど攻め中心だったから、カエシのアブソルの攻撃を受けて軽いケガを負ってしまった。
 オト姉ェは何とかかばってくれていたけれども、最後には隅に追い詰められてしまった。
 アブソルが襲い掛かって、もう駄目と思った瞬間、炎攻撃が飛んで来てアブソルを遠ざけたの。
 そこへ滑り込むようにして現れたのは、まるで白馬の王子様……いや、漆黒のナイト……ともかく私の運命の人なのではないか。そう確信させるほどカッコいい人だった。
 その瞬間、不覚にも私はその人に恋をしてしまったの。



 たった一つの行路 №030



 24

 カエシは新たなポケモンを投入した。
 そして、ストライクがそのポケモンに攻撃を加えた瞬間、ストライクはぶっ飛んだ。

「くっ、厄介なポケモンが出てきたな!」

 真っ青で黒い尻尾を持った我慢ポケモンのソーナンスだった。

「今のは『カウンター』なんだな~」
「それなら、弱点を突いて、一気に倒すまでだ!フロル、『銀色の風』!!」

 再び、フロルは銀色の風を放つ。
 アブソルをいとも簡単に吹っ飛ばしたフロルならソーナンスを倒すことなんて簡単だと思っていた。

「そう簡単に行くと思ったのかな~ソーナンス、とっておきの技を見せてやるんだな~」

 そうカエシが指示すると、ソーナンスは両手を光らせた。
 そして、その手で銀色の風に触れて返してしまった。
 返された銀色の風はそのままフロルに直撃し、ヒロトにまで及んだ。

「ぐっ!」

 吹っ飛ばされたヒロトは壁にぶつかった。とは言ったものの、ほとんどストライクに直撃した余波がヒロトに及んだだけで、ヒロトにダメージはほとんどなかった。
 だが、ストライクは明らかに戦闘不能だった。

「これが、オイラの切り札、ソーナンスの『ミラーハンド』なんだな~!全ての攻撃技をそのまま返すことができるんだな~」
「くっ、全ての攻撃技をだと?……やれるもんならやってみろ!」

 ヒロトは負けずにキノガッサとポワルンを同時に出した。

「マッシュ、『キノコの胞子』!ネール、『捨て身タックル』!」
「甘いんだな~ソーナンス、『ミラーハンド』!」

 なんと、ソーナンスは光った手を振っただけでキノガッサのキノコの胞子を返してしまった。
 そして、そのままキノガッサは眠ってしまった。
 一方のポワルンは攻撃がもう少しで届きそうだった。だが、カエシも新たなポケモンを投入した。
 カメックスだ。そのカウンターで逆にポワルンはやられてしまった。

「カメックス、『冷凍ビーム』なんだな~!」

 さらにキノガッサが眠っているのをいいことに攻撃を仕掛けてくる。その攻撃でキノガッサは氷付けになってしまった。

「さあ、どうするのかな~?降参するのかな~?降参したって許さないんだな~」

 カエシは追い詰めてもマイペースを崩さないようだ。

「まずいんじゃない!?あの人負けちゃうよ!(私の愛しの人が~!)」

 勝手に愛しの人にしているコトハは本当にあせっていた。

「あんなに完璧に攻撃を返しちゃうなんて、普通ありえませんね。どこかに弱点があるのかもしれません(それにあの人の顔はまだ諦めている顔ではありませんね)」

 と、オトハは冷静に分析していた。

「降参?誰がそんなことをするって?本番はこれからだぜ!」

 ヒロトはそう言うとまた2匹のポケモンを出した。

「何度やっても同じなんだな~また攻撃を返してやるんだな~!」
「そう何度も行かないぜ!シオン、カメックスに『電撃波』!」
「単純な攻撃なんだな~!『ミラーコート』なんだな~!」

 強力な電撃がカメックスへと放たれる。だが、その電撃をものともせずカメックスは増幅して返した。ピカチュウへと電撃が返ってくる。

「シオン、尻尾で受け止めろ!」

 そして、その電撃をピカチュウは受け止めた。普通なら、吹っ飛ぶ程のエネルギーを秘めている電撃をピカチュウは受け止めた。

「行け!そのまま『エレキテール』をぶち込め!」

 シオンの電撃波の2乗の威力にさらにエレキテールの威力が加わったピカチュウの尻尾がカメックスに振り下ろされた。

「なにを~カメックス、『カウンター』なんだな~!」

 再びカメックスのカウンターで返そうとする。だが、無理だった。カメックスはピカチュウの電撃に耐え切れずダウンした。

「『カウンター』や『ミラーコート』の性質は自分が受けたダメージを2倍に返すというもの。だが、耐え切れるほどのダメージでないと返せない。すなわち、一撃狙いの攻撃は返せないってことだ」
「でもこのソーナンスに勝てるかな~?このソーナンスに勝たないと君たちは逃げられないんだな~!」

 一応説明するが、ソーナンスの特性は『影踏み』である。つまり、ソーナンスを倒さないことにはこの場所を離れることはできないのだ。

「それなら、一撃で倒してやるよ!……ディン、目覚めしサイコの力発動せよ!!必殺、『サイコグラビティ』!!」
「何をするか知らないけれど、返してやるんだな~!ソーナンス、『ミラーハンド』なんだな~!!」

 フーディンのスプーンに凄まじいサイコパワーのエネルギーが集まっていった。
 そして、次の瞬間、ソーナンスを中心に半径1メートルほどの重力エネルギーがソーナンスを襲った。
 ソーナンスは慌てて、手を上にかざした。ミラーハンドによってフーディンのサイコグラビティを防いでいた。

「ほら見るんだな~!これがソーナンスの力なんだな~!ミラーハンドに返せない技はないんだな~!」
「でもまだ返していないぜ!それに、その間は無防備だぜ!」
「しまったなんだな~!でも、キリンリキ、行くんだな~」
「一撃で倒すって言ったはずだぜ!シオン、『マルチ10万ボルト』で吹っ飛ばせ!!」

 ピカチュウは電撃を一端頬袋に全て集めてから、一気に数本の電流を放出した。
 大体4:1の割合でソーナンスとカエシに攻撃をぶつけた。ミラーハンドでディンの技を抑えていたソーナンスは対抗できずに撃沈。
 カエシも一撃で気絶してしまった。キリンリキは出せずに終わった。

「よし、今の内に出口を……」
「あの……こっちです!」

 オトハはコトハに手を貸しながら右手で出口の方向を指差した。

「探す手間が省けたぜ。急いでここから脱出しよう!」

 と、ヒロトは先導しようとした。でも、ふと思いとどまり、オトハらを見た。

「彼女は大丈夫かい?足をケガしているようだけど?手を貸そうか?」

 ヒロトはコトハがケガしているのに気がついたようだった。

「こ、このくらいのケガ大丈夫よ!ほら……イタッ!」

 思い切り足を振る動作をして、少し痛みが走った。

「……少し急がないといけないから、俺も肩を貸してやるよ!」

 そう言って、ヒロトはポケモン屋敷を出るまで、コトハを手助けした。
 そして、ポケモン屋敷を出たところでヒロトはポケナビで警察に通報した。一時すれば、駆けつけるだろう。

「あ、そうだった!急がないと!」
「あの……お名前を教えてくれませんか?」

 走り去ろうとするヒロトをオトハが呼び止めた。

「いや、名乗るほどの者ではないよ!じゃあ、気をつけるんだぜ!」

 そう一言言うとヒロトは去っていった。

「……気持ちのいい方でしたね。しかも名乗らないというところがカッコいいですね」
「……オト姉ェも……まさか惚れた?」
「え?コトハはもしかして……」



 25

 あれはいつのことだっただろう?
 私がずっと小さな時だったような気がする。
 確かパパの応援であるポケモンリーグの大会に行ったときだったわ。
 その時、ママとその時あまり喋れなかったマサトと一緒に買い物に出たときね。
 私はママとマサトと離れてしまった。
 そして、迷い歩くうちに段々分からない場所に来てしまって、人ごみに紛れて、さらに持っていた風船を放してしまった。
 風船は木の枝に止まった。私は木に登ってそれを取ろうとした。
 かなり苦労しながらも、木の上へと登った記憶があるわ。
 そこへ、オニドリルが襲ってきたんだったわ。
 その時、私は恐かった。いや、単純に恐かっただけじゃない。なんて言ったって木の上。
 風船を追いかけて夢中で木に登っただけに、下りるときのことを考えていなかった。
 だから、小さかった私にとってはその時高さとオニドリルの二重の恐怖だった。
 でもそこへ誰かが駆けつけてきた。
 私はパパが助けに来てくれたのかと思った。
 でも、その時助けに来てくれた人はパパではなかった。
 そう、その人。その人の名前は……―――



「……う~ん……」

 ハルカはゆっくりと目を開き、起き上がって周りを見た。そこはポケモンセンターの部屋だった。

「く~……」
「ぐが~」
“フラァ~”

 しかも、見るとマサトとユウキ、そしてフライゴンが同じ部屋で寝ていた。
 サトシたちとホウエン地方を旅していた時には四人一部屋だったが、カントーを旅するようになってポケモンセンターで泊まる時はヒロトが気を効かせてハルカが一人部屋で残りの三人が一つの部屋を使うことにしていた。
 ハルカは窓に近づきカーテンを開けてみる。すると、日が差し込み部屋に光を満たした。

「(もう朝?)」

 ハルカは昨日の記憶を呼び覚まそうとした。

「(シオンタウンに着いて、ユウキたちと他愛のない話をして、ヒロトさんを見かけて……そうだ!ヒロトさん!)」

 ハルカはユウキたちを起こさないように慎重になおかつ急いで部屋を出た。

「そんなに急いでどうしたんだ?それよりもう大丈夫なのか?」
「……!ヒロトさん!」

 部屋の外で壁にもたれてヒロトは座っていた。彼はここで寝たのだろうか?とハルカはそんな疑問を浮かべた。

「ケガはないようだね。よほど、オニドリルの幻覚が恐かったようだね」
「幻覚……?」
「そうさ。仕掛けはわからなかったけれど、ロケット団の仕業だよ。まったくとんでもないやつらだぜ!」

 そう言いながらヒロトは立ち上がった。

「そうだったんだ……。ところでヒロトさんもう一度聞いていいですか?」
「何を?」
「どうしてそんなにロケット団と戦おうとするのかを……」
「…………」

 ヒロトは諦めたように息をついてから話し始めた。

「特に理由はないんだが……あるとしたら、俺が今まで旅をしてきたところは全てロケット団がいた。そして、何かをしようとするとロケット団が必ず邪魔をしてきた。
 それを俺は幾度とも撃破してきたんだ。そして、俺はロケット団に命を狙われたことがある」
「!!」
「つまりロケット団と俺との対決は切っても切れないというわけさ」
「名前が知られているから、やられる前に倒そうというわけね」
「そう言うわけさ」
「……ヒロトさんもう一つ聞いていいですか?」

 ハルカは改まって聞こうとした。

「いいけど?」
「…………。ううん……やっぱりなんでもない……」
「…………?そう。それじゃ、ハルカちゃんが起きた所で飯を食べに行くか!中の2人とフライトを起こしてくれないか?」
「ええ」

 そう言って、ヒロトはポケモンセンターの食堂へ消えていった。

「(そうね。よく考えてみたら、あれはかなり昔のこと。もし、あの時助けてくれたのがヒロトさんだったとしても、覚えているはずがないかも)」

 ハルカは考えるのをやめて、ユウキたちを起こす為にもう一度部屋へ戻っていった。



 26

「(まさか、サイコグラビティーが防がれるとは思わなかったぜ。一応一撃必殺技だったのにな。あいつそれほどまでに強かったってことか……)」
「ヒロトさん?」
「うん?あ、マサト、どうしたんだ?」
「ヒロトさんはどれを選ぶの?」
「ええと、それじゃこれで……」

 ヒロトたちは浴衣のレンタルショップに来ていた。本日が慰霊祭ということで踊るといったら浴衣ということでここに来ていた。

「あれ?ヒロトさん、本当にそれ着るんですか?」
「え?あっ!」

 ヒロトが選んだ浴衣はピッピの模様がキュートな浴衣だった。あまり男向けとはいえない。
 気を取り直して、ウィンディの模様がカッコいい浴衣を選んだのだった。

「ユウキ、様になってるな!」
「ヒロトさんほどじゃないですよ!」

 ヒロトが着替えて出てくると、ユウキが外に出ていた。ユウキはいつも被っている白い帽子にラグラージのプリントが入った浴衣だった。

「それにしてもお姉ちゃんは遅いなぁ!」

 そうぶつぶつ行っているのはもちろんマサトだ。彼はキモリのプリントが入った浴衣だ。

「そうせかすなって!ハルカが遅いのはいつものことだろ!」

 ユウキはそう弁解した。3人でジョウト地方を旅していたころから、ハルカの準備は一番遅かった。
 それは女の子だからそれなりに身なりに気を使っているんだろうと思っていた。

「いつも遅くて悪かったかも!」
「ごめん、ハル……カ!?」
「おそかった……ね?」

 ユウキとヒロトは声を裏返した。

「どうしたの2人とも?」

 マサトは平然とした顔で2人に聞いた。
 2人にはハルカが別人に見えたのだ。いつものバンダナを身につけていないうえに、クレーン頭をした髪を結いあげていた。
 それでもって、少し大きめのアチャモのプリントが入った浴衣を着ていた。
 女の子とは服装髪形を変えるだけで見分けがつかないものである。

「あ、ヒロトさんもしかして見とれてた?ついでにユウキも」
「俺はついでかよ!……あ……見とれてなんていないぞ!決して!」
「いや、俺は単に変わりすぎてビックリしたと思って……。でも、半分くらい見とれいていたかも」

 ユウキは力一杯否定し、ヒロトは半分肯定していた。

「ヒロトさん、ありがとうございます。ユウキ、そんなに否定しなくたっていいじゃない!!」
「(……お姉ちゃんのどこに魅力があるのかな?僕にはわからないよ)」

 そして、4人は神社の方に歩き出した。シオンタウンでさびれているのではと思いきや、かなりの人で賑わっていた。多くの露店がありどこも楽しそうだった。

「あっちにニョロゾ当てというのがあったよ!あ、そこにはディグタ叩き」
「どっちにしろ、ポケモンいじめじゃないか?」
「あっちの方には、『コイキング、トサキント掬い』というのがあるみたいだよ!」
「どうやって掬えと?」
「なんか巨大な網を使って、掬うみたいだよ」
「それならまだ釣りしたほうがいいのにな」

 マサトの言葉にいちいちツッコミするヒロトだった。

「あ、あそこに人だかりができてる!なんだろう?行ってみない?」

 ハルカがそう誘った。
 他の三人もつられてそこに行ってみた。
 そこにいたのは二人の踊り子だった。片やセンスを振りかざしながら歌を歌い、片や笛を吹きながらしなやかに舞って、神秘的だった。

「きれいかも~……」
「う、うつくしい……」
「そのセリフ、誰かに似ているね。それにしても、どうやったらこんなに上手く踊れるんだろう……?」

 ハルカ、ユウキ、マサトの感想はそのようなものだった。

「あれ?」

 ヒロトはその二人に見覚えがあった。
 そう思った時、笛を吹いていた女の子と目があった。彼女は会釈してその場はやり過ごした。

「あの子は……」
「え!?ヒロトさんあの美人さんと知り合いなの!?」
「え、ああ、ちょっとね」

 ユウキの問いにヒロトは曖昧に答えた。
 やがて踊りは激しさを増していった。そのパフォーマンスに観客達は一斉に盛り上がった。
 ポケモンコンテストで言ったら、誰が見ても文句なしで予想通りの満点だったという感じだった。

「凄い美しい人だった……」
「ユウキ、鼻の下が伸びているよ」
「はっ!」
「ユウキって本当に美人に目がないかも~!」

 ハルカは少し冷ややかな目でユウキを見た。
 ユウキはハルカの機嫌を取ろうと周りを見た。

「あ、そこに占いの館っているのがある!ハルカ、入ってみようぜ!」

 そう言って、ユウキはハルカを引っ張っていった。

「え、ちょっと!いきなり!?」

 そうして、マサトとヒロトだけが残された。

「……それじゃ、僕なんか買ってくる!」

 そう言ってマサトもこの場を離れていった。その時マサトと入れ替わりにヒロトは声をかけられた。

「あの……」
「あ、さっきの……」

 声をかけたという人とはもちろんポケモン屋敷でヒロトが助けた女性で先ほど舞台で踊っていた人であった。

「私、オトハといいます。お付き合いしてくれませんか?」
「え?」

 いきなりの言葉にヒロトは目を丸くした。

「あ、お付き合いというのは彼氏になってくれとかそういう意味ではないですよう」
「あ、そうなの!?(ビックリした)」

 そう言って、2人は露店街のほうへ歩き出した。

「そろそろ名前を教えてくれませんか?」
「ああ。俺はヒロト。よろしく」
「よろしくお願いします。ヒロトさんって何をやっていらっしゃるんですか?」
「俺は見ての通り旅をしているんだ。本当は旅をしているだけでも楽しいんだけど、ポケモンたちを鍛える為にジムへも行ってポケモンリーグにも出ているんだ」
「かなりお強いですよね。昨日のバトル、見てわかりました」
「そうかな……?」
「そうですよ!相手はロケット団の班長と言っていました。その人を相手に互角以上の戦いをするなんて凄いに決まっています!あれ?」

 オトハは隣りを見たがいつの間にかヒロトが消えていた。反対方向を向こうとしたときに目の前に白い物体があった。

「はい」
「え?あ、ありがとうございます」

 ヒロトはオトハに綿飴を差し出した。オトハは素直にそれを受け取って、ちょこっとだけ頬張った。

「ヒロトさんってこれからどこへ行くんですか?」
「次はジムがあるところだな。確か次のジムはヤマブキシティだったな。そこへ行くよ」
「そこにはナツメさんという超能力ポケモンの使い手がいるんですよね」
「あ、そうなんだ」

 ヒロトも綿飴を口にした。

「それじゃ、ヒロトさんってどんなポケモンが好きなんですか?」
「俺の好きなポケモンね……特に好き嫌いはないよ。相性が悪いポケモンならいるけどね」
「そうなんですか」

 オトハはそう言ってある方向を見た。ヒロトもつられてその方を見た。
 彼女の視線の先にはピッピ人形があった。

「もしかしてほしいのかい?」
「え?そういうわけでは……」
「じゃ、俺が取ってあげようか?おじさん、一回やらして」

 ヒロトは代金を払って、1回分の代金を支払って、おじさんから道具を受け取った。

「あれ?おじさん、これは?」

 ヒロトはてっきり銃で射抜くのだと思っていた。でも渡されたのは、Y字型の形をした枝にゴムがくくりつけられていたパチンコだった。

「悪いね、兄ちゃん。ここはパチンコなんだ」
「そうだったのか……」

 ヒロトは気を取り直して構えた。ぐんぐんとゴムを引き伸ばしていきこれ以上引っ張れない所まで伸ばした。そして、手を放そうとした。

 バチ!!

“イタァ”

 ゴムが切れてしまった。しかもそのゴムは後ろにいた通行人に当たったらしい。

“ちょっと痛いじゃないか、そこの兄ちゃんよ!”

 しかもこの通行人少々柄が悪い。

「あらら……ごめんごめん、ゴムが切れちゃったみたいで……」

 だが、男は許さないようだ。彼はヒロトの胸倉を掴んだ。

“お前は謝り方を知らないようだな!謝るというのは頭を地面につけて謝るもんだぜ!!”

 そうして、ヒロトを突き飛ばし、殴りかかってきた。

「うわ!あぶないな……」

 ヒロトは間一髪避けた。男はパチンコ射的の店に突っ込んでいった。

「逃げるよ、オトハさん」
「ええ」

 ヒロトはオトハの手を取ってその場から逃げ出した。

「あっ!畜生!逃がすかよ!」

 男は追っていったが、2人は人ごみの中へ消えていき、やがて見えなくなった。



「はぁ、はぁ……ここまで来れば大丈夫だろう……」
「……ふぅ、まったくあんな人というのは困りますね」

 2人は無造作に手を放した。二人とも意識しないうちに手をつないでその場から逃げていたのだ。
 はぐれないようにする為にはそれしか方法がなかったといえるが。

「ここは、神社?」
「そのようですね。ヒロトさん」
「なんですか?」

 オトハは改めて聞いてきた。

「ヒロトさんって、恋人いるんですか?」
「え……?」

 一瞬ヒロトは呆気にとられた。

「(ど、どうしてそんなことを……?まさか……?)」
「あ……そんなに深い意味はなくて……あのーそのー……」

 オトハは頬を赤く染めて、慌てふためいた。

「……恋人はいないよ」
「え?」

 ヒロトはあっさりと答えた。

「(え……?それじゃ……)」

 オトハが何かを言おうとしたが、ヒロトが続けた。

「でも、探している人ならいるよ。幼馴染だけどね」
「え?」
「彼女は俺のことが好きだった。その気持ちを6年前に告げられたんだ」
「!!」
「だけど、俺はその気持ちを受け入れてやれなかった……。俺は、自分の気持ちに嘘をついてまで彼女を引き離したんだ。
 ……でも、それは愚かなことだと後になって気づいた。大切に思うのならそばにいてやった方がいい。
 未来がどうなろうと、今を幸せに生きればいいんじゃないか?とね……。だから俺は彼女を探しているんだ!」
「そうなんですか……」

 ヒロトの横顔をじっと見て、思いにふけるオトハ。
 その視線に気づいて、ヒロトはオトハを見る。
 ほんの3秒の間、見つめあっていたが、ふと気を取り直して、オトハから目をそらす。
 しばらくお互い何も話さなく、ゆったりとした時間が流れた。

「それじゃ、私はこれで戻ります」
「え?」
「コトハが待っていますから」
「そうか……。じゃあ、また縁があったら会いましょう!」

 そう言って手を振ってヒロトは彼女と別れた。



「(彼女ってまさか俺のことを調べに来たロケット団のスパイなのか……?)」

 ヒロトはいきなり尋ねて自分のことだけを聞いた彼女に疑いを持っていた。
 でも、それはありえないことだと考えていた。わざわざ、幹部の直近の部下である班長の実力の団員に襲わせまで、仕組むことは無いと思ったからだ。

「キャッ!」

 そんな考えは次の悲鳴でかき消された。

「今のはオトハさんの悲鳴?」

 ヒロトは急いで声の方向へ向かった。
 するとさっきのゴムをぶつけられた男とその友達の2人がいた。

“おう、さっきの兄ちゃんじゃないか!さっき逃げた罰として、彼女を借りるぜ!”
「何言ってんだ!彼女を放せ!」
“俺の友達にケガさせといて何を言ってやがる!”
「(ケガって……たかがゴムが当たっただけだろ……)」

 そう言って男は右手でパンチしてきた。
 しかし、ヒロトは左のほうへ避けて、カウンター気味の右ストレートをお見舞いした。

〝ぐふぅ”

 友達は一撃で倒れた。

“てめぇ……よくも友達を……”
「なぜこのようなことをするのですか?ヒロトさんが謝っているのにそれで和解すればよかったのに……」
“生意気な!イタッ!”

 オトハは掴まれていた右手をよじって、男から離れた。

“許さん!ラッタ!『必殺前歯』!”
「オトハさん、危ない!」

 ラッタはオトハを狙って攻撃していた。ヒロトは反射的に飛びついて攻撃をかわした。

「シオン!」

 同時にピカチュウを繰り出し、ラッタともども男を気絶させた。

「大丈夫?」
「え、ええ……大丈夫ですよ……」
「それならよかった」

 ヒロトは立ち上がり彼女に手を差し伸べた。オトハはその手をとって立ち上がった。

「あ、ごめん……せっかくの衣装を汚しちゃって……」
「いいですよ。こういうものは洗えば済みますから」
「あ、まずい!マサトたちを忘れていた!それじゃ、俺はこれで!」
「あの……」
「ん?なんだい?」
「今日は本当にありがとうございました!」
「ああ!」

 ヒロトはオトハに手を振って颯爽と祭の中に消えていった。

「素敵な人ね」

 オトハはぽつんとそうつぶやいた。

―――「そうよ!私はあの人に惚れたのよ!」―――

 そしてオトハはポケモン屋敷の騒動の後のことを思い出していた。

―――「だから、オト姉ェ……あの人のこと調べてくれない?」―――
―――「そんなの自分から行けばいいじゃないですか」―――
―――「そんなの恥ずかしいに決まっているじゃない!あんなカッコいい人初めてだったんだもの……」―――
「あの時のオトハの顔、初めて見ました。真剣な目をしていました」
―――「仕方ありませんね……。見つかった時は私が探って見ますから」―――
―――「ありがとう、オト姉ェ!それとオト姉ェ……」―――
―――「なんです?」―――
―――「あの人のこと……好きにならないでね……?」―――

 オトハは胸を痛めた。

「コトハには悪いけれども、私もあの人には興味があります。まだ好きかどうかはわかりませんけど……そんな人にわたしも会えたのです」

 オトハはずっとヒロトの去った方を見つめていた。



 27

「いたたたたっ!!あいつ許さないんだな~!」
「ずいぶんやられたわね、カエシ」
「油断したんだな~!油断しなければあんなヤツ……」
「油断大敵よ!どんな相手でも全力で倒す。それがロケット団のやり方じゃない」
「……はい……なんだな……」
「どちらにしろあのポケモン屋敷ではロケット団の秘密基地は無理ね。警察の手が入っちゃったからね」
「…………」
「でも、カエシ、安心しなさい。今回の件にかかわらずあなたは幹部に昇格みたいよ」
「ほんと~!?」
「それにしても、あのヒロトくん相手に半分のポケモンを倒したんだから、もともと幹部の素質はあると思っていたのよね」
「本当にありがとうなんだな~レイラ!!」
「ふふ……礼には及ばないわよ」

 そう言うと、森の奥へとレイラは消えていった。

「(私のスリーパーの『ポイゾナルミスト』を破るとはなかなかやるじゃないの、ヒロトくん。ふふふ……)」



 28

「僕先に行くよ!」
「おい、待てよマサト!」

 ポケモンセンターを元気よく飛び出したマサトをユウキは追いかけた。ヒロトはその様子を遠くから見ながらポケモンセンターを出た。

「あの、ヒロトさん……」
「うん?あれ!?オトハさん?」

 ヒロトを尋ねてきたのはオトハだった。でも今度は2人だ。

「実は……」
「初めまして!私はコトハ!よろしくね!」

 そう言って、コトハは頭を下げて挨拶する。すると、胸元がゆれる。男たちはそっちの方に一瞬でも目が行った。
 彼女の着ている服はグリーンのズボン、そしてゆったりとしたピンク色のキャミソールである。そして、彼女は上目使いでヒロトを見た。

「(……おいおいそんな目で見るなよ……)」

 と、目のやり場を無くし、目線を逸らした。

「(まずは、先制パンチ成功ね!)」
「実はヒロトさん、私たちとヤマブキシティまででいいから一緒に行きませんか?」

 オトハは改めて話を切りだした。

「俺は別に構わないけれど……」

 ヒロトはマサトを見た。
 ユウキとハルカはぽかんとした顔をしていた。

「僕もいいですよ!旅は大人数の方が楽しいからね!」
「あ。俺も大賛成です!こんな美人の人と旅できるなんて、これ以上の幸せはありません!!コトハさん、一目会った時から、あなたを……な!いだだだだ……」
「はいはい、これくらいにしてねぇー―――!!!(怒)」

 突如ハルカが現れて、ユウキの耳を引っ張るだけにあらず、そこからいきよいよく吹っ飛ばした。ユウキはボールの如く転がっていった。

「まったく……」
「お姉ちゃんは反対なの?」
「別に……私もいいわよ。よろしく!オトハさん、コトハさん」
「こちらこそ」

 そういい、オトハとハルカは握手した。
 ハルカはコトハともしようと思ったが、いつの間にか、ヒロトの隣りにいて、強引に腕を掴んだ。

「さぁ、ヤマブキシティに向かってレッツゴ―!」
「お~い……」

 かくして、ヤマブキシティまで2人の仲間が加わって計6人で旅することとなってしまったのだった。



 第一幕 Wide World Storys
 シオンタウンの出会い(前編) 終わり





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Last-modified: 2015-01-17 (土) 11:32:15
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