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たすきカウンター

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Written by ひぜん



頼んだ、マニューラ。そう告げる主の声とともにボールの中の世界が開ける。
開かれた先の世界は、いつも以上に眩しさと乾いた熱さを伴っていた。
ボールの中から、ここに至るまでの状況は理解している。

「カメックス、ここで力尽きた!! メガシンカを果たしたリザードンを前に、戦況も相性もひっくり返されてしまったぁ!!」

観客を煽るように、テンションの高い実況の声が会場に響き渡る。
ここはポケモンリーグ、準決勝の舞台。
大舞台の上で、私は、私たちは今決勝戦進出をかけて戦っている。
晴れやかな舞台を示すように差し込む光は、黙って浴び続けているには暑すぎて鬱陶しかった。
会場備え付けのスポットライトなんかではない。これは敵方の特性によるもの。
この日差しの下、他の仲間達は一気に崩れていった。
リザードンと私の相性は最悪。だからこそ、ここで断ち切らなければならない。
動き出すのは早かった。
カメックス、戦闘不能。
そう告げられるよりも先に地面を蹴り、次の瞬間にはメガシンカを遂げたリザードンの巨翼を深く切り裂き空より引きずり落とす。
三枚抜きをされたとは言え、無傷ではない。蓄積ダメージは十分であった。
直前の戦闘での勝者を告げようとしたジャッジも、目を見開き刹那の出来事を認識しようとしていた。
勝者を示すフラッグがなびく先で、確かに火炎竜は狩られていた。

「……リッ! リザードン、戦闘不能ッ!」

一瞬の間をおいて、状況を理解した観客たちからの歓声が三百六十度から沸き上がる。
その中で、私は決して黄色い声に胴上げされることもなく、弱まる日差しの中で静かに敵方の六体目を待つ。
メガシンカする程の種を差し置いて最後を任される実力者が、間違いなくいる。
やがて向こうより放られた珍しい灰色のボールより、砂塵をまき散らしながらそいつは派手に登場した。
着地を決めると同時に響き渡る地鳴りはまるでハードマウンテンの噴火のごとし。
今の今まで歓声に包まれていた会場が一瞬にして静まり返り、
代わりに聞こえ始めた砂嵐の荒れ狂う音は崖から突き落とされたような絶望すら感じさせる。
雄叫び一つ上げれば、並大抵のポケモンであれば震えあがるだろうそいつは、私が知っているより一回りも二回りも大きい。
しかしそのような威勢のいい声を上げることもなく、ただ見下ろすのみ。
目と目が合った束の間の時間が長く、反って不気味に感じられた。

こいつを。私はこいつを倒せるのか。

怖くて目を反らしたわけではない。信頼を寄せる主へ確認を取るために。
私の中で、既にやることは決まっていた。
それは、主も同じであった。
互いに頷き、再び敵方へと向き直る。
準決勝。互いにラスト一体という最高潮の展開を迎える中、恐らく勝負がつくのは一瞬。
観客には悪いが、そこに見ごたえなどないだろう。
構わない。私はショーマンではないのだから。会場を盛り上げるための物語を用意する必要などない。
理想の展開とやらを観客に届ける必要などない。私が届けるべき物は勝利であり、届け先は主と仲間達。
私はただ、その時その瞬間を全力でぶつかっていく。外野はその結果を受け入れてくれればそれでいい。
山を動かすこの一手に、すべてを賭けよう。
上腕に雑に巻き付けていたタスキをするり(ほど)きとれば、砂塵の中で忙しなくなびく。
結びなおされることもなく、しかし飛ばされないようにと大事にカギ爪にくるり一回転巻き付けた。

「巻き付けなくていいのか? それがないと戦えないだろう」

挑発するような口調で、しかしながら瞬き一つせず向けられる鋭い眼光はこちらを侮っていないことを物語る。
目前にそびえる山に、隙は無い。

「使い方にも……いろいろあるもんでね」
「道具が謳うような根性論に頼らないのは結構なことで……」

岩盤をまとう巨体を前に、俺の非力な体で持久戦を持ち込むことは到底考えられなかった。

「ストーンエッジ!」

バンギラスのトレーナーの一声とともに、このラストバトルの短いカウントダウンが始まる。
小手調べもクソもない。繰り出されたのは紛う事なき大技、一撃で沈めるつもりらしい。
向けられるは宙を貫いていくタイプの刃。発生し砕かれた岩の刃を、砂塵の勢いにも手伝わせて飛ばしてくる。
数が多いうえ、一つ一つが致命傷を逃れられないサイズを誇っている。
反って、それが救いでもあった。脚と、動体視力には自信がある。
目に入る砂は鬱陶しいが、それでも一つ一つを綺麗にかわしながら山へと接近していく。
私の攻撃手段は物理的な技のみ。だからこそ、そのための訓練は日々こなしてきた。
バトル開始十秒と立たず、バンギラスへの一手を出せるところまでは来た。
問題はここからであった。
決定打。圧倒的に、私からの決定打に欠けているのだ。だが、ないわけではなかった。

「けたぐり!」

バンギラスの最も苦手とする技を、ただ一つだけ私は持っている。
しかしそれは、言葉一つで繰り出せる遠隔技とは全くわけが違う。
この小さな体でバンギラスを手繰り寄せ、脚をかけながら引き倒せ。
そんな馬鹿な話がどこにある。でも。

「やるんだよ……っ」

カギ爪に巻いたタスキを、すぐに相手に結び付けられる輪の形へと変化させる。
一瞬タスキに気を取られた隙を、バンギラスは逃さなかった。
不意に地鳴りがしたと思えば、串刺しにせんばかりの石柱の先端が割れ目より顔を覗かせていたのが瞬時に分かった。
かわそうと地面を蹴った次の瞬間には、先程のストーンエッジとは比にならない刃が背後にそびえていた。
宙を泳いでいる今、私はもはやかわす手段を持たない。隙だらけだ。
だが、宙に飛び出したのは次の一手に迷いがなかったから。
懐に入り込むと同時に、すかさず輪の形を作ったタスキをバンギラスの片腕にかけてやる。綺麗すぎる程に凹凸に食い込んでくれた。
引っ張ればあとはより強く縛られるよう形作ったそれを握りしめ、自身はバンギラスの腹部に壁けりの要領で着地を決める。
そのまま蹴り出すと同時に、あとはタスキを使ってバンギラスを手繰り寄せ、重心が傾いた瞬間を狙う。
そこで勝負をつける寸法だった。

「小賢しい」

一つ、お山が呟いた。
一瞬、状況が理解できなかった。
解けてしまったのかとタスキを見やれば、依然バンギラスの腕に食い込んだまま。
だが、その腕からは先程まではなかった炎が、飛び交う砂ぼこりすら焦がしながら赤黒く燃え上がっている。
ほのおのパンチか。
だが、メラルバの絹で編まれた手織りのタスキは、煉獄にも耐えうる。その程度の熱でボロになる代物ではない。
そしてその短い腕。余計に長いタスキなので距離はおける。そのリーチでは、届かないだろう。
そう思った矢先、背中を冷たい何かに打ち付けてしまう。

「わざと外したんだよ」

背中を打ち付けた犯人。先程かわしたと思ったストーンエッジだった。
意図が分かっていれば、石柱すらも利用して壁けりを使いかわせただろう。
完全に、はめられた。
踏み込んでから、拳が突っ込んでくるまでの一瞬がとても長く感じた。
そこから後の景色は、頭に入ってきていない。
体を砕くのではないかと思うほどの腕力と、溶かすのではないかと思うほどの熱とでみぞおちを打ち抜かれ。
あるものからないものまで吐きだしてしまいそうだった。
背中を押さえつけていたものが不意に感じられなくなり、体はふわり宙に投げ出された。
石柱ごともっていかれたのだろうか。
わあっ、と観客から上がる声だけは驚くほど鮮明に届いた気がする。
誰もが、バンギラスの勝ちを確信しただろう。
実は、私自身もそのひとりであった。
バトルの最初に遡るが、バンギラスの口からでた単語。「根性論」
その言葉を糧にしているわけではない。そもそも私は根性論というものは好きではない。
意識したことなどなかった。今までも、今ですらも。
ただ。主と、仲間と誓った優勝への決意が、私自身の右腕にタスキを絶対に離すなと言い聞かせる。
握りしめた片腕にグンッ、と力がかかる。伸びきったタスキとともに、直接腕に負荷がかかり引き千切れそうだ。
それでも、絶対に離さない。絶対に。
一瞬、腕にかかっていた負荷が軽くなった気がした。そこを逃さなかった。
私の細い腕のどこに、そんな力があったのかも分からない。
私が吹き飛ばされる勢いと、重心が前に傾いた瞬間とが絶妙に重なった。
そこに僅かに残る余力全てを、タスキを握る腕にこめて振りぬいた。
上下左右も分からない方向感覚の中で、確かにバンギラスの身体が宙に投げ出されていたのが分かった。

「っぁあああぁあぁあああぁああ゛あ゛あ゛あ゛」

痛みすらも忘れ、無我夢中でタスキの向こう側のお山を空中に引きずりあげる。
最後頂点より背負い投げ、あるいはちきゅうなげの要領に真下へと投げ込む。
結構な高さがあったんじゃないだろうか。地面に放り込む際に合ったバンギラスの顔は、目を見開いて青ざめていた。
そのまま頭を下にして落下していく様を見送ってやった。



勢いを失いながらも、長い空中遊泳を終え私も不時着をきめた。
周りの音も景色も、痛みすらも分からない。ただただ、辛い。
それでも意識を失わずこらえているのは、まだバトルに決着がついていないと分かっていたから。
ボールに戻る様子がないということは、まだ試合は続いている。もう一度起き上がらなければ。
しかし、すでに限界であった。肘をついて頭を上げるのが精いっぱいだ。
せめて、バンギラスだけでもどうなったのかを知りたい。未だ吹き荒れる砂嵐が、邪魔だ。
その乾いた風に、残りの気力も削がれついに私は力尽きる。
間もなく砂嵐も晴れていき、霞む視界の中で唯一ジャッジの姿をとらえることができた。
遠のく意識の中揚げられていた旗の向きを見届けてから、口角を吊り上げゆっくりと眠りにつく。
主、みんな。決勝へのタスキは繋いだぞ――――



昨日の朝、起きたら突然戦っているシーンのネタだけが脳天を貫いたので、傷が塞がらないうちに勢いで書ききりました。
ここから物語でも発生させようかとも思いましたが、めんどくさかったので肉付けはご自由に…。
クオリティとか忘れて勢いだけで書くのも楽しいですね。ゆえに自己満足極まってます。
淡々とCoolにこなしていくマニューラいいですよね。
執筆期間 11/3 8:30~8:50、20:00~24:00


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Last-modified: 2017-11-13 (月) 21:32:40
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