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せいでんき

/せいでんき

作品執筆者文書き初心者
この作品には官能描写があります。苦手な方はご注意下さい。


本編 


 この世に運命なんてあるのだろうか。
 世間一般では運命的な出逢いがあると聞くが、僕にとってそれは有り得ない。断言する根拠はどこにあるのかって? 答えは単純明快だ。目の前にいるのが僕の運命をことごとく干渉しているのだから。
 背の高い僕に比べたら大してない体長、やたらと大きな耳。長ったらしい尻尾をしており、牡なら尾の先が鋭利に尖っているのだが、牝なので先端部は尖っていない。全身は僕よりも濃い黄色で異なるが、お腹が白いのは僕と同じなので少し嫌気がさす。
「……デンリュウ、どうしてあんたがここにいるの?」
 口を開いたかと思えば、第一声からこれである。決して友好的ではない。それどころか、反発的である。
「それは僕の台詞だよ、ライチュウ」
 目の前にいる相手、ライチュウが敵意剥き出しの眼差しを投げ掛けてきたから、対する僕もぎろっと睨みつけてやる。本来僕はにらみつけるなんて覚えないが、それくらいに虫の居所が悪い。
 僕とライチュウは共に鋭い視線を交わしたまま一歩も動かない。いやこんなものでは動く筈がない。もっと何か火花を飛び散らすような刺激的がなければ微動だにしない。
「……それにしても全身つるつるよね、もふもふだった昔の面影は何処にいったんだか」
「……君なんか華奢だったのにね。今よりもっとすらっとした身体だったのに」
「それは何? あたしが太っているとでも言いたい訳?」
「そういう君は僕が禿げたとでも言いたいの?」
 ライチュウの言葉を引き金に勃発する口論。こうなってしまうと、お互いが飽きるまで罵らないと収拾がつかなくなる。
 ライチュウとの喧嘩は今に始まった訳ではない。今までだってそうしてきた。そして明日も明後日もそのまた先もずっと繰り広げられるだろう。これは終わりなき戦いなのだ。
 何故なら僕の特性は静電気、ライチュウの特性も静電気。これが何を意味するのかはもうお分かりだろう。静電気は同じ電気タイプに遭遇しやすくなる特性である。つまり互いの特性が静電気であれば、出くわす確率は一気に飛躍する。いくら僕が頑張ってライチュウを避けようとも、またライチュウが僕を避けようとしたところではちっともどうにもならない。定められた運命の如く、僕とライチュウは会わざるを得なくなるのだ。それほどにこの特性は強力なのである。要するにどうしてもライチュウと僕は腐れ縁になってしまうのだ。
 現に僕はライチュウがピチューだった頃から知っている。反対にライチュウも僕がメリープだった頃から知っている。だから僕達はお互いを知り尽くしてはいる。彼女がどんな仔であるのかを。例を挙げると、好きな木の実はマゴの実で嫌いな木の実はシーヤの実とかといった具合に。幼馴染みと言えば聞こえは良いが、生憎僕とライチュウはそんなに仲が宜しくない。
 それでも昔はライチュウ、当時はピチューとは大の仲良しだった。毎日飽きずに一緒に遊んだりしていた。ピチューが隣にいるのが当たり前だと思っている時期があった。だけどそんなのは最早“過去の話”に過ぎない。
 拗れた今の関係が築き上げられたきっかけはもうよく覚えていない。気付いたらこんな険悪な関係となっていた。だからといって、ライチュウとの仲を昔のように修復しようとする気は全くない。どうせ仲が悪くても僕にとって不都合は無いのだから。これぐらいが丁度良いのだ、きっと。



 これぐらいが丁度良いって何だ?
 僕は何を言っているのだろうか。これぐらいって――。




 雲ひとつない夜空にはお月様が独りぼっちにぽつんと浮かんでいる。
 見渡す限り、草原が地平線の先までも広がっている。背後を向いても同様に見えるのは草っ原だった。辺りには誰もおらず、気配すらも全然感じなかった。そんな場所に僕はただ独りいた。
 自分が何故此処にいるのかも分からない。此処は自分の知らない土地で、住んでいる所とは遥かに違う光景である。その証拠に、僕が好きなオボンの実の成る木は全く見受けられない。おまけに僕以外のポケモンは一匹すら見受けられず、草が延々と生えているだけの殺風景な風景なんて見覚えがなかった。
 どうして、こんな場所に僕は独りなんだろう。
 見知らぬ土地に、孤独。不安材料が積み重なり僕は怖くなる。誰でもいいから誰かに会いたい。会って、この不安を取り除きたい。
「――デンリュウ」
 この静かな草原の何処かから、僕を呼ぶ声がした。それはどことなく聞き慣れた声であったので、僕は心の片隅で親近感が湧いて少し安心した。
 声の大きさから判断するに決して遠くはなく寧ろ近いぐらいだ。でも見回しても誰もいない。こんな場所に隠れるような所なんて無いのに、僕はなかなか見つけらずにいる。
「でんりゅう」
 今度も同じ声の主から呼ばれる。しかし先程とは違い単に呼ぶのではなく甘く囁きのようであった。そんな声で呼ばれた試し無かったので僕の心はどくんと強く叩かれる。
 一体この声の持ち主は誰なのだろうか。
 そう思った矢先に身体が地面の方へとぎゅっと引きずり込まれる。
 草が生い茂るだけの無味乾燥な光景から一変して目の前に広がるのは、
 ライチュウであった。
 にっこりと微笑んでとても嬉しそうな表情をライチュウはしていた。それに加え、ほんのりと頬が紅く染まっている。何時も僕を嫌らしく見下すような視線とは一変していた。普段は見せたこともないライチュウの姿に、身構えていた僕の心はぐらりと傾いてしまう。
 なんでライチュウがいるんだろう。
 疑問を解消する為に訊ねようとするが、口が上手く開かない。否、喋る事は出来なかった。僕はろくに物も言えない状態となってしまったのだ。何故ならばライチュウがいきなり僕に抱き付いてきて、僕の口を塞いでしまったのだから。
 拒もうとした。手で思いきりライチュウを押して引き剥がそうと頭の中では考えた。しかし、あくまでも考えるだけであって行動に移せなかった。
 何故か身体がびくともしないのだ。自分の身体なのにどうやって動かせばいいのか分からない。僕はライチュウの行為の所為で度忘れをしてしまっていた。
「ふぅ……」
 ライチュウが口を離すと唾液が汚ならしくも糸を引いた。しかし時間が経つにつれ、その糸はぷつりと切れてしまう。それで漸く僕はライチュウとしてしまった事を自覚する。
 嫌悪感、いやそんなものじゃない。全く正反対の感情だ。
 まだ足りない。
 肉体面でも精神面でも満ち足りない。無かった筈の欲求が次第に増大していく。しかし、そうなる事で僕は僕でなくなるような錯覚に襲われる。
 自分という枠からはみ出ないように、一刻も早くライチュウから離れたかった。しかし、身体は依然としてびくともしない。もしかしたら既にライチュウのせいでんきによって、麻痺してしまい身体の自由が奪われているのかもしれない。
「でんりゅう」
 ライチュウがまた僕の事を甘えるかのように呼んでくる。そうしてライチュウの小さな手が僕の頬を撫でる。その感触が揺らいでいる僕の心に踏み入ってくる。
 このとき僕は彼女の手を払い除ければ善かったのかもしれない。そうしたら聞き入れてはいけない声に反応なんかしなかった。
 だけど僕は彼女の手を受け入れると伴にその声に反応してしまった。
「らい、ちゅう……」
 思わず僕も彼女を呼んでしまう。とうとう彼女の甘美な囁きを受け入れてしまった。後に退くのは赦されない。いや、僕の心は彼女に射止められて虜となる。
 せいでんきで造られた偽りの関係。そうだと知っても僕はこの関係にすがりたくなる。
 すがってしまえば、僕は独りじゃなくなるし、僕は彼女とふたりっきりでいられるから。
「デンリュウの、もう元気なんだね」
 くすくす、と笑いつつも恥ずかしそうに横目で僕の下腹部をちらちらと見ている彼女。
 僕は慌てて視線を徐々に下げていき彼女の視線を感じる辺りを見てみると、そこには膨れ上がった愚息があった。
 幼い頃であったなら別に彼女に見られても恥ずかしくはなかっただろう。しかし、成熟した今の僕にとって彼女に見られる事は、顔から火が出そうな勢いだ。
「ご、ごめ――」
 僕は急いで手で覆い隠そうとするものの、彼女の長い尻尾が先に愚息に触れる。隠すのは防がれてしまい、彼女にさらけ出してしまう。
「隠す必要なんかないの。あたしはデンリュウのが見たいな」
 彼女はそう言って、僕の愚息をまじまじと眺めてくる。僕が顔を真っ赤にしていたとしても、熱い視線を注がれている愚息は恥じらう事なく彼女に向かってそそり立つ。
 彼女の尻尾が僕の愚息へと絡み付いた。尻尾に包まれた愚息は息苦しいそうにぴくぴくと動くものの、脱出が出来る様子は全く無かった。そうして尻尾が前後に動き始めて、刺激が愚息から伝わってくる。尻尾に弄ばられる愚息は更に肥大化していく。ほんの少しの間、彼女に弄られただけで愚息はうんときつく膨れ上がっており、今にも先端から何かが零れ落ちてきそうな程である。
「うわあ……」
 時折、彼女は尻尾の拘束を緩めて潜んでいる僕の様子を窺う。そうして驚嘆する。幼い頃とは似つかぬ愚息の姿に、彼女は興味は絶えなかった。
 そんな中、僕は彼女に見られて恥ずかしい反面、密かに興奮を覚えていた。その証拠に呼吸が段々と早くなっていき、胸が高鳴りそわそわとして落ち着かなくなっている。
 彼女は僕の愚息を弄り続ける。愚息の根元から先端まで丹念に扱いて、絶えず湧いてくる僕の欲求を満たそうとする。もしかしたら僕の欲求ではなくて彼女自身のかもしれないが、この際どうでもよかった。
 弄る度に先端部から液体が滲み出てきて彼女の尻尾を汚していく。汚されてる彼女は特には気に掛けないで行為を続けている。彼女の尻尾は月明かりで輝く程に濡れてしまっていた。そのくらいに弄ばれているので、愚息は限界寸前だと悲鳴をあげる。それは僕も同じだった。悦にまみれた声を上げてもなお、彼女に報せる。
「らいちゅう、もうっ、だめぇ」
 そろそろ溢れそうなので止めて貰おうとしても、彼女は僕の言う事を聞いてはくれない。それどころか彼女は僕の要求とは反対に尻尾の動作を加速させていく。刺激と刺激との間隔が短くなり、更に肉体的余裕が摺り削られて無くなっていく。
 なかなか絶頂を迎えようとしない僕を見て彼女は、がまんなんかしなくていいんだよ、と囁いてくる。普段の声とは似つかない艶かしい声色でそう言われてしまったら、僕は緊張の糸を緩めざるを得ない。
 そうしてしまえば、僕が彼女の尻尾に包まれて果てるのは一瞬であった。
「うっ、ぁああっ」
 溢れる。
 愚息がびくびくと脈を打つのに合わせて白濁した液体が噴き出していく。そして彼女の黄色い尻尾にへと掛けてふしだらに汚していく。白い液体は黄色に対して良く映えていた。
 一時の快感を堪能すると、身体に残るのは疲労感だった。終いには気だるさまでもが襲いかかる。
 しかし彼女の行為は僕を絶頂に至らせただけには留まらない。身なりを整える為に、彼女は尻尾に付着した白濁液を舌先でぺろりと舐めていく。それを間近で見ている僕は妙な興奮を覚える。そうすると萎え始めていた愚息は再び固さを取り戻し、彼女に向かってぴんと反り立つ。
「ふふっ、まだしてほしいの? でも今度はあたしにしてほしいな」
 彼女の尻尾に僕の手を絡まれ、誘導された先は彼女の秘部であった。触れた途端に自分の手が濡れたので、彼女の秘部を眺めてみれば僕のと同じ様に液体が滲み出ていた。僕がまだ彼女のにはろくに触れてもいないのにも拘わらずだ。
 幼い頃に彼女の秘部を見ても僕は大した感情は抱かなかった。でもある程度歳を重ねた今は違う。
 指先で弄ってみたい。挙げ句の果ては僕の愚息を――。
 そんな破廉恥な考えが脳裏に過る。いまや僕の性欲は自分自身を支配していた。
 とにかく今は前者を彼女に施してあげよう。慣らさないと彼女のに僕のは入らないから。
 そう思って、今度は彼女に招かれる事無く、自ずから手を彼女の秘部に触れさせる。
 まさにその時だった。僕の手は秘部はおろか、彼女の身体すら触れる事が出来なかった。すうっと幽霊のように彼女は消えていき、僕の視界に映るのは彼女の身体によって押し潰されて萎れた雑草であった。



「うわあっ!」
 悲鳴を上げるとともに跳ね起きる。すると、意識は現実世界へと瞬時に戻った。
 あちらこちらを見回せば、いつもの見慣れた岩壁や天井があった。先程までいた馴染みのない土地ではなく、ちゃんと自分の住み処にいた。その事に、僕はほっと胸を撫で下ろした。
 しかし背中や額には冷や汗が浮かび上がり、地面を湿らせる程に身体から汗が流れ出ていた。まるで悪夢でも見てしまったかのように。
 実際、悪夢同等の夢を僕は見てしまった。現実には起こりうる筈もない矛盾にまみれた夢を。
 あれが夢であって本当に良かったと心から思う。しかし、夢であるのかが疑わしいくらいやけに鮮明に残っている。夢の中で味わった快感が妙に現実的で、今もまだ微かに残っていれば尚更だった。
 それでも唯一現実味が無いのが情事をしていたときのライチュウの挙動だった。普段のライチュウならば、甘えたりして僕を求めはしない。
 ただでさえ僕とライチュウは険悪な仲なのだから、あんな親密な関係になるまで一体どれだけの日々費やせばいいのやら。そう思うと、あの夢は呆れてしまうくらいに無理があり、馬鹿馬鹿しく感じた。
 しかし、それでも動悸がなかなか収まらない。ぜえぜえ、と呼吸を切らしてしまっている。ただ起きただけなのに、心臓の鼓動が普段と比べて早い。
 心の底ではライチュウを相手として性的興奮をしている自分がいた。これは紛れもない事実であった。
「そんな……まさか、あり得ないって」
 あり得ない、そうは言っても誤魔化しようがなかった。現実に、どくんどくんっと頻りに胸を打つ音が耳へと入ってくる。
 それにしても、僕とライチュウがあんな事をしている夢を見てしまうとは思ってもみなかった。一体、どのくらい僕は欲求不満なんだ。
 堪らず僕は頭を抱え込む。そしてあんな忌まわしい夢は早く忘れてくれと念じる。
 しかし、夢での行為は消えるどころかふつふつと断片的ながらも甦る。
 肌と肌とが重なりあい、ライチュウと口を重ね、そうしてライチュウの尻尾に包まれながら果て――。
 覚める直前は自らライチュウに触れようとしていた。挙げ句の果てはライチュウと肉体的関係を考えてた自分もいた。
 欲求不満という言葉で僕はお腹よりも下の辺りに違和感を覚えた。念のために確認してみると、白濁液が散乱しながら地面やら自分の身体に付着してしまっていた。それを見た途端に嫌悪感が僕の心を満たしていく。
「……最悪だ」
 この呟きは、夢に対してでもあり、自分に対してもある。白濁液を出してしまった事に対しても。そして、ほんの僅かでもライチュウが可愛いと思ってしまったの対しても、だ。
 白濁液を辺りに散らした筈なのにも拘わらず、愚息が萎縮する気配は暫くありそうもなかった。



 僕はその後に河へと行って早朝の誰もいない内に、急いで白濁液を洗い流した。
 そして、その帰りがけに朝ごはんを確保しようと木の実が沢山実る森へと赴くと、本日の夢に出てきた黄色いあいつの姿が嫌でも目に入った。
 どうやら既に先客として居たようである。ライチュウの傍らには木の実が山積みにされており、大分前から此処で木の実を取っていたのが窺える。
 よりによってこんな時にライチュウと出くわすとは、僕はつくづく不幸だ。僕としてはあの夢を見た所為か会いたくなかった。普段の時も会いたくないけど今日は格別会いたくない。
 とにかく、ライチュウに気付かれないよう早急に立ち去らなくては。
 そう覚悟を決め、僕が物音を立てずに忍び足でその場を後にしようとした途端に、急にこちらの方をライチュウが向いてきた。そうして、鋭い視線を投げてきた。
 いつの間にかライチュウの視界に入っていたのかもしれない。僕を産んでくれた親の所為にはしたくないが、この時ばかりはかなり目立つ自分の黄色い身体を恨んだ。
 せめて眼が合わないようにしようと、僕は即座に目線をライチュウから逸らした。そして、そそくさと離れようと振り返ってライチュウに背を向ける。一歩、また一歩と慎重に且つ着実に踏み出してライチュウから静かに離れていく。
 このまま逃げられると僕は高を括っていた。しかし、事態はそんな単純に好転してくれなかった。
「デンリュウ!」
 今朝の夢とはかけ離れた何時も通りのきつい口調で呼び止められる。だから思わず僕はびくっと身震いする程に驚いて、後ろへと進めていた足をぴたりと止めてしまった。
 お願いだから逃がして下さい、本当に。
 内心そう思いながら、結局ライチュウに捕まってしまった僕は深い溜め息を吐いて、大人しくライチュウがいる方向へ振り向いた。
「あたしが呼んだだけで溜め息なんていい度胸してるわね」
「って、うわ!」
 振り返ると、ライチュウがいるから思わず肝を潰してしまう。まさか気が付かない内にライチュウが近寄っていたとは不意打ちもいいところである。
 身長差はあるからライチュウの顔との距離はそんなに近くない。だが、身体と身体は至近距離なのでじろりとにらまられるだけでも、僕の心臓には悪い。視線を泳がせたくなるが、そうするとまたライチュウが怒るだろうから、僕は渋々見つめざるを得ない。
「いや、べつにそういう訳じゃなくて、なんて言ったらなあ……」
 必死に都合の良い言い訳を作ろうと試みるものの、なかなか浮かばない。普段の僕ならばいとも簡単に言葉巧みに扱って誤魔化せるのに、今日は上手くいかない。そんな最中で、脳裏では夢での出来事がふつふつと鮮明に再生されているから余計に考えられない。したがって、頭の中の整理がろくにつかないのだ。
「ちゃんとはっきり喋りなさいよ」
「あっ、えっと……」
 ライチュウにうんときつく言われて、僕は身じろぎしてしまい一歩後ずさる。しかしその代わりにライチュウは一歩前へと踏み出してきて、僕とライチュウを隔てる距離は相も変わらずだった。要するに僕は彼女から逃げられずにいる。
 いや、かと言って逃げずに包み隠さずはっきりと喋ったらそれこそ良くない。ライチュウとあんな事をした夢を見たから避けようとしてただなんて、口が裂けても言えない。もし言ったとしたらきっとライチュウに軽蔑な眼差しを送られるに違いない。
 ただいま回答を先延ばしにしている。下手に口を動かしてぼろを出すよりはそうせざるを得ない。そうした方が身の安全が保証される。しかしそれは一時の気休めにしかならない。
 一番楽なのはいつものように口喧嘩まで事を運ぶ事だ。そうすれば話題が逸らせてうやむやに出来る。なのに僕は何故か行動に移せないでいる。
 いつもどんな風に口喧嘩をしていたのだろうか。分からない。つい最近の事なのに幼い頃の記憶の様にちっとも思い出せない。
 あんな夢を見てしまった所為で、ライチュウ相手にどぎまぎしてしまって戸惑っている。毎日欠かさずライチュウと喧嘩する筈のいつもの僕はここにいない。
 じゃあここにいるのは誰なんだ。僕以外の誰かなのだろうか? 身体は紛れもなく自分の物なのに心だけ食い違っているのだろうか?
 試しに、僕はちらりとライチュウの顔を見る。すると、ほんの一瞬だけ心臓が深く鼓動した。どくんっ、と自分でも分かるような大きな鼓動音が身体に響き渡る。
 こんなの自分じゃない。
 あんな反応をしてしまうなんて自分ではない。今日の自分は本当にどうにかしてる。たかが夢ごときに、こんなにも僕の気持ちは掻き乱されている。
「そういえばいつもと比べて顔が赤いようだけど、大丈夫?」
 そう言って、ライチュウは僕の下から見上げては僕の顔色を窺ってくる。心配そうな表情を浮かべながら。
 普段は見せぬライチュウの姿に、僕の心臓はまたもやどきりと高鳴った。なので僕はライチュウと視線を合わさぬよう咄嗟に逸らした。
 いまライチュウと目が合ったら絶対に僕の頬が熱くなって、恥ずかしさで気が動転する。おまけに心臓の鼓動が小刻みになり、血が回り過ぎて倒れそうな気がしてならなかった。
 普段なら僕の体調なんか気にもかけないのに、今日に限って心配するとは。ありがた迷惑もいいとこである。
 いつもこのくらい優しかったら、他の仔達から好意を寄せられているのだろうに。
 そういえば、ライチュウには浮いた話は聞いた試しがない。昔からライチュウを知っているのに、僕は誰が好きなのかすらも耳にした事がない。時折、ライチュウに告白したポケモンがいると聞いたとしても、実際に付き合ってるのは目にしてない。
 じゃあ、どうしてライチュウは僕と話そうとするのか。今日だって、いくら偶然見掛けたとはいってもライチュウが僕の方に来て話しかけなければ何も無かったじゃないか。もしかするとライチュウは――。
 僕の額に何かが置かれ、それに気を取られてしまった。その所為なのか、思考回路は一瞬ぴたりと静止した。お陰で、僕が先程何を考えていたのか分からなくなってしまった。
 僕は目線を上にずらすとおでこにはライチュウの尻尾があった。ライチュウの体長では僕の顔に手が届かないので、代わりに自身の尻尾を僕の額に乗せていたのだ。いくら尻尾が長いとはいっても身体を寄り添わないと僕の額まで届かないようなので、ライチュウは身体を僕の方へと寄せてくっついていた。
 密着されている。肌を通して、ライチュウの温もりが感じられるくらいに。
 その事に気付いた直後、ただでさえ小刻みに動いていた心臓は、拍車をかけるようにどくどくと素早く鼓動し始める。ライチュウにこの心臓音が伝わってしまうのではないかと考えると尚更だ。
 そうしてライチュウは自分の額に手を乗せてみて、僕のおでこと自分のとどちらが熱いか確かめる。彼女は少し首を傾げていたが、比べ終わると僕のおでこから尻尾を離して自分の手も自身の額から下ろした。
「……熱はないようね」
 良かった良かった、と呟きながらほっと胸を撫で下ろして安心するライチュウ。熱が計り終わり、僕が大丈夫だと判断した彼女は僕の身体から離れていく。したがって、感じ取っていたライチュウの温もりは程無くして消え去ってしまう。緊張感で一杯だった僕とは対照的に、ライチュウはそうして何事も無かったかのようにあっけらかんとしていた。それを見てしまった今の僕には耐えられなかった。
 なんだこれ。
 なんの茶番なんだ。
 結局は自分だけが馬鹿みたいに舞い上がっていたのか。
 下手に優しくするくらいなら、いつもみたいに厳しく接して欲しい。そうじゃないと僕に気があるんじゃないかって勘違いしてしまう。
 可笑しいよね。普段の僕ならライチュウ相手に意識なんかする筈ないのに。
 それでも今の僕はたかが彼女相手に気持ちがぐらつく程可笑しくなっている。したがって僕はもう口にせざるを得なかった。彼女を痛め付け、そして突き放す言葉を。今も尚、高鳴っている自分の心に、平穏を取り戻す為に。
「僕が熱なんか出すわけ無いでしょ。それより、君は自分の心配をした方が良いよ」
 折角彼女が心配してくれたのだから、本来ならお礼の言葉を述べるべきだろう。だが、僕はぶっきらぼうに冷たく言い放ってやる。それを聞いた彼女の耳が訝しげにぴくりと動いた。
「……それどういう意味?」
 気分を害されたのか、僕の体調を気にかけていた時の優しい声色と比べて彼女の声色が少し低くなり怒気が混じる。そんな彼女の様子を知りながらも、僕の口は緩むのを覚えず、更にきつくなる。
「余計なお世話って事だよ」
 言い放ってやった。
 その途端に自分の心が抉られたような感覚に襲われたが、今の僕にとっては痛くも痒くもなかった。
 そして、僕の言葉が起爆剤となったのか、流石のライチュウも痺れを切らして怒鳴り散らしてきた。
「――っ、こっちは心配してるっていうのになにその態度は!」
 怒りからなのか彼女の耳や尻尾がぴんと逆立つ。そうして頬っぺたにあるの黄色い電気袋にはばちばちと火花が飛び散るくらいに蓄電されていた。
 そんな風になってまで怒りを露にしている彼女に対して、僕は馬鹿を見ているように白けていた。なので、感情移入もない冷めた返答をするだけだった。
「別に誰も心配してくれなんか言ってないけど」
 これが、彼女の堪忍袋の緒を切る最期の言葉となった。
「……あんたってやつはぁっ!」
 彼女がそう叫んだのと同時に、僕に向かって彼女の手が思い切り振り下ろされた。
 どすっ。
 鈍くて痛々しい音が静寂な森中に響き渡る。そのけたたましい音に反応して、慌ただしくばさばさと翼をはためかせて、羽根を持つ鳥ポケモン達は逃げるように飛び立っていく。
 自分のお腹にはかつて味わった試しが無い激痛が走る。痛みには耐えきれず、僕は背中を丸めながら手でお腹を押さえる。これもライチュウから怒りのこもったきあいパンチをお腹に貰ったからだった。
 運悪く急所に入ったのか、比べ物にならない痛みで全身の力が全く入らない。その所為か、足元がふらついてまともに立てなくなってくる。次第に、僕は手でお腹を抱えながら、地面へ突っ伏して倒れた。口からは血の味が含んだ乾いた咳が出て、
「……ぼくのきもちもかんがえないでよくも」
 意識が遠退く最中には、無意識にそんな捨て台詞がぽつりと溢れ落ちた。しかし全ての言葉を綴る事はなく途中で切れた。何故なら、僕は激しい痛みで悶絶してしまい、僕の意識は現実から離れていってしまったのだから。



 見覚えのある光景が広がっていた。それは辺り一面に広がる草原の景色である。
 いつ見ても本当に殺風景な風景だ。少し違う点と言ったら、前回は夜であったが今回は昼間である事だろうか。太陽の暖かな光が草原全体を照射していた。
 どうやら僕は仰向けになって寝ているらしい。ここに来る前はうつ伏せであったのに。何故だかは知らないし、分かりたくもなかった。
 どうせ結局、この夢では分からない事だらけだからだ。意味も無くこんな所にぽつんと独りにされて、昨日に至ってはライチュウと肌を重ねてしまった。いくら孤独に怯えてしてしまったとはいえ、自分は決してそんなの望んでいない。ましてやライチュウとなんて最も御免だ。あんなまやかしな夢を味わうくらいならば、夜から朝を一瞬で繋いでくれた方がましだ。
 しかし夢なんてものは否応無しに見せられてしまう。自分の意思とは関係無しに内容が勝手に決められ、迫りくる出来事に我が身が翻弄されてしまうのだから。
 だけどどうして僕は再び此処にいるのだろうか。これは今日と同じ夢の延長線なのだろうか。それなら今日はライチュウと交わらない結末へとたどり着けるようにしなければならない。もう昨日の様な嫌悪感に浸る思いはしたくない。
「メリープ」
 そう覚悟を決めると、誰かの声が何処からともなく飛んでくる。取りあえずライチュウの声ではないのは定かであった。しかし聞き覚えのある声だったのも確かであった。その証拠に、僕の心には懐かしさを憶えていた。
 この声って誰だったけ。
 そう心に疑問が宿るものの、瞬時に答えは導き出せなかった。久しく聞いていなかった声に対して、いとも簡単に声の主を思い出せる筈がない。
 思い出せそうで思い出せない。
 ほんの僅かなきっかけさえあれば思い起こせるこの歯痒さを早急に消し去ってしまいたい。だが、思い起こせないのなら出来る訳がなく、僕の心には気持ちの晴れないもやもや感が段々と満たしていく。
「メリープ」
 またもや声が聞こえてきた。だけども、依然として声の持ち主を思い浮かべられずにいる。今回、聞いた時は先程よりも友好的な声色をしており、僕とその仔が単なる知り合いの関係には収まっていないのが判断出来る。
 しかし、この場にはデンリュウである僕しかいないのに、何故か声の持ち主はメリープと呼んでくる。となると、実は声の主と自分とは全くの無関係なのではないかと考えてしまう。だがそれでは、自分の心に残るこの懐かしさと霧がかかってもやもやとした気持ちがあるのは一体全体どうしてなのか。
「ねえ、メリープってば」
 そう言いながら顔を見せてきたのはピチューであった。毎日顔を合わせているライチュウではなく、そのニ進化前の仔であった。
 聞き覚えのある声だと思っていたら、全然知らない仔であった。そう僕は今まで検討違いな勘違いを犯していたのだ。
 僕はピチューには知り合いはいない。だって僕自身もそれなりに歳を重ねて成熟した訳だし、それに合わせて僕の回りも成長してきた。したがって僕の友達は大抵最終進化の姿をしていて、一度も進化してない未進化の仔なんて一匹もいない。
 僕は君なんか知らない、そう言おうと思った途端にある驚くべき事実に気付いた。
 その仔は、目を凝らしてよく見てみると“彼女”であったのだ。
 かつて、僕と仲が良かった頃の幼き彼女である。彼女が年中僕の側にいて、僕も彼女の隣にいた時の姿そのものだった。
 頭の中で霧のようにもやがかかった疑問が段々と晴れていく。そうした中で引っ掛かっている疑問も置かれていた。それはどうして昔の彼女であるピチューが僕を躊躇いもなくメリープと呼ぶのかである。
 僕はもうメリープなんかではない。コットンガードは発動させるのは可能なのだが、綿のような体毛は自分の身体のどこにもない。
 これでも進化する前はふかふかで柔らかな体毛が全身を包んでいた。しかし今となってはそれが嘘だったかの如く、つるつるっとした滑らかな素肌が剥き出しとなっている。
 メリープだった頃の面影なんか殆ど残っていないのだから、メリープと呼ぶなんて間違いにも程がある。
 そう思って、視線をピチューから自分の身体に移してみる。すると、かつてはあったふわふわと綿毛のような体毛がそこにはあった。そんな筈ではないと、自分の手で体毛に触れてみるがふかふかとした手触りがしっかり伝わってくる。明らかに可笑しいので、何か別の物を触っているのではないかと、手をよく見てみる。すると、それは手ではなくて前肢であった。
 本当に、メリープに戻ってる。
 僕は驚きを隠せなかった。前の姿に戻れるなんて考えてもいなかったから。これが変幻自在の夢だから為せる事なのだろうか。
「メリープっ!」
 僕がメリープに退化して動揺しているのも束の間に、いきなりピチューが上に飛び乗ってくる。そうして楽しそうに僕の体毛に埋もれていく。
「やっぱりメリープはふかふかで気持ち良いね!」
 こんなにも穏やかな彼女の笑顔は久々に見た気がした。その様子に僕もつられて笑みが綻ぶ。彼女が僕の身体を使って喜んでいると僕も嬉しくなる。
 そういえば、昔はこんな風にじゃれあっていたんだっけ。
 この夢を通して、幼き頃の記憶がふつふつと蘇っていく。千切れた糸を紡ぐように昔の記憶が今の記憶と繋がっていく。しかし大事な記憶を一つだけ思い出せずにいた。絶対に忘れてはいけないと刻まれている記憶の破片を。
 どうやら僕はそんな大層な欠片を何処かで落としてしまったようだ。それは恐らく僕が成熟するにつれて置き去りにもしてしまったのだろう。
 そのまま忘れ去られて、無かった事にされてしまえば良かった。しかし、僕の身体は突如眩い光に包まれてしまう。見覚えのある光景に、自分の心は段々と締め付けられ苦しくなっていく。
 気が付くと、デンリュウの姿に戻っていた。前肢ではなく手になっていて、綿毛のような体毛は一本も無くなってしまった。
 元の姿に戻れたという僕はちっとも嬉しくなかった。その原因は分からない。。分からないとしても言えるべき事実がひとつあった。
 それは僕の姿を見て、彼女の表情はくしゃりと音を立てたかの如く突然歪んだ事だ。
 ほんの少しはその顔を保っていたが、終いには彼女の瞳からは一粒の涙が伝う。一粒だった涙はやがては数を増やしていき、気がついたら滝のようになって止まる気配は見当たらなくなってしまった。
「こんなのメリープじゃない、ひっく……」
 僕は彼女を慰めようと手を差し伸べようとする。しかし、彼女に触れた途端に勢いよく音を立てながら火花が散った。静電気とは思えぬくらいの威力に僕は咄嗟に手を引っ込めてしまう。
 彼女の涙は止まらない。
 空の雲行きはちっとも怪しくはなく、太陽が眩しく見える程の快晴であった。それにも拘わらず、此処だけに冷たくて無慈悲な雨がぽつぽつと降っていた。
 僕はもう一度彼女に手を貸そうとはしなかった。否、出来なかったと言った方が正しかった。
 これ以上、僕が彼女に何をしても拒絶されるだろうし、僕も我が身が傷つくのが怖かった。
 こんなに側にいるというのに、触れるのすらままならない。まるで僕と彼女には見えない壁で隔てられているようだった。


 ピチュー、僕はね、メリープから進化したんだよ。ほら凄いでしょ。ピチューみたいに二本足で立てるし、ちゃんと手だってある。だからメリープの頃と比べたら、もっと違う遊びも出来るね!


 ――ああ、そうか。
 僕が過去に忘れてきたのって――。



 夢から覚めれば、住み処の見慣れた天井が目に入った。
 昨日と同様に背中からは汗が滲み出ていた。それくらい僕にとっては悪い夢に違いなかった。
 思い出したくもない事を夢の中で再生されるとは考えてもなかった。
 とっくの前に僕はあの記憶を忘却の彼方へと追いやった筈なのに! だから絶対思い出したくもなかったのに!
 苛立ちから、地面に向かって拳を振るう。ずしんっと朝には相応しくない騒がしい地響きがした。思いっきり地面を殴ったから痛みを感じる筈なのに、今の僕にはちっとも伝わなかった。
 昔の僕は彼女が好きだった。彼女の隣で手を繋いで歩きたいと思った時もあった。それくらい、僕は彼女に好意を寄せていた。
 進化して自分の前肢が手となったのには嬉しくて仕方無かった。四足歩行から二足歩行になってますます大好きな彼女に近付けたとも思った。進化して変わったこの姿を見てもらいたい、そう思って僕は彼女の元へと駆け寄り、あの台詞を言った。
 しかし、彼女は進化した僕の姿に恐怖を覚えたのかは知らないけど、聞く耳も持たずに突然泣き出した。
 君なんか私の知っているメリープじゃない、と口にしながら。
 メリープでは四足歩行であった僕が突然モココで二足歩行になるんだ。そりゃ怯えもする。おまけに僕の自慢だったふわふわな体毛は殆ど抜け落ちて首回りと頭ぐらいしか残ってなかった。
 昔の僕は進化するのに囚われて忘れていたのだ。進化したら、出来る事が増えたとしても出来なくなる事もあるというのを。
 彼女がじゃれて僕の体毛に埋もれるのはそのひとつだった。メリープだったからそんな風に彼女と戯れられた。
 だからこそ、メリープじゃないと言われた衝撃から僕は立ち直れなかった。そうして今も、だ。
 あれ以来、僕は彼女から遠ざかるようになった。彼女に意地の悪い言葉をぶつけて無理矢理離れようとしていた。しかし彼女は僕に構ってくる。それでも僕は毒を吐き続ける。その理由として、彼女に怖がられるくらいなら嫌われた方がましだと僕は思ったからだ。
 しかし心の中では彼女から離れたくなかった。ずっと側にいたかった。この手で彼女の手を繋いでみたかった。でも彼女に近づくのは僕のせいでんきが許さない。しかし彼女から遠ざかるのも許されなかった。
 くっついたらはなれる。はなれたらくっつく。
 そうして僕と彼女はどっちつかずな関係を維持してきた。
 彼女と険悪な関係を築きあげたのは他ならぬ僕だった。彼女が僕を嫌った訳じゃない。彼女に悪気はなかったのだ。
 今までずっと忘れていた。いや思い出さないようにしてきた。だから僕は置き去りにしといたのだ。
 だって初恋は実らないと言うし、僕はもう彼女の事は――。
 でも僕にとっての運命的な出逢いは不幸にも彼女だった。
 僕は彼女が離れるのが怖くて、あと一歩が踏み込めない。でも僕が離れると彼女が近づいてくるのに安心してる。
 今ではもう、彼女の手を繋ぐことすら夢のまた夢だ。
 自分の空いている手に視線を落とす。何も掴んでいない手に。この手で掴みたいものは伸ばしたとしてももう届かない。
 僕はもう、遥か遠い昔に落としてきてしまったのだから。
「デンリュウ、気が付いたの?」
 夢の中に出てきた声色とは違うが、聞き覚えのある声に僕は肝を潰す。
 ずかずかと見境なしで僕の寝床へと入ってくるのは予想通り、ライチュウであった。そんなライチュウは山のような木の実を両手を使って落ちないように抱えていた。
「その、昨日は御免なさい。ついむきになって……」
 普段のライチュウと比べたら大分元気がないように思えた。いつもぴんと張っている耳は垂れ下がり、宙へと浮かんでいる筈の尻尾は地面にへと着いていた。僕はこんなに萎縮するライチュウは初めて見た。
「だから、これらの木の実は昨日のお詫び。ちゃんとデンリュウが好きなオボンの実もあるから」
 一旦、ライチュウは抱えていた木の実を脇へと置く。そして数多くある木の実の中からオボンの実を探し出し、掴んで僕へと差し出した。
 ライチュウが自分の好きな木の実がオボンの実だと覚えてくれていて、僕はほんの一瞬だけ内心で喜んだ。しかし、そんな単純に反応した自分に馬鹿馬鹿しくなって興が醒めていく。
 確かに僕はオボンの実が好きだ。それでも結局、彼女が差し出したオボンの実は僕がメリープの頃から好きな木の実だからだ。デンリュウになって好きになった木の実だって幾らかあると言うのに。
 結局、ライチュウが心配なのはデンリュウである現在の僕ではない。彼女は今の僕に過去の僕であるメリープを重ねて心配しているだけなんだ。
 そう思った矢先に今日の夢で見た彼女の笑顔が脳裏に過る。メリープの身体を使って、笑いながら楽しんでいる彼女の姿が。
 だったらどうして、君はデンリュウである僕をいつも飽きずに構うんだ。
 どうせ僕の事なんか何とも思ってないくせに!
 昨日、今日と僕は夢に翻弄されている。ことごとく自分の心をかき乱されている。それは分かっている。だけどあんな夢を見てしまえば、もう限界だ。僕の事なんか好きでもない彼女に付きまとわれるのは。どうせ彼女が好きなのは今の僕であるデンリュウじゃなくて昔の僕であるメリープなんだから。
 こんな関係、自分から断ち切ってやる。二度と修復出来ないくらいに粉々にしてやる。
 過去の自分に対する怒りと嫉妬で、僕は無抵抗であったライチュウに僕は飛び掛かる。いくら僕よりも素早くて身軽なライチュウでも咄嗟に反応出来ずに強引に押し倒されていく。
「きゃあっ!」
 ライチュウの悲鳴が巣穴で五月蝿く反響する。すると耳鳴りのようにずっと響いてくるが、僕は全く気にもかけない。
 よく熟れたオボンの実はライチュウの手を離れ宙へと舞い、やがて地面に着く。着地した衝撃に耐えられずぐちょりと鈍い音を立てて木の実は破裂した。果肉が飛び散り、僕とライチュウに付着はしなかったものの、果汁は地面へと染み込んでいく。
「君って不用心だよね。独りで牡の巣窟にくるんだから。こんな事になるくらい分からないの?」
 僕はライチュウに覆い被さり、身動きが取れないようにした。僕に比べて小さいライチュウの自由を奪い去るなんて容易かった。僕は牡でライチュウは牝、力を振りかざせば圧倒的に僕の方が上であり、ライチュウは下手に出るしかないのだから。
「……だってデンリュウが心配で」
 自分の置かれた立場をちっとも理解出来ずにそれでも尚、ライチュウは僕を気に掛けてくる。
 その態度が煩わしく、僕は面白くなかった。どうせ即答せず言葉に詰まったのは、僕の事なんかどうでも良いのに、無理に上っ面では心配したからなんだ!
「だから自分の心配をしたらどう? 僕が君に何をしようとしてるか少しは考えてみたら?」
 彼女に僕の考えが当てられるものか。今の僕よりも昔の僕が好きな彼女なんかに解ってたまるものか。
 次に僕は自分の身体をライチュウにへと擦り付ける。そうして自身の静電気で直接的にライチュウの身体を麻痺らせて最後の自由までも奪い取る。
「な、んで……」
 これでライチュウは僕からは逃れられない。抗う事すら出来ずにライチュウは僕の行為を受け入れなくてはならないのだ。それがどんなにライチュウを苦しめる行為であったとしても。
「これで僕の事が怖くなったでしょ? だから、さ」
 言葉に詰まり、僕は一旦口の中に溜まっていた固唾を呑んだ。さらっと言ってしまいたいのに口が止まるのは何故だ。
 そんなのはいい、とにかく僕は彼女へ胸に潜む気持ちをぶつけるだけだ。
「二度と僕なんかに構わないでよ、僕を嫌いになってよ。もう嫌なんだ、君と一緒にいるのは。こんな関係を維持するのも疲れたんだよ」
 言い終わった途端にどうしてか胸が苦しくなった。胸を締め付けられる感覚により、僕は息切れを起こす。
 彼女に言い放って清々しい筈なのに、僕の気持ちは依然として晴れないのは何故だ。
 彼女は僕の辛辣な言葉に何も返せないでいた。口は固く閉ざしたままでいたが、彼女の目は僕を見据えていた。
「……だったらどうして、デンリュウは泣いているの?」
「……え?」
 言われて初めて、僕は彼女に涙を落としているのが発覚した。それで漸く僕は涙を流して泣いている事に気が付いた。
 哀しくなんかない筈なのに。そんな気持ちなんか僕にはないのに――。
 そうは思っていても心は正直だった。溢れてくる涙がその証拠だろう。僕は哀しくて泣いている、では一体何に僕は哀しくて泣いているのか。
 そう考えていたら、ぺろりと頬に垂れる涙を拭う感触が僕に伝わる。彼女は舌先で僕の涙を舐め取った後に言う。
「デンリュウは一緒にいたくないって言ったけど、あたしはっ――」
 聞きたくなんかなかった。たとえ僕が望む言葉だとしても、だ。
 もう時間が遅すぎたのだ。今更、僕の行為が綺麗さっぱり清算される訳がないのだから。ならばいっそ、
 悪役になりきってやる。そして彼女との関係なんて跡形もなく崩れ去ってしまえばいい。
 僕は口を彼女の口へと無理矢理重ねて、感触を堪能せずに舌を捩じ込んでやった。無抵抗な彼女の舌先に自分の舌を強引に絡めてやる。彼女が僕のを受け入れようが拒もうがお構い無しに。そして更に、自分のねっとりとした粘着質な唾液を舌で伝わせ彼女の口内へと送り込んでいく。送るとまた舌と舌同士を絡ませ、その際に両者の唾液がかき混ざるようにしていく。
 それを彼女の意思とは無関係に幾度となく行い、ひたすら汚していく。僕が望むがままに彼女を。
 いつしか彼女の瞳も先の僕の瞳同様に潤んでいた。彼女は声を上げて涙を流したいのだろうが、僕が口を支配しているのでそうは出来ないでいる。
 好きでもない牡に犯されているんだ、そりゃあ泣きたくもなるよね。
 彼女に対して非道徳的な行為をしていると思った瞬間に、僕の身勝手な欲望が一層膨れ上がる。合わせて、自分の愚息がむくりと起き始めてくる。
 愚息が反応してしまった事により、最早彼女の口内を貪るのでは物足りないと感じるようになってきた。時折、絡めた舌が静電気でも発生したかのようにびりびりと痺れて気持ち良いのだが、それだけでは満ち足りない。
 所詮は彼女の身体の一部を僕の色で染めたのに過ぎないからだろう。完全に彼女を僕の物にするにはまだまだ序の口に過ぎない。だから、これだけでは僕が満たされる訳がない。
 僕は乱暴に舌で彼女の舌を押し、その反動で口を引き離した。すると唾液が彼女と僕の間に糸を引く。あたかも僕と彼女を繋いでいるように見えたが、煩わしいので僕は手で糸を絶ち切ってやる。
 先程まで口を塞いでいたという事もあってか、彼女の呼吸は忙しく行われていた。はあはあ、と彼女が息を切らしているのが頻りに耳へと入る。興奮しながらそれを聞き、空いた自分の口を今度は彼女の首元へと寄せていく。
 ふう、と試しに彼女の首へと息を吹き掛けてみる。そこは敏感であったのか、それとも単に気色悪かったのかは知らないが、彼女がぴくりと身震いした。今度はぺろっと舌で舐めてみると、彼女は悲鳴にも似たような掠れ声を漏らした。どれも可愛らしい反応に、僕は歯止めが効かない程に抑えられなくなる。
 血が出る程強くはない。しかし、甘噛みくらい弱くはない。丁度、歯形が残るくらいの力を加えながら僕は彼女の首元を噛んだ。次は、愛情を含んだ母乳に飢える赤子のように、僕は彼女の皮膚を夢中で吸っていく。
 その最中、彼女はあんぐりと苦しそうに口を開けていた。しかし、口から声が発する事は一度もなかった。口が開いているのにも拘わらず、それとも声が掠れて出ないのか、彼女は終始無言であった。
 満足したところで、僕の口を首元から遠ざけていく。優越感に浸れる様に上から見下ろしながら、彼女の首筋を眺める。すると歯形とともに紅い跡が刻まれていた。紛れもなく、僕が彼女へとつけた印に違いなかった。彼女が僕に弄ばれたという歴とした証。
 最高であった。彼女に僕の跡をつけてやって。これで彼女が外を歩けば、たちまち他の仔達に噂をされるだろう。僕と彼女が身体を委ね合う程の恋仲にあるって。実際はそんなの微塵もなく、僕の一方的な愛情しかないのにね。
 これで彼女が運命の相手と出逢う事はないだろう。反対に僕もこれ以上牝と付き合う事もないだろう。それが哀しいのか嬉しいのかは分からない。言えるとしたら、僕は今最高に気分が良いという事だけだ。よって、僕は彼女に訊ねてしまう。
「どう? 今の気分は?」
 僕は君から奪ったのだから、恐らく哀しんだり憎んでいたりするだろう。しかし僕が問い掛けてみても、やはり彼女が言葉を綴る事はなかった。先程と同様に瞳に涙を浮かべて黙り込んでいただけだった。僕が彼女の眼を覗いても、反抗の眼差しは見受けられず、あるとしたら恐怖でおののく姿であった。大方、この後自分がどうされるか想像しているのだろう。
 ならば、彼女の瞳に映るその光景を現実へと変えてみせようではないか。
 僕は下腹部を彼女の顔へと近付けていく。そして彼女へ突き付ける。
「……これ、なんだか分かるよね?」
 熱り立つ愚息を見るなり彼女の視線はぴくりと固まった。要するに彼女は釘付けであったのだ。恐らく、小さい頃とは似ても似つかない僕の愚息に驚愕しているのだろう。
 そりゃあ進化して身体が大きくなったのだから、この愚息だって成長する。
 しかし問題は彼女の身体には合わないくらいに大きくなってしまった事だ。僕と彼女の体格差では到底釣り合う筈もない。だけども有難い事に、僕と彼女の種族で性交に及んだとしてもちゃんとタマゴが出来るという噂を耳にした。となると、このまま身を任せて僕と彼女が交尾をしても何ら問題はないのだ。
 僕は彼女の口元に愚息を置いた。そうして彼女に口淫を要求する。
「歯は立てないで、ちゃんと舐めるんだよ。じゃないとどうなるか分かるよね?」
 僕が脅し文句を言ったところで、彼女の口へ愚息を少しずつ押し込んでいく。相変わらず彼女が拒絶する気配はないので滞らずに愚息が彼女の口内へと納まっていく。流石に愚息は全体まで納まらず、取り合えず入れられる所までは無理をしてまでも全部入れる。
「ぅぐっ……」
 すすり泣きをしているような声が聞こえると、愚息の先端部からくすっぐったいような感触が伝わってくる。それは彼女が舌を使って僕の愚息を舐めて発生しているものであった。
 先日の夢では彼女の尻尾で愚息を弄られた。しかし、今回は舌で愚息を舐めて貰っている。尻尾とは違う感覚に、僕は違和感を抱きながらも身体に走る快感を堪能する。
 彼女が一生懸命に僕の愚息を咥え込んでいる姿を見ると、危険な感じがしたのと同時に嫌らしいと思った。彼女に無理に咥えさせて得られた優越感と彼女の艶めかしい姿を見て、増幅した性感が一度に襲いかかる。それで愚息はより固く膨らみ始め、調子に乗って僕は彼女へ追加で指示する。
「先だけじゃなくて、もっと隅々までお願い」
 奴隷みたく僕の言いなりになっている彼女は言葉通りの行動をしてくれた。愚息の先だけでなく四方隅々まで舐める。愚息からは絶えず分泌液が流れており、彼女の唾液と混ざり合っていた。その故に、愚息はぬるぬるするくらい十分湿り気を帯びており、彼女が舐める度に淫靡な音が洞窟内に響き渡る。
 彼女自身、何をやっているのか分からなくなっているだろう。涙で視界がまともに映っている様子はなかった。ただぼんやりと空虚を眺めるように、黙々と僕を満足させるだけ。
 彼女に不快な行為をさせているという背徳感は多少なりともまだある。しかし今の僕にとってはそんなもの二の次、三の次ぐらいだ。端的に言ってしまえば、この快楽を味わってしまえばどうだってよかった。
 自分の目的さえ果たせればいいのだ。これまでの彼女と僕の関係を壊すという確固とした目的を。
 僕が思い描いている理想を考えると、愚息から欲望が溢れだそうになる。彼女が懸命に舐めてくれた事もあり、あともう少しで絶頂を迎えられそうだった。
 顔に掛けるのと、飲ませるのではどちらが満足できるだろうか。本当ならどっちもやってしまいたいが、一発しか出せないのが残念だ。
 そんな事を頭で思っていたら、不意に彼女の舌の動きが止まった。愚息からの刺激がぷつりと途絶え、昂っていた筈の気分もぶつりと途切れてしまう。
 あと少しでいけそうだったのに、まさか寸止めを食らってしまうとは。
 絶頂をお預けされた僕は苛立ちながら彼女の方を直視した。すると今度は、彼女が舌を使って愚息を口から追い出してきた。
 唾液と分泌液にまみれた愚息ははち切れんばかり膨れ上がっていた。しかし、そんな状態となってまでも愚息が爆ぜる事はなかった。外気に曝された愚息は冷やされて、やがてぴくぴくと虚しく脈を打ちながら萎縮し始めていく。
「……くちのなかはやだ」
 ここにきて漸く、彼女は初めて反抗の言葉を口にした。
 彼女の図々しい言葉に対し、自分が置かれている立場も分からずによく言えたものだ、と僕は思った。しかし、無抵抗な彼女をただ犯しているだけよりかも、多少は逆らってくれた方が張り合いがあって面白味があるだろうとも感じた。
「じゃあかけてあげようか?」
 彼女の黄色い頬っぺたに白いものがかかったらさぞかし映えるだろう。おまけに僕の異臭を纏う事にまでなるのだ。彼女の匂いまでもが僕のものに出来るのだ。
「……それもいや」
 だがまたしても彼女は拒んだ。先程まで従順であったのに、こんなにも歯向かうとなると行儀良くする為の躾をしたくなる。強行してやろうか、と思ったが彼女の意見を一先ず訊いてみたいとも思った。
「ふうん、どちらも嫌なんだ。じゃあ何処だったらいいのさ?」
「……」
 しかし今度は返す言葉に困ったのか彼女は黙ってしまった。先程までちゃんと口を開いていたというのに、再び沈黙をする人形へと早変わりだ。
 口内は駄目、体外も駄目となると、僕が他に浮かぶのはあそこしか思い当たらなかった。
「どっちも嫌なら残る場所はひとつしかないけど」
 僕は横目で彼女の秘部を見ながら言う。すると秘部から恥じらう気配もなく愛液がだらしなく垂れていた。それも地面へと滴る程に。僕が一切触れていないのに、彼女の其処はとっくに熟した木の実の如く熟れていたのだ。
 つまり、こういうことだ。嫌々されながらも彼女はしっかり感じていたのだ。態度に嘘はつけても、肉体はやはり正直だ。
 それにしても妙だ。口や身体に白濁液をかけるのは嫌と言うのに、秘部に関しては何も言わないとは。
 僕は彼女が何を考えているのか分からない。反対に彼女も僕が何を考えているのか分からないだろう。こんなにも近くにいるというのに僕達は意志疎通だ。それでも分かる事は僕達の関係がせいでんきで保たれているくらいだ。僕がせいでんきで麻痺をさせなければ今すぐにでも彼女は逃げ出すであろう。
 とにかく僕は手を彼女の秘部へと添えていく。手の先を蜜壺へと突っ込んでいく。愛液が潤滑油の代わりとなって、蜜壺がすんなりと僕の手先を飲み込んでいく。
 夢の中では彼女のには触れられなかった。あの彼女は僕が生み出したまやかし物であったが故に、触れる前に彼女が消えてしまった。しかし夢でなく現実である今はこうして存分に弄られる。
 夢の中で触れなかった分を埋め合わせる為に、僕は無我夢中で彼女の蜜壺をかき混ぜる。手先を何度も出し入れさせて、蜜壺から愛液を吐き出させる。まるで身体がゴーストタイプに取り憑かれたかの様に、彼女の蜜壺を弄くるのに虜となっていた。
「うあっ、あっ……」
 ろくに抵抗する姿も見せないで、僕が与える刺激を快楽として受け入れる彼女。自重する事もなく艶やかな喘ぎ声を漏らす。彼女の吐息は熱を帯びており、それが空気中を漂った後に僕の皮膚へと掛かる。
 僕が手先を入れたり出したりする度に蜜壺から水音が鳴る。それと彼女の嬌声が僕の耳を占め、感情が昂り始めて愚息は熱を取り戻していく。
 彼女の乱れた姿を見て、僕の鼻息も荒くなっていく。終いには口呼吸へと移り、彼女同様な吐息を漏らしていく。洞窟内はすっかり様々な音で入り乱れていた。
 彼女を前戯だけで済ませるつもりはなかった。僕を寸止めで終わらせたように彼女も寸前で止めるつもりだ。
 だから僕は手の動きを素早くして、刺激と刺激との間隔を短くしていく。彼女は堪らずに、
「あっ、やっ、うんっ……」
 先程よりも悦のこもった嬌声をあげていく。彼女の絶頂が近いと僕は悟った途端に、ぴたりと手を静止させた。
 中途半端に事を終えてしまった為か、彼女は物足りないような、切なさそうな目で僕を見る。しかし、僕は彼女に何もしないという生殺しを与えてやる。これも彼女が先程僕を中途半端に刺激した報復だ。
 僕の手はすっかり愛液でぐしょぐしょに濡れてしまった。それほど、彼女は僕の手に快感を覚えていたのだ。
「なにしてほしいのかな、つぎは?」
 僕は意地の悪い笑みを彼女へ見せた。僕の質問に彼女は何か伝えたそうに口をぱくぱくと動かしてはいたが、声にはならなかった。口にする事もままならなかった彼女は誤魔化そうと視線を僕から逸らした。
 しかし僕は彼女の眼の動きを見逃さなかった。僕から目を逸らす時に一瞬だけ愚息を見ていたのを。口には出来ないのに、彼女は無意識の内に僕へ伝えているのだ。
「これがほしいんじゃないの? ねえ?」
 そう言って、僕は彼女が欲しがっているものを蜜壺へと宛がう。あと少しで彼女の蜜壺に僕の愚息が沈められるにも拘わらず、彼女は抵抗の言葉を口にしない。自由が利いている筈の口は頑なに閉ざされている。
 それもその筈だった。何故なら彼女の眼はすっかり飢えたように愚息を捉えていたからだ。
 対する僕も蜜壺に眼が眩んでいる。未だ嘗て味わった事もない牝の味、それもよりによってずっと夢見てた彼女の味となると楽しみで仕方なかった。
 しかし、今頃になって悪に染まりきれなかった僕の心が訴えてくる。
 本当にこれで良いのか。
 流石にこれ以上は度が過ぎると自分でも感じた。静電気の所為もあって、不可抗力ながらも僕と彼女は普段から一緒にいる。そんな彼女が他の牡と身体を重ねる機会なんて皆無と言った方が良い。
 となると、僕が彼女の初めて、純潔を奪い去って汚す羽目になる。彼女が別の牡との経験があったら躊躇いもなく僕は突っ込むだろうが、初めてとなると話は大きく変わる。
「……いやならいやっていってよ」
 最後に残された良心を使って、僕は彼女に呟いた。しかし彼女からの返答は無かった。やはりここまで情事を行ってしまった所為なのか、彼女は我が身よりも快楽が優先なのだろう。
 僕が恋焦がれていた彼女は単なる牝となってしまった。牡にされるがままに快楽を味わおうとする貪欲な牝に。今の彼女にとって、僕なんか快感を与えてくれる都合の良い牡にしか映っていないのだろう。
 何もかも僕の責任だ。彼女を自分の思うように動かした当然の報いだ。
 報いを受けるなら、自分の彼女に対する身勝手な感情なんて拭い去ってしまえばいい。だって僕は彼女に冷たくするって腹を括ったんだ。
 意を決し、僕は下腹部の辺りに視線を移した。やはり僕の愚息は大きく、彼女の蜜壺は小さく映っていた。愚息の先端部分でも入れば、御の字と言えそうである。それくらいに彼女の蜜壺と僕の愚息は不釣り合いだった。しかし僕は気にせず彼女の蜜壺へと愚息を埋めていく。未開の地である彼女の蜜壺は僕の愚息の浸入を拒もうとしてくる。牡を知らない彼女の肉壁が締め付けてきて、これ以上は入らせまいと頑なに拒んでくる。彼女の愛液や僕の分泌物で潤滑に事を運べる筈なのに、なかなか思うように上手くいかない。
「いっ、たい、よぉっ……」
 蜜壺を開拓されていく痛みで、彼女が身体が震わせると同時に悲鳴を上げる。それを耳にしている僕も心が痛くなるが、直ぐに取り除いていく。余計な感情なんて持っていても重荷となるから不必要だ。
 それでも彼女の負担を掛けないようにゆっくりと愚息を沈めていく。あくまでも彼女に対する心配なんかではない。後々直ぐに彼女が疲れきってばててしまっては困るからだ。その為の配慮であり彼女の為ではない。頭ではそうやって言い聞かせていても、彼女の苦痛な表情を見る毎に背中からは頻りに冷や汗が流れていく。
 沈めても沈めても彼女の最奥まで届かない。一体何時になったら終えられるのか。
 ばくばくと鳴っている自分の鼓動音。怯え、焦っているのが自分でもよく分かる。動悸に混じって別の感情が滲んでいる。
 いっそ、一思いに愚息を突っ込んでしまおうか。何もかもを掻き消す為に。
 そんな事を考えていたら、僕の皮膚が彼女の皮膚へと重なった。あった筈の愚息は彼女の中へと飲み込まれていた。つまり、やっとの思いで僕は彼女の中に入り込む事が出来たのだ。
 愚息を沈めただけなのに、もう僕と彼女の呼吸は乱れていた。これまでやってきた行為の中で一番の疲労感が襲う。肉体的にも、精神的にも。
 彼女が炎タイプではないにも拘わらず、中はとても熱かった。肉壁が僕をぎゅっと捕えて離そうとはしない。これでは愚息を動かすのも容易ではない。
 僕は一旦試しに愚息を引いてみる。彼女が力んでいるのと身体が慣れていない所為もあって思うように動かない。それでも、肉壁と愚息が互いに擦れあって刺激をもたらす。その刺激がとても心地好くて、僕の性欲を増幅させる。
 もう一度、彼女の奥まで愚息を入れていく。快い感覚が伝わるのとともに、肉と肉とが触れあう。そうしてまた、彼女の最奥から愚息を離していく。牝との経験が無い僕は拙いながらも営みを進めていく。
「う、あっ、いっ……」
 依然として彼女の喘ぎ声は響いていたが、僕は知らぬ顔をした。それがどんなに悲痛の叫びであろうとも。
 どうせ彼女が僕を憶えてしまったら、快楽へと変わるんだ。気にする必要なんかない。
 この情事に紛れて、僕は彼女に隠していた自分の思いを告げる事にした。その言葉を聞いて、彼女がどんな反応をするのか密かに楽しみにしながら。それが僕と彼女を戸惑わせる事になったとしても。
「僕は昔から君が好きだったよ、ライチュウ」
 突然の告白に驚いたのか、彼女の耳がぴくりと動いた。それを見て僕は多少乱暴に腰を動かした。力任せに愚息を沈ませる。そしたら彼女は口をあんぐりと開けながら喘ぐ。彼女が痛みを訴えるのは好都合だった。僕は彼女に余計な言葉を喋らせたくなかった。彼女が話したらきっと僕の口が止まってしまうから。
 そしてまだ僕の口は減らない。僕は彼女に伝えたい事が山程あった。
「でもね、そんな君は過去の僕が好きで堪らないんだよね。それが憎たらしくて今こうして僕は犯してるんだよ」
 彼女が何か言いたげな顔をしたが、またしても僕は勢いに乗って愚息を動かす。そうすると、今度は喘ぎ声というよりは嬌声に近い声が聞こえてきた。口が開きっぱなしの所為で涎が滴り、更に肉と肉同士がぶつかりあう音が聞こえてくる。此処が穴蔵という事もあり反響して、嫌でも耳へと入る。僕と彼女によって淫らな響きが奏でられている。
「僕のが君のに入ったまま果てたらどうなるか分かるよね? きっと君の小さな身体じゃ、僕ので直ぐに満たされちゃうよね」
 僕と彼女の体格差は大きく、この差は容易に埋められない。いくら僕と彼女で交尾が出来てるとは言っても、その差は反映される。彼女が僕のに注がれれば、簡単に満たされる。もしもそうなったとしたら、考えられるのは、
「多分、君は孕んじゃうよね。今日一番だし、きっと濃いのが沢山出るよ」
 彼女が孕む、すなわち彼女が妊娠する事だ。そうすれば、お腹の中にはタマゴが出来、世間一般では彼女は僕の伴侶となるのだ。
 そしてまだ僕は一度も絶頂を迎えていない。僕のはまだまだ沢山蓄えられているのだ。僕の欲望全てを彼女に注いでしまえば、彼女が妊娠するのだなんて容易い。
 一心不乱に彼女へ愚息を出したり入れたりを繰り返す。その都度、分泌液と愛液がぐちゅぐちゅとかき混ぜられる。最早、どちらがどちらと区別をつけて呼べないくらいに。
「さっき、君が僕を果てさせなかったのがいけないんだ。そうしていれば、量も少なくて、孕む可能性も低くて済んだのにね」
 絶頂の回数を重ねる毎に僕の白濁液の量は少なくなり、勢いも衰えていく。したがって、先程彼女が嫌でも僕のを飲んだり、身体に掛けられたりしていれば、妊娠する確率は減らせただろう。
 なのに、彼女は拒絶した。それが僕の胸に引っ掛かっている疑問でもある。しかし、この際疑問なんて頭の片隅に置いてしまえ。僕は彼女ではないし、考えても答えなんて導き出せないのだから。
 僕も彼女も汗ばんでいる。いくら愚息を前後に動かすだけの単調な運動だとしても、身体はすっかり熱を持っていた。過剰に温められた身体を冷やそうと汗が滴るものの、相も変わらず火照ったままだ。
「……ごめん、ライチュウ。相手が昔の僕じゃなくて。僕は側にいるのが君じゃないと嫌なんだ」
 純粋無垢な昔の僕であったら彼女はまだ嬉しかったに違いない。彼女に見向きもされない今の僕は自分が自己中心的であると認識してる。そうでないと彼女を僕のものにしようとだなんて企てない。自分が彼女の隣にいる為の理由作りなんてしない。こうやって無理矢理に彼女を犯したりなんかしない。
 僕は一刻も早く、静電気から解かれたかった。静電気ではない関係となりたかった。こんな彼女の了解無しで性行為に及ぶという非道な手段を使ってでも。
 これまでの刺激が積み重なって、もうそろそろ僕の愚息は限界を迎えそうだった。絶頂に到達する為に、僕は思い切り愚息の速度を上げていく。そうして淫らに乱れて彼女を突くのを何度も繰り返す。
「ライチュウ、ライチュウっ、らいちゅうっ……!」
 僕はひたすら彼女を呼びながら、幾度も自分の肉を彼女の肉へとぶつける。衝動的にそうせずにはいられなかった。あと少しで僕の想いが彼女へと注ぎこまれるのだから。
「ふあっ、デンリュウ、でんりゅう……」
 すると彼女がコッペパンのような手を僕の身体へと沿えてきた。そしてうわ言のように呼んで、僕を必死に求めてくる。
 彼女は静電気で麻痺して動けない筈だった。それなのに彼女の手は僕を捉えている。僕は彼女が動ける事に不思議で仕方なかった。
 そう思っても直ぐに快感によって上書きされてしまう。頭の中は快楽を迎えるので一杯になっていく。
 そして最後に大きく腰を動かして、そのまま勢いに任せて蜜壺の底を愚息で突いた。
「あっ、ぁああっ!」
「くぅ、ああっ!」
 刹那に、全身へと快感が駆け巡った。そしてその直後に愚息から白濁液が勢い良く噴出した。その後も愚息はびゅくびゅくと脈を打ちつつも、白濁液を放出し続ける。
 僅か一瞬にして、彼女の蜜壺が白濁液で一杯となる。彼女の蜜壺がまだ愚息を飲み込んでいるのに、行き場を失ってしまった白濁液は彼女の蜜壺から溢れ出ていく。
 果汁の次は白濁液が地面へと徐々に染み込む。果汁のように甘い臭いではなく、独特な異臭を放ちながらも。
 汗が滝のように流れて止まらなかった。額から幾度となく汗が滴る。汗はひくのを知らない。彼女も僕と同様であった。
 僕は彼女の蜜壺から愚息を引き抜いた。すると、愚息を抜かない時よりも多くの白濁液が溢れ始める。どろどろとした白濁液はゆっくりと彼女の皮膚を汚しながら地面に垂れる。
 僕は愚息を眺めた。案の上、愚息は白濁液を纏っていた。先端部から白濁液がどろりと溢れ始めていく。この間夢精をした時と同じ様に、愚息はまだ硬さがあって萎縮しようとはしない。
 まだ足りなかった。
 だけど僕は、肉体的な快感ではなくて精神的な安らぎが欲しかった。身体は快いと感じても、心が満たされないのでは意味がない。
 もう一度、彼女へと愚息を沈めた所で何も変わらないだろう。それどころか反って虚しさが残るだけに違いない。
 これまで彼女を犯してきた勢いは消え失せ、反対に僕は何も出来ずにいた。そんな最中に彼女は、
「おなかのなかがでんりゅうので……」
 と言って自身の腹を優しく擦った。僕に何もかもが奪われたのに、何故か彼女は恍惚な表情を浮かべていた。
 そんな彼女を見るなり、僕は無性に苛立った。彼女の反応が納得出来なかったからだ。
「いやだって思わないの? だって僕は君を滅茶苦茶にしたんだよ?」
 そう、僕は彼女に赦されぬ行為を施した。首筋には紅く腫れた痕をつけ、口は愚息を咥えさせた。そして今も尚、情事の残骸が彼女の蜜壺から滴っている。僕は自分のしたいがままに彼女を弄んだのだ。彼女には散々な目に遭わせて、悦ばせるような事は微塵もしてない。寧ろ僕は彼女に恨まれる行いを施した。
 すると彼女と視線が合った。僕は咄嗟に視線を逸らそうとするが、彼女の手ががっちりと僕を掴んで放さない。逃げる僕にちゃんと自分の姿が見据えられるように彼女は捕えてくる。
「あのとき、あたしが言おうとした言葉分かる?」
 彼女の問い掛けに僕は答えられなかった。というより一言も答えたくなかった。
 僕は彼女の気持ちなんて知る由もないし知りたくもなかった。どうせ、彼女が僕に言いたい事は分かりきっているのだから。
 デンリュウなんか大嫌い。
 しかしこれを自分で口にするのは憚れた。いくら頭で分かりきっているとは言えども、その言葉を自分の耳には入れたくなかった。
 彼女の表情は強張らないし崩れない。それどころか、彼女は頬をほのかに染めてはにかむ。勿体振るように口を開こうとしては、一旦閉じて一呼吸を入れる。そして遂に彼女が口を開いた。
「……あたしもね、好きだったの。同じ事を考えてた」
 ――好きだった。
 彼女が口にした言葉は僕の予想を遥かに上回るものだった。思わず、幻聴を耳にしたのかと疑ってしまう程に。
 僕はその言葉に一瞬だけ喜んだ。しかし、直ぐにそんな虫のいい話なんて無いと自分へ投げ掛けた。そうでもしないと僕は歓びで有頂天になってしまいそうであったから。
 自分に向かって呟いた事により、徐々に僕の気分は頂点から底辺へと沈んでいく。そして頭には負の思考回路で張り巡らされる。
 彼女は嘘を吐いているんだ。きっとそうだ。現に行為の真っ只中、彼女は涙を浮かべていたじゃないか。それって、僕が嫌いっていう動かぬ証拠じゃないか。
「でも君は泣くほど嫌がってたじゃないか」
「それはデンリュウが少し乱暴だったから。でも、あたしは嬉しかったんだよ?」
 犯されて悦ぶ牝なんているのだろうか。彼女が嬉しがっていた素振りなんて少しも見受けられなかったじゃないか。
 僕の心は彼女に対する疑心暗鬼で満ちていく。最終的には不信まで陥る。
 結局、彼女は僕が怖くて無理に繕っているのだ。僕に暴力を振られるのが嫌なだけだ。
 あるいは、どうせ僕の愚息と彼女の蜜壺が擦れあって身体に伝わる物が気持ち良くて嬉しかったんだろう。きっとそうだ、それに違いないんだ。
 僕がそうやって反論しようとした矢先に、
「デンリュウはあたしが昔のメリープが好きだって思い込んでいたけど、あたしもデンリュウが昔のピチューが好きなんじゃないかって考えてた」
「え?」
 聞き捨てならない彼女の言葉に、僕は驚いてしまって自分の物とは思えない調子の外れた声が漏れた。
 彼女が僕と同じ境遇に悩まされていただなんて考えてもみなかった。
「でも違かった。デンリュウはちゃんとあたしを見てくれた。その証拠に、さっきずっとあたしの事を呼んでくれたよね」
「それは……」
 その後に続く言葉が僕は思い浮かばず、口に出来なかった。要するに僕は否定出来なかったのだ。
 確かに僕は喉から手が出るくらいに彼女を欲しがっていた。今までのくっついたり離れたりするどっち付かずな関係を壊してしまいたかった。
 しかし、何もかもが自分の都合良く好転し過ぎている。全てが上手く行き過ぎてる。
 このまま幸せな結末で終わってしまったら、僕は自分自身が赦せなくなる。
「だからって、僕が犯した罪は笑って済まさないよ」
 そうさ、僕は彼女の了承もなしに姦淫したんだ。彼女に怯えられたし、泣かしもした。彼女に好かれる理由なんてこれぽっちもない下衆野郎なんだ。
 僕は彼女になんか相応しくない。
 彼女の手を自分の身体から除けようとした。しかし彼女は僕を掴んで離そうとはしない。それも彼女は手に力を一杯に込めながら。
「あたしだって昔の貴方に酷い事を言って傷付けた……。あたしも立派な罪を抱えているのよ」
 あたしがいけなかった。あたしがあんな事を言ったから、デンリュウを狂わせたんだってずっと悩んでた。謝りたくても、いつもつまらない意地を張ってしまう。口喧嘩の際に昔の貴方と比較してしまう。だからさっきみたいにデンリュウに乱暴にされても可笑しくなかった。
 彼女は吐露を終えると、一旦深呼吸をする。そしてまた、口が開かれる。
「ずっと前から言いたかったけど、やっと今言えるね。……進化した貴方にあんな悪口を言って、ごめんなさい」
 彼女の言葉によって、僕の中で長い間突き刺さっていた物が取り除かれた。僕の中で押さえ付けられていた感情が自由を取り戻す。
 信じて良いのだろうか、君が僕を好きだって。そして赦させるのだろうか、僕が君を好きな事を。
「……僕もさっき君に酷い事して悪かった。取り返しがつかないくらいの事を君にしてしまった。赦して欲しいなんかは言わない。君が思うがままに僕を罰して欲しい」
「あたしがする権利なんて……」
「良いんだ。そうじゃないと僕が自分を赦せなくなるから」
「それじゃあ――」
 途端に僕は彼女に手で押されて、辺りの景色がぐらいと傾く。気付けば見慣れたいつもの天井が目についた。
「今度はあたしがデンリュウを犯す番ね。そしたらおあいこになるでしょ?」
 そうしてひょっこり顔を出す彼女。彼女の表情は何だか愉しげな笑みを浮かべていた。
 彼女が笑うのは久方ぶりに見たような気がした。それどころか、彼女が進化してからは初めて見たような気さえした。それくらいに、以前の僕達は怒鳴り合って、互いを隔てていたのだろう。
 でも、もう違う。僕と彼女との間なんてもう無いんだ。
「ライチュウの手、握っていい?」
「――うん、いいよ」
 そうでないと、こうして彼女と触れ合えない。
 コッペパンの様な彼女のぷにぷにとした柔らかい手。僕は生まれて初めて彼女の手を握った。幼い頃から夢を見ていたのが長年に渡って遂に達成された。
「僕ね、メリープだった時は君の手が握りたくて堪らなかったんだ。ほら、メリープの時は手じゃなくて脚だったから」
 彼女の手を握って伝わる感触が僕が本当に求めていたものだった。肉体的な繋がりだけではなく、精神的な結び付きまでもが得られ、僕の心を潤していく。
 僕達はせいでんきという名の運命で最初から結ばれていたんだ。ただ以前の僕らはそれに気付けず、呪っていただけなんだ。
 だけども、これからは違う。
 時々、前みたいに僕と彼女は反発してしまう時もあるかもしれない。だけど、せいでんきがあるから僕らは互いにくっ付け合えるんだ。
 今こうして彼女と、手と手を繋ぎ、肌と肌とを重ねてられるのだってさえ、せいでんきのお陰なのだから――。




 あれから幾ばくか月日は経った。
 見慣れた風景の中に溶け込みながら、僕は彼女と身を寄り添い合って歩いていた。この手で確かに彼女の手を握り締めながら。
 僕はちらりと彼女の横顔を覗いた。すると彼女が僕の視線に気付いて、こちらを見る。そして彼女が柔和な笑みを浮かべくる。それに対し、僕も自然と口元が綻びる。
 こうして彼女と笑い合えるなんて夢みたいだった。でも夢なんかではなく、しっかり現実となっている。その証拠に、彼女の身体の一部に以前とは決定的に違う変化が起きていた。
 彼女のお腹は元々ぽっちゃりとしていたが、孕んだ事によって更にぽっこりと膨らんでいた。まるで風船の如く。
 予想通り、彼女は僕の子供を身籠ったのだ。恐らく、彼女が孕んだのは僕と彼女が和解したあの日がきっかけとなっただろう。
 僕の目線が自分のお腹に移っているのに気付いた彼女は、子供がいるお腹をそっと撫でた。その瞬間、彼女の表情は母性的で穏やかなものへと変わった。その一方で、彼女が見せた母親の一面に僕は固唾を呑んでいた。
 そうだ、僕はこれから父親になるんだ。一家を支える大黒柱に。
 そう思うと、僕は彼女の手を先程よりも強く握っていた。しっかりと彼女を離さぬように、彼女がもしも躓いて転びそうになっても僕がちゃんと支えられるように、と想いを込めて。
 手に力を入れた所為か、彼女が僕の方を見てきた。僕は面と向かって彼女に言う。
「僕が護るから。君も、お腹の中の子も」
 それを聞いた彼女は黙って首を縦に振った。次に彼女の長い尻尾が、僕の太い尻尾へと絡み付いてくる。僕が手に加えているのと同等の力で、彼女の尻尾が僕の尻尾を締め付ける。そして彼女は口元を緩ませて言う。
「ふふ、頼りにしてるからね。おとうさん」


作品タイトル せいでんき
原稿用紙(20×20) 88.75 枚
総文字数 30131 文字
行数 544 行
台詞:地の文 2361文字:27770文字


後書き
ここまで読んでくださった方々、どうも有難うございました。
最近、小話の方に手を出し過ぎて作品の方がちっとも出来ていませんでした。
自分の作品にして珍しく長めになりました。最近の作品はどれも長めになっていますが。
小話からの派生作品と見せ掛けて、実はこちらが最初です。「きいろとももいろ」より先にこの作品を書いていたのですが、描写に詰まってずっと保留にしていました。その際に、せめて告知みたいなのはしておきたいと思って書いたのが小話版「せいでんき」です。
執筆期間を考えると、随分と時間が掛かってしまいました。でも無事に作品が投下出来て良かったです。
長めの作品が続いてきたので次こそは短めの作品を書きたいと思います。


番外 

マニアック(母乳・アナル・妊婦)な描写があります。苦手な方はご注意ください。

「かけるなんてヒドイよぅ。わたしはもうデンリュウのものだよ…」
ウロ様から頂いた挿絵
 彼女がそうとは言っても、今の僕には自分のものだなんてちっとも思えなかった。
 これまでに僕は、披露宴が終わったのにも拘わらず彼女にドレスを着させたまま蜜壺に白濁液を注いでやったし、たくしあげさせてお腹に自分のものだと誇示するものを掛けてあげた。そして、ドレスには僕の匂いを染み込ませ、彼女の顔も精液で汚してあげた。
 なのに、僕の肉棒は衰える気配が無い。その証拠に、ぴくぴくと小刻みに震える肉棒の先端からは微量の白濁液がまだ滴っており、相も変わらず堅いままであった。この調子でいくと、精液が空っぽにはなりそうになく、肉棒も萎縮しそうにない。彼女の蜜壺から僕の精液が沢山溢れ出ていようとも、どんなに彼女を僕の精液で汚していようとも、まだ彼女を犯し足りないのだ。
 僕が犯し足りないと考えてしまうようになったのには、あれもこれも彼女がいけないのだ。あの時の彼女の反応が、僕の嫉妬に火を点けたのが事の始まりなのだから。
「君がいけないんだからね。君が披露宴の時に祝辞をしてたレントラーやサンダース、さらにはエモンガまでに釘付けだったし」
 先程僕が述べた、レントラーにサンダースそしてエモンガはどの方も彼女の親しい友達である。その事は十二分に僕も理解してる。おまけにこれらの方々は披露宴で祝辞を行っていたのだから、彼女の視線が釘付けになるになるのも分からなくはない。
 だが、その方々を見詰めていた時の彼女の表情は僕にとって全く見覚えが無かった。それもその筈で、彼女はあの一時だけ悠久の友と久し振りに顔を合わせられた喜びと懐かしさを噛みしめていたからだ。
 それに対し、僕と彼女は腐れ縁なのだから久し振りに会って喜んだり、懐かしむなんてしない。だからであろうか、無性に苛立ちが芽生えてきたのだ。そしてその苛立ちが彼女の友達に対する嫉妬であると、披露宴が終わった直後に気付いた。
「……僕は君の事を何でも知ってるつもりだったんだ。でも、あの仔達を眺めていた時に見せた君の表情は知らなかった!」
 幼少時から知り合いで且つ、数えられないくらいに彼女と身体を重ね合ったというのに、まだ僕の知らない彼女がいる。したがって僕は彼女を知り尽くさない限り、到底自分のものだなんて思えなかった。
「ううん、デンリュウはわたしの事を全部知ってる筈だよ。だってもうわたしとデンリュウは立派な夫婦なんだよ……?」
 それでも彼女は僕は知ってる筈だと言ってきて、僕の言葉を綺麗さっぱり洗い流そうとしてくる。
 彼女の言う様に、今日僕達は結婚式を挙げて、晴れて正式に夫婦となった。夫婦の誓いを交わしてしまった僕達に隠し事なんて存在してはならないし、逆にあったら大騒ぎにへと発展してしまう。
 しかしまだ隠し事が残されてる。彼女が未だかつて僕に晒け出していない部分があるのだから。だから彼女の言葉には納得なんて出来ないし、矛盾があると教えてやらなくてはならない。
「ライチュウ、嘘はよくないよ」
「わたしがデンリュウに嘘なんか……」
 僕が嘘だと言っても、頑なに否定し続ける彼女。素直に認めてくれれば良いものの、彼女が嘘だと認めてくれない。
 我慢の限界で、とうとう僕の堪忍袋の緒は切れてしまった。
「……そう言うなら、僕は君をもう一回抱くよ」
 彼女が僕に嘘を吐いてる事を証明してやろうじゃないか。彼女の身体で直接分からせてやる。
 ドレスの裾を掴んでいた彼女の手を奪い、僕は力任せに彼女を抱き寄せた。彼女のドレスがふわりと空気を包み込みながら、彼女のお腹を覆い隠す。そうして、妊娠してぽっこりと膨らんだ彼女のお腹と僕のお腹が触れ合い、彼女の下腹部には僕の肉棒が当たる。自分のお腹から、彼女の心臓の鼓動とは別の鼓動が伝わってくる。
 そして背の高い僕は上から背の低い彼女を見下ろしては、じいっと彼女の瞳を見詰める。涙ぐんだ彼女の眼は潤っていて綺麗だと言うよりかは嘘を隠す為の口実のように思えた。それを餌にし、僕を釣って騙そうとしているのだ、彼女は。
 でもそんな努力をしたって君は、
「嘘が苦手なのにね」
 僕は自分の手からするりと彼女の手を放していく。その代わりに僕は彼女の胸元へと手を滑らせた。そして僕は彼女の胸へと触れる。
「ひゃあっ、あっ」
 突如、胸を揉まれた彼女は頓狂な声を出した。彼女の声に構わず、僕は黙々と弄り続ける。
 その内に、彼女の身体が小刻みに震え始める。大方、いつもだったらあまり触られない胸を揉まれて善がっているのだろう。時折、僕にへとふりかかる彼女の熱い吐息が何よりの証拠であった。
「でんりゅうっ、なんでわたしのむねばっかり……」
「妊娠してから僕は君の胸なんて触ってないからだよ」
 そう、僕は妊娠してから彼女の胸なんて一度も触っていなかった。それ依然に妊娠してからは、彼女の負担を掛けまいと性欲はなるべく自分で処理するようにしてきた。だから僕は彼女を襲わないようにと自分の自我を保つ努力はそれなりにしてきた。その努力の例としては、彼女の身体をべたべたと必要以上に触らないのが挙げられる。
 しかし、今日触ってみてどうだろう。彼女の身体付きが妊娠するのとしたのでは異なっている。触ってみるとまさかこんなに違うとは考えても無かった。
「……妊娠する前と比べるとちょっとだけ胸の膨らみが出てきたし、母乳まで出てくるようになったみたいだね」
 彼女の胸に異変が起こっているのには、外見から見て感づいていた。だが、ぷにぷにと柔らかい感触に、揉み度に手が濡れていく感覚を味わって、僕は改めてそれを実感する。
 そう、彼女の胸には僅かながらも膨らみができ、胸の突起からは母乳が出るようになったのだ。彼女の種族であるライチュウは、本来であったら胸の膨らみなんて無いし、ミルタンクみたいに母乳すらも出てこない。しかしお腹に子を宿した事により、彼女の身体が母親としての身体付きへと変化したのだ。
「やあっ、あたりまえじゃない」
「でも、僕は知らなかったんだけどな。この時点で、君はもう僕に嘘を吐いてるじゃないか」
 何がわたしの事を全部知ってる、だ。嘘ばっかり。
 僕は嘘を吐かれた腹いせに彼女の胸ばかり弄ぶ。そうして妊娠して変わった彼女の胸を僕は堪能する。彼女のコッペパンのような手とは違う胸の弾力に、揉んだり絞ったりすると溢れていく生暖かい母乳。これまでに味わった試しが無いこれらに、僕は無我夢中となる程に虜となっていた。
「はっ、ぁあっ、そんなっやったら、おかしくっ」
 僕が弄る度に母乳が分泌されて、彼女のドレスへとどんどん染みていく。先程、僕が白濁液をかけたということもあって、最早ドレスの胸元はぐしょぐしょに濡れたのも同然であった。そうなると、胸元は透けていき、微かに彼女の素肌が現れ始める。
「胸元が透けるくらい母乳を出しちゃうなんてライチュウはとんだ変態さんだね」
「うぅっ……。それは、でんりゅうがへんったいっなのよっ!」
「変態でも隠し事をするよりはましでしょ?」
「かくしてたわけじゃっ、わたしはてっきりきづいてるのかと」
「言わなきゃ分からないよ。全く、君は口が減らないなあ。いい加減認めたらどうだい? 嘘を吐いてるって」
 まだ彼女は僕に嘘を吐いてる。だって僕がまだ彼女の事を知り尽くしている訳が無いのだから。しかし彼女の口は減らず、尚も同じ言葉を吐き続ける。
「わたしはもうでんりゅうにかくしてなんか……」
 これはもう身体で直接的に分からせてやるしかないだろう。
 そう思って、僕は胸を弄っている両手の内、右手だけを下の方へとずらしてしく。彼女の風船のように膨らんだお腹を擦り、遂に辿り着いたのは彼女の蜜壺であった。
 彼女の蜜壺には肉棒で注いであげた白濁液と彼女が感じる毎に分泌される愛液が残っており、それらが地面に向かって垂れて、水溜まりを作っていた。僕は彼女の蜜壺に手を突っ込み、ぐちゅぐちゅと淫靡な音を立たせながら、精液と愛液をかき混ぜていく。そうすると、白濁液と愛液が入り交じった液体が手へと付着していく。次第に僕の右手はぬるぬるとしてきて、滑り気を帯びていった。
「ぁあっ、やあっ」
 このまま蜜壺を刺激させて彼女を果てさせても良かった。しかし、これから彼女に施す事を考えると、全然物足りないと感じた。そう思ったので、僕の右手が十分に滑りが纏わり付いた所で彼女の蜜壺から引き抜く。手先から液体が止めどなく滴るので、僕は早急に目当てのものを探りにいく。
 彼女の蜜壺の近くにあるそれを探すのに時間は掛からなかった。それどころか直ぐに見つかった。僕は忍ばせながら、手をそれの近くへと寄せていく。そして、僕は実際に手でそれを触ってみて彼女の反応を窺う。
「でんりゅう、そこはっ」
 試しに触れてみただけでも彼女の身体がびくりと大きく跳ねた。どうやらここは彼女にとって感度が良い部分の集まりなのかもしれない。
「……嘘を吐いた罰だよ。僕はまだ君のここを弄った事が無かったんだから」
 そう、ここは僕が知らない彼女の部分だ。言い換えてしまえば、僕の色に染まっていない彼女の部分である。
 別に僕はこういった嗜好は持ち合わせていないが、彼女に嘘を言われたらもう意地でも強行するしかない。
 僕は彼女の秘所への入口をとにかく弄る。触った所で、彼女の蜜壺みたいに愛液が出る訳ではない。しかし先程、手に付けた滑りを塗る事で愛液に代わる潤滑油になる。
 入口が程好く濡れたら今度は手先から秘所へと入れていく。未開の地であるそこにゆっくりと手を沈めていく。
「だめ、だめっ」
 彼女が拒んでも僕は無視して、入れられる所まで手を沈めていく。そして、これ以上は入りきらないと思ったら手を前後に動かす。そして僕は手にまだ纏わり付いている液体を使って、彼女の秘所を湿らせていく。僕が手を動かすのに合わせて、彼女はがくがくっと足を震わせる。それに伴い、彼女が足を捕われて倒れてしまわぬようにと僕は乳房に置いてあった左手を彼女の背中へとおいて支えてやる。
 彼女の口元からは恥じらいもなく唾液が垂れてくる。性的快楽を感じていると、大抵涎を垂らすのが彼女の癖であった。つまり彼女は駄目と口にしながらも身体では気持ち良いと感じているのである。零れる彼女の言葉に説得力なんて無く、寧ろ皆無だった。
「っ、きたないのに……」
「汚くなんかないよ、だって君のだもの。それよりも僕に隠してた君の心の方が穢いよ」
 そうだ、ここが汚い訳が無い。僕がまだ犯してないのだから。それよりも僕に嘘を吐いた彼女の心の方が穢い。僕を騙したって性欲を煽るだけなのに何を考えているのだろうか、彼女は。
「だってここのあなはっ、あっ!」
 止められないし止める気もさらさら無い。
 彼女を黙らせるが故に、僕は手の動きを早める。僕の手が動くと、程好く湿った彼女の秘所からは卑猥な音が奏でられる。
 何の為にある部位かなんて、そんなの十二分に承知している。ここは本来であったら性交に用いる必要のない場所であるという事を。しかしそれはあくまでも“本来”であって、使用しても構わない筈だ。
 彼女の秘所を潤滑油を塗りたくった所で、準備は万全に整った。残るは僕の肉棒を彼女の秘所へと埋めていくだけだ。
 僕は彼女の秘所から右手を引き抜いた。右手はまだありとあらゆる液体が纏わり付いてべたついていた。だが、僕は左手同様に彼女の背中へと右手を回していく。そして僕は彼女の身体を持ち上げては、負荷が掛からぬようにゆっくりと慎重に地面へと下ろして仰向けにさせる。彼女にふくよかなお腹が見えるくらいまでドレスをたくしあげさせ、対する僕は彼女の秘所の入口に自身の肉棒を宛がった。すると、彼女の心配そうな視線が僕へと突き刺さった。
「……ほんとうにこっちでするの?」
 今にも涙を流して泣きじゃくりそうな彼女。彼女はこれからされる行為に不安で胸が押し潰されてしまいなのだろう。
 いくら嘘を吐いた罰だとしても、彼女を僕の我儘に付き合わせてしまっている。あの日、彼女の処女を奪った時もそうだった。彼女が泣き叫びたくても、僕は振り向く事無く強引に行為に至った。
 今回だけはせめて、彼女に優しくしてあげたい。あの時は自分の欲に眼が眩んでしまっていて出来なかったから。
「優しくしてあげるから心配しないで」
 そう言って僕は彼女の額に口付けをする。彼女の口にしても良かったのだが、勢いのあまりに舌まで貪ってしまいそうで優しく出来る自信がなかった。
 おでこに口付けをされた彼女は僕を見詰めてくる。どうやら少し不安が取り除かれたようで、彼女の強張った表情からいつもの表情へと変わっていた。そして彼女は僕に釘を刺すように言う。
「きすだけやさしいってのはなしだからね、でんりゅう……」
 もちろんだよ、と僕は即座に返答して彼女の頬を撫でてあげた。
 僕は目線を彼女から肉棒へと移動させていく。そうして彼女の秘所にゆっくりと肉棒を沈めていった。
 僕と彼女が初めて身体を重ねた時の蜜壺と同じく、秘所は外部から侵入してくる肉棒を頑固として拒絶してくる。僕と彼女の体格差も要因となってはいるものの、予想してたよりも肉棒が上手く入っていかない。しっかり彼女の秘所を濡らしたというのに。
 それでも僕はめげずに彼女の秘所へと肉棒を入れていく。その際、彼女は目を頭ながらドレスの裾をぎゅっと握り締め、押し寄せる痛みに堪えていた。
 彼女の様子を見て、僕の背中からは冷や汗が浮かび上がっていた。まるで僕の心の状態を映し出している様に。
 手先は震え、心臓の鼓動がこれ以上にない程忙しく、鼓動音が自分の耳にまで聞こえてくる。僕は紛れもなく焦りを感じていた。
 今か今かと心で祈り続けながら、僕は肉棒を押し込んでいく。そして漸く、秘所に肉棒が埋まった。この頃には僕も彼女も互いに息をあげて、全身は汗だくでびっしょり濡れてしまっていた。
 秘所に肉棒を沈めきった達成感に浸るどころか、彼女の心配が後を絶えなかった。ぜえ、ぜえと苦しそうに口で呼吸をして、身体は息遣いに合わせて震えていたから。
 大丈夫なの、だなんて僕は彼女に気安く訊ねられなかった。彼女が大変なのは一目見れば分かるからだ。
 僕は彼女の辛さを考えると、交尾を中断する為に肉棒を引き抜いて逃げるのも赦されなかった。僕に赦されたのはこうしてじっとしながら彼女の安穏を願うだけだ。
 時間が経つにつれて彼女の息遣いが整っていく。少しずつではあるが平穏が取り戻されていき、そして言葉を発せられるまでに回復した彼女は僕に言う。
「……でんりゅう、うごいていいよ」
 彼女の言葉に僕は黙って頷いた。そしてなるべく彼女に痛みが伝わらないようにゆっくりと肉棒を動かしていく。
 彼女の秘所の締め付け具合は想像以上であった。それ故に、僕の肉棒からは想像を絶する程の快感が伝わってくる。
 しかし、彼女はまだ秘所が肉棒に慣れていない所為もあって、痛みで顔をしかめていた。自分だけ気持ち良い思いをしているのに対し、僕は彼女への罪悪感で満たされる。
 どうにか彼女の苦痛が紛れて欲しい。僕はそう思って彼女の胸へと手を伸ばした。僕は手で胸を揉んだり、胸の突起を手先で擦ったりしては、彼女に刺激を与えてやる。これにより、秘所の緊張も解れていき、極端に肉棒が締め付けられるという事が無くなっていく。
 段々と僕の肉棒の滑り具合が良くなっていく。彼女の秘所に入れた当初よりも円滑に肉棒が動かせていた。彼女の声も悲痛を浮かべるものではなくて悦楽を浮かべるものに変わっていた。それに伴い、彼女の表情も情欲に浸ったものとなる。彼女の眼はとろんっと恍惚を映し出し、口元は綻ぶ。黄色い電気袋の上は紅で染められていく。
「ぁあっ、いぃっ」
 無事に彼女の痛みが取り除かれた事により、僕は腰を振る速度を上げていく。すると彼女の肌と僕の肌とがぶつかり合う毎に音が響き渡る。また、その衝撃でたぷんっと彼女のお腹が揺れ動く。その光景を見て僕の性欲は尚も増幅していく。
 彼女の尻尾が僕の尻尾へと伸びてきては、ぎゅっと絡み付いて離さない。こうして尻尾を絡ませてくるのが、いつもの彼女の癖である。一緒に歩いているときは当たり前であり、こうして交わっている時でさえもしてくる。彼女曰く、こうすると僕と結ばれているから安心するそうだ。僕自身も彼女が尻尾を絡ませてくるのは好きだ。だから拒まないし、寧ろ歓迎だ。
 下腹部に、尻尾。これらのふたつが彼女と直に繋がっている。しかし、僕と彼女の身体にはまだ暇を持て余している場所が残っている。
 僕はドレスの裾を掴んでいる彼女の手を奪う。逆側の手も奪い取る。そして布越しに彼女の手へと自分の手を重ね合わせる。そうして、今度は僕が力強く振り解けぬくらいに彼女の手を握り締める。僕から彼女が離れていかないようにとする。
 続いて、彼女の開いた口に狙いを定めて自分の口を押し付ける。舌先を彼女の口へと走らせ、そして捩じ込む。途端に彼女の舌が迎えてくれて絡み始める。ねっとりと唾液を纏った互いの舌が絡まり、僕の唾液と彼女の唾液とが授受し合う。鼻先では互いの熱い息がふりかかる。
 僕と彼女、ふたりとも互いの身体に飢えて貪りあっていた。
 徐々に僕の肉棒は悲鳴をあげてきて、彼女の秘所に注いでしまいたい、という感情が込み上げてくる。対する彼女も目の焦点が合わないくらいに陶酔しきっている。ふたりの身体はともに限界に近かった。
 これで最期と言わんばかりに僕は肉棒を素早く動かす。そうすると刺激が絶え間無く押し寄せては、肉棒へと蓄積されていく。それは彼女の身体も同様であった。
 口を塞ぎあっているから僕達は喘げない。しかし、心の底ではひたすらライチュウと、彼女の名前を叫び続ける。ライチュウ、ライチュウっ、らいちゅうっと心の中で何度も。
 そして、僕はとどめと言わんばかりに大きく腰を振り落とした。
 僕の肉棒からは脈を打つのに合わせて白濁液が勢いよく噴出する。彼女の秘所ではなく、蜜壺からは愛液が溢れてくる。そして身体には溺れてしまいそうな快感が走る。
 秘所には白濁液が注がれていき、いとも簡単に満たされていった。秘所と肉棒の隙間からは白濁液が垣間見え、そしてとろりと滴り始める。彼女の秘所からはみ出てしまった白濁液は地面へと垂れて染みを作りはじめていく。
 溢れ出た愛液は僕の下腹部を汚すとともに彼女自身の下腹部までも濡らす。僕に掛かった直後の愛液は熱を持っていたが、少しの時間が経つと冷えてしまった。
 彼女の尻尾が絡み付いてくる力が弱まってきて次第に無くなった。そうすると彼女の尻尾に締め付けられていた僕の尻尾は解かれていく。
 重ね合わせた両手もずれていっては互いに異なるものを捉える。僕の手は地を、彼女の手は空を捉えていた。
 口と口とは引き千切られ、代わりに僕達の間には唾液が糸を引いていた。しかしそれも暫くすると跡形も無く崩れ去って、彼女の口元へと落ちてしまった。
 僕と彼女を繋いでいるのは最早秘所と肉棒だけであった。純白であった筈の彼女の秘所は僕の色で染められた。
 絶頂を迎え入れて果てた余韻に、彼女の全てが僕で彩られたという征服感で一杯だった。
「でんりゅう……」
 彼女の手が僕の頬へと伸びてくる。僕は彼女の手を受け入れて、そっと頬を優しく撫でられる。
「これでもう、わたしはうそはついてないよね?」
 彼女の問いに、僕はこくりと首を縦にゆっくりと振った。
 そう、彼女はもう僕に嘘を吐いてない。彼女は僕に何もかもを晒け出してくれた。そのお陰で彼女は完璧僕のものとなった。
 僕は満足だった。なのに、次の彼女の台詞で事情が変わる羽目となる。
「じゃあこんどはわたしがたしかめるばんだね……」
「え?」
 彼女にそう言われた時、自分の声が裏返るくらいに僕は衝撃を受けた。そして思わず自分の耳を疑った。
 何故、彼女が僕の隠し事を調べる必要があるのだろうか。僕は彼女に隠してる秘密なんて無い、そう言おうと口を開いた刹那、
「わたししってるんだよ? でんりゅうがよなかにひとりでしてるって。それもわたしのなまえをよびながら、ね」
 ご満悦そうに彼女が微笑む中、あんな赤裸々な行為を気付かれていたのが発覚した僕は恥辱を受ける。僕の頬っぺたと頭は湯気が出そうなくらいに熱くなっていた。
「それは……その……」
 必死で言い訳を考えるものの、冷静になれない状況では全然思い付かない。それどころか頭がオーバーヒートしていたら論理的思考でもって考えられる筈も無い。
 出来れば、彼女には気付かれないで欲しかった。だが、ばれてしまえばもう後には退けない。
「……君に負担を掛けさせまいと思って」
 遂には誤魔化しきれずに僕は打ち明けてしまう。
 こうなったら、いっそ煮るなり焼くなり雷落とすなりしてください。そう思いながら僕は彼女の反応を黙って窺う。
 しかし彼女は僕を叱る訳でもなく、ただ僕の口を奪うだけであった。彼女の口が離れていっても呆気に取られていた僕は口をぽかんと開ける事しか出来ない。
「にんしんしててもわたしにもとめていいんだよ? だってわたしはでんりゅうのものなんだから」
「うん……」
「でも、うらをかえせばでんりゅうはあたしのもの……だから、」
 彼女が言葉に詰まった途端に場の雰囲気が変わり、僕は違和感を覚えた。
「でんりゅうのこっち、いただくね」
 彼女の妖艶な笑みに、僕ははっと息を呑む。先程の違和感から危険を感じ取り、急いで彼女から離れようとする。だが、身体は既に彼女のせいでんきで動かなかった。動け、動けとじたばたしながら焦っている最中に、後方から嫌な気配を感じる。
 それは僕の背中を気味悪くゆっくりとなぞっていく。上から下へと段々と降りてきて、やがて辿り着いたのは僕の秘所への入口であった。
 このままでは彼女の尻尾を秘所へと入れられてしまう。僕は身体の自由を取り戻す為に、急いで自分にかけられたせいでんきを消そうと試みる。だが、僕の試みを封じるかの如く、彼女に釘を刺されてしまう。
「でんりゅう、わたしのことあいしてるよね?」
 ご丁寧に満面の笑みをしながら訊ねられた。僕はある意味で恐怖を抱かざるを得なかった。それでも質問にはしっかりと肯定で応じなければならない。
「う、うん」
「それなら、わたしのしっぽをうけいれてくれるよね? わたしもね、でんりゅうのことをぜんぶしりたいの」
 僕は彼女に何も返せなかった。その代わりとして、首を縦に振る。たとえどんなに振りたくないとしてもやむを得なかった。でないと、僕は彼女を愛していないとされてしまうから。
 そして、彼女の尻尾が入り込んできて、僕は悶える羽目となった。

 どうやら、夫婦としての初めての営みはまだ続きそうである。


番外部分
原稿用紙(20×20) 26.85 枚
総文字数 9264 文字
行数 154 行
台詞:地の文 1182文字:8082文字


番外後書き
最近、マニアックな描写を書くのが自分の流れになっているみたいです(蹴
番外では全く触れられませんでしたが、ライチュウの一人称が変わってるのは仕様です。きっと母親としての自覚が出たから、一人称を改めたのだと思います(
この番外を書くきっかけとなったのは挿絵にありますように、ウロ様から頂いた絵からであります。
ウロ様から絵を頂かなかったらこの番外はありえなかったと思います。
この場を借りて改めて御礼を。ウロ様本当に有難うございました。


感想、コメント等あれば御自由にどうぞ。


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Last-modified: 2012-03-03 (土) 00:00:00
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