この2週間ほぼ毎日といっていいほど夢を見た。
それはどれも見たこともない場所、知らないトレーナーだった。
知らないトレーナーは軽く10人は出てきた。
内容も、良い事と悪いこと、交互に繰り返された。
最後に見た3つの夢はヒロトにとって、一生忘れられない夢となることになった。
そして、2週間が経つとき、そのうちの一つ夢は今までと何かが違っていた。
―――「ヒロト!ヒロト!聞くんじゃ!」―――
―――「なんだよ!俺を呼ぶのは誰だ?」―――
―――「お主に夢を見せていた者じゃ」―――
―――「はい?じゃあこれはお前が見せている夢なのか?」―――
―――「そうじゃ!!」―――
―――「いったい何の為にこんなことを?」―――
―――「これからお主は大人になるまでにいくつもの試練や危険を超えなければならぬ。そして、そのうち悪しきものと戦わなければならないときが来る。そのためにわしが少し手助けをしてあげたのじゃ」―――
―――「……悪しきものってロケット団のことか?」―――
―――「名前は知らない。しかし、お主が戦うことになるのは確かじゃ!これは宿命なのじゃ!!」―――
―――「そんなの信じられないな!」―――
―――「信じられないならそれでもいい。しかし、お主が見た夢がもう少しで現実に出てくるはずじゃ!」―――
―――「…………」―――
―――「ヒロトよ!強くなれ!そして、色々なトレーナーと会うんじゃ!さすればきっと道は開かれるだろう!!」―――
―――「お前はいったい何者だ!?」―――
―――「わしは……運命を詠う者じゃよ」―――
「ぶは!」
ヒロトは目を覚ました。
「なんだったんだあの夢……」
もう変な夢はこれ以降見なくなった。
そして、運命の歯車は確実に回り始めていた。
たった一つの行路 №009
「はあ、はあ……待ってくれ!」
黄色いシャツで緑っぽい髪の少年、ヒロトが走っていた。
今、船に乗ろうとしているのだが、寝坊してポケモンセンターを出るのが少し遅れてしまったのである。
「おーい!待ってくれ~……」
息を切らして、全力で出発間近の船へと走っていった。
「はぁはぁ……ふう、間に合った……」
ヒロトはなんとか乗ることが出来たようだ。
ノースト大会まで1週間。
本当はもう1週間前に乗るはずだったのだが、夢のことが気になりポケモンセンターで1週間ぐらい伸ばした。
けど、夢を見ることはなかった。
もちろんその間、ポケモンたちを鍛えることは忘れていなかった。
ヒロトはこの大会で優勝を目指しているのである。
「早く着かないかな?ホクト地方に……」
―――船の機械室。
「誰もいないな?」
「いません!リーダー!」
黒服の怪しい連中、ロケット団がこの船にいたのだ。
「ここに爆弾をセットする!3日くらい経ったら爆破しろ!絶対、乗客が混乱する。その時にすべてのポケモンを奪うのだ!そして脱出、分かったな?」
「はい!リーダー!」
ヒロトの知らないところで密かに計画が進んでいた。
―――2日後。
「わっ!スリープ!」
キノココの『種マシンガン』によりスリープは倒れた。
「こいつ強いぞ!!」
ヒロトはキノココを戻した。
何もやることがなかったのでポケモンバトルをしていたのだ。
ヒロトはこの2日間、10人と戦って全勝。
そして今、5人と戦って全勝。
ヒロトのレベルは確実に上がっていた。
「次は俺とバトルだ!」
「いや俺だ!」
「違うわ!私よ!」
そして、強いトレーナーがいるということで船内に噂が広まり、いつの間にかたくさんのトレーナーに囲まれていた。
「え!まだやるの!?」
ヒロトはちょっと疲れていた。
「そうだ!逃げるのか?」
ヒロトは後ろを向いた。
「もう勘弁してくれ!」
そう言って、逃げ出した。
本当はトレーナーから逃げることはできない。
しかし、これ以上ポケモンバトルをやっていては自分の身が持たないと思ったので逃げたのだ。
「なにー!ちょっと待て!!」
ヒロトは急いで部屋に戻った。
そして、うとうとしてしまいそのまま寝てしまった。
―――翌朝。
「あーよく寝た!」
ヒロトは目を覚ました。
「ここどこだっけ……ポケモンセンターじゃない……そうだ船の上だった!」
ヒロトは少し寝ぼけ気味だった。
「眠気覚ましに外に出よっと!」
外に出た。
すると、心地よい風が吹きヒロトのシャツをなびかせた。
「ん~!いい風にいい天気だな!今日は快晴だ!しかも、海がきれいだ!」
ヒロトはしばらく海に見とれていた。
そして、また眠くなった。
ぼがーん!!!!
だが、突然船の中から爆発音が響き、ヒロトの眠気を奪った。
「なんだぁ!!」
船はおもいっきり揺れた。
「うわ!」
がん!っとヒロトは思いっきり船の揺れによって壁に頭をぶつけた。
「いってぇ―――――――――!!!おもいっきり目が覚めたぞ!くそー!……あれ?」
ヒロトはあることに気がついた。
「(これって夢で見たシーン?ということはあの夢に出てきた奴の言ったことってまさか……)」
そう考えていた。
だが、あまりにも船が揺れるのでいったん思考を中断した。
「この揺れは普通じゃない……。船に何かあったのかな?」
部屋に戻ってモンスターボールを持って急な事態に備えた。
「皆さん落ち着いてください!今、係員が原因を調べていますから…………」
船長が言うのも聞かず、船内はパニックになっていた。
「何か嫌な予感がするなぁ」
ヒロトは人ごみをかき分け無断で機械室に入っていった。
“爆弾が爆発したようだ!”
“くそー!いったい誰がこんなことをしたんだ!!”
機械室で係員たちが話していた。
係員たちも混乱している。
「一体どうなって……ん?あいつらはっ!!」
ヒロトは人ごみの中から黒服の集団、ロケット団の姿を見つけた。
「ロケット団の仕業なのか?」
ヒロトは人ごみの中に再び入っていった。
“私のポケモンがない!”
“俺のポケモンが!”
“わしのも!”
今度はポケモンがいないことでパニックを起こし始めた。
そして、ロケット団が人ごみを出て甲板に出るのを見つけた。
「絶対、見逃さないぞ!!」
必死で追いかけようとするヒロト。
そして、ロケット団は人ごみを抜け出していった。
「へっ!楽な仕事だぜ!」
「混乱したところを一気に盗む……さすがリーダー、バロン様の考えることは違うぜ!」
ロケット団4人はモンスターボールをひとまとめにして逃げようとした。
「やっぱりロケット団の仕業か!!」
そこをヒロトが見つけ、船上でロケット団4人と向き合った。
「お前は!確か……この前の小僧!」
「ブーグシティの時のガキじゃねえか!!」
ロケット団の下っ端が言った。
ロケット団は4人いる。
それぞれブーグシティで戦った1人とオウギ山で戦った3人がいる。
ちなみにリーダーのバロンはいない。
「この前の恨み果たしてやる!」
「あの時はよくもやってくれたな!」
そう言いつつ4人のうち2人はニューラとオコリザルを出した。
「あ!あのときの2人か!思い出した!」
ヒロトはすっかり忘れていたようだ。
と言うか、いちいち顔は覚えていなかったと言うことだろう。
「なめやがって!」
「他の2人は先に行ってろ!こいつは俺らが倒す!」
ニューラのトレーナーとオコリザルのトレーナーを残し、モンスターボールが入っている袋を持って2人は先に行ってしまった。
「あ!奪ったポケモンを返せ!」
「俺らに勝ったら返してやるよ!2人相手で勝てるわけがないと思うがな!」
ニューラとオコリザルが同時に襲ってきた。
「ダブルバトルか……いい練習になるな」
ヒロトはポワルンとリザードを出した。
逃げた下っ端はリーダーのバロンと合流していた。
「何だと!!またあのガキがいるだと!!」
「はい!今、2人が止めています!もう少しで倒して戻って来ると思いますが……」
「来た!」
しかし、来たのはヒロトだった。
「な!俺の部下はどうしたんだ!!」
「俺が倒した!!」
「そんなバカな!」
「オウギ山では勝てなかったけど今度は負けねえぞ!」
「ふん!この私とやる気でいるのかまあいいだろう。」
「リーダーがやることありません!俺たちで充分だ!」
「そうだ!」
そう言って、残りの2人が立ちふさがった。
だが勝負にならなかった。
ヒロトは前回戦ったときよりも楽にその二人に勝った。
「役に立たない奴らだ!」
そういいバロンはギャラドスを出した。
「シオン頼むぞ!」
ヒロトも負けずにピカチュウを出した。
「ギャラドス!『竜の息吹』!」
「シオン、『高速移動』だ!」
両者同時に指示を出した。
ピカチュウは素早く動きギャラドスの攻撃をかわした。
「そんな攻撃当たんねぇぜ!」
「ならこれならどうだ?ギャラドス!おもいっきり暴れろ!」
ギャラドスはオウギ山の時と同じく、我を忘れ暴れ始めた。
ギャラドスの『暴れる』攻撃は船、トレーナー、すべてを無差別に攻撃している。
ピカチュウがどんなに速く移動しても当たるのは時間の問題だ。
「まずい!これじゃあ船が壊れてしまう!シオン、『電気ショック』でギャラドスを止めろ!」
ピカチュウは高速移動中に電撃を放った。
ギャラドスに電撃が当たった。
「やったか?」
しかし、ギャラドスは依然、暴れ続けていた。
「そんな!電気タイプの攻撃を受けて気絶しないはずがない!」
「俺のギャラドスは暴れ出したら止まらないんだよ!!ギャラドス!この船をぶっ壊しちまえ!」
「な!?船を壊したらお前らまでただじゃすまないんじゃねぇのか?」
「もともとこの船は壊すつもりだったんだよ!それに脱出方法もちゃんと考えてからな!」
「いったい何の為にこんなことをするんだよ!」
「ふん!お前には関係ないことだ!そろそろこの船を壊すとしようか!!『破壊光線』だ!!」
ギャラドスは暴れるのを止め、チャージし始めた。
「くっ、シオン、全力攻撃だ!!」
「バカめ!今まで全力じゃなかったと言うのか?バカバカしい!ギャラドスやれ!」
「シオン!最大パワーで『電撃波』!!」
ギャラドスの破壊光線が出る前にシオンの電撃波が決まった。
ギャラドスはダメージに耐え切れずダウンした。
「な……なんだと!!」
「答えろ!何でこんなことをするんだ!」
「まあいいだろう。答えてやる。我々の目的はポケモンを使った世界征服。世界を征服して我々の世界を作るのだ。そのためには強いポケモン、トレーナーまたは費用が色々とかかるのだ。そのためにはこうやって人のポケモンを盗んだりしているのだ」
「…………」
「どうだ?お前も入ってみるか?お前ほどの奴なら幹部くらいにはなれるかもな」
「断る!!俺はそんなものには入らない!」
「ふん!そう言うと思ったぜ!」
「ポケモンを道具としか思っていない組織になんて誰が入るか!!」
「お前がどう思っていようが、そのうち我々の世界となるのだ!」
「そんなことはさせない!」
「今回はあきらめるが、次は容赦しない!あばよ!」
バロンは盗んだモンスターボールを置いて海に飛び込んだ。
「なに!?逃げた!?あいつ死ぬ気か?」
ヒロトが気づいた時には他のロケット団員もいなくなっていた。
乗客から盗まれたボールはすべて持ち主に返された。
実際、ロケット団という組織のことを話しても信じてもらえないだろう。
だから、ヒロトはただのポケモン泥棒の仕業だと言った。
船は次の港に着いたときにいっしょに直すので1週間は動かすことができないらしい。
船の上の騒動はこれで解決した。
“見えたぞー!ホクト地方!”
“やっと着いたのね!?”
乗客が口々とそれぞれ口に出した。
「いよいよホクト地方……いよいよノースト大会……絶対優勝してやる!」
ヒロトは誓いを胸に秘めた。
「ふう……やっと着いたぞ!」
ヒロトはトウマ高原の選手村に着いた。
「ここに俺のライバルが続々といるのか!!くぅ~楽しみだ!!」
港からこのトウマ高原まで歩いてきた。
しかし、ヒロトのポケナビがノースト地方版だったのでホクト地方のマップはなく迷いに迷って1週間かけてここについた。
つまり、計算してみるとノースト大会の開会式は明日なのである。
ヒロトは自分が泊まる場所へ急いだ。
そしてあまりにも疲れていたためそのまま寝てしまった。
―――1日目。
ヒロトは会場に着いた。
会場には選手やその親族などでにぎわっていた。
「うわぁ~!強そうな人ばっかりだー!」
ヒロトはあちこちふらふらしながら歩いて開会式に臨んだ。
「これによりノースト大会をすることを宣言します!!」
この言葉によりノースト大会は始まった。
ノースト大会は今回、出場者は全員で64人。
きわめて少ない。
ノースト地方はどの地方と比べても小さく、またレベルが低いのだ。
だから、少なくても無理はない。
期間は一応8日間だ。
ルールも3対3のシングルバトル。
きわめて簡単なルールだ。
しかし、違うのは準々決勝(4回戦)までは特別フィールドで戦うと言うことだ。
特別フィールドと言うのは水のフィールド、岩のフィールド、氷のフィールド、草のフィールドだ。
ヒロトは抽選場所へ向かった。
その時、誰かが後ろから声をかけてきた。
「ヤッホー!ヒロト!」
振り向いた先にいたのは、緑のフレアスカートに半袖のクリーム色のブラウスと着た少女、ヒロトの幼馴染のヒカリだった。
「ヒカリ!!元気か!?」
「もちろんよ!」
「抽選は終わったのか?」
「終わったわ!Dブロックよ!ヒロトはまだなの?」
「ああ。俺はこれからだ。」
そんなこんなで喋っていた時またヒロトを呼ぶ声がした。
「おーい!ヒロト!!」
「ん?この声は……?」
首にスカーフを巻いて、紫色のシャツを着た少年がそこにいた。
「ヒロト!!元気か?」
「わ!!トキオ!!」
そう、トキオもいた。
「よう!元気そうだな!!と言うかよく迷わずにここまでこられたな!!」
「??俺は迷った覚えなんて一度もないぞ」
「嘘付け……何度も迷っていたくせに……」
トキオはツッコミを入れた。
「ところでトキオは抽選終わったのか?」
「俺はまだだ。だから先行くぜ」
そう言ってトキオは先に行ってしまった。
「ねぇヒロト。今来た男は誰?」
ヒカリはヒロトと話していたのにトキオが割り込んできた為ちょっと不機嫌だ。
「わりぃ、わりぃ。あいつはトキオって言うのだ。一時期いっしょに旅していたんだ」
「(……え!?)そ……そうなの……」
「あいつ強いのだぜ!シングルバトルで2対2でバトルしたら俺一匹も倒せなかったんだよ。でも今度やったら俺が勝つぜ!!」
「そうなの……じゃあ私は選手村に戻るわ。」
「そうか、じゃあ気をつけて!!」
ヒロトはヒカリがちょっと複雑そうなをしていたことに気づいていなかった。
そして、くじの順番がヒロトに回ってきた。
ヒロトは慎重にくじを引いた。
それにはCという、文字が書かれていた。
「ヒロト君はCブロックね。」
「このあとはどうすればいいんですか?」
「すべての選手が引き終わるまで待っててね。でも結果が出るのは明日になると思うわ」
「そうですか……」
ヒロトはそのまま抽選場所を出た。
「おい!ヒロト!」
声の先にはトキオがいた。
「ちょっと聞きたいことがいくつかあるんだけどいいか?」
「かまわないよ」
ヒロトとトキオは選手村へ戻った。
「なあ!まず、さっきお前と一緒にいたかわいい女の子は誰なんだよ!」
「はい?ヒカリだよ」
「そんなことは分かっている。女の子が苦手のはずのお前が何でそのヒカリさんには普通でいられるんだ?」
「それは幼馴染だからだ」
「…………?」
「ヒカリは小さいときからの唯一の女の友達なんだ。」
「そうか。唯一女慣れしているのはあの子だけってことか。……それと一番気になるのは夢のほうだよ!あれからどうなった?」
「最近見なくなったよ」
「え?本当か?」
「ああ。見なくなったよ」
「それはよかったな。でも何か拍子抜けだなぁ」
ヒロトはあえてトキオに最後に見た夢のことを言わなかったのだった。
第一幕 Wide World Storys
運命の始まるノースト地方⑨ ―――ノースト大会開幕――― 終わり