―――オーレ地方。
そこは砂漠というか、荒野というか……とにかく野生のポケモンがあまり生息していない地方である。
野生のポケモンがあまり存在しない理由については、食料の確保が難しいことが挙げられる。
砂から栄養を補給しているサンドやヨーギラスなどの地面ポケモンや岩ポケモンおよび鋼ポケモンにとっては問題ないのだが、それ以外のタイプのポケモンは住むには厳しい環境である。
生活するのが厳しいのは何もポケモンに限ったことだけではない。
人間も砂漠や荒野で生きていくことは難しい。
だから、人は群れを成して集落を作り、その中で生活をしていく。
このお話は……その集落の一つ……アゲトビレッジに住む一人の少女から話は始まった。
たった一つの行路 №015
「キモリ~こっちだよー」
ミニスカートの幼い少女がスキップをしながらキモリを誘う。
呼ばれたキモリは楽しそうに少女を追いかけていた。
そして、痺れを切らして、少女に飛びついた。
少女はキモリを抱きかかえるようにしっかりとキャッチをした。
「わっ!キモリ~くすぐったいよ!」
ペロペロと少女の顔を舐めるキモリ。
このキモリは彼女のポケモンではないが、彼女に懐いていて、いつも仲良しなのである。
「カレンちゃんは本当にポケモンに好かれるようじゃのぉ」
「えへへっ!私もポケモンが大好き!それでね、お兄ちゃんみたいなポケモントレーナーになりたいな!」
少女……カレンはそんな夢をいつも近所のおじいさんたちに話していた。
そのおじいさんたちも孫のようにカレンを可愛がっていた。
そんなカレンにはかつて有名なトレーナーだったローガンという祖父がいた。
カレンはそんな祖父を尊敬して、いずれ村を守る長になりたいと思っていた。
だけど……
「カレンがこの村を守るために強くなるじゃと?村を治める長(おさ)は男でなければいけない」
「なんで?」
「それは、昔からの掟なのじゃ。男で一番強いトレーナーがこの村を納めるのじゃ。これは立派で名誉なことなのじゃ」
「それじゃ、なんでお兄ちゃんは村から出て行ったの?」
「さあ。わしにもわからん」
ローガンはそう言っていたが、本当は知っていた。
カレンの兄は自分のことが嫌いで、さらに長の座を拒んでいたということを。
1年前、兄はローガンの思い通りに長をやることを嫌い、ポケモンをもらってすぐ、とある地方へと旅立ってしまった。
兄とローガンは旅立つ前に大喧嘩をして、出て行ってしまった。
ローガンはさすがにこのままでは、まずいと思っていたがどうしようもなかった。
カレンの兄が旅立ってから丁度一年が立ったある時、ひょっこりと兄が帰ってきた。
2階にいたカレンはすぐに降りてきて、家に入ってきた兄に抱きついた。
「お兄ちゃん!お帰り!」
「おっ!カレン、ただいま」
兄はカレンの頭を優しく撫でた。
カレンは幸せそうにえへへっと笑った。
しかし、そんな穏やかな時間はそれだけだった。
カレンが後ろにいるローガンの気配に気付くと、一気に空気は氷結した。
「ほう……戻ってきたということはアゲトビレッジの長になる気になったのか?我が孫、トキオよ!!」
カレンの兄……トキオはカレンを放して、ローガンの正面に立った。
「前にも言ったけど、俺はこの村の長になる気なんて全く無いからな!」
「……それなら何故帰ってきたんじゃ?」
トキオはローガンの言葉を無視してカレンに向き直った。
「お兄ちゃん……これは?」
カレンはトキオに渡された一つの丸いものを見てキョトンとしていた。
「俺からのプレゼントさ。出してみな」
トキオに言われるままにカレンはヒョイッとボールを放り投げる。
すると中からかめの子ポケモンのゼニガメが飛び出してきた。
「ゼニィ!!」
しかも、カレンを見た瞬間にゼニガメはカレンに飛びついて甘えはじめた。
「かわい~♪」
「予想以上に懐いているな……。基本的に他人のポケモンは懐きにくいはずなんだけど」
そして、もう一つカレンにボールを手渡す。
「こっちには何が入っているの?」
「これはポケモンの卵さ」
「卵?」
「ああ。生まれるまでしっかりと見守ってやるんだぞ」
「うんっ!」
元気よく返事をしたカレンに対して、頭をくしゃくしゃと撫でてやるトキオ。
「こら!勝手なことをするではない!それにわしの話がまだ終わっておらんぞ!」
すっかり無視されていたローガンがトキオを怒鳴る。
「俺がここに戻ってきたのは力が欲しいからだ」
「……どういう意味じゃ?」
「俺に『ローガン流』の技を教えてくれ」
「『ローガン流』じゃと?何を言っておる!長にならないと誓った奴に教えることは何もないわ!」
ローガン流……。それはカレンとトキオの祖父、ローガンが若い頃に開発した様々な技をオリジナルに強化した秘技だった。
その秘密はローガンしか知らないが、『ローガン流秘技書』というメモ(本)を書いてどこにかに隠していた。
「それなら、俺とじいちゃんでポケモンバトルをして、俺が勝ったら『ローガン流秘技書』を俺に譲ってくれ」
「……負けたときはどうする気じゃ?」
「そのときは旅をやめて、ここに残って長にでもなんでもなってやる!」
「ほう……言いおったな!その言葉忘れるなよ!」
「……言ったさ。だけど、俺は絶対に負けない!」
トキオとローガンは表へと出て行った。
2人がバトルをすると言う話はあっという間に村中に伝わり、彼らをぐるりと村人が囲ってしまった。
ポケモンはトキオがイーブイ。ローガンがピカチュウ……共にパートナー同士の戦いだった。
互いの電光石火が火花を散らす。
しかし、トキオは電光石火以外技を繰り出さなかった。
ピカチュウが電撃を繰り出しても電光石火でかわし、接近戦を仕掛けても電光石火でかわして……電光石火しかしなかった。
「トキオ……お前勝つ気あるのか!?」
あまりにも単調な攻めにローガンはピリピリし始めた。
「じいちゃんこそ勝つ気が有るの?そんな攻撃じゃ俺は倒せないぜ!」
「生意気な口を叩きおって!今に後悔させてやるぞ!ピカチュウ!」
ピカチュウに指示を飛ばすと、ピカチュウは電気を放出して、電気のドラゴンを作り出した。
“あれは!!ローガンさんの奥義……”
“『ドラゴンサンダー』じゃ!!”
“ローガンさん……本気じゃのう”
村人が騒ぐ中、電気の竜はイーブイを飲み込むように向かって行った。
「(すごい電撃……あれを受けたらお兄ちゃんのイーブイは……)」
カレンは不安な心持でそのバトルを見守っていた。
しかし、トキオとイーブイは全く物怖じしていなかった。
「やっと来たな!イーブイ!こっちも『ドラゴンサンダー』だ!!」
“えっ!?”
「なんじゃと!?」
村人達、そして、ローガンまでもが驚いた。
イーブイの繰り出した技は紛れもなく、ローガン流『ドラゴンサンダー』だった。
強力な2匹の竜が激突し、火花を散らす。
「何故イーブイが……!?」
ローガンが考えている間に2つの電気の竜が消滅した。
一見、これで勝負は振り出しに戻ったと思われた。
しかし……
「そこだッ!!」
動揺しているローガンの隙を突いて、ピカチュウに電光石火が炸裂した。
そしてピカチュウは倒れた。
「俺の勝ちだよ、じいちゃん!」
イーブイを戻してトキオは言う。
「なんで、イーブイがわしの秘技を使えたんじゃ!?トキオ!」
「『物まね』さ。同じ技を繰り出せば、少しは隙を出せるんじゃないかと思って。やっぱり、強くなるには外に出ていろんなトレーナーとバトルするのが一番だよ。俺は、この村の長なんかでとどまりたくなんかない!!」
「…………」
負けたローガンは何もいうことがなかった。
そして、ローガンはトキオに例の『ローガン流秘技書』を渡した。
「お兄ちゃん」
カレンは玄関で寂しそうな目でトキオにすがりつく。
「今度はいつ帰ってくるの……?」
「それはわからない。帰って来ないかもしれない」
「ええ!?そんな……」
カレンの泣き出しそうな表情を見て、トキオはふっと笑みを浮かべて、カレンの頭を撫でる。
「お前も旅をして強くなれば、いつかは会えるさ。その時まで……またな!」
トキオはカレンの頭から手を離して、旅立っていった。
カレンはトキオに貰った2つのモンスターボールをふと握りしめた。
―――そして、3年の月日が流れた。
フェナスシティのフレンドリーショップ。
フレンドリーショップと呼ばれる場所はポケモンのための道具が多々売られている場所だ。
例えば、ポケモンの傷を治す「きずぐすり」……バトルのときだけ攻撃能力をアップさせる「プラスパワー」……などなど。
本来ならばモンスターボールも売っている場所なのだが、野生のポケモンが少ないオーレ地方にはほぼ必要ないものだった。
そのフレンドリーショップの中から、大きなビニール袋を引っ提げて現れた少女がいた。
「今日もいい買物したわ!!」
彼女がトキオの妹、ローガンの孫であるカレンだ。
「やっぱり、品質や物量はフェナスが一番よね。コロンをまだ置いていないのが残念だけど」
彼女の住むアゲトビレッジは、ビレッジと名のつくとおり、自然に囲まれた緑の村だ。
一方、カレンが今ショッピングを楽しんでいるこの町……フェナスシティは中央に噴水がある。
フェナスシティの中心となる噴水にはいつもポワルンとランニングを楽しんでいるラウンドという青年がいて、カレンは来る度によく彼とおしゃべりをしていた。
この町の外はすぐに砂漠及び荒野であり、それに比べたら、ここはオアシスのようなものだった。
また、この街にはフェナススタジアムという美しいスタジアムがあった。
カレンはまだ出場したことはなかったが、いつかはそのスタジアムでバトルをしたいなと考えていた。
買物を終えて、辺りを見回したとき、噴水の広場でカレンは人だかりを見つけた。
掻き分けるように進んでいくと、そこではポケモンバトルが行われていた。
「ポワルン!『水鉄砲』!!」
バトルしているのは、噴水の周りを走っているかお馴染みの青年ラウンド。
対する相手は、少々柄の悪い男だった。マクノシタで対抗している。
「マクノシタ!やっちまえ!!」
「!!」
カレンは次の瞬間、見たこともない現象を目撃した。
マクノシタの体から黒いオーラのようなものが放出して、そのままポワルンにぶつかった。
ポワルンは一撃でダウンした。
「何……?あのポケモン……?」
傍から見れば、単なる体当たりにしか見えないだろう。
しかし、カレンにとっては不思議で仕方がなかった。
観客が去った後、カレンは思い切って聞いてみた。
「あの……」
「あ?なんだ?」
「そのポケモン……どうしたんですか?」
「どういう意味だ?」
「……だって……そのマクノシタ……黒いオーラみたいなのが見えるんですけど……」
「何?」
男は意外そうな顔をした。
「なんでもねえよ!」
しかし、それだけ言ってマクノシタを戻して逃げてしまった。
「絶対おかしいと思ったんだけどな……」
「うん、戦ってみて僕もそう思ったよ」
ラウンドもそう思っていたという。
「だけど証拠なんてないわよね」
そう言って、カレンはラウンドに笑いかけるしかなかった。
「っつつ……あれ?ここは?」
ふとカレンは目を覚ました。辺りを見回してみるが、見慣れない場所で戸惑った。
「……私……なんでこんな場所にいるの……?」
何があったかをカレンは必死に思い出そうとする。
「ええと……ラウンドさんと話をして、再び買物をして、それからそれから……あっ!!」
はっとカレンは立ち上がった。
「ラウンドさんと戦ったマクノシタに襲われたんだったわ!!」
それから慌ててこの部屋のことを調べた。
部屋というよりも、鉄格子上になっていて、扉には鍵がかかっていた。
「……ええと……私、閉じ込められてる……?私、誘拐された!?」
ドタバタとカレンは暴れる。しかし、どうやっても抜け出すことができなかった。
“なんか聞こえるぞ?”
「……!!(誰か来る!?ここは死んだ振りね!)」
人の声が遠くからしたのを聞き、カレンは死んだ振りをした。
おそらく、“気絶した振り”の間違いであろう。
“……気のせいのみたいだな”
“しっかし、この女か?『ダークポケモン』を見分けられるという女は”
“そうみたいだぜ。でも、この女をどうするつもりなんだ?”
“まだ決めていないみたいだぜ。ただ、わかっていることは、放っとくわけにはいかないということだな”
“確かにそのとおりだな”
“とりあえず、俺たちはこれから『スナッチマシン』でポケモンを奪いまくるんだ!!行くぞ!”
“ああ”
カレンが死んだ振り(気絶した振り)をしているとも知らず、男はカレンにべらべらと情報を送ってしまったことを知らない。
2人が立ち去った後、カレンは起きて腕を組んだ。
「ダークポケモン……スナッチマシン……。そういえば、スナッチマシンは聞いたことがあるわ。確か、スナッチ団が所有しているポケモンを奪う機械で最近何人ものトレーナーが被害にあっているって……。あっ」
そしてカレンは気がついた。
「つまり……ここはスナッチ団のアジトね!?……でも、スナッチ団のアジトってどこにあるか知られてないのよね」
「でも」とカレンは立ち上がる。
「こんなところで、じっとしてるわけには行かないわ!早く脱出しないと!!でも……きっとポケモンも盗られちゃっているわよね……」
懐をゴソゴソとカレンは調べるが、中から2つのモンスターボールを発見した。
「あれ?盗まれていなかった?……もしかして、私はポケモントレーナーとして見られてなかったのかな?」
何はともあれ、カレンは兄のトキオから貰ったゼニガメの水鉄砲であっさりと牢屋を破壊し、脱出に成功した。
それから、スナッチ団員に見つからないように慎重にアジトの中を歩き回った。
出口に向かっているはずなのだが、なかなか出口は見つからなかった。
「う~ん……ここって意外と迷路かも……あれ?」
歩き回って数十分。
カレンは倉庫のような部屋である機械を見つけた。
その機械は人型のマネキンの左腕に装着されていて、幾つも存在していた。
「……これなんだろう……」
マジマジとカレンは見つめる。
「……よし、盗んじゃお!私を誘拐した報いよ!!」
とか何とか、カレンは左腕に機械を装着し、部屋を出ようとした。
そのときだった。
ズド―――――――――――――――――――――――――――ンッ!!!!
「きゃあっ!!」
激しい爆発音と衝撃が発生して、カレンはバランスを崩して倒れた。
「いつつ……何が起こったの?」
様子を見ようと部屋の外に顔を出すと、団員達が騒いでいた。
「(なにかの襲撃かしら?……でもこれはチャンスね!!)」
団員に見つからないようにスルスルっとカレンはスナッチ団のアジトを抜け出すことに成功した。
「……ここってエクロ峡谷じゃない。こんなところにアジトがあったなんて……」
そして、カレンは近くに止めてあったスクーターを見つけた。
「よし、鍵は掛かっているわね。このスクーターいただきっ♪」
初っ端からフルスロットルでぶっ飛ばす。
そして、アジトから離れて追っ手が来ないというところまできた。
「さーて、この機械は高く売れるかな?」
左腕に取り付けた機械を大事そうに見ながらそう呟くカレンだった。
で、そんなこんなでカレンはフェナスシティへと戻ってきた。
カレンがまず町に戻ってきてしたことは、乗ってきたスクーターをお金に変えることだった。
しっかりと、お金を受け取り、中古ショップを後にしたカレンが言った言葉は……
「やっぱり、中古じゃ金にならないわね」
だった。
しかし、現在左腕につけている機械を売るわけには行かなかった。
何せ正体不明の機械なのだから。
そして、真っ先にカレンが行った場所がトレーナーズトレーニングセンター―――通称トレトレと呼ばれてポケモントレーナーたちが修行する場所―――だ。
“カレンちゃん、いらっしゃい”
「こんにちは。セイギさんはいますか?」
カレンはトレトレの責任者であるセイギと面識があった。
というより、カレンもここでポケモントレーナーの勉強をしていて、既にトレトレの中でも指折りの実力を持っているのである。
しかし、そんな彼女でも勝てないのは、責任者のセイギだった。
「おっ、いらっしゃい。カレンちゃん。何かあったのかい?」
紫色の髪にメガネは、頭脳明晰な青年に見える。
「実は、私、さっきまでスナッチ団に誘拐されていたんです」
「スナッチ団に!?……大丈夫なのかい!?そういえば、さっきニュースでスナッチ団のアジトが爆発されたって流れていたけど」
「ええ、なんとか。それでこんなものを盗んできたんですけど」
「盗んできたって(汗)」
カレンはセイギにその機械を見せた。
「それは……まさかスナッチマシンと呼ばれているものではないのか?」
「スナッチマシン……」
「ああ。スナッチマシンには大型と小型の2種類があると言われている。さっきニュースでやっていた。それは小型タイプのものではないのかい?」
「じゃあ、これを使ってスナッチ団はポケモンを奪っていたんだ……」
優しくカレンはスナッチマシンを撫でる。
「これ……売れるかな」
「売れないと思うけど……。というか、売っちゃまずいでしょ!」
セイギが激しく制する。
「そうかなぁ」とお茶目に言うカレン。でも目は笑ってない。
「ところでセイギさん、もう一つ聞いていいですか?」
「なんだい?」
「ダークポケモンって知ってます?」
「ダークポケモン……ごめん……それは知らないな」
「そうですか……」
セイギさんにお礼を言って、その場を後にした。
「ダークポケモン……一体なんなのかしら?」
結局カレンが知ることができたのはスナッチマシンのことだけだった。
「お嬢ちゃん、ダークポケモンについて教えて欲しいのかい?」
「誰?」
振り向くと、2人のゴロツキトレーナーがいた。が、覆いかぶさるように襲い掛かってきた。
「ちょっ!危ないじゃない!」
カレンは慌てて回避した。
「ちっ!!捕まえるぞ!ポッポ!」
「行けッ!!オタチ!!」
ゴロツキの男たちはポケモンを出して襲い掛かってきた。
「ゼニガメ!」
ドガッ! バキッ!
勝負は一瞬でケリがついた。
「オイ……強いぞ、この女」
「聞いてないぞ!!」
2人は逃げようとしたが、カレンが後ろから襟首を掴んだ。
「ダークポケモンのこと……教えてくれるのよね?」
にっこりとカレンは微笑んで言った。
「あ、ええと……それは……」
「ふっ、ダークポケモンとは心を閉ざした戦闘マシンのことだ」
「!!」
ふと、カレンが振り向くと、緑色でまるで戦隊モノの格好をした男がそこにいた。
うん。多分カレンはこう思っただろう。
「(ダサい)」
と。
「「げっ!!お前はベルデ!!」」
「情けないな。こんな小娘に負けるとは……」
「そんなことより、戦闘マシンって何よ!!」
「その名の通りだ。心を閉ざして、戦うためだけのポケモンにしたのだ」
「戦うだけのポケモン……」
「それはまさしく戦闘マシンといえるだろう?」
「……そんなの……酷い……酷すぎるわ!!」
「おしゃべりはここまでだ。行け!ドガース!ベイリーフ!」
ベルデは一気に二匹のポケモンを繰り出した。
「っ!!このベイリーフ……まさか……ダークポケモン!?」
「……?何故わかった!?」
「何故って……」
カレンははっと口を噤んだ。
「(まさか……ダークポケモンを区別できるのは私だけ……?)」
カレンは考えた。
噴水でラウンドがダークポケモンのマクノシタとバトルしていたときに異変に気付いたのは自分だけだ。
もし、他の人が見抜けたのなら、何かしらの騒ぎになっていただろう……と。
「(この黒いオーラこそがダークポケモンの証なのね)」
「まあいい……ベイリーフ!『ダークアタック』!!」
黒いオーラを纏い、ベイリーフはカレンに突進してきた。
慌ててカレンはかわす。
「平気でトレーナーを攻撃してくるなんて……」
「言っただろ!ダークポケモンは戦闘マシンだと!!」
「……行って!!ゼニガメ!ブビィ!」
ゼニガメがベイリーフに体当たりをし、ブビィがドガースへ火の粉を撒き散らした。
ブビィはトキオから貰った卵が孵化したポケモンで、カレンに懐いていた。
しかも、実力も相当なもので、一撃でドガースを倒してしまった。
「ちっ、ダークポケモンじゃないと役立たずだな!」
ベルデは平気で気絶したドガースを蹴り付ける。
「あんた!何てことをしてんの!?」
「何をしているって?役に立たないポケモンをしつけてやってんだよ。まったく、ドガースもダークポケモンにしてもらえればよかったぜ」
「…………」
「早くダークポケモン研究所で新しいダークポケモンを貰いたいぜ。そろそろ新しい奴ができる頃合だな」
「あんたなんか……」
「何?」
「あんたなんか、ポケモンを持つ資格なんてないわよ!!ゼニガメ!!」
ベイリーフに水鉄砲が命中する。そして、そのままベイリーフを壁にぶつけてやった。
「なっ!?よくも!『葉っぱカッター』」
「『殻にこもる』!!」
ゼニガメは殻にこもって、葉っぱを防御する。
「『ロケット頭突き』よ!!」
「『ダークアタック』!!」
真正面からの激突。
技の威力は五分五分だった。
だが……
「ゼニィ!!」
ゼニガメが押し負けて、ころころと転がって壁に激突した。
「威力が通常の攻撃と比べて桁違い!?一体この攻撃はなに!?」
「これが、ダークポケモンの専用技……ダーク技だ。この技は普通のポケモンに効果抜群……これがダークポケモンが戦闘マシンと言う所以だ」
「ポケモンは戦闘マシンなんかじゃないわ……」
「じゃあなんだっていうんだ……?」
「それはわからない……だけど、ポケモンは決して戦闘マシンなんかじゃないわ!!ブビィ!」
ベイリーフに火の粉が命中する。
効果は抜群でベイリーフは身体に火傷を負った。
「その程度……ベイリーフ!ブビィをなぎ払え!『ダークアタック』!!」
「ゼニガメ!『水鉄砲』!!」
ブビィに意識が行っていたせいで、ゼニガメの攻撃はかわすことができなかった。
ベイリーフの足に当てて、転ばせることに成功した。
すると、ゼニガメが光り始める。
進化の兆候だ。
「ちっ!!『葉っぱカッター』!!」
「ブビィ!ゼニ……いや、カメール!」
二匹は攻撃をかわしながら、接近して行った。そして、2匹のパンチがベイリーフを捉えて、打っ飛ばした。
「なんだ、その程度か!?このくらいじゃベイリーフは倒せないぞ!」
ベイリーフはむくっと立ち上がる。しかし、ダメージは確実に負っている。
「私にはわかる……。そのポケモンは苦しんでいる。そして、あんたはそのポケモンを苦しめている。私はそんなポケモンを放っては置けない!!」
カレンは左手で空のモンスターボールを構えた。
ゆっくりと後ろに勢いをつけて、投げつけた。
ベイリーフは避けられず、モンスターボールの中へと吸い込まれていった。
数秒間暴れた後、ベイリーフはモンスターボールの中に落ち着いた。
「なっ!?まさか……スナッチだと!?」
「よく見たら、あの女……スナッチマシンを持っているぞ!!」
「何でだぁ!?」
カレンはベイリーフを納めたモンスターボールを拾い上げると、言った。
「ダークポケモン……それが心を閉ざした戦闘マシンだというのならば……私が全てのダークポケモンをスナッチして、心を開かせて見せるわ!!」
こうして、カレンの戦いが幕を開けたのである。
第一幕 Wide World Storys
二人のスナッチャー① ―――カレン――― 終わり