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たった一つの行路 №016

/たった一つの行路 №016

 ―――エクロ峡谷。
 たまにここの近くをジョギングで通る者がいるという。
 しかし、それ以外の者は砂嵐や崖崩れなど危険な場所として通る者はいないという。
 そのエクロ峡谷には一つの組織のアジトがあった。
 岩隠れに上手い具合に作られたそのアジトは今だ警察に検挙されない場所だった。
 だが、現在、そこから不穏な煙が上がっている。



「何事だ!?」
「ボス!どうやら、何者かがこの基地を爆破させたようです!」
「一体だれが!?」

 大柄で髭が特徴的な男はスナッチ団のボス……ヘルゴンザだった。

「ボス!俺、見ました!アイツです!ポケモンスナッチャーの―――」
「なっ!?あの野郎か!?裏切りやがったな!!」

 ヘルゴンザは怒りを壁にぶつける。
 バキッと壁は砕けた。

「ボス…………大型スナッチマシンがさっきの爆発で全て使い物にならなくなりました!小型スナッチマシンも修復が困難なほど破壊されています!」
「くそっ、調子に乗りやがって!!」

 ヘルゴンザは急いで、犯人を追おうして外に出た。
 下っ端たちもボスのあとについて行くが……

 ズド―――――――――――――――――――――――――――ンッ!!!!

 2つ目の爆発がアジトから発生した。

「なっ!?」

 ヘルゴンザは後ろを見ると、スナッチ団のアジトは見る影もなくボロボロになっていた。

「あいつ……次に会った時は……タダじゃ済ませない!!」

 ヘルゴンザは逃げて行った痕跡を確認して、逃げていった犯人の方角を睨んだのだった。



 たった一つの行路 №016



 フェナスシティの東方。
 そこにポツンと機関車が置かれてあった。
 それは、かつてどこかで客を運んだのか、荷物を運んだのかわからないが、客車も貨車もない状態で存在していた。
 しかし、その機関車の中では、一人のマスターが店を営んでいた。
 機関車の構造を活かした店内は一風変わっていて、オーレ地方では、知る人ぞ知る名所とまで言われている。
 そんなこの場所は『町外れのスタンド』と呼ばれていた。

「あー!!今日も砂嵐が酷いなー」

 そのスタンドから紫色ツンツン頭の男がテクテクと出てきた。

「誰か、バトルしたい奴……来ないか?」

 彼の名前はウイリーといった。
 外見から軽い男だと思われるが、意外に情の深い男らしい。

「ん?」

 そんなウイリーがふと北の方から砂嵐とは別の煙が立っていることに気がついた。
 よく目を凝らしてみると、それは人工的に何かを発しているものだった。

「……あれは、大型バイクか?」

 ザザッ

 そして、そのバイクはどんどんと近づいてきて、ウイリーの目の前で止まった。

「…………」

 乗っていたのは白髪で額にゴーグルみたいなものをつけた悪党のような男だった。
 いや、男と言うわりにはまだ背が低く、少年といった方が正しいだろうか。
 バイクから降りて、彼はスタンドへと行こうとする。

「オイ、あんた、ちょっと待った!」

 ウイリーは声をかけた。
 だが、彼は一度振り向いただけですぐに中へと入ってしまった。

「……無愛想な奴だな……」

 頭を掻きながらウイリーは苦笑いをするしかなかった。


 ―――数分後。
 少年がスタンドから出てきた。

「オイ、あんた、ちょっと待った!」

 ウイリーは同じ言葉で少年を呼び止めた。
 呼び止めたというのは正しくない。
 入り口の前で通せんぼしたのである。

「……何だ」

 少年はウイリーを睨みつける。

「そう、気を張るなって!俺とバトルしないか?」
「興味ない」

 そういって、ウイリーを突き飛ばして、先に進もうとする。

「おっと、そんな悲しいこというなよ?」

 少年の肩を掴んで引き止める。

「バトルの一つや二つ、挨拶みたいなもんだろ?やろうぜ!」
「…………」

 少年はため息をついて、モンスターボールを取ったのだった。


 ―――30秒後。

「って、30秒で負けた!!」

 ウイリーサイドはすでにジグザグマとマッスグマが気絶していた。
 ウイリーは秒殺されたようだ。

「あんた、強いな!名前なんて言うんだ?」

 無愛想な表情で、少年は自分の名前をポツリと言った。

「ハルキ」
「ハルキか……そうだ!俺に勝ったからいいことを教えてやるよ!ここから西にある町にフェナスシティがあるんだが、そのさらに西の町にパイラタウンという街がある。そこであやしいポケモンを見たって話があるんだ」
「…………。本当か?」

 初めて、ハルキがウイリーの話題に食いついた。

「そうさ。パイラタウンから来た客がそう言ってたんだ。だが、知ってのとおりパイラタウンって言うのはゴロツキの街だ。だからあんま近づかない方がいいぜ?」
「……ああ」

 そう一言だけ言うと、バイクに乗り込んでエンジンを吹かし、猛スピードで西へと向かっていってしまった。

「しっかし、無愛想な奴だったな」

 ウイリーはスタンドへと戻っていった。

“臨時ニュースです。エクロ峡谷付近で、スナッチ団のアジトが発見されました……”

 丁度、そのときそんなニュースが流れていたという。



「ここがパイラタウンか……」
 
 ウイリー曰く、無愛想な少年ことハルキはバイクから降りて、パイラタウンを散策していた。

“よー、そこの兄ちゃん、バトルしようや。負けたら、金置いてけや!”
“なかなかかっこいい坊やだこと。バトルであたしが勝ったら、あたしのものにおなり!”

 さすがはゴロツキの街だけあって、進めば進むほど、ハルキにバトルを仕掛けてくるものがいた。
 しかし、苦もせずに軽くハルキは相手を倒して行った。

「へぇ、君強いじゃないか。僕とバトルしようよ」

 だが、一人の少年が2匹のポケモンを繰り出してきた時、ハルキは一瞬身震いをした。

「(このポケモンは……)」

 相手のポケモンはヌオーとムウマ。
 しかし、今まで戦ってきたポケモンたちとは何かが違うと肌で感じていた。

「ヌオー!『ダークアタック』!!ムウマ!『ダークウェーブ』!!」

 黒くどす黒いものを纏った体当たりと、黒い波動がハルキのポケモン、エーフィとブラッキーに襲い掛かる。
 しかし、エーフィがダークウェーブを止めて、ブラッキーがエーフィの前に立ち、ヌオーのダークアタックを止めた。

「(こいつがヘルゴンザの言っていた噂の……)」

 そして、ヌオーは力を込めてブラッキーを吹っ飛ばした。
 その後ろにはエーフィもいて巻き込まれる形で攻撃を受けてしまった。

「やっぱ、コロシアムで優勝して貰ったポケモンは強いな!!」
「(コロシアムで優勝してもらったポケモンか……)」

 ハルキはふっと笑みをこぼした。

「ブラッキー。エーフィ。カタをつけるぞ」

 と、ハルキに呼ばれると、2匹はしっかりと命令に応じて構えた。
 ちなみに、ハルキが思考をしていた数秒の間、攻撃に巻き込まれてブラッキーがエーフィの上にのしかかっていた。
 そこで、エーフィが鳴き声をあげたのだが、その声を聞いて、ブラッキーが思いっきり尻尾で叩きつける攻撃をエーフィにかましていた。

 おそらく、エーフィの鳴き声に“重い”って意味が含まれていたのだと思われる。
 ちなみに、エーフィが♂でブラッキーは♀である。
 メス<女の子>は体重に敏感である。

「『電光石火』、『サイケ光線』」

 ハルキが指示を出すと相手もダーク技で反撃をしてきたのだが、2匹とも上手くかわして攻撃を当てた。
 そして、左手にモンスターボールを構えて投げると、まるで手で掴むようにモンスターボールの中へとポケモンが入ってしまった。

「なっ!?僕のポケモンが!!」
「お前のポケモン……俺がいただく」

 途方に暮れる少年を尻目にハルキはザッザとコロシアムへと足を伸ばしていった。



 ハルキはパイラタウンのコロシアムに出場した。
 だが、ヌオーとムウマのダークポケモンタッグの前に、対戦相手はみんな沈んで行った。
 そして、ファイナルを迎えた時だった。
 全身が金ぴかで頭がモンスターボールのアフロ男が姿を現したのである。

「君は~確かスナッチ団の裏切り者のハルキだよね~?」
「お前は……?」
「ボクの名前はミラーボ。さっきまで君の試合を見させてもらったよ~!そして、裏切り者は野放しにしておけないんだな~」
「裏切り者……?お前、スナッチ団なんかにいたか?」
「ボクをスナッチ団なんかと一緒にしないで欲しいな~。ボクはスナッチ団の親組織シャドーの幹部だよ~」
「シャドー……」
「さぁ、行くんだ!ルンバッパ!」

 2匹のルンバッパが一斉に放たれる。

「ヌオー。ムウマ」

 ダーク技で突っ込んでいく。
 しかし……

 ドガッ! バシュッ!

「!!」

 攻撃がかわされて、葉っぱカッターやハイドロポンプであっという間にダウンしてしまった。

「このポケモンたちは確かさっきそこの広場で奪ったものでしょ~?その程度のダークポケモンじゃ、ボクのルンバッパたちには敵わないよ~」
「そうか……さっきからこの二匹を集中的に戦わせてバトルの経験をさせていたけど、ダークポケモンのままじゃ強くならないということか」
「ピンポ~ン!当たり~。だけど、わかったところでボクに勝てるかな~?」
「エーフィ、ブラッキー」

 ヌオーとムウマに代わっていつものパートナー達を繰り出す。
 ブラッキーの手助けでエーフィを援護し、強力なスピードスターをルンバッパにかましていく。
 さすがに一撃では倒せなかったものの、ルンバッパを怯ませることには成功していた。

「ルンバッパたち、何をやってるの~?早く片付けておしまい!」
「遅い」

 ブラッキーの秘密の力が炸裂し、片方のルンバッパを撃破した。
 その強力な一撃は、もう一匹のルンバッパにも影響を与えて怯ませた。
 そして、その隙を逃すエーフィではなかった。
 飛び上がって接近しながらのサイケ光線は、ルンバッパをダウンに至らしめるほどの威力を持っていたのである。

「うっそ~!?ボクのルンバッパたちがー!!こうなったら~とっておきのポケモンで~!!!」

 と、ミラーボは腰につけているモンスターボールを取ろうとする。

 スカッ スカッ

「アレレ?」

 モンスターボールがなかった。

「しまった~!!とっておきのポケモンは地下に置いて来たんだった~!!」

 慌てふためく様子で言うと、ミラーボはハルキに指差してビシッと言った。

「ボクが戻ってくるまでそこで待ってなさい!!」

 へんてこなミュージックをかけるのを忘れ、踊るのも忘れ、そして、一度コケながらもミラーボはコロシアムを一旦あとにした。

「……こんなところにもう用はないな……ん?」

 コロシアムを出るとき、ハルキはきらりと光るものを見つけた。

「鍵……だな」

 かくして、ミラーボの戻りを待たずしてハルキはコロシアムを後にしたのだった。



 ハルキはパイラタウンを出ようとしていた。

「ちょっと、そこの子。待ちなさい」
「?」

 とある建物の中から黒縁メガネの老婆が出てきたのである。

「あんたは誰だ?」
「私の名前はビーディ。この街で多少名の売れた占い師をやっておる」
「占い……興味ないな」
「お主、その鍵が何か知りたくないか?」
「あんたは知っているのか?」
「この水晶玉が全てお見通しさ」

 そういうと、水晶玉を通して何かを見始めた。

「暗くてよくわからないな……」
「…………。(宛てにならないな)」

 ハルキはため息をついて町を出ようとする。

「おっと、終わりではないぞ。暗い場所といえば、この街にはアンダーと呼ばれる地下街がある。恐らくその鍵はアンダーに通じているのであろう」
「あんまり信用できないな」

 といいつつ、ハルキはモンスターボールからヌオーとムウマを繰り出した。

「こいつらはダークポケモンと呼ばれているらしいが、こいつらの心を開く方法を知っているか?」
「ふうむ……確かに、そのポケモンたちは違和感を感じる……」

 そうして、再び水晶玉で占ったビーディは言った。

「ここから北の方角にアゲトビレッジと言う村がある。そこに、ダークポケモンの心を開くことのできる場所があるようだ」
「…………」
「信じるも信じないもお主次第じゃ」

 そういって、ビーディは家の中へ、ハルキはバイクに乗って北へと向かっていったのだった。



 しかし、そのアゲトビレッジで大変な事態が起こっていた。

「何だおまえは!?」
「そこをどいてもらおうか!我々は聖なる祠に用がある」

 アゲトビレッジの入口で見張りの男2人が怪しい3人を引きとめた。

「いったい何の用だ!あそこはローガンさんの許可がないとは入れない場所だぞ!おまえ達みたいな怪しい奴を入れるわけがない!帰りな!」
「どうやら、力ずくで行くしかないようですね」

 そういって、一人の男が、ポケモンを取り出し、2人の見張りに襲い掛かった。
 2人は慌てて対抗したが、ポケモンを出す間もなくやられてしまった。

「雑魚に用はない。俺たちの任務は聖なる祠の破壊だからな!!」

 その三人は祠の洞窟へゆっくりとしたペースで歩き始めたのだった。



「…………」

 ハルキはその数十分後にやってきた。
 そこでは、先ほどやられた見張りの男二人がケガをして倒れていた。

「お前は?お前も奴らの味方なのか……?」

 見張りの一人が気がついて、質問するがハルキは答えなかった。
 ケガした男に追い討ちをかけようともせず、助けようともせず、ただ男をジーッと見ていた。
 見張りの男はハルキの鋭い視線に萎縮してやがて、傷の痛みから気を失ってしまった。
 そして、ハルキは何も言わず、ゆっくりと洞窟の方へと足を運んでいった。



 アゲトビレッジの聖なる祠。
 その祠がある森は神秘的な光を漂わせて、自然に満ち溢れていた。
 しかも、この場所にはある幻のポケモンが潜んでいる噂があるが、そのポケモンを見たものはいないとされている。

「はぁ…はぁ…くっ……やりおるわい……」

 息を切らしたローガンがピカチュウと共に侵入者の一人と戦っていた。
 相手のポケモンはカポエラー。
 いつもなら、ローガンと長年のパートナーのピカチュウのコンビで相手を簡単に倒せたはずだった。
 だが、相手のカポエラーは何かが違っていた。

「ふっ、伝説のトレーナーローガンの実力とはこの程度か!?」
「(来る!?)」
「カポエラー、『回し蹴り』!」

 カポエラーは回転しながら飛び上がり、蹴りを放った。
 ローガンのピカチュウは何とか右へとかわしたが、かわす前にあった岩がカポエラーの蹴りで粉々に砕けてしまった。

「なんと言う威力じゃ……!!」
「どんどん行くぜ!『ダークレイブ』!!」
「!?」

 数個の闇の塊をピカチュウを狙って撃ちわける。
 当然ピカチュウはかわそうとするが、その技はピカチュウを追尾して襲ってくる。
 それも、一個だけでなく数個の塊がだ。

「なっ!?ピカチュウ!?」

 しかも不運なことに、ピカチュウは少し大きめの石につまづいて転んだ。
 追尾して来たダークレイブは容赦なくピカチュウに命中していった。

「ピカチュウ!!」

 ピカチュウは何とかこらえたが、次の一撃くらったら確実にアウトである。

「ピカチュウ、『10万ボルト』!!」
「あめぇよ!『高速スピン』!!」

 ピカチュウが撃った10万ボルトは高速スピンで弾かれた。
 そして、ピカチュウの体力も限界だった。
 上手く頬の電気袋から電気を放出できないことにローガンは気付いていた。

「終わりだ!『ダークラッシュ』!!」
「(『ドラゴンサンダー』が……出せない!!)」

 息があがったピカチュウは攻撃を相殺できず、避けられず、まともに攻撃を受けてしまった。
 2度、3度、地面を転がっていくピカチュウをローガンがしっかりと受け止めた。

「くっ……」
「この『もう少しで幹部昇格のコワップ』様に比べたらここの長なんて雑魚同然だな!!さぁ、カポエラー!!ここの祠を破壊しろ!!『ダークラッシュ』!!」
「やめろー!!」

 ローガンは叫んだ。
 カポエラーは祭壇に向かって一直線だった。
 しかし、ローガンの後ろから、エスパー系の光線が飛んで来て、カポエラーを弾き飛ばした。

「カポエラー!?一体なんだ!?誰だ!?俺の邪魔をするやつは!!」
「…………」

 洞窟を抜け、ゆっくりとハルキがコワップの目の前へ歩いてきた。

「お前は……スナッチ団の……ボスヘルゴンザの右腕のハルキじゃねェか!!一体何のつもりだ!?というか、俺の部下はどうした!?」
「ボス、ヘルゴンザの右腕か……俺にはもうそんな肩書きはない。俺はスナッチ団を抜け出したんだからな。お前の部下なら、足止めにもならなかったが」
「な、なんだと!?……と言うことは、おまえはスナッチ団を裏切り、そして、その裏の組織、シャドーとも敵対すると言うことか!?」
「…………」

 ハルキは黙り込んで、ゆっくりとコワップと間合いを取り、ブラッキーを出した。

「興味ない。敵対するとかしないとか。俺にはどうにでもいいことだ。ただ、俺は自分の思ったことをやるだけだ。だからまず、邪魔なお前を倒す」
「はっ!おまえなんかに俺が倒せるか!!俺はこれでも、シャドー四幹部に近い男って呼ばれているんだぜ!勝つのは不可能だ!」

 そして、コワップは一旦カポエラーを戻した。

「さあ、やっちまえ!ゴローニャ、ソーナンス!!」

 まずゴローニャが捨て身タックルで突進してきた。
 特性『いしあたま』の捨て身タックルは反動無しのノーリスクでダメージを与えることができる。

「ヌオー。ブラッキー」

 ゴローニャに対抗して、ヌオーは水鉄砲で押し返そうとする。
 だが、水鉄砲をもろともせず、ゴローニャがヌオーにタックルをかまして吹っ飛ばす。
 一方のブラッキーは『怪しい光』を放つ。

「効くか!」
「…………」

 だけどブラッキーの牽制はソーナンスによって阻まれる。『神秘の守り』だ。

「ヌオー、ブラッキー」

 今度はヌオーが冷凍ビームを放つ。

「そんなの『丸くなる』で防御だ!」

 一般的に丸くなるは物理的な技を防ぐのに役に立つ。
 また、レベルが高いポケモンが使うと、相手の攻撃を跳ね除けたり、特殊攻撃を跳ね飛ばしたり、意外と利便性のある技らしい。

 ガチンッ!!

「なっ!?」

 しかし、ゴローニャは丸くなるどころか、無防備でヌオーの冷凍ビームを受けて氷漬けになってしまった。

「ブラッキーの『挑発』だ。お前がゴローニャに防御を指示すると予想して指示した。ヌオー」

 そして、動けなくなったゴローニャを水鉄砲でダウンさせた。

「ソーナンスに『水鉄砲』!!」
「ソーナンス!返してやれ!!」

 グーンと水鉄砲がヌオーに向かって飛んでいくが、ソーナンスのミラーコートで攻撃が跳ね返される。
 しかし、ブラッキーがソーナンスの目の前にすでに迫っていた。

「なっ!?速い!?」

 ソーナンスとヌオーの間に割って入ると、ミラーコートで跳ね返した攻撃をブラッキーがかき消し、そのままソーナンスに騙まし討ちを叩き込んだ。
 あっけなく、ソーナンスは倒れた。

「くっ!お前ただで済むと思うなよ!カポエラー!!」

 コワップは再びローガンと戦った時に繰り出したカポエラーを繰り出す。

「そいつがダークポケモンだな」
「そうだが、それがどうした?カポエラー、『ダークレイブ』!!」

 先ほどローガンのピカチュウを追い詰めた禍々しい球体を再び放った。

「ヌオー、ブラッキー、受け止めろ」

 ハルキのポケモンはどちらもタフだった。
 特にブラッキーは効果は抜群だったにもかかわらず、耐えることができた。

「今度はこっちからだ。ヌオー、『ダークアタック』!!」

 黒いオーラをまとい、ヌオーはカポエラーに攻撃を仕掛ける。
 攻撃はヒットしたが、ダメージは低いようだ。
 カポエラーは吹っ飛ばされながらも、次の攻撃のモーション……回転をし始める。

「たいしたことないな!『トリプルキック』だ!!」

 接近をしたかと思うと、ヌオーにキックが一回当たった。
 さらに二回目も強力な攻撃をヒットさせる。
 しかし、三回目が当たることはなかった。

「なっ!?」

 3回目のとき、エスパー系の光線がカポエラーに当たったのをコワップは見逃さなかった。
 そして、振り向くとハルキの傍にエーフィがいた。

「これで終わりだ」

 左腕についているスナッチマシンが稼動する。
 光を纏ったモンスターボールがカポエラーを捕らえて吸い込んだ。
 最初と最後にエーフィのサイケ光線を受けたカポエラーはそれだけで体力のほとんどを奪われていた。
 よって、抵抗する体力はほとんど残されていなかった。

「くっ!!スナッチされた!?ちっ!覚えていやがれ!!」

 そう言うと、コワップは2人の部下を引き連れて逃げ出してしまった。
 ハルキはため息をついて、エーフィとヌオーを戻すと、祠を見た。

「(こいつがあの占い師が言っていたダークポケモンの心を開く場所なのか?)」
「おお……誰だか知らないが、助けてくれてありがとう」

 祠に手をつけようとしたとき、ローガンがハルキの手をとった。

「お陰でこの祠を破壊されずに済んだ……」
「…………」

 ハルキはジーッとローガンを見た後、祠にヌオーを置いた。

「(感じる……過去を呼び覚ますような聖なる力が……)」
「どうかお礼をさせて欲しい……」

 なおも感謝し続けるローガンにハルキは少し鬱陶しく思った。

「別に助けるつもりなんてなかった。俺は俺の目的を果たしに来ただけだ。手を離せ」

 ハルキは軽く手を振ったつもりだったが、ローガンはその反動でこけてしまった。

「おじいちゃん!!!!」

 丁度そのとき、洞窟の入り口から一人の女の子が姿を現した。
 ローガンの孫娘のカレンは急いで駆け寄った。

「あ!あんた!おじいちゃんに何してんのよ!……そうか、あんたがフェナスシティのスナッチ団が言っていた仲間ね!?」

 ゼイゼイと息を切らしながらカレンはハルキに聞く。

「(フェナスシティのスナッチ団……)知らないな」
「とぼけないで!そうやって、この祭壇を壊そうとしていたじゃない!!」
「そう言えば壊そうとしていたな……。さっきの―――」

 「……コワップの奴が……」とハルキは言おうとしたが……

「じゃあ、やっぱりあんたは敵じゃない!!カメール、『水鉄砲』!!」

 カレンはハルキの話を聞こうともせず、カメールを繰り出してきた。

「(なんだかよくわからないが……)エーフィ!『サイケ光線』!」

 ハルキは一撃目をかわして、エーフィに攻撃を仕掛けさせた。
 だが、その攻撃をカメールの水鉄砲で押そうとするカレン。
 状況は一進一退となった。

「『電光石火』!」
「『守る』!」

 先制技で電光石火だが『守る』の前では意味をなさない。
 カメールがエーフィの攻撃を抑えた事により、二匹は接近した。

「『水鉄砲』!!」
「『サイケ光線』!!」

 両者、同タイミングで技が炸裂した。
 技の威力で両者は後方まで下がった。

「ちょっと待つんじゃカレン!」
「おじいちゃん?」

 ローガンはようやく気を取り戻して、カレンにこれまでにあったことを説明した。



「なーんだ。じゃあ、あなたはスナッチ団でもシャドーでもないのね。しかも、スナッチャーだったなんて!」

 カレンは、さっきとはうって変わって友好的に喋り始めた。

「それじゃ、私と一緒にダークポケモンをスナッチしてくれない?2人なら簡単に全てのダークポケモンをスナッチできるわ!」
「…………」

 カレンが喋るのをハルキはずっと黙って聞いていた。

「心を閉ざしたポケモンなんて放っとけないわ!だから……」
「興味ないな」
「え?」
「ダークポケモンが増えようが、増えまいが俺の知ったことではない」
「ポケモン達がどうなってもいいって言うの?」
「ああ、俺には関係ないことだ。俺は俺のやりたいように…………」

 バチンッ!!

 と乾いた音が響いた。ハルキは突然のことに驚いた。

「……っ!!」
「あなたのそのスナッチの力は、悪いことをするために使うべきではないのよ!その力をポケモンたちを助ける為に使って!お願い……」
「…………」

 カレンのうつむく姿をハルキはずっと見ていた。
 髪の毛がかかって顔は見えなかったが、ハルキにはカレンが涙を流していることがわかった。

「(…………どうでもいいと思っていた……だけどなんだ?どうして俺の心は揺らぐ?)」

 自分の心の変化に戸惑うハルキ。

「(そして、この女は……何で泣いているんだ?……悪用されたポケモンのためになんで泣く……?)」

 今までにない感情が渦巻く。
 他人に興味を持つことがないハルキが唯一彼女のことが気になった。
 そのことに驚くが、すぐに冷静になってカレンに言う。

「……わかった。やってやる。だが、俺は俺のやり方でやる」

 様子をうかがおうと、カレンの涙はもう止まっていて、ハルキに向かって笑顔を見せていた。
 ハルキはその笑顔から慌てて顔を逸らし、カレンにミラーボが落とした鍵を投げつけた。

「それは、パイラタウンに行った時に、たまたま手に入れたものだ。その鍵を使えば、パイラタウンの地下にあるアンダーに入れるはず。そこには、ポケモンをダークポケモンに変える為の何かがあるはず。行くか行かないかはあんたしだいだ」
「え?でも、あなたはどうするの?」
「言っただろ。俺は俺のやりたいようにやるとな」

 祠においてあったヌオーのモンスターボールを取ってみる。

「(……禍々しい気配が消えている……やっぱり、心を解放する鍵はここにあったか)」

 そうして、ハルキは洞窟の中に消えていった。



「(あの女……あの程度の実力でポケモンのためにシャドーに戦いを挑む気なのか……?)」

 アゲトビレッジの外。
 そこにハルキのバイクが止められていた。

「(……まったく、無茶な奴もいるものだ……)」

 ふっと口元に笑みを浮かべて、ハルキはアゲトビレッジを後にしたのだった。



 第一幕 Wide World Storys
 二人のスナッチャー② ―――ハルキ――― 終わり





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Last-modified: 2015-01-04 (日) 22:10:01
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