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たった一つの行路 №003

/たった一つの行路 №003

「はぁはぁ、ふう……わぁー……でかいなぁ」

 ジムの玄関にやってきたヒロト。
 彼が息を切らせているのは、ジム戦を早くやりたいために、走ってきたのだ。

「よし!初めてのジム戦……絶対負けないぞー!」

 ジムの中に入るとそこにはバトルフィールドがなかった。

「へ?ここって……ジム……だよな?」

 彼の目の前に広がるのは、一面に広がる畑だった。
 入った部屋には、色々な野菜が栽培されていた。

「おいしそうだなぁ~……そう言えば、今日の朝食で野菜は食べてなかったなぁ」

 ヒロトがトマトに手を出そうとしたその時だ。

「こらー!うちの野菜を盗るな!」

 畑の外から声がした。

「ご、ごめんなさい~!」

 タオルを首に巻いたわりと年をとったおじいさんが出てきた。

「全くここがジムだと分かって泥棒をしていたのか?」
「(あ、やっぱりここがジムでよかったんだ!) ごめんなさい。あまりもトマトがおいしそうだったんで……」
「そうかい!君はこの畑を褒めてくれるのかい!わしはうれしいぞ!」

 畑の野菜を褒められて、おじいさんは気分がよくなった。
 しかし……

「最近はトマトが……そう、そのトマトだ!そのトマトがなぁ……―――」

 ヒロトは延々と一時間、トマトについての講義を聞かされる羽目になったのだった。



 たった一つの行路 №003



 ノースト地方のポケモンリーグに出場するためには、ノースト地方に点在する4つの町を周ってジムリーダーに認めてもらわなければならない。
 4つのジムは、ジムリーダーによってバトルのルールや勝利条件が違うらしい。
 そのジムのひとつが、このライズシティのライズジムなのだが……

「ライズシティが畑の町と呼ばれるのはな―――」

 おじさんの講義はまだ続いていた。
 いい加減ヒロトはうんざりしてきた。

「(俺はジム戦に来たのになぁ。きりがない……) すみません。ここのジムリーダーって誰ですか?」
「……え?ああ、君はジム戦に来たのかい!そんなことなら先に言えばよかったのに」
「…………」

 「先に言うにも、先にそっちが猛烈に喋ってきたんじゃないか」と、ツッコミたかったがそんな気力も起きなかった。

「ジムリーダーはこの僕、ダイチだよ」

 後ろから声がした。

「あなたがジムリーダーですか?じゃあこの人は?」
「僕の祖父です。ちなみにこのジムの審判でもあるのです」
「そうだったんだ……。俺の名前はヒロト!あなたに挑戦に来ました!」
「チャレンジャーか。ジム戦はこれが初めてかい?」
「はい、そうです」
「じゃあ、フィールドに移動しようか」

 そして、ダイチにフィールドへ案内された。

「こ、ここがライズジムのバトルフィールド……」

 案内されたのは、ジムの外だった。
 フィールドはまるで畑のように耕されていてた。
 足場が柔らかいのが特徴だった。

「(ということは、相手は地面タイプかな?シオンじゃちょっと不利かも)」
「ルールはシングルバトルの2対2じゃ!交代はチャレンジャーのみ。両者位置についてくのじゃ!」
「ヒロト君、お互いベストを尽くしましょう!」
「はい!」

「最初は君だ!サボネア!」

 ジムリーダーのダイチは草系のサボネアを出した。
 腕をブンブン振り回して、やる気満々だ。

「(あ、草系なんだ?それなら) ザーフィ、頼むぞ!」

 弱点を突けると分かったヒロトは、セオリーどおりに炎タイプのヒトカゲを出した。

「それでは試合始めじゃ!」
「先手必勝!『火の粉』!」

 ヒトカゲは火の粉を放つが、サボネアはそれをかわした。

「そう簡単には行かないか」
「甘く見ちゃ困るね。サボネア!『ミサイル針』!」

 十数の針がヒトカゲに襲い掛かる。
 慌てた様子でヒトカゲは、ミサイル針を逃げるようにかわした。

「(なんとか動きを封じればいいんだけど……) ザーフィ、近づいて『ひっかく』!」
「そうきたか。サボネア!『ニードルアーム』で迎え撃て!」

 サボネアの腕が光る。
 接近戦で2匹が激突した。

「……っ! ザーフィ!」

 ヒトカゲは力負けして吹っ飛ばされた。

「もう一度『二―ドルアーム』!」

 畳み掛けるようにサボネアが起き上がろうとするヒトカゲに近づく。

「(かわせないなら……!) 『煙幕』!」

 回避できないと悟ったヒロトは、火の粉ではなく煙幕を指示した。
 辺りは黒煙で覆われ、サボネアを錯乱させることができる筈だった。

「サボネア!『すなあらし』!」

 しかし、サボネアの砂嵐によって、煙は吹き飛んでしまった。
 そして、サボネアがニードルアームで近づいてた。

「まだだ!地面を使って砂をかけろ!」

 ヒトカゲは砂をサボネアの目に向かって投げつけた。
 ここの地面のフィールドなら『砂かけ』の技使えるポケモンでなくても砂かけをすることができた。
 目に当たった、サボネアは攻撃を外した。

「よし間合いを取るんだ!」
「サボネア、気を取り直して『ミサイル針』!」
「反撃だ!『火の粉』!」

 ザーフィにかわすのではなく、攻撃の指示を与えた。
 火の粉はミサイル針を完全に出し切る前に押しきって、サボネアにダメージを与えた。

「行けっ!『突進』だ!」
「サボネア!『宿木の種』!」

 しかし、サボネアの宿木の種は、ヒトカゲに当たらず地面に潜り込んでしまった。
 そのままヒトカゲの突進がヒットして、サボネアは気絶した。

「サボネア戦闘不能!ヒトカゲの勝ち!」
「よし。あと一匹!」
「なかなかやるね、ヒロト君。フィールドを利用して来る攻撃は見事だよ。お陰でサボネアが戸惑っている間に押し切られてしまったよ」

 ヒトカゲの火の粉とサボネアのミサイル針では、サボネアの攻撃の方が勝る。
 今回火の粉が勝てたのは、サボネアの技を出すタイミングが遅かったからだった。

「さて、こいつに勝てるかな?行け!サンドパン!」

 トゲトゲの背中を背負ったポケモンが飛び出してきた。

「(サンドパン……昨日戦ったサンドの進化系だったっけ。ということは、地面系か……) ザーフィまだ行けるか?」

 ヒトカゲをチラッと見ると、頷いてきた。

「なら、頼むぞ!」
「二回戦、始めじゃー!」
「(まず、相手の動きを見極めないと) ザーフィ動くなよ」

 サボネアの時とはうって代わって、慎重に攻めようとしていた。

「どうした?来ないのか?ならこっちから行くぞ!『スピードスター』!」
「(遠距離技!?)『火の粉』で迎え撃て!」

 2匹の攻撃がぶつかり合う。
 技の威力は互角だった。
 互いの攻撃が止むと、ヒトカゲがサンドパンに近づいていった。
 遠距離技もあると知ったヒロトは、勝負を焦ったようだった。
 その時、地面から緑色の鞭が出てきてヒトカゲを捕らえた。

「なっ、ザーフィ!?」

 そして、ヒトカゲは苦悶の表情を浮かべ、徐々に体力を吸い取られていった。

「これは、『宿木の種』!?」
「そうさ。その通りだよ。僕はワザと宿木の種を外して地面に埋めたのさ。そして、その種を踏んだヒトカゲは宿木の種の効果を受けたというわけさ」

 サンドパンの爪が襲い掛かる。

「まだだ!『火の粉』で焼き払え!」

 ヒトカゲは火の粉を天井に向けて放ち、僅かな炎で宿木の種を破った。

「よし!サンドパンに『火の粉』だ!」
「そのまま突っ込め!」

 ズドッ!!

 お腹にめり込むように爪が入った。
 そのまま、ヒトカゲは吹っ飛ばされて、ダウンしてしまった。

「っ!!ザーフィ!」
「ヒトカゲ戦闘不能!サンドパンの勝ちじゃ!」

 ヒトカゲの火の粉は当たったが、サンドパンを止めるには至らなかったようだ。

「大丈夫か!?ザーフィ!」

 ヒトカゲに駆け寄り、傷の様子を診てやる。

「ふう。ちょっと、怪我しているけど、大丈夫のようだな」
「さて、これで五分だよ。次はどう来るかな?」
「(まさか、宿木の種をあんなふうに使うなんて。……そして、あのサンドパンに勝つにはどうすれば……)」

 二つのモンスターボールを手にするヒロト。
 一つは電気タイプのシオンことピカチュウ。
 もう一つは草タイプのマッシュことキノココ。

「(タイプから考えて、こいつしかいない!) 行くぞ!マッシュ!」
「相性で来たか。しかし、そう簡単に勝てるとはおもわないことだね」
「それでは試合はじめじゃ!」
「最初は『痺れ粉』だ!」

 相手の動きを鈍らせる痺れ粉。
 少しでも優位にバトルを進めたいヒロトだったが、

「穴を掘ってかわせ!」

 サンドパンは穴を掘ってその穴に入った。
 穴の中に入ってしまっては、痺れ粉も意味がない。

「くっ、マッシュ!下に気をつけろ!」

 しかし、ヒロトの言葉が終わると同時に、サンドパンが新たな穴を作り出してアッパーカットを仕掛けてきた。

「大丈夫かマッシュ?」

 攻撃されて怒っている様子を見ると、まだまだ戦えるようだ。

「サンドパン!もう一回穴を掘る!」
「また下にもぐったな、あいつ……。一か八か……マッシュ!フィールド全体に『キノコの胞子』!」

 キノココは身体を震わして、細かい胞子をフィールドを覆うように散布させた。

「(よし、成功だ!) これでどうだ!出た瞬間に眠ってしまうぜ!」

 実はまだ一度もこの技を出したことがないヒロトだったが、ぶっつけ本番でワザを繰り出すことに成功した。
 運のいいヤツである。

「甘く見ちゃ困るな!サンドパン!飛び出して全力で砂嵐!」
「っ!?」

 サンドパンは、穴から出てすぐに体を回転させて砂嵐をおこした。
 しかも、その威力は、フィールドの外までに及んでいた。
 キノココが必死に繰り出したキノコの胞子は、あっという間に吹き飛んでしまった。
 さらに、マッシュも砂嵐の影響であまり動けなくなった。

「くっ、これじゃ何も見えねぇ。何かいい方法はないのか……!?」

 砂嵐の影響で見えないどころか相手の声も聞こえない状況だった。
 ちなみに相手のサンドパンの特性は『砂隠れ』。
 砂嵐の影響を受けない上に、十二分に力を発揮することができる。

「……そうだ。アレをやってみよう。マッシュ、『―――』だ!」
「何をする気だ?」

 砂嵐の轟音によってダイチはヒロトの指示を聞き取れなかった。

「何をしようとこの砂嵐の前じゃ意味がないよ!」

 しかし、サンドパンの悲鳴が聞こえた後、徐々に砂嵐が弱まって行った。

「どうした!?サンドパン!」

 やがて、砂嵐は止んだ。
 サンドパンには、いくつもの種がくっ付いていて、体力を吸い取られていた。

「宿木の種だと!?」
「今だ!『メガドレイン』!」

 キノココはサンドパンに近づき、体力を吸い取っていく。
 それでもまだ、サンドパンは倒れない。
 一回キノココは体勢を立て直し、再びサンドパンに近づく。

「サンドパン!宿木の種を振り払え!」

 しかし、数個の種は、簡単には離れない。

「決めろ!『頭突き』だ!」

 キノココの頭突きはヒットし、サンドパンはダウンした。

「サンドパン戦闘不能!キノココの勝ち!勝者、ヒロトじゃ!!」



「君にはやられたよ。まさか宿木の種を天井に飛ばして、砂嵐を起こしている中心のサンドパンに当てるなんて。君には何か秘められた才能があるようだな」
「いえ、そんなのありませんよ。ただ必死に食らいついた結果ですよ」
「どちらにしてもこのナチュラルバッジを受け取る資格はあるようだ。これからもがんばりなさい」
「はい!ありがとうございます!」

 ナチュラルバッジを握り締めて、ヒロトはジムを出た。
 いや、出ようとした。

「ヒロトとか言ったの。ほら、うちで取れた野菜じゃ。持って行くのじゃ!」
「え゛、こんなに!?」

 ジムリーダーダイチの祖父に紙袋にいっぱいの野菜を押し付けられたヒロトは、ヨロヨロとポケモンセンターへと戻って行ったのだった。



「次、どこへ行こうか……」
「あら、どこへ行くか迷っているの?」

 その時、ジョーイさんが話しかけてきた。

「ジムがある町に行きたいんですけど……」
「それならジョウチュシティが一番近いわよ。」
「ジョウチュシティ……最大の港町かぁ……どっちの方角だろう?そうだ!ポケナビ……」

 この町からジョウチュシティに行くには、ライズシティの北にあるツバキの森を東に進めばよい。
 ちなみに、ヒカリが向かって行った町でもあったことにヒロトは気づいていなかった。

「よし!そこへ行こう!ジョーイさん、ありがとうございます!」
「どういたしまして。あら、ちょうどあなたのポケモンの回復が終わったわよ」
「ありがとうございます」
「気をつけて行ってらっしゃい」

 ジョーイの天使の微笑みに見送られながら、ヒロトは次の目的地へと歩き出したのだった。



 第一幕 Wide World Storys
 運命の始まるノースト地方③ ―――はじめてのジム戦――― 終わり





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Last-modified: 2014-12-26 (金) 10:05:40
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