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たった一つの行路 №012

/たった一つの行路 №012

 ―――最終日。決勝戦の朝。
 ヒロトは最後の試合のために準備を始めていた。
 四つのボールを腰のホルダーにセットし、常備のリュックを背負って外を出た。

「よう!ヒロト!」

 すると、トキオが木に寄りかかって待っていた。

「トキオ!どうしたんだこんなに早く……」
「ある人から手紙を預かったんだ。ほらよ!」

 そう言ってトキオは“ヒロトへ”と書かれた封筒を投げた。
 ヒロトは慌てながらもその封筒を受けとった。

「おい!普通に渡せよ!誰からだろう?」

 封筒の中を見てみるとそこにはヒロト宛ての手紙と雷の石が入っていた。
 ヒロトは手紙を読んでみた。


 ヒロトへ

 昨日の告白どおり私はヒロトのことが好きでした。
 でも、ヒロトは好きな人がいるようですね。
 私は一度マングウタウンに戻ってそれから世界を一人で旅をします。
 『雷の石』をあげるわ。
 私には必要ないものだし、それにヒロトにはピカチュウがいるみたいだし大事に使ってね。
 明日の決勝戦はがんばってね!
 今度会ったときは負けないからね!
 さようなら

 ヒカリより


「…………」

 ヒロトはこの手紙と雷の石をリュックに入れた。

「ヒロト!なんだかヒカリさん、険しそうな顔をしていたぞ!なんかしたのか!?」
「べ、別に何でもねぇよ!」

 ヒロトはそう言ってポケモンセンターに向かって走っていった。
 今日は少し肌寒かった。



「決勝戦がんばってね!」

 ヒロトは預けたボールを返してもらった。

「ありがとうございます!ジョーイさん!」

 ヒロトはポケモンの最終調整をする為にポケモンセンターに来ていた。

「試合は12時から……。今は10時だし……ちょっとそのあたり散歩でもしてよう!」

 そう言ってヒロトはポケモンセンターを出て、あっちこっちを歩いていた。
 そんな時、


「キャァー!助けて――!!」


 女の子の悲鳴が聞こえた。
 ヒロトは悲鳴の聞こえた方に行ってみた。
 少し広い広場の木の上に5歳くらいの風船を持った女の子がいた。
 しかも、回りにはオニドリルが数匹群がっていた。

“おい!あの女の子危ないぞ!”
“誰か助けろよ!”
“お前行けよ!”
“あんなにいっぱいのオニドリル相手に勝ち目なんてあるもんか!”

 周りの人がそんなこんなで話し合っていた。
 みんな心配しているのに誰も助けようとしなかった。
 オニドリルの一匹が女の子にドリルくちばしで襲い掛かろうとした。

“危ない!”
「きゃあっ―――!」
「シオン!『電撃波』だ!」

 その時、ヒロトは木の根元へ行き、ピカチュウの電撃波で一匹のオニドリルを弾き飛ばした。
 そして、ヒロトは急いで木に登った。

「シオン!『電気ショック』の乱れ撃ちだ!!……君、大丈夫?」

 ピカチュウに指示を終えて、少女の状態を確認した。

「うん。大丈夫……かも」

 どうやらケガはしていないようだ。

「(よし……オニドリルはシオンに任せて、俺はこの子と降りないと……)」

 だが、電気ショックをうまくよけていた一匹のオニドリルがヒロトに襲い掛かった。

「な……!ぐっ!……うわっ!」

 ヒロトは不意にオニドリルの『つばさで打つ』攻撃を受けてしまった。
 その衝撃でヒロトは木から身を投げ出してしまった。
 さらに別のオニドリルがクチバシでヒロトを狙っていた。

「シオン、『電撃波』だ!そしてそのまま連続攻撃!」

 ピカチュウの攻撃で何とかオニドリルの攻撃は防いだ。
 だが、ヒロトはそのままの状態で地面へと落下した。
 しかも、ヒロトは少女を上にして落ちた為に腹に衝撃が走った。
 その衝撃でヒロトは気を失いかけた。

「大丈夫!?お兄ちゃん!?」
「だいじょうぶっ……はやくにげるんだ」

 少女に悟られないようにヒロトは言ったが、本当はもちろん平気ではない。
 少女は躊躇した。

「はやくっ!」
「うん……わかった!」

 ようやく少女は走って逃げていった。
 オニドリルはその少女を追わず、ヒロトとピカチュウを標的とした。
 そして、ピカチュウとオニドリルをじわじわと攻撃していった。
 数匹のオニドリルが息のいいコンビネーションで襲ってきた。
 ヒロトとピカチュウは避けるので精一杯だった。

「(このままではまずい!シオンの負担が重過ぎて次の試合が出せなくなる!……でも今はそんなこと考えている場合じゃ無かったよな!)シオン……全力で『10万ボルト』だ!」

 ピカチュウはありったけの力をこめて電撃を炸裂させた。
 その電撃によりオニドリルたちはすべて撃墜させた。

「やった……」
“おい!誰かあの子を―――”

 近くにいた野次馬の言葉を聞き、ヒロトは意識を失ってしまった。



 どれだけの時間がたったのだろうか。
 ヒロトはベッドに寝かされていた。

「う……いてててて……俺はどうしたんだ?確か、オニドリルの攻撃を受けて、木から落ちて、それから…………?」

 その時扉が開いた。

「あら、大丈夫?」

 ジョーイさんが出てきた。

「ジョーイさんということは……ここはポケモンセンター!?」
「ええ、そうよ。普通の病院よりポケモンセンターの方が近かったからここに運んでもらったの」
「そうだったんだ……!! ジョーイさん!今何時ですか!?」
「え?11時45分よ」
「まずい!急がないと!」
「ちょっとどこ行くの?」
「試合です!12時から試合なんです!」
「ダメよ!あなたケガしているじゃない!そんな体でバトルなんてできないわ!まだ精密検査も……」
「絶対行くんだ!ザーフィ!『煙幕』だ!」

 そう言ってヒロトは煙幕を張ってポケモンセンターから逃げ出した。

「(くっ、やっぱり痛い。でも行くんだ!)」

 ヒロトは傷む体を引きずりながらも急いで会場へ向かった。



“さあ始まります決勝戦!ノースト大会の頂点に立つのはどっちなのでしょう!?ヒロト選手対センリ選手のバトルです!しかし、ヒロト選手まだ来ておりません!”
「…………」

 ヒロトの対戦相手はセンリと言うトレーナーだ。
 見るからにかっこよく、そして強そうな人だ。
 なにせ彼のファンクラブもあるそうだ。

“もうすぐ12時なのですが……おーと!ヒロト選手来ました!”
「はぁ、はぁ……間に合ったのか?」
「さあ、試合を始めますよ。位置についてください」
「ちょっと待ってください!」
「ん?」

 ヒロトの対戦相手のセンリが止めた。
 センリはヒロトに近寄った。

「君が私の娘を助けてくれたのだね。」
「……娘?」

 ヒロトは戸惑った。

「オニドリルに襲われていたところを助けてくれたではないか!」
「え?……ああ!」

 ヒロトは納得した。
 つまり、さっき助けた女の子はセンリの娘と言うことだ。

「私の娘を助けてくれてありがとう!」
「いえそんな……その娘さんは大丈夫なんですか?」
「あそこを見てごらん!」

 そう言ってセンリが指差した先を見た。
 そこにはセンリのことを応援している女の子の姿があった。

「と言うわけだ」
「よかった……まったくケガはないようだね……」
「でもバトルは手加減しないから、そこら辺は勘違いしないようにね」
「はい!よろしくお願いします。」

 2人は握手をかわした。

「それではこれからヒロト対センリの試合を始めます!ルールは3対3のシングルマッチ。入れ替え自由。時間無制限。先に3匹ダウンさせた方の勝ちです!!」
「…………」
「…………」

 ヒロトとセンリはそれぞれボールに手を掛けた。

「それでは試合はじめ!」
「いけ!『マッハパンチ』!」
「『ひっかく』攻撃!」

 始まりと同時に2人は指示を出した。

“ヒロト選手はキノガッサ。センリ選手はヤルキモノだ!最初からいきなり組み合ったぞ!!”

「(あのポケモン……ヤルキモノって言うのか。確かキノコの胞子が効かなかった奴だな!)」

 ヒロトはオウギ山のことを思い出した。

「マッシュ!離れて『宿木の種』だ!」
「ヤルキモノ!かわして『火炎放射』だ!」

 ヤルキモノは宿木の種をかわし、火炎放射をキノガッサに命中させた。

“おーと!センリ選手のヤルキモノ!意外な技を覚えている!”
「(火炎放射……厄介だな)『種マシンガン』だ!」

 ヒロトは遠距離の技を指示した。

「かわして『火炎放射』だ!」
「かわすんだ!」
“キノガッサとヤルキモノの激しい戦いが続いています!火炎放射と種マシンガンの打ち合いが凄まじい!しかも、両者その攻撃をかわしている!ノースト大会決勝戦、両者互角の戦いです!”
「…………。(くっ、シオンがいればあのスピードに対抗できるんだけど……ここはマッシュの―――)」
「…………。(ヒロトか……なかなかやるな!あそこまでヤルキモノの攻撃に耐えるとは……そろそろ接近戦で―――)」

 そして、バトルが動いた。

「『マッハパンチ』だ!」
「『みきり』だ!」

 ヤルキモノはキノガッサのマッハパンチを完全に避けた。

「そこだ!『ひっかく』攻撃!」
「させるか!『痺れ粉』だ!」

 ヒロトは2つの戦略を考えていた。
 それは相手が痺れ粉を避けるか避けないかで変わるのである。

「ヤルキモノ!痺れ粉をかわせ!」

 センリはヤルキモノにかわすように指示した。
 ヒロトの戦略とは痺れ粉が当たった場合はヤルキモノのスピードが下がるため、連続攻撃ができる。
 そしてもう一つは痺れ粉をかわすことによりヤルキモノは体勢を崩すと言うことだ。
 ヤルキモノはヒロトの思ったとおり体勢を崩した。

「今だ!『マッハパンチ』!」

 すかさずそこへ攻撃をした。

「ヤルキモノ!!」

 ヒロトは確実に攻撃を当てたと思った。
 だが、次の瞬間キノガッサはヤルキモノの攻撃を受けた。

「な!なんだ!?」
“おーと!キノガッサの攻撃が決まったと思ったらセンリ選手のヤルキモノの『カウンター』が決まった!”

 キノガッサはヤルキモノに与えるはずのダメージを受けてしまった。

「マッシュ!!大丈夫か!」

 キノガッサは何とか立った。

“おーと!ヒロト選手のキノガッサ、立ちました!ヤルキモノのカウンターを受けて立っています!”
「(ヒロトのキノガッサ……なかなか強いな。まさか、ヤルキモノのカウンターに耐えるなんて……)」
「(マッシュ、大丈夫なのか?おそらくもう限界だろう。……でも、マッシュがやる気なら……)いくぞ!マッシュ!『マッハパンチ』だ!」

 キノガッサのマッハパンチは今まで以上に速かった。

「『みきり』だ!」

 しかし、それでもヤルキモノは攻撃を見切った。
 でもキノガッサはヤルキモノの至近距離に入った。

「これで決める!『スカイアッパー』だ!」
「ヤルキモノ!『カウンター』だ!」

 両者ともこの勝つポイントはわかっていた。
 それはヤルキモノの体力だ。
 ヤルキモノがスカイアッパーを耐え切ったらヤルキモノのカウンターが、そうでなければそのままスカイアッパーで決まると。
 そして、一瞬で勝負は決まった。
 キノガッサがヤルキモノにアッパーを決め、ヤルキモノは上空へと舞い上がりそのまま気絶した。

「ヤルキモノ、戦闘不能!キノガッサの勝ち!」
“おーと!キノガッサのスカイアッパーにはヤルキモノも耐えられなかったようだ!!これでヒロト選手1勝だ!!”

 センリは黙ってヤルキモノを戻した。

「次はこのポケモンで勝負だ!」

 そう言ってセンリは緑色をして赤いメガネをかけたようなポケモンを出した。
 見るからに飛行系のポケモンのように思える。

“おーと!センリ選手の二匹目のポケモンはフライゴンだ!二匹目でこのポケモンとは……センリ選手、早くも勝負に出たかぁー!?”
「フライゴン!!??」

 ヒロトはそのポケモンに見覚えがあった。

「(あれは夢で見たポケモンと同じだ!夢の通りになるのならば俺はあのポケモンを……)」

 ヒロトはフライゴンに見とれていた。

「いくぞ!フライゴン、『火炎放射』!」

 フライゴンは並の炎系のポケモンに負けないくらいの火炎放射を放った。

「……!はっ!見とれている場合じゃなかった!マッシュ!かわせ!」

 キノガッサは紙一重でかわした。

「接近して『スカイアッパー』だ!」

 体力がもう無いと考えたヒロトはキノガッサで少しでもダメージを与えようと攻撃を指示した。

「フライゴン!『砂嵐』だ!」

 フライゴンは砂嵐を起こし視界を悪くした。

“おーと!これはフィールド上が砂で見えないぞー!これじゃあ実況ができないぞー!”
「マッシュ!『宿木の種』を飛ばしまくれ!」
「フライゴン!『アイアンテール』で決めろ!」

 ヒロトはジムリーダーのダイチ戦と同じくやどりぎ戦法で攻めようとした。
 そう思った時、ちょうど砂嵐がおさまった。
 フィールドにキノガッサは倒れていた。
 砂嵐の中でマッシュは宿木の種を出す前にアイアンテールを受けてしまったのだ。
 フライゴンの場合目に付いている赤いレンズによって視界が遮られることはないから、確実に攻撃を当てることができた。

「キノガッサ戦闘不能!フライゴンの勝ち!」
“どうやら砂嵐の間にフライゴンの攻撃が決まったようです!これでセンリ選手も1勝です!ほぼ互角の試合が展開されております!まだまだどちらが勝つかわかりません!”
「(フライゴンのタイプは……炎と飛行なのか?)次はネールだ!」

 ヒロトは相手の弱点を性格に突くためにポワルンを出した。

「速攻だ!『水鉄砲』!」

 フライゴンは避けもせず、攻撃を受けた。
 速攻で不意打ちを受けてダメージを受けないはずは無い、そうヒロトは考えていた。
 しかし、実際フライゴンにはあまり効いていなかった。

「フライゴン!『アイアンテール』!」
「なっ!ネール!かわすんだ!」

 ポワルンは攻撃をかわした。

「(なぜだ!?なんで水鉄砲が効かない!?威力が弱いからなのか?それともタイプが違うのか?)」

 ヒロトは動揺を隠せなかった。

「今だ!フライゴン!『竜の息吹』!」

 フライゴンは至近距離で緑色のブレスをヒットさせた。

「『竜の息吹』だって!?」

 竜の息吹はドラゴン系の技だ。
 多彩な技を使えるのでヒロトはフライゴンのタイプが絞れない。

「(火炎放射にアイアンテール、砂嵐、そして竜の息吹……技の種類が多い!!)こうなったら全部の技を当ててやれ!まずは『粉雪』だ!」

 ヒロトは氷系の技を指示した。

「(むっ!)フライゴン!かわすんだ!」

 センリは初めてフライゴンにかわすように指示を出した。

「(そう言えば水鉄砲のときはかわさなかったぞ!それならっ!)ネール!『あられ』だ!」

 ポワルンは氷タイプに変わろうとした。

「そうはいかない!フライゴン!『砂嵐』だ!」

 砂嵐とあられがぶつかり押し合いが始まった。

“おーと!砂嵐とあられがぶつかった!勝つのはどっちだ!!??”
「ネール!『あられ』を止めて『捨て身タックル』だ!」

 ポワルンがあられをやめたのでフィールド内は再び砂嵐になった。

「フライゴン!『火炎放射』で迎え撃て!!」

 フライゴンは火炎放射を放った。
 火炎放射はポワルンに当たったが、フライゴンは捨て身タックルを受けてしまった。

「今だ!『粉雪』だ!」

 フライゴンとポワルンの距離が近かったために粉雪はフライゴンにヒットした。
 さらにその攻撃でフライゴンは氷付けになってしまった。

「しまった!フライゴン!しっかりしろ!」

「ネール!今だ!『あられ』だ!」

 ポワルンは姿を雪雲に変えた。
 フィールドは砂嵐から一転あられに変わった。

「フライゴン!『火炎放射』で抜け出せ!」
「決めろ!『ウェザーボール』だ!」

 フライゴンはなんと自力で氷を溶かした。
 そして、あたるはずだったウェザーボールをかわした。
 氷タイプと化しているウェザーボールをまともに受けたら確実にダウンしていただろう。

“おーと!センリ選手のフライゴン、自分の火炎放射で氷を溶かした!これはすごーい!”

 確かに火炎放射は自力で氷を溶かせないはずである。

「これで決める!フライゴン!『アイアンテール』だ!」
「ネール!フルパワーで『粉雪』だ!」

 ヒロトは避けられてダメージを受けなかった場合を考えて、『ウェザーボール』でなく『粉雪』を指示した。
 粉雪がフライゴンにあたり、アイアンテールがポワルンに当たった。
 どちらも効果は抜群だった。
 結局ポワルンとフライゴンはこの激突で戦闘不能になった。

「ポワルン、フライゴン両者戦闘不能!両者、新たなポケモンをフィールドに出してください!」
“これはすごいことになりました!ノースト大会決勝戦!凄まじい戦いが繰り広げられています!両者1対1になりました!さあ、両者の最後のポケモンは!?”
「ケッキング!出番だ!!」
「絶対勝つぞぉー!行くぜ!ザーフィ!」
“センリ選手はケッキングだ!そして、ヒロト選手はリザードだ!どうやら、最後の戦いはケッキング対リザードのようです!”
「ケッキング!頼むぞ!」

 センリは呼びかけるが、ケッキングは寝てしまった。

「(何だあのポケモン?寝ているぞ?)」

 ヒロトは唖然とした。

「おい!ケッキング!起きるんだ!」
「ZZZ……」

 どうやらセンリの言うことを効かないようだ。

「…………。(攻撃していいのかな?)」

 ヒロトは少し困惑した。やはり、無防備なポケモンに攻撃するのは気が引けるだろう。
 そう思ったとき、

 ズド―――ン!

 ケッキングは地震を起こした。
 リザードは振動にあわててこけてしまった。

「な!これは『寝言』!?やるんならこっちも行くぞ!ザーフィ!『炎のパンチ』だ!」

 不意打ちで怒ったリザードは、気を取り直して立ち上がった。
 一気に間合いを詰め、ケッキングの顔に炎のパンチをヒットさせた。
 その威力は怒りの分だけいつもより高かったかもしれない。

「あ!顔に攻撃してしまったね……」

 ケッキングは目を覚まし、起き上がった。

「な!?全然効いていない!?」
「私のケッキングはかなりの気まぐれでね、あまり言うことが聞かないんだ。しかし、怒ったときや気が向いたときは存分に戦ってくれる。今みたいな時はね!ケッキング!『気合パンチ』だ!」

 ケッキングは拳を光らせリザードに向かって攻撃した。

「かわせ!ザーフィ!」

 間一髪でかわした。
 ケッキングの気合パンチの威力は地面にヒビを入れるほどだった。

「…………。(おいおい!冗談じゃねぇぞ!あんなの受けたら一発でダウンだよ!)」

 ケッキングの技の威力に畏怖を覚えつつも冷静に対策を考えていた。

“センリ選手のケッキングの気合パンチ、恐ろしい威力です!”
「ザーフィ!『火炎放射』だぁ!」
「ケッキング!受け止めろ!」

 ケッキングは素手で火炎放射を防いだ。

「す、素手で受け止めた!?」
「ケッキング!『破壊光線』!」
「(あれを受けてはまずい!)『煙幕』だ!」

 破壊光線は煙幕により外してしまった。

「ならば、『地震』だ!」

 ケッキングは思いっきり飛び上がり振動を起こした。

「今だ!ケッキングに飛び込むように『炎のパンチ』!」

 リザードはうまく空中に逃れる事により地震をかわした。
 ヒロトは完全にセンリの虚を突いたと思った。

「ケッキング!受け止めろ!」

 リザードの炎のパンチはあっさりとケッキングに受け止められてしまった。
 さらに腕をつかまれ、逃れられない。

「な!(まずい!)ザーフィ!『火炎放射』だ!」
「ケッキング!そのままたたきつけろ!」

 リザードは捕まれながらもケッキングに火炎放射をヒットさせた。
 ケッキングはすぐにリザードを叩きつけた。

「(どうだ!?)」

 ケッキングはあまりダメージを受けなかった。

“すごい攻防戦です!歓声が盛り上がっております!”

「(火炎放射が効いていない!?いや、効いてはいるようだけど、どうやらあのケッキングの能力は相当高いようだ。しかもセンリさんもケッキングとの息が合っている。センリさんとケッキング……強い!)」
「(あれだけの猛攻に対応してくるとは、リザードとヒロト……なかなかいいコンビだ!)」

 さっきの叩きつけられたダメージはかなりなものだったらしく、そのせいで右足を強く打ち上手く立てないようだった。

「(まずい……次の一撃で決めないと……火炎放射以上の技と言ったらあれしかない!でもどうやって当てるかだ!あの足じゃザーフィはまともに立てない!うぅ!?)」

 ヒロトは膝をついた。

「(体が……痛み出してきた。少しずつ引いてきたと思ったのに……。後もうちょっとなのに……!)」

 嫌な汗が顔をつたって、地面へと落ちる。
 すでにヒロトの顔は汗だくだった。

「(何か手は……?)」

 その時ヒロトはふとジョウチュシティで見た夢のひとつを思い出した。



 ―――「俺と勝負してください!」

 ポケモン公認の帽子を被って、青いだぶだぶの長ズボンをはいた不思議な少年が俺にポケモンバトルを頼んだ夢だった。
 そのときヒロトは3~4人のトレーナーと旅をしていたようだ。
 中にはヒカリと同じ様な髪型(左右に髪を束ねる感じ、ツインテールと呼ぶらしい)でミニスカートでヘソ出しルックの女の子もいた。
 ともかくその少年のもうひとつの特徴はピカチュウをボールに入れていなかったということだ。

 ―――「いいぜ!」

 ヒロトは軽く勝負を受けた。
 そのときヒロトはキノガッサを出した。
 だが、その時のヒロトのキノガッサの強さは半端ではなかった。
 相手の攻撃を全く寄せ付けなかった。
 そして、『マッハパンチ』でとどめをさそうとしたが……

 ―――「マグマラシ!地面に向かって『火炎放射』だ!」

 突然そんな方法をとり、地面に跳び上がり、そのまま落下してキノガッサに攻撃を仕掛けようとした。



「(そうか、この方法を使えば!!)ザーフィ!ケッキングの足元に『火の粉』だ!」
「(何を?)ケッキング!最大パワーの『破壊光線』で決めるぞ!」
「(ぎりぎりまで……)もっと『火の粉』だ!」
「いけ!『破壊光線』!」
「今だ!ザーフィ!『火の粉』を止めて地面に向かって全力で『火炎放射』だ!!」

 リザードは火炎放射によって自分の体を上空へ打ち上げた。
 そして、ケッキングの破壊光線をかわした。

“おーと!ヒロト選手のリザード、上空へ跳んだー!でもこれじゃあ格好の的だ!”
「行けー!ザーフィ!ケッキングの上から『ダブル炎のパンチ』だ!!!」

 リザードはケッキングの真上を取り、そのままの体勢で下降し始めた。

「ケッキング!『気合パンチ』で迎え撃つんだ!!!」

 しかし、ケッキングは上を向いた瞬間に膝をついた。

「なに!?足が火傷しているだと!?まさか、ケッキングの足に火の粉をやったのは……」
「行けぇ―――!!!」

 リザード最大の攻撃はケッキングに当たった。
 技の威力+重力で攻撃は凄まじい威力となった。

「ケッキング、戦闘不能!リザードの勝ち!よって勝者、ヒロト!」
“ヒロト選手、やりました!センリ選手に勝ってノースト大会優勝です!!”
「や、やったぁ―――!あぁ…………!?」

 ヒロトは急に眩暈がして倒れた。

「(ああ……そう言えば、ケガしていたんだ……)」

 興奮の中、ヒロトの意識は途絶えた。



「んんっ……ここは……?」
「ポケモンセンターだよ!!」
「!!!!」

 ヒロトは耳元で大きな声を出されたのでビックリした。

「……耳元で……喋らないでぇ……」
「ごめんなさい」

 そう謝っているのは試合前に助けた女の子だった。

「あれ?君は?」
「私はハルカ。助けてくれてありがとう!!」
「ああ!!(あれ?ということは……?)」
「どうやら気がついたようだね。」

 同じ部屋にいたセンリが言った。

「センリさん……この女の子があなたの娘さん……?」
「そうだ。かわいいだろ?」
「あはは……。(ま、確かに可愛い)」

 5才の少女の無邪気な笑顔を見てヒロトは少し元気が出たような気がした。
 そんなこんなで談笑をした。
 ケガは打撲であり、3日間安静にしていないといけないようだった。
 それでも、閉会式の為の外出は許可された。
 そして、ヒロトとセンリは閉会式の会場へ向かった。
 センリは娘のハルカと手を繋いで。



「これより表彰式を行います!優勝ヒロト選手!!」

 ヒロトは会長からトロフィーを受け取った。

「いやーたまらんのぉ!」

 会長の口癖はそんな感じだと印象に残った。

「準優勝センリ選手!」

 同じ様にセンリもトロフィーを受け取った。

「3位はヒカリ選手!」

 ヒカリの名前も呼ばれたが、ヒカリは出てこなかった。

「(やっぱりヒカリは帰ったか……)」

 ヒロトは複雑な思いで、もらったトロフィーを見た。

「これでポケモンリーグノースト大会を閉会します!!」



「終ったな」
「ノースト大会は終ったよ」

 閉会式が終って静まり返った会場にヒロトとトキオはいた。
 そのまま、2人で残っていたのだ。

「ともかく優勝おめでとう。大会でバトルができなかったのは残念だったけど」
「ありがとう。じゃあ今やる?」
「やめておく。今やったらきっと勝てないから。それにお前、この状況でバトルは難しくないか?」
「そうだな」

 ヒロトはトキオが気を使ってくれているのだと分かった。

「それよりこれからどうする気だ?」
「…………。まだ考えていない。」
「俺はこれからホクト地方を縦断して海を越えて知らない地方に行ってみるんだ!!その前に、一度実家に戻るけど」
「そうか」
「それまでバトルはお預けだ!いつかまた会おうぜ!」

 そう言ってトキオは手を差し出した。

「ああ!また会おうぜ!」

 ヒロトは当然の如く握手に応じた。



 俺にとってこの大会はかけがえの無い一歩となるだろう。
 さまざまな人と出会いバトルをした。
 でも俺は大切なものを失った。
 これから俺はどうすればよいのだろう?



 ヒロトは4日後、ホクト地方の港にたたずんでいた。

「(『雷の石』……確かに使うとシオンはライチュウに進化するけど)」

 ヒロトは雷の石をリュックにしまった。
 そして再び海を眺めていた。

「おやおや?何か悩んでいることがあるようだね?」
「え?なぜわかったんですか?」

 ヒロトは怪しい老婆に声をかけられた。

「どうやら相当悩んでいるようだね。わしが占ってあげようか……?」

 ヒロトは戸惑ったが占ってもらうことにした。
 その老婆は水晶玉を取り出した。

「では占うぞ!きぇえええええ―――!!!」

 水晶玉が光りだした。

「はぁ、はぁ、一度自分の故郷に帰ってみてはどうかな?」
「はあ……」

 ヒロトは気の抜けた返事を返した。

「後もう一つ!!」
「は、はい!!」

 老婆は真剣な目をしていった。

「困ったときは、『風』に尋ねなさい」
「へ?」

 そう一言老婆は言うとどっかへ立ち去ってしまった。

「怪しい人だったなぁ。よし、ともかくマングウタウンに戻るぞ!!」

 ヒロトは再び船に乗り気ままでの旅を思い返しながら、ノースト地方へ戻っていった。



 第一幕 Wide World Storys
 運命の始まるノースト地方⑫ ―――決勝戦――― 終わり





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Last-modified: 2014-12-31 (水) 15:44:21
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