ポケモン小説wiki
たった一つの行路 №028

/たった一つの行路 №028

 18

「うぉ―――!ここがアルトマーレか!すっごい水上都市だな!!」

 ジョウトリーグが終って数週間後のこと。
 彼は、怪しげな老婆に占いでアルトマーレで可愛い女の子との出会いがあると信じ、ここまでやってきた。

「さぁ!どこだ!?女の子は何処だ!?」

 サングラスをきらめかせて彼はあたりを見回した。しかし、彼の好みに会うような女の子はなかなか見つからなかった。このとき、観光客などで賑わっているのにもかかわらずだ。

「まぁ、仕方がない。人の出会いは一期一会。犬も歩けば棒に当たる。占いは当たるも八卦、当たらぬも八卦だしな!」

 と、言葉を並べては、ぶつぶつと言っていたサングラスの男―――トキオがのんびりと観光していた。



 たった一つの行路 №028



 ジョウトリーグが終って意気揚々とアルトマーレに飛んできた彼の名はトキオ。
 毎回、ポケモンリーグベスト4の実力を持つトレーナーである。ただ女癖が悪いのがたまにキズである。
 そして彼は歩くのをやめオシャレなカフェで一息ついていた。悠々と周りを見回しながら、注文したレモンティを口にした。

「おかしいな……あの婆さんが言っていたことはウソだったのかな?」

 彼はよく考えてみた。そして、あることに気づいた。

「そう言えば、あの婆さん、アルトマーレに行けって言った時、水晶玉使ってないじゃないか!!ということは、出まかせで言ったな!」

 少々トキオは怒りを覚えた。でも、今となってはその老婆の居場所はわかるわけもなく怒鳴り込むわけにもいかない。

「仕方ない。このアルトマーレをもう少し歩いてみるか……」

 レモンティの代金を店員に支払って店を出るとある少女に目がとまった。
 その少女は遠くにいて少し見えにくかったが、スケッチブックを持ち、ベレー帽を被った少女だった。そして、トキオの心に電撃が走った。

「(あの子……イケル!よし、あの子にアタックだ!!)」

 こうして、トキオはその女の子をつけ始めた。というかこの行動、ストーカーである。
 彼女に気づかれずに壁をつたいながら、ゆっくりとつけていった。アルトマーレの街中は迷路みたいに複雑になっているため角に隠れながら移動するのが容易であった。
 そして、彼女を追いかけていったのだが、途中で見失ってしまった。

「あれ?おかしいな……?何でいなくなったんだ?」

 すぐに見回してみたが、やはり見つからなかった。

「おかしいなぁ……」

 とトキオが考えていると、トキオは浮き上がり、何の変哲もない壁へと引き寄せられた。

「うわぁ!ぶつかるぅ!!」

 だがどうしたことだろうか。壁をすり抜け、そして、不思議な庭みたいな場所に出た。その途端、トキオはドスンと音をたて尻餅を付いた。

「いたた……。ここは……?」

 あたりを見回すと、そこにはブランコ、何かのレリーフやら綺麗なつくりになっている神殿にそして、街中とは雰囲気が違う所であった。
 トキオは目の前にいるポケモンを見て驚いた。

「ん??こいつは!!」

 そのポケモンとは無限ポケモンと言われ、この土地の守護神であるといわれる一匹のラティオスだった。

「こんなレアなポケモンに会えるとはついているぜ!」

 ラティオスはトキオに攻撃を仕掛けてきた。
 エスパーの力を凝縮して打った攻撃がトキオに向かって放たれた。慌ててトキオはかわした。

「うわ!今のはラティオスの『ラスターパージ』!?やる気か!?」

 トキオは腰につけたボールを放った。中からはノーマルポケモンのガルーラが力いっぱい叫び、姿を現した。
 ラティオスはガルーラが出たとたん、眼の色を変えた。そして、顎で挑発しているようだった。

「ん?かかって来いってことか?よし、やってやろうじゃないか!ガルーラ、『ピヨピヨパンチ』!」

 ガルーラは目標に接近し、覚えるポケモンが少ないといわれる技、ピヨピヨパンチを放った。
 ラティオスはギリギリまで見極めて、かわしてガルーラを手でなぎ払った。

「『ドラゴンクロー』か!?なら、『連続パンチ』!!」

 ドラゴンクローの衝撃で後退したのにもかかわらず、すぐにガルーラは接近し、ラティオスにダメージを与えていった。
 どうやら、すぐには攻撃に移れないと読んでいたらしく、連続パンチをかわすことはできなかったようだ。
 そして、トキオは連続パンチの最後にピヨピヨパンチを指示し、ガルーラはそれをキレイに決めた。

「とどめの『シャドーボール』だ!!」

 手から黒色のエネルギー弾を発生させ、それをラティオスに向けて放った。
 だが、ラティオスも負けてはいなかった。渾身の力でラスターバージを放った。シャドーボールはそれに飲み込まれて、ガルーラもろとも吹き飛ばした。

「ガルーラ!?ちっ!やっぱり、伝説のポケモンは強いぜ!」

 トキオはガルーラを戻した。ラティオスはまだ、誘っていた。

「まだやる気か?それならこいつならどうだ!?」

 そう言って出したのは、最初の大会、ノースト大会からの相棒ジュゴンだった。

「全体に『吹雪』!!」

 こうして一気に半径50メートルの草原を凍らした。ラティオスは『光の壁』をつくり何とか耐え抜いた。でも少しラティオスは息を切らしていた。

「(全力の吹雪ではなかったにせよ、やはり、氷属性の攻撃には弱いみたいだな)」

 ラティオスは再びラスターバージを繰り出した。だが、ジュゴンは凍った地面を利用し、滑って攻撃をかわした。そのまま、ジュゴンは後ろに回りこんだ。

「『冷凍ビーム』!!」

 攻撃の後すぐには対応できなかった。さらに、後ろから受けた為に、『光の壁』も意味がなくもろに受けた。だがラティオスは、『10万ボルト』で反撃をしてきた。

「滑りながら『影分身』!!そして、『ドラゴンフリーズ』!!」

 振り向きざまに放った攻撃は当たるわけがなかった。そのままのスピードでジュゴンは分身しラティオスを翻弄した。
 とっておきの技、ドラゴンフリーズが発動した。その攻撃とは氷の竜を作り襲わせるのだ。間違いなく、氷タイプの中でもトップクラスの技であろう。
 その氷のドラゴンはラティオスに直撃した。
 ラティオスは地面に落ちたが、まだ戦おうとして体を動かしていた。

「ええと……どうすればいいかな……?ゲットするわけにはいかないだろうし……」

 トキオは考え込んでしまった。
 ちょうどそのとき、二匹のポケモンが飛んできた。
 ラティアスともう一匹のラティオスだった。ラティアスは地に伏したラティオスに飛んでいき、もう一匹のラティオスは前に立って身構えた。
 そして、トキオを睨んだ。

「弱ったな……」
「ストップ!!ちょっとそのバトル待って!!」

 そのとき、奥のほうから先ほどトキオがストーカーしていた女の子が向かってきた。
 するとラティオスは警戒を解いた。

「あ、君は!!」
「え?私を知っているの?」
「あ、いや……その……」

 トキオは君をつけて来たといえる訳もなく、ただ狼狽した。

「まぁいいわ。ともかくちょっとこっちへ来て」

 トキオは女の子について行った。



「私の名前はカノン。ここの庭を守っている者よ」
「あ、俺の名はトキオ。ちょっとしたことでここ、アルトマーレに来たんだ」
「ちょっとしたことって?」
「…………。いや、それよりもあのラティオスは何で急に襲い掛かってきたんだ?しかも、ポケモンバトルを誘っていたように見えたぞ?」

 トキオは話をごまかした。
 その辺を気にしていなかったカノンは一息ついて、自分で作ったコーヒーをすすった。
 同じくトキオも目の前にレモンティが出されてあるがまだ一口もつけていない。
 ラティアスとラティオスはそれぞれ飛び回ってじゃれあっていた。

「実はそれにはちゃんとしたわけがあるの。少し長い話だけど聞いてくれるかしら?」
「ああ、かまわないよ」
「それは1年前のことだったわ」



 19

 アルトマーレの中央広場に人だかりが出来ていた。
 どうやらその人たちは何かを見るために集まっているようだった。
 その観客の目線の先には二人の少女が踊っていた。
 一人の女の子が華麗に舞い、そして、もう一人の子も横笛を吹きながら奏でる音に合わせて踊っていた。
 その観客達はその踊りに魅了されていた。
 ……いや、それだけではない。彼女たちのプロポーションも見事だった。
 その観客達が、特に男たちが見るのは、スラリとした足やボリュームのある胸などであり、そして、鼻を伸ばしていた。
 少し長身の女の子が笛を吹くのを止めたのと同時にもう一人の女の子も踊るのをやめて、礼をした。
 そのとたん、大きな拍手が沸きあがった。だが、それだけではなかった。
 あろう子とか、男たちは彼女らに近づきサインをねだり始めたのだ。彼女は笑顔でそれに応じて、事を進めていった。
 そして、ファンサービスも終わって彼女たちは喫茶店で腰を降ろした。

「ああ、疲れたわ……」
「コトハ、踊り疲れたはないでしょ?」
「違うわよ、あの観客達に疲れたのよ!ああ多くちゃ疲れないわけがないわよ!!」

 踊りが終わったからといって、彼女らの衣装はまだそのままらしい。よって、店内にいる多くの人たちが彼女らに釘付けになった。

「それにしてもコトハ……周囲の視線を感じない?」
「当たり前じゃん!あんな目立つ場所で踊ったのよ♪目だ立たないはずがないわ♪」

 姉よりも露出した服を着た少女……コトハがそう言った。コトハはなんだか楽しそうだった。

「そうね。あの場所で踊ろうって言ったのはコトハだったものね」
「それよりオト姉ェ!今日泊まる場所は決まっているの?」
「まだよ、これから行きましょう」

 そう言って、姉のオトハが促した。



「それにしても、ここは迷路ね!!」

 コトハはそればっかり言って歩いていた。
 彼女らは歩き続けて、ちょっとした広場に出た。

「あ!あそこに水道がある!ちょっと飲んでいこう!!」

 そう言ってコトハは水飲み場まで駆け足で行った。オトハはそれを眩しそうにいていた。
 そこへ、ベレー帽を被った少女が急いで走っていくのが見えた。その少女は何やら慌てていたようだった。
 前方には3人の茶髪の若い男が歩いていた。どうやら観光客のようだ。あろうことか、その子はその集団に突っ込んでしまった。
 その衝撃で一人の男が転んだ。その少女は慌ててその男たちに謝ってその場を去ろうとしたが、一人の男が彼女の手をがっしりと掴んだ。
 そして、何やら口論になってしまったようだ。そう言っても、一方的に男たちが非難しているだけのようだが。

“おうおうねーちゃんよ!俺らにぶつかっといて、ただじゃ済むと思うなよ!”
“そうだ!こっちは腕がいてーんだよ!ああ!骨折しているかも知れねェな!!”
“おうよ!治療代、払ってもらうぜ!!”

 男たちがそう言う。

「バカじゃないの!?そんな転んだくらいで骨折するわけないじゃない!私は急いでいるの!!手を離して!!」

 少女も負けてはいないようだ。

“口で言ってもわからないようだな!!”

 そういって、手を振り上げた。

「ねえちょっといい?」
“ん?”

 手を上げた男が声のする方向を見ると、一人の美女が見えた。
 だが、次の瞬間、チラッと赤いものが見えたと思ったら目の前が真っ白になって、鼻血を出して倒れた。

「ああ……やっちゃった……」

 オトハは額に手を当てた。
 詳しく説明すると、コトハが声をかけた瞬間、足を上げて顔面にキックしたのだ。

“あ、赤いパンツ……///”

 と男はうわごとのように言った。

“おい大丈夫か!?”
「あなたたちが悪いのよ!」
「そうです。あなたたちがその子に手を出すからですよ」

 コトハとオトハが順々に言った。

“お前らただじゃすまさないぜ!!”

 少女にぶつかって転んだ男がオトハに殴りかかってきた。
 だが、オトハはしなやかな体で柳のように揺れてかわすと、男の腕を取って押さえつけた。男は悲鳴を上げた。

「なんだ、やっぱり折れていなかったじゃない!!」

 コトハはわざわざ押さえつけた男のところまで行き、思いっきり腕を掴んだ。

“くそ!”

 そう言って今度は一人の男が、ポケモンを出して襲ってきた。そのポケモンはニドキングだった。

“俺は、かつてポケモンリーグカントー大会でベスト8のトレーナーだぞ!”

「だから何よ!」

“これ以上俺たちに逆らうなっていっているんだ!!”

 そう言ってニドキングが襲い掛かった。
 するとコトハが立ち上がりモンスターボールを取り出した。
 刹那、コトハが、ポケモンを出した時にはすでにニドキングはトレーナーとともに水の中に沈んでいた。

「ポケモンリーグ、ベスト8なんてたいしたことないわね!!私なんて準優勝よ!!」

 そう言ってコトハは威張り、ケンタロスをボールに戻した。

「この人たちどうしましょう?ほっといたら……」
「確かに、恨んで私たちを追いかけてくるかもね。私たち可愛いし♪」
「いいえ……風邪ひいちゃいますよ」

 姉の1テンポずれた言動にコトハはこけた。

「そんなのどうでもいいでしょ!!」

 そんなことやっているうちに襲い掛かってきたトレーナーたちは逃げてしまった。

「まぁ、あいつらはどうでもいいとして、それより……」

 姉妹は襲われていた女の子を見た。

「ありがとうございます!ちょっと急いでいたもので……。私の名前はカノン」
「私はオトハです。こちらは妹のコトハ」
「よろしく!!」
「あなたたちポケモントレーナーとしても強いのね!?」
「まぁ、多少は……」
「オト姉ェはいつも控えめね!」
「ポケモンを出して、相手を気絶させることぐらいは……」
「(……いや、それくらいできれば充分だし……)……並みのトレーナーよりは強いわよ!!」

 そういって、コトハは豊満な胸を張った。

「それなら、ちょっとお願いしたいことがあるのだけれど……」
「急ぎの用はいいの?」
「それをあなたたちに頼みたいのだけれど……」
「「え??」」



 ―――その夜。
 彼女たちは例の秘密の庭にいた。そして、物陰に隠れていた。

「それにしても、ほんとに凄い庭ね。神秘的だわ……」
「それもそうよ!!だって、ラティアスとラティオスがいるのよ!!それに、あの『心の雫』だってかなりの物よ!」
「本当に現れるかしら?」
「来るわよ!絶対!!」

 そう言って、コトハは昼間に渡された一枚のカードを見た。それは予告状だった。

“今夜零時に秘密の庭の『心の雫』をいただく!……怪盗KID`S”

 二人は怪盗を捕まえるためにこうして見張っているのだった。
 別の場所でも、ラティアスやカノンが見ている。

「秘密の庭だから警察にも知られちゃいけない。大変ね。それにしても、なんか聞いたことある名前ね。オト姉ェ……?」

 オトハは姉に呼びかけたが、スースーと寝息を立てていた。

「……寝ちゃってる……。その時になったら起こせばいいかな?でも、オト姉ェ、寝起き悪いからな……」

 時間が過ぎていって、そして予告の時間になった。

「キューン!!」

 次の瞬間、ラティアスの鳴き声がした。コトハはラティアスを見たが、倒れていた。

「オト姉ェ!……ダメだ、起きない……こうなったら私だけで解決してやるわ!」

 コトハは姉をほっといて、駆け出していった。



「準備はいいか?」

「いいよ!兄さん!」

 彼らはラティアスを狙っていた。ポケモンを出し、すぐさまラティアスに襲わせた。
 ラティアスはそのポケモンに気づいたが、反応できず、そのポケモンの攻撃を受け、戦闘不能まで追い込まれてしまった。

「伝説のポケモンといえど、一撃必殺がきかないはずがない!!」

 そう言って、仮面をつけた2人の人影が姿をあらわし、心の雫の目の前まで来た。
 だが、ここでラティオスが2人に襲い掛かった。

「ふっ、ラティオスか。こいつを倒せば、あとは楽だな」
「でも兄さん。ラティオスって2匹いたんじゃないの?」
「大丈夫だ。1匹のときを狙ってきたんだ」
「それと、なんだか、心の雫を守る為に女のトレーナーを雇ったという話だよ」
「ふっ、大丈夫さ。並みのトレーナーなら我々には勝つことは出来ん。むしろ、我々、“美男子怪盗兄弟”の顔を見れば、嫌でもメロメロになること間違いない!」
「そうか!そうすれば、メロメロになった女は冷静な判断が出来ず、勝つことが出来るってわけだね?」
「そういうことだ」

 などと、余裕でこの2人は喋りながらラティオスの攻撃をかわしていた。

「そろそろ遊びは終わりだ」

 そう言って、兄弟は2匹のポケモンを出した。
 ラティオスは『念力』を発動させるが、弟のヤミカラスには意味がなかった。
 逆にヤミカラスの攻撃を受けて怯み、兄のエビワラーの『メガトンパンチ』を受けてダウンした。

「なんだ。意外にも弱かったな」
「これで、心の雫、ゲットだね」
「ちょっと待ちなさい!!」

 2人が心の雫に手をかけようとしたとき、ようやくコトハが追いついた。

「それはこの町にとって大切なものなのよ!」
「大切な物ほど盗みたくなるのが、僕たち怪盗なんだよ。ね!兄さん!」
「そうさ。そこをどきたまえ。それとも我々とバトルするのかな?我等、美男子怪盗兄弟と……」

 そう言って、2人は仮面を外した。その素顔は……なんと、2人が自画自賛していたのも頷けるほどの、美形……イケメンだった。

「(さぁ、この顔を見て、ときめかないはずがない!)」

 そんなことを思っていたが、目の前にはケンタロスの姿が迫っていた。兄は何とかかわした。

「やる気あるの!?それとも、おとなしく捕まる気にでもなったの!?」

 コトハに、イケメンマスク攻撃は通用しなかった。

「なんということだ……こうなったら実力で倒すしかあるまい!弟よ援護を頼む!」
「OK!!」

 すると、ヤミカラスは『黒い霧』を当たりに張り巡らせた。ケンタロスは一瞬怯んだ。
 だが、その一瞬を狙って、ヤミカラスは攻撃を仕掛けてきた。
 ヤミカラスの『騙し討ち』だ。そして、追い討ちをかけるようにエビワラーのパンチがケンタロスの顔面に直撃した。

「……くっ!やるじゃない!それなら、バクオング!!」

 コトハはさらに新しいポケモンを出す。それを出した瞬間に出した技は『さわぐ』。あたりは騒がしくなった。

「エビワラー、『爆裂パンチ』!」
「ヤミカラス、『燕返し』!」

 兄弟はバクオングを集中的に狙い、ダウンさせた。
 だが、コトハも負けじと、ケンタロスの『捨て身タックル』でエビワラーをノックアウトさせた。
 そして、コトハはニョロボンを出した。

「ふっ、ヤミカラス、『滅びの歌』だ!」
「……まずい!」

 コトハは2匹を戻そうとする。だが、いつの間にか兄がコトハに近づき、押し倒した。

「な、何するのよ!」
「へぇ……結構可愛いじゃないか」
「当たり前でしょ!私、顔とスタイルには自信あるんだから!って、それよりも、どきなさいよ!」
「(……このままいると変な気を)……ぐは!」

 コトハが膝蹴りを入れた。兄は後退していった。
 コトハは急いでポケモンを戻そうとしたが、二匹も、ヤミカラスもダウンしたあとだった。

「あと我々は二匹残っている。君に勝ち目はあるのかな?」
「もちろんあるわ!100%ね!」
「それは随分な自信だな。」
「遅いわよ!オト姉ェ!!」
「なに?もう一人仲間がいたのか?」

 姉妹はコトハの目線の向こうに目を向けた。そこには、コトハよりも落ち着いたオトハの姿があった。

「ふわぁ~……コトハ……もうちょっと普通に起こして下さい。バクオングの『さわぐ』はうるさいっていつも言っているじゃないですか……」
「普通に起こしても起きなかったくせに!!」
「うぉ~この人は!!」
「兄さん?」
「「!?」」

 突然、兄は声を上げた。

「なんて美しいんだ!」

 ……一瞬のうち兄はオトハの虜になってしまった。

「…………。(私とオト姉ェは同じくらいの美貌なのに……なのになんでいつもオト姉ェの方がもてるわけ??)」

 コトハはちょっと悔しかった。

「あ……」

 今度はオトハが声を上げた。オトハの顔は少し赤く染まっている。目線は怪盗兄弟の兄のほうに向けられている。

「(え?オト姉ェってまさかあんなのがタイプなの?)」
「(もしかして、この俺に惚れたのか?)」

 と、コトハと兄は考えた。

「……あなた……ズボンのチャックが開いていますよ」

 コトハはやはりずっこけた。
 今度は兄のほうが、赤面しチャックを上げた。
 オトハが顔を赤くしていたのは決して、兄に惚れたわけではなかった。

「それなら、力ずくであの2人を手に入れてやる!弟よ、手伝え!」
「い、いいよ……。(兄さん……主旨が変わっているよ……)」

 弟はそう思いながらも、兄に従った。
 そうして出したポケモンはブーバーとグライガーだ。

「俺のグライガーのスピードについて来れるか!?でんこうせっか!」

 と、攻撃を仕掛けるが、オトハは体をしなやかに動かしてかわす。
 そして、モンスターボールを手にとった。

「行きますよ!ペルシアン!」

 そうしてオトハが出したポケモンは、シャムネコポケモン、ペルシアンだ。

「グライガー!『メタルスラッシュ』!!」

 グライガーは高速のスピードでメタルクローを繰り出した。この攻撃はスピードを生かしてメタルクローの威力を倍に引き出す技である。

「ペルシアン!回避!」

 グライガーのスピードはだてじゃなかった。だが、ペルシアンはグライガーの連続攻撃を確実にかわした。

「……! かすりさえもしないとは……」
「ブーバー、『火炎放射』!」

 弟も必死で攻撃を仕掛けるが、やはりペルシアンはかわす。全く攻撃は無意味だった。

「一気にいきますよ!ワタッコ!」
「ワタッコだと?よし弟よ。あいつを一発で倒すぞ!『燕返し』!」
「わかった!『火炎放射』!!」

 2匹のポケモンともワタッコに対して弱点のタイプで攻めた。どちらも当たれば致命傷になるはずだ。そのはずだが。

「え?」
「そんな!?」

 グライガー、ブーバーの攻撃が当たらなかった。ワタッコは完璧にかわした。

「火炎放射はともかく、何故『燕返し』が当たらない!?」
「オト姉ェのワタッコは、周りの空気の流れを完全に読み取り、全く力を使わずに完全回避をすることができるのよ!!オト姉ェを甘く見たわね!!それに私を忘れちゃいけないわ!!『リーフブレード』よ!!」
「!?」

 コトハの一番の相棒、ジュカインのリーフブレードがグライガーに直撃した。

「グライガー!」
「終わりです!」
「え?」

 今度はワタッコが『ソーラービーム』をブーバーに向けて放った。ブーバーはとっさに火炎放射で対抗したが、火炎放射はぶち抜かれ、ワタッコの攻撃が直撃した。

「くっ!なんなんだ!?この姉妹は!!強すぎる!撤収だぁ……?」
「はい!兄さ……zzzz」
「これで、終わりね!」

 コトハはジュカインを戻して、縄で縛った。

「やっと、眠れますわ。ワタッコ、私にも『眠り粉』を……」
「オト姉ェはさっきも寝たじゃん!!」

 と、寝坊助の姉にツッコミを入れたのだった。



 20

「そして、怪盗兄弟は捕まったってわけなの」
「へぇ……美人踊り子姉妹か……会ってみたいなぁ……。ところでその話、ラティオスが襲ってきた話と何の関係があるんだ?」

 と、トキオはレモンティが入っていたカップに口をつけた。だが、もう飲んでしまってなかった。

「一匹のラティオスは用があったから出ていたのよ。それでラティアスは不意打ちでやられちゃって、まともにその兄弟と戦ったのはさっきトキオさんが戦ったラティオスだけなのよ。
 でも、あのラティオス、全然その兄弟に歯が立たなかったのよ。それからは、この秘密の庭の近くを通りかかったトレーナーを片っ端から引き寄せては戦っていたの。
 でも、今まで引っ張ってきたトレーナーには勝っていたみたい」
「つまり、あのラティオスは、強くなろうとして戦っているわけか……」

 自然にトキオはラティオスの方を向いた。

「ラティアスはラティオスにとって妹みたいなものなのよ。ラティアスを守りたいのだと思う。守るべきものがある者って、ポケモンも人間も関係なく強くなりたいものなのよ」
「守るべきものか……」

 トキオは自分の守るべきものを考えてみた。故郷、いつも口うるさいおじいさん……。

「(って、俺はもうアゲトビレッジを出た身だったな)」

 と、トキオはゼニガメを譲った可愛い女の子を思い出した。

「(ふっ……妹のためか)」

 トキオはふと立ち上がった。

「どうしたの?」
「強くなりたい点では、似たもの同士ってわけだ。俺がラティオスと特訓に付き合ってやるぜ!行くぞ!ラティオス!」

 トキオとラティオスは庭の中心に行き、特訓を始めたのであった。
 カノンはラティアスとともに、そんな一人と一匹を見守っていた。



 第一幕 Wide World Storys
 アルトマーレの物語 終わり





トップページ   編集 凍結 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2015-01-14 (水) 09:10:16
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.