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たった一つの行路 №024

/たった一つの行路 №024

 マサトは最後のポケモンであるジュプトルを出した。

「ジュプトル、お前が頼りなんだ!絶対に勝つぞ!」

 ジュプトルも気合が入っている。

「(おいおい、残りが草系じゃ君の勝ち目はないよ。マサト君。ヘルガーをいるのを忘れているぜ!それに俺にはこいつがいる)」

 トキオはポケモンの選択し、ボールを投げようとした所でいったん止めた。

「マサト君、棄権しないのか?」
「どうしてですか?」

 マサトの方が逆に聞き返した。

「無駄にポケモンを傷つけることはないんじゃないかなと言っているんだ」
「そんなことはない!やってみなきゃわからないだろ!」
「(棄権の選択は無しか……。仕方がない……)」

 そしてトキオは、三匹目のポケモン、エアームドをフィールドに出した。



 たった一つの行路 №024



「ジュプトル、『電光石火』から『リーフブレード』!!!!」

 ジュプトルがフィールドに出て15分が経った。マサトは、いろいろな攻撃を試みていたが、エアームドにダメージを与えることはできなかった。
 逆にジュプトルは傷だらけである。

「『エアーカッター』だ!!」

 空気のカッターがジュプトルに襲い掛かるが持ち前のスピードでかわす。
 多少ダメージは受けているもののこの調子で攻撃はかわしていた。だが、その“多少”が命取りである。
 “多少”でも15分も戦っていれば、ダメージは蓄積される。そして、結局疲れが出て、大きなダメージを受け負けるのがオチである。

「『鋼の翼』だ!!」
「かわすんだ!」

 だが、ジュプトルは疲れが足にきて膝をついた。それを狙わんとばかりにエアームドの攻撃がヒットした。ジュプトルは吹っ飛んだ。

「まだだ!ジュプトル!まだ負けていない!」

 マサトの声に答えてジュプトルは立ち上がった。だが、膝ががくがくしていてもう立っているのも辛そうである。

「『リーフブレード』だ!!」

 『深緑』を発動させ、渾身の力を込めたリーフブレードをエアームドに叩き込んだ。だが、エアームドは、平然としていた。

「悪いが、終らせてもらう。『ゴットバード』だ!」
「『リーフブレード』で受け止めるんだ!!」

 リーフブレードで受け止めようとした。だが、ブレードが折れ、そのままエアームドのゴットバードがジュプトルを弾き飛ばした。
 その威力はジュプトルをフィールドの場外に飛ばすほどだった。もちろん、ジュプトルは再起不能。意識が完全になかった。

「ジュプトル……」

 マサトは茫然とした。そして、審判のコールがトキオの勝利をつげた。
 マサトにその審判のコールは耳に入っていなかった。



「ふう、順当な勝利かな」

 トキオはマサトとの試合が終ってポケモンセンターに次の対戦のため、ポケモンたちを預け、自分は喫茶店で一人で休んでいた。

「(それにしても、あのマサトって奴、がむしゃらすぎだったな。俺だったら絶対棄権するのだが。ポケモンに無理させすぎだぜ……)」

 店の店員に注文をとられ、トキオはレモンティを頼んだ。

「(さて次の対戦相手はマサムネかリュウヤって言っていたかな?そろそろ気を引き締めないと。いつも準決勝で負けているし)」

 彼はなぜかノースト地方の大会でベスト8を除けば、いつもベスト4止まりだった。
 トキオは出されたレモンティを飲みながら、外を眺めていた。
 そして彼はある二人組の少女に目が止まった。
 一人は緑のワンピースで下にズボンを穿いていて、胸元にはペンダント、腕にはブレスレットをつけていた。
 もう一人は緑のフレアスカートで、半袖の短いクリーム色のブラウス。髪は黒で長さは肩かかり、そして、左右に二つに分け結んでいた。耳にはハートのイヤリングをしていた。
 ペンダントの方の少女は知らなかったが、イヤリングをしていた少女には見覚えがあった。
 トキオは慌てて店を飛び出して、全力で追いかけた。だが、角を曲がったところで見失った。

「はぁはぁ……あの子……ヒカリさんに似ていたぞ?でも、大会に出ていないし……俺の見間違いか?」

 トキオは首を傾げながら喫茶店の中へ戻っていった。



「マサト、残念だったね……」
「…………」

 ハルカとユウキとマサトはポケモンセンターに戻っていた。

「マサト、マサムネの試合見に行こう!」

 ハルカが明るく誘う。そして、手を差し伸べた。だが、マサトはそれを払った。

「僕のことなんてほっといてよ!」
「わかったわ……私は先に行っているからね」

 ハルカは優しくマサトに言った。自分も負けたときの悔しさはコンテストでわかっているつもりだったから、余計に気を使っていた。

「マサト、今回は残念だったな」
「…………」
「まぁ、初めてにしてはいいところまで行ったじゃないか。次の大会がんばればいいさ」

 ユウキは気軽に言ってみせた。

「ポケモンたちはジョーイさんに任せて俺たちはマサムネの試合を見に行こう!」

 ユウキはスタジアムへハルカを追いかけようとした。

「絶対に勝てた試合だった……」

 マサトはボソリと呟いた。ふと、ユウキは足を止めた。

「ポケモンたちがもっとがんばれば、絶対負けはしなかった!僕はしっかりとがんばった!だから絶対勝てたんだ!!」
「マサト……お前、本気で言っているのか?」
「ああ!本気だよ!!!!」

 ユウキはマサトの頬を思いっきりはたいた。周りの人がユウキたちを見るほどにその音は響いた。

「何を……!!??」

 マサトはユウキに殴りかかろうと拳をユウキの頬に放った。しかし、ユウキは右手で軽く受け止めた。
 そして、マサトの右腕を横の方へ引っ張り転ばした。

「お前がそう思っているようじゃ、これから先、強くなれないぜ!!」

 ユウキはあえて冷淡な声で言い放った。
 マサトはすぐに起き上がった。ユウキはマサトがまた殴りかかってくると思い、体勢を低くした。
 だが、マサトはポケモンセンターを飛び出していった。

「(ちょっと言い過ぎたかな?)」

 その時ハルカが、戻ってきた。

「ユウキ大変なの!スタジアムに……あ、この映像を見て!!」

 ハルカは、モニターを指差した。そこには第二試合、マサムネ対リュウヤの試合が行われていたのだが……。

「嘘だろ……?」

 ユウキはモニターを見て愕然とした。
 マサムネが残りメタグロスなのに対して相手はまだフルに6匹残っている。しかも、リュウヤはボーマンダとフライゴンしか出していないのだ。
 そして、ボーマンダの『大文字』がメタグロスに炸裂した。マサムネは相変わらず『気合だ!』と叫んでいるようだが、メタグロスは力尽きた。
 モニターの中でマサムネの負けがコールされた。

「リュウヤって人……強すぎる……」

 ハルカはあまりの凄さに語尾の“かも”を付け忘れたくらいだった。

「一体何者なんだ!?」
「そう言えば、マサトは?」
「ポケモンセンターを飛び出していった。まぁ、夕方には戻ってくると思うよ」

 ユウキは先ほどの騒動のことをあえてハルカに話さなかった。



 8

「ヒカリ、“愛しの彼”は見つかったの?」

 歩きながら、首にペンダントをつけていた少女は尋ねた。

「ユウナ!“愛しの彼”は止めてよ……結局、片思いだったんだから……」

 ヒカリはうつむいて答えた。

「でも、強くなって彼の気持ちを奪いたいと思っていたんでしょ?」
「そうよ。だから私はこの組織に入ったのよ!誰にも負けないために……」
「いいな……私もそういう人がいたらな」
「ラグナなんていいんじゃない?」
「止めてよ!あいつバカだし」
「じゃあ、ハルキは?」
「ラグナと違って何考えているか分からないからパスね。それに、彼には確か“気になる女”がいるって言っていたわよ。それに私はもう人を愛することなんてできないかもね」

 突然ユウナは黙り込んでしまった。

「家族が事件に巻き込まれたこと……よほど恨んでいるのね」
「ええ!私は絶対警察を許さない!今の警察組織を全て壊滅させてやるんだから!」

 ユウナの声には怨念が含まれていた。



 9

「見つけた」
「え?」

 ドラゴンの刺青の男、リュウヤは何もない広場に来ていた。そこに、メガネをかけた少年、マサトがいた。

「あなたは誰ですか?」
「俺の名前などどうでもいい。俺とバトルしろ!お前の力、見せてもらう!!」

 リュウヤはいきなりポケモンを出し襲い掛かった。
 翼が綿みたいでふわふわなポケモン、ハミングポケモンのチルタリスだ。
 チルタリスはマサトの顔に向かって『燕返し』を仕掛けてきた。マサトは身を屈めた。動けなかった。
 だが、攻撃はわずか数センチずれた。いや、チルタリスがわざと外したのだった。
 そして、リュウヤのもとへ戻っていった。

「危ないじゃないか!!トレーナーに攻撃するのは反則なんだぞ!!」

 しかし、リュウヤは謝りもしない。

「早くポケモンを出せ!負けるのが怖いのか?」

 マサトはカチンと来た。即座にギャロップを出して対抗した。
 出した直後に『火炎放射』を放った。チルタリスはそれをまともに受けた。

「その程度か?」

 チルタリスは平然としている。
 続いてギャロップは高速移動に入り『とっしん』を仕掛けた。だが、ひらりとかわした。
 さらに『みだれづき』と仕掛けるが、かわされて、あたる様子はない。

「ギャロップ、『火炎車』だ!」
「この程度か。チルタリスやれ!」

 リュウヤは指示を出す。チルタリスが激しい光を出した。
 刹那、ギャロップは倒れた。

「……!!??いったい何が!?ギャロップ!立つんだ!まだ負けていない!!」

 ギャロップは立ち上がろうとする。だが、力尽きて倒れた。
 リュウヤはチルタリスを戻し、その場を離れていこうとした。

「待て!まだ、負けてはいない!まだポケモンは残っている!」

 マサトはリュウヤを引き留めようとした。だが、リュウヤは目にもくれない。

「同じことだ。これ以上やる必要は無い」

 マサトは悔しさのあまり地面をたたいたのだった。



 10

 準決勝、第一試合、“トキオ対リュウヤ”の試合が熱狂とともに始まった。フィールドには氷が張り巡らされていた。

「(う~ん、氷をどう使うかがポイントかな?)」
「(こいつは珍しいオーラを持つ奴だな。面白い!)」

 両者がそう思う中試合が始まった。だがこの試合は一方的だった。
 トキオは最初にガルーラを出すが、ボーマンダのパワーに対抗できず撃沈。
 続いて『火炎放射』をエアームドの『高速移動』を生かし、『火炎放射』をもろともしない『燕返し』で仕掛けようとするが、意外な技『ハイドロポンプ』の水圧で体勢を崩され、『大文字』でとどめを刺された。
 ジュゴンの氷攻撃で巻き返しを図り、ボーマンダを苦戦の末、撃墜させるが、キングドラの『竜巻』攻撃に対抗できなかった。
 ブレイクタイムの後、ゲンガー対フライゴンで試合が始まるが、それも一方的だった。
 『影分身』後に、『冷凍パンチ』で攻撃を仕掛けるが、見切られ、カウンターの『アイアンテール』を受けたが最後、『道連れ』を発動させる暇もなく、『竜の息吹』、『火炎放射』のラッシュでなす術無く倒れた。
 ついにトキオの残りは2匹になってしまった。

「(何なんだ……こいつ?強すぎる!)」

 トキオは今まで遭遇したことの無い強い相手に押されていた。

「(なかなかの実力だな。“この世界”で戦った中でも指折りに入る強さだな)もう終わりか?」

 リュウヤは挑発してきた。
 だが、トキオはそんな手には乗らない。あくまで冷静であった。
 次に出したポケモンはなんとイーブイだった。

「!?イーブイだと!?何故進化させない!?(何か特別な力でも持っているのか?)」

 リュウヤはさすがに驚いた。そして、トキオに聞いた。

「いや、何に進化させるか迷っているだけだ」

 会場全体がずっこけた。

「先制だ!『電光石火』!」
「!?(……イーブイにしては速い!)」

 フライゴンは火炎放射を打っているが、まったくあたらない。
 そして、イーブイはフライゴンに顔面に体当たりした。フライゴンは怯んだがすぐに気を取り戻した。

「『地震』から『大文字』!!」

 イーブイが着地する瞬間を狙って、連続攻撃を仕掛けた。それはどうあがいても避けられなかった。
 だが、攻撃がおさまった後、イーブイを見ると無傷だった。
 さらにイーブイは驚くことに、『大文字』を放った。フライゴンは意表を突かれてかわせなかった。

「『守る』に『物まね』か。イーブイでまさかここまで戦えるとはな」

 炎の中からフライゴンが姿を現した。ダメージは属性防御のためさほどなかった。
 トキオはそれを見て審判に告げた。

「ここで棄権します!」

 トキオの残りはイーブイとヘルガーだった。ヘルガーは相性が悪い。さらにイーブイの攻撃が効かないのでは話にならないと考えた。

「トキオ選手棄権により、リュウヤ選手の勝ち!」



「あ~あ……またベスト4か」

 準決勝を終えて、トキオは宿舎へ戻る途中だった。ノースト大会から始まり、リュウキュウ大会、ホクオー大会などあらゆる大会に参加したのだが、ノースト大会がベスト8を除き、全てがベスト4のトキオ。
 次の瞬間、トキオは何かにぶつかり、転んだ。その弾みに、モンスターボールがすべて転がってしまった。
 ぶつかったのは、どこか物憂げそうな目をした少年だった。その少年も尻餅をつきボールを転がしてしまった。

「悪い……。よく前を見ていなかったもんだから……」

 トキオは謝り、自分のとその少年のボールを拾い始めた。そして、その少年にボールを渡した。
 少年は拾ったボールを受け取り、礼をして黙って去って行った。

「……あれ?今の奴どこかで……?いや、それよりもあいつが持っていた“プラスル”……彼のものではない上にどこかで感じた温もりがした……?」

 トキオはただ首を傾げるばかりであった。



「ヒカリの見たとおり、あいつはトキオだった」

 少年、ハルキはトキオとわざとぶつかってから、数分後、町の怪しげな場所にいた。
 そこにはヒカリもいた。

「でも、トキオ一人だけだった。他に仲間はいなかった」
「そう、手伝ってくれてありがとう。それじゃあ、トキオは一人で旅をしていたのね」

 ヒカリの声の調子が自然と下がった。よほど落胆したらしい。

「(それにしてもあのトキオって男、似ている気がする。そう、“あの女”に……)」

 ハルキはハルキで別の考え事をしていたのであった。



 11

 ―――決勝戦の朝。

「ねぇ、マサトは?」

 決勝を見に行く為にハルカは準備を済ませて外に出ていた。

「マサトの奴……相当落ち込んでいるな。さっき部屋に行ったが、『僕にかまうな!』の一点張りだったし」

 マサトは準々決勝の日以来、ずっと部屋に閉じこもりっぱなしだった。

「決勝戦の後にはすぐ開会式があるっていうのに」
「仕方がない。2人で行こうか」

 ユウキは先に一歩踏み出した。
 ハルカも歩き出した。でも時々後ろを振り返った。
 母、ミツコからマサトのことを頼まれているだけに余計に気を使っていた。
 それだけではなく、ハルカにはなんとなく感じていた。
 もの凄く嫌な感じを。



 トーナメント決勝、リュウヤ対ラグナの試合が幕をあけようとしていた。
 入口からリュウヤとラグナの両方が顔をそろえた。
 リュウヤは準決勝トキオを圧倒して、この大会はリュウヤが優勝するのではないかと騒がれた。
 だが、その前評判ではラグナも負けてはいなかった。緒戦、準々決勝と3匹で勝ち抜き(やられたのは1匹)、準決勝では優勝候補と呼ばれたサンドパン使いのアキラ相手に一匹もやられずに完勝したのだ。
 その両者が顔をあわせた。
 そして、リュウヤとラグナともに近づくが、ただじっと見つめるだけで、握手さえもしなかった。

「(この男、いままでに感じたこののないオーラだ。もしかしたらこいつなら……!!)」
「(リュウヤか。間違いなく他の奴とレベルがちげぇな)」

 そしてバトルが始まった。
 正直、このバトルは今までのジョウトリーグの中で最も激しいバトルとして残されるであろう一戦だった。
 最初、ラグナがカイリキー、リュウヤがボーマンダ。
 相性は飛行タイプがある為リュウヤのほうが有利……というのは決勝戦には通用しない。
 そのことを両者は分かっていた。だが、ここはボーマンダが押し切った。
 つづいて、ラグナはピクシーを投入した。意外と小細工ばかり使って、ボーマンダを苦しめ、最後には『冷凍ビーム』で凍らして勝負を決めた。
 しかし、次に投入したのは、キングドラ。弱点が少ない攻めにくいポケモンだ。
 ラグナは、小細工で勝負していく。『歌う』や『小さくなる』などで、キングドラの調子を下げていった。
 だが、リュウヤは怯まない。『ハイドロポンプ』などの大技の連発でピクシーの攻撃の隙を削った。
 状況を見てピクシーを戻し、今度はオーダイルで勝負に来た。
 すると、リュウヤは特殊攻撃から物理攻撃に切替えパワー勝負に出た。
 ラグナも『ドラゴンクロー』を中心に接近攻撃で攻めた。その結果、両者共倒れになった。
 両者3匹目はヌケニンとフライゴン。リュウヤは火炎放射で速攻した。一撃で決まると思われたその攻撃は、当たらなかった。
 ヌケニンは『高速移動』で撹乱し、まったく隙が無かった。そして、隙を狙い、『シャドーボール』を確実に当てていった。
 フライゴンの『岩石封じ』や『岩雪崩』も当たる気配が無く、フライゴンは力尽きた。
 そしてブレイクタイムに入った。その歓声は凄まじいものだった。



「さすがラグナね」

 ラグナの実力にヒカリも驚くばかりだった。

「ちなみにあのヌケニン、速いだけじゃなく、実は並の攻撃じゃ破れないのよ」
「それはそうでしょ。ヌケニンの特性は『不思議な守り』なんだから。ユウナ、知らなかったの?」
「そうじゃないの。ラグナのヌケニンは『砂嵐』などの攻撃にも耐える上に並みの威力ならば弱点属性の攻撃も効かないのよ!」
「そんなのありなのか?」

 黙って聞いていたハルキが聞いた。

「ポケモンマスターを目指していたんだから当然よ。でも今の彼はそれが目標ではない」

 その言葉にヒカリとハルキはうなずいた。

「ポケモンマスターになるためには、三大会連続でリーグ制覇しなければならない。でも彼は二大会連続で連覇してホクト大会に臨んだ。でもそのときに……」
「“ラグナの恨む女”が出てきたというわけね」
「そうらしいわ。ホクト大会で知り合って、準決勝で当たることになって、そして、試合会場に行く途中……」
「確か、その女に呼び出されて、重傷の目に逢った……だったか?」
「うん。それがその女の仕掛けたトラップ……だったらしいわ。その女は実力で敵わないと知って、ただラグナをつぶす為に近づいたのよ」
「しかも、恋人として。でしょ?」
「ええ、ラグナは大会であったときにその女の虜にされてしまった。だから、全く警戒心を持てなかった。そして、その事件が明るみに出ることはなかった」
「確か、その女が、ポケモンリーグのなんかのお偉いさんだったんだろ?」
「ええ。だから、ラグナがポケモンリーグに何を言おうとも、取り合おうとしなかった」
「全く、ラグナもラグナだが、悪い女って奴もいるものだな」
「今ではその女を消すことしか頭に無い。……というわけね」

 ヒカリはラグナに同情していた。

「今では、目標を達成する為だけにしか、ポケモンバトルはできない体になっているのよ。彼は……」

 ユウナがしんみりと言ったところで、休憩が終った。
 ラグナがヌケニン、リュウヤがリザードンで勝負に出た。
 ヌケニンは先ほどのスピードで移動するが、リザードンのスピードとレベルが違かった。
 『火炎放射』の一撃でヌケニンは沈んだ。
 再びラグナはピクシーを投入した。今度は攻撃を仕掛けずただじっとしていた。
 少なくても、ラグナとリュウヤ以外にはそう見えた。
 ピクシーの『瞑想』だ。そのことに気づいていたリュウヤはもの凄いスピードでピクシーに打撃攻撃を仕掛けた。
 だがそれが裏目に出た。次の瞬間、リザードンはダウンした。ピクシーの『カウンター』だ。『瞑想』をして、とくぼうを上げれば、打撃攻撃をしてくるという、心理を読み、攻撃に出た結果だった。
 そして、リュウヤは5対目のポケモンをつかみ投げようとしてやめた。
 審判にこう継げた。

「この勝負棄権する」

 ただ一言だ。審判は突然の申し出に驚いた。リュウヤの意見に従い、ラグナの勝利をコールした。
 そして、もう次の瞬間にはリュウヤの姿は無かった。



 第一幕 Wide World Storys
 ポケモンリーグジョウト大会③ ―――交錯する想いたち――― 終わり





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Last-modified: 2015-01-11 (日) 18:52:40
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