15
突然あたりが真っ暗になった。
私の目の前に、今までであったたくさんの人がいる。
でも、一人、また一人……そして、消えていく。
シュウ、テツヤさん、マサムネ…………タケシ……マサト……そして、ユウキ、サトシまでも……。
私の目の前には誰もいなくなった。それは私の孤独をあらわしているの?
そして、私の周りに黒い渦のようなものが生じて、私を飲み込もうとする……。
私は必死でもがき、暴れてみるけれども、その深い渦は確実に私の体ごと、心ごと飲みこもうとしていた。
もうダメだと諦めた時、私は渦に飲み込まれた。
その中は何もない無の世界。怖かった。
でも、渦の外から、誰かが私の手を掴んでくれた。そして、一気に私を引上げてくれた。
その手はとても暖かかった。
でも、だれだろう?私を闇から救い出してくれたこの人は?
たった一つの行路 №026
「―――カ、―――ハ―――ハルカ!!大丈夫か!?」
「……んん……ユ…ウ……キ?」
「大丈夫か?体が震えていたぞ!?どこか悪いのか!?」
ハルカは上体を起こした。どうやら、眠っていたようだ。
「マサトのことが心配であまり寝られなかったようだな。もう少しだけ寝てろよ。着いたら起こしてやるから!」
ふと、ハルカは手の違和感に気づいた。見ると、ユウキが握り締めていた。ハルカが気づいたのと同時にユウキは手を離した。
「なんかお前が震えてたからさ。寒かったのかな?って思ってさ……」
ユウキは少し慌てていた。
「もう大丈夫よ!ほら!元気になったわ!」
そう言って、ハルカは立ち上がった。すると、急に空間が傾いた。ハルカは少しよろめいた。
それもそのはず、ハルカたちは今、飛行船に乗って移動中なのである。
それは、ジョウト大会が終わってすぐ、山を降りようとして、偶然カントー行きで、しかもタマムシシティ近く行きの飛行機があった。
親切にもパイロットは乗せてくれて、現在、ユウキ、ハルカ、マサムネはタマムシシティへ向かっている。
「(それにしても、嫌な夢だったわ。一体なんだったんだろう)」
16
「ふん!ピカチュウでこのジムに挑もうっていうのかい?やめておきなボーヤ!」
「俺はボーヤなんかじゃない!」
活きのいい10~11歳くらいの少年とピカチュウはやる気満々だ。
「格の違いを見せ付けてやれ!ライチュウ!」
そう言って、大柄の男、クチバシティジムリーダーのマチスが出したポケモンはピカチュウの進化系、ライチュウだった。
「ピカチュウ、『電光石火』だ!」
ピカチュウは指示を受け、一直線にライチュウに向かって突進していった。
「『かみなりパンチ』で弾き飛ばせ!」
だが、ライチュウはタイミングを合わせて、電気のパンチを繰り出した。
ピカチュウは弾き飛ばされ。地面を転げた。
「『10万ボルト』!!」
ライチュウは容赦なく攻撃を仕掛ける。
攻撃は直撃し、ピカチュウは気絶した。
「ピカチュウ!」
「出直してくるんだな!!まぁ、ピカチュウでライチュウに勝てるわけがないんだよ!」
「くっ!」
少年はピカチュウを抱えて、出口に向かおうとした。
だが、その時、誰かが入ってきた。
年は15~16あたりで灰色のジーンズ、白のTシャツに黄色のシャツを羽織った少年だった。
何より特徴は少し緑かかった髪でその頭にはピカチュウがしがみついていた。
「ジムに挑戦したんですが」
「Yes!ん……?ヘイ、ユーはピカチュウで挑戦かい?」
「そうだけど?何か……?」
「身の程知らずもいいところね!ミーのライチュウ相手に勝てるとでも……」
「そんなことはやってみないとわからないだろ?」
そして、ピカチュウは彼の頭の上から飛び降りてバトルフィールドに立った。
一方、ライチュウはさっきの少年の試合からずっとそこにいた。
「あのライチュウにピカチュウで勝てるのか……?」
先ほどやられた少年もこの試合を観戦していた。
「行くぜ!『電光石火』!」
ピカチュウは一直線にライチュウに向かって行った。
「ふん!『かみなりパンチ』だ!」
さっきの少年のパターンと同じだった。
ピカチュウが体当りするタイミングを見計らって、攻撃をヒットさせた。
ピカチュウは吹っ飛んだ。
「終わりだ!『10万ボルト』!!」
まさにさっきのバトルと同じパターンだった。地面の着地地点を狙って攻撃を仕掛けてきた。
だが、ピカチュウは片足で着地しそのまま体重移動をして上手く攻撃をかわし、ライチュウを撹乱し始めた。
「ちっ!!」
「電光石火だ!」
さらに攻撃を仕掛ける。
「かわして、尻尾でたたきつけろ!」
スピードのあった攻撃をライチュウはいとも簡単にかわした。
そして、長い尻尾がピカチュウに向かって振り下ろした。
「シオン、弾き飛ばせ!」
だが、ピカチュウは尻尾で攻撃を受け止めた。
並みのピカチュウなら衝撃に耐えきれず普通にダメージを受けるか、弾き飛ばされるはずだった。
しかし、彼のピカチュウは違った。あろうことが、ライチュウの尻尾攻撃を押し返した。
ライチュウの尻尾はそのままはじき返されて、頭にヒットし、ライチュウは怯んだ。
「『アイアンテール!』」
さらに隙を狙って攻撃を指示する。ピカチュウは飛び上がり、ビンタの応用で尻尾を振った。
「ライチュウ、『影分身』!!」
だが、そう甘くなかった。マチスはすぐに打開策を出した。
「シオン、『電撃波』!!」
しかし、ピカチュウの攻撃が影分身を破った。
「なに!?(バカな!?あの『電撃波』、並みのピカチュウの10万ボルト級はあったぞ!)」
ライチュウは相当なダメージを負ったものの、まだ戦えた。
「(But……)ライチュウお前の力を見せてやれ!『10万ボルト』!!!」
ライチュウは力いっぱい、電撃を放つ。
だが、ピカチュウはそれを最小限の動きでかわしていった。
マチスは痺れを切らした。
「ライチュウ、『かみなり』をフィールド全体に落とせ!!!!」
全開まで頬に溜めた電気を一気に放出した。
「シオン、上に向かって『エレキテール』だ!!」
『かみなり』は通常、上から下に落ちるものである。
それを少年はわかっていた。
ピカチュウは尻尾に電気を伝わせて、かみなりをなぎ払った。
「Oh,No!そんなバカな!」
「シオン!つっこめ!」
「今更そんな攻撃が通用するか!『メガトンパンチ』だ!」
ライチュウは拳を振り上げ、そのままピカチュウに向かって振りかざした。
だが、ピカチュウはそれをかわした。
ピカチュウは高速移動から、スライディングの要領でライチュウの足元へ滑り込んだ。
「シオン!今だ!『サマーソルト』!!」
彼の合図とともにピカチュウは状態をそらせ、一回転した。
だが、ただの宙返りではない。
その際にピカチュウの尻尾がライチュウの腹にピットし、そのままライチュウは10メートルはある天井へたたきつけられた。
もちろんそのあとは重力にしたがって、ライチュウは落下した。
「No!!ライチュウ!?」
「俺の勝ちだ!」
彼はオレンジバッジを受け取り去っていった。
「……ミーのライチュウがピカチュウにやられるなんて……こんなこと2度目のことだよ!……しかし、手も足もでないとは……」
マチスは最初にピカチュウに負けたときからライチュウにスピード技を習得させて、さらに電気技もより磨きをかけていた。
だがそれでも負けてしまったとあって、マチスはかなりショックを受けていた。
「凄い人もいるもんだな……。あの人といつか戦ってみたいな……」
少年は彼の背中を見て、そう呟いた。
17
―――3日後。タマムシシティ郊外。
この場に一つの飛行船が降り立った。
中からは少年少女3人が降りてきた。
もちろんそれがユウキ、マサムネ、ハルカだという事は言うまでもない。
「ここが、タマムシシティ……かなり大きい町かも……」
「確かにこの町でマサト一人を探すとなると大変だべ」
「おい!そんなに弱気になるなよ!あの婆さんの話を信じてこの町をしらみつぶしに探すんだ!」
ユウキがみんなを励まそうとした。
「そうね」
「それじゃ、3つに分かれて探そう!それでいいな?」
ユウキの提案にハルカとマサムネは頷いた。
「ええと……ここがタマムシジム……」
メガネをかけた少年、マサト。
ちょうど彼はジムの真ん前まで来ていた。
だが、張り紙を見てがっかりした。
「……『ただいまジム戦を行っている為、他のチャレンジャーは出入することが出来ません。出直してきてください』か……」
その張り紙にしたがって、ジムをあとにするしかなかった。
「また、ジム戦が出来ないのか……」
マサトはこのカントーに来てまだジム戦を一度もしていない。
最初に着いた町、ヤマブキシティでは、ジムリーダーナツメが家族旅行とかで一週間留守にすると張り紙に書かれていたからだ。
そして、マサトは次の町に行ってバッチをとることにした。
次の町に選んだのはタマムシシティだった。
それは、他の人に邪魔されたくないという気持ちと早くジム戦をやりたいという気持ちからだ。
ヤマブキシティからは東西南北、道がどこにも通じている。
だが、クチバシティは港町で、万が一ユウキたちに見つかるんではないかという考えが働き却下。
シオンタウンはジムが無いので例外。
そして、ハナダシティにはサトシがホウエンに来るまでに旅をしていたというカスミがいることを知っていたのでやめた。
だから、マサトはハナダシティジムを最後に回そうとしていた。
「せっかく、草系対抗のポケモン達を用意してきたのに」
と、マサトはボールを見つめてぼやいた。
「ねぇ、そこの君、俺とバトルしないかい?」
「?」
突然マサトは、17~18くらいの金髪の少年にバトルを申し込まれた。明らかに不良っぽかった。
「いいですよ!ちょうどジム戦前の肩慣らしということで!」
「それじゃあ、こっちの方へ行こうか。ここじゃ、バトルがやりにくいからね」
と、少年は不敵な笑みを浮かべマサトを路地の裏へと誘った。
―――10分後。
「……!!イワーク!ユンゲラー!」
金髪青年のポケモンが全滅した。ダブルバトルで、一回勝負のルールだった。
マサトは少々苦戦したが、勝つことが出来た。
「僕の勝ち!よし、この調子でジム戦も勝つぞ!」
そう言って、アメモースとグラエナを戻した。
“見事だね!”
「!!??」
気がついてみると、いつの間にか人数が4人増えていた。
“君にこんな素質があるとは思わなかったよ!”
「あなた達は……?」
“俺たちは有能なトレーナーを見つけてスカウトし組織に引き込むものさ”
“そして、我が組織に入って、成果を上げたものにはそれなりの地位が与えられる”
“だから君も入らないかい?我等“ロケット団”に!”
「ロケット団!!??」
マサトはその名前を聞いて、身構えた。
「ロケット団って、ポケモンを道具みたいに扱っては、破壊活動をする非道な組織じゃないか!誰がそんな組織に入るか!」
“そうか……君には、地位には興味無いのかい?”
「そんなものに興味なんてあるものか!!僕は絶対にその組織になんて入らないぞ!!」
“そうか……じゃあ仕方が無い”
そういって、他の4人がポケモンを出す。1対4……明らかに不利だ。
だが、マサトもそれぞれ、アメモース、ネイティオ、ギャロップ、グラエナを出した。
“悪いが、消えてもらうよ!僕たちの行動を知られたからにはね!”
「(4人のボールの数はそれぞれ3つずつ……。かなり不利だけど逃げるわけにはいかない!)」
―――数分後。
“くっ!まさか……”
“俺たちが、押されているだと……?”
状況はマサトの方が相手の4匹を全滅させていた。だが、マサトもアメモースとグラエナがダウンしていた。
「情けないな!」
「!?」
マサトは声の方を振り向いた。知っている声だったからだ。
“あ……幹部シード様……”
「……ん?お前は、ラジオ塔作戦の時に邪魔したチビじゃねェか」
「お前は確かカブトプス使い!?」
マサトは、後ずさりした。
ジョウト地方で旅をしていたころにマサト、ユウキ、ハルカの三人はコガネシティでラジオ塔が占領されるという事件に遭遇した。
ちょうどジムリーダーのアカネとジム戦をしたマサトは、アカネに協力する形でロケット団と戦った。
ムサシ、コジロウ、ニャースという3人組(二人と一匹)しか知らなかったマサトやハルカはこの戦いでロケット団の真の実力を知ることになった。
特に今目の前にしている幹部のシードという男は、マサトとハルカの二人がかりで退けた猛者である。
「ここは、俺がやる。こんな下っ端どもを相手にさせたんじゃ、時間の無駄だ。前回の借りもあるしな」
新たに引き連れた下っ端5人を引かせて、パルシェンとカブトプスを繰り出した。
マサトは残りの、ギャロップとネイティオだ。
唇をかみしめ、マサトは言う。
「僕はコガネシィの時と比べて強くなったんだ!だからお前になんて負けない!ギャロップ、『火炎車』!ネイティオ、『サイコキネシス』!」
ギャロップはパルシェンへ、ネイティオはカブトプスへそれぞれ攻撃を仕掛ける。
「ふん……強くなったとは、この程度か?」
「何!?」
「はっきり言ってこの程度の攻撃は、無意味だ!!!!」
シードの言ったとおり、ギャロップの攻撃はパルシェンに全く効いている様子がなかった。
パルシェンはギャロップの疲れたところを狙って、『水の波動』を使いダウンさせた。
カブトプスのほうは、ネイティオのサイコキネシスから自力で抜け出し、『きりさく』で気絶させた。
「所詮お前はこの程度の実力。一人では我々ロケット団の前では塵にも等しいようだな!」
「そんなことなんてない……絶対にそんなこと……僕は……僕は……」
あっさりと倒されマサトの声のトーンがどんどん落ちていった。
マサトの目の前が真っ暗になった。
「塵らしく、散れ!」
戦意をなくしたマサトに容赦なく、カブトプスが切りかかる。マサトは茫然としていた。
だが、何かがカブトプスの鎌を受け止めた。
というよりも、巻きつけて止めた。それは、草系ポケモンの『つるのムチ』だった。
「これは……もしかして……」
「何やっているのよ!マサト!!!」
「お姉ちゃん!?」
ハルカが走ってマサトの駆け寄ってくる。そして、ハルカはマサトをギュッと抱きしめた。
「心配したんだから……本当に……マサトがいなくなったときから私……ずっと心配していたんだから……よかった無事で……」
ハルカの目から涙が流れ落ちた。
「お姉ちゃん……」
「ふん!そんな姉弟愛話、天国でしてもらおうか!お前にも消えてもらう!それとも姉弟揃って、我々の組織に入る気にでもなったか!?」
「そんなのに絶対入らないかも!!」
「へっ!無意味な質問だったようだ!カブトプス!やっちまえ!」
カブトプスはつるのムチを切り裂いた。
「やっちまえ!秘技『鎌風』!!」
シードのカブトプス最強の技、鎌風だ。
この技は、見えないかまいたちである。見極めるのは不可能である。
「それならそれ以上の攻撃をするまでかも!!フシギソウ、『花びらの竜巻』!!」
「何それ?『花びらの舞』じゃないの?」
マサトのつっこみもさて置き、フシギソウは文字どおり、花びらの竜巻を作り出した。
鎌風が竜巻にぶつかる。その結果、鎌風はかき消され、竜巻がカブトプスを巻込み大ダメージを与えた。
「ちっ!あの女邪魔だな!だが、今だ、サマヨール!!」
「え!?」
ハルカは後ろにポケモンの気配を感じて、振り向いた。そこには手招きポケモンのサマヨールがいつの間にか存在していた。
「うっ!」
「お姉ちゃん!!」
サマヨールの拳がハルカの腹を突いて、ハルカを気絶させてしまった。
「おい、お前ら、この女を捕まえろ!」
「そんな事はさせない!」
マサトはハルカの元へ立った。
「お前らやっちまえ。どうせそいつは多くても2匹しか残っていまい」
“そうだな!”
そう言って、下っ端が1人出た。
“俺一人で充分だ!”
「絶対に負けない!ジュプトル!!」
マサトは戦意を無くしていた。だが、姉を想う気持ちが戦意を取り戻させた。
“お前一人で、どうあがくっていうんだ?”
「一人でも、戦ってやる!」
「マサト、お前は一人なんかじゃない!!」
「え?」
すると、空から、トロピウスが舞い降りてきた。乗っていたのはユウキである。
「随分探したぞ!」
「ユウキ!!」
「ふん、何人来ようが無意味だ!!」
「そこのお前!俺が相手だ!」
「お前が、この俺、『鉄壁のシード』の相手をするというのか?……そういえば、この間の戦いで俺の部下の班長ラミを倒したのはお前だな?」
「……!!ああそうだ!」
「少しは期待できそうだな。来い!」
マサトはハルカを守るので精一杯だった。そのため、ユウキがシードを倒せるかがこの勝負を握っていた。
シードはそのまま残っている、サマヨールとパルシェン。ユウキはトロピウスを戻し、別の二体を出した。
「行け!サマヨールに『サンダーインパクト』!!パルシェンに『10万ボルト』!!」
サマヨールを攻撃したのは、ライボルト。
パルシェンに攻撃したのはキルリアだ。
両方とも強烈な電気攻撃をする。
だが、ライボルトの攻撃は素手でサマヨールに止められ、パルシェンは10万ボルトを殻で弾いた。
「……!! どっちも効いていない!??」
「俺の防御は完璧だ!」
するとサマヨールは『シャドーパンチ』ですぐさま反撃。パルシェンも『冷凍ビーム』を撃つ。
キルリアは攻撃をかわしたが、ライボルトは受けてしまった。
「それなら、これならどうだ!?キルリア、『サイコキネシス』!ライボルト、『10万ボルト』!」
「無意味だと言って……!?まさか!」
無意味ではなかった。
キルリアのサイコキネシスが無理やりパルシェンの殻をこじ開け、そのままライボルトの攻撃がヒットした。
「さすがに中までは防御は高くないようだな!」
「やるじゃねぇか!だが、それだけでは俺に勝てん!」
今度は、サマヨールがシャドーボールを放ち、キルリアをダウンさせた。
「くっ!ライボルト、『10万ボルト』!!」
サマヨールに攻撃がヒットする。だが、相変わらずサマヨールに効いている様子はない。
「……なぜだ!?」
「『シャドーボール』!!」
サマヨールが攻撃を加えるが、ライボルトは持ち前のスピードでかわす。
「それなら、もっと強力な攻撃をするまでだ!『充電』!!」
「サマヨール、こっちも力を溜めろ!」
するとサマヨールはなにやら黒いオーラみたいなものをまとい始めた。
「行け!ライボルト、最大パワーで『かみなり』だ!!」
溜めに溜めた、電気を力一杯サマヨールに叩き落した。
サマヨールの周りにいた者全てが吹っ飛んだ。
間違いなく最大の一撃だった。
「ユウキって……こんなに強かったの!?」
マサトはユウキの強さに驚いた。
最近、マサトはユウキに負けることはなかった。
しかし、これを見る限り、これがユウキの本当の力だった。
「……やったか?」
「へっ!なかなかやるじゃねえか!サマヨールもさすがに危なかったぜ!」
「!!?」
煙の中から出てきたのは、シード、そして、サマヨールだった。
「バカな!あの技を受けて倒れないなんて!」
「……なんて奴だ?(それとも何か技を使ったのか?)」
マサト、ユウキがそれぞれ言った。
ライボルトのかみなりの影響でサマヨールの周りはくぼみが出来ていた。
それほどの威力にもかかわらず、サマヨールは立っていた。
「まぁ、多少はダメージを受けたがな。よくやったよお前……ユウキだったか?今度はこちらから行くぜ!サマヨールの秘技でとどめを刺してやる!くらえ!『闇の言霊』!!」
サマヨールと取り巻いていたオーラが、数個のシャドーボールになって襲い掛かった。
「そんなもの!ライボルト!」
10万ボルトを指示し、相殺を試みた。だが、そのシャドーボールと激突せずそのままサマヨールに命中した。
サマヨールは一瞬怯んだ。
だが、サマヨールの攻撃は終わっていない。
「!?かわせ!」
すると、そのシャドーボールは追いかけてきた。
「うわぁ!」
それぞれ数個ずつ、ライボルトとユウキは攻撃を受けてしまった。ライボルトはダウンした。
「ユウキ!!」
「これで、あいつは終わりだ」
「どういうことだ!?」
「見てればわかるさ」
「……か……勝てない……」
「ユウキ!?」
ユウキは膝をついてがっくりと肩を落とした。
目は虚ろいでいた。
「どうしちゃったんだよユウキ!」
「これが俺のサマヨールの必殺技だ。絶対にかわせないうえ、相手の戦力、気力さえも奪う技だ」
「そんな!?」
“ふん!よそ見なんてしていていいのか!?”
「……しまった!!ジュプトル!!」
ユウキを気にしている間に、ジュプトルはオニドリルの一撃を受けてダウンしてしまっていた。
“まだ俺たち、3人フルに残っているぜ!さらに幹部シード様がいる。よくやったがここまでだ!諦めろ!”
「くっ……(……このままじゃ……)」
ハルカはダウン。
ユウキは戦意喪失。
マサトは絶望した。
「終わりだな!」
シードが高笑いした。
だが、その時、どこからか、攻撃が放たれた。
しかも、それはサマヨールに当たり、ダメージを負わせた。
「何だ!?」
シードは攻撃してきた方向を見るが、誰もいなかった。
「……どこから……!!上か!!」
シードの考えは当たっていた。
上空から来たポケモンは緑の翼に赤色のメガネをかけたポケモン、フライゴンだった。
「サマヨール!!」
サマヨールは迎え撃とうとする。だが、痺れて動けない。
「マヒ状態だと?……さっきの攻撃は『竜の息吹』か!」
そのまま、フライゴンの『ドラゴンクロー』がヒットしサマヨールはダウンした。
「やっぱり、あのサマヨールは『守る』を使っていたんだ。ライボルトの10万ボルトが当たった時になんとなく気づいたけど」
フライゴンはそのまま、ロケット団が囲んでいる真ん中に降り立った。
すると、フライゴンには一人の少年が乗っていた。
黄色のシャツに黒のジーンズ、緑色の髪……そして、左頬には、なんだか先ほど転んだようなかすり傷がついていた。
そして、少年は言った。
「俺も加勢させてもらうよ!」
第一幕 Wide World Storys
タマムシシティの出会い(前編) 終わり