閉会式が行われていたのだが、それは奇妙な閉会式だった。
「え~……ラグナ選手もリュウヤ選手もいません……。トロフィー……どうしましょう……」
司会者は困っていた。閉会式に二人とも出ていなかったのだ。
「そう言えば、マサトもいないわ。私、宿舎へ先に戻っているね!」
ユウキに断り、スタンドからハルカも急いで宿舎へと戻った。
結局トロフィーは仕方が無く保留されることになり、閉会式は幕を閉じた。
ハルカが宿舎についた頃、そこにマサトの姿はなかった。しかも、宿舎の中は空っぽになっていて、マサトの荷物は一つも残っていなかった。
ハルカはふとテーブルの上に置手紙があるのに気づいた。そして、あけて読んでみるとそこには驚くべき内容が書かれていた。
お姉ちゃんとユウキへ
僕はポケモントレーナーとしてもっと強くなるために一人で旅に出ます。
だから、もう二人はついて来ないで下さい。
もちろん探さないで下さい。
僕が強くなった時、必ずトウカシティに戻るのでそれまでは僕のことをほっといてください。
マサトより
ハルカは膝を落とした。
「(どうしてなの、マサト?いったい何があったの?)」
外では無常と花火の音がなり、音とともに花火は消えていった。
閉会式が終った頃に丁度花火が上がった。それは、観客やトレーナーたちも見とれるほど綺麗な物であった。
シロガネ会場から離れたところで彼、リュウヤもその花火を見ていた。
「まだ、この程度の力じゃダメだ。あいつらを倒すには……彼女を救うには、力も仲間も足りない。このままじゃダメなんだ…………このままじゃ…………」
独り言をつぶやきながら、リュウヤは1匹のドラゴンポケモン、ラティオスを出し、一瞬のうちにどこかへ姿を消した。
その表情はとても険しいものだったという。
一方、リュウヤがいた反対の場所でもある4人組がその花火を見ていた。
「綺麗ね」
ヒカリは花火を見て率直な感想を言った。
「結局、このジョウトリーグでの収穫はナシか」
「そのようだな。お前もヒカリもそして俺も誰一人目的の相手を見つけられなかったからな」
「あれ?ハルキって、探している人でもいたの?」
ヒカリが聞くが、ハルキは口をつぐみ一切答えなかった。
「連絡が入ったわよ」
そこにユウナが話に割り込んだ。
「これからチョウジュタウンにいる“幹部ジミー”のところへ向かえって本部から連絡があったわ」
「待ったく、めんどくせーな」
「ま、しょうがないわね。行きましょうか」
「…………」
ユウナ、ラグナ、ヒカリ、ハルキはそれぞれ同じようなコートを羽織った。
その裏側には“R”という文字が縫われていた。
12
ジョウトリーグが始まる少し前。
ここはロケット団の本部。そこで重要な会議が開かれようとしていた。
「これから会議を始める!全員席に着け!」
ボスの右腕、マルクが厳しく命令する。
「ふぁ~あ、まったく……。で、その3つの作戦はどうなったんだ?」
「口を慎め!バロン!」
「はいはい、分かりましたよっと」
銀髪で鋭い目の男……幹部バロンの態度は悪い。
「まず結果報告。一つ目はコガネシティ、ラジオ塔の占領。幹部シード率いる鉄壁部隊が行くもジムリーダーと数人のトレーナーに邪魔され、作戦失敗。幹部シード以外はすべて逮捕された」
「なんだ、シード、たいしたことないな!」
「うるさい!どっちにしろお前では120%無理な作戦なんだから口出しするな!」
「ああ!俺はそういう作戦は向いていなんでな!」
「やめなさいよ!バロンにシード!」
慌てて、レイラが止めに入った。そこで報告は続いた。
「二つ目は怒りの湖にあった基地のことだが、幹部ジミーによると順調のようだ」
「まぁ、それはそうやろ!あいつの地道な仕事は本当に目立たへんからな!」
「お前は逆に大雑把過ぎて失敗するんだよな!」
「……それを言うなっ!」
ジミーのことをなじったつもりのコガネ弁の男、幹部エドだったが逆にバロンになじられた。
「そして最後にホウエン地方、ファウンスでの眠りの繭奪還の話だが……」
「ああ、ドミノがヘマやったやつだな。情けねえな!」
「だから黙って聞け!バロン!……バロンの言うとおり失敗した。幹部のドミノを含め、ロケット団全員が捕まった」
「でも、全員捕まったのならどうやって連絡が入ったの?」
レイラが尋ねた。
「ナンジ博士についている、ヤマトとコサンジという2人組もその作戦に加わっていて、そいつらだけ無事だったらしい。連絡まで時間がかかったらしいが」
ナンジじゃない!ナンバじゃ!……という声がどこからか聞こえたそうな。
マルクはその言葉を無視した。
「ともかく、コガネシティの占領の話は水に流す。コガネシティでは体勢が厳しくなっていると思うからな。ジミーの方はルーキーズの4人がサポートに加わることになった」
「ルーキーズね。あの可愛い4人の子供達……」
「ガキの中でも実力が高いあの4人か」
レイラとバロンがそれぞれ口にする。
「そして、眠りの繭奪還だが、それはなんとしても成功させないと行かない!というわけで誰かに行ってもらおう!今度は幹部2人でな!」
するとざわめきが起こった。幹部2人での行動というのは滅多にないからだ。
「じゃあ、私が行きましょう」
一人の女の手が挙がった。彼女の名はココ。
異名、『静寂のココ』と呼ばれる不気味な女である。その手が挙がった時、場が静まり返った。
「よし、じゃあ、もう一人はワイで決まりや!」
「いや、私が行こう!」
と、一気に二人の手が挙がった。
さっきまでバロンになじられていたエドとダークポケモンの使い手といわれるビシャスである。
「どちらも汚名返上ってか?だよな!そうしないと幹部、首になっちまうもんな!」
バロンがまた口を入れてくる。ビシャスは最近、セレビィの捕獲に失敗していた。
エドの方と言えば、アーシア島で伝説のポケモンの捕獲を失敗した人物であった。
「まぁいい。あっちには強いトレーナーがいるのかもしれない!3人で行って来い!」
ざわめく中、会議は幕を閉じた。
13
「どう……だ!?はぁはぁ……いたか……?」
ユウキは全力で走っていたため息を切らしていた。
ジョウトの会場をすべて回っていたのだから無理はない。
「だめ……みつからない…………」
同じくハルカも息を切らしていた。彼女も同じように走っていた。
「もしマサトの身に何か起きていたら私……」
「ハルカ、泣くな!お前のせいじゃない!!俺のせいだ。きっちりとマサトと話しておくべきだったんだ」
夕日が沈み、あたりは暗闇に包まれていた。そこへ、マサムネも戻ってきた。
「だめだ!どこにもいない!もう、ここを離れたんじゃねぇべか?」
そこへ、アゲハント、トロピウスなど飛行形のポケモンたちも戻ってきたが、誰もがマサトを見つけられなかった。
「一体どこへ行ったの?マサト……」
ハルカはこらえきれず、涙を流した。ユウキはハルカを支えてやった。
「ハルカ、落ち着け!!」
「これが落ち着いていられるもんですか!何処に行ったかさえも分からないのにどうやってこれ以上探せばいいって言うのよ!」
ユウキとマサムネはうつむいた。近辺を探していなかったのにそれ以上どうやって探せばいいかなんて分かるはずがない。まさに万事休すだった。
「こんな所で何やってんだ?」
そんな3人を見かねてか、あるグラサンの男が話し掛けてきた。
「あなたは、トキオさん?」
「何かあったのか?」
ハルカは藁にもすがる気持ちでトキオに一部始終を話した。
「なるほど、彼は一度もポケモンバトルで負けたことがなかったのか。それで、彼は一人でどこかへ行ってしまった。」
「そうです」
「じゃあ、そのままほっとけばいいじゃないか」
トキオは平然とそう言った。
「どうしてですか?私は弟が心配で……」
「10歳になったらポケモンをもらい一人で旅をすることを許可される。つまりトレーナーになれる。まぁ、それ以下でも別にいいだろうが。彼が、一人旅を望むのなら、その希望を通して上げるべきじゃないのか?」
「…………」
「それにしても、一回負けたくらいでそんなに落ち込むんじゃ、これから負けるたびにどうなっちゃうんだろうな?
プライドの高い奴ほど負けると落ち込んじゃうものだし。それに彼はポケモンについて何も考えていなかったみたいだし。このままじゃ彼は―――」
その瞬間、ユウキはトキオに飛びついた。トキオはその先喋ることができなかった。
「それ以上、マサトを悪く言うな!!あいつはこれまでがんばってきたんだ!ただあいつは勝っていく度にそれがポケモンの力でなく自分の力だ思い込んでしまっていた。
そして、いつしかポケモンとのコミュニケーションも忘れていた。それが当たり前のようになっていった。
俺は、マサトの最近のジム戦やこの大会のバトルを見ていくたびにわかったんだ。それは、あいつ自身で気づくしかないことだ!そうだろ!?」
トキオはユウキを跳ね除け、立ち上がった。
「ああ、そうだ。ポケモンを信頼することでトレーナーは強くなる。俺もそう考えている。逆も然りだ。けど、ポケモンの方はトレーナーを信頼しているようだったがな。
だから、一人で旅をすることでそれを覚えさせるしかないと俺は言っているんだ!!」
ユウキも立ち上がった。
「でも分かった。今のあいつは自分で気づくことはない。このままではマサトは何も考えずにポケモンバトルしてポケモンを傷つけるだけになってしまう。そんなことはさせない!俺はあんたがなんと言おうともマサトを見つけ出す!」
「勝手にすればいい。だが、彼の居場所がわからないんじゃどうしようもないだろ?」
「うっ……」
ユウキは黙り込んでしまった。ハルカもマサムネも同じくだ。
トキオはそう言い、立ち去ろうとした。
「ちょっと待ちなさい。人探しならわしに任せなさい……」
すると、いつの間にか近くに怪しげな老婆がいた。
「何だ?このばあさん?」
「わしが彼の居場所を教えてしんぜよう」
「本当ですか!?」
ハルカは老婆に詰め寄った。
「それじゃ、お願いします!!」
「やめとけ!」
トキオが忠告した。
「占いなんて当たるわけがない!気休めに過ぎない!」
占いのたぐいを信じないトキオはそう言った。
「ひひひ……それはどうかな?それじゃひとつお前さんを占ってあげよう。きええぇぇぇぇぇぇぇい!!!!」
水晶玉が光だし、そして、老婆が言うには。
「お前さん、昨日、ハルというオナゴをはべらそうとしたね?」
「え゛?何故それを……?」
トキオは顔をしかめた。
「しかも、失敗したらしいのぉ。」
「あんた、ハルさんに手を出していたとは許せん!!」
とユウキはトキオに跳びかかるが、マサムネが羽交い絞めにした。
「ユウキ、落ちつくべ!今はそれどころじゃないべ!」
「じゃあ、私の弟、マサトの居場所を教えてください!!」
「良かろう。きええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
再び水晶玉が光りだした。そして、老婆が口を開いた。
「タマ……ム……シ……シティ……」
「え?」
「タマムシシティって所に行けば、探し人に会えるようじゃ」
「ユウキ、タマムシシティって何処!?」
「わからない。ジョウト地方やホウエン地方出ないことは確かだ」
ハルカとユウキはマサムネを見た。
「おいらも分からねぇ」
「まったく……タマムシシティというのは、カントー地方での主要都市のひとつだ。一番建物が多い町でもあるな」
トキオがやれやれと首を振って答えた。
「よし、じゃあ、早速行きましょう!!」
「ああ!」
「こうなったらオラも行くべ!!」
ユウキもマサムネも一緒についていくことになった。
「あ、そうそう。なるべく早く行ったほうがいいぞ!悪い知らせも出たのでな」
「む……わかった。お婆さん、ありがとう!!」
ハルカは手を振って老婆と別れた。
「ところで俺はどうしようか」
トキオは一人で迷っていた。
「それなら、お前はアルトマーレに行くが良い」
「……?何であの水上都市に?」
「ひひひ……可愛いオナゴが待っているとのことじゃ!」
「それ本当か!?よし行くぞ!アルトマーレ!!」
トキオはハイテンションで走り去っていったのであった。
「どういうつもりだよ、アマ婆ぁ」
老婆の隣りにはいつの間にか、両腕に刺青をした男、リュウヤが立っていた。
そして、彼の傍らにはラティオスがいた。
「またこの世界の奴に“定め”を教えるなんて……。これであんたはこの世界で5回も“定め”の力を使ったことになる。その力、あと何回使えると思っているんだよ!」
「リュウヤ。仕方がないじゃろ。これが、わしの“定め”というやつなのじゃから?ひひひ……」
「…………」
背を向けるアマネという老婆を黙ってリュウヤは見つめていた。
「あのマサトというやつが本当に力を手に入れるのか?」
「いいや。目的はその先じゃよ」
「一体アマ婆には何が見えているんだ?」
「可愛い孫の幸せな未来しか見えておらんよ」
アマネは振り返って、リュウヤにほほ笑むのだった。
「(僕は……僕は……もっと強くなる!!誰にも負けないトレーナーになってやる!もう誰にも頼らない。そうすればきっと……パパみたいになれるよね……?)」
マサトは誓いを胸にリニアへと乗り込んだ。
一人の決意を乗せ少年を運んでいった。
14
明朝、ある船が海の上を進んでいた。
その船は、たいした大きくもない普通の連絡線のようだ。シーギャロップと違い、スピードもゆっくりだ。
その船の上に一匹のピカチュウが、仰向けになって気持ち良さそうに寝ていた。
そのピカチュウはふと突然目を覚ました。
そして、周りを見ると、すべてが水平線だと思っていたが、北の方向に(ピカチュウ自身は北かどうかなんて知らないが)島らしい物体が見えたらしい。
急いでピカチュウは下へと降り、船内に入り、ある部屋に入った。
そこにはピカチュウの主人<マスター>がいた。
ピカチュウは揺すって彼を起こそうとする。だが、彼はまだ起きようとしない。
次にピカチュウは尻尾で顔をビンタした。気持ちのいい音をパシ、パシと立てるが、まだ目覚めそうにない。
「姉さん……もう食えないよ……」
彼は寝言を言っていた。
そうなったら最終手段。ピカチュウは、頬袋に電気を為、それを一気にマスターに放出した。
「うわ~~~~!!??☆☆$#%」
彼はビックリして飛び上がった。
ピカチュウはやれやれと疲れた顔した。そして、部屋を出た。
「お!?もしかして着いたのか!?」
彼は急いで上着を着て、ピカチュウの後を追った。
外に出てみるとちょっと靄がかかっていた。だが、すぐに消えた。
その先に見えるのは港町のクチバシティだった。
「おぉ!!ついに着くか!クチバシティ!いやぁ……2年ぶりかな?本土は……」
彼はしみじみと言った。そして、アナウンスがなった為、急いで荷物をまとめた。
そして、船が着いた瞬間……。
「きゃ!……!ドロボー!!その人を捕まえて!!」
船内でどうやら窃盗事件が起きたようだった。犯人は急いで、船から、地べたへと抜け出し、走り去ろうとした。
「まったく、どうしてこうも悪いことするやつって、あとを絶たないかな」
彼はそう口に出し、緑色の羽を持った飛行ポケモンを出した。
そのポケモンに彼が乗ったのと同時にピカチュウも彼の頭の上にしがみついた。
そのポケモンに乗って、すぐに犯人に追いついた。
「何のつもりだお前!?」
「荷物、返してもらうよ!」
「青二才が!俺に勝てるとでも思っているのか!?ゴローン!ユンゲラー!」
反抗して男が、2体のポケモンを出してきた。
彼もポケモンを出した。だが、その瞬間にゴローンとユンゲラーは倒れてしまった。
「なっ!!な、何をした?!」
男は唖然とした。
「何って?ポケモン出して攻撃したに決まっているだろ!」
「何!!(強い……逃げるが勝ちだ……)おまえなんかにかまって……zzz」
男は逃げようとしたが、途端に倒れて眠ってしまった。
「ご苦労さん」
そう言って彼は一匹のポケモンを戻した。
すると、被害者である女性がやっと駆けつけてきた。
「ありがとうございます!あの御礼をしたいのですが……」
「いや、結構です。それより今度は盗まれないようにね」
彼は穏やかな口調でその人に言った。
「せめて、お名前だけでも……」
「名前?……俺はヒロト。マングウタウンのヒロトだ」
頭の上にずっとしがみついていたピカチュウも元気に鳴いた。
舞台はカント―地方。
カントー地方の新たな物語が幕を明けようとしていた。
たった一つの行路 №025
第一幕 Wide World Storys
ポケモンリーグジョウト大会④ ―――終わりからの始まり――― 終わり
追記
この三章から、マサトやハルカなどのアニメ組のキャラも登場します。
ただ、この章を初めて書いた当時はまだアドバンスジェネレーション編を放映中でした。
すなわち、このたった一つの行路で出てくるハルカのポケモンは予想で書かれています。
アドバンスジェネレーション編が終わった後は独自の物語となっていますのでそのあたりはご了承をお願いします。