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たった一つの行路 №006

/たった一つの行路 №006

「(また、こんな状態になったらどうすればいいんだろう……)」

 ジムリーダーのナルミに勝利して、ジムバッジを受け取ったヒロト。
 しかし、元気はなく、うつむきながら町をうろついていた。
 途中でショップによって、アイテムを売買したり、本屋によって立ち読みをしたりしていたが、彼のテンションは上がらずじまいだった。
 夕方になって、ポケモンセンターに戻ると一人の男が声をかけてきた。

「よぉ、ヒロト!」

 赤い髪でちょい前髪が長めの男……トキオはゆっくりと近づいてくる。

「ジム戦、勝ったんだってな」
「ああ!…………。でも、何でそれを知っているんだ?」
「ふっふっふ、この人から聞いたのさ」

 トキオの隣りには見覚えのある茶髪で普通の女子制服の女の子がいた。

「……は……はい?なんでナルミさんがここに?」
「ポケモンたちを回復させに来たのよ」
「な……なんで、トキオとナルミさんが一緒にいるんだ??」
「ちょっとそこで会ってね。喋りながらここに来たんだ。」

 ヒロトはトキオに聞いたつもりだったのだが、ナルミが割り込んで答えていた。

「そ、そう……なんだ……」
「まさか、ヒロト君とトキオ君が一緒に旅をしていたなんてね」

 笑顔でハキハキ話すナルミに対して、ヒロトはどこか不審そうに言い淀んでいる。
 そんなドギマギした様子をトキオが怪訝そうな目で見つめる。

「そうだ!よかったらヒロト君も一緒にご飯食べに行かない?」
「ヒロト、行こうぜ!せっかくのナルミさんのお誘いなんだ!こんな機会滅多にないぜ!」
「……俺は……遠慮します……ちょっと気分が悪いから、部屋で休んでくる……」
「……そう?残念ね……」

 落胆の様子を浮かべるナルミに対して、ヒロトはそそくさと立ち去って行ったのだった。



 たった一つの行路 №006



「おい、ヒロト!ナルミちゃんの御誘いを断るなんてどうしたんだ!?」

 数時間後。
 部屋にトキオが戻ってきたとき、ヒロトはベッドで布団をかぶって寝ていた。
 トキオはそんなヒロトに向かって一言そう言ったのだ。

「気分が……悪かっただけだ……」

 本当に寝ているものだと思っていたトキオは少し驚いたが、すぐに次の言葉を紡ぐ。

「嘘付け!俺に話し掛けられる前まではぴんぴんしていたのを俺はちゃんと見ていたんだぞ!本当のことを言えよ!」
「…………」
「おい、ヒロト」
「…………」

 布団を自らめくって、起き上がるヒロト。

「誰にも、言わない?」
「約束する」

 深呼吸をして、言葉を吐き出した。

「……―――なんだよ」
「ん?」
「俺は……同じ年の女の子が苦手なんだよ。喋るのもあまり得意じゃないんだ」
「…………」
「それに、争い事でも相手が女の子とわかると譲ってしまうんだ。だから、さっきのジム戦は、ものすごく危なかった……」
「……それで……断ったのか?」
「…………」

 無言で首を縦に振るヒロトを見て、トキオは噴出した。

「ぷっ!なーんだそんなことかよ!!」
「ぐっ……笑うなよ!」
「悪い悪い……でもよ……」

 トキオは笑いをこらえて、真顔になった。

「そんなことを言っても、いつまでもそんなことは言ってられないんじゃないか? 大会で女の子に当たった場合とか、そんなので言い訳はできないぜ?」
「わ、わかっているよ……。そんなことは」
「じゃあ、治さないとな!」

 そう言い放つと、トキオは隣のベッドにダイブした。

「そんなこと……分かっているよ……」
「というか、それなら、なおさらナルミちゃんと食事に行くべきだったな!」
「…………」

 こうして、夜は更けていった。



 ―――「(ここは……どこかの広場か?)」―――

 相変わらず、ヒロトは夢を見ていた。
 ここに登場する人物は、15~6歳くらいの少年で、青いバンダナにハーフパンツの格好をしていた。

 ―――「(何か怒鳴っているようだ。俺は……何か悪いことでもしたのか?)」―――

 疑問に思って考えても何も解決はしない。
 ここで起きていることは、夢なのだから。
 なるようになってしまう。

 ―――「(わっ!ポケモンを出して襲ってきた!しかも速い!)」―――

 見た目は鋼タイプのポケモンだった。
 そのポケモンは浮遊して、ヒロトに襲ってきた。
 それ以上の情報は今のヒロトには無く、なすすべがなかった。

 ―――「(うわっぁ!!)」―――



「……―――い、おい!起きろ!朝だぞ!」
「ん~……。あ~おはよ~、トキオ」

 寝ぼけ眼で目をこすりながら、ヒロトは起き上がった。

「で、また見たのか?」
「何を?」
「夢だよ!夢!」
「あ!うん、見たよ!知らないトレーナーが目の前にいて、いきなりポケモンを出して襲ってきたんだ」
「……なんか、聞くといつも襲われている夢ばかりだな……」
「襲われる?……確かに襲われたり、追いかけられたりという夢が多いかも」
「そうか……。まぁ、そんなことより、飯食いに行こうぜ!早くお前のポケナビを返してもらわないとな」
「ん……ああ」



 ヒロトたちは朝飯を食べて、フウトの所に来ていた。

「ここか?」
「うん、最初に来たときはびっくりしたけど、ここだ!」

 看板にはSHOP-GEARと書かれている。
 そして、フウトの家は他の家と違いレンガ造りになっている。

「もともとフウトはポケナビを直すのが専門ではないって話を聞いたことがある」
「え?それじゃ、別に何か直せるものがあるのかな?」
「確か自転車とかバイクだったかな?……うん、そんな感じがするかも」

 フウトの家に入ると、あちらこちらにドライバーやレンチなどの工具類が散乱している。

「って、ヒロトは一度ここに来たんだろ?この状況を見ればわかるんじゃ……」
「いや、こっちは開いて無くて、裏口に回ってみたら、フウトさんがいて、中に案内されたから……」
「そ、そうか」
「フウトさーん!ポケナビ直りましたか?」

 おもむろにヒロトが声をかけてみるが、フウトの返事は聞こえなかった。

「どこに行ったんだろう?」
「散歩でもしているんじゃない?」
「おいおい、まさか……」
「ごめん!待たせたね!」

 そう言ってヒロトとトキオの後ろからフウトが出てきた。

「どこに行っていたんですか?」
「酔いを醒ましに散歩だ!!」
「「…………」」

 トキオの言うとおりだった。
 とりあえず、ヒロトたちは中へ促され、フウトの後をついていった。

「はい、ヒロトのポケナビだ。」

 フウトはヒロトにポケナビを渡した。

「ありがとうございます!」
「ところでヒロト。君は黒服で胸に“R”のマークをつけた奴に会ったって言っていたね?」
「はい」
「そいつらの正体が分かったよ!」
「「本当ですか!?」」

 2人は声をそろえていった。

「そいつらはポケモンを使った犯罪組織、ロケット団だ!!」
「ロケット団?」
「変な名前だな!」

 ヒロトとトキオはそれぞれ口々に感想を述べた。

「規模が小さく、カントー地方でしか活動していないし、まだ裏でしか知られていないからね。知らないのも当然さ」
「(裏?裏ってまさかフウトさんも……?)」

 トキオは自然と見構えた。

「トキオくん、そんなに身構えなくていいよ。僕は違う。僕は、情報を集めるのが得意なのさ!」
「ということはフウトさんの本職って……」
「そうさ!“情報屋”さ!ただ、ここの近くの人には秘密さ!いろいろと面倒なことになるから」

 そんなことを軽々しく一旅人の俺たちに話して大丈夫だろうかと不安がるトキオだが、そこは置いとくことにした。

「そういうわけであまり君たちはこのロケット団にかかわらないほうがいい。分かったね?」
「はい!」
「……はい」



「どうしたんだ?さっきから考え込んで」

 トキオが不安そうに考え事をしていた。

「ロケット団に関わるなっていってもヒロトは夢で見ているんだよな?」
「ああ。それがどうしたんだ?」
「もしそれが未来予知だったとしたらヒロトはこれから先、その“ロケット団”って奴とかかわるんじゃないか?」
「そんなこと無いって!ただの夢に決まっているさ!」
「そうかなぁ……?」
「そんなの気にしたってしょうがないって!次の町へ行こう!」
「あぁ、そうだな……」

 楽観するヒロトを見てトキオは不安を覚えるのだった。



 それから2日間、次の町へ行く準備のためにオートンシティに滞在した。
 オートンシティのさらに北西にあるブーグシティを目指す前夜にトキオとヒロトはジムリーダーであるナルミと一緒に食事をした。
 一向に硬さの取れないヒロトに対して、トキオはナルミと楽しそうにおしゃべりをしていた。
 時にトキオがヒロトに話題を振ろうとも、ヒロトはなかなかうまく話せずにいた。
 これは、方向音痴にしろ、女の子にしろ、大変な弱点だなとトキオは思わずにはいられなかった。



 ―――数週間後。

 ヒロトたちは何事も無いかのようにブーグシティに着いた。
 ブーグシティはジムもない小さな都市である。
 あるのは、全国でも有数でノースト地方が誇る図書館ぐらいだ。

「ふう……かなり早く着いたね」
「ああ。ヒロトが文句を言わなければもっと早く着けたんだけどね……」
「どうする?まだ昼前だぞ!」
「ここで少し別れようか。俺は行きたいところがあるんだ」
「そう……じゃあ俺も適当に歩いていることにする。ポケモンセンターで会おうぜ!」
「ああ!!」

 こうして2人は単独行動をすることになった。



「ふう……ここのカレーはうまかった!」

 ヒロトは食堂から出てきた。

「さあ、これから何しようかな……?」
「あれ?ヒロト?」

 ヒロトがそんなことを考えていると後ろから声が聞こえた。
 振り向いて見るとそこにはツインテールで緑色のスカートクリーム色のブラウスを着た少女がいた。

「……!ヒ、ヒカリ!ど、どうしてここに?」
「あら、ヒロトこそ!」
「俺はここから北東のブルーズシティにジム戦をしに行くんだ」
「あら、私はもう行ってきたわよ。ほら」

 ヒカリはヒロトに2つのバッチを見せた。

「これがブルーズシティでゲットしたコールドバッジ、これがジョウチュシティでゲットしたファイトバッジよ!」
「へぇ……2個もゲットしたんだ」
「ヒロトは?」
「2個だよ。まだ、ブルーズシティにも、ジョウチュシティにも行ってないけど」
「じゃあ同じね!私、この大会で優勝するからね!」
「俺だって負けないさ!」
「じゃあ、大会で会いましょう!」
「ああ!」

 ヒロトはヒカリの道を歩いて行った。

「…………」

 後ろでヒカリが自分の背中を見ているのも気づかず。



「すみません!!もっと別の資料はありませんか?」

 トキオは図書館にいた。
 トキオはヒロトの夢の秘密を知りたくてオートンシティの図書館からずっと調べていたのだ。

「はい。一応ありますが……それは地下の図書室にあります」
「そこに入っていいですか?」
「ええ。そこには昔のものから現在にいたるまでさまざまな資料がありますが……でもかなり散らかってます。今、整備中なので」
「お願いします!見せてください!」

 トキオは地下の図書室に来た。

「どうぞお好きに見てください」
「ありがとうございます」

 トキオは探し始めた。

「(夢……未来予知……その類のものはどっかで見たような気がするんだ)……って、わっ!!」

 本の一部が崩れ、トキオは本に埋もれた。

「くっ、ほ、ほこりくさい……けほ……」

 この地下図書には色々な資料などがあった。

「<伝説のポケモン、エンテイ、スイクン、ライコウに関する考察>……伝説のポケモンか。
 <アンノーンに関する資料>……確かアルファベットと2つのマークで28種類いるんだよな。
 <正しいクッキング法>……これは最近のだな」

 もっと探してみると、

「<ポケモンと話ができる民族と言う伝説>……そんなことができたらすごいな。
 <木の実がいっぱい実る方法>……これは知ってるな。
 <次元の記述>……何だこれ?面白そう……。だけどこれじゃないな」

 さらに探すと、

「<ポケモンの遺伝子操作について>……これは?ちがうな。
 <隕石の秘密>……全然関係ない。
 <千年の願い星>……流れ星のことかな?
 <ポケモンの気持ちが分かる!>……へぇ……ためになりそうだなぁ……でも、これじゃない。
 <HITOMI~細身萌え姫の濡れた肌~>……ふーん……服の来ていない女性が描かれている……ぶっ!これエロ本じゃねえか!!何でこんなもんがあるんだよ!!」

 さすが地下図書。いろいろな物がある。



 ―――4時間経過。

「ああ。肝心な物が見つからねー!」

 トキオはあきらめて出ようとするとなんとそこには……

「あ!あった!<人が見る夢に関する考察>こんなところにあった……」

 あまりにも簡単なところにあって元気がなくなったトキオであった。



 夕方になりトキオはポケモンセンターに来ていた。

「はぁー。疲れた……」

 トキオはヒロトより先について寝てしまった。ほぼ半日ぐらい調べ事をやっていたのだから当然だろう。
 その頃ヒロトはまだ町をうろついていた。

「はぁ~。さすがに連続でポケモンバトルを受けるとつらいなぁ」

 ヒロトはヒカリに会ったあと、トレーナーばかり会って立て続けに勝負をしていったのだ。

「疲れたからポケモンセンターに行こう」

 そう思ったとき、前から黒服で胸に“R”をつけた奴らが走り去っていった。

「あいつらは……ロケット団!?何かありそうだな」

 フウトの忠告が抜け落ちていたヒロトは、気づかれないように後をつけた。
 行き着いた先は、廃墟された工場のようだった。
 そこからは話し声が聞こえてきた。

「さあ、そのポケモンを渡してもらいましょうか」
「何度脅そうと無駄だ!」

 話し声の主は下っ端風の団員4人と年配のおじさんである。

「しかたがありません。少し痛い目にあってもらいましょうか」
「ぐ……」
「(……明らかにやばい雰囲気じゃねえか!!助けないと!!)」

 ヒロトはすぐにおじさんを助ける作戦を考えた。

「(よし、相手は4人だしこれでいくぞ)」

 ヒロトは実行に移した。

「マッシュ、『キノコの胞子』だ」

 まず、ヒロトはキノココを出しロケット団4人とおじさんを眠らした。
 そして、近づいて、近くにあったロープでロケット団を縛りおじさんを起こした。(古い工場なのでロープは簡単に見つかった。)
 とても作戦といえない単純なものだった。

「うーん……君は?」

 おじさんが起きた。

「俺はヒロト。ポケモントレーナーです」
「そうか、あれ?“R”の奴らは?」
「そこでみんな寝てますよ。」
「……もう1人がいない!!」
「え?」
「“R”の奴らは5人いたんだ!」

 そうおじさんが言ったとき、

「お前らどうしたんだ!!お前がやったんだな!!覚悟しろ!!」

 その1人の奴が戻ってきた。そいつはニューラを出して襲ってきた。

「くっ、見つかった!シオン頼む!」

 ヒロトはピカチュウを出した。

「シオン、『電気ショック』!」

「ふん!ニューラ!」

 ニューラはピカチュウを上回るスピードで電撃をかわした。
 そして、

「ぐふっ!!」

 ニューラの爪がヒロトの腹をえぐった。

「くっ、と、トレーナーを……攻撃するなんて卑怯だ……!」
「ふん!俺が正々堂々とやると思うか?ニューラ、『乱れひっかき』!」
「『高速移動』から『でんこうせっか』だ!!」

 高速移動で乱れひっかきをかわした後、攻撃に出た。

「それがなんだ!!『影分身』!!」

 だが、ニューラの影分身によってピカチュウの攻撃があたらない。

「(今日はポケモンバトルをやっているからいつも以上に力が出せないのか!)一か八かこれしかない!シオン、『電撃波』!!」

 ピカチュウは力を振り絞って電撃波を出すことができた。そのスピードは影分身をも破るスピードだった。

「何!!ニューラ!!ぐわ!!」

 電撃波はニューラをふっとばし、下っ端にも電撃が及んだ。
 その一撃で下っ端は気絶した。

「やったなシオン、うっ!」

 ヒロトはよろめいた。急所は外れたとはいえニューラの爪を喰らったのだから。
 ピカチュウも心配してヒロトに近寄った。

「だいじょうぶかね?」
「は、はい!大丈夫です。ところで何でロケット団に狙われていたんですか?」
「あいつらはロケット団って言うのか……このポケモンを狙っていたんだ」
「このポケモンって?」

 おじさんはポケモンを出した。

「このポケモンはポワルン!かなり珍しいポケモンじゃないですか!」
「だから狙われたのかもしれない。よかったらこの子を引き取ってくれないか?」
「ええ!?そんな……悪いですよ」
「いや、この子は私のポケモンじゃない。ロケット団に追いまわされていたんだ。だから私が捕まえて助けた。そして私が襲われたんだ。だから君みたいな強くて勇敢なトレーナーなら任せられる」
「……分かりました!それじゃあポワルンを引き受けます!」

 そしてヒロトはおじさんと別れポケモンセンターに向かった。
 しかし、その頃にはもう夜が明けようとしていた。



 第一幕 Wide World Storys
 運命の始まるノースト地方⑥ ―――SHOP-GEARのフウト――― 終わり





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Last-modified: 2014-12-29 (月) 11:06:43
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