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たった一つの行路 №004

/たった一つの行路 №004

 ―――ツバキの森。
 この森はとにかく広いことで有名であり、旅に慣れたトレーナーでも脱出するのに数十日はかかるといわれている。
 シオンの森と比べると、深く昼でも不気味であった。
 また、ポケモンの種類も豊富なので、戦力を増やすには絶好の場所である。

「この森は大きいことで有名だからなぁ。気をつけないと……」

 ヒロトは、ポケナビで現在地を確認しつつ、元気に前へ進んで行った。
 途中で野性のポケモンを見かけていたが、ゲットはしなかった。
 というよりも興味のないポケモンは力試しでバトルをして打ち倒し、捕まえたかったポケモンは直前で逃げられたりということを繰り返したのである。
 そして、森に入って3週間経った頃に事件は起きた。



 たった一つの行路 №004



「ライズタウンを出て結構経ったよ……。たまにはふかふかなベッドで寝たいなぁ……」

 弱音を吐きながら、迷わないようにしっかりとポケナビを見て歩いているヒロト。

「どっかに休む場所はないかなぁ……ん?」

 遠くの方を見ると、なにやら怪しい人影が見えた。
 サッとヒロトは隠れて、その人影を観察することにした。

「あいつらこんな深い森の中で何をしているんだろう?」

 一つの巨大な樹木の根元で、数人の黒い服の人物達がいた。

「あのマークどっかで見たような……?」

 そして、一番目立つのは彼らの背中に“R”という文字が刻まれていた。
 そのマークが何を示すか、ヒロトには分からなかった。

「おい、そこのお前、近くに誰もいねえな?」

 銀髪で鋭い目をした男が、下っ端の女に聞く。
 それだけで、女は萎縮して、息を呑んだ。

「は、はい。いない……みたいです。バロンさん」
「…………。そうか。今から、作戦を話すぜ。あんまり気が乗らんがな」

 バロンと呼ばれるリーダー格の男は、作戦の内容を話し始めた。

「(聞こえないなぁ)」

 ヒロトは話を聞こうと、ソロソロと近づこうとしていた。

“は、はい!”

 数人の団員が、バロンの作戦に納得して、返事を上げた。
 しかし、萎縮していた女は、返事をしなかった。

「おい、お前。作戦に文句があるのか?」
「も、文句なんてそんな……」
「じゃあ、何か言いたそうなその目は何だ?」
「ほ、本当にその作戦を実行するんですか?」

 その二人の会話が聞こえるところまで来て、ヒロトはゴクリと生唾を飲み込んだ。

「(この森を焼き尽くす……!?)」

 なにやら危険なことをしでかそうとしていることに気付く。

「(この森には、たくさんのポケモンたちが住んでいるんだぞ……そんなこと、許せるはずが……)」

 「(止めないと)」と考えていた。


「本当にその作戦だったらよかったのによ」


 次の瞬間だった。

「え?」

 バロンと呼ばれた男は、一匹の蒼い龍のようなポケモンを繰り出していた。
 そのポケモンの名前はギャラドス。
 そして、茂みを狙って、破壊光線を放った。

「なにっ!?うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 足元の地面が抉られた。
 地面は滑るように崖へと雪崩れ落ちていく。
 一瞬のことで、ヒロトは何もできなかった。

「ふんっ。盗み聞きをするなら、もっと上手くやるんだったな!さて……」

 バロンは数人の部下に向き直ってやる気なさそうに言った。

「くだらねー作戦を始めるぞ」
「あ、あのー、バロンさん。さっきの子供の生死を確認しなくてもいいんですか?」
「放っておけ」

 ギャラドスを戻して、バロンは部下を連れてその場を去っていったのだった。



 深い森の中だった。

 ―――「(ここは……)」―――

 やはり今まで見たことのないような場所だった。

 ―――「一体、この夢はなんなんだろう……」―――

 そう思いながら、ヒロトは前へ前へと進んでいく。
 たまにキャタピーやビードルといった虫ポケモンが姿を現すが、ヒロトは手持ちのポケモンを繰り出して、迎撃して行く。
 未だ見ぬポケモンもいて、どういう技を使うかわからないポケモンもいるのだが、そこは夢の中のようで、都合よくポケモンが攻撃してくれていた。

 ―――「ん?誰だろう?」―――

 数十分は歩いただろうか。
 木々が重なり合ってできている深い森の中で、ひだまりができている場所があった。
 その下に、誰かがいた。

 ―――「……女の……人……?」―――

 1メートルほどの距離まで近づいて見下ろしてみる。
 一目見ただけで、ものすごく美人な女性だということが見て取れた。
 だが、その目元にはうっすらと涙を浮かべていた。

 ―――「綺麗なお姉さんだな……でも、なんでこんなところで寝ているんだろう。なんで泣いているんだろう」―――

 しばらくヒロトは、その場に座り込んで彼女を見ていたのだった。



 ―――1日経過。

「……っ!!」

 ぱちりと目を開けて、恐る恐るあたりを見回す。
 地べたはクッションのように柔軟性のある芝生のようで、それほど体は痛まなかった。

「崖から落とされて、ケガがなかったのは、よかった…………ん?」

 ふと、彼はお尻に違和感を感じた。
 ゆっくりと立ち上がってその下を見ると、恐るべきものがそこにあった。

「あ゛あぁぁぁぁぁっ!!ポケナビが壊れてる!!!!」

 この出来事がヒロトの旅路を大きく変える一つだったことは、ヒロトには知る由もなかった。



 ―――10日後。
 『フールタウン』と呼ばれる街がある。
 この街は、季節を大事にする町といわれている。
 春の花見、夏の花火、秋の紅葉、冬の雪合……などなど、毎年決まった日にちになっては、町の総力を挙げてイベントを開催するのである。
 しかし、今日はとくにイベントを開催しているわけではない。
 いつもと同じく、町の人たちは仕事をしたり、遊んだりして暮らしていた。

「ど、ドロボー!!ポケモン泥棒だ!誰か捕まえてくれ!」

 そんな中、事件は起きた。
 黒服にRという文字を刻んだ男二人が、自転車で逃走していた。

「へっ、今回も楽勝だな」
「こんなこと、朝飯前だぜ」

 どうやら常習犯のようだ。
 そのまま、町の外へと逃げようとする。
 しかし、彼らの目の前に紫色のガスのような物体が現れた。

「なんだ、こいつ?」
「ゴース!『黒い眼差し』!」

 どこからともなく、目のようなものが次々と空間に現れ、男二人を逃さないようにする。

「ポケモンの逃走防止技か!?」
「いったい誰だ!?」

 泥棒二人の前に姿を現したのは、グレーのスカーフを巻いたグラサンをかけた10歳ほどの少年だった。

「俺はただの通りすがりのトレーナーさ!」
「通りすがりのトレーナーが、邪魔をしないでもらおうか」
「そうさ、ケガをする前に帰るんだな!」

 泥棒のうちの一人が、少年を迎撃するためにポケモンを繰り出した。
 一匹が蝙蝠ポケモンのズバット。もう一匹が、前歯が特徴的なラッタだ。

「そうはいかないな。奪ったモンスターボールを返してもらおうか!」
「バカめ!俺に勝てると思っているか? こいつをやってしまえ!」

 ゴース一匹に2匹のポケモンが襲い掛かる。
 ズバットが翼を打つ攻撃でゴースに、ラッタが前歯を光らせて少年に向かっていった。
 しかし、少年は冷静にもう一つのモンスターボールを投げつけた。

「ゴース!ズバットに『ナイトヘッド』! イーブイ!ラッタに『電光石火』!」

 ドゴッ!!

 返り討ちとはまさにこのことだった。
 それぞれの攻撃が、クリティカルヒットして、2匹を押し返したのだ。

「……つ、強い!」
「ああ、一人だからってなめてたよ。俺もやるしかないようだな」

 傍観していたもう一人の男もワンリキーとスリープを繰り出した。

「4対2か……ちょっときついかな」
「今さら後悔か?我々に逆らった報いだ!ワンリキー、イーブイに『空手チョップ』!スリープ、ゴースに『念力』!」
「ラッタ、イーブイに『必殺前歯』!ズバット、ゴースに『かみつく』!」

 ゴースとイーブイにそれぞれ効果が抜群な技が襲いかかる。

「(くっ、さすがにこんなにいっぺんに攻撃を受け切れない!)」

 覚悟を決めたその時、少年の前に緑髪の少年が割り込んできた。

「そうはさせるか!ザーフィ、『煙幕』だ!」

 ヒトカゲの黒い煙によって泥棒のポケモン4匹は、動揺して攻撃を外してしまった。

「君は?」
「まあ、俺のことよりも、まずあいつらを何とかしたほうがいいと思うぜ!」
「……そのようだな」

 ヒロトに言われて少年は、二人の泥棒を再度見る。
 泥棒たちも不意打ちから立ち直ったようで、ヒロトを睨んできた。

「くっ、ガキのくせにやってくれる!ラッタ、その生意気なヒトカゲに『必殺前歯』!」
「ザーフィ、『メタルクロー』!」

 鋼のように固い爪がラッタの前歯と激突する。
 結果はラッタを吹っ飛ばす形に終わった。

「なん……だと!」
「一気に行くぞ!出ろ、シオン、『電気ショック』! ザーフィ、『火の粉』だ!」
「なら俺も……ゴース、『サイコウェーブ』!イーブイ、『シャドーボール』!」

 ヒロトのヒトカゲの勢いそのままにすべての攻撃が泥棒たちの攻撃にヒットした。
 瞬く間に泥棒たちのポケモンはダウンしてしまった。

「バカな!?こいつら強いぞ!」
「くっ、逃げるぞ!」
「逃がさない!ゴース、『催眠術』!」

 自転車で逃走しようとする二人だが、彼らは黒いまなざしにかかっていることを忘れていた。
 そして、追い打ちといわんばかりに催眠術をかけて二人を眠りへと誘った。

「やったな!」
「ああ!」

 二人はポケモンたちを戻して、ハイタッチを交わしたのだった。



「お前強いな!」

 ジュンサーさんから感謝状がもらったヒロトたちは、フールタウンのポケモンセンターにいた。

「いやそうでもないさ。それよりイーブイやゴースがあんな技を覚えるのはびっくりしたよ。……あ!自己紹介がまだだったね。俺の名前はヒロト!よろしく!」
「俺の名前はトキオだ!こちらこそよろしくな!」

 共闘をした二人は、意気投合したようで、自己紹介を交わした。

「ヒロトもノースト大会に出るのか?」
「ああ、出るよ。今バッジ1個なんだ」
「俺もこの前、ジョウチュシティのバッチをゲットしたんだ」
「ほんとに!?じゃあ大会で当たることになるかもな」
「ヒロトはこれからどこに行くんだ?」
「これを見てくれよ」
「これは、ポケナビ?それがどうし……!……壊れているのか」

 液晶ディスプレイが割れて、ボタンとかも砕けているため、全く起動しないのである。

「本当はライズタウンからジョウチュシティに行くつもりだったのにフールタウンに来てしまったんだよ。途中でポケナビが故障したせいでここがどの位置にあるかもわからないし……」
「…………」

 ふと、トキオは思った。

「(一体、どうやったらジョウチュシティとフールタウンを間違えるんだよっ!)」

 実はヒロトの目的地としていたジョウチュシティは、ツバキの森を“東”へ行くのである。
 対する今ヒロトのいるこの場所は、ツバキの森を“北”へ進めばよい。

「(こいつ、とんでもない方向音痴だな。もしくはただのバカか?)」
「そういうわけで、このポケナビを直したいんだ。直せる場所知らないか?」
「んー……それなら、この北にある町、オートンシティに行けば直せるところがあるらしいよ」
「ほんとに?教えてくれてありがとう!」

 ヒロトは回復してもらったポケモンたちを持ってオートンシティへ向かおうととした。
 だが、トキオに首根っこをつかまれる。

「待て!お前1人で行くのか?」
「……? そうだけど……なんで?」
「俺もいっしょに行くぜ!」
「え!俺1人で十分だよ」
「そんなこと言うなって!ジムはそのオートンシティにもあるんだ。それにいっしょに旅をしたほうが楽しいだろ!それにお前が無事にいけるかどうかも心配だし……ともかくいっしょに行くぞ!」
「ん……まあいいか。それじゃ、いっしょに行こう!よろしく、トキオ!」



 オートントンネル。
 そこは、簡単に説明するとフールタウンとオートンシティをつなぐトンネルのことである。
 実は、この2つの町を行き来するルートがトンネルと山越えの2つ存在する。
 そのうちの一つが、現在ヒロトとトキオが通っているルートである。
 そして、もう一つのルートというのが、とてつもなく強力な野生のポケモンが生息し、また伝説レベルのポケモンがお目にかかれるといわれている。
 それに加えて、霧が濃く、急斜面など、体力的にも精神的にもトップクラスのトレーナーしか立ち入ることができないといわれている。

 ヒロトは何も言われなければ、山のほうを進んでとんでもないことになっていただろう。
 トキオはそれを事前に知っていて、しっかりとトンネルのほうのルートを選択したのである。

「ああ!だからそっちじゃないって!」
「こっちにも道はあるじゃないか!」
「そっちは行き止まりだ!」
「げ!本当だ!」

 そんなヒロトは、正しい道を示すトキオの反対方向を行っては、戻るを繰り返した。
 そんなやり取りを何度も何度も繰り返し、彼らはオートントンネルを抜けた。
 その後、道路を歩き、数日で2人はオートンシティに辿り着いたのだった。



 第一幕 Wide World Storys
 運命の始まるノースト地方④ ―――グラサン少年のトキオ――― 終わり





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Last-modified: 2014-12-26 (金) 10:11:10
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